小説の林堂 二次創作 小説「ソードアート・オンライン この現実世界にて」   作:イバ・ヨシアキ

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 えぇ……すいません、もう5月ですねぇ……

 5月4日ですねぇ……

 ゴールデンウィーク中ですけど……今日も仕事です。

 社畜にはゴールデンウィークはありませんからね。

 今日も頑張って仕事に行ってきます、その前に掲載をば。

 今回は、出産編でございます。

 ではどうぞ。


 この産まれたる新しき命に

 

 今、明日奈は身を裂く痛みに耐えていた。

「……か、和人君……わ、私……私、怖いよぉ……」

 激しく呼吸を荒くし懸命に息を吸い、まるで溺れる様に必死に俺の両手を掴む明日奈は、今の彼女の胸中を蝕む苦痛の不安を吐露する。

「大丈夫……明日奈、俺はここにいるから」

「絶対にぃ……手を離さないでぇ……すごく、怖いよぉ……」

 いつものあの凛とした明日奈がこんなにも怯えてしまう程に、今の彼女の不安と恐れが、この握り締めた手からひしひしと伝わってくる。

「絶対に離さない……君は、こんな事に屈しはしない……信じている」

「……うん、お願い……絶対に離さないでぇ……」

 汗ばみに濡れた手を俺は必死に掴みながら、今の明日奈の痛みを受け止めていた。

 こんなにも苦しいのかと、彼女の栗色の髪が濡れ、額には玉の汗がいくつも浮かび、いつも輝いていた表情に陰りが生じている。

 今すぐにでも悲鳴を上げたい衝動を俺の手を掴みながら堪えている明日奈。お腹の子ども達に不安を与えたくはない、そんな彼女の優しさが、ただ手を握り締めるだけの、自分御無力さを嫌と言うほどに痛感させた。

「……んぅ! うぅうう!」

「明日奈……明日奈」

 手を握り締めるだけじゃない、何とか自分にできる事をと、頭の中が今、目の前の明日奈の事で全てだった。

 でも、今の俺にできる事は、彼女の手を掴み、名前を呼んでやる事ぐらいしかできない。

「和人君……和人君……」

 強まる手の力。明日奈が強く、その細い手で必死に掴む俺の手を、俺は、必死に掴みなおした。

「……大丈夫、大丈夫だから……」

 ただそれだけしか言えないから、なおのこと必死に彼女の手を握ってしまう。

 

 予定より10日早くに陣痛が始まってしまった。

 一応こういった事もあらかじめ予想し、心内で常に覚悟はしていたが、実際にこう言う場面に出くわすと、例えいざと言う時にと想像し、頭の中で予行練習をしていても、男はてんでだらしなくなる。

 現に、彼女が病室で急に陣痛を訴えた時、俺は混乱してしまった。

 明日奈が、

 

「……う、生まれそう……」

 

 お腹を押さえ苦しそうにそう呟いたとき、すぐに意識を戻し、俺はようやくにナースコールを押すことが出来た。そして、そのまま分娩室へ運ばれ、助産婦から子どもが生まれますと言われたとき、一瞬であるがどうすればと、慌ててしまった。

 でもすぐに立ち会いますと言ってしまった俺は、やはり明日奈の事が心配で堪らなかったんだろう。

 分娩室の外で、ずっと彼女の出産を祈るなんてことはしたくはない。

 どんな時に出も彼女と共にいる。

 あの浮遊城の仮想世界から世界樹のある妖精の世界を越え、共に生きる事を選んだ最愛の女性の傍にずっといるんだと決めた時から、俺は絶対に離れたくはないと、明日奈の傍で苦しみを分かち合いたいとあの時から誓っていた、でも今は、この痛みは明日奈だけの感じている苦痛を俺は何もできない。

 俺が変わってやることはできない。

 自分の無力さがほとほとに恨めしく思えてしまう程に、この出産の立ち合いは、俺の無力さを痛感させてくる。

 明日奈の傍にいるだけで、苦しむ彼女に何もできない。

 手を繋ぐことしか、今の俺にしてやれることは無いのだと、ただ手を掴む俺は明日奈の苦痛を和らいでくれと願う。

「桐ケ谷さん、ゆっくり呼吸をして、息を安定させてください」

「はぁあはぁあはぁあ……んんぅ!」

 助産婦の呼び声に、明日奈は呼吸を整えようと、息を落ち着かせようと、必死になるも、呼吸は安定しない。

 初めての出産で、しかも双子の出産となれば、その苦痛は想像できない。

 今、明日菜はその苦痛に耐えてくれている。

 薬で和らげる方法もあるが、お腹の子を心配して、普通に自然に産みたいと決断した明日奈は、今もその痛みに耐え、二つの命を生みだそうとしてくれている。

「明日奈……落ち着いて呼吸をするんだ……君にならできるから……」

「……うぅん……」

 懸命に呼吸を整えようとする明日奈。心なしかだいぶ落ち着いたようにも見えるが、まだどこか苦しそうだ。

「そう、そのまま桐ケ谷さん、呼吸をそのままに、ゆっくり息を整えて」

「……はぁい……ううぅ」

 またさらに強くなる明日奈の手の力に、俺は彼女と同じように握り直す。

「頑張るんだ、明日奈……大丈夫……大丈夫だから」

「うぅん、わたし……がんばるからぁ……んん……んんん」

 下唇を噛み、必死に悲鳴を押し込め、陣痛に耐える。

「……か、かずと……き、きりと……くぅん……もっと手を握って……離しちゃだめぇ……」

「ああ、絶対に離さない……絶対に」

 両手で握り締めてくる明日奈。

 俺も同じように明日奈の手を両手で握り締め直す。痛みのせいで朦朧とし、俺の名前も混濁してもなおも必死に呟く明日奈の意識を繋ぎとめるように、俺は必死に握り締め、大丈夫だと、心配しないでと、想いを込め、さらに握り直す。

 それでもなおも陣痛を堪え耐える彼女。

 担当医からも安定した出産であると言われてたのに、いきなり陣痛だなんてと、一瞬俺は今のこの現状を予想してくれなかった担当医に怒りを覚えてしまうが、そんな感情を今抱いてどうするんだと、冷静さを欠いている自分の余裕のなさを痛感してしまう。

 それに人の命が生まれる瞬間なんて、どんなに科学が進んでも、そんなの確実にわかるわけがないのに、なんでそんなんことを考えてしまうんだ。

 それなのに、人のせいにするなんてと、今のこの不安を誰かにぶつけたいと、苛立っている自分の感情を押し殺し、ただ彼女の苦痛が和らぐことを祈った。

 神様じゃない、ただ痛みが和らいでほしいと、その想いだけを手に伝えたいと、明日奈の痛みを和らげてほしいと、必死になって俺は握り締めていた。

 刹那。

「あ……ああ……ああああぁあぁ!」

 悲鳴のような声を上げ、息を荒げる明日奈。

「あ、明日奈!」

 背筋が冷え、全身の力が抜けそうになるが、

「大丈夫、頭が出てきました。そのまま頑張ってください」

 助産婦さんからのその声に、

「あ、明日奈……も、もう少し……もう少しで、産まれる……だから……」

 息が止まりそうだった。

 呼吸が詰まり、息を吐き出せない。声にする事が出来ない。

 でも、明日奈に伝えなければ。

 

 ……負けないでくれ……

 

 そう、言葉を紡げばいいの、俺は何も言えない程に、声をからせてしまう。

 でも、

「……よ、よかったぁ……わ、わたし……が、がんばるから……ぜったいに……負けないから……んんん!」

 俺の紡ぎたい言葉を察してくれたかのように、明日奈は苦痛を堪えた顔で笑顔を創り、必死に微笑んでくれた。

「明日奈……明日奈……」

 俺の呟きの後、ようやくにして、この延々と続くかもしれないと思われた苦痛の時間は終わりを告げることとなる。明日奈の激しい息遣いがようやくに治まり、涙を流してしまう産声が俺と明日奈の耳に響いてくる。

 その声に俺は、

「……産まれました、男の子と女の子の双子の赤ちゃんです」

 先程まで凍えた身が温もるような産声の中、その声の主に視線をやると、助産婦の両腕の中に生まれた双子の姿があった。

 その産まれたばかりの子たちをすぐに抱きしめたい衝動に駆られるも、俺はその場を踏み留まった。

 まず最初にその子を抱きしめるのは、母親である明日奈の役目だから。

「はい、桐ケ谷さん……抱いてあげてください」

 息を途絶え、途絶えにしながら、赤ん坊を見つめるその瞳は潤み、今も激しく産声を上げる双子をそっとその腕に抱きしめ、明日奈は、

「……よかった……無事に産まれてくれて……こんにちは、私と和人君の赤ちゃん……私がママですよ……」 

 二人のおでこにそっと口付けをし、生まれた温もりを感じ涙を流していた。

「明日奈……ありがとう……頑張ってくれて……ありがとう……」

 そんな明日奈が愛おしく、俺は彼女を抱きしめ、彼女が抱く双子にも、

「はじめまして……俺が、二人のパパだよ……」

 元気な産声を一番に挙げる妹である女の子に、その次に元気な産声を上げる長男である男の子に、和人は優しく微笑みながら生れ出た最初の言葉を告げる。

「和人君……ありがとう……君がいてくれたおかげで……この子達、ちゃんと生まれたよ……」

「ああ……本当に、本当に、すごく可愛いよ、二人とも……」

 無事に産まれた安堵のせいか、涙がポロポロと零れ、視界がぼやけてしまう。涙に霞む視界に見えなくなる。

 子どもの前なのに泣いてしまう俺に、

「……和人君のおかげで、私、頑張れたよ……ずっと、私の手を握っていてくれて、本当にありがとう……」

 いまだに疲労が重く残るだろう明日奈は、優しく微笑んでくれる。

 そんな彼女の前で俺は、ただ静かに泣いた。

 

 ──その後。

 あの子たちは出産検査を受け、新生児室へと預け入れられる。

 産まれたばかりの子のこれからの大切な検査とはいえ、どこか心細く、産んだばかりの子と共に過ごせない静かな夜を過ごす明日奈の傍にいたく、俺は明日奈の部屋で一夜を明かした。

 眠れないのか、明日奈はずっと外を見つめていた。ちょうど、深遠の夜の帳の中に淡く輝く満月を見つめながら、どこかさみしそうにしていた、そんな彼女に、

「眠れないのか? 明日奈」

 はっと、気づいたように、

「か、和人君……起きていたの?」

「ああ、なんか眠れなくってさ」

「だ、だめだよ、ちゃんと眠らなきゃ」

「それは、明日奈も一緒だろ」

 本気で俺の心配をしてくれる明日奈の傍により、彼女の眠るベットの傍の椅子に腰を下ろす。

「今日、一番大変だったのは明日奈なんだから、ゆっくり休まないと駄目だぞ」

「大丈夫だよ。少し休んだら身体も軽くなったし、それに……なんかね、眠れないの」

「眠れない?」

「うん、あの子たちの事ばかり考えちゃって……今、新生児室で眠っているんだよね、あの子たち……」

 よほど二人の事が心配なんだなと、明日奈の気持ちを察してしまう。

 産んだばかりの子と離れなければいけない心細さのせいで、明日奈は目がさえて眠れないんだ。

 まあ、それは俺も同じだから、彼女の気持ちは良く解る。

 今頃あの子たちは経過観察と様子観察を新生児室で過ごし、何事もなければ明日には、明日奈と俺の傍に戻ってきてくれるが、その時間がすごく長く感じてしまう。

 健康には問題はないが、今頃どうしているんだろうと、不安は募る。一応見に行く手はあるが、ガラス越しの保育器の中にいるあの子を見たら、その場から離れることが難しくなりそうだった。

 下手をすれば、俺なら間違いなく、朝までその子たちの事を見てしまうかもしれない。

 一応、携帯端末で確認する手もあるが、寝ている我が子の顔を画像で見てしまえば、傍に行きたいとの衝動に駆られてしまうので、明日奈も同じ気持ちで我慢しているんだろう。

 今は少しでも休んで明日に備えて、二人を迎え入れるようにしておかなければいけない。

 俺は、

「うん、すやすや寝ていたし、健康には問題はないと思うし、明日には一緒に過ごせれるよ」

「……早く抱っこしてあげたいなぁ」

 寂しそうにする明日奈の儚げな表情が愛おしくてたまらなかった。俺は、肩にそっと手を乗せ、彼女を抱きしめてしまう。

「え、か、和人君……」

「今、あの子たちを抱っこできないから、明日奈を抱きしめるよ」

「……じゃあ、私も和人君を抱きしめてあげるね……」 

 背に回る彼女の手を心地よく思いながら、互いの抱擁を受け止めていく。

 俺も、正直言えばあの子たちの事を考えてしまい、眠れないでいた。

 それに今日一日、すごく大切な事を成し遂げた自分の奥さんに、なにもしてやれなかった事も含めて、俺はできうる限り明日奈に何かをしてやりたかった。

 だから、

「……ごめんな……手を握ってやれることしかできなくて……」

「え? どうしたの和人君?」

 何気に聴く明日奈を愛おしいと思える。

「……出産のとき、俺は、君の手を繋ぐことしか出来なかった……もっと、気に聴いたことを言ってやれればよかったのに、君が痛がるのを見て、俺は……正直焦ってしまった……あのまま君が死んでしまうんじゃないかって、思うぐらいに……すごく怖かったんだ……だから本当にごめん……」

「……ううん……そんな事ない……君が手を握ってくれるだけで、すごく、心強かったよ……」 

 そっと抱きしめていた手を解き、そのまま俺の手を掴み、指を絡ませてくれる明日奈。

「こうして君と強く手を繋ぐだけで、すごく幸せな気持ちになれるから……あんなに痛くても、私は耐えることが出来たんだよ……」

 確かめるように明日奈は繋いだ俺の手の指を爪から掌まで、なぞるようにその華奢な手で俺の手をゆっくりと撫でてくる。 

「和人君のこの手が、いつも私を助けてくれた。あの世界でも、そしてこの現実でも、君を最初に感じられるのは、君のこの手だから……」

 明日奈が掴んでくれた俺の手……あの世界で人を殺し、助ける事のできなかった沢山の人間の繋がりを絶ち切ってしまった自分の手を、明日奈は紡いでくれるようにいつも俺の手を握ってくれていた。

 彼女がいつも繋いでくれたからこそ、俺は──

 

「君とは絶対に離れられないな……君がいない世界は、考えたくない……」

「私もだよ……それに、もう絶対に切れないかけがいのない絆も……あの子達も産まれたし、これからも沢山の絆を作っていこう……」

 微笑む明日奈の柔和な笑みに、

「ありがとう明日奈」

「……ふふ、ねえ、ところで和人君?」

「ん? なに?」

「あの子の名前……明日にもつけてあげようね」

 その質問に、

「ああ、妹は明日奈が決めていた名前で……」

「……木綿季……」

「そう、彼女の名前をそのまま付けよう。どんな運命にも立ち向かえる、そして必ず大切な人と巡り合える強い名前だから……それに将来、絶剣の再来って言われるかもな」

「その時は、父親として負けちゃ駄目だよ」

「善処します……で、男の子は……優治緒にしようと思う」

「優治緒?」

「ああ、優しく事を収めて、その糸と他者を繋げれるような人間になってほしいから……それにあいつみたいな、誰かの為に誰かの運命を紡げられる人間になってほしい、だから、この名前にしたんだ」

「絶対になれるよ……和人君と私の子どもだから」

「……明日奈と俺の子どもか……本当に幸せだな……」

「私もだよ……」

 

 明日奈を照らす月明かりが、あの時の夜を思い起こさせる。

 初めて彼女と想いが通じたあの日を思い出すように俺は、

 

「ありがとう、明日奈……俺の事を好きになってくれて……」

 

 感謝を込めて、ありがとうと込めて、俺は明日奈と口付けを交わした。

 

 この産まれたる新しき命に END

 





 一応妊娠編はこれにてと言うことになります。

 えぇーとりあえず再度謝らせていただきます。

 申し訳ありません。

 しかも3日越えになってしまいました。

 なんかだんだんやばいような気がします。

 外付けハードディスクの破損に、書き溜めた未完成小説の消滅と、宝物のアニメ動画に画像と全部失ってしまったダメージと色々ありましたが、頑張ります。

 次回もよろしくお願いいたします。

 では、今日も仕事に行ってきます。

 今日も23時過ぎだなぁあ……

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