《篠ノ之箒の場合》
最近、私の生活に変化があった。
これまで私は、自分が嫌いで、姉が嫌いで、周囲の人間が嫌いで、大人が嫌いで、社会が嫌いで、―――世界が嫌いだった。
けれど、色んな人と出会い、触れ合い、言葉を交わし、心をかよわせ。
少し、自分のことが好きになった。
自分のことが好きになると、自分の周囲の人に興味が湧いた。
他人を受け入れる余力が生まれたのか。
はたまた好きになった自分を知ってもらいたいだけなのか。
その辺りの心の機微は、正直よく分からない。
だが、私は相手のことを知りたいと思い。
相手に私のことを知ってもらいたいと思い。
自ら進んで交流をするようになった。
はじめはクラスから。
次いで剣道部。
機体の整備をしてくれる整備科の先輩方。
いつも挨拶してくれる用務員さん。
戸惑ったり、距離を置かれたり、無視されたり、嫌われたり。
そういったことがなかった訳ではない。
しかし、私はマイナスからのスタートには慣れていた。
声をかけ、時間をかけ、私は仲良くなろうとした。
私は、私の周りを、私を囲む世界を、好きになっていた。
「で? 順風満帆前途洋洋、トントン拍子に物事が進んでいるのね良かったじゃないオメデトウそれじゃあたしはコレで」
「待て」
がっしりと鈴の腕を掴む。逃がさん。
ずっと剣ばかり振っていた私だ。
掴んでしまえば、例え猫染みた身体能力を誇る凰鈴音と云えど逃さん。
「その、なんだ、つまりだな」
「痛い、痛いってば。分かった。分かったから取り合えず手を離して。お願いだから」
「うむ」
手を離して、鈴の息を感じた。
息、呼吸、気勢。
吸い込まれた空気は、ワンテンポすら置かず彼女のアクションに繋がり、
「待て」
「ゲッ」
逃げ出そうとした鈴の手を先んじて掴む。
「だから、そのだな。あの、」
「あーもう鬱陶しい! なんなのさっきから! なんでさっきからループしてんのよ!」
話が進まなくて痺れを切らし、その度に逃げようとする凰を捕まえ、私が言葉に出来ずまごまごとし、また凰が逃げ出そうとし、それを私が捕まえ、そんなループを繰り返し現在に至る。
「だから、その、」
「いい加減にしろ」
軽いチョップを頭にされた。
凰は呆れた顔で私をみつめている。
「上手く説明しようとか思うな。相手に何かを伝えるときは、素直に思ったことを口にしなさい」
「そうか、そうだな。……ありがとう。お前の言葉を切欠に、私は変われた」
「あんたが自分で変わっただけよ。はいオシマイ。もういいでしょ?」
「待て、待ってくれ。あとひとつだけ」
とっとと逃げ出そうとする凰を捕らえ、深呼吸する。
……素直に、思ったことを、告げる。
よし!
「凰鈴音。私と、友達になって欲しい」
「……………………は?」
コイツは何を言ってるんだ?
そんな顔をして私を見返してくる。
やめないか、ちょっと凹むではないか。
「お前さえ良ければ、友達になって欲しい!」
「あー、うん。……べつにいいけど?」
「本当か!」
ああよかった。緊張した。
断られたらどうしようかと思った。
「ありがとう! うむ。だが、どうしたら『友達』なのだ? 具体的には『友達』とは何をするのだ?」
「んなことも知らないの? コミュ障にも程があんでしょ」
「姉の所為で幼い頃から引越しばかりでな。正直かなり捻くれているし、こういった事には慣れていない」
「人の所為にするな。昔のことならまだしも、今のあんたを語るのに、自分の欠点の原因を誰かに押し付けるな」
面倒臭い女と友達になっちゃったわ。
まあいいや、骨はありそうだし。
そう呟かれた。
おい丸聞こえだぞ。
「名前を呼ぶの。はじめはそれだけでいいのよ。相手の目をみて、はっきりと名前を呼ぶ」
「―――鈴」
「箒、これから宜しく」
握手した鈴の手は小さく、かわいらしく、なにより暖かかった。
そうして私は、凰鈴音と友達になった。
《凰鈴音の場合》
「貴様、生身の方が強いのではないか?」
「お生憎様でね。こちとら伊達にムービースターやってないのよ? 子供達のヒーローが弱かったら、話にならないでしょ!」
ラウラ・ボーデヴィッヒが私に謝罪をしてきた。
私はそれを蹴っ飛ばした。
それで、喧嘩になった。
なにを言っているか分からない?
大丈夫。
あたしも分かんない!
IS学園の中心で、肉体言語を語り合う。
「にしたって、格闘戦もそれなりにヤるじゃない、アンタ」
「お前こそ。一般人相手に極められないなんて初めてだ」
自慢じゃないが、ステゴロなら負け知らずなのだ。
ISでの私闘を禁止した虎を除いて。
いいのだ、アレはきっと人類じゃないから除いていいのだ。
「武器がないとキツいな。捌くにしてもそろそろ腕が持たん」
「使いなさいよ。袖の下になんか仕込んでんでしょ? それを卑怯だなんて言うつもりはないわ」
彼女は軍隊だ。
武器を使ってナンボの商売だ。
私は俳優だ。
それを素手でブッ飛ばしてナンボの商売だ。
「後悔するなよ?」
「あたしを後悔させたきゃ宇宙CQCでもマスターして来なさいな」
取り出したるはトンファー。銃火器じゃなくて安心したのは秘密ね?
本職にハジキまで出されちゃさすがに無理だわ。
「CQCを馬鹿にするな。お前の武術の発展系でもあるのだぞ?」
「あら、分かった? マーシャルアーツなんて流行ってないと思ったんだけど?」
「分からないでか。お前のその身体能力を活かした武術は『型無』以外じゃ持て余す!」
防戦一方だったラウラが攻め手に回る。
その手にあるのは、元々体格の小さなラウラが、大人だろうが男だろうがねじ伏せる為の武器。
彼女の堅実な捌きの技術を攻撃へと転化し、尚且つ多彩な攻撃を可能とする有用な武器。
トンファーねえ。えらく実用的な武器じゃない。
ラウラが距離を詰め、突きを放つ。
その突きは抉る様に鋭く、機械の様に正確だ。
正中線のど真ん中。
私の身体の中心を狙ってくる。
スムーズに、ソリッドに、ナチュラルに、その一撃は私に迫る。
慌てる必要はない。
対武器戦なんて、ウチの国が何千年前に突破したと思ってんのよ。
重心を前屈に。
腰溜めの右コブシは突き出されるのではなく、軸と一緒に回転する。
密着上体からでも放てる、クロスレンジの崩拳。
それを、ラウラのトンファー―――の先にある手に合わせる。
狙うポイントが分かっていれば、私はそれにイメージという名の対処をするだけで良い。
私が思考さえすれば、それに従い身体は動く。
私の至高を追従する。それが私の、イマジン・ストーカー。
「ギッ―――!」
お互いの拳がかち合った瞬間、ラウラは後方に後ずさった。
骨は折れていないだろうが、それでももう使い物にならない。それだけのダメージは与えた。
「ッ、今度お前と喧嘩するときは拳銃を用意しよう」
「殺す気なの? そんなんだから常識がないって云われんのよ」
「冗談だ」
「分かり辛いわよ……」
ラウラって表情あんまり変えないから、私には判断がつかないわ。
織斑先生が関わるとその限りではないけれど。
一夏もか。
気に入らないわ。
「それだ。その顔だ」
「?」
「首を傾げるな」
その顔ってどの顔よ?
私は凰鈴音の顔以外はしないわよ。
私がそれ以外の顔をするのは、カメラの前だけです。
「私に嫌悪感を抱いているのだろう。分かるぞ」
「あら? 伝わってないのかと思ったわ」
「馬鹿にするな。そこまで鈍感ではない」
「へぇ、そうなの? じゃあ理由も分かる?」
「……そこまでは分からん」
「…………」
まぁ、そうでしょうね。
そんなエスパーだったら、オルタネイティヴ3の材料にされていたに一票。
「おい、黙るな。ここは「仕方ないわねぇ」と教えてくれるところじゃないのか?」
「あたしに勝ったら教えてあげようか?」
「そうか、―――ならば戦争だ」
一拍の間を置いて物質化したシュヴァルツェア・レーゲン。
なにこの人頭大丈夫?
「ISを用いた私闘は禁止だって、あんたの愛しの教官に念押されたわよね?」
「なあに、これは私闘ではない。『決闘』だ。
「あっそう」
安い挑発ね。
安い挑発は、―――買う様にしている。
獅子には肉を。
「生身で手も足も出なかったあんたが」
狗には骨を。
「IS戦ならあたしに勝てるって」
龍には無垢なる魂を。
「そう思っているワケだ」
甲龍、出番よ。
私と貴女の強さ、此処で魅せてやりましょう。
「【
Hammer Cock
撃鉄を起こせ。
「―――糞面白いじゃない。遊んであげるわ、戦争女」
まあ、あっさりと敗北したのですけどね。
仕方ないじゃない、AICとの相性が悪すぎるんだもの。
近接戦闘において相手の動きを停止させる装備なんて、かのゲルマン忍者ですら持ってないわよ。
「あの刀、双天牙月とか云ったな。私の背後から飛んできたのはどういう理屈だ」
「磁双刀:牙月、乱暴に説明すると刀身が磁石になっただけよ」
AICで甲龍を縫い止めたレーゲンを、その背後から襲う牙月・N刀。
牙月の頑張りにも応えられず負けてしまった。一矢報いただけで終わってしまった。
もう少し、私がこの刀の扱いに慣れていれば。
もう1組、この刀を所持していれば。
結果は覆せただろうに。
止そう。
負けは負けは。敗者は黙して語らず。
何も云わずこの悔しさを胸に溜めておいて、ただただ精進するだけだ。
「人生は何事も勝負らしいけど、たまにはゆっくりしたいなぁ。温泉でも行こうかしら」
「お前は、『負ける戦い』から逃げないのだな」
「戦う前に負ける事考える馬鹿が何処にいんのよ」
夏休みは山登りと温泉で決まりね。
山か海かと聞かれれば断然私は山だわ。
だって、いつだって頂点(てっぺん)目指して生きていたいじゃない?
「これは勝手な確信だが、きっとお前は勝ち目がない戦いだとしても、同じように逃げないのだと思う」
「勝つのは当然良いし、負けるのだって悪くない、時には退くことも間違いじゃない。逃げる為の戦いもある。
だけど、逃げていい闘いなんてない。闘いから逃げるってことは、自身に賭ける自信が無いって事なのよ。
軍属の癖に知らなかった? 『撤退戦』だって戦なの。闘いなのよ?」
「……お前は、どれだけ自分に自信があるのだ?」
「ないわ。あるのは安いプライドだけ。私はコイツにしがみついてる。
どんな人間だって安いプライドがあれば闘えるものよ。何とだって、ね」
「それはもはや安いプライドではない、信念だろう」
「そんな大層なもんじゃない。くっだらない、ちっぽけなプライドよ。
それが良いの。それで良いのよ。分からない女ね、あんた」
いつでも捨てれるような、そんなちっぽけな物を支えにする。
だから立てる。だから闘える。STAND AND FIGHT。
それさえ出来れば、世の中上々。
大事な物を支柱にしちゃうと、それに寄っかかってしまうし、折れてしまったとき立ち直れない。
折れようが欠けようが怪我されようが霞もうが、それでも確かに胸に残る―――それが、安いプライド。
「そうだな、私には分からない。分からないついでに教えてくれ。お前は、私の何がそんなに気に入らないのだ?」
この女とは合わない。きっと根本的な部分が合わないのだ。
それを排他しようとは思わないし、事なかれで済ませてしまえばいいと思っている。
人は、誰とでも仲良くはできないし、分かり合えるものではない。
「あんたは、織斑一夏を織斑千冬の付属品として視てる。織斑一夏を英雄視している。
そんな人間が、アイツの隣に居ようとする事が気に入らない」
そう、アイツは顔を真っ赤にして否定するかもしれないけれど、人は誰とでもは分かり合えない。
分かり合える人と、分かり合うだけだ。
「アイツは、弱いヤツだから。そういった期待に敏感で、反発しながらも意に沿おうとしてしまう。
誰よりも、弱いヤツだから。あんたみたいなのが居たら、アイツが傷付いてしまう」
分かり合えない人間は、話しても通じない/変わらない人間は、必ず居る。
だから、私は《英雄(ムービースター)》なのだ。ヒーローなのだ。
アイツが求められるであろう器、必要であれば私がそれに収まるように。
「気に入らないわ、あんたの存在が。アイツの交友関係を決めるのは私じゃない。
だから口出しはしない。けど私と仲良くなろうなんて考えないで。
たまたま一緒に居る事はあるかも知れないけど、私はあんたが嫌いだから」
他人がどうこうしようが関係ない。私は《凰鈴音》の最善を尽くす。
私は、これでいい。
鳳鈴音は、それでいい。
《ラウラ・ボーデヴィッヒの場合》
ブルーティアーズの支援兵装「ブルーティアーズ」が飛来する。
私を取り囲むそれらを、私は右眼―――普段は眼帯で隠している越界の瞳―――で視認する。
ISにおける視界とは、ハイパーセンサーにより全包囲360°開けたものだ。
だがしかし、認識範囲に人の意識が追いついていないのが現状である。
例えば背後。
日常生活で見えていないものが見えているからと云って、常時それに注意が払える訳ではない。
例えば上下。
通常、人の感覚では足元並びに頭上を意識して行動する事はない。
また、意識した場合はその注意点以外に意識を裂くのは非常に難しい。
そこで、私はこの左目を活用することにした。
ヴォーダン・オージェ。
私の体に埋め込まれた、ISの技術を応用した生体パーツであり、擬似ハイパーセンサー。
ISとの親和性を高める為の部品であり、結果として適合せず私の汚点となってしまった左目。
眼帯に隠された劣等感。
それを、好いてくれた人がいる。
私が嫌いな、私の左目を好きだと言ってくれる人がいる。
だから私は、この左目が少し好きになった。
頑なに隠し、無かった物として扱っていた私の左目。
この眼を使おうという発想は、私にはなかった。
事の発端は教官のアドヴァイスだ。
「お前は自分の我が侭だけで、レーゲンの性能を腐らせている」
私は、私の劣等感で愛機のスペックを潰している?
自覚をしてからは早かった。
セシリア・オルコットに訓練の相手をお願いし、訓練場を連日押さえ、左目の酷使に明け暮れる毎日だ。
「往きますわよ」
セシリアの声と共に、兵装:ブルーティアーズが接近する。
私は左目を閉じ、左目に意識を集中させる。
私の体に直結されたハイパーセンサーとしての知覚を通じ、意識を変革させる。
人は、目で物を見ると云う意識、固定観念に縛られている。
確かに、人の構造的に二つの物を同時に注視することは不可能だ。
だが、私なら。
擬似ハイパーセンサーを埋め込んでいる私なら。
私の意識さえ変えられれば、同時に複数の物体を注視することだって可能だ。
私の周囲を旋回する三機のブルーティアーズを右眼で追う。
思考が追いつかない。生身の感覚神経と異なる知覚感覚が私に嘔吐感を伴う違和感を与え続け集中力を奪い冷静なわたしを削ぎ落とし混乱混雑回線をバイパスに思考を直結させ発動を媒介に停止を結界させるコマンドを―――
「―――止まれッ!」
乱れに乱れた私の脳に切り付けるように号令を与えた。
私の周囲をランダムに旋回する三機を全てAICにて縫い止める。
タイマーを確認する。
AICを発動させるのに所要した時間は6秒
このままでは、実戦で使えたものではない。
「お見事ですわ」
「何処がだ。足を止め時間をかけやっとこさの結果だ。全く役に立たん」
「3つの事象に同時に集中する事。その難解さをわたくしは識っております。
―――私がその領域に達するまで、半年の時間を要しましたもの」
「そういえば、そうだったな」
『右手と左手で別々に綾取りをするようなもの』とはコイツの言だった。
今では遠隔操作兵装5機を同時に運用することが出来る、英国の代表候補生。
蒼き彗星:セシリア・オルコット、伊達ではない。
「今なら戦闘機動を行いながらAICを使えるのでは?」
「ああ、出来るだろう。だが、それだけでは勝てない。お前にも、紅椿にも」
紅椿。
篠ノ之箒が駆る、無所属の第四世代機。
万能型の最新鋭機。現存するISの中で最優の機体。
性能と云う性能が全てトップクラスである、冗談のようなISだ。
その上全身が展開装甲で組まれており、エネルギーを消費するが戦闘中でも攻撃・防御・機動のバランサー調整が可能。
また、ワンオフアビリティーは一瞬でエネルギーを全快させると言った規格外でもある。
「私はこの学園の生徒を下に見ていた。ISをファッションか何かと勘違いした馬鹿者しかいないと思っていた。
思い違いも甚だしい。戦場を知っているからと粋がって、私の方こそ馬鹿者だった」
「誰しもがそうなんだと思いますわ。自分が特別であると周囲を卑下し、根拠の無い自分のプライドを守ってます。
本当に特別な者は、特別である事を自覚し、なお特別であろうと向上を試みる者だけです。
今の自分に満足する人は、思考を停止し自分の立場を傘に着た、ただの凡夫ですわ」
「なんだ? 嫁にでも説教されたのか?」
「黙秘いたしますわ」
したり顔で髪を払うセシリア・オルコット。
彼女と嫁の間に何があったのか、私はよく知らない。
「なあ、セシリア・オルコット」
「なんですの、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「『織斑一夏』とは、誰なんだ?」
凰鈴音の言葉が頭をよぎる。
凰は私が嫁を見ていないといった。
刃を交え、言葉を交え、あげくに心さえ交えた私に対して。
凰の嫌味かも知れないと考えた。
だが、私の耳から彼女の言葉が離れない。
「非常に哲学的な問いですわね。世界で一番有名な男性である一個人を指して、その問答をするのですか」
「お前の相方が私に言ったのだ。私が織斑一夏を見ていないと」
「鈴さんがそういうのでしたら、そうなのでしょう」
なんだコイツ等、レズか?
全幅の信頼が気持ち悪いぞ。
「貴女に取っての一夏さんは、どういった人ですの?」
「そうだな。世界で唯一ISが操縦できる男性で、教官の弟であり、私の嫁だ。―――ん?」
キョトンした顔でこちらを見るセシリア・オルコット。
その表情は正に「呆気を取られた」、といった風情で。
私がどれだけ的外れな発言をしたのか、その表情だけで気付かされた。
「本当に貴女は、彼の事を見ていませんのね」
「お前にも分かるのか? 私は何か、間違っているのか?」
「いえ、間違いではありません。それも正しく、彼への表象でしょう。
ただ、その表象を抱く方に、彼の『嫁』などと冗談でも名乗っていただきたくはないですわ」
しれっと。
さらりと。
ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑一夏の嫁に相応しくないと、宣告された。
私と鳳鈴音(アイツ)で、何が違う?
私とセシリア・オルコット(コイツ)で、何が異なる?
分からない。私には、分からない。
それでも考え、答えを求めなければならない。
間違っていることは、正さなければならない。
私は、ラウラ・ボーデヴィッヒなのだから。
「セシリア・オルコット。参考までに教えてくれ。お前にとって『織斑一夏』とは、どういった人間だ?」
「そうですね。わたくしにとって彼は―――」
腕を組み、頬に指をあて如何にも考えてます、なポーズを取り、セシリア・オルコットは言い放った。
「不真面目で、お調子もので、格好付けで、エッチで、助平で、意地っ張りで、臆病で
きっと何処にでも居る、―――不器用で優しい、普通の男の子ですわ」
世界でたった一人の織斑一夏は、たまたまISが使えるだけの、普通の男子であると。
セシリアの言い放った言弾(コトダマ)は、アッサリ私の常識を打ち抜くのであった。
16歳だけど、「17歳の休日」。
シリーズ物の三話構成。
たまには各々の日常でもどうぞ、と。
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確認したら、すでに数件来ていた。あざーす。
どんな形にせよ、感想を頂けるのは大変嬉しいものです。