IS Inside/Saddo   作:真下屋

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[BGM]
   スクールバス / UR@N
   瞳 / aiko


スクールバス/瞳

「イヤッFOOOOOOOオオオオオオオオウウゥゥゥゥゥッッ!!」

 

 青い空、砂浜、海、夏、海水浴。

 禁止されようとも海へ崖から飛び込む16歳の馬鹿の姿が、そこにはあった。

 世界で唯一確認されている、男性のIS操縦者だった。

 夏ですもん。

 一度キリの、16歳の夏。

 ワンサマー舐めんなよ!

 ダイブ、トゥ、ブルー!

 イントゥ、ザ、ブルー!

 盛り上がってます。

 最初っからクライマックスだぜ!

 一人でね!

 ワンサマーだけにね!

 お一人様ってやかましいわ!

 

 夏です。海です。―――馬鹿です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 本日より臨海学校。

 一応名目としては、普段と違う環境での経験をすることでより感受性やらをうんちゃらかんちゃらマトモに話聞いてませんでした!

 大事なファクターはそこではない。海水浴、ひいては水着だ。

 IS学園の生徒は、軒並み容姿のレヴェルが高い。

 きっとIS適正と容姿は比例関係にあるんだと思います。

 ってことは俺の姉は世界で一番美人なのか?

 世界一は言い過ぎだろ。日本一くらいじゃね?

 おい待て、俺はどうなる?

 

 女装か? おいばか殺すぞ。あの記憶は封印したいのだ。

 中学三年の文化祭でやった喫茶店「喫茶TS」

 一部の男性が女装し、一部の女性が男装した喫茶店。

 入店1分で性別を入れ替えた人間を三人見破ればお会計がチャラというゲーム付き。

 ああ、ちなみに一度として。俺は一度としてバレなかった。俺の女装はクラスの女子の総力によって完成されていた。

 ロングスカートなのに毛を全剃りする念の入れようだったとはいえ、それでも納得いかねー!

 他校の男にメアド聞かれた時は慟哭した。orz

 あと弾が女装写真を千冬姉に渡して鼻血ふいた。

 あと千冬姉に家で女装を強要の上パワハラされた。姉弟の縁を切ると本気で脅すまでされた。

 あと束姉(たばねえ)が女装した俺を【一華ちゃん】としてネットアイドルホームページ立ち上げやがった。千冬姉の下着姿の写真で閉鎖してもらった。

 あと廊下でケツ触ってくるやつが増えた。ホモは死ねと思った。

 あと、あと、あと。

 過ぎたことだ。忘れよう。封印しよう。臭いものには蓋をしよう。

 泣いてない、泣いてないもんねっ!

 

 

 世界一イケメン、はないとして。

 

 

 むしろホラ。けっこう普段は強がっているけど、俺ちょっと鼻曲がってるし、右目と左目の大きさ違うし、男の癖に肌白いし。実はフツメン以下だよね。イッピー知ってるよ……」

 

「嫁の顔は平均以上に整っていると思うが……、急にどうした?」

 

「おいやめろよ! そういう何気ない優しさは人を傷つけるんだぞ!

 かといってストレートに不細工って言うのもやめてね! メンタル弱いから!」

 

「本当にどうしたと云うのだ……?」

 

 おいやめろ。そうやって頭おかしいんじゃないの、とか脳に異常があるんじゃないかと心配するのもやめろ。

 つーか近い。ラウラさん近い。

 なんでこっちの座席の領域を超えてくんの? 通路側寄れよ。

 

 ただいま、バスにて移動中。

 酔い易い俺は窓際を即行確保したのだが、俺の隣はコイツに即行確保されてしまった。

 正直箒かシャルロット辺りが良かったのだが。

 鈴と相川さんは論外。アイツ等騒ぐから。

 セシリアも心配しつつこまめに声掛けて来そうでうざいからパス。

 

「んにゃ、なんでもない。人に歴史ありとは言うけど、その歴史の中には黒歴史だって含まれてる。

 それを俺は学んだだけさ。授業料は滅法高くついたがな」

 

「? おかしな嫁だな」

 

 ええいくっつくな。暑いんだよ。

 女の子の身体ってのは男に比べて脂肪が多い分、普通は少しひんやりしているものなのだ。

 だけどラウラは脂肪が少ない。元々そういう体質なのに加えて、日頃のトレーニングで絞ってある。

 

「えーえー、職業:軍人様には分からないふつーの男子高校生の悩みってもんがあんのよ」

 

「わたしは、普通の女の子ではない、と」

 

 そういって、ラウラは鬱な顔で俺から離れた。

 おい俺、どうよ。

 今のはどうよ。

 ラウラが過敏すぎるきらいはあるにせよ、そりゃねえぜ。

 

 ラウラの顔をこちらに向かせ、ラウラの眼帯をめくり両目をあわせる。

 

「ラウラは『普通の女の子』じゃないかも知れないけど、きちんと『女の子』だ。

 だからほら、こんなに可愛い。折角可愛い顔してんだから、笑ってくれよ」

 

 ラウラは頬を朱に染め、目線を外した。

 

「りょ、了解した。嫁、貴様は特別だから眼帯の下を存分に見ていいぞ」

 

 ラウラのコンプレックスだった左目。越界の瞳 。

 でも、人はコンプレックスだって、誰かの一言で、自分の気持ちひとつで変えていける。

 すげぇなあ人間って。

 特に若者って。

 可能性に、満ち溢れている。

 

 決して前席から飛ばされるセシリアのジト目からの逃避ではない。イッピーそんなにヘタレではない。

 シャルロの何考えてるか分からない笑顔にビビッてなどはいない。イッピーそこまでヘタレではない。

 後ろに座っている箒さんの不機嫌そうな顔なんか全然こわくない。イッピーそれほどヘタレではない。

 後ろに座っている鈴さんの興味なさそうなツラはどうなのだろう。それはそれでちょっとだけ寂しい。

 何故代表候補生に囲まれている。モンスターハウスもびっくりの囲まれ具合。積んでるわー。

 

「一夏、ほら」

 

 ヒィ! なんでございましょう元.サンシャインスマイルプリンス 現.腹黒スマイルプリンセス。

 ビビッてねーよ!

 

「ラウラの水着姿、写真撮っといたんだ。かわいいでしょ?」

「シャルロット、いつ撮った! おい嫁、見るな!」

 

 シャルロから渡された携帯を見る。

 そこには、銀髪の小柄な少女が藍色の蝶? をモチーフにした水着をきており、その麗しい身体を晒していた。

 ラウラの奪いとろうとする手を押さえ、マジマジと鑑賞する。

 コレ金とれるんじゃねーの?

 イメージコスチュームDVD、出版してくれないかな。

 

「すっっげえ可愛い、ナニコレ妖精かと思ったぜ。この画像くれよ」

 

「だよねぇ。ラウラったら自信がないってやきもきしててもどかしかったんだ。

 ほら、ラウラ。一夏が『すっっっっっっっっごい可愛い』ってさ」

 

 そんな溜めてねぇよ。

 

「そうか、わたしが世界一可愛いか。えへ、えへへへ」

 

 そんな事言ってねぇよ。

 

 しかし照れ笑いするラウラが愛らしいので突っ込みません。

 なにこの妖精ラブリー。

 一匹幾ら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ビーチバレーしようよ、織斑くん」

 

「あーうん、オッケー。後で混ざり行くわ」

 

 おいおいビーチバレーとかいいのかお前のピーチがバレーされちまうぜ?

 谷本さん結構いい身体してんのな。

 着ぐるみ着た布仏なんかもスタイルが良いっぽい(心眼・偽)

 ワンサマー的にヒトナツのアバンチュールを求め、てきとーに声かけようにもIS学園の生徒なのか一般人なのか判断がつかず手が出せん。

 

 今年の夏は弾と御手洗くん三人で海にこよう。

 足どうすっかな。

 男3人、現地での移動もあるし車がいるな。

 

 

「一夏ぁー、遠泳しない?」

 

「しない」

 

 

 鈴に誘われるが即断る。

 あっそと返事し去っていく鈴。

 

 俺は忙しいのだ。

 海に来て海で遊んでどうする。海に着たらアレだろ。水着だろ。女体の海だろ。

 その海、泳ぎたい。

 夜の水泳大会。

 

「選択肢なんてのは他人に与えられるものではなく、自ら作り出していくものだ」

 

 夜の水泳大会。夜の水泳教室。夜のバタフライ。

 素晴らしい。

 

「善でも悪でも、最後まで貫き通した信念に、偽りなどは何一つない」

 

 ホテルなんかで水着を着るのは、もしかして下着姿よりも扇情的なのではないか。

 普段あり得ないシチュエーションでの服装とは、盲点だったイッピー不覚。

 

「一夏さん、何をぶつぶつと呟いてらっしゃいますの?」

「ちょっと人の道に関して考えていた」

「浜辺で随分と高尚なことを考えていらっしゃるのですね」

 

 オルコット嬢がビーチパラソル担いでやってきた。

 セシリー力持ち。

 パラソルを立て、シートを広げ、うつ伏せに寝転がる。

 あの肢体と寝バックできたら最高なのではないか。

 OK、クールだ。クールにいこうぜレヴィじゃねえダッチでもねぇコック。

 

「それではジェントルマン、サンオイルを塗ってくださいませんこと?」

 

仰せのままに、お嬢様(Yes, My Pleasure)

 

 セシリア大胆とか、セシリアえろ淑女とか外野の声が五月蝿いが気にしない。

 俺は脳内会議で大論争中なのだ。

 俺がいまこっそり隠し持っている日焼け止めを使うかどうか。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

イッピー①「セシリーのあの白い肌を日焼けさせるのはどうだろう。あの白さは魅力だろうに」

 

イッピー②「いやいや、だからこそ真っ黒に焼こう。普段見れない彼女の魅力を要チェキ! だ」

 

イッピー①「君の言いたい事も分かる、分かるけど! あの芸術的な肌の白さは財産だと思うんだ」

 

イッピー③「俺はだからこそ黒いセシリーもみたいけどなぁ」

 

イッピー④「2Pカラーの出番はまだ早い。まだ1Pカラーもクリアしとらん」

 

イッピー⑤「……褐色金髪碧眼女に白濁デコレーションしたくね?」

 

イッピーs「なん……だと……?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「異議無し!」

 

「何をそんなに力強く断定したのかは存じませんが、あまり熱心に見ないでくださいまし」

 

 断固断る。

 俺の持ってきた日焼け止めはポーイ。遠くへ投げ捨てた。

 実際サンオイルも日焼け止めもそれ程変わんなかったりするんだけどね。

 肌を荒れさせる紫外線UVBをカットするのはどっちも同じで、

 UVBに比べて作用が穏やかなUVAを透過させるかさせないかの違い。

 

「このサンオイルをお使いくださいな」

 

「それでは、失礼致す」

 

 トロリとしたオイルをふんだんに手の平に広げ、まず肩から。

 

「ンッ」

 

「冷たいかもしれないけど、なあに。すぐよくなる」

 

「は、い」

 

 肩から、肩甲骨、背中、腰。

 撫ぜる様に、舐める様に揉みこむ。

 基本はマッサージ。

 ただし性感な。

 ちなみに都内には女性向けの性感マッサージ店があるらしい。

 

 全力で働きたいでござる。

 中国には揉み師という職業があるらしい(妊婦の乳をほぐす仕事)

 職業に貴賎はない。揉み師目指すか。

 世界初の男性IS操縦者が経営する性感マッサージ店、揉み師店。

 うん、無難に辞めとこう。

 俺はまだ姉に殺されたくない。

 

 ん、とか、はぁ、とかちょっとエロイ声出すセシリアさん。

 こっそり横ちち触ったのは秘密な。

 ポイントは脇を攻めて注意をそらしたところに抉りこむように抑えていったそのガッツ。

 どうですかねカビラさん?

 頭を使ったプレーでしたね。

 

「セシリア、終わったけど」

 

「あ、……。折角ですので、手の届かないとこは全部お願いします。脚と、その、お尻も」

 

 望むところだと云わせてもらおう、ガンダム!

 本格的に手の届かない所はこの一夏棒を活用し、て。

 俺は、俺を射抜く敵意の視線を感じた。

 どっからだ?

 近場に俺を見る男はいない。

 駄目だ、分からん。

 分からんけど、分かってきた。

 そんな鋭い敵意を放つ奴なんて、そうそういないだろうし。

 

「一夏さん?」

 

「なんでもねぇ。喜んでやらせていただきます」

 

 俺が存分に尻を揉ん、ヒップに丁寧にサンオイルを揉み込んだのは言うまでもなく。

 3時間後に再度揉み直し違った塗り直しに訊ねたのも言うまでもなく。

 帰るときに肌が荒れてないかどんな感じなのかと触診させてもらったのも言うまでもない。

 言うまでも、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩陰に隠れた、窪んだ砂浜にやってきた。

 こっそりカップルが隠れてヤッ○るのを期待してたんだけど何も無い。CG回収に失敗した。

 たぶんゴルゴムの仕業。

 遊泳場とは隔離された、半径10mほどの砂浜。

 人があまり入らないためか、ヤドカリなんかが多い。

 

 ここなら、あるかな?

 桜貝。

 最近構ってあげれてない妹分にプレゼント、と。

 

 お、カニいるじゃん。

 昔はこういうの何も考えずに捕まえてたのに、今じゃハサミに挟まれるのが怖くて手が出せない。

 大人になるって、そういうことなんかねぇ。

 

 失敗や恥を恐れて、踏み出せなくなる。

 子供に戻りたいとは思わないけど、あの頃のハートは忘れたくない。

 

 だからみんな、子供ができたら愛しちゃうんだろうな。

 思い出だったあの頃を、宝石以上に輝いてた日々を間近で見させてくれるんだから。

 

 青カン覗きにきて俺は何を考えているのだろう。

 フルフルと頭を左右にふり、頭をリセットする。

 フルフルってマジチ○コだよな。フルフル亜種とかやばいと思うんだけど。

 弾と鈴と蘭でモンハンをやってるときその話題だして弾に殴られたことがある。

 顎が外れた涙が止まらなかったのは良い思い出、なわきゃねーだろうが!

 何を隠そう、俺は間接をはめる達人だったから助かったものを。

 だが顔を紅くして俯く蘭ちゃんは目茶苦茶可愛かったです。

 弾がいなかったら実物と比べてもらおうと思うぐらい可愛かったです。

 

 キリンとナルガのエロさを再認識しつつ桜貝を探す。蘭にはキリンだな。

 小さいものであればすぐ見つかるのだが、できれば大きいものが良い。

 あと15分探して、それから遊泳場に戻ろう。

 

 日差しは強く、汗が滲んでくる。

 

 暑い。熱い。

 

 日に焼ける。熱に妬ける。

 

 思考が溶ける。

 

 日陰に歩く。判断ミスだ。海にいきゃよかった。

 これはもしや、日射病なりかけじゃあないか?

 

 いやいや、そんなヤワじゃないですとも。

 ヤワじゃない、筈。

 昨日楽しみすぎてあんまし寝れてないけど大丈夫なはず。

 でも、頭が重い。

 海が遠い。

 

「えいっ♪」

「ひゃんっ!」

 

 突然、冷たい物を首筋に押し付けられた。

 ダルマシットなう、な俺の後ろからピタリと缶ジュースをくっつけてくる女。

 オレンジ色のベアトップとボーイレッグの虎っぽいデザインの水着を身につけた女の子。

 

「一夏、女の子みたいな声あげたね」

「お願い、聞かなかったことにして」

 

 ひゃんて。男児がひゃんて。死にたい。

 

「どうしようかなぁ~」

 

「頼むよデュノア」

 

「『シャルロ』っ! もう、一夏はデリカシーがないんだから」

 

 わざとに決まってんだろうが。

 シャルロのむくれた顔が可愛いから、わざとだ」

 

「一夏、そういう本心は隠して。はい、コレあげる」

 

 差し出されたのは、先程俺の首筋にあたっていたポカ□スウェット。

 俺は受け取った500ml缶を、頭からかぶり、缶を顔に当て冷を取り、喉を潤した。

 

「助かった。生き返ったよ」

 

「ワイルドな消費の仕方だね。ほら、滴が垂れてるよ」

 

 俺の頭にタオルをかぶせ、頭をクシャクシャをふいてくれる。

 お前は俺のお母さんかっ。

 でも、シャルロが母親になったら、いいお母さんになりそうだなぁ。

 シャルロが母親に愛情を注がれたように、シャルロは子供に惜しみなく愛情を注ぐことだろう。

 

 たまに、極まれに。

 シャルロは母親を思い出し、涙を流す。

 母親って、偉大な存在だな。

 俺の母親とか名目上の母親であって、母という存在にはなってなかったもの。羨ましい。

 その分、姉が愛情を注いでくれたけどね。

 じゃあ、誰が姉に愛情を注いでくれるんだろうね。

 ……辞めよう。今考えることではない。

 

「えい」

 

 タオルで目隠しされた俺の背中に、シャルロがのしかかる。

 本当にコイツは、気配り職人だな。

 

「シャルロットさん? あたってるんですけど」

「あててるんだよ」

 

 確信犯かこの野郎! いいのか俺、それでいいのか、俺?

 よくねーだろうがっ!

 売られとんのだぞ俺は、買ってやらにゃ腐っちまうだろうが! まどるっこしいのナシにして白黒はっきりさせましょうや。俺の圧敗でしょうがね。むしろ圧力に潰れた乳にすでに圧敗寸前ですけどね!

 

 くるりと向き直り、シャルロットを押し倒した。

 シャルロットの唇はうふふと笑わんばかりの弧を描いている。

 なにこのWelcomeな笑顔。

 コイツ絶対悪女だ。1000%スパーキング悪女だ。

 せいこうの5秒前ってやかましいわっ。

 

「さあて、倒して脱がして縛って暴いて―――犯しry」

 

 視線。

 違う、これはさっきの視線とは違う。

 隠そうともしない軽蔑の視線。

 沖を見る。

 見えん。

 ハイパーセンサー起動。視線の主を探る。

 沖の先、ブイに捕まり休んでいるツインテールがこちらを睨んでいる。

 何それ怖ぇぇぇぇぇぇぇ!

 なんでその距離から俺のこと監視してんだよ!

 しかもお前IS起動してねぇだろ肉眼でどうして見えるんだよ!

 せめて瞳のハイライトを戻して、戻してよ!

 

「どうかしたの、一夏」

 

 抵抗する気配が見えないぜ社長令嬢。

 最低チューくらいいけそうな雰囲気。

 俺がソノ気になったらきっと、こういうのだ。

 片腕で胸元を隠し、人差し指を俺の鼻先に押し当て

「続きは、宿に戻ってからね?」

 うわズルイエロイ。

 俺の勝手な妄想だけど、ズルイエロイ。

 

「シャルロは、卑怯だ」

 

「そんなぼくも、好きでしょう?」

 

 ふんわりとした笑顔を崩さないシャルロ。

 ああそうさ大好きだよクソったれ!

 

「そんな卑怯者にはお仕置きだ」

 

「ん、―――はぁ」

 

 その瑞々しいくちびるを奪ってやる。

 俺が覆いかぶさる形となってツインテチャイナからは見れない筈。こんくらい許せよ?

 都合3秒にも満たない接触。

 

「一夏も、卑怯だよ。気持ちを口にせず、こういう事をするんだから」

 

「そんな俺も、好きだろ? だいたい、シャルロが可愛いのが悪いんだ。

 世間的にはどう見ても俺が悪いって分かってるけど、それでもお前は許してくれるんだろ?」

 

「どうしようかなぁ?」

 

 悪い。悪い笑顔浮かべてますよシャルロットさん!

 無邪気な悪意といいますか、困らせて愉しんでます! って表情ですよ。

 

 訴えられたら負けるぜ、俺。

 そんときゃ世界最強の力を行使せざる得ない。

 うん、そんな事で助力を求めた日には姉に殺されることだろう。

 内心を悟られぬよう余裕な顔を浮かべつつ、シャルロを見つめる。

 

 

「そうだね。―――もう一回シてくれたら、許してあげようかな?」

「お安い御用で」

 

 

 2回目のソレは、1回目よりも長く、深いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

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 人から離れる様に沖へ来た。

 浮き輪から四肢を投げ出し、波に全てをゆだねる。

 マイシスター千冬ちゃんからサングラス借りてプカプカ浮かぶ。

 照りつける太陽は正に真夏日といった体で、ジリジリと音がしそうな日光を飛ばしてくる。

 

 年を重ねると、こうやって太陽を浴びる機会も減っていく。

 少しずつ、当然でだったことが当然でなくなっていく。

 少しずつ、己が抱える義務が増えていく。

 それを悲しむわけじゃないけど、それを儚むわけじゃないけど。

 この胸に浮かぶ寂寥感は、別に否定しなくてもいいだろう?

 

「悩んで迷って、決めた答えに深く頷ければ、それでいい」

 

 変わらないものなんてない。

 変わることは悪いことじゃない。

 ただ、より良く変えていくという意思だけあればそれでいい。

 

 世界は止まっちゃくれない。

 歩こうが、走ろうが、休もうが構わない。

 お前がどうしてようが、世界は止まっちゃくれない。

 だから、好きにやれ。

 何したっていいから、何もしないことだけはするな。

 何したっていいから、何かの所為にだけはするな。

 そうじゃないと、生きてる意味がないだろさ。

 

「なあ、アンタもそう思うだろ」

 

 空へ声をかける。

 誰もいない空へ。

 俺の呟きは、溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

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「良かった。此処に居たか、箒」

 

「なんだ一夏か。どうかしたか?」

 

 夜の十二時を回った頃。

 私は宿を抜け出し、高台から海を眺めていた。

 

 寝巻きだろうか。黒のジャージで表れた一夏。

 その肩には、何か大きなものを背負っている。

 あとその手にあるL字型のピコピコと動く物体はなんなのだ。

 

「ほら、ねぇ? 分かるだろ?」

「分からん」

 

 これっぽっちも分からん。

 ただ言い辛そうな、恥ずかしそうな一夏の心情だけは分かった。

 

「そうだな。伝え辛いことを伝える為に、コイツを持ってきたんだから、使わないと」

 

 そういって、一夏は背中の荷物を降ろし取り出した。

 それは、中古屋で数千円で売ってありそうな安っぽいアコースティック・ギター。

 一夏は崖に座り、それを膝に乗せた。

 

「今日は、歌うには良い日だ」

 

 調音の確認にコードを一回だけならし、静かに息を吸い込んだ。

 そして、優しい声で唄いだした。

 

 それは感謝の歌だった。

 母親が子に送る様な、感謝の歌だった。

 愛おしい誰かを見守る、優しい歌だ。

 

 産まれてきてありがとう、と。

 貴方の瞳に映るものはなんですか、と。

 貴方に何か残せるものがあるだろうか、と。

 大きくなった貴方に、いつかが誰かがキスをする、と。

 そんな誰かとも、いつかは別れが必ず来る、と。

 

 それでも、きっと。

 貴方を愛する人が傍にいるだろう、と。

  

 アコギのゆったりとしたコードと、柔らかく包むような一夏の声。

 一夏の顔は見えない。

 つまりは、私の顔も見えない。

 一夏の唄は続く。

 その唄は、愛の歌だ。

 大事な誰かを想っているという、愛の歌だ。

 そんな風に、一夏は私を想ってくれているのだろうか。

 顔が見えなくて、良かった。

 

 それ程大きな声ではない。

 けれども、確りと胸に届くのは何故だろう。

 一夏が届けたいと思い、私が受け取りたいと願うからだろうか。

 

 目を見張る程上手くはない。

 けれども、心に響くのは何故だろう。

 想いに重さはないけれど。

 その込められた心の熱量が大きいからだろうか。

 

 弦を爪弾く指が、余韻を残しとまる。

 一夏は軽く息を吐き、立ち上がった。

 アイツの顔は、真っ赤だった。

 

 

「真っ赤になるぐらい恥ずかしいだったら、しなければいいではないか」

 

「真っ赤になろうが恥ずかしかろうが、気持ちは言葉にして伝えないと。

 恥ずかしすぎて直接伝えられなくて、こういう小細工に走っちゃったけど。

 けっこうレアよ? 俺の赤面顔って」

 

 むずがゆいのか、頭をかく一夏。

 たしかに、レアだ。

 恥ずかしいとき、一夏は逃げ出すからな。

 

「馬鹿だ、お前は」

 

「馬鹿でも良い。間違っても良い。一回しかないじゃん。俺の人生じゃん?

 やりたいことやって、伝えたいこと伝えて、そうやって、生きるんだ」

 

 アコギをケースに直す。どうやって臨海学校に持ってきたのだろう?

 一夏はアコギを背負って、背を向ける。

 

「まさか誕生日に曲を贈るとは。……どれだけの女をそうやって口説いてきたのか、調べてみたいものだ」

 

「それこそまさか。こういう時間の掛け方は、大事な人にしかしない男だぜ、俺は」

 

 女を口説いているの部分は否定しないのだな。

 ちょっと本当に調べた方がいいかも知れん。

 私の知らない女の繋がりが一本二本出てきそうで恐い。

 

 ああ、そうだ、と。

 顔だけ振り返り、一夏は言った。

 

 

「誕生日おめでとう、箒」

 

「ありがとう、一夏」

 

 

 自分の顔はネタにする癖に、私の顔は見逃して。

 自分の事を棚にあげ、一夏を揶揄する私を見逃してくれて。

 私の泣き顔は、見なかったことにしてくれて。

 ありがとう。それと。

 素敵なプレゼントを、ありがとう。

 




・スクールバス
夏っぽくハチャメチャに明るい曲です。
学生時代登校中に聴いて居た様な。
・瞳
aikoが友人が子供を産む際に書いたらしいです。
あまりに良くて歌詞直載せしそうになったのは秘密。


10/4 日間ランキング一位でした。皆様のおかげです。
ふと気まぐれでランキング見て鼻水吹きました。
たまーに30位とかに居て喜んでたのに、どういう事だラフメイカー。
短時間でも嬉しいでござる。
だがぶっちゃけ感想もらえた方が嬉しいと言うのが本音。
今後とも、よろしくお願いします。

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