平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

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ここからはアルヴィスも腹をくくり全てを話します。

エスニャがカッコイイです。

4人の会話はとても難しかったです。


9.決断

(もう後には引けなくなった。エスニャとの縁談も決まった。自分1人の問題ではない。ティルテュのお願いは大きなものになったな)

 

「アゼル、私はヴェルトマー家当主の座を君に譲る。その後見人としてレプトール卿にご助力を頂いた。今後困ったことがあれば私だけでなくレプトール卿にも相談しなさい。」

 

アゼルは驚いた表情でアルヴィスを見る。

 

「兄さん、フリージ家を巻き込んでまで僕を当主にする必要がどうしてあるの?陛下や他の公爵家からの評判はすごくいいと思うけど」

 

アゼルの後にレプトールも続ける。

 

「正直、ワシもアルヴィス殿が陛下の不興を買った話は聞かんし、最近はユングウィ家のブリギッド殿の保護に大きな成果を上げられた。この縁談はフリージ家にとっては嬉しいことだ。しかし理由は是非ともお聞きしたい」

 

「二人の話はごもっともだ。さてここからが本題だが、絶対に他言無用にお願いする。」

 

アルヴィスが真剣な表情で伝えると

 

「今さら何をおっしゃいますか。夫の秘密を他人に話すことは絶対に致しませんしさせません!!」

 

エスニャが厳しい表情でアルヴィスを見つめた後、周りの人たちにも強い視線を送る。

 

(エスニャが真っ先に言ってくれるとは。本人には言えんがカッコイイな。こんな素晴らしい女性が私の妻になってくれるのか。ティルテュ殿には感謝だな)

 

アルヴィスは自身が妻に完全に惚れてしまったことを認識する。

 

「エスニャ、ありがとう。結論を言うと私はロプト一族のマイラの血を引いていることが分かった」

 

「・・・・・!!!!!!それって!!」

 

ティルテュが思わず声を上げる。

 

「私の母シギュンがそうだったのだ。この事実を知るものは少ないが、いずれ表沙汰になればヴェルトマー家にとって致命的なダメージとなる。その前に私は当主の座を離れた方が良いと判断したのだ。」

 

「なるほど。だからティルテュとの縁談が成立してからでなければ話が出来なかったわけか。しかしまさかシギュン殿がのう。」

 

レプトールが何度もうなずく。

 

「アゼルに当主を譲るにしても強力な後ろ盾とそれを支えてくれる奥方が必要だと思った。アゼル1人に背負わせるには重すぎるのでね。」

 

「そこでフリージ家に白羽の矢を立てたのですね。お姉様であればアゼル様を支えられると信じて」

 

エスニャが納得したように声を上げる。

 

「まあ。ティルテュ殿には大きな借りを作ってしまい、その責任も負うことにしたがね。私にとっては非常に嬉しいことだが・・・・」

 

アルヴィスはそう言ってエスニャを見つめる。

 

「さっきは夫と言ってくれたね。あの凛とした姿に私はプロポーズしてよかったと本気で思っている。正直惚れ直したよ」

 

見つめられたエスニャは顔が真っ赤になってうつむく。しかしその後、真剣な表情でアルヴィスを見た。

 

「アルヴィス様。表向きの理由はわかりました。では裏側の部分について教えて下さいませんか?」

 

「エスニャ。どういう意味かな?」

 

「言葉通りです。確かに家督を譲ればヴェルトマー家を守ることはできますが、そのようなことをしなくても陛下を始め、他の公爵家がアルヴィス様を無下にするなどあろうはずがありません」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

エスニャの言葉にアルヴィスは無言を貫く。

 

「アルヴィス様は嘘が嫌いな方です。だから表向きの理由を前面に出して、上手くまとめようとなさった。違いますか?」

 

(ははは、エスニャは凄いな。間違いなく将来私が尻に敷かれる。まあそれもいいかな。)

 

アルヴィスは心の中で惚気る。

「・・・・・・・・・・・・」

 

「沈黙はアルヴィス様にとっては「はい」ですよね。」

 

ティルテュは断言する。

 

「兄さん、何を考えているの?僕じゃ頼りにならない?」

 

アゼルも加勢する

 

「アルヴィス殿、ここまで知った以上ワシも引けんよ。義理の息子に頼りにされんのは傷つくわい」

 

レプトールがとどめを刺した。

 

(流石にこの理由では足りないか。しかしここまで言われてしまった以上私も腹をくくるとしよう)

 

「ふう・・・・。参ったな・・・・」

 

アルヴィスが息をつく。

 

「エスニャ、私は君が思っているような人間ではないよ。裏側の理由は私の我儘を通したいだけだ。」

 

「どういう意味ですか?」

 

「私は順当にクルト王子が王位を継いだら、グランベルを離れるつもりだ。皆には悪いがあの男に仕えるのは真っ平ごめんだよ。」

 

「・・・・・!!!!!!」

 

アルヴィスの言葉は不敬を通り越したものだった。

 

他の面々が驚愕の表情を浮かべる。

 

「・・・・・・兄さん・・・・・」

 

アゼルが信じられないといった状態で言葉を紡ぐ。

 

「アルヴィス殿、やはり殿下を憎んでおられたか。まあ仕方ないわな。ワシではお主を止めることは出来ぬ。」

 

レプトールは重苦しい口調で紡ぐ。

 

「お父様、どういうことですか?」

 

落ち着きを取り戻したティルテュが訊ねる。

 

「アルヴィス殿、アゼル殿にはもちろん、身内となった二人にも話してもらえんか?お主の言葉からの方が良いと思うが。」

 

レプトールはティルテュの問いには答えず、アルヴィスに促す。

 

「アルヴィス様、私はグランベルを離れることになってもついて行きます。その覚悟はできていますよ。その憎しみの心の内を私も知りたいです。私ではまだその内へは入らせてはもらえませんか?」

 

エスニャは優しい表情をアルヴィスに向ける。

 

(エスニャ!それは一途という名の脅迫だ。全く女は怖い。回避は難しそうだ)

 

アルヴィスは両腕を上げて降参のポーズをとる。

 

「わかった。ただ気分の良い話ではない。そのことは先に言っておくぞ」

 

「「「はい!!!」」」

 

若い三人が同時に返事をした。

 

アルヴィスはクルト王子を憎んでいる理由について全て話した。

クルト王子と母シギュンとの関係から父ヴィクトルの遺書の内容に至るまでだ。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

話を聞き終わった三人は言葉が出ない。

レプトールは席を外している。

 

「陛下には随分と助けていただいた。私に対する贖罪もあったとは思う。しかしクルト王子が両親に対して行なったことを許すことは絶対に出来ない。」

 

アルヴィスは強い口調でそう締めくくった。

 

「クルト王子がそんな人だったなんて・・・・・」

 

「私も信じられないわ・・・・・・・・・・・」

 

アゼルとティルテュは戸惑いを隠し切れず声を上げる。

 

「アルヴィス様・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エスニャは涙を浮かべている。

 

(若い彼らにはキツイ話を聞かせてしまった。アゼルはクルト王子を尊敬していたし、ティルテュとエスニャに至っては母上のことを自分に置き換えているのだろう)

 

アルヴィスは話したことに多少の罪悪感を覚える。

 

「アルヴィス様、お辛いにも関わらず話して頂いてありがとうございます。」

 

エスニャは涙を拭って表情を引き締めた。

 

「兄さんありがとうございます。」

 

「お義兄様ありがとうございます。」

 

他の二人も揃って礼を言う。

 

「みんなありがとう。私も話ができてよかった。」

 

アルヴィスは笑顔を向ける。

 

「話は終わったようじゃな」

 

席を外していたレプトールが声をかける。

 

「お父様はこのことをご存じだったのですね。」

 

ティルテュは訊ねる。

 

「ああ。ヴィクトルが亡くなってすぐにアルヴィス殿が打ち明けてくれた。ただグランベルを出ていくとまでは思っていなかったよ。」

 

レプトールが答えた。

 

「アルヴィス殿、今日はもう遅い。よろしければ泊まっていかれてはどうかの?」

 

レプトールがアルヴィスに訊ねる。

 

「そうですね。では本日はお言葉に甘えさせていただきます。」

 

「明日から色々大変なことになる。これからのことをきちんと話し合っていく必要もあるしの」

 

「はい。レプトール卿、本日は本当にありがとうございました。」

 

アルヴィスはレプトールに頭を下げた。

 

アルヴィスは案内された寝室にて今後のことを模索する。

 

(ああは言ったものの、グランベルを出てどこに行くかは考えておかないと。候補はトラキア、アグストリアあたりかな。もちろんマンフロイの仕掛けた小競り合いを治めた後の話だけどね)

 

「あれ?」

 

ドア付近から声が聞こえる。

 

「エスニャ、どうかしたのかい?」

 

部屋に入ってきたエスニャに声をかける。

 

「アルヴィス様!!!申し訳ありません。すぐ出て行きますので」

 

慌てたエスニャは部屋を出ようとドアを開けようとするが・・・・

 

「あれ?どうして開かないの?」

 

エスニャがドアを何度も開けようとノブを回そうとするがガチャガチャと音が鳴るだけで開けることが出来ない。

 

(そういうことか。レプトール卿かティルテュかどちらかだな)

 

アルヴィスは後ろからエスニャを抱きしめる。

 

「エスニャ、鍵をかけられたようだ。誰にこの部屋のことを聞いたのかな?」

 

「え!!アルヴィス様!!!確かお父様がこの部屋に行くよう言われました。中にお姉さまがいるからと。」

 

「どうやらレプトール卿のお節介みたいだね。」

 

「そう・・・・みたいですね」

 

アルヴィスはエスニャを抱きしめた状態を続ける。

 

「アルヴィス様・・・・・・・」

 

エスニャは身をよじりながらアルヴィスの正面を向く形になった。

 

「エスニャ・・・・・・・・・」

 

お互いを見つめ合ったまま目を閉じる。

二人のそれが重なった。

 

それがどのくらい続いただろうか。お互い名残惜しそうに離れる。その瞬間・・・・・・・

 

「お父様、何の冗談ですか!!!!!!!誰か開けて!!!!!」

 

ティルテュの声が遠くから大きく聞こえた。

 

それを聞いた二人は・・・・・・

 

「ふふふ・・・・・・」

「ははは・・・・・・」

 

思わず笑ってしまった。

 

「お姉様ったらもったいない。アゼル様とふたりっきりになれたのに。」

 

エスニャは最高の笑顔をアルヴィスに向けた。

 

「全くだな。アゼルも不甲斐ない。」

 

アルヴィスも笑いながら答えた。

 




カップリング2組、いいえ3組ですね。

作成時点でシグルドとエーディンのカップリングは決めていました。

初めてゲームをしたときはエーディンがヒロインと思っていたんですよね。

今回のストーリー上この2人をくっつけた方が良いとの判断です。

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