ここからは他の公爵家が出てきます。
レプトールは自室にて難しい顔をしながら思案していた。
(ティルテュのあのお転婆ぶりはなんとかならんものかの。ワシの言うことにいちいち反論しよってからに。まあ難しい年ごろといったところか)
レプトールには3人の子供がいる。
長男ブルーム
長女ティルテュ
次女エスニャ
長男のブルームは次期当主として厳しく育てており、多少頼りなさもあるが、しっかりとした伴侶がいれば無事にこなしてくれると期待している。
長女ティルテュは良く言えば天真爛漫、悪く言えばお転婆な子だ。できればもう少しおしとやかさを身につけてほしい。
次女エスニャは姉とは反対で性格は大人しく内向的。こちらは自己主張がほしいところ。
(姉妹を足して2で割ったらバランスがとれるな。ブルームの相手は決まったが、そろそろティルテュにも良き縁談を考えてやらねば。ユングウィ家もあっさり決まったようだしの)
心の中で親バカぶりを発揮していたところにドアの所から声がかかる。
「レプトール様」
「どうした?」
「アルヴィス様がお見えになっておりまして、緊急で閣下にお会いになりたいとのことです」
「何!!すぐに客間へお通しするように」
「は!!かしこまりました」
(こんな時間に約束もなく来るとは。ましてやアルヴィス卿はこういったことは今までなかったことだ。何かお願いことだろうか?)
妙な胸騒ぎを感じながら準備を進めた。
客間に通されたアルヴィスは緊張した面持ちでレプトールを待っていた。
(さてレプトール卿はこの縁談を受けてくれるだろうか?最近シアルフィ家とユングウィ家の縁談が決まったこともあるし、前向きに検討してもらえるとありがたい)
アルヴィスがそう思案していると
「アルヴィス殿、お待たせして申し訳ない」
レプトールが客間に入るなりアルヴィスに声をかける。
「こちらこそ、事前の約束も無く、遅い時間にお伺いしまして申し訳ありません」
アルヴィスは席から立ちあがり頭を下げる。
「いやいや、気にしなくてもよい。娘のティルテュとエスニャが世話になっておるし、お主が緊急と言うことは大事な話だとわかる」
そう言って席に腰を掛けるとアルヴィスにも着席を促す。そして近衛兵を一瞥すると近衛兵は部屋を出て行った。
「お気遣いいただきありがとうございます」
アルヴィスはレプトールの気遣いに感謝の礼を述べる。
「さて、早速緊急の要件について聞かせてくれ」
「はい・・・。実は・・・・・」
アルヴィスはレプトールに一連の話をおこなった。
全てを聴き終わったレプトールは・・・
「理由を聞かせてもらうことは出来んか?」
レプトールは難しい顔で言うが。
「それはこの縁談を受けていただくことが条件です」
アルヴィスはキッパリとレプトールに告げる。
「あの子をそこまで評価してくれることは正直嬉しいし、これ以上の縁談は無いが・・」
「何か気になることがございますか?」
「正直なところヴェルトマー家公爵夫人として、しっかり夫を支えていけるかが不安じゃ」
「彼女は貴方が思う以上にしっかりしていますし、視野も広く社交的です。間違いなく支えとなってくれるでしょう」
アルヴィスはそう言って笑顔を見せる。
「彼女でなければならない理由があります。それは・・・・・・・・・」
アルヴィスは一転真剣な表情で彼女を選んだ理由を強い口調で告げた。
レプトールはそれを聞くと
「わかった。しかしそれが本当かどうかは本人から聞くのが1番じゃ。アルヴィス殿、この縁談を受けるにあたってこちらも条件を付けさせてもらう」
レプトールはその条件をアルヴィスに告げた。
「構いませんが、彼女を試すことになります。真実を知ったら怒ると思いますがいいのですか?」
「ああ。構わんよ。それにこのくらいの試練が乗り越えられんようでは、話にならんよ。それにワシはあの子に嫌われておる。お主に迷惑はかけん」
レプトールはピシャリと告げる。
「そういうわけには参りません。元々私が持ち込んだ縁談です。親子関係を破綻させたくないので一緒に謝ります」
アルヴィスは肩をすくめながら答えた。
ティルテュは大きなベッドに身を投げ出してうつ伏せに塞ぎこんでいた。
(私のバカバカバカ。何でアゼルにあんな事言ったの。失恋している彼を振り向かせるチャンスだったじゃないの)
ティルテュは身もだえしながら自分の行いを後悔していた。
(エーディン様とシグルド様の縁談が決まって私は正直嬉しかった。これでアゼルに振り向いて貰えると思ったのに・・・)
ベッドに突っ伏した状態のまま今度は固まる。
(アゼルとは小さいころからずっと一緒で、それが当たり前になって、彼がエーディン様のことを話したときに初めて私は彼が好きだとわかった)
ティルテュは仰向けになって体を起こすと自分の姿を鏡で見る。
(エーディン様にはどう頑張っても勝てる気がしなかった。アゼルが好きになるのもわかったし、不思議と嫉妬はおこらなかった)
鏡を見ながら両手でパンと頬っぺたと叩いて笑顔を作る。
(そういえばアルヴィス様は私の笑顔が素敵で元気をくれると言ってくれたな。デューも「ティルテュから明るさ取ったら何もないね」とほざいてくれていたわね。こんなことで落ち込んでどうするの。明日きちんと謝りに行こう)
ティルテュはベッドから降りて寝る準備を始めると・・・。
「ティルテュ様。起きておられますか?」
部屋の外から侍女の声が聞こえた。
「ええ。起きているわよ。何かあったの?」
「はい。旦那様がお呼びです。アルヴィス様が来られているようです。」
「お父様がこんな時間に何の御用かしら?わかったわ。すぐに行きます」
ティルテュは素早く身支度を整えて客間へ向かった。
(こんな遅い時間に呼び出すなんて。アルヴィス様も事前連絡なしで来る人ではないのにどうしたのかしら)
ティルテュは客間のドアをノックした。
「ティルテュです。お父様。入ってもよろしいでしょうか」
「ティルテュ、入りなさい」
レプトールから声がかかる。
「はい。失礼します」
ティルテュが客間に入ると侍女に聞いた通り、レプトールとアルヴィスが出迎えた。
「ティルテュ殿。こんな遅い時間にお呼びして申し訳ない。」
アルヴィスが立ち上がり、ティルテュに頭を下げる。
「いいえ。私もそちらではエスニャ共々お世話になっています。父の相手は大変だったでしょう?」
ティルテュはレプトールを見ながらおどけたように返した。
レプトールはそれを聞いて苦笑している。
(お二人だけで話をしているということは、間違いなく緊急の案件だわ。ブルームお兄様ではなく私ということは・・・・・まさか・・・・)
嫌な予感を覚えながらティルテュはレプトールの隣の席に腰を掛けた。
「ティルテュ喜べ!お前の縁談が決まったぞ」
レプトールは笑顔をティルテュに向ける。
「え!!」
ティルテュは固まった。
「アルヴィス殿がヴェルトマー家公爵夫人としてお前を迎えたいと申しておる。」
「アルヴィス様が私を・・・・ですか・・・・」
「ああ、お前を是非にとのことだ。」
ティルテュは混乱の極みにあった。
(私がアルヴィス様の奥方になる?ちょっと待って、思考が追い付かない。なんでこのタイミングで。落ち着いて私!!)
少しずつ落ち着いてきたティルテュは、ようやくこの状況が把握できてきた。
レプトールがここまで上機嫌なのは当然だろう。フリージ家とヴェルトマー家の繋がりが強くなり、アルヴィスとの縁戚関係となれば、今後も色々と動きが取りやすくなる。
(父は私が断ることを想定していない。私とエスニャはよくヴェルトマー家に遊びに行っているし、いい夫婦になると思ってくれての縁談だけど・・)
「アルヴィス様、私をお選びになった理由を教えていただけないでしょうか?」
ティルテュは思わずアルヴィスに質問した。
「私は貴方が我がヴェルトマー家に必要な人だと確信している。聡明で明るく社交的、胆力も備わっている。公爵夫人として支えてもらえると嬉しい。」
アルヴィスは笑顔でティルテュに返す。
(アルヴィス様はそんな風に私を見てくれていたんだ。とても嬉しいな。優しいし、カッコイイし、アゼルとは・・・・・あれ?私は何を考えているの?違う!違う!違う!私はそんな女じゃない!!!)
ティルテュは表情を硬くしてアルヴィスを見る。
「アルヴィス様。せっかくのお話ですが、お断りさせていただきます。貴方のお気持ちはとても嬉しいです。でもお受けするわけにはいきません。」
ティルテュはアルヴィスにキッパリとそう告げた。
(あーあー。言っちゃった。もったいないな。でも受けられないよ。この人に嘘はつけない。私が好きなのはアゼルだ。それを教えてくれた。アルヴィス様、ありがとうございます。)
「それは残念だ。できれば理由を聞かせてほしい。」
アルヴィスは心底残念そうな表情を見せてティルテュに訊ねた。
マンフロイとの話の中で伏線を張っているので、ある程度展開は読めると思います。
それでいいかと思いました。後半を楽しみにしていてください。
この縁談だけで終わらせるつもりは無いです。