会議閉幕後のそれぞれです。
会議は閉幕した。
会議終了後は速やかにそれぞれの城へ帰る。
会議に参加した全員に疲労の色が見えている。
会議で発言した者はもちろんだが、しなかった者も沢山のことを知ってしまい、そして大きな変革を迎えつつある。
ロプトウスの件、クルトの娘の件、アルヴィスの告白、ブリギッドとデューの件など課題が山盛りである。
まずは各公爵家でどう動くのかを早急に決めていかなければならない。そのため会議終了後は普段仲のいいレプトールとランゴバルドはどちらかで酒を酌み交わすのだか、それもお互い遠慮して持ち上がった課題への取り組みに奔走することになった。
シアルフィ家はバイロン、シグルド、そしてエーディンが同じ馬車に乗っていた。
エーディンはリングとの確執があったため、本来はユングヴィ家に戻る予定だったが、アンドレイがバイロンとシグルドにお願いした形だ。
すでにシグルドとエーディンは結婚しているため、断る理由などあろうはずがなかった。
「エーディン、落ち着いたかい?」
シグルドが声をかけた。
「ええ。大丈夫です。私も父に言い過ぎてしまいました。父もバイロン様と同じく国のことを考えておられましたものね」
エーディンはそう言って微笑む。
「しかし、女性に手をあげるなどあってはならん。ワシからも後でリングにお灸をすえておく。大事な娘を傷つけようとしたのだからな」
バイロンはそう言って、優しい表情を向け続ける。
「それにしても想像以上に胆力がある。エスリンにも負けんの。シグルドよ。大切にするように。ようやくワシも安心じゃわい」
「バイロン様、いえ、お父様。そう言っていただけてありがとうございます。これから夫のシグルドを支えていきます」
バイロンの言葉にエーディンは嬉しそうだ。
「父上。私も守るべきものができました。彼女を一生かけて守っていきます」
シグルドはやや緊張気味に答えた。
「うむ。本来であれば城に戻ってから話したいところだが、二人の意見を聞きたい。殿下についてじゃ。お主たちはどうする?」
バイロンは一転鋭い視線を二人に送る。
バイロンに問われた二人は少し考えるしぐさを見せると
「今は何とも言えません。色んなことが多すぎます父上」
シグルドはそう言って困った表情を見せる。
「正直に申し上げますと殿下の所業がアルヴィス様のおっしゃる通り事実であるのでしたら、今まで通りとはいかないと思います。バイロン様」
エーディンはそこまで言うと一息入れて続ける。
「殿下の今後については分かりません。これから王として資質が問われるのではないでしょうか?私の態度は変わりませんが、少なくとも今後殿下と二人きりでお会いしたくないです」
容赦なく袈裟切りにした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
バイロンは「うーーーむ」と声を上げる。
「私もそれについては同意見です。流石にアルヴィス卿の話を聞いた以上心配です」
シグルドが同意した。
「二人の意見は分かった。少なくともアルヴィス卿の話のみで相対するつもりはないということでよいか?」
「はい」
「はい」
バイロンの念を押した確認に二人は返事をした。
こちらはユングヴィ家に向かう馬車には当主代理のアンドレイ、ブリギッド、デューが乗っている。
エーディンをシアルフィ家に任せたことにより、アンドレイが一人になる状況を見かねたブリギッドがデューと共に今回はこちらに同行となった。
「それにしても色々とありすぎました。本当に申し訳ありません。姉上、デューいや兄上」
アンドレイの表情は疲労困憊である。リングの暴走により、当主代理をすることになり、これからが多忙になってくる。
「別にアタシはいいよ。それよりもデュー、ありがとうね。私のわがままに付き合ってくれて」
ブリギッドは隣に座っているデューに優しい表情を向けた。
「全然気にしていないよ。アルヴィスにはエスニャがいるし、アゼルもティルテュとレックスがいれば安心だからね」
デューはそう言ってブリギッドに笑顔を向けた。その後アンドレイに向き直ると
「それにしてもアンドレイも変わっているね。おいらに「兄上」なんて少し落ち着かないよ」
「ははは。姉上との結婚が決まった以上「兄上」と呼ぶのは当然です。私の苦労もようやく報われました」
アンドレイはそう言って笑う。
「アンドレイはおいらとブリギッドの関係はいつから知っていたの?」
デューは訊ねる。
「前に姉上に兄上のことを訪ねた時に姉上が慌てた様子で淡々とお答えになっておりましたので、姉上が兄上に好意を持っているのではと思った次第です。」
アンドレイは答える。
「え!そうなの。あの時にバレていたんだね」
ブリギッドが驚いて声を上げる。
「姉上は分かりやすいですね。兄上に会うきっかけがほしくて、ヴェルトマー家の祝言の使者をして申し出たわけですし」
アンドレイの口調はやや呆れ気味だ。
「アンドレイはおいらとブリギッドが仲良くなるのに反対じゃなかったんだね」
デューはアンドレイに訊ねる。
「純粋に姉上を応援したい気持ちはもちろんありましたが、私自身の地位を確固たるものにしたい意図もありました」
アンドレイは正直に答えた。
(下手に嘘はつかない方がいいだろう。デュー殿は嘘が嫌いだからな)
アンドレイは心の中で呟きながら自身を納得させた。
「なるほどね。おいらとブリギッドが結婚すればブリギッドを当主に推す声は確かに少なくなるね」
デューは気にした様子もなく、納得した表情を見せた。
デューは爵位を受けたとはいえ、身分は低い。それを夫に迎えたブリギッドを当主に推す人間は少なくなるだろう。なんだかんだ言ってもそういったことを気にするのが貴族社会である。
ましてやデューがアルヴィスに心酔していることは周知の事実であり、その忠誠がどの家に向けられているのかは聞くまでもない。
「まだアタシを当主にしたい人がいるの?全くしょうがないね。そんな教育もまともに受けていない人間が当主なったらどうなるか想像つかないの?」
ブリギッドが呆れた表情で疑問を口にする。
「それだけ姉上がイチイバルの継承者であることが大きいのです」
アンドレイが真剣な表情で答えた。そして続ける。
「アルヴィス卿は私が幼少の頃から当主の心得とは何かをお教え頂きました。そしてたとえ姉上が見つかったとしても私が後ろ盾になるとおっしゃってくださいました」
アンドレイの表情は晴れやかだ。
「確かアルヴィスがリングのおっちゃんに念を押していたね。アンドレイを当主候補から外したら縁を切るとかなんとか」
デューが思い出したように話す。
「だからデューに嫉妬して喧嘩売ってボコボコにされたわけだよね」
ブリギッドがいたずらっぽい表情を浮かべる。
「姉上。その話はやめてください」
アンドレイが困った表情を見せると・・・
「ブリギッド。おいらもあまり思い出しくないんだけど・・・・」
デューも困惑している。
二人の困った表情にブリギッドは・・・
「男って羨ましい。今はこうしていい関係になっているものね」
そう言って笑顔を見せた。
同じくヴェルトマー家へ向かう馬車には・・・
バカップルが二組・・・・・・・・
「エスニャ、疲れていないかい?」
「はい。アルヴィス様。大丈夫です」
「アゼル。お疲れ様」
「ティルテュも最後までありがとう」
アルヴィスとエスニャ、アゼルとティルテュがそれぞれ体を寄せ合い自分たちの世界に入っていた。
その外では・・・・・・
「絶対に中に入るなよ。後悔するぞ」
レックスが周りの者に声をかける。
「わかっております。馬に蹴られて死ぬのはまっぴらごめんです」
兵の一人が声を返した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ヴェルトマー家でオチがつきましたでしょうか?
ピリピリした話ばかりだったので少し和やかな雰囲気のものも入れました。
ですがシアルフィ家だけはそうは言ってられません。
お楽しみいただければ幸いです。