今回はアルヴィスがロプト教団について語ります。
その中で少々問題が出てきました。
デューが容赦ないです。
「アルヴィスの件だが、ワシが王位にいる間はグランベルにおるゆえ、一旦終わりにしよう」
アズムールが宣言した。それを聞いた全員が目を閉じて軽く頭を下げる。
「アルヴィスよ。次の議題を頼む」
アズムールが促した。
「はい、陛下。それでは次の議題ですが、数週間前ラケシス殿を襲おうとした主犯はエッダ家の重臣ロダン神父であることが判明致しました」
アルヴィスが口火を切った。この件はすでに周知の事実であるため、特に驚くことなく全員が頷く。
「ロダン神父はエッダ家の縁談を破談にしてアグストリアとの関係を悪化させることが目的でした。私は事前にこの情報をつかんでいましたが、証拠がなかったため、お二人の護衛にブリギッド殿とデューを付けて撃退に成功しました」
アルヴィスがここまで言うと挙手があった。クロードである。アルヴィスが発言を促す。
「アルヴィス卿、私は今でも信じられないのです。あのロダン神父がこのような大それたことを起こしたことが・・・。彼に一体何があったのですか?」
クロードが訊ねる。
「結論から申し上げます。クロード殿。彼は・・・」
アルヴィスが一呼吸置き言葉を紡ぐ
「ロプト教団の一員でグランベルの内通者でした」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
クロードだけでなくほぼ全員が驚愕の表情を浮かべた。
「ロプト教団はグランベルだけでなく各国水面下で活動を続けております。そして・・・・」
アルヴィスは一瞬アズムールを見るとアズムールは頷いた。
「私の下にもロプト教団の手の者が接触を図ってきました」
「なんだと!それは本当か、アルヴィス卿」
バイロンが叫ぶ
「はい。その者の情報より母シギュンが亡くなったこと、娘を残したことなどを聞いたのです」
アルヴィスが答えた。
「アルヴィスよ。ここから先はワシが話す。よいな」
アズムールが発言するとアルヴィス深々と頭を下げた。
「愚かにもその者はアルヴィスがロプト一族マイラの血を引いていることを伝え、脅迫しよった」
アズムールがアルヴィスの後を続けて説明する。
「アルヴィスが断るとそやつは逆上しよって戦闘になったが、デューも気配を消して聞いておった。そやつがどうなったか言うまでもないな」
アズムールがややため息交じりに締めくくった。
その言葉に全員が納得の表情を浮かべた。
(ふう。なんとかごまかせておるの。アルヴィスやデューに発言させず、誤認させることに成功したようじゃな)
アズムールは内心ホッとしている。ちなみにロプト教団の手の者とはマンフロイである。彼は監禁しているものの、この情報を共有するのは早いとの判断で隠すことにしたのだ。
アルヴィスとデューは嘘をつくことができない。そこでアズムールが代わりに話すことで、重要な部分をぼやかしたのだ。マンフロイが生きていることを知っている数名は、アズムールの意図を理解してうなずいた。
アズムールはアルヴィスを促す。
「さてここからは本題になります。ロプト教団の目的についてですが、暗黒神ロプトウスの復活をもくろんでいます」
アルヴィスが大きな爆弾を放り込んだ。
「暗黒神ロプトウスですか!!!」
クロードが思わず声を上げる。
「はい。その復活のカギとなるのが私と殿下のご息女になるのです」
アルヴィスが答える。
「アルヴィス卿、お主がカギとはどういうことなのだ?」
ずっと沈黙していたレプトールが訊ねる。
「はい、私と殿下のご息女、非礼ながら私の妹との間に子供が生まれた場合、ロプト一族マイラの血が濃い状態になり、暗黒神ロプトウスの生まれ変わりとなるのです」
アルヴィスが冷静に答えた。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
衝撃の事実に事情を知らない者は呆然としていた。
「なんということだ。そのようなことになっているとはな」
ランゴバルドも重い口調で呟く。
「つまり、アルヴィス卿に近づいた者は、その計画にアルヴィス卿を加担させようとしたわけですね」
アンドレイが確認する。
「アンドレイ殿、その通りです。全くくだらない話で、その者には私がそんな野心のある人間に見えたのだろうと考えられます」
アルヴィスが答えた。
アルヴィス自身王位に興味はない。しかしアルヴィスの話を聞いた面々、特にバイロンやレプトール、ランゴバルド、そしてアンドレイは内心肝を冷やしていた。
(アルヴィス殿は自分を過小評価しすぎるきらいがある。正直なところ殿下への恨みがこの計画の実行に向かわなくて良かった)
アンドレイはアルヴィスの両親を失った状況に同情している。と同時にここまで国に尽くしてくれていることに感嘆を抱かざずにはいられなかった。
(私が幼少の頃から当主の心得をお教えいただき、後ろ盾になってくださった。本来であれば国そのものを憎んだとしても仕方のない話だ)
両親を失った理由がグランベルの現王太子である。自分が同じ立場だったら、どうだったろうと思わずにはいられなかった。
「その後になりますが、ロプト教団の動きをけん制するため、私は偽情報を流し、それにロダン神父がのっかってきたわけです」
アルヴィスは淡々と説明する。
「アルヴィス卿。質問よろしいでしょうか?」
ラケシスが訊ねる。アルヴィスが頷くと
「事前にその情報を私やクロード様に教えていただけなかったのは、ロダン神父に洩れるのを恐れたためでしょうか?」
「いいえ。実は相手側の動きに変更があると予測したからです。元々はラケシス殿を誘拐する計画だったのが、実際ブリギッド殿を護衛にしたことでターゲットを変えてきました」
アルヴィスがラケシスの疑問に答える。
「ブリギッド殿が護衛となると難しいとの判断だったわけですね。確かにイチイバルを持った凄腕の・・・・」
アルヴィスの答えにクロードが反応し続けようとすると・・・
「クロード様!!それ以上言ってはいけません!」
ラケシスが思わずクロードをたしなめる。
その言葉にクロードは一瞬背筋が凍った。
その視線の先に・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ブリギッドが鋭い視線を送る。
「・・・・・・・・失礼しました・・・・」
クロードが深々と頭を下げた。隣のラケシスも同様だ。
「アルヴィス卿、それでは誰が狙われたのですか?」
シグルドが今度は訊ねた。
「信じられないことにデューを狙ってきました」
アルヴィスはやや呆れた口調で答えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シグルドが言葉を失う。他の者も同様だ。
「ロダン神父を悪く言いたくはありませんが、それはおろかな選択をしてしまったと言わざるを得ませんな。」
デューの実力を知るアンドレイが感想を述べた。
「そういうことです。おかげでこちらは助かりました」
アルヴィスはそう締めくくった。
「ロダン神父の処遇はどのようになるのですか?」
ずっと沈黙を保っていたレプトールが口を開く。
「残念じゃが、死刑とすることに決まった。あの者は邪神に心が取りつかれておる。今から改心をすることもないじゃろうな」
アズムールは重苦しい口調で答える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アズムールの「死刑」との言葉に皆が沈黙した。
重苦しい雰囲気の中
「ロダン神父と話をすることは出来ますか?」
クロードが訊ねる。
「クロードよ。一体何を話すつもりじゃ。その者はお前の妻を殺そうとしたのだ。認めんよ」
アズムールが呆れた口調でクロードのお願いを一蹴する。
「陛下。私からもお願いします」
ラケシスがアズムールに頭を下げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(二人は優しすぎるな。少しお灸をすえるか?)
アズムールはクロードとラケシスがお互い良き関係を持って成長していっていることを喜ばしく思っている。しかし今回のお願いは行き過ぎた行為だと判断せざるを得なかった。
アズムールはデューの方を向くと・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人に対して鋭い視線を送っている。
(ふむ。デューから言わせるか)
「デューよ。発言を許す。いつも口調で話せ」
アズムールが促した。いきなりの許可にデューは戸惑いながらアズムールを見る。アズムールが頷く。その後アルヴィスを見ると・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスは視線で促した。
(アズムールのおっちゃんがおいらに頼むなんて、これは容赦なくやってしまっていいのかな?アルヴィスも・・・・同じ考えみたいか。しょうがないよね。二人は事の重大性が分かってない)
「クロード、ロダン神父はロプト教団の一員としてアグストリアとの関係悪化を狙った重罪人だよ。そいつの上司って誰なのさ?」
デューが爆弾を放り込んだ。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
クロードとラケシスは言葉を失った。
「付け加えるならその重罪人を真っ先に処分しなければいけない家の当主は誰なのさ?」
デューは言葉を失った二人に追い打ちをかける。
「クロードよ。デューの問いに答えよ」
アズムールが促す。
「・・・・・・・はい・どちらも・・私です・・・・」
クロードが重苦しい口を開く。
「本来であれば、エッダ家で始末をつけないといけないことじゃないの。別においらはいいよ。でもアルヴィスやブリギッドに迷惑をかけたって自覚はあるのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
デューの容赦ない言葉にクロードとラケシスが俯く。
「そのことを忘れて「ロダン神父に会わせてほしい」って悪いけど二人ともふざけるのもたいがいにしてくれないかな。」
デューは容赦なく続ける。
「おいらはアルヴィスのお願いで今回のお手伝いはしたよ。アルヴィスが望んだからね。ブリギッドも快く引き受けてくれたよ。そのおかげでロダンのおっちゃんが勘違いしてくれたから大事にならなかったからね。・・・でもさ・・・・・・」
デューは一呼吸置くと・・・
「元々は誰の責任なのさ。クロード、あんたがロダン神父を自由にさせていたのが原因でしょ。
陛下は今回クロードに責任を負わせる気はないとのことだけど本来はダメだってことは覚えておいてね」
デューの口調は淡々としたものだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
キツイ正論にクロードは反論することが出来なかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
前半と後半でかなり変わりました。
ロダン神父のくだりは普通にありえる話かな?と思います。
しかしそこは釘をさす必要があると判断しました。
ここで二人には「甘さ」に向きあってもらわないといけません。
本来であればクロードも処分を受けても仕方がないところです。
まだ会議が続きます。