平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

57 / 68
アルヴィスがクルトを追いつめます。

クルト王子はどうなるのか?

個人的にはターニングポイントです。

過去に見たアニメのセリフをぶっこんでいます。




57.欺瞞

クルトは目の前の光景が信じられなかった。

絶対に味方になってくれると信じていた男が自分を糾弾しているのだ。

 

その男の表情には怒りも悲しみもなかった。ただ呆れていたのだ。

 

(彼はヴィクトル卿が自殺し、手紙を読んで全てのことを知っていたのか!ずっと私のことを憎んでいたのか・・・・・・・・)

 

クルトは何も言葉を発することができない。

ただ唖然とした表情をアルヴィスに向けるのみだ。

 

「クルト王子。勘違いしているようですが、私は父ヴィクトルが自殺する前から貴方が母シギュンに想いを抱いていたことを知っていましたよ」

 

アルヴィスはここで暗い笑みを見せる。

 

「!!!!!!!」

 

クルトはアルヴィスの言葉とその暗い笑みに思わずのけぞる。

 

「物心ついたときから4年間、父が自殺するまでの間、貴方の動向を観察していました。上手く隠していたようだが、子供の前まで隠し切るのは難しかったようですな」

 

アルヴィスの言葉が重くクルトを追いつめる。

 

「母が貴族生活に慣れていない状況を利用して少しずつ近づき親密になり、関係を持てたときはさぞ嬉しかったでしょう」

 

アルヴィスの言葉が棘となりクルトをじわじわと苦しめる。

 

「父が苦しんでいても母が罪悪感に囚われていても、欲情に溺れた愚かな男は何も見えていなかった。すべてを知っていながら何もできなかった無力な少年の姿もね」

 

「・・・・・アルヴィス卿。それ以上は・・・」

 

クルトはようやく言葉を絞り出す。

 

「父が自殺したときの手紙の内容を私に訊ねた時の貴方の表情は「見もの」でしたよ」

 

アルヴィスはクルトの言葉を無視して続ける。

 

「クルト王子にお聞きしたいのですが、私に手紙の内容について嘘を吐いたとき、貴方の羞恥心はどの方角を向いておられたのですか?」

 

アルヴィスは薄い笑みを浮かべながら、前世で見たアニメの主人公のセリフをそのままクルトに投げつけた。

 

「アルヴィス!!!!!!貴様!!!!!」

 

その言葉聞いたクルトは絶叫した。そしてアルヴィスにつかみかかろうとする。

 

アルヴィスは表情を変えず逃げようとしない。理由はもちろん・・・・

 

「アルヴィスに何しようとしてんの色ボケ王子」

 

見えないところから声が聞こえるとクルトは足を払われる。前に倒れるクルト。そのまま腕をひねられた状態で押さえつけられた。

 

「離せ!!!!!!!!!!!」

 

叫びながらクルトはほどこうとするが、身動きがとれない。がっちりと固められている。

 

クルトは首を押さえつけられている側に向けると金髪の少年が目の前に飛び込んできた。

 

「貴様!!私を誰だと思っている!!こんなことをしてタダで済むと思って・・・」

 

クルトが押さえつけている少年に激しい口調で責めるが・・・・

 

「少し黙れよ。死にたいの?・・・・」

 

ゾッとするような声が耳に入ってくる。その言葉にクルトは黙り込んだ。

 

「アンタがアズムールのおっちゃんの息子じゃなかったら、足を切り飛ばしていたよ。自業自得の行動を全てぶちまけられてアルヴィスに逆ギレって何様のつもり」

 

金髪の少年デューの声は非常に冷たかった。

 

「デュー。すまなかった。まさかこんな暴挙に出るとは思っていなかった」

 

アルヴィスはデューに謝罪する。

 

「おいらは警戒していたよ。ここまで言われてアルヴィスに謝らないんだもん。ただの馬鹿でしょ」

 

デューは容赦がない。

 

「父上!なぜ助けてくれないのですか?」

 

クルトは一転アズムールに助けを請う。

 

「ふうむ。助けるも何もお主が勝手に怒ってアルヴィスにつかみかかろうとしたではないか。そちらのデューは自分の主人を守ろうとしているにすぎん」

 

アズムールは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「とは言ってもその状態にしておくのも良くないゆえクルトよ。せめて先ほどのアルヴィスの問いに答えよ。お主の羞恥心はどの方角を向いていたのだ」

 

アズムールもクルトの傷口に塩を塗った。

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

アズムールの言葉にクルトの顔は真っ赤になった。憤怒の表情だ。そしてさっき以上に暴れ出した。

 

アルヴィスはデューに視線を送る。

 

「あいよ。当分黙ってろ、色ボケ王子」

 

デューは剣の柄でクルトを昏倒させた。

 

 

数刻たった後

 

「クルトがあれほど愚かだとは思わなかった」

 

アズムールは重い口を開いた。

 

クルトは心労が重なり倒れたという体裁をとって部屋で休ませている。

 

「あの愚か者は謹慎させる。部屋から当分出す気はない。一旦それで構わんか?」

 

アズムールは自分の息子を糾弾した男に訊ねる。

 

「ええ。一気に色んなことが起こって混乱しておられるのでしょう。少しお休みになられた方がいいと思います」

 

アルヴィスは落ち着いた口調でアズムールに返した。

 

「アズムールのおっちゃん、おいらの処罰は?」

 

デューがアズムールに訊ねる。デューからすれば次期国王を拘束し殴りつけたのだ。ただで済むとは思っていない。

 

「陛下!!「何のことを言っているかよくわからんな」

 

アルヴィスが思わず声を上げようとするとアズムールが制して言葉を重ねる。

 

「やつはアルヴィスの母シギュンの死を知ってショックで倒れたのではなかったかのう。その死を受け入れることが出来ておらん。ただそれだけじゃよ」

 

アズムールはそう言うとデューを鋭い視線で射抜いた。

 

「・・・・・・・・・・・わかりました」

 

デューはその場で片膝をついて深々と頭を下げた。

 

「デューよ。それだけで納得せんのであればワシの頼みを2つ聞いてくれるか?」

 

アズムールは孫を見るような優しい表情になる。

 

「はい。なんなりとお申し付けください」

 

デューは即答した。

 

「ブリギッドと祝言をあげよ。成人し、結婚して子供が出来たらワシに名を付けさせよ」

 

アズムールは淡々と伝えるとデューは顔を上げて驚いた表情を見せるがすぐに真顔になる。そして

 

「陛下。ありがとうございます。しかし子供の名づけについてはブリギッドの意思も確認させていただく存じます」

 

デューは素早く返す。

 

「構わん。確かにそれは大切じゃ。勝手に約束して夫婦げんかになってはワシも困る」

 

アズムールは笑いながら答えた。

 

「陛下!ありがとうございます。」

 

アルヴィスも片膝ついて臣下の礼をとった。

 

「アルヴィスよ。お前にも一つ頼みがある。聞いてもらえるか?」

 

アズムールは真剣な表情で訊ねる。

 

「はい陛下。何なりとお申し付けください」

 

アルヴィスも同様に即答した。

 

「実はの・・・・・・・・・」

 

アズムールは頼みごとを話し終えると

 

「本当によろしいのですか?クルト王子の孤立は避けられなくなります」

 

アルヴィスは確認する。

 

「アルヴィスよ。お前の言葉を聞いて正すところは正さねばならぬと思ったのじゃ。クルトの所業。それによって起こってしまった悲劇。お主のことも含めてワシはそれを表に出さなかった」

 

アズムールは悲しい表情で続ける。

 

「しかし、それではダメじゃ。クルトにはどん底に落ちてもらう。自分のしでかしたことがどれほど酷かったか身を持って知ってもらわんと王になっても同じことを繰り返すだけじゃ」

 

アズムールはそう締めくくった。

 

「承知いたしました。そのお覚悟がおありなのでしたら私は何も言うことは出来ません。それならば・・・・・・・・・・・・」

 

アルヴィスはアズムールにある提案をする。

 

「本当に良いのか?アルヴィスよ」

 

アズムールは確認する。

 

「はい。ご判断は陛下にお任せします。クルト王子に三行半を突きつけた以上、私を追い出す大儀名分にも使えます」

 

アルヴィスはそう言って肩をすくめた。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。

完全にクルト王子を叩きのめしてやりました(笑)

ここまでの展開は考えていなかったのですが、キャラが勝手に動いて止まりません(笑)

アニメのセリフですが「銀河英雄伝説」の主人公ラインハルトのセリフです。

見た瞬間に「皮肉を込めたエグイ質問だ」と思っており印象深いです。

さて対立姿勢を明らかにし、娘の存在の開示、クルト王子の暴挙。ここから展開が動きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。