平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

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ハイライン家のエリオット初登場です。

ゲームでの状況からこのくらいはしそうなイメージがあるのでぶっこみました。

典型的な悪役キャラですが、こういったキャラがいないと物語が成り立たないことも事実ですね。




50.襲撃

時を少しさかのぼる。

 

「急げ!!ノディオン家の馬車を見失うなよ」

 

厳しい声が聞こえる。

 

「はっ!!」

 

声を受けた兵から返事があった。

 

この集団は30ほどの騎兵で構成されており、ノディオン家の馬車、つまりエルトシャンとラケシスを追っている。

 

「エリオット様。本当によろしいのでしょうか?もし事が露見しましたら陛下と殿下の不興をかうことになりかねません」

 

兵の一人がエリオットに話す。

 

「知るか!!ラケシスは俺のものだ!!誰にも渡さん!!それにエバンス周辺で追いつくことができればヴェルダンのせいにすればいいことよ」

 

エリオットは自信たっぷりに答えた。

 

それを見た何人かの騎兵からため息が洩れる。

 

エリオットはそれに気づくことはなかった。

 

ノディオン家の当主エルトシャンの義妹のラケシスがグランベルに嫁ぐことが急遽決まり、今ラケシスを乗せた馬車がグランベルに向かっている。

 

前からラケシスを狙っていたハイライン家のエリオットはその情報を手に入れた瞬間に動いたのだ。

 

(それにしても殿下はどうされてしまったのだ。当初はグランベルに対して敵意を持っておられたのにこの変わりようは!!)

 

エリオットはシャガールの心変わりに驚きを隠せなかった。アグスティ王家の王子シャガールは、グランベル領土を狙って準備を進めていたのだ。しかしここにきてノディオン家のラケシスをグランベル公爵家へ嫁がす決断したのだ。

 

(最近ヴェルトマー家が頻繁に出入りしていたようだが、何か良からぬことを吹き込まれたか)

 

エリオットはシャガールがグランベルの口車にのせられたと思っている。

 

(この縁談は何としても止めねば。殿下には目を覚ましてもらわねば困る)

 

しかし思っていたほど進行速度が上がらない。

理由はノディオン城からグランベルへ入るにはヴェルダン領内を通過しなければならない。ただエリオットは無断で他国の領内に侵入しているため、悟られないように隠れての移動を余儀なくされている。

 

エリオットは気づいていないが、同行しているハイライン兵の士気も低い。王家が決定したことへの反発、いや単に女に振られて往生際の悪い男の醜い嫉妬に振り回されているのが分かっているからだ。

 

しかし騎兵と馬車では決定的に速度が違うため時間はかかったが、ノディオン家の馬車の補足に成功した。

 

「エリオット様。標的を補足しました。いかがいたしますか?」

 

兵の一人が訊ねる。

 

「よし、半分の兵は先回りして橋を抑えろ!!エルトシャンは馬車に乗っているはず。護衛も少ないはずだ」

 

エリオットが指示を出した。

 

場所はヴェルダンとグランベルの領土の境目にあたる。通過するには橋を渡らなければならない。エリオットとしてはグランベル領内に入る前にケリをつけたいと考えていた。

 

(ここでエルトシャンを始末できれば一石二鳥だ。だれも俺とラケシスの邪魔をするやつはいなくなる。散々俺をコケにしたあの兄妹には目にものをみせてやる)

 

どす黒い感情がエリオットを支配した。とその瞬間・・・

 

「うわ!!!」

 

「ぎゃーーー」

 

ハイライン兵から悲鳴が聞こえた。

 

「どうした!!!!」

 

エリオットが叫ぶ。

 

「弓兵からの攻撃です。何人かが馬を失い負傷者がでております!!!」

 

兵から返事がきた。

 

「ばかな!!!そのような気配はなかったはずだ」

 

エリオットが叫び返すと・・・

 

「エリオット様!!!危ない!!!!!!」

 

そう言いながら兵の一人がエリオットの前に出ると

 

「ぐわ!!」

 

エリオットをかばった兵は左肩に矢を受けて落馬した。

 

エリオットはそれを見て落ち着きを失う。

 

先回りを狙っていた兵もエリオットの下に集まりそれを守るように固まる。

 

弓の攻撃が収まると・・・・・・・・

 

少しずつ敵の姿が見えてきた。エリオットはその姿に心当たりがあった。

 

「なぜおまえたちがここにいる?」

 

エリオットは叫ぶ

 

「これはこれはお久しぶりですな。高貴なるハイライン家のエリオット殿」

丁寧な口調ながら若干嘲り入った挨拶をする男、元オーガヒル海賊の親玉カザールが前に出てきた。

 

「こんなところで貴様に出会うとはな。ふざけた歓迎をしてくれたものだ。急いでいるのでな。そこをどいてもらおうか」

 

エリオットは落ち着きを取り戻し、口調を抑えて話す。

 

「それを決めるのは私ではございません。今や私はヴェルトマー家に忠誠を誓う一兵士です。私はその命令に従っております」

 

カザールは丁寧な口調を崩さず続ける。

 

「嫉妬に狂った馬鹿な男が無謀な特攻を仕掛けてくるので排除してこいとのご命令です」

 

そう締めくくると・・・・

 

カザールと同じいでたちの元海賊たちがこらえきらずに笑いだす。

 

「ははははは。本当にアルヴィス様の言う通りのお方が来たな」

 

「全くだ。ここまでうまくいくとは思わなかった」

 

「あれじゃ女にモテんわな」

 

とエリオットに対して言いたい放題である。

 

エリオットは・・・・・・

 

「き・・・さ・・・・ま・・・ら!!!!!」

 

激高した。兵に対して指示を出そうとすると。

 

「エリオット様!!!囲まれています!」

 

兵の一人が叫ぶ

 

その声に反応し周りを見ると・・・・

 

グランベルをつなぐ橋の正面にはヴェルトマー家の配下となったカザールの部隊。

 

東側にはアクスナイトとアーチナイトの混成部隊

 

西側にはマージナイトとマージの混成部隊

 

それぞれが戦闘態勢に入っている。その部隊も50以上いる。

 

対する30のエリオットの部隊は2割が馬を失い半数が負傷している。死者はいないもののこれだけの部隊の相手にしては一瞬で決着がつくだろうことは想像できた。

 

「状況が分かっていただけましたようでなによりです」

 

カザールは丁寧な口調で話す。

 

「くそ!!ヴェルトマー家のアルヴィスの差し金か。あの男がシャガール殿下にあることないこと吹き込み我が国を混乱に陥れようとしているのは分かっている!!」

 

エリオットは自分の置かれた状況から目をそらして激高する。そして・・・・

 

「そういえばあの男は少年を囲って楽しむのが趣味だそうだな!!殿下も同じように誑し込んだのか!!!」

 

言ってはならない禁句が放たれた。

 

そしてカザールの部隊は直立不動の体制になる。リーダーのカザールは額に汗を垂らして少し震えている。

 

空気が・・・・冷たくなった。

 

するとカザールの部隊から金色の髪をなびかせてゆっくりと一人の少年が姿を現した。

 

腰には剣をかけて、自然体でエリオットの部隊の方へ向かっていく。その視線はエリオットを鋭く射抜いていた。

 

その視線を見た兵は恐怖の表情を浮かべた。彼が一歩進むたびに後ずさりが起こり。

 

「うわ!!!!!!!!!!!!!!」

 

ハイライン兵が逃げ出していく。

 

エリオットは後ずさりしなかった。いや出来なかった。その視線をまともに受けて動くことができなかったのだ。

 

「デュー様!!!そいつを殺したら駄目ですぜ」

 

カザールが叫ぶ。それを聞いた少年デューが後ろを振り向く。

 

「カザール。どこまでならやってもいいの?」

 

デューが訊ねる。口調は淡々としている。

 

後ろを向いているデューを見たハイライン兵が馬をデューの下へ走らせる。

 

あっという間に近づくと馬上からデューに向けて槍を突いた。しかしそこに彼はいない

 

「邪魔だよ。うっとうしいな。」

 

デューはハイライン兵の懐に入ると持っていた銀の剣を脇腹に突き立てた。

 

そしてすぐに離れる。ハイライン兵は馬上から崩れ落ちた。

 

そして何事もなかったかのように倒した兵も目の前の敵集団をも無視して同じ質問をカザールに投げかける。

 

「ねえ。カザール。エリオットだっけ。あいつどこまでなら殺っていいの?」

 

 

 

視点変更(カザール)

 

 

 

(デューの旦那。頭に血が上っている。これはまずいな。全くエリオットの馬鹿が!!)

 

カザールはデューの質問に対してどう答えたらいいか迷う。

 

(半殺しとか言ったら片手片足切り飛ばしそうだし。下手なこと言ったらこっちに飛び火する)

 

デューは飄々とした性格で穏やかだが、アルヴィスの悪口に対しては容赦がない。まさに狂信者と化す。目の前の男の命運は自分の言葉で決まる。

 

(そういえば。そうだなこの方法を使うか)

 

「デュー様。もしその男を再起不能にしたら俺の娘との結婚は遠のきますぜ。それをよく考えた上で剣を振るってくださいよ」

 

カザールはデューに答えた。ちなみに娘とはブリギッドのことだ。今でもブリギッドから親父と呼ばれており、実際デューもブリギッドとの交際を育ての父にあたる彼にも報告している。

 

「どうして?」

 

デューは端的に返す。

 

「そいつは馬鹿だが向こうの国では有力貴族の当主だ。万が一に何かあったらアルヴィス様のせっかくの苦労が水の泡になります。俺としてもそんな短絡的な男に娘はやりたくないですぜ」

 

カザールは答えた。

 

デューは少し考える仕草を見せると。

 

「分かった。ありがとうカザール。いや父ちゃん」

 

デューはいたずらっぽい表情を見せた。まさに年相応の仕草だった。

 

カザールは少し固まると・・・・

 

「まだ早いわ!!結婚してから言いやがれ!!」

 

デューに叫ぶ

 

「嫌だ。もう父ちゃんって呼ぶことにするから」

 

デューは答えた。

 

そしてエリオットに向き直った。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。

ギリギリで投稿に間に合いました。

戦闘シーンは難しいですね。イメージを文面に放り込むのが大変でした。

週1回投稿は守っていきたいですが、もしなかった場合は1週飛ぶかもしれません。

エリオットの会話シーンは当初ブリギッドも考慮していましたが、エリオットがブリギッドの容姿に心変わり(笑)するところも入れないといけないので(笑)それが「うっとうしい」(笑)と思いましてカザールにしました。

デューの狂信は簡単には収まりません。今回は幸い「お父さん」と呼べる人もできた回にしました。好きなキャラなので動かします。徹底的にです。(笑)成長してもらいます。徹底的にです。

さて次話のタイトルは「血祭り」・・・・・ではないです。(笑)
考え中です。


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