(さて国内も国外においても混乱が起きつつあるな。)
アルヴィスは自室にて考えを巡らせる。
(シレジア、アグストリアは内乱の兆しが、レンスターとトラキアも小競り合いが目立ち始めている。国内は王子派と反王子派に分かれてきた)
シレジア王国はユグドラル大陸最北端に位置する極寒の地で常に中立を保っている。
現国王の病状が思わしくなく、王位継承争いが表面化しつつある。
アグストリア諸侯連合はその名のとおり、5つの小国からなる連合国家。国力はグランベルに迫る勢いで、2つの小国はグランベルの隣国にあたる。
グランベルとは不可侵条約を結んでいるものの、それに反対する国もあり、グランベルの領土を狙う兆しが見え始めており、現国王イムカもその対応に追われている。
レンスター王国はダーナの街から南東のイード砂漠を挟んでトラキア半島の北部にあり、グランベルとは軍事同盟を結んでいる。
そのレンスター王国に再三戦争を仕掛けているのがトラキア半島の南部にあるトラキア王国である。
その頻度が格段に増えており、緊迫状態が続いている。
そしてグランベル王国だか、アズムール王は高齢により、政務を少しずつクルト王子に任せている。
そして史実通りバイロン卿やリング卿を重用し、他の公爵家から反発を招く事態に陥りつつある。
(この時点で内も外もほころびが出てきているな。さてどうしたものか?)
アルヴィスが考えを巡らせていると
「む・・・。誰だ!!!!」
アルヴィスが後ろを振り向いて声を荒らげた。
「これはアルヴィス卿。お初にお目にかかります」
深いフードのようにもの覆われた姿が少しずつ人の形となって現れた。
「貴様!!!何者だ!!!」
「申し遅れました、私はマンフロイと申します。以後お見知りおきを」
そう言って深々と頭を下げた。
「気配なく、ここに侵入できるところを見るとかなりの使い手のようだな」
「恐れ入ります。ですが、あなたを害しようなどとは全く思っておりませぬ」
マンフロイはそう言って頭を上げる。
「ロプト教団の司教様が何の用だ。私がヴェルトマー家当主と知ってのことか」
アルヴィスは尋ねた。
「・・・・・流石はアルヴィス卿と言ったところですかな。私のことをご存知であったか」
マンフロイは少し間を空けて答えた。
「知らんよ。だが、その邪悪な雰囲気までは隠すことは出来ん。しかしそのリスクを負ってまでも来たことには敬意を表そう」
アルヴィスはそう言うと来客用の椅子に腰をかけた。
「お前も座ったらどうだ。私はこの通り何もする気はないぞ。嘘は嫌いなのでね」
「よろしいのですかな。ロプト教団の司教と知っておりながらこうして話を聞くなど・・・」
「くどいぞ!!嘘は嫌いだと何度言わせる。座る気がないなら話を聞く気はない」
アルヴィスは強い口調で言い放った。
「それではお言葉に甘えさせていただきましょう」
マンフロイはそう言ってアルヴィスに向かい合う形で来客用の椅子に腰をかけた。
「話を聞こうか」
アルヴィスが促した。
「アルヴィス卿の母君にあたるシギュン殿について、お教えしたいことがあってまいりました。」
「何!母上のことをご存知か。あれから探しているのだか見つからないのだ。」
「私の掴んだ情報によると既に亡くなっております。しかし直前に娘を残したそうです。」
「娘だと。つまり私の妹か・・まさか父親は?」
アルヴィスはマンフロイに尋ねる。
「はい。父親はクルト王子にございます。」
「そうか・・・居場所はわかっているのか?」
「いいえ。その後の消息は不明でございます。しかし重要なのはそちらではございません。」
「どういうことだ?」
アルヴィスは続きを促す。
「シギュン殿はロプト一族であるマイラの血を引いております」
マンフロイは答えた。
「なんだと!!そういうことは私も・・・・」
「はい。あなたもロプト一族でマイラの血を引きし者なのです。」
アルヴィスは目をつぶって天井を見上げた。
(ここまでの演技は上手くいっているだろうか)
このアルヴィスはもちろんそのことを知っている。その後の展開についてもある程度予想はついている。しかし・・・・
(さてと。マンフロイはどのように私を動かしてくるか様子を見てみたいが・・・・)
アルヴィスは天井を見上げた状態から目を開けるとゆっくりと正面のマンフロイに向き合った。
「マンフロイと申したな。まず礼を言わせてもらう。ありがとう。」
そう言ってマンフロイに頭を下げた。
「!!!アルヴィス卿・・・・・・」
驚愕の表情を浮かべたマンフロイは言葉を失った。
「母のことのみならず妹がいることまで教えてくれて本当に助かった。母上は残念であったが、そのこと知っただけでも私にとっては救いだ。」
アルヴィスは笑顔を見せる。
「え!!そこまで言っていただけるとは・・・・」
マンフロイは落ち着かない状況を隠さずオロオロしている。
(( ̄∇ ̄;)ハッハッハ。さっきまで主導権を握ろうとしていたのにあの狼狽えぶり。よしよし。大成功だな)
アルヴィスは心の中でほくそ笑む。
「妹についてはクルト王子のご息女にあらせられる。なんとしても保護しなければならないな」
アルヴィスは一転して厳しい表情をみせた。
視点変更(マンフロイ)
(どうしてこうなったのだ!!!!)
マンフロイは混乱の極みにいた。
(いきなり真剣な表情で頭を下げるし、感謝の言葉を羅列するし、重要なのはそっちではないのになぜだ!!!!)
マンフロイの目的はアルヴィスがロプト一族であるマイラの血を引いていることを伝え、自身の地位が危うくなる状況を利用してこちら側に取り込む予定だった。
(それについては完全にスルーしやがった!!わかっていないのか自分の立場が・・・・)
「・・・・アルヴィス卿、シギュン殿の娘についてはこちらでも探しておりますが・・・・」
「いや、気にしなくてもよい。それはこちらでしなければならないことだ。しかし大っぴらにはできないから慎重に行なうつもりだ。」
アルヴィスは厳しい表情を少し緩めた。
「アルヴィス卿、自身のお立場も考えていただく必要がございます。」
マンフロイが厳しい表情を見せる。
「どういうことだ?」
アルヴィスは首をかしげる。
(やっぱりわかっていないじゃねーか!!全く)
マンフロイは心の中で毒づく。
「ロプト一族の者は貴族、平民問わず迫害の対象となっております。もしこのことが発覚すればどうなりますでしょうか。」
マンフロイは畳みかけるように言う。
「そうか。それは確かにまずいな・・・・・」
アルヴィスはそう言って顎に手をあてて目を閉じた。
(よし!!動揺しているな。ふふふ。プライドの高いお前がそれを認めて迫害の対象となることを受け入れるわけがない!!)
マンフロイは心の中で、ほくそ笑みながら勝利を確信する。
(後はこいつの野心を焚きつけてやればよい)
マンフロイはアルヴィスの次の言葉を待ち構える。
アルヴィスは目を開けると不気味な笑みを浮かべた。
(うん?どうしたのだ・・・・・)
マンフロイはアルヴィスの表情に思わず背筋を伸ばす。
アルヴィスは立ち上がりマンフロイのところ向かってくる。
「マンフロイ殿、改めてあなたには感謝する。」
アルヴィスはマンフロイの右手を取り両手で握り頭を下げた。
(はあ!!!!!!!)
マンフロイは手を握られた状態で固まった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
さて次話は私の大好きなキャラが登場します。