視点変更を多数入れています。
心の声がそれぞれの立場で必要なので。
ドアがノックされ、声が聞こえた。
「殿下、エルトシャンにございます」
「殿下、ラケシスです」
「おお、待っておったぞ。入れ」
シャガールが二人に声をかけた。
「失礼いたします」
「失礼いたします」
呼ばれた二人はドアを開ける。
中は応接室になっており、シャガールに促されるまま与えられたソファーに腰を掛けた。
「さて二人を呼んだのは他でもない・・・・が」
シャガールは近くの兵に目配せをするとそれに気づいた兵は部屋を退室した。
「殿下。兵にも聞かれたくない話でございますか?」
エルトシャンは思わずシャガールに確認する。
「うむ。今はあまり公にしたくないのでな」
シャガールはエルトシャンの質問に回答する。
それを見たラケシスは訝しげにシャガールを見る。
「本題に入る前に確認したいことがある。エルトシャンよ。最近他の領主の動向について何か知っておるか?」
シャガールはエルトシャンに質問する。
「私の知る限りであれば、ハイライン家とマッキリー家が慌ただしいようです。良からぬことを企んでいる恐れがあります」
エルトシャンはハッキリと答えた。
「うむ、そうか。ふう・・・。オーガヒルの海賊がいなくなったとたんに全く困ったものだ」
シャガールは頭に手をやりながら困った表情を浮かべた。
それを見たエルトシャンは多少驚きの表情を見せた。隣のラケシスも同様だ。
(まあ、二人が驚くのも無理はないな。ワシは元々グランベルの領土を狙う側だったからな)
シャガールは二人の表情を見ながら自虐めいたことを心の中で呟く。
「あの両家はグランベルへの侵攻を画策しておるみたいだな。勝ち目のない戦を仕掛けたところで意味がない。それが分かっておらんようだ」
シャガールはフウと息をつく。
「殿下、私も同じ意見です。グランベルとは良好な関係を維持してこそアグストリアの繁栄が望めるものと具申致します」
エルトシャンもシャガールの言葉に同意する。
「現状グランベルとの敵対は避けねばならん。そこで本題に入ろう」
シャガールはそう言うと続けた。
「ヴェルトマー家のアルヴィス卿から縁談の申し入れじゃ。あの者はこっちの状況を把握しておるみたいじゃな。先手を打ってきた」
その言葉にラケシスが反応し、エルトシャンも表情を引き締めた。
「縁談ですか・・・・・」
エルトシャンは言葉を紡ぐ。ラケシスは無表情で黙ったままだ。
視点変更(ラケシス)
ラケシスは無表情のままでシャガールの話を聞いている。
(やっぱり、縁談なのね。でも今回は国外でアルヴィス卿からの打診なんて。一体誰なのかしら)
ラケシスは想像を巡らす。
(アルヴィス卿は最近結婚されたし、弟のアゼル様も同様ね。シグルド様もエーディン様と結ばれましたし・・・・・・・・)
「殿下、その縁談のお相手はどなたなのでしょうか?」
ラケシスはシャガールに訊ねる。
「うむ。アルヴィス卿がエッダ家のクロード殿より依頼されたようなのだ。良き縁談があればお願いしたいとのな。そこでワシに相談があり、ラケシス、お主を紹介したいと思っておる」
シャガールは真剣な表情で告げた。
「・・・・・え!!!」
ラケシスは思わず声を上げてしまう。
(エッダ家のクロード様って確か6公爵家の当主で、確か司祭様でいらっしゃましたよね)
思ってもいなかった相手にラケシスは多少の混乱を覚え、横にいるエルトシャンを見た。
エルトシャンも同様に驚いているようだ。
「クロード殿は知っての通り、6公爵家の1つエッダ家当主に最近なられた。聡明で誠実な若者で、これからのグランベルを担っていく人物なのは間違いない。ワシとしてもそれなりの者を引き合わせねばつり合いが取れん」
シャガールは真剣な表情を崩さず続けた。
「殿下、それはラケシスには大変名誉なことではありますが、なぜこの時期に縁談のお話が?」
エルトシャンはシャガールに訊ねる。
「うむ。オーガヒルの海賊の件でグランベルのアズムール国王陛下、ヴェルトマー家、ユングウィ家から大層感謝されてな。その縁もあってアルヴィス卿と色々と相談を乗ってもらい、今回の話が浮上してきたのだ」
シャガールは答えた。
(そういえばエーディン様とシグルド様の結婚もこの後決まったんだったわね。確かブリギッド様を保護されたとかで)
ラケシスはオーガヒルの海賊の件は知っている。ユングウィ家のエーディンの姉にあたるブリギッドの捜索にアルヴィス卿がシャガール殿下に協力を求め、無事保護することができ、海賊たちは国外追放の形で納めた件だ。
(あのとき殿下は何を考えて海賊を野放しにしたのか分からなかったけど、エルトシャン兄様がシグルド様から真相を聞いて納得したんだっけ。アルヴィス卿が裏で手を引いていたようだけど)
エーディンが行方不明だった姉を見つけたことでシグルドへの想いを明確にして無事結ばれたのだ。
「殿下、いつからアルヴィス卿とはそこまで親密になられていたのですか?」
ラケシスは思わず質問する。
「いやいやワシは愚かにも、ブリギッド殿を保護した直後、エーディン殿に交際を申し込んでしまっての・・・・・・」
笑いながらも自虐めいて話すシャガール
「・・・・・・・・えーーと・・その・・」
ラケシスはシャガールの答えに口ごもる。
「遠慮せんでよい。その場で振られてしもうたわ」
シャガールは笑い、そして続ける。
「流石にワシもいきなり断われ腹も立ったが、すぐにアルヴィス卿が謝罪に来てくれた。「大恩ある殿下に恥をかかせて申し訳ありません」とな」
「アルヴィス卿は「謝罪だけでは申し訳がない」とこうして定期的に訪問してくれておるのだ」
シャガールはそう締めくくった。
「流石はアルヴィス卿です。本来その場で断るなどあり得ない話です。一歩間違えれば両国に亀裂が走っていたかもしれなかった。噂通りの切れ者のようですね」
エルトシャンはアルヴィスを賞賛する。
二人のやり取りを見たラケシスは・・・
(どういうことかしら?エーディン様はシグルド様がいたわけだし、その場で殿下のお誘いを断るのは当たり前だと思うのだけれど)
と首をかしげる。
視点変更(シャガール)
首をかしげたラケシスを見たシャガールは
(やっぱり分かっておらんなこやつは。エルトシャンは分かっておるようだな。ここまで前振りをしておいた以上、エルトシャンも反対できんじゃろう)
シャガールはエルトシャンの表情に翳りがあるのを見逃さなかった。
「ラケシスよ。他国の王族など高い身分の者からの申し出を己の一存で判断するなど、本来あってはならんのだ」
シャガールはラケシスに厳しい表情を見せる。
「え!!!!どういうことですか?」
ラケシスはシャガールの言葉に驚く。
「一国の中枢を担う立場の者が交際なり結婚を申し込むことは相手側からすれば名誉なことだ。国家間を揺るがすことで安易な判断は許されぬ。断るにしても、きちんと自国に持ち帰り、丁寧な対応をしなければ相手の国そのものを侮辱したとなる」
シャガールは厳しい表情を崩さない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ラケシスはシャガールの言葉に声が出ない。
「アルヴィス卿はエーディン殿が犯した失態の責任を取りに即座に私の下に赴き、頭を下げ一切の言い訳をしなかった。その意味がわかるか?」
視点変更(ラケシス)
シャガールの言葉がラケシスに重くのしかかる。
そしてここに呼ばれた意味がわかった。
(・・・・・・そうか。この話はクロード様との縁談を簡単に考えるなとの警告なのね)
ラケシスはどうやってクロードとの縁談を断ろうかと考えていたが、自国とは違い他国で6公爵家の当主となれば己の我儘は通らない。シャガールはそう言っているのだ。
「ようやく分かってくれたようだな。ラケシスよ。いきなりの話であるが、この話は両国の今後を担うものだ。よく考えて返事をするように」
シャガールはラケシスの表情を見て納得したように話をしたあと・・・
「エルトシャンよ、いい加減に妹離れをしたらどうだ。中途半端な優しさは時に人を傷つけてしまう。良からぬ誤解まで生んでしまっては本末転倒だ。言っている意味は分かっているのだろう?」
そう言ってエルトシャンに厳しい表情を向けた。
視点変更(エルトシャン)
シャガールに厳しい表情を向けられたエルトシャンは・・・
(殿下のおっしゃる通りだ。俺はラケシスを甘やかしすぎた。妹ができて大切にしてきたつもりがそのことがラケシスを傷つけてしまうとはな)
「はい。申し訳ございません。おっしゃっている意味も理解しております」
シャガールの話にあった誤解とはエルトシャンとラケシスの関係だ。エルトシャン自身は結婚しており、意識していないがラケシスはエルトシャンに好意を持っている。それに対して曖昧な態度を取っていたのはエルトシャンだ。
(俺はグラーニェを愛しているしラケシスの想いには答えられない。それが分かっていたはずなのにな)
エルトシャンは自虐めいた表情を見せた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
かなり二人に厳しい感じにしましたが、シャガールからすれば「いい加減にしてほしい」ところだと思います。
シャガールの多少のキャラ改変はアズムールと似てしまうので難しいです。
最後にシャガールの交際申し込みを断った後の流れについて賛否両論はあるかもしれません。