平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

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母シギュンは失踪しました。
ユングウィ家のリング、アンドレイが登場します。
このストーリーは本編に直結しませんがキャラ設定上入れさせていただきました。


3.若き当主(少年期10歳)

(やはり母上は失踪したか。人の噂は止めらない。クルト王子もかなりショックだったようだな)

 

アルヴィスはわずか7歳でヴェルトマー家当主となった。

 

当初は他の一族から反対の声が上がったが、現国王アズムールが一蹴した。

 

(陛下がお力添えいただいたおかげでここまでやっていくことが出来た。感謝しかないな)

 

父ヴィクトルの愛人やその子供は一部を残して追放した。子供についてはアゼルのみ弟として残した。

 

アゼルの母リストは自身の身の回りの世話をしてくれている。

 

他にも父が強引に手を付けてしまった2人に別の仕事をしてもらっている。

 

(決定的だな。予想通りクルト王子の手引きがあったか。しかし、根はやさしい人たちだった。必死に自分のことはどうなってもいいが家族には手を出さないでほしいと懇願してきたし。)

 

現在別の仕事をしてもらっている2人はクルト王子が裏で手配した人物だった。

 

(これからの動きが大変になってくる。今のところ5公爵家への定期的な訪問は欠かしていない)

 

アルヴィスが当主になって始めたことは他の公爵家への定期的な訪問活動だ。

 

(レプトール卿やランゴバルト卿は本当に喜んでくれた。1番最初に今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。と当たり前のことを話しただけだが・・)

 

(リング卿とバイロン卿はクルト王子の件を気にしている節がある。かなり気を使ってくれているようだ。エッダ家は可もなく不可もなくといったところか)

 

幼き当主が素直に教えを請いにやってくるのを露骨に拒む人間はいない。

 

どんな状況においてもこの訪問は欠かすことなく続けたことで評判は内外ともに悪くない。

 

さらに他の国への情報収集だ。それについても他の家よりも積極的に行なっている。

 

その情報を定期的に陛下や5公爵家に提供しているのだ。

 

但しクルト王子に伝えることは絶対にしない。こんなことが許されているのも陛下のご配慮だ。

 

陛下は今回のクルト王子の行動に対し、かなりお怒りのようだった。その分私に対して過分のご配慮を頂戴している。

 

クルト王子も私を支えて下さってはいるが、陛下の怒りを鎮めるための行動にしか見えない。

 

ここ最近ではユングヴィ家で大きな問題が起きた。

 

リング卿のご息女で次期当主候補のブリギッドが船難事故で行方不明になってしまったのだ。これも史実通りに発生した。

 

(回避に動きたかったが、時期が分からなかった。生きているとは思うから現状は動かないようにしよう)

 

むろん探してはいるが、海賊の縄張り近くで他国になるため難航しているようだ。

 

リング卿は早々に次期当主候補を長男のアンドレイに決めた。

 

本来であれば正妻の子で次女のエーディンだか本人はシスターの道を選び、当主候補を辞退したためだ。

 

アルヴィスはユングヴィ家への定期訪問の日、早速リング卿へ今回の事故についてその後の状況報告を行った。

 

「こちらでも探しているのですが、遭難場所がアグストリア領内でオーガヒルの海賊の縄張りに近いため、なかなか情報がつかめず申し訳ありません」

 

アルヴィスはリングと同席しているアンドレイに頭を下げた。

 

「いいえ。そこまでしていただいてこちらこそ申し訳ない。アルヴィス殿、頭を上げてください」

 

リングは恐縮した様子で立ち上がって頭を上げるように促す。

 

「アルヴィス卿、わが家の不祥事にも関わらずここまでしていただいて感謝しております」

 

アンドレイも感謝の言葉を伝える。

 

「リング卿には若年の私に色々をご尽力していただいてそのご恩を返せておりません。これからも捜索は続けていきますので、諦めずにご報告をお待ちください」

 

アルヴィスはそう言葉を紡いだ。

 

「アンドレイ卿もこれから大変だと思うが、私にできることがあれば何でも言ってほしい。協力は惜しまないよ」

 

少し表情を柔らかくして伝える。

 

「ありがとうございます」

「はい!!」

 

二人同時に返事をした。

 

「食事を用意させていただきました。ぜひご一緒にお願いしたいが」

 

リングより遠慮がち問われたが、

 

「それではお言葉に甘えさせていただきます」

 

アルヴィスははっきりして口調で返事をした。

 

リングが侍女に食事を持ってくるよう伝えた。

 

その言葉受けて侍女たちがカートを持ってやってくる。

 

1人1人が個別のカートに料理運んでくるスタイルだ。

 

(うん?私の担当の侍女の動きがぎこちないな。左足を引きずっているように見える。右腕もかばいながら対応しているな)

 

アルヴィスは少しその侍女の動向を気にしながらアンドレイの話に耳を傾ける。

 

「アルヴィス卿、当主として大事にしていることは何なのですか?」

 

「私は若くして当主になってしまい、父からもほとんど教われなかった。だから他の当主の方々に頭を下げて教えを請いにまわりました。当主と言っても1人では何もできません。敢えて言うなら素直さと謙虚であることです。」

 

アルヴィスは答える。

 

「え!!それが大事なことなのですか。」

 

アンドレイは驚いたように言う。

 

その時アルヴィスの料理の皿を運んでいた侍女がバランスを崩して料理を床にぶちまけてしまった。

 

周りの空気が止まった・・・・・。

 

(やっぱり無理だったか。料理がもったいないな)

 

アルヴィスは心の中でつぶやいた。

 

「貴様!!!!なんてことだ・・・。」

 

アンドレイは髪が逆立つかのごとく怒りを露わにした。その目線が倒れている侍女に向けられている。

 

「何をしたかわかっ「大丈夫か?」

 

アルヴィスはアンドレイの言葉に重ねて倒れている侍女に駆け寄り優しく声をかける。

 

倒れていた侍女はアルヴィスの声を聞き、置かれた状況を認識して顔面が蒼白になっている。

パニックになりかけているのだろう。言葉が出ず目には涙が出ている。

 

「落ち着いて。アンドレイ!!すまないが床の片づけを他の侍女に指示してほしい」

 

アルヴィスは強い口調で伝えた。

 

「リング卿、この娘に回復魔法を。左足と右腕をかなり痛めているようだ」

 

そう言ってケガをしていた侍女を抱き上げる。

 

「そこにあるソファーをお借りする。すまないが少し我慢してくれ」

 

侍女は固まって大人しくしている。

 

侍女をソファーに寝かせると左脚の靴を脱がせた。かなりの青あざが出来ている。袖もまくると右腕も同様のようだ。

 

「これは酷いな。リング卿、ライブをお願いします」

 

「お待ちください。この者は我々の食事会を台無しにしました。罰が必要です。なぜそのようなものにライブをかけるのですか」

 

アンドレイはアルヴィスに詰め寄る。

 

「アンドレイ!それは違う。この娘はこの状態で強要されたのだ。断ることも出来なかったはずだ。であれば責任を負うのは彼女に任せた者だ」

 

アルヴィスは諭すように反論する。

 

「本来ならば侍女を統括するものが責任を負うがここは主であるリング卿に負っていただきたい」

 

「アルヴィス卿。わかりました。ありがとうございます。」

 

リングは納得した表情を浮かべた上で杖をかざす。

杖の先から白い光が灯りそれがケガをしている侍女の左脚と右腕に注がれる。

 

ゲームで何かとお世話になる回復魔法ライブである。

 

あっという間に青あざが無くなった。

 

「・・・・本当に・・・ありがとうございます・・・」

侍女は泣きながら何度も頭を下げてお礼の言葉を紡いだ。

 

「落ち着いたようだね。今日はもう休んだ方がいい。顔色もかなり良くないようだ」

 

アルヴィスは優しく声をかける。

 

侍女はハッとした様子でうつむくとソファーの横で土下座をする。

 

「皆様の食事会を台無しにしてしまい申し訳ございません。どのような罰もお受けします」

 

侍女は震えながら言葉を絞り出す。

 

「残念だが君に罰を与えることは出来ない。さっき私は言ったはずだ。リング卿に責任を負っていただくと」

 

アルヴィスは侍女に告げる。そしてリングの方へ体を向けると

 

「リング卿、今回の食事会が台無しになった原因は明らかにケガをしていた彼女にこの仕事を任せたことだ。こうなった理由を後日私にご報告願えますか?」

 

「アルヴィス卿、承知いたしました。この度は申し訳ございませんでした。」

 

リング卿はそう言って頭を下げた。

 

「父上、アルヴィス卿・・・・・」

 

アンドレイは啞然とした表情をしていた。

 

「アンドレイ。君はあの娘を叱りつけようとしていたね。そうすれば何が解決していたのかな?」

 

アルヴィスはアンドレイに尋ねた。

 

「え!!。それは・・・・・・」

 

問われたアンドレイは驚きの表情を見せ、口ごもる。

 

「責めているわけではないよ。私は彼女がケガをしているではないかと思っていた。しかし確証が持てなくてね。それについては申し訳ない」

 

アルヴィスはそう言って軽く頭を下げた。

 

「そもそもケガをしていた者に来客の対応させること自体が問題だ。明らかにおかしいとは思わないか?」

 

「・・・・それはその通りです。」

 

アンドレイはうつむきながら答える。

 

「それに彼女のあのケガについても通常あそこまで酷い状態になることはない。何かトラブルでも起こっていると推測する。だからそのあたりの解明も含めてリング卿にお願いした」

 

アルヴィスはリング卿の方をチラっと見て話し終えた。

 

うつむいていたアンドレイは顔を上げるとケガをしていた侍女に声をかける。

 

「アルヴィス卿が言った通りだ。お前の罪は問わないが何があったのか後で教えてほしい。それと・・・・すまなかった」

 

アンドレイはそう言うと他の侍女に部屋まで付き添うように命じる。

 

「アンドレイ様。ありがとうございます。」

 

侍女は涙を流しながら付き添われていった。

 

「アンドレイ、それでよい。」

 

リングは満足したように椅子に座る。

 

「父上・・・・・」

 

「アルヴィス卿。この度は愚息の失態を防ぐだけではなく、丁寧なご指導をしていただき感謝します」

 

リングはアルヴィスに向き合い頭を下げた。

 

「いいえ。私も驚いておりますよ。アンドレイ卿は私より立派な当主になれる素質をもっていると確信しております。」

 

アルヴィスはそう言いうとアンドレイの方を向いて

 

「アンドレイ。君は最後に謝罪をしたね。悪かったと素直に認めることは1番大事なことだ」

 

「はっきり言っておく。仮にこの時点でブリギット殿が見つかったとしても君がこのユングヴィ家の次期当主だ。私は全力で応援するよ」

 

アルヴィスの言葉を聞いたアンドレイは驚いた表情を見せた。そして

 

「はい!!ありがとうございます。」

 

と大きな声で答えた。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
次話は他の公爵家と他国の独自考察になります。
人名の誤字がありました。本当に「お粗末」ですみません。
ダッカー様ご指摘ありがとうございます。見直しが必要ですね。感謝します。

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