平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

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書き溜めていた分が限界を迎えており、入院等の体調不良も重なったので当分週の投稿回数を2回から1回にさせていただきます。楽しみにしておられる方、誠に申し訳ございません。本当に世の中の作家さんは凄いですね。心の底より尊敬します。

アルヴィス、レックスの会話はこれで終了になります。

その後の展開はお楽しみください。




29.理由

「クルトに忠誠は誓えない。本当に殺してしまいそうだ。だから出ていきたいんだよ。でもこんな馬鹿でも大恩ある陛下のご子息だ。悲しませることはできない」

 

アルヴィスは悲痛な表情を隠さず話し切った。

 

それを見たレックスは嘆息する。

 

(アルヴィスがこんなに感情的な男だったとは。正直驚いたよ。でもこいつは優しいやつだ)

 

レックスはアルヴィスの葛藤が分かる。

今まで隠し通してきたクルトへの憎しみがいつ噴き出すかが分からない状態だ。その父親が自分を助けてくれた忠誠を誓っている主君である。その主君が亡くなり、クルトが王になれば、そのほころびが大きくなることを恐れている。

 

(ただ問題はロプト教団、殿下のご息女のことだな。それが片付かない限り、アルヴィスは出ていくことはないだろう。エスニャはついて行くだろうな。ああ見えてティルテュよりも頑固だ。)

 

レックスは思考を整理するとアルヴィスに向き合った。

 

「アルヴィス、俺はお前にはそれでもグランベルに残ってほしいと思っている。もしまだ迷っていて、仮に残る選択を取ったのであれば、俺は全力でお前を助ける。そのことだけは覚えておいてくれ」

 

レックスはアルヴィスから目線をそらさない。そして続ける。

 

「エスニャと一緒になったことで迷いがあるんだろう。それならエスニャに相談したらどうだ?流石にグランベルを出るとなれば、その後どうしていくのか考えておかないといけないだろうしな。お前は大丈夫だろうが、エスニャについては心配だ」

 

「それは・・・・・そうだね」

 

アルヴィスはレックスの言葉に納得する。

 

「仮に子供でも出来てみろ。当分の間は無理だぞ。まさかと思うがそれまで「しない」なんてことはないだろう?」

 

レックスは畳みかけるように言う。

 

「うっ・・・・・・たしかに」

 

アルヴィスは痛いところを突かれた表情を見せる。

 

「まあ、陛下が簡単にお前を手放すとは思えないがね。許可はまだ出てないんだろう?」

 

「ああ。当主の座を譲ることには了承いただいたが、出奔については保留中だ」

 

「そうだろうな。陛下も俺と同じことを考えているかもな。お前がここに残る理由をね」

 

レックスは確信めいて答えた。

 

(子供が出来たりすれば、考えが変わるかもしれないな。その時点で残る理由ができるし)

 

レックスは思考まとめて納得する。

 

「分かったよ、レックス。もう私の状況は大きく変わっている。まだ時間があるから考えてみようと思う」

 

アルヴィスは多少頼りなさげに答えた。

 

 

 

視点変更(アルヴィス)

 

 

 

(そうなんだよ。エスニャとの間に子供ができたら当分は動けない)

 

アルヴィスは致命的なところをレックスに指摘され、行き詰ってしまった。

 

(流石にその間「しない」なんてことはない。約束したし)

 

心の中でその選択肢はないことを自覚している。

 

(ふう、確かに色々問題が起こってきているな。一旦頭をスッキリさせてから考えるとしよう)

 

アルヴィスが気持ちを切り替えると

 

「デュー、ブリギッド殿の護衛お疲れ様」

 

とあさっての方向へ声をかけると

 

「アルヴィスもお疲れ様。無事姉御を送り届けたよ」

 

声とともに金髪の少年が姿を現した。

 

「・・・・デュー、いつからいたんだ」

 

一瞬固まっていたレックスが声をかけた。

 

「「アルヴィス、俺はお前にはそれでもグランベルに残ってほしいと思っている」・・・辺りかな。凄く真剣な話をしていたから邪魔するのも悪いと思ってね」

 

デューは正直に答えた。

 

「・・・・・デュー、わかっていると思うが」

 

レックスは声を低くすると

 

「誰にも言わないよ、レックス。そもそもこの話はおいらしか知らないし」

 

デューは最後まで言わせず言葉を重ねてきた。

 

「レックス、疲れただろう。今日は泊っていくといい」

 

アルヴィスはレックスに声をかけた。

 

「言われなくてもそうさせてもらうわ。これから大変だしな」

 

そう言って立ち上げる。それを見たアルヴィスは寝室に案内するように侍女に伝えた。

 

「それじゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ」

 

レックスは客間を後にした。

 

2人になるとアルヴィスはデューに近寄り頭を撫でた。

 

デューは抵抗せずそれを受け入れる。撫でられたデューは少し下を向いて顔をほころばせている。

 

「デュー、ブリギッド殿とはどうだったかな?」

 

アルヴィスはデューに訊ねる。

 

訊ねられたデューは

 

「姉御からおいらに興味があるって・・」

「それに対しておいらは・・・・・」

「昔の話をして・・・・・・・・・」

「姉御に相談したんだ・・・・・・」

「ヴェルトマー家の秘密を・・・・」

 

一切隠し事せずにアルヴィスに話した。

 

話を聞いたアルヴィスはデューに訊ねる。

 

「デュー、楽しかったか?」

 

問われたデューは少し考えた後

 

「うん、とても楽しかった」

 

笑顔を見せた。

 

「そうか、それは良かった。話してくれてありがとう」

 

アルヴィスがそう言うとふと思い出したように

 

「デュー、マンフロイを恐怖のどん底に叩き落したんだって?」

 

「許せなかったから。・・・・・ごめんなさい」

 

デューは萎縮して目線をそらした。微かに震えている。

 

(私への侮辱が頭にきたんだな。そういえばアンドレイにも過去にやらかしたな)

 

「理由は兵から聞いているよ。私のために怒ってくれてありがとう。ただそろそろキレるのは抑えるように努力してくれよ。君にとって良くない」

 

アルヴィスは続ける。

 

「怒りの感情を持つことそのものは悪いことじゃないよ。でもそれによって相手を傷つけることは自分を傷つけることにもなる。実際後悔しているのだろう」

 

アルヴィスは優しく問いかける。

 

「・・・・うん。色んな人に迷惑かけたから」

 

デューはうつむきながら答えた。

 

「そうだね。そして君は罪悪感に囚われている。いいことなんてないだろう」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

デューはうつむいた状態で頷く。

 

「はい。この件は終わりだ。次にいい報告があるぞ。陛下より君にマンフロイを捕らえた功績により、ご褒美を賜った」

 

「え!おいらがもらえるの?」

 

デューは顔を上げて驚愕の表情を浮かべる。

 

「そうだよ。ロプト教団の幹部を捕らえたからね。陛下は大層お喜びだ。何か希望はあるかな?」

 

アルヴィスはニコニコしながら訊ねる。

 

 

 

視点変更(デュー)

 

 

 

「そうだよ。ロプト教団の幹部を捕らえたからね。陛下は大層お喜びだ。何か希望はあるかな?」

 

アルヴィスはニコニコしながら訊ねる。

 

(アルヴィスって意地悪だな。さっきまでとえらい違いだ)

 

デューは怒りのままにマンフロイを傷つけてしまったことを後悔していた。アルヴィスに無断でマンフロイと会った上、丸腰の相手に剣を振るってしまったらどうなるかわかっていたはずだった。

 

(アルヴィスがおいらのために厳しい言葉をかけてくれた。自分を傷つける・・か。その通りだね)

 

今回の件は初めてではない。アンドレイにも同様のことをしてしまっている。流石にマンフロイのように剣で縫い付けていないが、アンドレイのプライドを容赦なく打ち砕いた。

 

(あのときもアンドレイの言葉でカッとなったんだよな)

 

その件についてはアルヴィスが謝罪し、アンドレイもユングウィ家も問題にしなかったが、一つ間違えれば大事になっていただろう。

 

その際もアルヴィスはデューを一切責めず、さっきのように諭してくれた。

 

(アンドレイはあれからもおいらに普通に接してくれた。リングのおっちゃんはブチ切れたらしいけど、アンドレイがかばってくれたってアルヴィスが言っていたし)

 

デューは上機嫌のアルヴィスにどう答えようか悩んでいる。

 

(アズムール国王陛下ってグランベルで1番偉い人だよね。何でも叶えてくれるのかな。うーーん、困ったな)

 

デューが困っている理由は、希望があるのだが言っていいかが分からない。しかし・・・・

 

「もし、クルト王子が姉御を狙っているなら、陛下の力で破談にできないかな?」

 

デューは希望を言った。

 

(アルヴィスには嘘はつけないな。まあダメって言われたら別のお願いをしよう)

 

視点変更(アルヴィス)

 

「もし、クルト王子が姉御を狙っているなら、陛下の力で破談にできないかな?」

 

デューは希望を言った。

 

「それがデューの望みかい?それともブリギッド殿が言っていたのかい?」

 

アルヴィスは訊ねる。

 

(デューがこんなことを言うなんて珍しい。異性への興味がある意味欠落しているからね)

 

アルヴィスはデューがブリギッドのため、褒美を使おうとしていることに多少の驚きを隠せない。

 

「姉御が言ったわけじゃないよ。おいらにもよく分かんない。でも陛下なら色ボケ王子を抑えられるんじゃないかと思って」

 

発言したデューも戸惑いながら答える。

 

「わかった。そのことについて褒美とは別に私から陛下に確認してみよう。確実な情報ではないからね。私としてはデューが欲しいものを言ってほしい」

 

アルヴィスは再度デューに訊ねる。

 

「・・・・・・アルヴィス、ありがとう。それなら剣が欲しいかな。これからみんなを守っていくのに強い剣が欲しい!!!」

 

デューは強い視線をアルヴィスに向けた。

 

(デューは本当に変わったな。それにしてもデューもブリギッドに興味を持っているようだ。嬉しい限りだな)

 

アルヴィスはデューが過去に起こった出来事について当然知っている。初めて会ったときの警戒心は凄まじいものだった。特に身分の高い人に対する不信は大きく、デューとこの関係を作るのも平坦ではなかったからだ。

 

(ただデューも戸惑っているようだ。ここは暖かく見守ることにしよう)

 

アルヴィスはデューが恋愛感情は抜きにして、ブリギッドと仲良くなってくれることを望んでいる。今まで自分以外では、アゼルにしか心を開かなかったからだ。レックスやティルテュ、エスニャとの関係はアゼルあってのものが大きい。

 

(デュー自身が他人を助けたいと思う感情はとても大切だ。護衛をお願いしてよかった)

 

「デュー、了解したよ。近いうちに陛下にお会いする。できれば君も来てほしいがダメかな?」

 

「アルヴィスのお願いをおいらは断らないよ。わかった、ありがとう」

 

デューは年相応のあどけなさを見せた。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。

アズムール国王陛下からのご褒美についてのお話でした。

アルヴィスは嘘が嫌いなため、(クルト王子の嘘が原因)デューはアルヴィスに嘘をつきません。ブリギッドとの会話もその時抱いた感情もそしてアズムールへのお願いも正直に話しました。

アルヴィスもデューに真摯に接します。

やっぱりメインの2人の会話は書いていてとても楽しいですね。

予定していた文字数をオーバーしてしまいました。(約4000文字)


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