それを如実に出させていただきました。
今回は視点変更が多いです。
多少混乱があるかもしれませんがご了承ください。
「殿下はその方のことが忘れられないのではないかとのことじゃ」
リングは全てを話し終えた。
ブリギッドは愕然としている。
(なによそれ・・・・。アルヴィスは10歳には両親がいなくなっていたってこと・・・・。いや問題はそこじゃない)
ブリギッドが問題としているのは、リングの話がクルトに同情的になっている点だ。
(父上はおかしいと思わないの!!!殿下がアルヴィスのお母さんに横恋慕したのが原因じゃない!!それでアルヴィスのお父さんは死んだのよ!!挙句にアルヴィスのお母さんは失踪してその人のことが忘れられないから結婚していない)
ブリギッドは怒りの感情を必死で抑えている。デューの話を聞いていなければ、目の前の父を罵倒していただろう。
(アルヴィスが殿下を憎んでいる原因は間違いなくこのことね。でも何で殿下の行動が美談になっているの?わけがわかんないわ)
ブリギッドは落ち着きを取り戻すと
「そのようなことがあったのですか。アルヴィス卿はお辛かったのではありませんか?いきなり両親を無くされて」
「そうじゃ。僅か7歳で当主となったのだが、そこから実績を積まれて今や陛下の信頼も厚い。殿下もアルヴィス卿は何かと気にかけておられた」
リングはそう言って軽く胸を張る。
その姿を見たブリギッドは
(父上に殿下を責めるような気配は全くない。話にならないね。まあ私の腹も決まったよ)
「殿下も痛ましいですね。それであればなおのこと私では殿下をお支えすることは難しいです。縁談の話は無かったことにしてもらえますか」
ブリギッドはそう言って締めくくろうとする。
「おいおい、簡単に言わないでくれるか。断るにも理由が必要だ。」
リングは慌てた口調でブリギッドを引き留めようとする。
(ああもう!!さっさと終わらせたいのね。こういえばどう返す父上!!)
「そうですね。娘にはすでに気になる相手がいるので、もし殿下との縁談が決まればその者が自殺してしまうかもしれませんと言ってください」
ブリギッドは強い目線をリングに向け言い放つ。
「・・・・・・!!!!!!!!」
リングは驚愕の表情を見せる。
「そうなればアルヴィス卿の父上の二の舞ですね。そんな愚かな選択をされる殿下ではないと思います。断る理由としては完璧ですね」
ブリギッドはそう吐き捨てると部屋をあとにした。
リングはブリギッドの言葉に愕然とした表情をしている。
視点変更(リング)
「そうなればアルヴィス卿の父上の二の舞ですね。そんな愚かな選択をされる殿下ではないと思います。断る理由としては完璧ですね」
ブリギッドはそう吐き捨てると部屋をあとにした。
リングはブリギッドの言葉に愕然とした表情をしている。
(ブリギッドはどうしたのだ。なぜ怒っている)
リングはブリギッドの言葉を思い返していた。
(・・・・そうか・・・ブリギッドは殿下に対して怒りを抱いているのか。確かにアルヴィス卿は気の毒であった。しかしシギュン殿に対してはヴィクトル殿の態度が問題だった。殿下はそれを助けただけで落ち度はない)
リングはブリギッドが怒った理由を把握できたが、クルトの行動の引き金はヴィクトルのせいとの考えだ。シギュンの失踪もクルトのせいではない。あくまで偶発的になったもの、そう結論付けた。
(ブリギッドは勘違いしておる。まあ今回に関しては縁談を断る理由として使うとしよう)
無論、ブリギッドの怒りの発言を使うつもりはないが、やはりブリギッドとの相性は悪いだろう。この縁談を断ることに決めた。
部屋に戻ったブリギッドは怒りを抑え込みこれからのことを考える。
(これが貴族なのかな。よくわかんないね。父上は殿下が悪くないと思っている)
ブリギッドはリングに軽く失望している。そしてアルヴィスがクルトを憎んでいることに全く気付いていない。
(アルヴィスは父上を信頼していない。エーディンの縁談を断り続けた理由の一つかもしれないね)
エーディン自身のこともあっただろうが、アルヴィスもブリギッドのようにリングに失望している可能性も高い。
(そういった意味ではアタシだけアルヴィスに見限られていないってことだろうね。デューの話を聞いておいてよかったわ。さて今後はどうしたものか)
ブリギッドは途方に暮れている。身内に相談相手がいない。
(アンドレイはもちろん、エーディンやシグルドに言ったりしたらアルヴィスのところに乗り込みかねないね)
そもそも言うわけにもいかない。デューとの約束でもあるし
(ふう。仕方ない、敵の巣窟に乗り込んで様子を見るしかないね)
ブリギッドは祝言のタイミングで内情を探り、状況を見極めることに決めた。
時をさかのぼる
デューはブリギッドと別れて帰り道を1人歩いていた。
(何で姉御に話しちゃったんだろう?別に姉御が誰と結婚しようがおいらには関係ないのに)
デューは自身の行動に戸惑いを覚えている。
(おいらも姉御と色々と話をしたし、楽しかった。最近ここまで踏み込んで話したことなかったな)
戸惑いを感じながらも帰りの足取りは軽い。
(まあいいか。さてこれからどうしたものかな?アルヴィスはエスニャとグランベルを出ていくし、流石においらがついていくわけにはいかないしね)
デューはアルヴィスに大切な人が出来たことは本当に良かったと思っている。エスニャは感謝しかない。しかし・・・・
(エスニャから凄いライバル心を燃やされているみたいだな。おいらにアルヴィスを取られると思っている・・・・)
デューはエスニャが抱いている対抗心は全く持ち合わせていない。むしろそんなエスニャを微笑ましいと感じていた。
(エスニャにしてみれば長年の想いを実現できたわけだしね。正直羨ましいよ。おいらにはない感情だ)
少し表情がこわばる。
(おっと、昔のことは忘れよ。まあ、アゼルとティルテュが心配だし、そっちに関わることになるかな。レックスもいるし、やることはまだまだ沢山あるね)
デューは自分の使命が果たせていないことを認識して気を引き締めなおした。
(姉御も会いに来てくれるみたいだから、それを楽しみにしておこう)
デューは気持ちの整理をつけるとさらに足取りを早くしていった。
ヴェルトマー城に到着したアルヴィスは休息後、レックスと会うことになった。
エスニャはティルテュとともに一旦フリージ家に戻っている。これからのことを家族で話し合う必要があるからだ。
アゼルは慣れない仕事に疲れたようで自室で眠りについている。
アルヴィスは客間にてレックスを待っていた。
(エスニャにまた無理をさせてしまっただろうか、疲労がたまってなければいいが・・・)
いなくなった最愛の人への心配の種がつきない
(やっぱりグランベルを離れてとなると・・・・エスニャには酷だろうか。しかし・・・・・・)
と思案しているとドアの向こうから声がした。
「アルヴィス様、レックス様をお連れしました」
「ああ。入ってもらってくれ」
アルヴィスが返事をする。
ドアが開くと・・・・・・・
「アルヴィス卿、結婚おめでとう」
レックスがアルヴィスの顔を見るなり、お礼の言葉を紡ぐ。
「レックス殿、ありがとう。ははは、まさか私も結婚することになるとはね・・・・」
「女ってのはアンタが思っている以上に怖いぜ」
「全くだ。今回の縁談を繋げてくれたティルテュには頭が上がらんよ」
2人に笑顔は絶えない。
「それはそうとこちらのお願いも受けてくれたそうだね。君がいてくれればアゼルも心強い。感謝する」
アルヴィスはそう言うと両手でレックスの右手を取り、頭を深々と下げた。
自分の手を取って頭を下げるアルヴィスを見たレックスは・・・・
(こういったことが出来るのがアルヴィスの凄いところだな。親父や兄貴も見習ってほしいよ)
レックスは心の中で呟く。
「いいってことよ。その見返りは貰っているんでね。いいから頭を上げてくれ。調子が狂っちまう」
レックスは笑顔で返した。
「ああ、すまない。これでヴェルトマー家も安心だと思うとホッとしてしまった」
アルヴィスは安堵の表情を見せた。
(何かこの人は調子が狂うな。よほど俺を信頼してくれているのは嬉しいが・・・)
レックスにとってアルヴィスはアゼルがコンプレックスを抱いていたことも知っており、近寄りがたく冷たい人との認識を持っていた。それが・・
(責任感の塊で凄まじい憎しみを隠していた人だったんだな。それにしても・・)
「アルヴィス卿、どうして俺なんだ」
レックスは思わず声に出してしまった。
ブリギッドの腹も決まり、アルヴィスの心境がある程度理解できました。
リング卿は自分の都合のいいように考える人が私のイメージです。
アルヴィスはリングを信用していません。だから秘密を話しません。
別視点から主人公の心境を見える化する形をとりました。
デューの今後についても語られています。心境の変化をつけました。
アルヴィスの隣にいる人が決まっている以上野暮なことをする子ではありません。
このあたりはエスニャの見解と違います。
そしてアルヴィスにも迷いがあります。
次話はレックスとの話になります。