ヴェルトマー家とフリージ家のカップリング(笑)問題は大きな波紋を広げています。
ドズル家も絡んでおり、対応が難しくなっていますので、リングとすれば頭をかかえますね。
リングの評価は私としては良くはありません。
防衛の経験が恐らくないであろうエーディンを城主として残してしまっている時点で、ヴェルダンに対する警戒がなさすぎると思います。せめてシアルフィ家と連携準備をしていれば、落とされる可能性は少なかったと考えます。イザークとの同盟が破棄された時点で、ヴェルダンの動向は事前に調べておくべきことでした。と大人になると色々考えてしまいますね。
「ふう・・・・・・・・・・」
自室にてリングはため息をつく。ここ最近内部の動きが活発になっており、疲れが積み重なっていた。
(まさかアルヴィス卿がフリージ家のご息女エスニャ殿と結婚するとは想定外だった。)
その疲れの原因の1つが、ヴェルトマー家とフリージ家が密接につながったことだ。
(こちらとしては、ブリギッドとの縁談を進めていきたかったが、水面下でレプトール卿が動いていたのだろうか?)
元々フリージ家の姉妹は、頻繁にヴェルトマー家へ出向いていた。ドズル家のレックスとヴェルトマー家のアゼル、フリージ家のティルテュはお互いの環境のせいか、とても仲が良いことも知っていた。
(アゼル殿とティルテュ殿の婚姻も同時に決まった。この縁談はお互い仲が良かったし重要ではないが、アルヴィス卿とエスニャ殿がそこまでの仲だったとは正直思えん)
リングはアルヴィスの縁談が政略結婚であることを疑わない理由がなかった。2人の年齢差もあるが、アルヴィスに全くそう言った噂が無かったからだ。
(アンドレイも全く気付いていなかったし、過去にはエーディンとの縁談も何度も断られていたから、失礼ながら女性に興味がないと思ったほどだ)
アルヴィスが護衛として、デューという幼き少年を可愛がっていることも拍車をかけてしまい、そのようにリングが疑うのも無理はない状態だった。
(幸いエーディンは良き人に恵まれたし、シアルフィ家と繋がりが持てたことも大きい。これから殿下を支えていくのにアルヴィス卿には協力願いたかったが・・)
リングはこれからのことを思案していると・・・
「閣下、よろしいでしょうか?」
ドアの向こうから声がかかった。
「どうした。何かあったか?」
リングはドアの向こうの兵に声をかける。
「ブリギッドお嬢様がお戻りになられました。」
「ふう、ようやく帰ってきよったか。どうしている?」
「はっ。閣下にお伝えしたいことがあるとおっしゃっておられます。ヴェルトマー家のアルヴィス殿に偶然お会いになられたとのことでした」
(まさか悩みの種の首謀者と会っていたとは。ブリギッドから申し入れとは早急に確認せねば)
「なに!!わかった。娘を待たせておいてほしい。他に何か気づいたことはなかったか?」
「・・・・はい・・・えーーと・・・・・」
問われた兵は言いよどむ。
「遠慮はいらぬ。答えよ」
リングが促す。
「はい。いいことがあったのでしょうか?楽しそうな表情で帰ってまいりました」
「うん?喜んでおったのか?」
リングが訝しげに問い直す。
「はい。とても上機嫌でございました。ここにきてからあのようなお嬢様を見たことはありません」
(ほう。良き情報を得てきたか。それとも・)
リングは娘が待っている部屋へ急いで向かった。
「遅い!!姉上、心配しました。どこに行っておられたのですか?」
アンドレイは厳しい表情でブリギッドを詰める。
「遅くなったのは悪かったよ、アンドレイ。ちょっと話し込んじゃってね」
ブリギッドは少し申し訳なさげに答える。
2人は客間にて話をしている。ブリギッドがリングと話をするためだ。1人で待っていると弟のアンドレイが部屋に勢いよく入るなり、お説教が始まろうとしていた。
「せめて遠出をする際は護衛を連れて行ってください。何かあったら父上もエーディン姉上も悲しみます。」
アンドレイは追及を緩めない。
「そうだね。次からは気を付けるよ、約束する。本当にすまなかったね。アンドレイ、ありがとう。」
ブリギッドは素直に頭を下げた。
(今回はさすがに迷惑をかけちゃったから謝っておこう。アンドレイも過敏だけど確かにエーディンに心配かけたらだめだね。)
「帰りはお1人だったのですか?」
「いや、アルヴィス殿がデューを護衛につけてくれたよ」
「デュー殿が護衛に。それならば安心ですね。良かったです」
アンドレイはホッと息をついた。
「アンドレイはデューのことを知っているのかい?」
「ええ。アルヴィス殿が護衛を任せるぐらいですから当然知っています。当初は疑っていましたが・・・」
「まあ。そうだろうね。私も初めて会ったときは信じられなかった」
「かなり昔にアルヴィス殿がそっちのご趣味と疑ってしまい、そのことを彼に言った瞬間・・」
(やっぱりアンドレイでもそんな風に疑うんだ)
アンドレイは言いよどむ
「勝負を挑まれたのかい?」
ブリギッドが先回りに正解を言うと・・・
「・・・はい・・・・・瞬殺されました」
アンドレイは無表情で答えた。
「私と話しているときも全く隙を見せなかったし、気配を絶つのも上手い。敵に回したくないね」
ブリギッドが評すると・・・・
「剣の腕はそこいらのソードファイターでは太刀打ちできない。さらに太陽剣の使い手です」
アンドレイも返す。
「戦い慣れしているみたいだね。それにアルヴィスとアゼルへ忠誠は本物だよ。これからはティルテュもエスニャも命がけで守るって言っていたわ」
(アンドレイもデューについては相当警戒している。実際にやられているから余計だね)
「それはそうとアンドレイ・・・・・」
ブリギッドは声を低くして訊ねる。
「姉上?・・・・・・・・・」
アンドレイはブリギッドの変化に戸惑う。
「アタシとアルヴィスを結婚させようって動いていたって話なんだけど・・・」
氷点下にまでの口調でブリギットはアンドレイを射抜いた。
「・・・・・正直姉上に釣り合うお相手が・・・アルヴィス殿しかいないので・・・あわよくばと・」
アンドレイは一瞬凍り付くものの声を絞り出す。
「・・・・どういう意味かしら・・・・」
一転優しい口調でアンドレイに訊ねる。
「イチイバルをお持ちの凄腕の狩人に勝てる男となると・・・すみません。出過ぎたことを致しました」
アンドレイは素直に謝った。
(アンドレイもかい!!!全くもう!!)
ブリギッドは心の中で憤慨する。
「アルヴィスにも同じことを言われたよ。全く、ハードルが高いだの何なのって。アンドレイ、次からは勝手にしないようにね」
ブリギッドはため息をつきながら話す。
「承知しましたが、姉上もそろそろ・・・」
「その前にアンドレイが先じゃないのかい。次期当主だろ。いい人はいないのかい?」
アンドレイの追撃を食い止めて反撃する。
「・・・・・そうですね。この件はやめにしましょう。そろそろ父上がおいでになる」
(アンドレイ、逃げたわね。本当に都合が悪くなるとこうなんだから。まあいいわ。私もあまり突っ込まれたくないからね)
「ブリギッド、待たせたようだね」
リングが部屋に入ってきた。
「ブリギッド、待たせたようだね」
リングはブリギッドに声をかける。
「父上、ただいま戻りました。」
ブリギッドは席を立ってリングに挨拶を返す。
「父上、私も同席させていただいてもよろしいでしょうか?」
アンドレイも席を立って確認する。
「ああ。アンドレイの意見も聞かせてほしい」
リングは答えた。
「ブリギッド。アルヴィス卿と会われたようだね。」
リングは訊ねる。
「はい。カザール父上の様子を見に行った際に偶然アルヴィス卿とエスニャ様がご一緒でした」
ブリギッドは答えた。
「そうか。2人の様子はどのような感じであったか?」
「とても仲睦まじい姿を見せつけられました」
ブリギッドはそう言うと肩をすくめた。
「なんじゃと?それは意外であったな」
リングは驚きの表情を見せた。
「私もびっくりです。まさかアルヴィス卿がエスニャ殿と結婚されるとは・・・・・。」
アンドレイも同様に驚きを隠せない。
「エスニャ様はずっとアルヴィス卿を慕っていたそうです。今回の縁談はティルテュ様が後押ししてくださったとか」
「なるほど。よく姉妹でヴェルトマー家に行っておったからな。まあ、アルヴィス卿を好きになっておってもおかしくない」
リングは納得の表情を浮かべた。
(ふうむ。政略結婚ではなかったということか。エーディンとの縁談は色んな理由をつけて断っておったし、意中の相手がいたのであれば仕方ない)
「弟のアゼル殿とティルテュ殿は仲が良かったと聞いていましたが、アルヴィス卿とエスニャ殿との噂が全くなかったのは不思議です」
アンドレイは言いながら首をかしげる。
(たしかにそうじゃ。エーディンを断るなら、意中の相手がいると言えばよかっただろうに)
アンドレイの言葉にリングも心の中で同意する。
「政略結婚について半分は当たっていると言っていました。ティルテュ様がいなければこの縁談はなかったそうです」
ブリギッドは2人の疑問に答える。
「ティルテュ殿はどのような形で2人を繋げたのじゃ」
「それは当家の秘密のためお話してはくれませんでした。ただ断れないお願いだったと・・・・」
「当家の秘密とはヴェルトマー家の秘密ということか?」
「はい、アルヴィス卿はもちろんエスニャ様も話してはくれませんでした」
(当家の秘密?この縁談経緯が?うーーん。)
リングは複雑な表情を見せる。
「2人の馴れ初めや経緯が秘密とは何か変ですね」
アンドレイは言いながらまた首をかしげる。
「姉上、デュー殿からは何か聞き出せませんでしたか?」
アンドレイは訊ねる。
「あの子がアルヴィス卿の秘密を吐くわけないでしょう。私も聞いていないわ」
ブリギッドは即答した。
(デュー殿?彼と一緒だったのか。アルヴィス卿の差し金か?)
「ブリギッド、デュー殿はなぜ一緒だったのかな?」
リングは訊ねる。
「はい、アルヴィス殿が護衛につけてくれました。・・・・・そう言えば」
ブリギッドは答えながら思い出したかのように
「彼は私と二人の話が終わった後に来たのですが、アルヴィス卿から大事な任務を受けていたようで、その報告を私の目の前でしておりました」
「ほう?どういったやり取りであったか?」
「誰かに協力を依頼していた案件が上手くいったと話していました」
(デュー殿にわざわざ直接報告させるとなると確かに重要な話のようだが・・・)
リングが思案していると
「確かランゴバルト卿がアゼル殿とティルテュ殿のお祝いにレックス殿を遣わしたと部下から報告がありました。それは関係ありますか?」
アンドレイが答えた。
「何?アンドレイ、それはアルヴィス卿の方ではないのか?」
(変ではないか。本来はアルヴィス卿の婚姻が重要のはず。どうしてアゼル殿の方が先なのだ)
リングは困惑を隠せない。
「いいえ。レックス殿の部下の1人と私の部下が知己であり、そこからの情報なので間違いないかと」
アンドレイはキッパリと告げる。
「ランゴバルト卿の今回の動きは全く不可解だな。お祝いの優先順位もそうだがレックス殿を使ったこともな。」
リングは厳しい表情を見せる。
「しかし父上、アゼル殿とレックス殿は親友同士です。ランゴバルト卿はそれを知って・・・」
アンドレイは納得できる話をするが・・・・
「あの男がそんな情でレックス殿を遣わすものか。別に理由があるに決まっておる。」
(アンドレイは若いな。あの男はそんな関係性などなんとも思っておらん。とは言ってもこのまま捨ておくわけにもいかんな)
「父上、よろしければ私がヴェルトマー家の内情を探りましょうか?」
ずっと話を聞いていたブリギッドがここで口を開いた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
「イチイバルをお持ちの凄腕の狩人」はいいですね(笑)
アンドレイはゲームにおいて裏切者ですが、いい悪いは別にして重要な役割を果たしていますので、今回は優秀な人物の位置づけにしています。
逆にリング卿は「いい人」で視野が狭い人物の位置づけです。
だからゲームでは信用していたヴェルダンに城を奪われ、疑いもしなかったアンドレイに裏切られたのですからそういう位置づけになってしまいますね。