デューは結局秘密を話すことにしました。
お互いに踏み込んだ展開になります。
「わかったよ、姉御を狙っているのはクルト王子だよ。」
デューは真剣な表情でブリギットに告げる。
(殿下が私を?どんな冗談だい?デューは嘘を言わない子だから間違いないけど)
「姉御は自分の状況を把握したほうがいいよ。縁談引く手あまたの年ごろの美人だよ。そして貴族社会の染まっていない。悪く言えば、世間知らずとも言える」
デューは容赦なく切り込む。
「なるほど私を手籠めにするのは、簡単と思っているってことかい?」
「言い方はともかく、ユングヴィ家からすれば、これほどいい話はないからね。他の公爵家は縁談が決まっていっているけど、肝心のクルト王子はまだ結婚していないし」
(確かに男性陣はアルヴィス、アゼル、シグルド、女性陣はエーディン、ティルテュ、エスニャの縁談が立て続けに決まったからね)
「なるほどね。私ならユングヴィ家の長女で殿下とは釣り合うけど、貴族社会のしきたりを知らない私は不利じゃないの?」
ブリギットは疑問をデューに投げかける。
「じゃあ姉御の結婚相手に他の公爵家で釣り合う人いるかな?」
デューはブリギッドに質問を投げ返す。
「・・・・・・・・・・いないね・・・」
「公爵家で言えばエッダ家のクロード・・・。後はドズル家のレックスが候補に挙がるけど」
デューはいくつか候補を挙げる。
(クロード様とはお会いしたけど・・・・。レックス様はドズル家でユングウィ家とは疎遠だしね)
「アグストリアはエーディンがシャガール殿下の不興を買っているから無理でしょ。その他の国とはそこまで仲良くないしね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
デューの指摘にブリギッドは黙り込んだ。
「クルト王子が仕掛けてくるかどうかは分からないけど、一応覚悟はしておいた方がいいよ。だだ・・・・」
デューは続ける。
「ブリギッドがクルト王子に対してどう思っているかは分からないし、人の気持ちは変わるものだからこれ以上は何とも言えないね」
(殿下か・・・・。まだ1、2回しか会っていないし、好きか嫌いかの判断はつかないね)
「デュー、わかった。一応覚悟しておく」
「困ったことがあったら、相談に乗るからいつでも言ってね」
「あら、私がお願いしたらいつでも会ってくれるんだ。嬉しいじゃないか」
ブリギッドはふふふと笑う。
「下らないことで呼び出したら怒るからね」
デューはあさっての方を向いて答える。
「じゃあ早速相談に乗ってもらおうかな」
「いきなりだね。っておいらが聞くのかい?」
「あらさっき相談に乗るって言ったじゃないか」
「それはアルヴィスのことだよって言ったつもりだったんだけど・・・・・・・。で何?」
(ふふふ、この子面白いわね。さてどんな質問をしようかな)
困った表情のデューを見て、ブリギッドはこの状況を楽しんでいた。
ブリギッドは相談とは言ったが、内容はデューについてのことだった。デューがアルヴィスに仕えるきっかけや貴族社会に入ってどうだった?などだ。
最初デューはつまらなそうに答えるが・・・・
「それじゃアルヴィスはアンタにとって恩人ってわけだね。そしてアゼルとは親友同士か。いい人に巡り合えたね」
「そうだね。本当にアルヴィスに感謝しているよ。アゼルもおいらに対して普通に接してくれて嬉しかった」
と二人の話になると、とたんに表情を綻ばせた。
(やっぱりこういうところは子供だね。でも・・・)
歩きながら話していても、デューには全く隙がなかった。
(本当に恐ろしい子だね。警戒心が強い。アタシに対しても完全に心を許していないね。アルヴィスに出会う前に色々あったようだね)
「デュー、色々と教えてくれてありがとう。私と同じ境遇の人はいないから助かるわ」
「おいらの話をしただけだけどいいの?」
「ええ。いい話を聞かせてもらったわ。また話をしてもらっていい?」
「いいよ。おいらの話でよければね」
デューの表情も柔らかくなっている。
「デューは困っていることとかないの?お姉さんが相談に乗ってあげようか?」
ブリギッドは少し胸を張ってデューに問いかける。
デューは少し考える表情を見せた後
「相談ってほどじゃないけど、姉御は恋をしたことはある?」
(え!いきなりなんだい。恋バナかい?)
ブリギットは驚きの表情を見せる。
「え!!!いきなり何だい。好きな人でもいるのかい?」
「違うよ。おいらには分からないんだ。人に恋するってことがね。アゼルやティルテュから話を聞いていたけど理解できない。」
「どういったところがわからないの?」
「みんな嬉しそうに話をするんだ。その人と結ばれたわけでもないのにね。そこまで人に対して想いを持てていることが分からない。アゼルに至っては一度失恋して傷ついているでしょ」
(こりゃ重症だね。この子達観しすぎているわ。どうした境遇でこうなってしまうんだろうね)
ブリギッドは少々呆れながらも答える。
「私も経験はないけど、海賊やっていたときに話は聞いてあげていたよ。確かにみんな幸せそうだった。デューは経験ないの?恋とかじゃなくて気になる子がいたとか?」
「ないよ。相手から好意を一方的に寄せられて迷惑したことは沢山あるけどね」
デューは冷たい表情を見せる。
「あんまり話したくないことかい?」
ブリギッドはデューの表情の変化に戸惑う。
「まあ姉御なら別にいいけど、アルヴィスも知っているし、単純に押し倒されそうになった経験が何度もあるだけ。女だけじゃなく男からもね」
デューは事もなげに答えた。
「え・・・・・・・。今、男って言った?」
ブリギッドは言葉を失いかける。
「そうだよ。おいらはどうも同性からも好かれるみたい。実際、アルヴィスやアゼルとの関係もそういった形で誤解している人がいるみたいだね」
デューは呆れた表情を見せた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ブリギッドはそれ以上何も言うことは出来なかった。
(ふう。なるほどね。確かにデューは可愛らしい顔立ちしているからそういった人からも狙われたわけか)
「聞きにくい質問だけど、逃げ出せたのかい?」
「一応ね。まだ男の方がマシかな。女はもっと怖いよ。清楚な感じのご婦人やお嬢様が途端に獣になったから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(これが人間不信の原因だね。しかも何度もそんな経験していたら、愛や恋なんか信じられないだろうね)
「そんな状態でよくアルヴィスを信用したね。同じ人種と思わなかったのかい?」
ブリギッドは疑問を投げかける。
「最初は思ったけど、アルヴィスは他の貴族とは違っていたんだよ」
デューは先を続けようとしたが・・・・・
「お迎えが来たみたいだね」
デューはブリギッドの後ろに目を凝らした。
ブリギッドも後ろを向くと遠くに騎兵の姿が見えた。確認した後、デューに向き直る。
「デュー、その話もっと聞きたいね。ダメかい?」
「姉御なら構わないよ。アルヴィスには伝えておくけどいいよね?」
「全然。そっちの方が助かるから」
ブリギッドが答えるとデューは少し考え込む仕草を見せる。そして・・・・
「わかったよ。・・・・・・・・・・姉御」
「何?」
「今から話すことはユングヴィ家の人には言わないで。近いうちにヴェルトマー家の当主はアゼルになるよ。理由はアルヴィスがクルト王子を憎んでいるから。王子が王位を継いだら、アルヴィスはグランベルを出ていく」
「!!!!!!!・・・・・・・・・・・」
ブリギッドは驚愕の表情をみせた。
「おいらの判断でこのことは話していいとアルヴィスから許可は貰っている。姉御なら話していいと思った。クルト王子には気を付けて。詳しい話はその時にするから。」
(とんでもない話になっているね。なるほど、今回の婚姻はそれが理由か。でもあまりにも突拍子過ぎているね。念のため・・・・・)
「いいのかい。そんな話をしても。アタシがもし・・・・」
ブリギッドがそこまで言いかけると・・・・・
「・・・・・もしそうなったら姉御はおいらの敵だ。全力で叩き潰すから覚悟しておいてね・・」
デューは飄々とした態度でブリギットを見た。いつもどおりに見えるが、目は全く笑っていない。
その姿を見たブリギッドは・・・・・
(これは敵に回したら勝てないね。デューは本気だわ。でもね・・・・・・・)
「ふふふ冗談よ。本当にアルヴィスが好きなんだね。さっきの話の続きを聞きたいから、他の誰にも言わないよ。約束する」
そう言うとブリギッドはデューのそばに駆け寄り
「アンタ、相当いい男だね。気に入ったよ」
最高の笑顔をデューに向けた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
デューはシグルド軍の中でも特殊な存在です。
過去もそれなりの経験もしていると考えました。
今回はそれがブリギッドと急接近になるきっかけになりました。
ブリギッドからすればデューは可愛い年下の男の子で、構いたくなる姉御肌な感じでいいのではないでしょうか?もちろんデューが強いことも知った上でですが・・。