平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

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史実通り父のヴィクトルは自殺しました。
このあたりのやり取りは完全に創作しています。


2.悲劇(少年期7歳)

父ヴィクトルは史実通り自殺した。

 

しかし史実と違う点がある。

それは1番早く見つけたのが自分であることだ。

 

(どう考えても止められなかった。下手に動けば巻き沿いを食っていた可能性が高い。しかし・・・)

 

母シギュンは死んでいる父を見つけた私を抱きかかえ、別の部屋行くとその場で抱きしめてくれた。母は泣いていた。私も涙が止まらなかった。

 

(こうなるのは分かっていた。やっぱり父親だったのだな。涙が止まらない!!)

 

近衛兵が部屋を調べた限り事件性はなく、自殺の可能性が高いとのこと。遺書も史実通り存在した。

 

「シギュン!!」

 

声が聞こえた。

 

「クルト殿下!!」

 

シギュンが返事をする。

 

クルト王子は寝間着のまま肩で息をしていた。

かなり慌てていたのだろう。

そのままシギュンの下に歩み寄る。

 

「大丈夫か?」

 

クルト王子が声をかける。

 

「私は大丈夫です。しかしアルヴィスが・・・」

 

そう言ってシギュンは声を詰まらせる。

 

「話は聞いた。アルヴィス。君が1番最初に見たんだね。大丈夫か?」

 

「はい。少し落ち着きました。ありがとうございます」

 

アルヴィスははっきりとした口調で答えた。

 

「父上は手紙を残しておりました」

 

「何!そうなのか」

 

クルト王子はすぐ近衛兵のところへ向かった。

 

「わたしも様子を見てくるから少し待っていてくれる?」

 

そう言ってシギュンも亡くなった父の部屋に向かった。

 

少しするとクルト王子は手紙のようなものを持ってこちらに戻ってきた。非常に青ざめた表情を見せている。一緒にいるシギュンも同様だ。

 

(クルト王子はどう私に質問してくるか)

 

アルヴィスはじっとクルト王子を見つめる。

 

遺書の内容はなかなか壮絶なものだった。個人の名誉にかかわるので、口外はする気もない。しかし・・・・・・。

 

「・・・アルヴィスはこの手紙を読んだのか」

 

クルト王子がおそるおそる尋ねる。

 

(ストレートに聞いてきたか。まあそうだろうな)

 

「父の字は難しすぎて判読できませんでした。クルト殿下、父の自殺の理由は何なのですか?」

 

クルト王子はそれを聞くとホッとした表情を見せる。シギュンも同様に安堵していた。

 

(子供にあの文面を判読されていたら最悪だよな。父さんよほどクルト王子を憎んでいたようだね。私も同じ立場だったら許せないよ)

 

「ヴィクトル卿は病を抱えていたようだ。最近体調も優れなかっただろう。その苦しい心の内が書かれている。大変悩んでいたようだ」

 

クルト王子は答える。

 

(うわ!!最悪な答えだ。マジかよ。思いっきり噓八百を並べ立てるな)

 

「そうですか・・・・・」

 

アルヴィスはそうつぶやいた。

 

「アルヴィス、いやアルヴィス卿!!」

 

「・・・・はい!!」

 

「ただいまをもってヴェルトマー家当主は君だ。これから大変だと思う。しかし今日は休め!!これは命令だ」

 

「・・・・承知いたしました」

 

「シギュン。彼のそばにいてやってほしい」

 

「いえ母上、今日は1人にさせてもらえますか」

 

「しかし・・・・」

 

「明日からは立派な当主の姿を皆に見せねばなりません。これ以上甘えてしまっているようでは、この先の未来はありません」

 

「・・・・わかった」

「・・・・わかったわ」

二人同時に声をかけた。

 

「ただ1人であまり抱え込まないようにしてほしい。何かあれば遠慮なく頼ってくれ」

「まだあなたは子供です。いつでも甘えてくれていいのですよ」

二人が言葉を紡ぐ。

 

「クルト殿下、母上、ありがとうございます。それではお言葉に甘えて休ませていただきます。後のことは申し訳ございませんがよろしくお願いいたします」

 

アルヴィスはそう言って頭を下げて自室に戻った。

 

(ふざけやがって!!さっさともみ消したいだけだろうが!!無茶苦茶腹立つわ!!!)

 

あの場所に居座っていたら、間違いなくクルト王子に暴言を吐いていただろう。顔面をぶん殴る行為に及んでいたかもしれない。そうなればすべてが終わりだ。

 

(おそらく病死で片づけるだろうな。6公爵家の現当主がクルト王子に怨嗟の遺書を残して自殺なんてシャレにならんしね)

 

湧き上がる怒りを抑えつつ、これからのことを考える。

 

(このままいけば母上も失踪する。それにしてもこの2年間は大変だったな)

 

父ヴィクトルと母シギュンの関係は悪化の一途をたどる。ヴィクトルは多数の女性を囲うようになり、酒におぼれて侍女にも暴力を振るうようになった。

 

中には手を付けてしまった人もいる。母も耐えてはいたが、その中で唯一支えていたのがクルト王子だった。

 

(ここまでは予定通りの展開だな。しかし客観的に見ていくと情景が変わってくる)

 

父はなぜ母を信じられなくなっていたか?

母はなぜクルト王子を頼ったのか?

なぜ母とクルト王子の関係が美談として語られているのか?

 

(母とクルト王子の関係をほのめかす。父はそれを聞いて母を疑う。父の評判が落ちたところで失意の母をクルト王子が助ける。こんなストーリーを展開していたのだろう)

 

クルト王子はシギュンに横恋慕していた。それは私が3歳から4年間きっちり観察していたから間違いないだろう。

 

それが自分よりも凡庸な人物が妻としていることに納得できなかったのはないかと推測する。

 

父も他の公爵家よりも劣っていることを自覚しており、母のような絶世の美女を妻にしていることでその愛情が続くか不安だったことも拍車をかけてしまった。

 

そのことを察したクルト王子は直接的な行動を起こした。

 

(ここまではクルト王子の思惑通りに進んだが、この時点で3つの失敗を犯している)

 

1つ目はレプトールとランゴバルトの離反。

2つ目は父ヴィクトルの自殺

3つ目はこれから起こる母シギュンの失踪

 

まず1つ目の失敗

レプトールはフリージ家当主

ランゴバルトはドズル家当主

どちらも6公爵家にあたりこの2人は友好関係にある。

 

ヴィクトルとも懇意にしていたレプトールはこの事実をいち早く掴んだと思われる。

当然友好関係にあるランゴバルトには伝えただろう。

 

ゲームスタート時にこの2人は反王子派を掲げている。

理由はクルト王子が他の公爵家であるシアルフィ家を重用したとなっているが、本当の理由はこの件ではと考える。

 

次期国王が公爵家の正妻を略奪したのだ。

 

結果的に公爵家の当主が自殺してしまった。

 

こんな軽率な行動をとる人間を次期国王として仰ぎたいだろうか?

 

レプトール卿もランゴバルト卿も自分の妻がそんなことになったら腸が煮えくり返る思いだろう。

 

付け加えるならばこの恋仲が美談として伝えられている。

 

納得できるものではないだろう。

 

当然その不満がクルト王子に出てしまうのは仕方ないことになる。

 

クルト王子も特定の家のみを重用する行動はそもそもトップの器ではない。

 

だからゲームでは寝首をかかれてしまう。

 

(ここまでゲームとは違う人物像にはびっくりしたね。だから現国王は息子になかなか王位を譲れなかった。父を失った私に対しても平気で嘘をつく。マジで主として仰げないことははっきりした)

 

次に2つ目の失敗

父ヴィクトルの自殺は想定外だったと思われる。さらに遺書を残してまでとは考えていなかったようだ。

 

(それにしても父の書斎で本を読んでいるし、毎日の勉強を欠かさない私があの文面を判読できないと思っているあたり、冷静さを欠いているな)

 

最後に3つ目の失敗

クルト王子はこれでシギュンを自分の物に出来たわけだが、状況的に苦しい。

 

まず喪があけるまではいきなり婚姻とはいかない。

 

シギュンには貴族の後ろ盾がなく孤立を深める。ヴィクトルを死に追いやった形となったクルト王子にも厳しい視線が向けられることになるだろう。

 

とどめは私の存在だ。

シギュンの再婚となれば私がクルト王子の義理の息子となる。

 

ヴェルトマー家当主となった私との姻戚関係は6公爵家のバランスを著しく狂わせてしまう。

 

仮にシギュンがクルト王子との間に男の子を授かった場合、当然跡継ぎの問題が勃発するだろう。

 

(授かるのは女の子なのは知っているが、改めて考えると怖いわな)

 

シギュンは当然耐えられないわけだ。実の息子を捨ててでも失踪するところまで追いつめられる。

 

(ただ母上が失踪した理由はそれだけではないな。確証はないが、恐らくは・・・・・・)

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
色んなキャラクターをこれからどんどん登場させます。


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