ブリギッドをすでに保護していますので彼らにも一緒に来てもらいました(笑)
ブリギッドの育ての親の名前は創作です。
「おまえら、さぼるんじゃねーぞ。しっかり働けよ」
リーダー格の男の声が飛ぶ。
「分かっていますよ。それにしても海賊やってた俺たちが何でこうなったんだ」
リーダー格の男の声に反応して返事をする。
「そんなの知るかよ。あの変な貴族様が俺たち全員を領民にするっていうからついて来たんじゃねーか」
別の男も反応して返す
「それにしてもお頭の娘がとんでもない貴族令嬢だったとは驚きだぜ。」
「そのおかげで俺たちは国外追放で済んで、行くところないなら私の領地に来るか?ってマジか!と思ったもんな。普通海賊を領地に連れてくるか」
「待遇はいいし、兵士の実践訓練も手伝ったりしてさ。体もなまらないし、いいよなここは」
男たちの会話が盛り上がる。
彼らはオーガヒルの元海賊だ。アグストリアの北を根城にしていた。彼ら以外にも複数の海賊が覇権を争っていたのだが、1人の貴族の登場により一掃された。
この海賊たちのターゲットは軍や他の一般の船を狙う海賊たちで通行料を治めるものには手を出さなかった。さらにそのリーダーが船の事故により行方不明になっていたユングウィ家のブリギッド嬢の命を助け、育てて保護したことにより、国外追放で許されることになった。
国外追放がその貴族の口利きによるものであることはみんな知っている。
「しかしお嬢はちゃんとやっているんですかね。お頭、心配じゃねーんですか?」
「あいつを拾って育てると決めた時に覚悟はしていた。大きくなるにつれて明らかに俺たちと違っていたからな。なーに俺の娘だぞ。大丈夫だ。それにずっと探していた妹の喜びようといったらなかったぜ」
「お嬢に瓜二つでしたもんね。びっくりですぜ」
「全くだ。その妹は早々に嫁入りだってな。シグルドって兄ちゃんだったか。はたから見てもお似合いだったしな。」
「お嬢があの兄ちゃんの背中を押したんでしたっけ?」
「いいや、あれは蹴っ飛ばしたの方が正しいな」
リーダーの言葉に周りの面々にドッと笑い声が起こった。
「お嬢にもいい人が見つかるといいですね」
「あの変な貴族以外は許したい。そんな気分だ」
「ほう!その変な貴族とはだれか詳しく教えてほしいな」
別の所から声が聞こえてきた。
「!!!!!!!!!!!!!!」
驚愕の表情のまま男たちが一斉に声のした方へ顔を向ける。
少し時はさかのぼる
アルヴィスに寄り添いながら歩くエスニャは幸せを実感していた。
(こうしてアルヴィス様と歩ける日が来るなんて本当に夢みたい!)
足元が若干荒れているが、バランスを崩しかけてもアルヴィスがしっかりと支えてくれていた。
(こうやって支えてくれるとアルヴィス様がより近く感じられる。最初は大変だったけど今は当分歩いていたいな)
するとアルヴィスが歩みを止めた。
「アルヴィス様?どうかされましたか?」
アルヴィスは非常にいたずらっぽい表情を浮かべている。その視線の先を見ると新しい領民が話をしているようだ。しかし・・・・・・・・・
(あの人たちは何というか怖い顔した人たちばかり、何か話をしているわ)
そうすると話し声が聞こえてきた。
「そんなの知るかよ。あの変な貴族様が俺たち全員を領民にするっていうからついて来たんじゃねーか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスとエスニャは黙って聞いている。
(変な貴族様って・・・もしかして?)
エスニャはアルヴィスを見ようとしてやめた。
「エスニャ、遠慮しなくてもいいよ。わかっているから」
アルヴィスは元気のない声で答える。が・・・
エスニャはピシッと固まってしまい恐る恐るアルヴィスを見ると・・・・・・・
(あの人たち、かわいそうに、どんな目にあわされるかしら・・・・・・・・)
アルヴィスの表情を見たエスニャは心の底から彼らに同情した。
時は戻る
「お嬢にもいい人が見つかるといいですね」
「あの変な貴族以外は許したい。そんな気分だ」
「ほう!その変な貴族とはだれか詳しく教えてほしいな」
アルヴィスは彼らに声をかけた。
「!!!!!!!!!!!!!!」
驚愕の表情のまま男たちが一斉に声のした方へ顔を向ける。
「ブリギッド殿の父上、お元気かね?非常に興味深い話をしているようだ。私も混ぜてもらって構わんかね」
その言葉に全員が跪いて頭を垂れた。
「アルヴィス様、お久しぶりでございます。はい、この通り私はもちろん皆も元気に過ごしております」
リーダー格の男がさっきの話がないかのように丁寧な口調で礼節を取った。
「そうか。それは良かった。さてさっき話に出ていた変な貴族とは誰のことかな?」
アルヴィスは追及を緩めなかった。
「・・・・!!!!!」
リーダー格の男が固まる。それ以外の人間はさらに固まり動けない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お互いの沈黙が続いた。
「アルヴィス様、もういいのではありませんか。彼らの顔色が真っ青になっています。このまま倒れられても困るのでは?」
彼らは顔を上げるとその声をかけた人物を見つめた。
茶色がかった髪に紫の礼装を羽織った少女がアルヴィスに寄り添っている。
「アルヴィス様、そのお隣の方は?」
沈黙を破ってリーダー格の男が訊ねる。
「エスニャは優しいな。皆に紹介する。私の婚約者のエスニャだ。」
アルヴィスが紹介すると寄り添っていたエスニャはすっと横に立ち礼節を取る。
「フリージ家当主レプトールの娘、エスニャでございます。この度ヴェルトマー家当主アルヴィス様と婚約いたしました。以後良しなに」
エスニャの言葉に反応するように全員が再度頭を垂れた。
「ご丁寧なあいさつ恐れ入ります。私はここのリーダーを務めておりますカザールと申します。アルヴィス様この度はご婚約おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
カザールはそう言って深々と頭を下げると
「副リーダーのドバールです」
「同じくピサールです」
二人も深々と頭を下げた。
「デュー、出てきても構わないぞ」
アルヴィスが彼らの後ろ側に向けて声をかけた。
「・・・・!!!!!」
エスニャを除く全員がさっき以上に固まる。
「冗談だ。少しは肝が冷えたかな?」
アルヴィスは笑顔を見せる。
「アルヴィス様、俺たちを殺す気ですか?寿命が10年縮みましたぜ」
カザールが若干砕けた口調でアルヴィスを責める。
「なら軽口は聞こえないところでやってくれ。デューがいたらこんなもんじゃ済まないぞ」
「へいへい、気を付けますよ。それにしてもアルヴィス様が結婚されるとは思いませんでしたぜ。」
「それはどういう意味だ」
「アルヴィス様は他人を深く踏み込ませないところが見えたのですぜ。海賊やっていると色んな人種と関わるんでね。その壁を破られたその方も只者ではございませんね」
そう言うと穏やかな表情でエスニャを見る。
「えっ!!私はそんな大層なものでは・・・」
思いもよらない人物像に引き上げられたエスニャは思わず口走る。
「いいえ。謙遜はいけませんぜ。何せこの貴族様はかの有名な美人姉妹との婚姻計画を・・・・」
「親父!!何の話をしているんだい!!!!!!」
別の所から大きな声が聞こえた。
「げ!!!!!ブリギッド!なんでお前がここにいるんだ?」
カザールは思わず声の方に顔を向けて慌てたように言い返した。
そこには腰まで金髪を左右に揺らした女性が腰に手を当てて立っている。前髪が邪魔にならないよう布を頭に巻き、肩当て、胸当てをして、非常に歩きやすい服装だ。顔立ちはきりっとしていてかなりの美人で厳しい表情が凛々しさを際立たせている。
(綺麗な人、あの方がブリギッド様。本当にエーディン様と瓜二つだわ。)
エスニャは純粋にブリギッドの美しさにみとれている。
「ブリギッド殿、お久しぶりだ。また城を抜け出してきたのかね?」
アルヴィスがブリギッドに訊ねた。
「アルヴィス殿。私のことよりなぜアンタがここにいるんだい?」
「先ほど陛下に婚約の報告に行ってきてね。その帰りだよ。婚約者を彼らにも紹介したくてね」
「そういえば、アンタとアゼルも結婚が決まったんだってね。妹から聞いたよ」
ブリギッドはそう言うとアルヴィスの隣のエスニャに目線が向く。
エスニャはその視線を受けて礼節を取った。
「初めましてブリギッド様。フリージ家当主レプトールの娘、エスニャでございます。この度ヴェルトマー家当主アルヴィス様と婚約いたしました。以後良しなに」
エスニャの礼節を受けて
「こちらこそ、ユングヴィ家当主リンクの娘ブリギッドです。この度はご婚約おめでとうございます」
ブリギットもさっきの口調とは打って変わって丁寧に返した。しかし
「さて、親父。さっきの話の続きは何だい?」
カザールに対するブリギッドの追及は続いた。
「もう済んだことだから言ってもいいな。お前の弟がお前ら姉妹のどちらかをアルヴィス殿に嫁がせる計画を練っていたんだよ。今回の件で1番落ち込んでいるのはお前の弟だろうな」
カザールはいたずらっぽい表情を浮かべて答えた。
(え!!アンドレイ様がそんなことを?でも確かにアルヴィス様への心酔ぶりを考えるとあり得ない話ではないわね)
エスニャは思考をまとめて納得する。
「ああ。その話かい。全く・・・・アンドレイは」
ブリギッドはため息をついた。
「アルヴィス様はご存じだったのですか?」
エスニャは思わずアルヴィスに訊ねる。
「彼が水面下で何か企んでいたことは知っていたよ。しかし、受けるつもりは無かったがね」
アルヴィスは肩をすくめて返した。
「アタシも正直アンタは真っ平ごめんだったけどね。エーディンについても知っていたんだろ?」
ブリギッドはアルヴィスに訊ねる。
「シグルド殿のことだね。はたから見てもお似合いだったしね」
アルヴィスが答えると
「そうだったんですね。全く気付きませんでした」
エスニャも反応した。
「そうりゃそうだよ。あの二人はお互いがお互いの想いに気付いてなかったから、私が背中を押してあげてようやくだったからね」
ブリギッドはやや呆れた表情を見せる。
「背中を押したのではなく、蹴っ飛ばしたのではなかったのかな?」
アルヴィスがあさっての方を向きながら言うと
「何か言った?」
ブリギッドが反応した。
「いいえ。何も」
アルヴィスが素早く返した。
それを聞いた周りもドッと笑い声が聞こえる。
「ふう、こんな性格極悪の変人と結婚するなんてエスニャだっけ、アンタどれだけ聖人なの?」
ブリギッドはエスニャに訊ねる。
(私からすればアルヴィス様とブリギッド様は普通に会話されていて羨ましい。それにブリギッド様は綺麗で優しい人ね。アルヴィス様は何で断ったのかな?あ!いけない答えを返さないと)
「小さい時からアルヴィス様のことが好きでした。正直一緒になれるとは思ってもみなかった。でもお姉さまのおかげでこうして結ばれることができました。今はこうしていられてとても幸せです」
エスニャはそう言うとアルヴィス腕を取って密着した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
オーガヒルの海賊のリーダーの人物像は分かりませんが、彼が死んだ瞬間ほころびがおこったので、統率力の高い人物と位置付けました。ブリギッドとの関係もざっくばらんとしています。
海賊で人様に迷惑をかけていたわけですから、無罪放免とはせず、国外追放が妥当との判断です。ブリギッドは彼らのおかげで生きてこられたわけですから活躍の機会を入れればと考えています。
なおデューネタは17話の流れで入れました。彼らもデューの怖さを知っています。