6公爵家のバランスを取って、国を治めることがどれほど難しかったかと大人になってわかるようになりました。
実際アズムールがクルト王子の所業をどのように見ていたかはわかりません。私としてはこうあってほしかったとの想いをこの話では書かせていただいています。
ヴェルトマー家当主の自殺の原因を作っていますのでかなり「オオゴト」のはずです。
アルヴィスとエスニャの謁見が終わった後、アズムールは自室にて今後のことについて思案していた。
(とりあえずアルヴィスに良き伴侶が出来たことは喜ばねばならんな)
縁談についてクルト王子と同様に心配していたのはアルヴィスだった。自分の息子が起こした出来事はアルヴィスに大きな影を落としたことは想像に難くなかったし、浮いた噂が一つもなかった事実もアズムールを不安にさせた要因であった。
(奴め、恐らく自分が国を出ていくつもりであったがゆえに特定の異性を近づけておらなんだ。それを考えるとエスニャであったか、あの者はそうとうアルヴィスを好いていたのだな)
だが、エスニャも覚悟を決めている。国を捨てるアルヴィスについて行くことも了承している。アゼルが当主として統治できると判断すればアルヴィスは国を去ることになる。
(ワシが生きている間であれば引き留めは可能じゃ。しかしクルトには絶対に仕えたくない意思は固そうじゃな)
アズムールはアルヴィスに自分亡き後もこの国のために残ってほしいと切実に願っている。しかし息子の所業によって両親を失った憎しみがありながら、それまで自分に仕えてくれたアルヴィスの気持ちを考えると無理強いはしたくなかった。
(クルトの所業を世間に晒してアルヴィスに謝罪させるか?それはヴェルトマー家との衝突を招く恐れがある。さらにレプトールに余計な火種を与えかねんな。)
父親の立場からすれば、クルトに自分の行いを反省させて謝罪させたいところだが、アルヴィスはそれを望んでいない。それはもう遅すぎる。
(アルヴィスはすでにクルトを見限っておる。奴が過去の過ちを認めて反省したとしても無理じゃな)
そうなのだ。いつでも許しを請う場面はあった。ヴィクトルが自殺したとき、シギュンが失踪したときもだ。しかしクルトは認めるどころか・・・・
(話にならんな・・・・・。クルトに話せば余計にこじれそうになるわ)
クルトはプライドが高く、アルヴィスが見限ったとわかれば本格的な対立は避けられなくなる。アルヴィスはそれを知っているからこそアズムールに後を託したのだ。
(うーーーん。妙案が思いつかんな。相談するにも・・・)
こういった面倒ごとについての相談相手となるアルヴィスには当然頼れない。改めてアルヴィスの存在の大きさを認識する。
(ふう、少し疲れたわ。恐れていたことが起こってしまった以上ワシも腹を括らねばならん。安易な判断は国を滅ぼしかねん。まあ、少し様子をみるかの)
アズムールはアルヴィスがグランベルの滅びは望んでいないと直接聞くことができた。そして自分がいる間はいることも約束してくれている。ならば・・・
(ワシが頑張らねばならんな。クルトに娘がいることも分かったし、ロプト教団の動向によって状況が変わる可能性もある。それにアルヴィスもエスニャのおかげでだいぶ和らいでおるしの。子供でも授かれば考えが変わるかもしれん)
アズムールはふと考えが浮かぶ。
(最悪の状況は考えておくとならばいっそ、今のうちに試してみるのもありかもしれんな)
アズムールは思案をまとめ始めた。
アズムールとの謁見終了後、アルヴィスとエスニャはヴェルトマー家へ帰りの馬車を走らせていた。
隣にいるエスニャは緊張していたのか馬車に乗り込むなり眠りについている。
その姿を見て思わず顔がほころぶ。
(エスニャはかなり緊張していたようだ。しかし陛下にも困ったものだ。私とデューの関係の勘繰りはエスニャに刺激が強すぎたようだ)
あのあとエスニャがデューへの対抗意識がむき出しになっていた。アルヴィスにデューとの関係について追及されなかったが、気にはしているようだ。
エスニャの疲労はそれだけではない。アズムールがアルヴィスに問うたクルトと王家への復讐についてだ。本来あの質問を国王がした場合問われた側からすれば謀反の疑いをもたれていると同様だ。
しかしアルヴィスはアズムールの意図を理解したうえでそれが可能であると答えたのだ。
しかしそれが分からないエスニャからすれば卒倒してもおかしくないやり取りだろう。
(エスニャには今後も苦労をかけそうだ。正直陛下には出ていくと言ったものの・・・・・)
アルヴィスは国を出る意思を固めている。だからアゼルに当主を譲ったのだ。それなのに自分が残るのはヴェルトマー家にとって良くないのは分かっているからだ。しかし・・・・・。
(エスニャとの婚姻は想定外だった。しかし私はエスニャを愛している。結婚に後悔はない。だが私の我儘はエスニャを不幸にしてしまうのではないか?)
国を出るとは新しい場所で自分の身一つで生活をしていかなければならない。むろん、アルヴィスはその覚悟を決めている。しかしエスニャが耐えられるだろうか?その心配が付きまとっていた。
(エスニャはついてきてくれると言ってくれたが・・・・)
アルヴィスは思案する。が・・・
(今はやめておこう。まだ先の話だし、エスニャを不安にさせてもいけない。それに私はエスニャのことをこれから知っていかなければならんからな。)
アルヴィスはそう心の中で締めくくった。
(そうだ!あの者たちは元気にやっているだろうか?せっかくだから寄っていこうか。エスニャを紹介したい)
アルヴィスは御者に声をかけた。
エスニャは馬車に揺られながら少しずつ意識を取り戻す。
(いつの間にか寝てしまっていたのね。流石に陛下とアルヴィス様とのやり取りは疲れてしまったわ)
少し目を開くとずっと憧れ続けていた人がいる。
それは自分の夫となる人だ。すぐに寄り添いたかったが、ふと不安が自分に押し寄せてきた。
エスニャは思案する。ずっと思い続けていた人と結ばれることができた。しかし・・・・・・・。
(アルヴィス様の心の内も聞くことができた。今後どのような道を歩かれることがあっても私はついて行くと決めている。でも・・・・・・・・)
自分の存在がアルヴィスの足手まといになるのではないかとのことだ。そしてアルヴィスの決断を鈍らせてしまっているのではないかと感じている。
(私は殿下が犯した罪は許せない。アルヴィス様をここまで傷つけて苦しめて・・・。そしてそんな人に仕えたくないアルヴィス様の気持ちも分かるわ)
そこで一人の人物を思い出す。
(デュー様なら「国を出ていくんだ。わかった。おいらもアルヴィスについて行くね」ってあっさり言いそうね)
エスニャは笑みを浮かべる
(ふふふ。何を恐れているの?私は今、凄く幸せじゃないの。それを手放す?あり得ないわ!!)
(私の居場所はここよ。他の人には絶対に渡さないわ。不安があるなら相談すればいい。私は一人じゃない!!)
エスニャはまたもや意外な人物への対抗意識から不安を吹き飛ばすことができたのだった。
馬車が止まった。
(あれ?まだ到着まで先のはずだと思ったのだけど・・・・)
「もう着いたのですか?」
エスニャは目を開いてアルヴィスに訊ねる。
「エスニャ。起きたのかい?実は少し寄っていきたいところがあるんだ。一緒に行ってもらえるかな?」
エスニャにそのお誘いを断る理由など微塵もなかった。
馬車を降りると目の前は草原が広がっている。少し遠くに目をやると畑や家が見える。
「ここはどのあたりなのですか?」
エスニャが訊ねる。
「バーバラ家とヴェルトマー家のちょうど境目になるところだよ。この辺りは開拓ができていなかったんだ」
アルヴィスが答える。
「そういえばお父様が最近ヴェルトマー家の領民が増えた話をされておられましたが、あの方々ですか?」
「流石はレプトール卿、耳が早いね。その通りだよ。申し訳ないがここは道が整備できていないので馬車は通れないんだ。少し歩くよ」
「はい。大丈夫です。」
そう言うとアルヴィスの腕をとり自分の腕に絡ませそのまま寄り添った。
アルヴィスは多少驚いた表情を見せたがすぐにそれをほころばせた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
アルヴィスはグランベルを出ていく意思に揺らぎが、エスニャは自分の存在がアルヴィスの決断を揺るがせていることに悩んでいます。
私(作者)も今後どうしていこうか悩んでいます(笑)
今度は一転して次話は敵となるはずだった人たちが登場します。
ブリギッドをすでに保護しているとなれば彼らがからんできます。