平和なグランベルの日々を目指す   作:ロサド

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マンフロイ再登場です。

そしてデューが無双します。

イメージが若干変わるかもしれません。


17.恐怖

(くっ。ぬかったわ)

 

マンフロイは心の中で毒づく。

 

自身が目覚めた時には見慣れない風景が飛び込んできた。

 

完全に不覚を取り、今は囚われの身となっている。

 

牢屋ではなく完全な部屋ではあるが、拘束は両手のみで部屋内は自由に移動が出来る。

 

完全な警備体制が敷かれており、まず自身の居場所が分からない。身につけていたものは取り上げられており、魔法を使って逃げることは不可能。

 

食事は決まった時間に侍女が持ってくるが、護衛兵がそばで目を光らせており、人質を取ることも出来ない。

 

通常護衛兵は外で待機しており、一切の会話を拒んでいる。

 

具合の悪いふりをしてスキをつこうとしたが、医療に詳しいものがいるため上手くいかなかった。

 

(まさに八方ふさがりじゃな。どの者もきちんと訓練されており、スキが全くない)

 

自身の話術を持って1人でもこちら側に引き込めれば勝機も見いだせるが、兵も侍女もアルヴィスへの忠誠心が高く忠実に命令を遂行している。

 

(ワシとの会話は一切しないよう命令が出ておるな。どうにかここを脱出しなければならん)

 

マンフロイはアルヴィスが自分の思っている以上に警戒すべき人物で、早く対応策を練らなければすでに講じている謀略が看破されてしまうのではと恐れていた。

 

(まさか暗黒神ロプトウス様のことだけでなくその条件についても完全に把握をしているとは)

 

マンフロイはアルヴィスが脅威との認識を改めざるをえなかった。

 

(あの様子ではワシの思い通りにはいかん。最悪あの者の記憶を奪ってしまうしかないな)

 

マンフロイは暗黒魔法の1つである記憶操作を使うことができる。アルヴィスを懐柔し、妻となる異父妹のディアドラに使う予定だったが、これは変更を考えねばならなかった。

 

(何としてもここから脱出せねば・・)

 

マンフロイが思案していると・・・

 

入り口から話し声が聞こえてきた。

 

(うん?護衛兵と誰かが話しておるな。)

 

マンフロイは警戒を強める。

 

話し声が止まると入り口のドアが開いて

 

「マンフロイのおっちゃん。ケガの具合はどう?」

 

金髪の少年が入ってきて、いきなり話しかけてきた。

 

「貴様は!!!ワシを刺した小僧か!!!!!」

 

マンフロイは怒りの表情を露わにする。

 

声を聞いた護衛兵が金髪の少年をかばうように立つ。

 

「くっ!!!何用だ!!ワシを笑いに来たのか」

 

本来司祭で魔法の使えないマンフロイでは護衛兵にかなうわけもない。マンフロイは悔しい表情をむけながら、兵の後ろにいる金髪の少年に吐き捨てる。

 

「ありがとう。大丈夫だよ。本来の任務に戻って」

 

金髪の少年はそう言うと、護衛兵は一礼して自分の持ち場に戻った。

 

「挨拶が遅れたね。おいらはデュー。元盗賊で今はアルヴィスに仕えている。そして弟のアゼルの親友でもあるよ」

 

デューと名乗った少年はそう言って真っすぐマンフロイを見る。

 

マンフロイは高ぶっていた感情を抑えて冷静にデューを観察する。

 

(元盗賊だと!!道理で気配を絶ってワシに気付かれんようにしておったというわけか)

 

マンフロイはあの時の光景を思い出しながら納得させていった。そして思案する。

 

(やつはあのときずっとアルヴィスの部屋にいたということか。よく見れば顔立ちも悪くない。つまり・・・)

 

「先に言っておくけど、おいらはおっちゃんが想像しているようなことをアルヴィスにされたことは一度もないよ。もちろんアゼルとの関係も言葉通りだからね」

 

デューはマンフロイの心の中を言い当てるかのごとく指摘した。

 

「!!!・・・なぜわかった!!」

 

マンフロイは完全に心の中を言い当てられ、思わず声に出してしまった。

 

「さらに付け加えるとおっちゃんは元貴族だね。ほんとわかりやすいよ」

 

デューはマンフロイの問いには答えず、追い打ちをかける。

 

「!!!!!!」

 

マンフロイは言葉を失った。

 

(なんなのだこの少年は。さっきからこちらの状況を正確に言い当ててくる)

 

マンフロイは目の前の少年に完全に圧倒されていた。

 

 

 

視点変更(デュー)

 

 

 

(アルヴィスの言う通りだった。凄いな。完全にこっちが主導権を握っちゃった)

 

デューはマンフロイが完全に自分を恐れている状況に心の中で驚いている。もちろん表情には出していない。

 

(なるほど。アルヴィスって浮いた噂がないし、おいらが仕えている状況を見ればそう考えるんだ。貴族って本当に怖いね)

 

さっきの自己紹介も意図的なものでマンフロイの反応から元貴族だったことを看破できた。

 

デュー自身も自分の容姿が武器になることを知っている。実際買い物に行くと他の人より安く買えてしまうのだ。

 

そして身分の良さそうな女性からだけでなく男性からもマンフロイが想像したことを目当てに声をかけられたことがあった。

 

(正直あのときは人間って生き物が怖くなったよ。優しかった人がいきなり獣になるもんな)

 

デューは昔のことを思い出しながら目の前の状況に集中する。

 

「マンフロイ、本当は何がしたいのさ?」

 

「・・・・・・・・・何?」

 

「暗黒神を復活させて何がしたいの?おいらには分からないんだよ」

 

「そんなことを聞きにわざわざワシのところに来たのか?」

 

マンフロイはデューの問いには答えず質問を返す。

 

「そうだよ。子供が生贄になって、親は絶望して、みんな不幸じゃん。なんでそんな世界を作りたいのかが理解できないから聞きに来たんだよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「マンフロイ。本当はこの世界に復讐したいだけじゃないのか?暗黒神復活なんて建前にすぎないんだろう?」

 

「なんだと!!!!!!」

 

マンフロイは思わず叫んだ。

 

(マンフロイが激高した!図星を突かれたからかな?ここは休まず攻めていこうか。)

 

 

 

視点変更(マンフロイ)

 

 

 

「マンフロイ。本当はこの世界に復讐したいだけじゃないのか?暗黒神復活なんて建前にすぎないんだろう?」

 

デューは淡々とマンフロイに語る。

 

「なんだと!!!!!!」

 

マンフロイは思わず叫んでしまった。

 

(なんなのだ、この小僧は!ワシの素性から真の目的までなぜ言い当ててくる。)

 

マンフロイは冷静さを保つことが出来なかった。

 

その状態を見たデューはさらに畳みかけてきた。

 

「元貴族さんが落ちぶれた理由はわかんないけどさ、そんなくだらないことに巻き込むのはやめてほしいよ。はっきり言って迷惑だ」

 

「黙れ!!!!貴様に何が分かる!!!」

 

「分かんないから聞いているんだよ。マンフロイ、改めて問うよ。本当は何がしたいのさ?」

 

(くっ!さっきから相手のペースにハマってしまっておる!落ち着け、奴の狙いはなんだ?)

 

マンフロイは落ち着きを少しずつ取り戻す。デューが来た目的、さっきから同じ問いを繰り返している理由、ただの興味本位で来ることはないだろうと推察する。

 

(そうか!アルヴィスの差し金か!ワシから情報を聞き出そうとする算段じゃな。なるほど、直接的な関わりのあった小僧を利用するとは・・・・)

 

この状況を上手く活用したいマンフロイは思案する。すると閃きが起こった。

 

(もう少しすればお昼。よし!!そのタイミングまで時間を稼ぐか。)

 

「しかしお主も大変じゃな。アルヴィスの命令とはいえ、こんな仕事までしとるのかの?」

 

マンフロイは落ち着いた口調で返す。

 

「命令じゃない。頼まれたんだよ。それにおいらもアンタに興味があってね」

 

デューも淡々と話す。

 

(ふうむ、嘘を言っているようには見えん。しかしこの小僧は見た目どおりの愛嬌を見せてはおるが、油断できんな)

 

「ワシに興味だと!変わった奴じゃな。」

 

「アルヴィスはクルト王子を憎んでいるけど、あくまで個人的な感情に留めているのに、同じ貴族のアンタはなぜ世界を憎むようになったのかなって」

 

「!!!!!!!!!!!!!!」

 

マンフロイの表情が固まる。

 

「正直その憎しみの中身を知りたいと思った」

 

デューは表情を変えず答えた。

 

(単なる好奇心か?それとも情報を聞き出すためか?くそ!全く読めん、この小僧は。時間稼ぎはやめだ。とっとと追い払うか)

 

「フン、お主に話すことなどないわ。残念だったな」

 

「そっか、残念だね」

 

デューはここで残念そうな表情を見せる。

 

「アルヴィスにところに戻って慰めてもらったらどうだ。その身を投げ出せばさらに可愛がってくれるだろうな」

 

マンフロイは嘲りの表情を浮かべる。

 

その瞬間!

 

「・・・・・・調子に乗りすぎだよ。マンフロイ」

 

言葉とともに剣が右足の甲に突き立てられた。

 

「え・・・・・!ぎゃああああああ!!!!!!!」

 

マンフロイは絶叫した。

 

 

 

視点変更(デュー)

 

 

 

「フン。お主に話すことなどないわ。残念だったな」

 

「そっか。残念だね。」

 

デューはここで残念そうな表情を見せる。

 

(やっぱり難しかったか。もう少しで情報がつかめたかもしれないのに残念)

 

デューは踵を返して部屋を出ようとしたが・・・

 

「アルヴィスにところに戻って慰めてもらったらどうだ。その身を投げ出せばさらに可愛がってくれるだろうな」

 

マンフロイは嘲りの表情を浮かべる

 

(ふう。おっちゃん、調子に乗りすぎだよ)

 

その瞬間!デューは腰に下げていた剣を抜いた

 

「・・・・・・調子に乗りすぎだよ。マンフロイ」

 

デューは淡々とした言葉とともに剣を右足の甲に突き立てた。

 

「え・・・・・!ぎゃああああああ!!!!!!!」

 

マンフロイは絶叫した。

 

デューは素早く剣を引き抜く。

 

マンフロイは両手で右足を押さえて転げまわる。

 

デューは悲鳴を上げて転げまわっているマンフロイを見下ろす。そして怒りも嘲りも悲しみもない表情で呟いた。

 

「マンフロイのおっちゃん。おいらのことはどう悪く言おうが気にしないよ。でもアルヴィスへの暴言を許す気はないからね」

 

デューはそう言って部屋を後にした。部屋の前の護衛兵には・・

 

「当分放っておいていいよ。マンフロイが頼んで来たら助けてあげて。君のさじ加減で構わない。おいらが責任を取るから」

 

護衛兵は表情一つ変えることなく頷いた。

 

「ありがとうね。後はよろしく」

 

 

 

転げまわっていたマンフロイは少し落ち着きを取り戻す。

 

(まさか、いきなり刺されるとは思わなかった。あの小僧にはアルヴィスの悪口は危険じゃな。ふう。表情一つ変えず来るとは。恐ろしいのう)

 

デューへの認識を180度変換させられてしまったマンフロイには恐怖の表情が浮かんでいた。

 




マンフロイの生い立ち等については独自考察です。

何気に言葉巧みに誘導するあたり、それなりの身分ではなかったのか?と考えております。

デューですが感情的に怒っているシーンが想像つかないのでこんな感じにしました。

淡々とキレるみたいな(笑)

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