アゼルとティルテュが婚約したとなれば彼は外せませんね。
レックスは数人の部下とともに馬を走らせていた。
(それにしても失恋後にすぐ婚約が決まるとは・・・)
レックスは表情をほころばせる。
レックスはドズル家の次男で。今回婚約が決まったアゼルへお祝いの挨拶にヴェルトマー家へ向かっていた。
アゼルも自分と同じ異母兄弟の次男で境遇も同じのため二人はすぐに親友となった。
レックスはアゼルがエーディンに心を寄せていたことも当然知っている。そしてその想いが届かなかったことも・・・・・。
(しかしお相手がティルテュとは・・・・・)
アゼルとティルテュが幼馴染なので、レックスも一緒につるんでいた。ティルテュも自分と同じく父親との確執があったため、気はあっていたが彼女がアゼルを好きなのを知っているので、気を利かせてよくアゼルと2人っきりにすることもあった。
(ティルテュにとっては初恋を実らせたわけだな。まあアゼルにはああいった子がいいと思うわ)
その話は父であるランゴバルトからもたらされた。元々仲の悪い父ではあるがその日は上機嫌で、お祝いの挨拶に向かうよう命が下った。
(あのオヤジが俺にあそこまで上機嫌に話をするなんて正直驚いた。アニキではなく俺に行くように言うし。)
ランゴバルトはアゼルとレックスが親友同士ということで「お祝いしたいだろう。行ってこい」と言っていた。
(付け加えてアルヴィス殿も婚約が決まったし。相手はエスニャか・・・・)
その話はアゼルのこと以上の衝撃だった。
(そっちの詳しい話はアゼルを締め上げてじっくり訊くとするか)
レックスはこの婚約について思案する。
この婚姻はレプトール及びフリージ家にとってメリットが大きい。エスニャの夫となるヴェルトマー家当主アルヴィスはアズムールを始め、公爵家から絶大な信頼を得ている。
弟のアゼルの縁談まで合わせて決まり、両家の結びつきはより強固なものとなるだろう。
(やはりシグルドとエーディンの婚約が引き金になった可能性は高いかもな。こちらも両家の結びつきが強くなった。そして行方不明のブリギット殿を保護したアルヴィス殿の功績は大きいな)
ユングウィ家の当主アンドレイはアルヴィスに心酔しており、水面下で姉のブリギッドかエーディンをアルヴィスに嫁がせる算段をしていたようだが、その目論見は失敗に終わってしまった。
(アンドレイの悔しい表情が目に浮かぶな・・・・)
レックスはこの両家それぞれ婚姻について個人的には祝福したいが・・・・・・・・・
(王子派と反王子派の対立が表面化したときが少し怖い状況になってくるな。まさかアルヴィス殿が反王子派のフリージ家と結びつくとはな・・・・)
レックスは表情を引き締める。
現在6公爵家はクルト王子派と反クルト王子派に分かれて対立している。
クルト王子派はシアルフィ家とユングウィ家
反王子派はフリージ家とドズル家
どちらにつくか明確にしていなかったのがアルヴィス卿のヴェルトマー家とエッダ家である。
この婚姻によりヴェルトマー家が反クルト王子派につくのは明白となった。
(殿下も内心は穏やかではないだろうな。俺も正直この状況はよろしくないと思うが)
親友の婚約は心から祝福するが、この婚姻が大きな内乱の引き金にならないかを危惧せずにはいられなかった。
(しかし何でアゼルのお祝いが先になるんだ?俺からすればアゼルの方を当然祝福するが、本来はアルヴィス殿の方が大事だろうに)
今さらながら父の思惑が読めなかった。
(付け加えるならこの婚姻自体もある意味変な感じがするな)
両家が戦略結婚なのは大半の人が思う。それならば長男長女、次男次女と組み合わせるのが一般的だがそうはなっていない。
(まあ俺は考えるのが苦手だ。本人直接聞く方が早い。そうするか)
元々直情的で斧を振るうしか能がないので、細かく考えるのを早々に諦めることにした。
アゼルとティルテュはヴェルトマー家にいる。ドズル家のランゴバルトより次男レックスが2人の祝言に来るとの一報を受けたからだ。
「アゼル。何を難しい顔をしているの?」
ティルテュが心配そうな顔をしてアゼルを見ている。
「え!そんな顔していたかな?」
「うん。普段しないから少しびっくり」
「ははは。ティルテュには敵わないな。うん。兄さんはどんな思いでずっと過ごしてきたのかなあと思ってね」
アゼルは少し陰った表情を見せて続ける。
「7歳で当主になって頼る人もいなくて孤独に耐えて、さらに自分の両親を奪った人が近くにいてさ。僕にもそんな憎しみを見せることはなかったし気づかなかった」
アゼルにとってアルヴィスという存在は一生超えることのできない壁で正直近寄りがたかった。心無い人からはどうしても比べられてしまう。その劣等感は常に付きまとっていた。
「アゼル。今はお義兄様のことをどう思っているの?」
ティルテュは訊ねる。
「兄さんも他の人と同じように苦しんでいた1人の人間だったと気づいたよ。ようやくお互いの距離を詰めることができたと思う。僕はただ怖がっていただけで本当に優しい人なんだってね」
アゼルは吹っ切れたようにティルテュに笑顔を向ける。
「そうね。私がもし仮にアゼルがエーディン様と結ばれていてアルヴィス様からプロポーズされていたら間違いなく受けていたわよ」
ティルテュはいたずらっぽい表情を向けた。
「ティルテュはどうして僕がいいと思ったの?」
アゼルが真剣な表情で問いかける。
「アゼルはエーディン様のどこが好きだったの?」
ティルテュは肩をすくめて質問を投げ返す。
「え!!!!」
質問を質問で返され、口ごもるアゼル。
「私も同じよ。すぐに答えられないわ。ただアルヴィス様からプロポーズを受けた時、アゼルの顔が浮かんじゃった。そして私はアゼルが好きだって。そしてこう思ったのよ。ずっとアゼルと一緒にいたい!!てね」
ティルテュは満面の笑顔をアゼルに向けた。
「やっぱりティルテュには敵わないな・・・・」
アゼルは少し顔を赤くしてはにかむ。
「ふふふ」とティルテュは微笑みを絶やさない。
「イチャイチャするのもそのくらいにしたらどうなの?」
見えないところから声が聞こえた。
「あれ?デュー。いたのね?」
ティルテュは声のする方に体を向ける。
「気づいていたんだろ。全く」
金髪の童顔の少年が姿を現す。
「・・・・・・・・いつからそこに?」
固まっていたアゼルがようやく言葉を絞り出す。
「ずっといたんだけど・・・・・・・・・」
「ティルテュはいつから気づいていたの?」
ティルテュは「ふふふ」と言うだけで答えない。
「全く気づかなかったよ。ティルテュは凄いね。」
アゼルは困った表情を浮かべる
「アゼルと結婚するんだもん。夫を守るのは妻としての私の役目よ。当然警戒は怠らないわ。たとえ相手がアゼルの親友であってもね」
一転ティルテュは真剣な表情をアゼルに見せた。
アゼルはその表情に一瞬戸惑うがすぐにほころばせる。そしてデューに視線を送る。
「デュー、護衛ご苦労様。何か大事な用があったんじゃないの?」
アゼルは護衛であり親友でもある金髪の少年に訊ねた。
「これからレックスに会うんだろう。アルヴィスから伝言があるよ」
デューは答える。
「え!兄さんから」
「うん。アゼルの祝言にレックスが来ることは予測していたみたいでね。来ることがわかったら伝えるように言われていたんだよ」
「そうなんだ。流石は兄さんだね。デュー、ありがとう。早速聞かせてくれるかな」
「わかった。えっと・・・・・・・・・・・・」
デューはアルヴィスからの伝言を伝えた。
話を聴き終えたアゼルとティルテュは・・・・・
「・・・・ティルテュ、やっぱり兄さんは怖いね・・・・」
アゼルがポツリと呟くと。
「レックスをこちら側に取り込む気満々ね。またその見返りがまさかね。なんて準備万端なの」
ティルテュも激しく同意する。
「おいらも聞いて鳥肌立ったよ。本当にアゼルの兄貴でよかった。敵に回して勝てる気がしない」
デューの言葉に二人も大きくうなずいた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
デューはこういった形で登場させると面白いですね。
次話はアゼルとレックスがメインになります。