ここからは肝が冷える話になります。
史実のアルヴィスが考えていた計画を話したうえで自身の気持ちを正直に伝えます。
エスニャの視点からスタートです。
エスニャはアズムールの言葉が頭から離れない。
(アルヴィス様とデュー様が・・・・あり得ないわ。でもそういう場だったわね。貴族って確かに。令嬢の方々の噂の種になるわね。)
「はい。陛下ありがとうございます。心に留めておきます」
立ち直ったエスニャはハッキリと返事をした。
「しかし司教クラスを捕らえるとは余からも褒美を取らす。その者の望みを聞いておくように」
「陛下。承知いたしました。彼も喜びます」
アルヴィスは自分のことのように喜んだ。
(ふふふ。アルヴィス様とてもうれしそう。自分のことのように思っている。それにしてもデュー様はすごいわ。私も負けてられないわね)
さっきのアズムールの話を聞いたせいかデューへの対抗意識を燃やしていていた。
「ロプト教団の動きについてはどの程度掴んでおるのだ」
アズムールは訊ねる
「全く0と言っていい状況でした。彼らは尻尾をつかませません。マンフロイの捕縛は運がよかったと思います。これである程度の情報は引き出せるでしょう」
アルヴィスは答えた。
(確かにそうだわ。でも司教クラスの人が簡単に口を割るかしら?)
エスニャは考える。
「そう簡単にいくかの?恐らくその者は幹部もしくはリーダーの可能性もある」
アズムールの表情は冴えない。
(やっぱり陛下も私と同じお考えだわ。)
エスニャは心の中で納得する・
「それについてはお任せください陛下。この件については・・・・・」
「わかっておる。お主に全権をゆだねる。何としてもロプト教団の情報をつかむのだ」
「ありがとうございます。」
アルヴィスは頭を下げた。
不意にアズムールが訊ねる。
「つまらぬことを聞くが、アルヴィスよ、お主はマンフロイの話を聞いてどう思ったか?」
(え!!!陛下。一体何を・・・)
エスニャはドキッとする。
「正直、マンフロイの甘言に乗っておればお主の復讐を果たすことはできたのではないのか?」
アズムールの口調はいつもどおりだ。だが・・・
(陛下の目は笑っておられない・・・)
エスニャは思わずアルヴィスを見る。
「確かにロプト教団の後ろ盾が入り、レプトール卿、ランゴバルト卿と協力してクルト王子を亡き者にし、その娘を妻とすれば、復讐は果たされていたかもしれません。」
アルヴィスも淡々と返す。
(アルヴィス様!!!!何をおっしゃっているの)
エスニャは心臓の鼓動が収まらない。
「絶大な信頼を得ておるお主であれば可能じゃの」
アズムールも淡々と答える。
「そして民は苦しみ暗黒の時代が始まることになります。私は殿下にお仕えしたくない個人的な理由で大恩ある方々を裏切ってまで民を苦しめることは望みません」
アルヴィスは続ける。
「それに母上の子は私の妹です。大切な身内をそのような暗黒神の生贄に出すような真似をするなど私は外道に落ちる趣味はございません」
アルヴィスは少し肩をすくめた。
(アルヴィス様・・・・・・・・・)
エスニャはアルヴィスの話を聴いてホッとすると同時に
(この方はずっと一人で苦しんで来られた。ようやく私がその隣に立つことができた。私が支えます。)
エスニャはそっとアルヴィスに寄り添う形で、震える手をしっかりと握る。そしてアズムールをしっかりと見つめた。
アルヴィスはエスニャの行為に少し驚きの表情を見せたがすぐに笑顔を向けた。
それを見たアズムールは
「ふう・・・・・早速見せつけよってからに。エスニャよ。お主の進む道は厳しいものとなるぞ。じゃが問題はなさそうじゃな」
アズムールは仲睦まじい二人の姿を見て表情をほころばせる。
(いつも仮面を被っていた男がなんと変わるものよ。浮いた噂が全く無かったから少々心配しておったが安心じゃな)
アズムールはそもそもアルヴィスが王家を乗っ取るなど思ってもいない。
(しかし余の問いにキッチリ返してきよった)
訊ねた理由はそれが可能かどうかを確かめる必要があった。
(アルヴィスの言う通りなら可能じゃな。切れ者のレプトールにアルヴィス、それにランゴバルトが加われば、残りの3公爵家では対抗できんだろう)
アズムールは冷静に分析した。
(やはりアルヴィスがいなくなっては困るの。どうにかグランベルに引き留めたいが・・・・・)
自身も高齢であり、それほど長くないのは分かっている。若い上に経験豊富で冷静な判断ができるアルヴィスが出奔してしまうのは避けたかった。
(うーーーん。どうしたものか・・・・・・・)
ふと気になったことがあった。
「アルヴィスよ。シギュンが残したクルトの娘はどうするのだ」
「陛下の孫娘になります。もちろん保護したいと考えております」
「クルトにはどう伝える?」
「陛下よりお伝え頂けると。シギュンは亡くなり、娘がいると」
アルヴィスは冷たい表情を見せた。
「よろしければ私から直接殿下にご報告申し上げましょうか?」
アルヴィスが笑顔を見せる。
(直接への報告をしない約束なのにあれはクルトへの嫌がらせじゃな。絶望の淵に追い込んで苦悶する奴の顔を見たくてしょうがない。そんな顔をしておるわ)
アズムールはアルヴィスの心の内を看破している。
「いや。余から伝える。この件を知るものは?」
「私とエスニャのみでございます」
(レプトールは知らんのか。ふう・・。あやつに気付かれたら内乱になりかねんからの)
「この件は余が預かる。よいな!!」
「はい。お願いいたします」
アルヴィス、エスニャは深々と頭を下げた。
視点変更(アルヴィス)
(後のことは陛下にお任せしよう。陛下にとっては大切な孫娘にあたる方だ)
頭を下げながらアルヴィスはホッと肩の荷を下ろす。
(陛下が危惧しておられるのは明らかに内乱だな。殿下の娘となればレプトール卿とランゴバルト卿が間違いなく動くだろうし)
アルヴィスはアズムールの心理をほぼ言い当てていた。さっきの質問もそれを狙ってのものだろう。
(共謀相手にキッチリ二人の名前を入れたからな。殿下に対して思うところがあると敢えて伝えさせてもらった)
これが無能な王であれば断罪行動を取ったりするだろうが、アズムールは違う。常に公爵家との距離感を大切にして現在の平和を保ってきたのだ。それがクルトによってほころびが出てきている。
(肝心の殿下が自分のしでかしたことを美談にすり替えてしまって、公爵家との関係をぶち壊しにしてしまっているし。自業自得だな)
クルトのことを散々悪く言ってはいるものの決して無能ではない。軍略、政治、経済に幅広い知識を持ち、伝説の武器「ナーガ」を使いこなす魔法力を持ち合わせた文武両道の人物である。
個人としては歴代の王の中でも3本の指に入る実力者と言っても過言ではない。
容姿端麗、才色兼備はぴったり似合う言葉ではないだろうか。
ただその溢れる才能ゆえか人の心理についての理解が乏しい。シギュンへの横恋慕からの所業がその象徴である。
アルヴィス自身クルトへの憎悪はあるが、グランベルの滅びは望まない。それで1番苦しむのは民だ。それにアゼル、ティルテュはヴェルトマー家を継ぐため身内にも不幸を呼び込んでしまう。
アズムールが存命の間に引き継ぎを終わらせ、ロプト教団の企みを潰す。そしてクルトが王になるタイミングで姿を消す。それが理想ではある。
(妹のディアドラのことは気がかりではある。陛下がご存命の間はいいが・・・)
すでにシグルドとエーディンは婚約し、史実よりも早くブリギッドを保護している。
すでに自分が知っているゲームの状況とはかけ離れているため、ここからは正念場となってくる。が
(考えても仕方ないな。私もエスニャと結婚した。この展開は全く考えていなかったが、結果的には良かったと思っている。今は目の前の問題に集中して1つ1つ潰していく。)
アルヴィスは強い決意を固めていた。
クルト王子の評価として、個人の能力は非常に高いと考えています。ルックスもいいし、民衆受けしますので、いい王になる可能性は秘めています。
しかしグランベルにおいては6公爵家との関係を上手くどう持っていくかが重要です。史実でバイロンやリングを重用する行動を取っている時点で、他の公爵家の反発を招くは当然です。その前にアルヴィスの両親を奪っていますからね。
広い領土、隣接する他国がひしめく状況でそこをおろそかにしているのは問題と思います。