ここは重要なポイントになるのでしっかりと描かせていただきました。
アルヴィスはクルトは憎んでいますが、アズムールには感謝しており、全てを話します。
最後はエスニャが衝撃を受けてしまいます。
アルヴィスとエスニャは謁見の場より移動して、客間に通された。客間と言ってもかなり広い。
公爵家の重要な会議などが行われる場所でもあり、当然アルヴィスも知っている。
しかし・・・・
「落ち着かないです・・・・・」
エスニャは思わず口にする。
アズムールは着替えのため、席を外している。謁見と会議等の場であってもこういったことは日常茶飯事だ。
「そうだね。私も最初は慣れなかったよ」
アルヴィスが答える。
「アルヴィス様は7歳で当主になられてこんな場で他の当主の方と会議の場で発言を・・・・?」
「確かにその通りだよ。今考えると良く務めてきたものだな」
(本当にそう思う。子供が大人相手に発言をしていかなくてはならなかったからな。私は元々大人からの転生だから何とかやり遂げたけど・・・・・)
アルヴィスが心の中でしみじみ思っていると・・・
「待たせたな」
アズムールが姿を現す。謁見の場の正装から室内着に変えている
「いいえ。こちらこそお手間を取らせることになり申し訳ありません」
慌ててアルヴィスが立ち上がり謝罪の言葉を述べる。エスニャも遅れて立ち上げり深々と頭下げる。
「よいよい、楽にせよ。グランベルのこれからについて重要な話をしてもらうのだからな」
アズムールは真剣な表情を向けた。
(さてエスニャには「陛下に全部話す」とは言ったがね。どうしたものか・・・・・)
アルヴィスはどこから話すべきかと思案していると、
「エスニャよ、お主はどこまで我が息子の所業を知っている」
アズムールがいきなり訪ねてきた。
「どこまで・・・・と申されましても夫のアルヴィスより聞いておりますが、私の口から申し上げることは出来ません。この件に関わることは誰であっても話さないと夫と約束しておりますので・・・」
エスニャはハッキリとした口調で答える。
「ふむ・・・。知っていることは認めても具体的には話せぬときたか・・・。ふっふっふっ」
アズムールは拒絶されたにも関わらず上機嫌だ。
「陛下・・・・いたずらはそのくらいにしてもらえませんか。妻も困ります」
アルヴィスは少しため息をつく。
「すまんな。なるほど。なかなかの胆力、王である余へ嘘はつかんが、夫との約束でかわしよるとは」
(やはり陛下に嘘はつけないな。言いたいことを言ってしまってから後のことは考えよう)
アルヴィスの決意は固まった。
「まず私自身のことについてですが・・・・」
最初に話したのはアルヴィスがロプト一族であるマイラの血を引いていることを皮切りに
「フリージ家との縁談についてですが・・・・」
今回フリージ家との縁談について、自身の婚姻がそもそもではなく、アゼルとティルテュの婚姻がメインであったことを繋げ
「私は当主の座をアゼルに譲ることにいたしました」
最後にアゼルに当主の座を譲ることを王に伝えた。
アズムールは一切口を挟まずじっとアルヴィスの話を聴いていた。
横で聴いていたエスニャも同様だ。
アズムールは「うむ」と少し唸ってから口を開いた。
「アルヴィスよ。やはり息子が許せぬか?」
「質問の意味が理解しかねます。どういったことでしょうか?」
「すっとぼけるでないわ。お主が息子を憎んでいることなど分かっておるわ。もっともらしい理由をつけよってからに」
アズムールは困った表情を向ける。
(ふう。陛下に嘘はつけない。質問を重ねられたらかわし切るのは難しい)
アルヴィスの心の中で嘆息する。
「はい、許せません。許すわけにはいきません、と同時にこの国が衰退の道を進むのも望むところではないです」
アルヴィスははっきりと答えた。
「私が語るのも失礼ながら、殿下はグランベルの次期国王としてこの国を統治していくことは問題なく可能です。政治力、軍事面における知識もさることながら民衆にも慕われております」
「そうなのか?」
アズムールは驚きの表情を見せる。
「もちろんです。しかしただ1点問題があるとすれば、公爵家との関係性を軽んじている点です。陛下は、この点を大変苦慮されておりましたことをよく存しております」
アルヴィスはさらにたたみかける。
「王は一人では何もできません。それを助けるのが我々公爵家です。個人的な感情で好き嫌いを表面に出し、差別化すれば内部の結束が崩れます。その怖さを殿下は分かっておられません」
アルヴィスはそこまで話し終えると口を閉ざす。
アズムールはアルヴィスの視線から目をそらす。
「クルトは非常に優秀だ。余よりもはるかにな。それが奴の足元をすくっておるのだな」
「1個人、1貴族であればそうでしょう。しかし王としての器は陛下の足元にも及びません」
「確かにそうじゃな。若気の至りで取り返しのつかん愚かなこともしておるしな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アズムールの言葉はアルヴィスの中枢をついてきた。
「当主の座を譲ることについては認めよう。できればグランベルに残ってほしいのだがな」
「陛下が陛下でいる間は出ていくつもりはありません。しかし・・・・・・・・」
「息子に仕える気はないのか・・・・・・・・」
「はい。陛下には申し訳ありませんが・・・・」
アルヴィスは拒絶の意思を明確にする。
アズムールは視線をエスニャに向ける。
「エスニャよ。アルヴィスの言っていることを理解しておるのか?ここを出ていくということは・・」
「はい。私の居場所はアルヴィス様のそばです。それ以外ありません。」
エスニャは爽やかな笑顔をアズムールに見せる。
それを見たアズムールは再度アルヴィスを向く
「弟のアゼルは大丈夫なのか?お主の後釜となると大変だが・・・」
「それについては優秀な奥方が立派に夫を支えてくれると確信しておりますので、ご心配には及びません」
アルヴィスは素早く回答する。
アズムールは「ふう・・」と息をはくと
「お主の出奔については、すぐに許可はできん。他国の動向もある。余の命が危なくなりそうになったとき、もう一度話をしようと思う」
「承知いたしました。お体をご自愛下さい」
アルヴィスはそう締めくくった。
「他には何かあるのか?」
アズムールが促す
「はい。私の母シギュンについてですが・・・」
アルヴィスはシギュンが亡くなったこととクルト王子との子供のことを伝える。
「私とその子が万が一結ばれた場合は・・・・」
ロプト教団の活動と暗黒神ロプトゥスの話が続いた。
「司教のマンフロイを捕らえて監禁しております。」
マンフロイを捕らえたことを最後に締めくくった。
「ふうむ・・・・・・・・・なんとな・・・」
アズムールは手を顎に当てつつ真剣な表情で話を聴いている。ときおり何か納得した様子もうかがえた。
「よく捕らえることができたものだ。あの者の力を借りたのか?」
「はい。気配を絶つ能力を備え、私が最も信頼を置いている彼ならば大丈夫だと確信しておりました」
「!!!!!!!!!」
会話を聴いていたエスニャは驚きの表情を見せる。そして思わず声に出してしまった。
「陛下もデュー様のことをご存じなのですか?」
「無論だ。アルヴィスより聞いておるよ」
アズムールは答えた。
「エスニャ、素性の知れない者を近くに置いていることは別の意味で良くない勘繰りをされるのでね。陛下には逐一報告している」
アルヴィスが言葉を重ねる。
「良くない勘繰り・・・・・ですか?」
エスニャは首を少しかしげ、よく分からないといった表情を見せている
(エスニャは純粋な子だね。さてどう伝えたらよいだろうか。)
アルヴィスが困った表情を見せると・・・・
「ふふふ。アルヴィスが困っておるな。エスニャよ。お主はそこの朴念仁がその少年を囲っているとは考えなかったかの?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
エスニャは驚愕する。
「陛下!!!彼女には刺激が強すぎるのでは?」
アルヴィスは慌てて声を上げる。
「取り繕ってもしょうがあるまい。そういう下衆な勘繰りをする者がおるということだ。今後当主の妻となるのだ。そういった手合いとも渡り合っていく必要があることを覚えておくとよい」
アズムールは真剣な表情をエスニャに向けた。
アルヴィスとデューの関係は主君と臣下です。それ以上も以下もありません。
デューはアルヴィスに絶対の忠誠を誓っています。
そんなデューにアルヴィスは全幅の信頼をおいています。
しかし貴族社会においてこの関係を怪しいものととらえるケースがあります。それがアズムールが言ったことです。確かにエスニャには刺激が強いですね。
デューの言葉遣いはアルヴィスが許可を出しています。当然状況によって臣下の礼をとります。彼が敬語を使うと違和感しかないのでそうしました。
別の話でも書きましたが、デューはアゼルとは親友同士です。ティルテュ、レックスとも仲がいいです。