この人物はイメージが掴みにくいです。
ゲームをやり始めたときはアルヴィスに騙され利用されたと考えていましたが、今は癖のある王家の人たちと上手く距離感を保っていた有能な王様ではないか?との考えです。
実際、クルト王子に対してレプトールとランゴバルトは不満を持って反王子勢力を結成しているのでそれまでは問題はなかったと考えています。
レプトールとランゴバルトがゲームを始める以前から問題のある人物だったからどうかは正直わからないので難しいです。
アルヴィスはバーバラ家へ馬車を走らせている。
(婚約のご報告をしておかねばならん。家督を譲る件についてもきちんと陛下には話しておこう)
「私もご一緒してもよろしいのでしょうか?」
エスニャは向かい合わせに座っているアルヴィスに問いかける。
「もちろんだ。ヴェルトマー家現当主アルヴィスの妻として正式に迎える旨を陛下にはお伝えせねばならん」
アルヴィスが答えるとエスニャは顔を赤くして少し下を向いた。
「エスニャ、無理をしなくて大丈夫だよ。陛下はきっとお喜びになられる」
そう言って笑顔を向ける。
「陛下はクルト王子がヴィクトル様とシギュン様にした所業をどこまでご存じなのですか?」
エスニャは訊ねる。
「私から遺書の件は話していないよ。クルト王子が言うわけはないだろうしね。でもある程度察しているかもしれないね」
アルヴィスは答える。
「そうなのですか?」
「ああ。陛下もクルト王子の素行には手を焼いていたようだからね。色々と調べていると思うよ」
「クルト王子が今も結婚なさらないのはまさか・・」
「私の母のことが忘れられないそうだが、丁度いい、母が亡くなったことも陛下にお伝えしておく」
アルヴィスはそう言って薄く笑う。
「アルヴィス様・・・・・・・・・・・・・」
エスニャは悲しい表情を向けた。
「エスニャは優しいな。ありがとう。私は大丈夫だ。とは言ってもクルト王子には早く奥方を見つけて貰わなければ困る。少しは真剣に国のことを考えてほしいものだ」
「陛下にどこまでお伝えするおつもりですか?」
「全てを話す。私のこともこれからのこともね。それが陛下への恩返しであり義務だ。クルト王子のご息女のこともお伝えせねばならないしね」
「え!!!!クルト王子にお子様が・・・まさか・・」
「そうだよ。私の母シギュンとの子供だよ」
アルヴィスは冷たい表情で答える。
「君に隠し事はしないよ。私の妻となる以上それが一番大切だと思っている。これから関係を紡いでいくのにここで信頼しないでいい夫婦になれるわけがないよ」
アルヴィスは一転笑顔をエスニャに向ける。
「アルヴィス様!!!無理をしないでください」
「エスニャ、何を言って・・・・・」
エスニャは立ち上げると何も言わず、自身の胸にアルヴィスの頭を抱き寄せた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エスニャは黙っている。
アルヴィスは抵抗せず体に頭を預けている。
(ははは。俺泣いているのか?だめだな。エスニャに甘えてしまった。ずっとため込んでいたものを吐き出して、ホッとして、肩の力が抜けたようだ)
どのくらい時間がたっただろうか。自然とお互いが離れて顔を見合わせる。
何も語らない。ただじっとお互いを見つめ続けていた。
そして馬車が止まる。
「到着したようだ。エスニャ。ありがとう。私は大丈夫だよ。君がいるからね」
アルヴィスは表情をほころばせる。
「はい。ありがとうございます。わたしが出来ることはこのくらいですから。もっと甘えてください」
エスニャは多少顔を赤くしながらしっかりとした口調で答えた。
アズムールは自室にて書面を見ながら目を閉じた。
(アルヴィスから可及的速やかなご用件か。あの者がここまで迅速なときは言葉通りと取った方が良いだろう)
書面を見終えると嘆息する。
「陛下、アルヴィス様が到着されました。」
執事より声がかかる。
「一人か?」
「いいえ。フリージ家のご息女エスニャ様を伴われております」
「何?確か二人いた娘の妹の方であったな」
「はい。そのとおりでございます」
(一人ではないのか?フリージ家の姉妹の姉の方はよく覚えているが、妹の方はあまり目立ってはいなかったな)
「二人はどのような雰囲気であったか?」
「大変仲睦まじい姿を見せておられます」
(何とあの男が結婚か!!しかしその要件だけではないな。ある程度覚悟しておいた方が良いだろう)
「クルトは今日顔を見せに来るのか?」
「いいえ。本日はシアルフィ家とユングウィ家への訪問でございます」
(よし!クルトがいないのであればアルヴィスも普通に話をしてくれるだろう)
アズムールはホッとした表情を浮かべた。
(しかしクルトのしでかしたことでアルヴィスには大きな傷を残してしまった。ワシがもっとしっかりしておればと思うと悔やんでならん)
アズムールはクルトがシギュンに横恋慕し、ヴィクトルを自殺に追い込んだことも知っている。
(それでもアルヴィスはヴェルトマー家当主として立派に務めを果たしてくれた。それについては感謝しかない。クルトに対しては吹き上がりそうになる憎しみを隠しておるようだが・・・)
肝心のクルト王子はそのことに全く気付いておらず、普通にアルヴィスに接しているのでたちが悪い。多少罪悪感はあるようだが、シギュンの面影を追い続けてまだ妻を娶らずにいる。
(こればかりはアルヴィスからお願いされた以上約束を破るわけにはいかん)
アズムールがアルヴィスからお願いされたことは「アルヴィスからクルトへ直接の情報提供や報告を行わないこと」これ一つだけだ。
この約束によりクルト王子との謁見回数は激減し、直接かかわる機会がほとんどなくなった。
(クルトだけがそのことに気付いておらん。いや、逆にアルヴィスに責められるのを恐れているのかもしれんな)
実際クルト王子とシギュンとの一件が広がり出したころにはアルヴィスとの確執も一部の人間は認識していたようだった。しかし貴族というものは醜聞を嫌うため、美談という形で落ち着かせている。
(全く。同じ貴族として情けない。いい加減クルトに良き縁談を考えたいが・・・・・・)
無論、アズムールもクルト王子の縁談について水面下で進めているが、ここ最近は内外で不穏な動きが目立ってきておりそれどころではなくなっている。
(アルヴィスにそのあたりについても聞いてみるか)
アズムールは準備を整えると謁見の場で向かった。
視点変更(アルヴィス)
「陛下。ご機嫌麗しゅうございます」
「陛下。フリージ家のエスニャでございます。この度の謁見の場を頂きまして感謝いたします」
アルヴィスとエスニャはそれぞれ挨拶の言葉を述べ臣下の礼をとる」
「うむ。よく来てくれた。楽にせよ。まずはアルヴィスよ。これはお祝いの言葉が必要かの?」
アズムールはエスニャの方に視線を向ける。
「陛下、この度フリージ家のエスニャ殿と婚約が決まりました。まずはそのご報告申し上げます」
「やはりそうであったか。これはめでたいことだ。エスニャよ、この変わり者のどこが気に入ったのだ」
アズムールは少し意地の悪い表情を向ける。
(誰が変わり者だ!全く、陛下には困ったものだ)
アルヴィスがフォローを入れようとしたが・・・
「小さいころより姉とともにヴェルトマー家へお招きいただいたときからずっとお慕い申し上げておりました。そしてようやくその想いがかないました」
エスニャの視線はまっすぐアズムールを向いている。そこには少しの曇りも見えない。
「はっはっはっ。アルヴィスよ。良き伴侶を得たではないか。余は安心したぞ」
アズムールは大笑いしている。
「はい。私にはもったいないほどの胆力と器量を持ち合わせた女性です。恋人らしいことはしておりませんでしたが、これから積み上げていきたいと思っております」
アルヴィスは答えた。
「そうなのか。お主もシグルドと同じ朴念仁であったか。意外だったぞ」
(あいつと一緒にされんのは嫌だなあ。まあ仕方ないか・・・・)
アルヴィスは心の中でぼやいていると
「恐れながら、アルヴィス様はずっと苦しんでおられました。私はようやくその中に入らせていただくことができました。陛下もご存じでいらっしゃるはずです」
エスニャは真剣な表情を見せる。
(エスニャ・・・。女は怖いな。陛下にも引かない。陛下の表情も引きつっているぞ)
アルヴィスが続けた。
「陛下。おめでたい報告をさせていただきました後ですが、本題に入らせていただいてもよろしいのでしょうか?」
「うむ。場所を変えるとしよう」
アズムールが締めくくった。
ありがとうございました。
クルト王子の所業の解釈は独自設定です。
公爵家の正妻に手を出すぐらいですから他でも問題を起こしているとの設定をつけてます。
次話は本題に入ることになります。