アゼルも少し登場させてます。
エスニャとの関係が劇的に変わったことでアルヴィスもかなり踏み込んでいきます。
アルヴィスが目を開けると隣で眠っている妻の姿に思わず表情がほころぶ。
(エスニャが私の妻となったのか。彼女とこれからのことを話しておかなければならないな)
エスニャは緊張と疲労が濃かったため、いわゆる夫婦の営みはしていない。エスニャはそれを強く望んだが、アルヴィスは彼女に無理をしない方がいいと諭した。
(エスニャはまだ若いし、かなり疲れていた。私も心の準備が出来ていなかったから今回はそれでよかったと思う。レプトール卿には悪いがね)
アルヴィスは心の中で苦しい言い訳をしながら自身を納得させていた。
(アゼルとティルテュはどうだったのだろうか?ティルテュの大声には思わず二人で笑ってしまったが・・・・・)
ドアのノックの音が聞こえた。
「兄さん、起きているかな?」
アルヴィスはエスニャを起こさぬよう素早く簡単に身支度を整え、ドアの向こうのアゼルに声をかける。
「アゼル、おはよう。ティルテュとあの後どうなったのかな?」
「・・・・・・・兄さんはどうなの?」
少し沈黙の後、低い声でアゼルが返す。
「エスニャは疲労が濃くてね。残念ながら、だよ。」
「兄さんはずるいね。」
「彼女とはこれから関係を築いていくからね。ところで私の質問に答えていないよ。」
「・・・・・レプトール卿の思惑に嵌ってあげたよ。」
アゼルは答えた。
「ティルテュは怒っていたのではないか?」
「最初はね。でもあの後二人で話せて良かったよ。」
「そうか。聞きたいことはそれだけかな?」
「ティルテュと話をしてどうしても確認したいことがあってね。兄さんはティルテュのことが本当は好きだったの?」
視点変更(エスニャ)
エスニャは意識がうっすら見え始めたころ、ドアあたりから二人の声が聞こえた。
(アゼル様とアルヴィス様がお話されているみたい。)
「・・・・・レプトール卿の思惑に嵌ってあげたよ。」
アゼルが答えた。
(お姉様はアゼル様と無事結ばれたようね。良かったわ。それに引きかえ私はアルヴィス様に気を遣わせてしまいました。)
エスニャも心だけでなく身体もアルヴィスと結ばれることを望んだが、元々体が強い方ではない自分が遅い時間まで起きていたうえ、精神面の疲労も大きく、それをアルヴィスに隠すことができなかった。
(本当に情けないわ。アルヴィス様の奥方としてやっていけるのかしら)
エスニャが落ち込んでいると
「ティルテュと話をしてどうしても確認したいことがあってね。兄さんはティルテュのことが本当は好きだったの?」
アゼルが爆弾を投下した。
エスニャはアゼルの言葉に思わず緊張する。
(アゼル様!!!このタイミングで何て質問をするの!!!!!・・・・・・・でも私も知りたいわ)
エスニャは心の中でアゼルに感謝を口にする。そしてアルヴィスの回答を待つ。
「私は彼女を尊敬していた。そこに恋愛感情は持ってはいないよ。」
アルヴィスは即答した。
(尊敬?お姉さまに?)
「尊敬?ティルテュに?」
エスニャとアゼルが同時に驚く
「ヴェルトマー家に遊びに来た時から1人の男を想い続けて、その男が別の女に心を動かされても恨まず、相手に嫉妬せず、その気持ちに最後まで嘘をつかなかったところとかね。」
アルヴィスは厳しく返す。
「・・・・!!!!!!!」
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
アゼルもエスニャも声が出なかった。
「レプトール卿にティルテュを選んだ理由は絶対にアゼルを裏切らない女性であることを伝えた。レプトール卿はそれを試したくて、あの芝居を私と打ったというわけだ」
「ティルテュが私のプロポーズを受けるとは全く思っていなかったよ。これでも7歳から当主をしている。人を見る目はあるつもりだ」
アルヴィスはそう締めくくった。
「・・・・・・・・兄さん。僕は・・・・・」
「アゼル、過去は変えられない。しかしお前はティルテュの想いを受け止めた。そうだね」
「はい。僕はティルテュを愛しているよ。今まで心配をかけてごめんなさい」
「私に謝る必要はない。ティルテュへのその気持ちを忘れるな」
「はい、兄さん!!」
アゼルは元気よく返事をした。
(なんかモヤモヤする。お姉様へ恋愛感情は無いって言ってくれてホッとしたけど・・・・。私への気持ちはどうなのかしら?)
エスニャはアルヴィスの答えに安堵したが新たな不安を抱く。
「付け加えるならティルテュに今は感謝もしている。エスニャという最高の女性を紹介してくれたからね」
アルヴィスは上機嫌で話す。
(え!!!!!!!!)
エスニャは驚愕する。
「今回の芝居の代償だよね。ティルテュから聞いたよ」
(そういえば、お姉様が合図のようなものを送ったのは、お気持ちを試したことに対するお願いだったのね)
アルヴィスとアゼルの会話は続く。
「私もアゼルと同じだよ。身近にいてくれている女性の想いに気づいてあげられなかった。それをティルテュが教えてくれた。彼女には当分頭が上がらんよ」
「兄さんがエスニャにプロポーズをしたときは驚いたよ。それはティルテュとの約束を守るため?」
「最初はそうだった。しかし今はプロポーズをして本当に良かったと思っているよ」
「ティルテュはそのことを気にしていたからそれを聞いて安心したよ」
アゼルは安堵した様子で答える。
「さっき言った通りこれからエスニャと関係を築いていかないといけないので、そろそろいいかな?」
「うん。それじゃ戻るね。ありがとう、兄さん」
そう言うとアゼルの足音が少しずつ離れていく。
アルヴィスはそれを確認すると振り返り
「さて、盗み聞きは良くないな、エスニャ。今から夫婦でゆっくり話をしようか」
(ぎくっ!!!!!!!!!!!!!!!!!)
エスニャは観念せざるを得なかった。
視点変更(アルヴィス)
エスニャとアルヴィスは一夜を過ごした部屋のテーブルに向かい合わせで座っている。
「エスニャ、昨日は色んなことがあり過ぎて大変だったと思う。私たちはこれからお互いのことを話し合って決めていきたいがその前に・・・・」
そう言うとアルヴィスは席を立ち、エスニャの前に片膝を折ってその手を取る。
「エスニャ、私と結婚してほしい。今の私は君を心の底から欲している。そのことに偽りはない」
アルヴィスはエスニャの目を真っ直ぐ見つめる。
「本当に私でよろしいでしょうか?」
エスニャはアルヴィスの目線をわずかに外して返事をする。
「君でなければだめだ。お互いのことはこれから分かり合っていけばいい。私はそう思っている」
アルヴィスは視線をやわらげ笑顔を向ける。
「はい。喜んでお受けします。ふつつかものですがよろしくお願いいたします」
エスニャはアルヴィスの視線を受け止めた。
「ありがとう!!」
そう言うとエスニャを抱き寄せた。
エスニャは戸惑いを一瞬見せたが、そのままアルヴィスに身体を預ける。
(エスニャはこんなにも小さかったのか。彼女を大切にして守り抜いていくぞ)
アルヴィスは心の中で誓いを述べてゆっくりエスニャを離した。
視点変更(エスニャ)
アルヴィスの腕の中でエスニャは幸せを実感していた。
(私とアルヴィス様は始まったばかり。これから何年も一緒に思い出を紡いでいったらいいのよね。アルヴィス様の心の闇はとても深いわ。私がどこまで力になれるかわからない。でも絶対に離れるもんか。ずっと好きだったんだから!!)
エスニャは心の中で強い決意を秘めてアルヴィスからゆっくりと離れた。
「早速だがエスニャに話しておきたいことがある」
そう言うとエスニャを席にエスコートして座ってもらい、自身も反対側の席に腰を掛ける。
「このことはアゼル、ティルテュ、レプトール卿にも話していない。でも君には話しておくよ」
(え!!そんな大切なお話を私に?)
エスニャは驚いたがすぐにアルヴィスの話に全力を傾ける。
「ロプト教団については知っているかな?暗黒神ロプトゥスを信仰している教団だよ。その教団がここ最近他国へ様々な干渉を仕掛けている」
「え!ロプト教団ですか?まだ存在していたなんて思いませんでした」
エスニャは驚いて声を上げる。
「着実に少しずつだけど活動を水面下で行っている。すでに他国の中枢にも食い込んでいるようだね。私のところにもロプト教団の司教が接触を図ってきたよ」
「アルヴィス様のところに!あっ!!」
エスニャは何か気づいたようにアルヴィスを見る。
「そうだよ。私のことを話してくれたのはその司教だ。すでにお部屋で大人しくして頂いている」
アルヴィスは薄く笑う。
(アルヴィス様のこの表情・・・・・。司教さん、お気の毒に・・・・・)
エスニャはアルヴィスの表情から言葉通りに受け止めていなかった。だてにずっと想い続けてはいない。
「アルヴィス様、お怪我はありませんでしたか」
「この通り大丈夫だよ。気は進まなかったがデューに協力してもらった。彼も大丈夫だからね」
「デュー様もご存じなのですね」
「司教の話を隠れて聞いていたからね」
(そっか。知っているのは私だけじゃなかったんだ。ちょっと残念。)
夫婦二人だけの秘密を共有できると期待していたが少し落胆した。
「エスニャ、デューは司教をとらえた後、私に何と言ったと思う」
アルヴィスは表情を少し引き締めて質問する。
「え!!!・・・・・・・・・・」
いきなりの質問に声が詰まる。
「おいらの口は封じなくてもいいの?だよ」
答えに窮しているエスニャにアルヴィスが告げる。
(・・・・!!!!デュー様はアルヴィス様の秘密を知ってしまったから、自分から命を投げ出す覚悟だった・・・。なんて人なの)
エスニャは改めてデューのアルヴィスへの忠誠心に驚きを隠せない。
「もちろん、私は彼をどうこうする気は全くない。ただ彼の覚悟は今後、私やアゼルだけでなく君やティルテュも対象になるということだ」
(・・・・!!!!)
「彼は誰よりも若い。それでもここまでの覚悟を持って仕えてくれているデューは私にとって特別だ。そのことは覚えておいてほしい」
(私は何をやっているの。秘密を共有できなかったことをふてくされて・・・・・・)
エスニャは少し自己嫌悪に陥っていると・・・
「エスニャがヤキモチを妬いてくれているのは正直嬉しいし、それは私に向けてもいいがデューにはやめてくれよ」
アルヴィスはそう言うといたずらっぽく笑った。
「アルヴィス様!!!!!!!!」
エスニャが顔を上げ、声を荒らげた。
「悪かった。ごめん、ごめん。少し話がそれてしまった。戻しても構わないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エスニャは口を尖らせ、返事をしない。
「エスニャ、私に出来ることはないかな?」
「私のお願いを聞いてください。それで許してあげます」
エスニャは厳しい表情を向ける。
「わかった。そのお願いは何かな?」
アルヴィスは恐る恐る訊ねる。エスニャはその願いを伝えると・・・・
「承知した!!その時が楽しみだな」
アルヴィスは即答した。
「アルヴィス様!!!」
エスニャは顔を赤くして声を上げる。
「エスニャ。無理だけはしないでくれ。それは約束してほしい」
アルヴィスは一転真剣な表情を向ける。
「はい。お約束いたします」
エスニャはハッキリと答えた。
実はアルヴィスへの問いかけはアゼル自身が1番気になっていたことではないでしょうか?書き終わった後にそんなことを思いました。
もしティルテュのことが好きだったとしたら・・・・・と。
アルヴィスはティルテュがアゼルを好きなのを知っており、それを微笑ましく見ていました。アルヴィスのティルテュの評価はかなり高いです。
エスニャとのカップリングを決めた時点でアイーダを登場させないことに決めました。色々と関係性を作りにくいので。
次話は国王アズムールとの謁見になります。