ジャイロボールに夢見て   作:神田瑞樹

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31話

              Ⅰ

 8回の表、1アウトランナー三塁。一打勝ち越し、いや試合展開を思えば一気に勝利を決めてしまいかねない大事な場面で打席に入ったのは青道の二番、小湊亮介。

 青道で最も器用なバッターであり、バントからバスター、エンドラン、カットまでありとあらゆる小技を駆使するそのバッティングは曲者として関係者から評価が高い。

そんな曲者に対して稲実ナインが敷いたのは前進守備。状況を考えれば至極当然な守備体形であったが、一方で普通とは異なる点もあった。

 

……外野が随分と前に来てんな。

 

 三塁でリードをとりながら空は稲実のポジショニングを確認する。内野はスクイズ警戒のためなのか通常の前進守備よりやや前に来ているものの、大よそ教科書通り。反して外野は一般に教わる位置取りよりも更に前。あれでは少しいいあたりをされれば、その時点で外野の頭を超えるだろう。

 

……長打よりポテンヒットの可能性を潰したいってわけか。

 

 そしてその判断は恐らく間違っていないと空は思った。小湊亮介はミートは上手いものの体が小さく、パワーも決してあるとは言えない。成宮ほどの本格派と対峙した場合、上手く外野と内野の間に落とすようなヒットは打てても大きなあたりは難しいだろう。

 

……普通ならここでスクイズなんだろうが。

 

 初球、成宮の投球と同時に小湊がバットを横へと倒し空がスタートを切る。するとファースト、そして投げ終えた成宮が躊躇なくホームへと駆け出した。

 

―――スクイズッ!

 

 誰かがそう叫んだが不思議なことに小湊はバットを引く。ワンバンしたボールを原田は身体で前に落とし、慌てて三塁に視線を送るがそこに飛び出したランナーの姿はなかった。

スタートを切ってすぐに止まった空はゆっくりと三塁へ戻り、汗を拭う。

 

……さすがに警戒してるか。

 

 相手の出方を伺うために行った偽装スクイズ。ベンチからのサインで行った1プレイは空に、そして青道に稲実の警戒の深さを知らしめた。もしもあのまま本当にスクイズを行っていればまず間違いなく失敗していただろう。何せスクイズとはあくまでも奇策。意表を突くからこそ効果があるのであり、警戒された中で行えば成功の確率は低くなる。

 特に成宮のフィールディングを考えれば猶更。

それを青道ベンチも感じたのだろう。

 空と小湊に出されたサインはあえて小細工はせず、打者に任せるというものだった。

 狙い球を絞って打って行け。小湊がバットを構えるのを見ながら、空は思考を巡らす。

 

……ここまで小湊先輩はサードゴロ、四球、セカンドゴロ。

 

 選球眼の良さとミート力の高さ、そして狭いストライクゾーンを考えればクリーンヒットやタッチアップは難しくとも四球ならば十分に狙える。そして1アウトランナー1、3塁とランナーを溜めてクリーンアップに回す形となれば青道としては最良。

 とは言えだ。

 

……まぁ。みすみすそれを許す人じゃねェよな。

 

 ぐるりと、マウンドの成宮が左肩を回す。ギアを入れ替えたのだと同じ投手である空にはわかった。

 

……四球が出せない一打勝ち越しの場面、バッターは小細工が上手い典型的な二番。

 

 内野を前進させることで当たり損ないのゴロを封じ、外野を詰めることでポテンヒットの可能性を消した。となればもう投げる球種は決まっている。

 そしてその予想した通りの球を成宮は投げた。それは空振りの取れるフォークでもなければ評価の高いスライダーでも、青道打線が手こずっているチェンジアップでもない。投球の基本であるストレート。やや甘いインコースのボールに小湊は当然バットを振り下ろし―――今日一番のスピードと球威にバットを圧された。

 金属バット特有の擦った甲高い音が神宮に響く。

 ふらふらっと上がった打球に小湊は歯を食いしばりながら一塁ベースへと走りだし、原田はマスクを外して叫んだ。

 

――――ライトッ!

 

 緩いアーチを描いた打球が飛んだ先は一塁ベース後方。ベースの手前でファールグラウンドへと切れていった打球は定位置であったならまず間違いなく捕ることは不可能だっただろう。だが外野に敷かれた極端な前進守備が、そして鍛え抜かれた広い守備範囲が捕球を可能にする、可能にしてしまう! ボールへと飛び込んだライトの富士川がボールの入ったグローブを掲げると、稲実の応援席から歓声が巻き起こる。しかしその歓声は一瞬にして驚愕の声へと変貌した。

 

――――バックホーム!

 

          ◇

 

 走る走る走る走る。

三塁からホームへと続く道、まるで目印のように引かれた白線を踏みしめてただただ足を動かす。呼吸はどうしようもないぐらいに荒く、身体はまるでマラソンでもした後かと思うぐらいに重い。ちらりとボールの行方を確認すれば既にライトは起き上がり、バックホームの態勢に入っていた。

 分が悪い。これまでの経験から空はそう直感し、

 

……それがどうしたっ!

 

些細なことだと前を向く。このタッチアップが無謀なことなんて最初からわかっていた。いくら捕球体制が悪いとは言え、捕球位置はかなり浅い。ライトの肩も含めれば成功率は良くて2割と言った所だろう。次からクリーンアップということもあってコーチャーは行くなと言った、しかしそれを振り切って空はこの分の悪いタッチアップを挑んだ。

ここで行かなければきっと点は入らない。そう判断したがゆえに。

 

「っつ!」

 

 気を抜けばスピードを落としそうになる、余計なことに意識を割けば足がもつれそうになる。だから余分なことは全て切り捨て、ホームベースだけを見た。

 

……もう少しっ!

 

 白いホームベースまであと1メートルと空が迫った時、ライトからの返球がホームを守護する原田のミットに飛び込んだ。原田はやや高めに逸れた送球を捕るために浮かしていた腰を下ろしながら左足を引き、くるりとその巨体を反転させ間近に迫ったランナーを待ち構える。大きな岩が進行方向を遮っているのを見た瞬間、空は飛んだ。

 低い体勢で土を蹴り、大きなスペースの空いている2時方向へと飛びこみながら迫りくるタッチを掻い潜ってベースへと手を伸ばす。

 ベースに触れた感触とミットに触れた感触を同時に味わいながら、空はゴロゴロと地面を転がった。全身真っ黒に染まった体。けれどそんなことはどうでも良かった。

 顔についた土を払うこともなく、空は慌てて顔を主審へと向ける。

 タッチが先か、それともホームインが先か。

 運命の分かれ道、主審の手は大きく横へと広げられた。

 

―――セーフ!!

 

判定はホームイン。その瞬間、神宮球場は爆発した。

歓声、嘆き、驚き、ありとあらゆる声が球場に渦巻いてより爆発の大きさを増していく。

 そしてその中心にいる背番号1は身体を横にしたままぐっと、両拳を固く握りしめた。

 青道高校、1点先制。

 8回の表 青道1‐0稲実

 

 

         Ⅱ

 唖然、呆然。今の彼女の内心を表現するとしたらそういった単語がぴったりとあてはまるだろう。バックネット裏2階席。例年よりも遥かに多い記者のためにと今回だけ特別に設けられた関係者専用スペースの一角で大和田は半開きになった口に手をあてた。

 いや彼女だけではない。彼女の同業者達もまた、反応の違いこそあれみな驚きを隠せなかった。あちこちから聞こえてくる凄まじい歓声を耳にしながら、大和田はまるでうわ言のように呟いた。

 

「一点、とっちゃいましたね」

「あ、あぁ」

 

 大和田の隣に座る峰もまた驚愕から抜けきらないのだろう。いつもに比べてやや歯切れの悪い返事をしながら畳んでいた扇子を開き、パタパタと生暖かい風で汗を飛ばしながらスコアボードに目をやる。これまで0が続いていたスコアボードに新たに刻まれた1の数字。峰は確認するかのように今しがた脳裏に焼き付いたばかりの光景を振り返った。

 

「まさかあの浅いライトフライでタッチアップを強行するとは」

「タイミング的にはアウトでしたよね?」

「あぁ。だが送球が上に逸れていた分だけ原田君のタッチが遅れた。山城君も絶妙なタイミングで死角へと跳んでいたからな。とは言えセーフになったのは殆ど偶然だな」

「どうして山城君は強引に突っ込んだりしたんでしょうか? 例えタッチアップできなくても次はクリーンアップですし、わざわざ分の悪い勝負を挑む必要はなかったのでは?」

「若さゆえの暴走か、それとも何か感じるものがあったのか。いずれにせよ危険な走塁だったな」

 

 峰は表情を少し渋くした。それは分の悪い賭けを挑んだということよりも、それによって生じる怪我のリスクを思ってのことだった。山城は投手。万一さっきの無茶な走塁で怪我でもしていたらその時点で青道の勝機は限りなく小さくなっていただろう。

 とは言えだ。

 

「危険な走塁だろうと結果は結果だ。この終盤に来ての一点は青道にとって限りなく大きな意味を持つ」

「このまま最後まで行くんでしょうか?」

「さぁな。山城君も少しずつボールが荒れてきているし、見た所体力も限界に近いようだ。稲実が後攻めと言うことも含めればまだまだ勝負はわからん」

 

 何よりと峰はマウンドに視線を落とす。そこには青道に先制点を許した後も変わらずにボールを投げ続ける背番号1がいる。本当は悔しいだろう、辛いだろう。

だがそんな素振りを一切見せることなく、崩れることなく続く三番の伊佐敷をキッチリと仕留めるその姿は正に稲実のエースとして相応しいもの。

そしてそんなエースを支えるナインの顔も決してまだ試合を諦めてはいない。

 

「昨年の王者がこのまま負けるとは思えん」

 

             ◇

 

 8回の裏、一点を勝ち越した青道のマウンドには当然山城空が立っていた。先程の1点の立役者にしてここまで稲実打線を0に封じ込めてきた青道のスーパールーキーの登場に青道の応援席からは更にも増した歓声が、稲実の応援席からは憎々しいとばかりに呻きの声があがる。球場中の視線が自分に注がれているのを肌で感じ取りながら、空はこの回の先頭打者に意識を割く。

 左打席の後方に立ち、短く持ったタイカップ型のバットを構えるのは稲実の絶対的エース成宮鳴。今日は9番に下がっているとはいえ、本来はクリーンアップを任せられているだけの強打者。気を抜いて対峙できる相手ではない。

 しかしそれがわかっていても尚、空は逸る己の気持ちを律しきれなかった。

 

……あと2回、あと2回抑えれば甲子園。

 

 高鳴る胸の鼓動を何とか抑えようとしてみるが無駄だった。先程ベンチでクリスから受けた筈の無謀な走塁についての注意でさえ、今の空の頭にはもう残ってはいなかった。あるのは明確な形になった勝利への渇望のみ。

もう少しで勝てる、あと少しで約束を果たせる。

 クリスから出されたサインにまるで機械のように頷き、空はボールを投じる。この終盤になっても未だ一四〇キロ台を維持している四シームジャイロ、しかしボールは珍しく要求されていたコースから大きく外れた。

 

……焦るなよ俺。あとたったアウト六つじゃねェか。

 

 肩に入っていた力を抜き、再度ボールを投じる。しかし疲労で重くなった体は中々言うことを聞いてくれず、よりカウントは悪くなり2‐0。その後何とかファールを二つ奪い平行カウントまで戻したものの、そこからが長かった。二シーム、四シーム、そしてチェンジアップ。持てる球種の全てを使って勝負を決しに行くも、コースに投げ切れずその悉くがカットされる。

 しつこいと、頬から垂れる汗を拭う。四シームの球威とノビが未だ衰えないために成宮は基本真っ直ぐ待ち。三振をしないよう始動を早くしている分少々二シームやチェンジアップのコースが甘くなっても中々芯では捉えきれていないが、その一方で空もまた仕留めきれていない。このままでは堂々巡りの持久戦。

 だから残り少ない体力を振り絞り、空はギアを一つ上げた。

 

……いい加減にっ。

 

 振りかぶった右腕を思いっきり振りきる。この試合幾度となく投げてきた全力での四シームジャイロ。ただただど真ん中目がけて投げた渾身の真っ直ぐにそれまで粘っていた成宮のバットも遂に空を切った。

 

―――ットライク! バッターアウトっ!

 

 この試合17個目になる三振。

 空はふぅと肺に溜まった二酸化炭素を吐き出し、ロージンバックに手を伸ばす。

 スコアボードに灯る一つ目の赤いランプ。それは試合終了までのカウントでもあった。

 

……あと5つ。

 

 

             Ⅲ

 稲実の野球部員なら誰もが知っていることだが成宮鳴はプライドが高い。典型的なエースタイプとでも言えばいいのだろうか、基本的に自分が中心にいなければ気が済まない性質だ。文化祭で劇をするとなれば目立つ主役級の役しかやりたがらず、体育祭のクラス対抗リレーでは進んでアンカーに立候補する。そして野球でもその性格はしっかりと現れていて、本分であるピッチングは勿論、打撃でも自らのバットで試合を決めに行こうとすることが多い。だからそんな成宮がわざわざ打順を下げてまでピッチングに専念すると試合前に聞いた時、カルロスは素直に驚いた。

 いやカルロスだけではない。成宮に誘われて稲実に入った二年生の誰もが彼らしからぬ発言に耳を疑い、そして理解した。今日闘うのはそれほどの相手なのだと。あの成宮鳴がそうまでしなければいけないと判断した投手なのだと。

けどどうやら自分達はまだ鳴の執念を甘くみていたらしいと、ネクストサークルの中で稲実のリーディングヒッターは思った。ブラジルの血を引く彫の濃い顔が見つめるのは何とかしてボールに喰らいついていく自分達のエースの姿。

 

……鳴があんな泥臭く粘るなんてな。

 

 8回の表、稲実は一点を失った。失点の原因は酷くハッキリとしていた。山城空、現在進行形で稲実の前に立ち塞がる青道のルーキー一人に翻弄され、点を奪われた。

 同じ投手を務める一年坊主、それもライバル視していた人物に点を奪われるなど成宮にしてみればこの上ない屈辱だろう。だから8回の裏の攻撃がラストバッターから始まった時、てっきり成宮は長打を狙いに行くものだとカルロスは思っていた。受けた屈辱を返すためにホームラン狙いの大味な打撃をするのだと半ば決めつけていた。

 ところがだ、蓋を開けてみれば実際にはバットを短く持っての粘りのバッティング。いつもとは明らかに違う姿にカルロスが口元を緩めていると、粘っていた成宮がついに倒れた。三振を喫し、ベンチへと引き上げてくるエース。普段ならビハインドの状況で三振後の成宮など面倒くさくて声をかけようとも思わないが、この時ばかりは自然とカルロスの口が動いていた。

 

「どうだった?」

「球威とノビは見ている分にはあんまし変わらないけど、やっぱコントロールは大分バラついてるね。球速も落ちてきたからカットしてけば十分四球は狙える」

「ふ~ん、なるほどね」

 

 三振した割には随分とサバサバとした成宮が口にしたアドバイスは、ほぼほぼネクストでカルロスが抱いていた感想と同じものだった。コンコンとバットで肩を叩いたカルロスは打席に向かおうと成宮の横を通り、

 

―――後は任せたよ

 

 そんな呟きを耳にした。ハッとカルロスが背後を振り返るが、その時にはもう成宮の背中は遠くなっていた。そして数秒ほどその場で立ち尽くしていたカルロスだが、主審の呼び掛けに我に返ると慌てて打席に入った。いつものように足場の土を念入りに固めながら思うのは、やはりさっきの一言。

 

……後は任せたよ、ね。

 

 我が儘王子にしては随分と殊勝な言葉だ。これまでそんなことを言ったことがあったか記憶を辿ってみるものの、該当するモノはなし。

ゆっくりとバットを構え、マウンドに立ち塞がる敵と目を合わす。青道の背番号1はまるでカルロスなど眼中にないかのように視線を切ると、相も変わらずの大きなフォームからその魔球を投じた。伸び上がってくる速球に合わせて上から出したバットはボールの下っ面を叩き、打球は一塁側のファールネットを揺らす。

 

……ちっ。まじで化けもんだな。

 

 打席を外したカルロスは苦々しく空を見つめる。もうこれでこの試合4度目の対戦、球種は9割方わかっていて、更にはコースも大分甘かったというのにそれでもまだ芯で捉えきれない。バックスクリーンに表示される球速は初回よりも5キロ落ちる144キロ、神宮のスピードガンがかなり甘いことを思えば実際には140前後と言った所だろう。

 

……俺が140の真っ直ぐに振り遅れるか。

 

 カルロスは稲実打線の中でもめっぽうストレートに強い。実際山城対策として行った160キロのマシンバッティングではチーム内で最も良い成績を収めていた。しかしそんなカルロスをもってしても未だ捉えきれないジャイロボール。正に魔球と言うのはこのことだとカルロスは身をもって実感していた。

 

……でもまっ、流石に球速が落ちた分バットには当たるな。

 

 来るとわかっていてもかなりの確率で空振りしていた序盤に比べれば随分と状況は改善されたと言える。バットを短く持って打席に後ろに立ち、しっかりとボールを見極めればある程度カットしていくことは可能。ボールとストライクがハッキリしてきたし粘っていけば成宮が言ったように四球も十分狙えるだろう。とは言え、それはあくまでも追い込まれるまでの話。

 

……山城にはもう一つの真っ直ぐがある。

 

 成宮の打席でも投げていたギアを一つ上げてのジャイロボール。球速、キレ、球威、全てが一段階上のボールに対応できる自信がカルロスにはなかった。

 だからストライクの後に2球ボールが続いた後、2‐1と打者有利のカウントになってカルロスは動いた。立つ場所を打席の後方から前方へと変え、グリップを握る両手の位置を少しだけ下へとずらす。

 

……さぁ来いよ一年。

 

 山城はカルロスの変化に少しだけ眉を潜めたものの、すぐにそれまで通り投球モーションに入った。対峙するカルロスは身体全体でリズムをとりながらグッと左手に力を込める。

 

……ウチのエースが任せたって言ってんだ。

 

 ここまでカルロスの成績は3の0。トップバッターとしての役目を全く果たせていない。 

だからこそこの打席は、

 

……塁に出るしかねぇだろ!

 

 やや高めのボールに対してカルロスは全力でバットを振り下ろす。いっそ極端までのダウンスイングがボールの上を叩くと、打球はホームベースの手前で大きく弾みショート方向へと跳ね上がった。

 

―――ショート!

 

 ショートを守る倉持が勢いよく前へと駆け出し難しい体勢で捕球するが、そんなものはカルロスには見えていなかった。コンマ一秒でも早く1塁に到達するためにあらゆる余分なものをそぎ落とし、ただただ眼前のベースに向かって飛び込んでいく。

 

―――セーフ!

 

 ファーストのミットが揺れるよりも早く、ランナーの手がベースに触れた。わぁっと盛り上がる稲実応援席の興奮を感じながら、カルロスは口に入った土を吐き出す。

 決して綺麗なヒットではなかった。

 しかしそれでもカルロスにとってはHRと同等の価値を持つ一本だ。

 

……さぁて。走るぜ。

 

 にやりと、今大会1、2を争う足のスペシャリストはニヤリとベースの上で口元を歪ませた。それはまるで勝負はこれからだと謳っているかのよう。

青道1‐0稲実。8回の裏、1アウトランナー1塁。

 ネクストバッター、白河。

      




今日の一言、「野球は一人でも出来るんや!」

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