saoから”ログアウト”できたプレイヤー 作:土ラグーン
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ではどうぞ!
「お帰り、ツバメ君。回収は出来たかね?」
ねばねばしたような、キーの高い声が聞こえる。僕は、うつむきながら答える。
「申し訳ございません。僕がしくじってしまい、取り逃がしてしまいました。」
僕の答えに、須郷は案の定怒った。
「何だと!?ふざけるなっ!なぜしくじった!このポンコツめが!」
ぼくはいますぐにでも殺したかった。けど、今はまだそのときではない。まだ僕は、奴に洗脳されているフリをしなくてはいけないのだ。
「・・まあいい。ではもう一度行け。いって殺してこい!」
「・・はい」
僕は、須郷に背を向け、周りを見渡した。そして、僕は須郷に口を開いた。
「・・須郷様。」
「なんだ?」
僕は再び須郷の顔を見た。
「レアな短剣を所望してもよろしいでしょうか」
「ふむ・・いいだろう。こっちへきたまえ」
ーーかかった!
僕は、自然を装い、歩き始める。須郷は相変わらずにたにたした笑いを浮かべている。
「さてと、君にはこの"エンシェント・ドラゴンダガー"を差し出そう」
須郷はウィンドウからそのアイテムを取り出し、僕に渡す。僕はそれを丁重に受け取っておく。
「ではいってきたまえ。僕の研究を成功させてくれよ」
「・・」
「どうした?なぜだまりこむ?」
「・・それはあんたを殺すためだっ!!」
僕は、飛びかかり、奴の首筋をねらう。須郷はとっさのことに反応できず、首筋が切れた。
「なっ・・貴様なにを・・!」
「気づいてなかったようだな。僕の自我はすでに取り戻しているんだ」
須郷は目を丸くしていた。やがてその目が憎悪の色に変わる。
「どこまでもゴミな餓鬼だ・・!もういい!殺してやる!アバター1をログイン!」
須郷は上空へと叫ぶ。すると、空間がゆがみ、あのとき僕をこてんぱんに倒してのけた、戦士が現れた。2刀を背負った、黒の剣士が。
「アバター1!こいつを倒せ!エクストラスキル《2刀流》発動!」
「了解」
アバターは、2刀を装備する。正直僕もこいつを倒す自信はない。だが、倒す方法なら、あるかもしれない。
「・・!」
アバターは無言の気合いを乗せて、右手の剣と左手の剣を光らせて、突進してくる。左の剣が下からゴウッと迫り、僕の首筋をねらう。僕は、左に飛んでその一撃をかわす。その後、アバターは振り切った勢いで右回転して、右の剣を斜め上から叩きつけようとする。僕は、先ほど須郷からもらったレアアイテムでそれを思い切りブロックする。右の剣の軌道はぶれ、アバターが、前のめりになる。その隙を見逃さず、僕はピックを投げた。アバターではない。アバターの先にある機械に向かって。
「しまっtーーーーーー」
須郷が声を出した時にはもう遅かった。ピックは、アバターの頬をかすめて機械を貫通し、内部に入り込む。スパークが激しくなってついに爆発した。
すると、アバターのデータが壊れたらしく、アバターがポリゴンの粒子となって散った。
「き、きさまあああああああ!」
僕は、してやったりという顔をした。実を言うと、今僕が壊した機械は、データを保存してある機械なのだ。それを僕は、最初にここにきたときに確認してあったのだ。すなわち、ここには先ほどのアバターのデータ、須郷の実験データ、そして、僕のデータがあるのだ。
「きさま・・道連れだと・・!?」
須郷は怒り狂った顔で僕を指さす。
「ああ・・道連れさ!おまえの実験結果を、僕の命を引き替えに消したんだ!」
「・・ちくしょおおおおおお!だが、僕はここで終わらない!貴様は死に絶える!そしてまだまだ実験体はいる!僕はまだ可能性があるんだ!」
「・・こうはかんがえないのか?おまえが拉致できなかったプレイヤーが、拉致されたプレイヤーを助けにくるということは?」
「そんなのあり得るわけない!もうナーブギアすらかぶらないだろうな」
「でもあり得たとしたら僕は、そいつに協力する。おまえを倒す機会をうかがえるんだ!つまりおまえが研究に成功できる確率があるように、僕だっておまえの研究をつぶせる可能性もあるんだ!」
僕は、自分の体が消えていくような感覚に襲われる。
「貴様ごときに何が出来る!僕はおまえを許さないからな!おまえの意識ごと消してやる!」
「むだだよ?僕という、意識は消えるが、存在は残るだけだ。あの機械が壊れたからね。あの機械で制御していたんでしょ?僕の意識も。だから、僕はお前を倒すことができる。理解しろ!」
僕は、薄れていく、須郷の怒り狂った顔をにたにた見つめなが意識を閉ざした。
「じゃあな・・!須郷!」
「・・ツバメ!」
俺は、フレンドリストをみた。《Tsubame》という文字が、《off》になってグレー表示に変わった。やがて、ふっと消滅した。すなわちこのゲームから消えたということだ。
「・・いやあ・・」
ユウコがテラスのベンチに泣き崩れる。俺は、未だに信じられなかった。あいつが、死ぬなどあり得ないはずだった。
俺は、怒りにふるえた。ツバメを殺した須郷を許さない。俺は、無言で立ち上がり、世界樹へと歩き出す。しかし、俺の腕をユウコがつかんだ。
「だめだよ!ツバメがやられたんだよ!ロックァまで失いたくない!」
「ごめんユウコ。あいつを一発殴らないときがすまない!」
「でも・・!」
「はなしてくれユウコ!ツバメの仇をとる!」
「だめだよ!そんなの!ツバメは何もするなっていってたじゃん!」
「いいからどけよ!」
俺は腕を振ってユウコをはなそうとした。しかしユウコは両手でしがみつく。いつもなら俺は受け入れられていた。だが今ばかりは、俺の心を縛る鎖としか思えなかった。ツバメが使えといったアイテムのことも忘れていた。
「なんで・・みんなおかしくなっちゃったよ・・いつものロックァに戻ってよ!!」
「離せっ!!俺は行く!これ以上奴の思い通りにさせtーー」
ーーパシンッ!
俺は、突然不快な感覚を感じた。そして目に映る飛び散ったかすかな水滴が着いた感覚を。俺が、彼女にはたかれたと知るのに4秒かかった。
「もういい・・サヨナラ!」
彼女は涙をふき取り、ふるえながら素早くボタンを押し、ログアウトしていった。俺はそれをただただ見送ることしかできなかった。
「・・・・」
俺はすべてを失った。愛する人も、友も。俺の強さの軸も失ってしまった。だが、もうそんなことを考えるのも億劫になってきた。俺は、須郷を殺す。ただそれだけだ。すべてを失う原因を作ったあの男を殺し、俺も果てる。これでいい。
俺は世界樹へと歩き出す。途中、俺の目の前にいた人だかりが一気に割れる。彼らの目には、俺が鬼のように移っているらしい。だがそんなこと知ったことではない。俺はただ、あの男を殺すだけだ。
そして世界樹のドームへとたどり着いた。俺はクエストNPCである巨大な騎士が話しかけるのを待った。俺はクエスト受注画面を見やり、イエスを押す。ツバメたちといったときより全く緊張感がない。だが、そんなものは俺にはいらない。俺がそんなことを考えていると、ドアが重々しく開いていく。ドアが完全に開き、俺は歩む。そしてドームの中央へときて、天蓋をにらんだ。
「待ってろツバメ・・おまえの敵を・・とってやる!!」
俺は羽を思いきりふるわせ、大気を燃やし尽くすかのような轟音をたてて、上昇する。すぐさま守護騎士が迫っていく。複数の群となって。俺は、自分を叱咤するように叫びながら、一つの群をなした守護騎士たちを一閃する。一気に炎と化した守護騎士を振り払い、俺は、次の群へと突撃する。SAO時代の片手剣最上級技《ファントム・レイブ》のモーションを放ち、5秒程度で殲滅した。そして俺は強力技のモーションを放ち続け、上へ上へと登りつめた。
しかし、守護騎士はあり得ないペースで増殖していく。俺が4分の3までいったとき、守護騎士の雲ができあがったのだ。俺は、飛行を止めた。足がふるえていく。ふるえて剣も振れなくなってしまった。俺は、"恐怖"というのを体験していたのだった。
(何であんなたくさん・・!?やっぱ一人じゃ無理なのか・・!?)
俺は絶対の、唯一残っていた己の存在意義を折られた気がした。それは、"剣士"としての強さだった。剣士とは、限界を知らない、限界を超えられるものだと思っていたし、現に俺はGMの想像を超えるようなことをし、あのデスゲームから解放されたのだ。けれど、今回のことでわかった。俺は、誰かに与えられた力に溺れ、錯覚し、それを己のアイデンティティにしていたのだ。つまり俺は本当は何も力がない、ただの学生なのだ。そして今俺は、恋人、友人を失った。もう、俺には、なにも、ない。
俺は、ふらふらと、群へ近づく。群が矢をはなった。俺は、避けようとする。しかし体が動かず、矢が立て続けに刺さる。俺は、冷ややかにその矢をみる。仮想の命が奪われているという感覚に、何も感じなかった。むしろ、終われと願っていた。俺のHPバーだけが削られていく。
そして、散った。リメインライトだけがむなしく残される。同時に、俺の視界に数字が表示される。その数字は徐々に減っていく。おそらく蘇生猶予時間だろう。蘇生猶予時間を過ぎると、自分の種族の領地に戻されてしまう。だが、もういい。俺はこのゲームをやめる。もう、いる意味がないから。俺が目を閉じ、終焉の時を待っていたがーーーー
「・・!」
誰かが来る。すさまじい羽音を立てて。来るな、と叫ぼうとしたが叫べない。俺の叫びが伝わるはずもなく、乱入者は、俺のリメインライトを抱えた。ユウコか?と思ったが、違った。男の服装だった。やがて男は急降下し、守護騎士の攻撃をかわしていく。そしてようやく外にでられ、二度と行くはずのなかったアルンの町へとつく。俺は、助けてくれた男に、礼を言おうと口を開いた。
「・・ありがとう。けどどうして俺を助けた?」
男は俺に背を向けたままだった。顔を見せない。俺は、苛立ち、声をあげる。
「あんたは誰なんだ?顔を見せろ・・」
「わかったよ」
ーー聞いたことのある声だった。だが、俺の知り合いにはいない。ユウコでもツバメでも、おやじでもお袋でも、芸能人でもない。だが、俺が慣れ親しんでいる声だった。
男は、俺の顔を見せた。そのとき、俺は驚きを隠せなかったのだった。
「なっ・・お、俺にそっくりだと・・!?」
なんと男の顔は、俺と瓜二つだったのだ。服は、シルフ特有の緑色ではなく、黒色をしている。なぜ・・!?
「そっくり?いや・・」
「
ーー間違いなく俺だ。俺そのものだ。俺のリアルネームを知っているのは、ユウコだけだ。後知っている奴といえば俺しかいない。
「・・全く世の中ってのは、絶望だよ。俺は彼女も失い、友人も失い、俺の存在意義も失った。」
「あんたもか・・実はおれもなんだよ」
「そうかい。すべてを失ったお前はもう、何もすることがないよな?」
「ああ・・いきる意味も、守るものも、もう何もだ」
「なら、死ぬしかないな。」
「え・・」
「お前は、以前小学5年生の時に確か死のうとしたよな?けどお前はゲームにとりつかれて、今こうして生きている。お前はゲームに生かされていたんだ。お前はゲームがお前の存在意義だった。だが、今ではその存在意義すら否定されている。ほかにどこで存在意義を求める?いってみろよ」
「そんなものは・・ない」
「ならログアウトして、命を絶てばいい。絶望から逃れるにはそれしかないだろうな。」
「・・そうだな。じゃあさ、冥土のみやげで教えてくれないか?」
「なんだ?」
「お前は、どうやって俺の目の前にいるんだ?俺の分身が現れるなんて・・」
「簡単だ。お前が見せた"心意"を使ったんだよ」
「心意・・だと?」
「そうだ。お前が宿した"負の心意"が俺を呼び起こしたんだ。」
「・・そうか。わかった。くだらないこと聞いてすまなかった」
「いいよ別に。じゃあな・・もう2度と会うことはあるまいが」
「ああ・・あんがとよ。おかげでどこかすっきりした」
「では、さらばだ」
「ああ・・じゃあな」
俺にそっくりな野郎は、ふっと灰が散るように消えていった。俺は、心が軽くなっていた。そうだ、存在意義がなくなったら死ねばいい。いきる意味も、何もないなら死んだ方がいいだろう。俺は、左手をフリ、ログアウトした。
(じゃあな・・ALO。いや、俺の
俺は、現実のベッドに横たわっていた。現在は、午後11時である。タイムラグが発生している四肢の感覚を取り戻し、ベッドから起きあがる。ナーブギアを剥ぎ取り、俺は下へと駆け下りる。そして自転車の鍵をとってそれにまたがる。そして俺はのろのろと、ひとりで大宮駅を目指した。もう夜が更けていて、かなり暗い。30分間慎重にこぎ続けたあげく、俺は大宮駅につく。俺は改札を抜け、高崎線下りホームへと行く。そこには数人の会社員や、若者などがいた。俺は、ホームの端へと歩いていく。そして止まった。俺は左をみる。電車が近づいていった。
(さて、死ぬか)
俺は、やけに頭がさえていて、開放的だった。ストレスも何もない、最高の気分だった。もう何も思い残すこともない。
電車がガタンゴトンと音を立てて走り、やがてブレーキ音が遠くから聞こえる。死の音を感じた俺は、ニヤリと笑った。しかしその笑いは、どこかぎこちなく、空っぽの笑いだった。けれどそれでもいい。俺の存在意義がないのだから。元から空っぽなんだよ。
電車の音がさらにうるさくなる。俺は一歩を踏み出した。そして電車と俺との距離が、わずか20メートルとなる。
(さよなら・・ユウコ)
俺は、急に激しくなったブレーキ音と、クラクションが響く中、片足を空へと浮かせた。
今回オリキャラを使わせていただきました!
[今回用いたオリキャラ]ロックァ(黒) あだ さんのオリキャラです!
どんどんオリキャラ募集していますので、ご応募お待ちしております!
もちろん感想、指摘なども受け付けておりますので!よろしくお願いします!
次回予告は、いわないでおきますw