もしもExtraのラスボスが甘粕正彦だったら   作:ヘルシーテツオ

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戦闘描写やら設定やら考えてたらひと月たってしまった。

今回も独自設定満載です。
特に甘粕関連の戦闘描写にはかなりのオリジナルが詰まっています。

あらかじめご了承ください。



決闘

 

 すでに戦端は開かれた。

 対峙するアーチャーと甘粕。もはや両者に油断はない。

 アーチャーの手には愛用とする双剣・干将莫耶があり。甘粕もまた腰に下げる軍刀に手を掛けて――

 

 そこで一つの疑問が生じた。

 甘粕正彦という男の規格外さに圧倒され、ここまで見過ごしてきたが、当然の疑問がそこにあった。

 

 ――甘粕のサーヴァントはどこにいるのか。

 

 この月で行われる聖杯戦争はサーヴァントの力を借りて行われる。

 英霊(サーヴァント)。人類史から読み取られ、選抜された『英雄・偉人』を誇張・再現した存在。

 マスターは自らを媒介として彼等を召還し、マスターの剣として彼等は戦闘を代行する。

 マスターである以上はサーヴァントの存在が不可欠。それは誰であっても変わらないはずだ。

 

「俺のサーヴァント? いるではないか、ここ(・・)に」

 

 そんな疑問に対し、甘粕は何でもないように答えて、自らの胸に手を置く。

 

 瞬間、甘粕から受ける威圧が爆発的に増大した。

 倒れこみそうになるのを必死で抑える。震える身体に活を入れてその存在と正面から向き合う。

 別人とも思えるこの圧力。それは単に存在感が増しただけではなく、もっと言えば内部そのものに変化が生じたような――

 

「馬鹿な……マスターの中に、サーヴァントの気配だと?」

 

 自分の感じた違和感に、アーチャーが正確な答えを出した。

 

 サーヴァントは甘粕自身の中に。それを表面に現したというなら、この威圧の増大も頷ける。

 だがそんなことが可能なのか? マスターの中にサーヴァントを取り入れる。そんな特殊な宝具が存在すると?

 

「君の疑問はもっともだが、その答えは残念ながら不正解だ。これは何らかの宝具による現象ではない」

 

 白衣の男の言葉が響く。

 傍観者と名乗る彼は、戦いの公平を期すためか、情報(マトリクス)を開示していく。

 

「正彦が召還した英霊は、彼の祖国の高名な武将だった。そこに特殊性は何もなかった」

 

「聖杯戦争の最中、正彦のサーヴァントは致命打を受けた。消滅を免れるだけで精一杯であり、戦闘など問題外の状態だった。

 マスターとサーヴァントは運命共同体だ。サーヴァントという戦う手段を失えば、マスターに待つのは敗北だけ。そのままでは不戦敗は明白だ。

 ゆえに正彦は行動した。その状況を逆転させるため、起死回生の策に打って出た」

 

「それは――自らのサーヴァントと融合すること。その霊子情報を自らの霊子構造に取り込み、自分自身を戦える存在へと変貌させることだ」

 

 白衣の男の語る話は、あまりにも荒唐無稽な内容だった。

 サーヴァントとの融合。マスター自身が戦えるように自己を改造する行為。言葉にするだけなら簡単だ。

 だがそんな容易いことなのか。聞こえだけなら魂の改竄に近いとも思えたが、そう単純なことだとは思えない。

 

「当然だ。君が経験してきた魂の改竄とは規模がまるで異なる。普通ならば自殺行為でしかない。

 一時的な夢幻召還(インストール)や、一部分のみの移植とは訳が違う。いやこの二つでさえ人間の手には余る」

 

「そもそもからして、英霊とは人間の上位にある者だ。その霊子情報は人間の比ではない。

 大地より湧き出る泉の中に、水質の違う一杯の水を混ぜ合わせればどうなるか。水は泉の中に溶けて消え、元の性質など無くなってしまうだろう。

 英霊との融合とはそれだ。上位の存在を下位の器に流し込めば、器の中身などあっという間に侵し尽くし、器そのものが耐え切れずに自己崩壊する。

 そんなことは自明の理であり、試す者などいるはずがない。前人未到であり不可能な所業だ」

 

「そう、誰にも不可能だった――甘粕正彦が成し遂げるまでは」

 

「甘粕正彦という器は、英霊という存在に耐え切った。膨大な情報量に侵されながらも、器の中身は元の性質を失わなかった。

 その一生分の経験値。英雄として祀り上げられ、後世に着色された幻想。それら一切を咀嚼し飲み干し、己の血肉に変えた。

 サーヴァントの技も、宝具も、今やすべては正彦の一部だ。どれ一つとして持て余すことなく、完全に我が物としている」

 

 甘粕が黒色の軍刀を抜く。

 刀を手に立つその姿、その威容は英雄たちと並べても遜色はない。

 マスターではサーヴァントに対抗できない。そんな常識はもはや意味をなさない。

 

 ……認めるしかない。甘粕正彦はサーヴァントにも匹敵する脅威であると。

 

「無論、口で説明するほど簡単なわけがない。正彦自身でさえそれは賭けだった。あの時が正彦にとって最大の危機だったよ。

 事実、一度は確かに崩壊したんだ。他ならないムーンセルがその判断を下しかけた。それがどれほど絶対的な意味を持つか、説明は要らないだろう」

 

「しかし正彦は戻ってきた。逆境を前に魂を奮起させ、自らの存在をより高みへと進化させた。

 特殊な才能(スキル)による恩恵ではない。あらゆる人間が持ち得る意志の力、それだけで正彦は未到の領域にたどり着いたんだ」

 

「単に強いだけじゃない。正彦の強さとは苦境にあって発揮される生命力、意志ある生命が持つ無限とも言える可能性だ。

 ゆえに私は正彦の強さを評価する。正彦は初めから特Aランクのマスターだったが、彼には更にその先があった。底が知れない。

 ああ長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかといえば――」

 

 軍刀が振るわれる。

 受け止める双剣。激突し合う剣戟の音。

 

「――甘粕正彦はとうに英雄を超えている。心して挑むといい」

 

 戦いの火蓋は切られたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ぶつかり合う二つの凶器が火花を散らす。

 

 絶えることなく続く剣戟の響き。炸裂する金属音が、目に追えない戦いの激しさを物語っている。

 音速を容易く置き去りにして交錯する刃と刃。人間の域では到底不可能な英雄の技。

 前時代的な闘争であるにも関わらず、両者の戦いはまさしく兵器の領域。共に人の条理を逸脱している。

 それこそがサーヴァントの戦い。聖杯戦争における闘争代行手段。ムーンセルが選定する超常の存在たち。

 再現される英雄神話(マイソロジー)。その武勇は英霊の称号にふさわしい。

 

 であるならばその戦いは互角であるのか――答えは、否である。

 

「っ――――!」

 

 この場における優劣は明らか。

 振るわれる軍刀を双剣が受ける。受けて、流して、防いで、その繰り返し。

 傍目にも明確に、アーチャーは甘粕に対して劣勢を強いられていた。

 

 元より赤い騎士のクラスは弓兵(アーチャー)

 決して白兵戦を得手とする身ではないが、相対する男の力量には驚愕していた。

 

 その速度、その威力、その技巧、どれも自らより数段上。

 事実、繰り出される軍刀を、アーチャーは捌ききれていない。

 それほどに甘粕正彦の攻撃は苛烈で、凄まじく、一切の容赦がなかった。

 

 死闘の中でアーチャーの記憶によぎるのは、7回戦にて争った剣の英霊(セイバー)の姿。

 

 かの太陽の騎士(ガウェイン)と、甘粕正彦の剣技の質は近しいものではない。

 細部に至るまで精錬され、全てが極限の練度に修まった騎士道の完成形。理想の姿と謳われた騎士の剣と、甘粕はある意味で対極だ。

 洗練されながらも荒々しく、一撃毎に魂までも込めるかのような雄々しい剣は、生命の力を象徴するかのような熱を帯びている。

 性質としては真逆に位置する両者の剣。だがその脅威度は同等であるとアーチャーは判断した。

 

 甘粕正彦が人間であるという認識はとうに捨てている。

 白兵戦において己は甘粕に劣ると判断。しかして赤い騎士とて聖杯戦争を勝ち抜いた猛者である。

 未熟なマスターと重ねた激闘の数々。強いられてきた苦戦は、英霊たるアーチャーをして小さくない糧として身に刻まれている。

 

 劣勢の中でアーチャーを支えるのは、愚直な修練の果てに得た鉄の心。

 『心眼』と呼ばれる戦闘経験からの洞察力が、ここまでの戦闘を繋いでいる。

 

 それはいうならば攻撃箇所の調整だ。

 自ら致命的と呼べる隙を作ることにより、その一点に攻撃を限定させる。

 通常ならば対応しきれぬ力量差でも、その攻撃が読めていれば凌ぐことが可能になる。

 無論、それは致死の一撃を受ける危機に常時晒されることを意味する綱渡りだ。

 それでも、即死を恐れて傷を負い消耗するよりも、生か死かの綱渡りにこそ活路を見出した。

 

 戦意に衰えはない。勝機は必ずある。

 現状においても、予測できるだけで二十合は隙を作り(・・・・)凌ぐことが出来ると判断して――

 

「――ふむ。手法を変えるか」

 

 突如としてよぎった悪寒。

 感覚に従いアーチャーは退がり、そこにこれまでを超越した力の一撃が炸裂した。

 

 ――穿たれたのは水面の大地。表層を抉られ、剥き出し情報体がその姿を晒している。

 

 粉砕されたその跡は、これまでと破壊の規模が違う。

 寸前までとは剣の質が違いすぎる。重なっていたセイバーの姿はもはや見えない。

 そこに連想されるのは別の難敵。ラニ=Ⅷの従えた狂戦士(バーサーカー)の英霊の暴威だった。

 

「オオオォオォォォオォオオオオオォオオオォォォ!!!!」

 

 雄叫びを上げながら、渾身の力を込めた一撃が振り下ろされる。

 隙の有無などお構いなしに繰り出される暴力は、これまでの心眼では推し量れない。

 一切の行動を放棄して回避に専念。その衝撃は触れていないにも関わらず肉を斬り裂き血を流させた。

 

 あまりにも性質が変わりすぎている。安定した走りを見せる高速車両が、突如として暴走列車に変貌したかのような切り替り。

 これが甘粕の本性か。先ほどまでは偽りか。いいや否だ、どちらも甘粕の持つ技量の一端である。

 

 容赦なく攻撃を繰り出す甘粕であるが、彼は決して勝負を急いではいない。

 これほどの激戦を演じながら甘粕の頭にあるのはどこまでも試練なのだ。相手が倒されるよりも反撃こそを期待している。

 つまりは試しているのだ。己の繰り出す一撃を相手がいかに攻略するか、その雄々しい姿を熱望して待っている。

 

 本来それは驕りとも言い換えられる。己は試す側、つまり相手よりも上だと無条件で豪語しているのだから。

 そうしたものは通常、戦いにおいて隙となるものなのだが、甘粕正彦のそれは極めて畸形である。

 

 仮に、必殺を期した一撃を防がれたとする。

 その時に感じるものとは何か。多くの場合、それは相手の力量に対する驚愕か、誇りに泥を塗られたことへの怒りだろう。

 だが甘粕正彦の場合、それは期待に応えてくれた相手への歓喜と、自らを向上させようとする奮起となる。

 

 よくぞ防いだ素晴らしい。ならば己もより強く在らねば、と。

 

 常識を外れた思考回路は、しかし戦闘に臨む心として一つの理想に到達している。

 なにせこれ、折れることを知らない。如何なる反撃を受けようと怯まず、奮い立って更なる反撃を繰り出すのだから。

 課す試練には手加減というものがない。生半可な攻勢では試練となり得ないと感じており、結果として隙がなくなる。

 勝負を急いでいないからと、その現状に甘えようものならば即座に戦術を切り替える。緩むことを相手に許さない。

 

 そして苛烈がすぎるその試練に付いてこれなくなった者に待つのは、ただ無残な敗北である。

 

「くっ――――!」

 

 漏れた苦悶は狂わされた計算へ向けたものか。

 もはや先までの心眼は通用しない。今の甘粕の力はアーチャーの予測を超えている。

 

 であるなら、先程よりもアーチャーは追い詰められているのかといえば、それも異なる。

 

 技も戦術もなく振るわれる暴力は、まさに狂戦士のそれ。

 全てを力に割り振った一撃は凄まじい。だが引き換えにそれまでの洗練された技の冴えは失われている。

 突破口はある。暴れまわる狂戦士ならば、そのようにいなせば良い。すでに隙は見出している。

 

 そう、隙は存在しているのだ――見え透いているほどに。

 

 洞察している、これは誘いだと。

 忘れてはならない。甘粕は狂化の檻に囚われているわけではない。あくまで理性的な判断の下、自らの戦略に従って手法を変えているのだ。

 突破可能な隙を自ら作り、敵にそこを攻撃するよう誘導する。他ならぬアーチャー自身が用いていた戦術だ。

 ならば誘いに乗らなければ、というのは甘い見通しだ。甘粕の暴威は強力無比。迂闊な攻め口ならば容易く叩き潰される。

 目に見えた突破口は、裏を返せばそれ以外の道が存在しないことを意味している。反撃を考えれば、結局はそこしかない。

 そして甘粕の気質を考えるに、恐らくそれは更なる苦難の道へと通じている。そこに乗るのが正しいか、赤い騎士は判断しかねている。

 

 危険であると経験は告げる。

 しかしこのまま徒に消耗を強いられるのも得策ではない。

 

 進むか、退くか。迫られる決断にアーチャーの意思が揺れる。

 

『――アーチャー』

 

 刹那、赤い騎士に届いたのは自らのマスターである少女の念話(ことば)

 紡がれたのは自身の呼び名。共に授けられる能力強化のコードキャスト。

 

 余計に言葉を重ねる必要はない。それだけでマスターの意思は伝わった。

 

 赤い騎士に微笑が浮かぶ。

 いつからだろう。こんなにも彼女(マスター)の言葉を頼もしく思えたのは。

 始まり(スタート)は誰よりも弱かった彼女。意志なく揺れるその背を押したのは一度や二度ではない。

 それがいつしか、自分の方が背を押されるようになっていた。彼女の決断に従う自分がいた。

 

 ああ、まったく――大したマスターだと、心からそう思う。

 

 そんな誇りある主人(マスター)に対し、従者(サーヴァント)たる自分がすべきことは何か。

 決まっている。応えることだ。彼女の期待に、この身が持つ技の全てを振り絞って。

 如何なる苦難であろうと怯むには値しない。我が身はサーヴァント、彼女だけの英雄である。

 そこにどれほどの試練が待ち構えていようとも踏破してみせる。それでこそ英雄というものだろう。

 

「――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ むけつにしてばんじゃく)

 

 決意が定まる。もはや進む意志に迷いはない。

 取るべき手段は一つ。甘粕正彦がこちらの反撃をも予測して待ち構えているというのなら。

 

 その予測を上回る必殺、己の持ちうる奥義を以て思惑ごと粉砕するのみ。

 

「――心技、泰山ニ至リ(ちから やまをぬき)

 

 アーチャーの双剣が投擲される。  

 干将莫耶。陰と陽に分かれた夫婦剣。

 その軌道は弧を描き、二つの刃は左右より甘粕を挟み込む。

 

 対し甘粕が返すのは渾身の力を込めた軍刀の横一閃。

 並の者ならば容易く砕かれるだろう宝具による挟み撃ちを、ただ己の剛力を以て容易く弾いた。

 

 己の武器を手放した赤い騎士に、甘粕は容赦はしない。

 狂い乱れる暴れ馬の如き勢いはそのままに、猛進し繰り出さんとするのは闘争本能が生み出す剛の一撃。

 賢しく流すことなど許さない無双の力を前に、得物なしで迎撃することは無謀の一言でしか言い表せない。

 

「――凍結、解除(フリーズ・アウト)

 

 ゆえに手にはすでに新たな得物が用意されている。

 再び投影された双剣。進撃する甘粕に対し、アーチャーは正面から迎撃の構えをとる。

 

 同時に、甘粕の背後を二つの刃が再び襲いかかった。

 

「ぬゥ――――!?」

 

 背後から迫る二つの殺意を、甘粕は神速の反応で防御し、弾く。

 単なる狂戦士であったならば殺れていた。凌いでみせた技量は狂気の内のそれではない。

 狂乱の暴威も所詮は手法の一つ。不要になれば引き戻すことも容易い。すでに先までの技の冴えを取り戻している。

 やはり流石というべきだろう。甘粕正彦の強さは浅くない。戦士としての完成度は完全に赤い騎士の上をいっている。

 

 しかし見るがいい。才なき身が強者に適わぬ絶対はない。

 凡夫の描く技といえど、磨き続ければ最強を崩す牙となり得るのだと。

 

「――心技 黄河ヲ渡ル(つるぎ みずをわかつ)

 

 手の双剣が再び投擲される。

 背後への迎撃。結果としてその正面は無防備を晒している。

 これ以上はない隙を突き、双剣は敵の身を食い破らんと迫り――

 

 その一撃すらも、甘粕正彦は防ぎきった。

 

「――唯名 別天ニ納メ(せいめい りきゅうにとどき)

 

 甘粕の防戦はまさしく英雄の所業。

 生半なサーヴァントであれば今の一撃で終わっていた。

 紛れもなくその力量は大英雄の領域。仕留めるには二手では足りない。

 

 ――だからこそ、その次を持つこの奥義は必殺たり得るのだ。

 

「――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら ともにてんをいだかず)

 

 干将莫耶オーバーエッジ。

 構造強化されて投影され、鳥の広げた翼の如く肥大した刀身はもはや大剣の域にある。

 長大なリーチと威力を持った双剣をアーチャーは繰り出す。更にそこへ弾かれた計4本の剣が飛来した。

 

 これこそが夫婦剣・干将莫耶の持つ特性。

 陰と陽。それぞれに対となる属性を持つこの双剣は、磁石のように互いを引き寄せ合う。

 すなわちその手に干将があり莫耶がある限り、剣は自動的に持ち主の元まで舞い戻ってくる。

 そして3組の双剣が引かれ合う交錯点。そこには甘粕正彦がいた。

 

 ――これにて完成。

 

 真作を持たない贋作者たる赤い騎士の至った必殺の型。

 振るわれる大剣、引かれ合う夫婦剣の包囲網はすでに脱出不可能。

 もはや死に体となった甘粕の剣に、これを凌ぐ術は存在しない――

 

「――見事。凡百が至った執念の境地、堪能させてもらったよ」

 

 決着の瞬間、突如として無数の炸裂音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――甘粕正彦は英霊を取り込んだ。それは単なる模倣の意味とは異なるものだ」

 

「師より教えを授かる弟子のように、教えられた技を我が物とすることだ。

 会得した技を自らの力で発達させ、新しい形へと変化させることだ」

 

「正彦の剣は正彦のもの。サーヴァントの技ではない。

 元より人の極地に立っていた正彦は、英霊という膨大な経験値(リソース)を得ることでその強さを魔人の域に至らせている。

 そこから得られたものは様々だが、それでも一つ言及するとすれば――」

 

「――正彦が召還したサーヴァントのクラスは"弓兵(アーチャー)″だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決まったと思った。

 アーチャーの繰り出した奥義・鶴翼三連。あれはアーチャーの持つ切り札の一つだ。

 これまでの戦いで何度もあの技が決め手となった。その必殺性は疑っていない。

 

 甘粕に逃れる術はない。確かにそう思った。

 しかし刃が届こうとしたその時、"何か″が宙を舞う干将莫耶を全て撃ち落としたのだ。

 

 それは、甘粕の背後より現れたもの。

 戦場を変えた新たなる武器の形。槍や弓という戦場の主役を過去のものとした。

 その武器の登場を皮切りに、戦場の形態は変化していく。戦技を競う場は淘汰され冷酷な戦術のみが支配した。

 すなわち近代化への移行。その原点として、極東の島国においてはあまりに有名な"銃"の概念。

 

 その名――火縄銃・種子島。

 

「これは"彼女(アーチャー)″の宝具だ」

 

「受け取った意志は今も我が胸にある。革新を目指した王の姿、感じ入ったその有り様に恥じることがないように」

 

 燃える鬼火の中より新たな銃が形を成す。十丁、二十丁と増え、次々と。

 築かれていく種子島の総列。主君に率いられるその偉容は、かつて"天下″に届こうとした軍団のそれか。

 

 それを戴く英雄の姿として、甘粕正彦の佇まいには不足も違和感もなかった。

 

「そして覚悟して受けるがいい。天下に覇を唱えた轟砲は軽いものではないぞ」

 

 その言葉を引き金として一斉砲火が放たれた。

 

「くっ――――!」

 

 再び投影した双剣で銃撃を防いでいく。

 いかに銃弾といえど、アーチャーは英霊だ。一発一発を弾き落とすことは難しいことじゃない。

 

 だがこれは数が違う。

 弾込めもせず次々と使い捨て入れ換えられる種子島は途切れる様子がない。

 

 種子島という武器は単体では決して宝具となり得ない。

 その本質はどこまでも兵器。一丁の真贋に重さはなく、いかに数を揃え量を投入するかに意味がある。

 ゆえにその宝具は群として成立する。小さな島国に当時世界最多の銃をかき集めた戦国の意志。それが形となった幻想(ほうぐ)なのだ。

 

 その弾幕はもはや点ではなく面の攻撃。

 アーチャーは一定箇所に留まらずに駆け回りながら回避を行うが、それでも完全に逃げ切れるものではない。

 時間の経過と共に被弾は増える。回復のコードキャストで援護するが、消耗していくことは避けられない。

 

 対して、アーチャーの攻撃は未だに届いていない。

 決してアーチャーの技量が低いんじゃない。僅かな間隙から撃ち込む弓矢の三点射。人には不可能な芸当だ。

 しかしその矢は届くことなく、正確無比な種子島の迎撃により悉く撃ち落とされている。そしてその間にも攻撃の手は緩まない。

 単純に手数が違う。単体ならば脅威ではないが、数が揃えば恐ろしいまでの堅牢さだった。

 

 このままでは追い詰められる。こちらがそう思う中、甘粕自身が動きをみせた。

 

 並び立つ種子島の内一丁を手に取る。それを甘粕自身で構え、自らの手で直接撃ち放った。

 無数の砲火の中に紛れる一発の銃弾。マスターである岸波白野(じぶん)にはもはや識別できない。

 

 しかし鷹の目を持つアーチャーの眼を通し、その驚くべき事象を目の当たりにした。

 

「っ! くぅううう――――!!」

 

 その軌道が曲線を描く。標的を捉え損ね、無為に消えるはずだった銃弾は、再び獲物に向かって牙を剥いた。

 それはさながら魔弾の射手。意のままに追いすがり、相手に必中する伝承のように、銃弾は敵の喉笛目掛けて自由自在に突き進む。

 回避は悪手と判断し、アーチャーは手にある干将で迎撃する。だが激突の結果、銃弾と共に干将の白い刃は砕け散っていた。

 

 それは驚愕すべき結果だった。

 いかに投影とはいえアーチャーの剣はまぎれもなく宝具。それをたったの銃弾一発で砕いたのだから。

 しかし驚いてばかりではいられない。自分は司令塔(マスター)、こういう時こそ冷静に敵の手を判断しなくては。

 

 いったい何が起こったのか。目にした情報とこれまでの経験から分析する。

 詳しいことは分からない。だがおそらく、あれはコードキャストの応用ではないのか。

 まず自在に軌道を変化させ相手を追尾する効果を実現させたのは『射出』の術式(コード)

 そして干将と衝突しその刃を粉砕せしめたのは、相手の術に何らかの影響をもたらす『解体』の術式(コード)

 二つの術式(コード)を銃弾に上乗せ(インストール)し、あの恐るべき魔弾を実現させたのではないか。

 

 単発では脅威でなし。そんな認識すら甘いと覆される。

 ただの一発とてそれは凶器(ほうぐ)だった。その弾丸は宝具をも粉砕する威力を秘めている。

 

「づっ――――!」

 

 そして得物の喪失は、すなわち迎撃の手数の消失だ。

 被弾の頻度が増す。二本ならば迎撃できていたものが、一本では不足となる。

 新たな剣を投影する必要がある。だがこの弾幕の中、迂闊な投影は致命に繋がる。

 現状を打破するには剣が要る。だが大掛かりな投影をその都度行っていては敵の銃火に間に合わない。

 

 そう、いちいち取り出しているのでは遅すぎるのだ。

 

『――マスター』

 

 アーチャーから念話が届く。

 その意図は明白。こちらにも反対はない。

 出し惜しみなんて出来る相手じゃない。全力を尽くして挑まないと活路はないと分かったから。

 

 ――アーチャー。宝具の使用を。

 

「承知した、マスター……!」

 

 これよりアーチャーが使うのは、彼の切り札にして全て。

 彼が用いる魔術(とうえい)は、これより漏れ出た一端にすぎない。

 それはアーチャーの心象風景。自身の心をカタチにし現実へ上書きする大禁呪。

 

「――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 

「――Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 

「――I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

 詠唱の中でアーチャーは自身の内へと埋没する。

 生涯を剣の如き孤高の鉄心で生きた彼の、その言霊は生き様を表すものか。

 

 だがその行程は通常の投影の比ではない。

 発生する隙は避けようがなく、そこを見逃すような温さを甘粕正彦は持ち合わせない。

 展開される種子島。再びの一斉砲火が放たれんとして――

 

「ぬっ――――!?」

 

 それをくい止めるのがマスターたる自分の役目だ。

 

 使用したものは『隠者の鏡』と呼ばれる礼装。

 相手の攻撃意欲に反応し、一時的な麻痺症状を引き起こす簡易術式(コードキャスト)

 生じた効果により攻撃は中断。一斉砲火は不発に終わった。

 

「――Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)

 

「――Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 

「――Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 

 だがそれもあくまで一時的なもの。

 稼げたのはせいぜいが一手分の猶予のみ。

 未だ銃口群は主の号令を待っている。今度は止める手立てはない。

 

 ――だが、すでにその必要もない。

 元より甘粕を相手に自分が稼げる猶予など一手が限度。

 その一手分の間隙の中で、アーチャーは自身を守護するための盾を内の丘より取り出していた。

 

 火を噴く種子島の銃撃を七枚羽の盾が受け止める。

 真名の解放なしに展開されたその盾は虚ろ。本来の強度には及ばない。

 それでも十分。残り僅かな間隙を生み出すにはその守護で十分すぎた。

 大英雄の投擲にすら耐え切った鉄壁の守り。たとえその域に至らずとも、銃弾如きに崩されるほど脆弱ではない。

 

 そして、最後の二節が紡がれる。

 

「――Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

 

「――So as I pray,UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた)

 

 ――その真名と共に、詠唱は完成した。

 

 炎が走る。

 燃えさかる火は壁となって境界を造り、内側を変革していく。

 顕れたのは荒野。錬鉄の歯車を廻す、無数の剣が乱立する丘が広がっていた。

 

 この世界こそアーチャーの宝具。

 固有結界(リアリティ・マーブル)。世界を侵す術者の心象世界の具現化。

 

 ――――世界の名は、無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

 

 無銘の英霊、その生き様の果てに得た唯一の答えがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっは、ふははははははははははははは!!!!」

 

 錬鉄の荒野に立ち、甘粕正彦は大笑する。

 

 周囲には大地に突き立つ無限の剣。その主たる"弓兵(アーチャー)"の名を担いし赤い騎士。

 創造された世界において甘粕は孤立無援。まぎれもなく窮地であり、追い詰められて然るべき場面だろう。

 

 だが甘粕正彦は違う。

 魂はこれまで以上に奮え、気迫は段階を跳ばして増していく。

 無数に存在する宝剣、聖剣、魔剣らを見据えながら、それら全てを相手取る事にもまったく怯まない。

 

 再び種子島を展開する。

 今度は背後の空間だけに留まらない。甘粕を中心とした全方位に銃口の列が出来上がる。 

 それは世界に対しての真っ向勝負の構え。退く気はなし、正面よりぶつかり合うと豪語していた。 

 

「――――来い!」

 

 襲いかかる剣の群。迎撃に放たれる銃火の嵐。

 (ほうぐ)の刃が主の意に従い、大地より放たれ敵を斬り裂かんと閃く。

 (ほうぐ)の引き金が引かれ、迫る刃を撃ち落とし敵を射抜かんと火を噴く。

 まさしくそこは無数の殺意が交錯し、敵を喰らわんと唸りを上げる弩級の修羅場。

 剣製の世界は、剣戟と銃声が響きわたり、鉄と硝煙の匂いに満ちた鉄火場と化した。

 

 その中で優位に立つのは赤い騎士である。

 剣の丘に突き立つ無数の剣。それらはただ一本の例外もなく全てが宝具。繰り出される威力は必殺の名にふさわしい。

 対し甘粕の種子島は消耗品。銃撃一発の重さは宝具の一撃には遠く及ばない。迎撃のためには数を用いる必要がある。

 だがその手数の差も無限の剣を内包する世界の中では埋められる。今度は甘粕の方がその火力に押されていた。

 

 通常であれば、このような事態は有り得ない。

 宝具とはその英霊を象徴とするもの。苛烈なる生涯の果てにある究極の一。本来その数は多くとも二つや三つが関の山という所。

 だというのに大地に突き立つ剣の群は無限の如く途切れがない。その異常事態、如何なる英雄でも瞠目せざる得ないだろう。

 

「なるほど、贋作者(フェイカー)か」

 

 異常の答えはそれである。

 赤い騎士は幻想(ほうぐ)を担う者ではない。彼は造る者。贋作者たる姿こそが真骨頂。

 世界に突き立つ剣はどれも贋作。自らの力で勝つのではなく、勝てるものを模倣し創造することこそが本質だ。

 

 それは凡夫の身に許された唯一の幻想。

 王道ではない。それでも為したい事を為すために手を伸ばした力。

 苔の一念で鍛え上げて貫き続けて、果てに辿り着いた境地である。

 

 ゆえにその贋作は真に迫る。

 全てが偽物といえど有する力は本物。一撃の重さは蓄積された幻想の重みである。

 使い潰されることを良しとする兵器の群では、剣製の丘に敵う道理はない。

 

「いや素晴らしい。贋作といえど、その道を尽くすならば一つの(まこと)。見せてもらったよ、感服した」

 

「だが足りんな。これしきで負けてはいられんよ。背負う重みがあるのはそちらばかりではない。

 ああ、要は男の甲斐性というやつだ。この宝具を使うにあたり、無様を晒しては彼女に面子が立たんだろうが」

 

 だがその道理に甘粕正彦は真っ向から対峙する。

 至った世界(かいとう)、実に見事。だが俺の幻想(ほうぐ)とて負けてはおらん。

 おまえたちに絆があるように、俺にもまたそれはある。我が戦友(サーヴァント)、その生涯の重さはこの世界と比してもなお勝ると信じているのだ。

 

 猛る意志のまま、甘粕は新たな兵器を創形する。

 形を成していくそれは種子島か、いいや否。これはそんな規模のものではない。

 種子島は象徴ではあるが全てではない。王の覇道の渦中で生み出された兵器は全てが『革新』の概念。それらは余すことなく宝具の一部として納められている。

 その中でもこれは最大規模。豊潤な財源と対策必須の難敵、二つの要素により実現した"世界初″の規格外が現出する。

 

「聖剣、魔剣……伝説に謳われ英雄の象徴となる宝具。たしかにそれらも悪くはないがな」

 

 現れたのは巨大な船。

 鋼鉄の黒に覆われた威容は焙烙火矢に対抗するべく纏わせた鉄の装甲。

 そこに宝具としての華はない。信仰の対象となり得る神聖さなど持ち合わせない。あるのは無骨なまでに重厚な兵器の意志。

 矢倉からは無数の種子島が突き出し、さながらそれは銃口に覆われた針鼠。上に建つ壮健たる天守閣は、まさしく水上に浮かぶ城そのもの。

 そして先頭に装備された大火砲・大筒三門。その存在感は否応なくこの巨船を闘争のためのものだと告げていた。

 

 この船は神の手による創造物ではない。精霊や祈りといった神秘の類で編まれたわけでもない。

 これは純粋なる人の業。未知を開拓し理を知って作り上げた現実の産物だ。

 

 巨船の名を、『鉄甲船』という。

 

「俺には兵器(こちら)の方が性に合っているよ。前進しようとする人の意志を感じられる。

 在りし日が素晴らしいからと、いつまでも囚われていては進歩はあるまい」

 

 放たれる宝具群の悉くが鋼鉄の装甲にはね返される。

 敵軍の如何なる攻撃も寄せ付けなかったという船の逸話。宝具と化して昇華された幻想は、鉄壁の物理防御性能を発揮する。

 迎撃には備えられた種子島。更には偉容を示す大筒三門が火を噴き、剣群の一角を吹き飛ばす。

 攻守ともにそれは堅牢そのもの。いかに無限の宝具を備えた剣の丘といえども突破は容易ではない。

 

 その天守閣の頂に立って、甘粕正彦は高らかに叫ぶのだ。

 

 どうだ見ろ、凄まじいものだろう。

 まだ戦場に槍や弓が並んでいた時代に、こんなものを作り出そうというのだぞ。

 これぞ革新を目指した人間の意志。乱世(しれん)の果てに成した輝きの結晶だとは思わんか。

 なあ、おまえはこれをどう思うのだ?

 

「――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

 だが赤い騎士とて未だ健在。

 圧倒される船の威容にも怯まず、宝具を弓につがえる姿に敗退の気配はない。

 その後方には無数に投影された剣群。全力で展開されたそれらの宝具は、何より如実にアーチャーの意志を伝えている。

 すなわち、退く気はないと。

 

「ハ――――!」

 

 徹底抗戦の構える赤い騎士。そんな敵手の意志を甘粕は歓迎する。

 手が複数の印の形をきる。術式が展開され、共に創形されていく種子島、大筒、等々。

 空間を埋めつくしながら展開される兵器群。その総数は、もはや一目で数えきれるものではない。

 

 その意志に応えよう。準備はすでにできている。

 アーチャーの剣製に、甘粕の兵器創形。互いに主の号令を待ち、激突の瞬間を望んでいる。

 

「――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

 放たれた(ほうぐ)と共に一斉射出される剣群の雨。

 再び火を噴く大筒三門。同時に引き金を引かれた鉄砲、大砲の総列。

 

 ――――剣戟、銃声、突き穿つ刃、炸裂する砲火、衝撃、閃光、轟音、火炎。

 

 巻き起こる大破壊が世界を揺るがして吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさしくそれは災禍の光景だった。

 

 穿たれた大地を覆うのは炎。空には黒煙が立ち上って視界を閉ざす。

 突き立っていた無数の剣は悉くが砕かれて、無残な残骸の姿を晒している。

 作られた世界の上に刻まれた破壊跡。目にすればあの激突がどれほどの規模であった理解できた。

 

 状況はほとんど把握できていない。

 激突の瞬間は目を閉じていたし耳も塞いでいた。まともに受けていたらどちらの感覚も破壊されていただろう。

 それでも確かに言えるのは、アーチャーはまだ健在だということだけだ。

 

 たとえ何も分からない中であっても、令呪を通したラインだけは常に確認している。

 ラインはまだ通じている。固有結界だって消滅してはいない。大丈夫、アーチャーは無事だ。

 

 そんな自分の信頼に応えてくれたように、黒煙の中からアーチャーが姿を現した。

 

 さすがに無傷ではない。

 すぐにコードキャストでダメージを回復させる。

 

「ああ、すまない。恩にきるよ、マスター」

 

 ううん、無事で良かった。

 それより甘粕正彦は?

 

「……さて、手応えはあったが」

 

 言葉とは裏腹にアーチャーの声には自信がない。

 言わんとしている事は訊かずとも分かった。

 これだけで終わるとは思えない。あの甘粕正彦という男が。

 

「――実に見事だ。まずは称賛を言わせてくれ」

 

 こちらの思考に応えたように、黒煙の中から声がする。

 晴れていく視界に映ったのは、捻れた大穴を空け轟沈していく鉄甲船の姿。

 炎の中に沈んでいく黒船の上に甘粕は立っていた。

 

「引き出されるサーヴァントの力。それを支えるマスターとの絆。どれも不足はない。

 認めよう。おまえたちこそまさしく聖杯戦争の勝者にふさわしい主従であると」

 

 船の上から降り立ち、こちらと地平を同じくしてから甘粕は告げる。

 

 今度は彼も、無傷では済まなかった。

 身体のいたる箇所に刃の痕を残し、血を流している。

 だがこちらを讃える言葉を口にする彼に、自らの負傷を気にしている様子は微塵もなかった。

 

「元より分かっていたことではあったがな。この身で直に味わうのではやはり違う。

 改めて思うよ。最弱の身からよくぞここまで完成した。おまえこそ人の持つ可能性の証明だと」

 

「どうやら褒め殺しがそちらの趣味のようだが。だとしても随分と節操のない。

 御覧のとおり、ここにある物は全てが紛い物。己以外の者が至った行程を再現しているだけの贋作たちだ。

 王道ではない。真っ当な道筋を歩んだ英霊からすれば、武器も技も他から掠め取ってくるこの世界を好ましくなど思わんだろう。

 それを理解しても尚、貴様は見事と称賛するのか?」

 

「無論だよ。これほどに極まった鋼の意志を目の当たりにして、認めぬことなどそれこそ有り得ん。

 王道ではない? 結構ではないか。邪道とて一つの道には違いない。そこでしか為せんこともあるだろう」

 

「なるほど、懐の深さは大したものだ。しかし全てを肯定するという事は、裏を返せば全てを否定しているのと同義。

 貴様は信念の肯定者にはなれはしても、真実の理解者にはなり得ない男だよ」

 

「これはこれは、なかなかに鋭い指摘だな。確かにそうした側面があることは否定できん。

 だがこれだけは言わせてもらおう。俺とて何から何まで認めているわけではない。

 言ったはずだがな。俺は今の世の惰弱な意志を憎んでいる。安寧を貪るばかりの人間を認めることは出来ん。

 総てを愛している、とまでは言わんよ」

 

「何の信念も覚悟もない輩が、臆面もなく正義を公言して憚らず、物知り顔で見当違いの道理を抜かす姿。ああ、反吐がでる。

 太平の世とは得てしてそうした奴輩が蔓延りだす時期でもある。現在の管理と安寧の社会はその極みだろうさ。

 意志なき者が理念を語ったところで、いったい何の重みが宿る。魂の劣化を招く堕落腐敗、その温床となっているものは断たねばならん」

 

「そのためならば悪さえも許容するか。強い意志が伴っていれば、他者に犠牲を強要する行為すら素晴らしいと。

 ……なにが悲劇を憎むだ。貴様の考え方こそ、理不尽に倒れる弱者を生む要因となるもの。悪と呼ばれる理念そのものだ」

 

「矛盾しているつもりはないぞ。虐げられる弱者、理不尽に起きる不幸、悲劇を俺は憎んでいる。断言してそう言おう。

 だが同時に、他者を犠牲にしてでも事を為そうとする意志を否定するつもりもない。そうした悪の意志でしか成し得ない事もある。

 そうした悪意に抗い、自身と大切に思う誰かの尊厳を守らんとする善の意志も、また然りだ」

 

 アーチャーと甘粕の主張は、どこまでも平行線だ。

 

 自分は今でも甘粕正彦が悪なる人物だとは思わない。

 地上では凛が肩を並べていたように、その気質はきっと多くの人達を勇気付けて導いてきたに違いない。

 あるいは甘粕正彦とは、停滞する世界に新たな風を起こすべく生まれた"英雄"なのかもしれない。

 

 けれどそれはアーチャーとは噛み合わない。

 『理想』のために人々を救い続けたアーチャーと、『人間』のために人々を苦しめようとしている甘粕正彦では、致命的なまでに思想が食い違っている。

 たとえどちらも善の意志からくるものであっても、両者の道が交わることは決してないのだろう。

 

 ……それでも、二人には奇妙な共通点がある。

 

 二人が掲げている正義は、どちらも大衆の視点からは受け入れ難いものだ。

 多くの命を守るために少数を殺戮する正義、人間の尊厳を取り戻すために試練を課す魔王、どちらも『必要悪』と呼ばれる概念。

 程度の差はあるだろう。しかし二人の持つ思想そのものは人間にとって確かに必要となるものでもある。

 

 ならば、より求められているのは、いったいどちらなのだろう。

 

「善悪の定義とは所詮、主観的な見方の問題だ。その場限りの視点で推し量れても、それのみで価値を判断することは出来ん。

 なぜならば、例え今の人々の価値観から悪とされる行いでも、後の結果として見れば世に益をもたらす事例は往々に存在する。

 世界を整え規範を与えるのが善ならば、時にそれを壊し世界に新たな前進をもたらすのは悪なのだろう。その真価は後にならねば測れない。

 物事に絶対の正解答などない。どちらも人の持つ側面、光と成り得る意志の輝きだ。俺はそれを認め、尊んでいるというだけの話」

 

「――たとえば、そう。こんな人生(ひかり)などは如何かな?」

 

 途端、甘粕より異様な気配が立ち昇る。

 こちらを圧するほどに高まりを見せる甘粕の魔力。この圧力は間違いない、宝具を発動した証だ。

 

 アーチャーに動揺した様子はない。

 如何に会話を挟んでいたとしても、未だ戦闘の最中だということは彼が一番分かってる。

 常に警戒を怠らず、相手のどんな行動にも即応できる構え。どんな攻撃であれ応じてみせると言っている。

 

 だが予想に反して、甘粕の起こした現象は攻撃ではなかった。

 直接危害を加える現象は起きてない。代わりに視界の先、剣製の荒野の果てに今までに無かったものが映っている。

 さながらそれは蜃気楼。世界を上書きする類のものではなく、ただ見えているだけの映像のようなものだと確かに分かる。

 

 映っているのは、一帯を包み込んだ炎と、それに焼かれていく寺院の姿。

 総てを焼き尽くしていく大火。しかしその情景は恐怖や忌諱といった類とは別の感情を呼び起こしている。

 これは、物悲しさだろうか。これまでの宝具の苛烈さとは違う、なにか儚さとでもいうべきものを感じられて。

 

 ――なぜか自分は、かつての災害(おわり)の光景を幻視していた。

 

 甘粕が兵器を創形する。

 形を成したのは種子島。それ自体にこれまでと変わる何かは見られない。

 けれど今はあの謎の宝具の存在がある。その正体が不明である限り、どんな攻撃でも油断はできない。

 

 その警戒はアーチャーも同じであり、だから備えはすでに用意している。

 

 引き金に手が掛かる。

 対しアーチャーが構えるのは、彼が最も信頼している最高の守り。

 如何なる攻撃であろうと届くことはない。その上で宝具の性質を見極めようとする判断は、確かに妥当なもので。

 

 そこに何か、致命的な誤りがあるのではと直感していた。

 

 冷静に相手の能力を測ろうとするアーチャーの慎重さは当然のものだ。

 情報もなく迂闊な攻撃を仕掛けても、手痛い反撃を受ける危険性の方が遥かに大きい。

 少々の危険など省みずに諸共粉砕するような豪胆さは、それに見合うだけの実力を備えた大英雄だけが持っていいもの。

 決して能力面で恵まれていないアーチャーにとって、その慎重さは様々な局面で彼を生き延びさせた武器であるはずだ。

 

 だから、アーチャーの判断は間違ってなんかない、はずなのに。

 嫌な予感は止まらない。けれどその予感が形にならない。どう伝えればいいのか分からない。

 その迷いは一瞬の判断が戦況を分ける戦場において、余りに決定的な遅れだった。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――!」

 

 発射される銃撃に対応し、展開される盾の宝具。

 その真名はアイアス。使い手を離れた武器に対しては無敵となる概念を持つ七枚の守り。

 花弁の如き七枚羽は一枚が古の城壁に匹敵する。アーチャーが持ち得る限りで、それは最強の守護。

 

 故に、勝敗はすでに明らか。

 元より投射物には絶対の特性を持つ盾。銃撃如きでは一枚に傷一つも付けられまい。

 明瞭すぎるその結果。だからこそ発生するだろう何らかの異常をアーチャーは見極めんとして。

 

 ()()()()()()()()()()()()破っ()()()()()()()()()()()()かれ()()()()

 

「がっ――! ぐ、うぅ、馬鹿な――!?」

 

 アーチャーの驚愕も無理からぬほど、それは有り得ない結果だった。

 アイアスの守りは堅牢。その防御性能は今更疑いはない。

 まして種子島とは投射武器。放たれた弾丸による攻撃は、完全にアイアスの特性に嵌っている。

 たとえその守りを崩す何らかの概念があったとしても、干渉があったのならその変質に気づけたはず。

 

 だというのに今の銃撃は、そんな道理の全てを無視してアーチャーに届いていた。

 

 この結果を見て、自分の中でようやく合点がいった。

 アーチャーの守りを破った能力。目の当たりにして幻視した自分の"災害(さいご)"。

 その正体は――

 

「――そうだ。これは"滅び"の概念。天下を目前に潰えた王の結末を象徴とした"宝具(じょうけい)"だ」

 

 広がり映る炎の情景を見る。

 この情景は一人の王の最期。旺盛を極め天下に並ぶ者などなかったはずの王の、余りにも唐突に訪れた滅亡。

 予兆もなく、道理さえも歴史の謎として消えた滅びの無情は、そのままそれを象徴とする概念と化した。

 

 それはすなわち諸行無常、盛者必衰の理。

 人の一生など所詮は一昼夜の夢の如し。ならば人の生み出した幻想もまた然り。

 この世の如何なる堅牢、絶対、不死の存在も、世に生まれて滅びを迎えぬものなど有りはしない。

 故にこの宝具の前ではあらゆる守護が無為となる。その概念が死から遠ければ遠いほどに、逃れようのない滅びを誘発されてしまう。

 

 悔やむ。この窮地を察していながら防ぐことが出来なかった。

 何のために自分がいるのか。直接戦うのがサーヴァントなら、それを支え補うのがマスターだろうに。

 不甲斐ない。幾度となく味わった自らの無力感。それも今回は避けようとすれば避けられたはずなのに。

 

 だがそんな後悔すら、今の状況では後回しにしなければいけなかった。

 

 まともに直撃を受けたアーチャーは重傷だ。

 おまけに滅びの下にあっては癒しすら許されないのか、回復も受け付けない。

 対し甘粕は未だに健在。立ち直ろうにも時間も手段もない状態だ。

 

 打つ手がない。もはや状況は詰みに等しい。次に一斉砲火が放たれれば、敗北は必至だった。

 

「かつて、乱世の世に生を受けた一人の王がいた」

 

 だというのに、甘粕はそれをしなかった。

 

 あと一撃。それで決着がつくというのに、銃を下ろして語り出している。

 どこか懐かしむような口調に悪意は見られない。策略の類でないのなら、本当にただ語っているだけか。

 

 それでも状況を選べる自由はこちらに無い。得られる時間も惜しく、選択の余地など初めからなかった。

 

「曰く、乱世の風雲児。時代に求められるように生まれた王は、自らが生を受けた戦乱の世を是とした。

 決して強者とは言えぬ家柄に生まれながら、天下を目前にまで成り上がる事が出来たのは、生まれた時代が乱世であった事に相違ない。

 強者を追い落とす下克上。既成概念を打ち砕き、新しい方策を生み出す革新の寵児。そして邪魔だとあらば、神仏ですら焼き捨てる鉄血の意志。

 まさしく稀代の英傑だよ。そして同時に、乱世でなければ十全に芽吹くことのなかった気質でもある」

 

「王の掲げた天下布武の意志。動乱の時代にあってもたらされる世の革新こそ必要だと王は知っていた。

 そのためには血を分けた肉親ですら斬り捨てた。逆らうならば女子供とて火をかけた。神も正義も、人を統べて目的を達するために利用する道具にすぎない。

 善と悪、二つの質を併せ持ち、持て余すことなく飲み干せる鋼の信念。自らの判断を迷わない意志の強さだ。

 その有り様は、見方によれば暴君とも言えるだろう。だがその真意は、誰よりも先を見据えた賢君だった」

 

 語られるその内容は、かつて甘粕と共に在ったというサーヴァントの事か。

 

 これまでの経緯で、彼のサーヴァントの真名には見当が付いている。

 戦国に生まれ天下統一を目指した風雲児。多くの新しい価値観を導入した『革新』の王。国内においてその知名度で並ぶ英雄は存在しない。

 伝承の類ならば自分でも知っている。だが実際にその人物を知るのは、共に聖杯戦争を戦い抜いた甘粕正彦だけなのだ。

 

「そのことは歴史が証明しているだろう。王が行った改革は間違いなく民草の益となった。後の世にも至るその貢献度は計り知れん。

 その事業は、争いを嫌い秩序を謳うだけの名君や、世の理と救済を説く聖人にはできない事だろう。

 たとえ、誰からの理解も得られなかったとしてもな」

 

 確かに、語る話には頷けるものがある。

 変革には犠牲が伴われる。たとえ血を流す類でなくても、新しい法で得をする者がいるなら、反対に損をする者がいるのだ。

 秩序を重んじ理想に殉ずる、そんな王はきっと素晴らしい。けれど正義を尊ぶ以上、既存の秩序を乱す劇的な改革は難しい。

 それを成し遂げるには、世界を進ませるには、悪と呼ばれる気質も必要なのかもしれない。

 

 だけど、同時に陥没も見つかった気がした。

 

「そうだ。王の視点は誰よりも遠い。ゆえにその真意は誰の共感を得ることもなかった。

 既成を踏み潰し邁進する王の革新。それは他者の眼からは、我欲に走る魔王の姿と捉えられても無理はない。

 ――ならばこの結末も、あるいは必然だったのかもしれんな」

 

 革新の意志を胸にあらゆるものへと手を伸ばしていく王。その近くにあって、果たして臣下は何を思ったのか。

 確かに王は民を潤わせ、繁栄をもたらすだろう。あるいは欲深なだけの者であれば、それでよかったのかもしれない。

 だが人は決してそれだけではない。乱世を憂い、秩序を築こうとする正義の徒も多かったはずだ。

 そんな者にとって、王の姿はどう映ったのだろう。今まで信じてきた概念を無価値と断じて、破壊を繰り返す王の所業は。

 もしかしたらその姿は、伝承にある通りの"魔王"そのものであったのかもしれない。

 

 伝承においても王は多くの者を惹きつけたが、同時に多くの裏切りも呼んでいる。

 そして最期は、重用していた臣下の謀反による自害。その結末が何よりも、王の生涯の無情を表しているように思えた。

 

「……時に、岸波白野。おまえはこの情景を見て何を思った?」

 

 語り続けていた甘粕からの唐突な問いかけに、思わず声に詰まってしまう。

 

 これまでに比べて、甘粕の声はどこか低い。

 そのことに妙に緊張して、どんな答えを返せばいいか分からなくなってしまう。

 

「元よりそう愉快な光景でもない。細かな感想はあるだろうが、まずはこう思ったのではないか?

 ――こんな光景を、自分に近しい場所で見たくない、と」

 

 答えに窮している内に、甘粕の方で答えを出してしまう。

 そしてその答えは、決して見当違いのものではなかった。

 

岸波白野(おまえ)の気質を考えればそうなるか。そうしたものを忌諱する感情は取り分け強い方だろう。

 この情景は彼女(アーチャー)の滅びだ。その旺盛の時に思い馳せれば、滅びゆく無情に感じ入るものがあろう」

 

 幻視した災禍の風景。岸波白野(じぶん)の元となった人間の最期。

 記憶の無いこの身にもそれだけは刻み込まれている。

 

 この感情を正確に伝えるのは難しい。

 その風景を視ると、どこか別の人間の人生を見ている感覚がある。

 恐怖し囚われているのとは違う。ただ自分という人間の結末を俯瞰している事実が、ひどく悲しい。

 

 死にたくないとあれほど思ったのも、こうして死というものを実感しているからかもしれない。

 あるいはそれこそが、岸波白野の意志の源泉であるのかもしれないが。

 

「感動という言葉はな、心が感じて動くと書く。

 そして人が心に感じ入る時とは、常に強い感情、意志が介在している時だ」

 

「芸術、創作、音楽。それら感動を生むものとは、製作者の強い思いが込められている。気乗りもせずに作った駄作など、誰も見向きもすまい。

 清廉なる正義は見る者に憧憬の念を抱かせる。あるいは人によれば反感、妬みといった劣等感を与えるかもしれん。

 許されざる悪を目の当たりにすれば、真っ当な正義感の持ち主であれば強い義憤を覚えるはずだ」

 

「強き意志が与える影響は、他者を動かしその心に強さをもたらす。そしてそれは必ずしも元の意志と同じ性質とは限らない。

 時には対立者としての悪の存在が英雄を生み出す要因とも成り得る。所謂、反英雄の概念だが。

 俺があらゆる意志を認めるのはそのためだ。人には様々な意志があり、そのせめぎ合いの果てにこそ素晴らしい価値が生まれると信じている。

 ならば悪だとて認めてやらねばなるまい。それもまた人の営みであり輝きの一つなのだから」

 

 甘粕の言っていることは分かる。

 これまでの戦いの中で多くの意志に出会ってきた。幾つもの葛藤と決心がその過程にはあった。

 彼等との対峙の果てに今の自分はいる、それは紛れもない事実だ。

 

 だが、そんな話をなぜ今に?

 

「託す、と言ったな?」

 

 その問いはこれまでとは違う、自分へ直に向けられたもの。甘粕の視線が直接こちらを射抜いてくる。

 熱のない冷徹な視線はこれまでの彼とは明らかに異なり、太陽の如き圧力の代わりに凍り付くような畏怖があった。

 

「人が抱く願い、夢。そうした理想を思い描き、辿り着くための努力をし、それでも尚届かぬが故に他人(ひと)に託す。

 血反吐を吐くほどの悔しさだろう。己の手で成し遂げられない事の無念、その苦しみは当人にしか分かるまい。

 それだけの価値、願いにかけてきた情熱があるからこそ、託すという行為は尊く重い。ならばこそ託される人間も奮起するというもの。

 分かるか? 軽くはないのだ、その言葉は」

 

「託す者がいるならば無意味ではない。確かにそうだが、ならばその意志はどこからきている?

 この世界を間違いだと言うのなら、在るべき正しい世界とは如何なるものだと考える?

 考えがあるのなら、そこに至った切っ掛けはなんだ? 誰かの理念か、経験した何時かの物事か?」

 

「それとも――単に先が無いからか?」

 

 これは、違う。

 ここにきてようやく気付く。甘粕の様子がおかしい。

 あれほどに猛り狂っていた意志の念が、綺麗さっぱりと無くなってしまっている。

 

 その様子を言い表すなら、冷めているというのが正しいか。

 甘粕正彦には似合わない無感動な姿。だがその異常にこそこれまで以上の危険を感じる。

 さながらそれは絶対零度。灼熱の業火の如き熱量が、密度は変えずに一気に反転したかのよう。

 その落差が恐ろしい。方向性が切り替わっただけで、甘粕は少しだって弱体などしていない。

 

 そして考えてしまうのは、その引き金となったもの。

 何か、触れてはならない竜の逆鱗に触れてしまったような、そんな予感が拭えない。

 

「ただ自分には不可能だから、そこに至るまでの未来が自分にはないからと、先を諦めたが故に出た言葉か。

 だとすればあまりに弱い。そんなもので得られるのは同情だけだ。成し遂げる強さなど得られはしない」

 

「……言い方が回りくどいな。迂遠な物言いは俺とて好かん。

 要するにだ、俺はおまえの意志に疑いを持ち始めている。その根幹は自らへの諦観なのかと」

 

 告げられたのは明白な失望の言葉だった。

 

 反論すべきだと、頭では分かる。

 だが口が開かない。甘粕正彦という規格外の意志を前に、生半な意志は形にすらならない。

 自分の言葉では今の甘粕には届かないと、口にするまでもなく分かってしまった。

 

 ――だって、甘粕が言ったことは、岸波白野という存在にとって拭えない欠落であったのだから。

 

「おまえたちを強いと言った。聖杯戦争の勝者にふさわしいと。最弱から至ったその強さを尊敬すると言った事に嘘はない。

 だがそれだけだ。我が悲願を明け渡し、世界を任せるには余りに温い。すべてを託せるとはとても言えん」

 

「このまま潰してしまうのは簡単なのだろうがな。もう少しその意志を信じてみたいという気持ちもある。

 さて、どうするかな? こんなものではないと、未だ奥底に眠っているだろう輝きを引き出すには何が必要なのか。

 ああ、ならばやはり――」

 

 何も答えられない。答えられないままに、甘粕は話を進めていく。

 

 口を挟むどころか抵抗すら出来ない。

 アーチャーの傷は未だ塞がらず、戦う余力はほとんどない。

 語る間でも隙を見せるような甘い相手ではなく、反撃の可能性は絶望的だ。

 時間を稼いだところで好転する兆しも宛てもなく、その気になればすぐにでもとどめを刺されてしまう状況は変わっていない。

 

 相手の結論を甘んじて受け入れるしかない。

 どうすることも出来ずに、甘粕の次の言葉を待った。

 

「――試練が、足りんかな?」

 

 告げてきたのはそんな言葉。

 それだけを残して、甘粕正彦はその姿を消失させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに断言しよう。勝利したのは甘粕正彦だ。

 

 この戦場を聖杯戦争の枠内で捉えるならば結果は明白。

 互いに用いたのは自らのサーヴァントの力。同じ参加者の一組として与えられた条件は五分。

 対等の条件であるからこそ結論は確かとなる。アーチャーには逆転の余地はなく、岸波白野にも反論の余地はない。

 戦いの勝者は甘粕正彦である。もはやこの事実は動かせない。

 

 故に、ここから先は第二幕だ。

 

 甘粕正彦と岸波白野。共に聖杯戦争を戦い抜いた勝利者同士の戦いは終わりを告げた。

 結果そのものは順当に、強者がより強い強者に敗北するというありきたりな顛末。

 互いの力をぶつけ合い、信念を試し合った両者の決闘。その舞台の幕はすでに降りてしまった。

 

 これより先は岸波白野による一人舞台。

 勝利か死か(Sword, or death)、そのような選択の自由はもはや無い。

 許されるのは生存への足掻きのみ。敗北者たる少女にはそれだけが許される。

 

 これは試練、岸波白野のためだけに用意される逃げ場のない絶望(しれん)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不可解さだけを残して消失を遂げた甘粕正彦。

 残された自分達が異変に気付いたのは、さして間もない後の事だった。

 

「っ! 結界が――!?」

 

 赤い空が揺れる。廻る歯車が軋む。

 具現化された心象世界に罅が入る。それは明らかな崩壊の予兆であった。

 

 固有結界という秘奥は決して長時間持続できる類のものではない。 

 人間ならば保って数分。人間を捨て魔性を極めた化外であっても数時間が限度だろう。

 発動にかかる魔力もそうだが、上書きされた法則(せかい)を元に戻そうとする力、すなわち世界の修正力が働くために維持するには莫大な負担がかかる。

 魔力の枯渇した地上においてはもはや遠い過去の幻想。この月であっても世界を侵食するこの力は月の眼(ムーンセル)にとっても修正対象だ。

 切り札を切ったからには勝負に出るしかない。アーチャーにとっても固有結界は後には退けない力だった。

 

 敗北し消耗したアーチャーでは維持など不可能だ。何をせずとも遠からず消えていただろう。

 だがこの崩壊はそれとは違う。まるで外からの力に押し流され、強引に消されようとしているようだった。

 明白な異常事態。一体なにが起きているのか、まるで窺い知れない。

 

 それでも、今この場で何をすべきか、それは見誤っていないつもりだ。

 

 甘粕正彦の消失に従い、彼に連なるものも消え失せている。

 滅びを表した情景(ほうぐ)も今はない。封じられていた選択肢を取る好機には違いなかった。

 

 傷つくアーチャーへ回復を施す。受けたダメージが無くなり、消耗した魔力も全快した。

 用いたのは『エリクサー』。如何なる傷も癒し、消耗した力を活性化させる不死の霊薬。それを再現したアイテム。

 リソースは多くはないが出し惜しむ状況ではない。迷わずに切り札の一つであるそれを切った。

 

「ああ、すまないマスター。あれは私の判断ミスだ」

 

 謝罪なんていらない。自分達は相棒(パートナー)同士なんだから。

 行動したのなら、それは二人の決断だ。どんな失敗だって二人で背負っていけばいい。

 

 自分もアーチャーもまだ生きてる。なら巻き返しは不可能ではないはずだ。

 

「……そうだな。その通りだ、マスター。我々はまだ終わってはいない」

 

 アーチャーが立ち上がる。彼が傍らにいれば、自分はまだ進んでいける。

 甘粕に言われた事は未だこの胸に燻っている。それでも立っていられるなら、抗いながらでも進むのが自分だ。

 

「だが警戒しろマスター。この結界の崩壊は、明らかな外部からの干渉だ。

 仕掛けてくるとすれば、おそらくは崩壊の直後だろう。覚悟だけは決めておけ」

 

 やはりと言うべきか、この現象はアーチャーの意図したものではなかった。

 アーチャー以外で固有結界に干渉することが出来そうな者など、この場では一人しか思いつかない。

 甘粕の性格を考えれば、崩壊の渦中で不意をつくといったやり方は考えづらい。仕掛けるとすれば、崩壊の後だろう。

 そこに待ち構えているだろう試練に対し、覚悟を決める。相手の意図は分からないが、穏やかなものでないのだけは間違いない。

 

 空が割れ、大地に亀裂が走り、廻る歯車が砕け落ちる。

 崩壊していく剣製の世界。心象風景の剥がされた先には元の世界がある。

 身構えて待つ。消え行く世界に足を取られそうになるも、決して倒れまいとしながら。

 

 ――そして、崩壊の先に現れた光景は、覚悟して尚こちらの度肝を抜くものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「甘粕正彦は聖杯を手に入れた。その意味は君が考えているよりも遥かに重い」

 

「甘粕は最上級のマスターであり、彼に応じたサーヴァントも文句のない大英雄。その組み合わせは当然ながら強い。

 並のサーヴァントを圧倒する火力を持ち、あらゆる防御を無意味にする宝具。サーヴァントの気質を尊び、それを十全に支える甘粕正彦(マスター)

 開始の当初から彼の組の実力に疑いはなかった。少年王(レオ)太陽の騎士(ガウェイン)の組と並んで優勝候補の筆頭だった」

 

「だがその実力も、あくまで聖杯戦争の参加者として許された範囲でのものだ。勝者となり聖杯を手にした彼にそんな枠組みは意味をなさない。

 月の聖杯(ムーンセル)に接続し、その膨大なリソースから数多の力を獲得している。無論、持て余すような真似はしていない。

 その力を駆使すれば、これしきの現象などは造作もない。本領はむしろこれからだ」

 

「もう一度言おう。甘粕正彦は英雄を超えている。彼は紛れもなく人を超えた"魔王"の格なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞い戻った空間は、先ほどまでとは一変していた。

 

 まず視界に飛び込んだのは大海原。

 先までの水面の大地にはなかった深さ。ここに至るまでに辿った七つの海のどれとも異なっている。

 空の色は紅に染まり、それを覆い包む黒煙と灰の雲。海の青さえも朽ちゆくものを呑み込む深淵の闇にしか見えない。

 ここには魅せられる幻想など有りはしない。月の舞台には不釣り合いな、しかし戦争という舞台にはこれ以上ないほどに適合した海。

 そう、この海はまさしく戦争だ。甘い幻想など無い、非情なる鋼の掟だけがまかり通る鉄火場の風景がそこにある。

 

 天に座した月の眼(ムーンセル)はどこにも見えず、凛や白衣の男の姿もない。

 つまりは、戦いはまだ続いている。この戦争は自分達だけのもの。終わらせるつもりなど端から無い。

 そんな意志が伝わってくる。それを証明するかのように、どうしようもなく目に付く鋼鉄が海に鎮座していた。

 

 そこにあるのは鉄の戦艦だった。

 先ほど見せた鉄甲船とも違う。これはある意味でその未来(さき)にあるもの。

 至る箇所に搭載された艦砲。余計な幻想は交えない機能美に溢れた形状。威風堂々と君臨する無駄のない兵器の姿。

 構成された最先端(みらい)の要素。もはや宝具という言葉とはかけ離れ、しかし戦争(ここ)にはどこまでも合っている。

 

 ――岸波白野は知らない、月の記録(ムーンセル)に記載されたその兵器の概要は。

 

 大日本帝国海軍所属。

 起工 1907年5月22日。

 進水 1907年11月11日。

 就役 1909年11月1日。

 退役 1923年9月20日。

 除籍 1923年9月20日。

 鞍馬型巡洋戦艦二番艦、あるいは伊吹型装甲巡洋艦一番艦。

 主に第一次世界大戦期にて活躍。戦後、軍縮の流れに伴い解体の運びとなる。

 

 創形された戦艦の名は――"伊吹"。

 

 ムーンセルより汲み上げられた、今の世界からはとうに失われた一世紀前の兵器がここに姿を現していた。

 

「これはまた、常識はずれなものを持ち出してくれる」

 

 呆れたようにアーチャーが呟く。その意見には自分も同意だ。

 これまでも古今東西の様々な英霊と戦ってきたし、その宝具はどれもこちらの予測など軽く上回るものだった。

 だがこれはそれらとは方向性が異なっている。人々に幻想として奉られ、一つの信仰として力を持ったものが宝具だ。

 それは太陽の力を持つ聖剣であり、因果を逆転させる槍であり、あるいは伝承そのものが宝具となる場合だってある。

 いずれも共通しているのは、それが人々の間で伝わる幻想であること。共有する思いが年月を経て人の意識に刻まれて形となっている。

 

 けれど目の前にあるのは純然たる兵器だ。

 そこに幻想などない。解き明かされた現実の理屈を以て構成されている。

 これまでの宝具の在り方とはまるで真逆だ。信仰もなく年数も少ないそれは、神秘の格で語れば明らかに見劣りするだろう。

 

 ならば宝具としてこれまでよりも劣るのかと言えば、そんなはずはない。

 向き合うだけでも身体に圧し掛る尋常ではない迫力の威圧。その脅威は先の鉄甲船を遥かに凌駕すること疑いない。

 それもそのはずだ。兵器であるならば、新型が旧式に勝るのは至極道理。過去ではなく未来に在る方が強大であることなど明白だろう。

 きっとこれは"革新"という概念を宿した一つの幻想。先を夢見て世界を拓いた果てに見る人間の可能性の結晶だ。

 

 宝具という型に囚われぬ畸形。それは古代の神秘と比較して、決して劣るものでは有り得ない。

 そしてこんなものを持ち出せる者もまた、一人しかあり得なかった。

 

「宝具化された近代兵器とは恐れ入ったが、これしきのもので今さら我々が怯むとは思っていまい。

 出てくるがいい、甘粕正彦。試すだなんだと、貴様が戯れてくるのならこちらは容赦なくそれを利用するぞ。

 あえて言っておこう。私たちは諦めたつもりはないと」

 

 そうだ。今さらこんなものを見たくらいで折れはしない。

 己を超える強大な力。それくらいならば幾らだって見てきたんだ。

 元より自分の取り柄なんてこの諦めの悪さくらいだ。どれほど無様を晒しても、それだけは譲れない。

 

 前を見据える。もう一度あの強大な敵に立ち向かうために、その決意は固まったから。

 

「――ああ、そうだな。そんなお前たちだからこそ、俺もこうして仕切り直しを求めている」

 

 声の方を見上げる。甘粕正彦はそこにいた。

 聳え立つ艦橋の上に立ち、こちらを見下ろす人影が一つ。

 吹き荒れる熱波に大外套を翻しながら佇む様は、鋼鉄の城に君臨する王者のそれか。

 

 けれど怯んではいられない。しかと己の敵を捉えるべく、その姿を直視して――――

 

「その通りだ、諦めてはならん。歩みを止める事を拒むその気概、美しいぞ――胸を打つ。

 俺ほどにおまえを認めている者はおらん。逆境に咲く生命の力こそがおまえの真価。その意志がある限り人はどこまでも進んで行ける。

 ――たとえそれが、どれほどの絶望を前にしたとしてもなぁ」

 

 岸波白野(わたし)はついに、決して抗えない絶望を思い知ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵器の創形。王の覇道の過程で生み出された新機軸の兵器類を具現化する宝具の能力であるが。

 根底にあるのは『革新』の概念だ。その在り方は元より、古きを淘汰し新しきを受け入れる事にある」

 

「ムーンセルには過去・未来のあらゆる人類の可能性が納められている。当然、兵器の類もそこに含まれる。

 蓄積されたそれらと接続し、受け継いだ宝具を改良・拡大し、その概念をより発展させたものを今の甘粕は用いている。

 すなわち、未来に至る可能性まで含んだ兵器の創形。今や人類のあらゆる兵器が正彦の手中にあると言っていい」

 

「……だが、聖杯と繋がって得たものがその程度だと思うのなら、そこは否と答えるしかない」

 

「元より正彦は兵器(そんなもの)なんて求めてはいなかった。人の歩みの証と認めても、決して好いているわけじゃない。

 彼が月に求めたのは人のために人を裁く力。試練を与えるための道具(ちから)に他ならない。

 兵器などそのための一手段に過ぎない。彼の真骨頂は別にある」

 

「聖杯の底の遥か深淵から正彦はそれを手に入れた。遠く創世記にまで遡り、人の原初から汲み取った"権能(かみ)"の名を。

 人を愛して人を裁く。甘粕正彦の性質にそれは何処までも適合していた。その名を背負う事になんの過不足も有りはしない」

 

「……来るぞ。来るぞ来るぞ来るぞ――"聖四文字"が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒色に覆われた紅い空の下。大海に浮かぶ魔道の戦艦の頂上に立ち、それは悠然と君臨する。

 

 戦争をそのまま風景化したかのような世界も、幻想の質を備えた現実兵器も、所詮は有象無象。その存在の前では全てが霞む。

 それも至極道理。その存在こそ至高の天にして天地万物の創造主。宇宙を司る最高原理たる全能の神格であるのだから。

 

 曰く、『Y・H・V・H(ヤハウェ)』。神を表す聖なる四文字。

 星が生命の存在を許さなかった原初の頃、世界の始まりを為す天地創造を行った"星造り"の一柱。

 裁きの神。試しの神。愛する子羊たちの正道を問い、そのためならば世界を洗い流すことも厭わぬ虐殺の絶対正義。

 

 ――斯く在れかし聖四文字(あんめいぞいまデウス)

 

 月の聖杯(ムーンセル)の遥か奥底に眠っていた大権能。

 それを原初より汲み上げて、己が力とした人間は、その担い手としてあまりにも適合している。

 

 甘粕正彦。『SE.RA.PH』に君臨する虚構世界(ユメ)の支配者。

 人間の輝きを愛し、焼き付くほどに焦がれた情念は、その勇気を現すために災禍を下すという狂行に走らせた。

 愛しているから試練を与える。まさしくそれは神の審判。その愛には一点の偽りもないが故に、下す裁きにも揺るがぬ正義が宿る。

 

 ここに立つのは現人神。人の身に神を宿した絶対強者に他ならない。

 

「なまじ公平を期そうとしたのが良くなかった。

 尋常な決闘など、おまえたちの気質を鑑みれば真価から程遠い」

 

 甘粕正彦は知っている、岸波白野の強さを。その真価を誰よりも認めている

 どこまでも平凡であった少女が発揮したのは、生ける者ならば誰もが持ち得る生命の本質。決して特別な能力などではない。

 逆境に抗い、立ち向かう勇気。人が見せるその輝きこそ甘粕が愛して止まないものだから。

 

 岸波白野の戦いには順当な勝利など一つもなかった。

 始まりは常に弱者の側。戦力差で測るなら敗北は目に見えて明らか。

 その差を埋めてきたのはいつだって行動の先にあった。決して諦めなかった意志が可能性を掴み取ってきた。

 倒すべき敵を知って、己自身の不足を理解し成長する。時には仲間の手を借りながら、折れずに進み続けたその芯のなんと美しいことか。

 薄弱に見える姿の内に秘めた強さ。その真価を問わずして、見限ることなどどうして出来るだろう。

 

 だからこそ試練を与えよう。

 岸波白野の真価とは苦難に立ち向かう姿。それを発揮させるための逆境を。

 これは最終戦。聖杯戦争の決着を飾るのに相応しい、究極の逆境を与えるのだ。

 

 これこそが魔王の祝福。勇者たちのために歌い上げる人間賛歌に他ならない。

 

 限度があると第三者が口を揃えて言おうとも、魔王の耳には届かない。

 だって彼は人を信じているから。諦めなければ不可能なんてないのだと、何より己自身で体現しているから。

 

 己を超えるというのなら、この試練にだって打ち勝って然るべき。そう豪語し疑わないから容赦もしない。

 

「この絶望を前にしても尚突き進む意志を示せ。そんな姿こそ俺は見てみたい。

 輝きを現してみろ。その生命の真価を発揮するのだ。おまえの意志を、俺に信じさせてくれ」

 

 魔城の頂で魔王は笑う。小さな勇者の奮起を愛おしみながら、その魔手を振り上げる。

 

 ――絶望の二幕が、始まる。

 

 

 




 トワイスさんが解説役として便利すぎることに気付いた(笑)。

 というわけで、戦闘その一投稿完了です。
 感想欄で大尉のサーヴァントについて色々ご想像いただきましたが、ようやく発表できました。

 コハエースEXより、魔人アーチャーです。

 はい、すいません。半オリ鯖ですね。
 言い訳しますと、戦うのが甘粕自身であるのは決まっていました。
 というか甘粕が戦わなかったら、このSSの価値の9割方がなくなりますし。
 ただその参戦をサーヴァント枠で出したくはなかったんです。
 過去に存在した何某かではなく、やっぱり大尉殿には生きてる人間としての青さもなくてはと思いまして。
 で、そうなると問題は、如何にしてマスター枠としてその強さに説得力を持たせられるかでした。
 詳しい設定は『独自設定』にて記載してます。

 サーヴァントとの融合設定と、実に地雷要素満載ではありますが。
 種子島の兵器創形は、いうなれば原作能力のマイナーチェンジ版をイメージしてます。
 次回からはようやく原作通りの未来兵器の釣瓶打ちが始まります。

 ではなぜ今回の戦闘を挟んだかと言いますと、そこが甘粕正彦というキャラクターだと思うんですよ。
 原作でも大尉殿が戦うのってある程度は自分と並んでからですし、対等な条件での真っ向勝負が好きなんだと。
 圧倒的な能力で蹂躙するのは似合わない。そこら辺りは同じラスボスでも獣殿とは違う所だと思います。
 だからまずは互角の立場での決闘を行って、その流れで原作のチートに持っていこうと考えました。

 しかし、企画が没になったから、割と自由にしてもいいかなと思ってた魔人アーチャーの設定。
 7月10日発売の最新刊で、まさかの公式パラメーター発表ですよ。
 悩みましたが、さすがにあと一ヶ月も待ってたら皆さんに忘れられそうだったので。
 まあ最悪、兵器創形の部分さえまかり通れば何とでもなりますし、所詮は二次創作と寛容に思ってくれれば幸いです。

 あ、コハエース面白いですよね(ステマ)。
 

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