もしもExtraのラスボスが甘粕正彦だったら   作:ヘルシーテツオ

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 ――――たまにはカオスな回も書いてみたいと思った。

 先に言っておきます。
 今回はノリがかなりふざけています。
 ぶっちゃけドラマCDのノリです。

 あらかじめお覚悟をお願いします。



女難勃発

 

 落ちる。落ちる。落ちる。

 底のない夜の海へと、岸波白野(ぼく)は落ちていく。

 

 この落下には果てがない。

 方向の意味がない。距離の概念がない。時間の経過がない。

 ひたすらに流されて、削げ落ちていく自己のイメージ。

 虚無の中に浸されて、このままいけば身体も記憶も、何もかもが残るまい。

 

 それはどうしようもない事実。逃れられない結末に思えた。

 

 一瞬か、それとも永遠か。

 無重力に似た落下。終わりの見えない転落。変化のない無間。

 身体はまるで泥のよう。心も鉛のように鈍化していく。

 一切の希望も見えない虚無に、自分は徐々に絶望へと向かっていた。

 

 

 ――――けれど、ここで手放すのなら、自分はとうに終わっている。

 

 

 魂の火種は残っている。

 燻っているこの火がある限り、まだ終わりじゃない。

 忘れない。終わらない。たとえ自分さえ残っていなくても、手放してはならないものがある。

 諦めることはできない。たとえ奈落の底であったとしても、先へと向かって手を伸ばした。

 

 ――伸ばした先の外皮に、かすっていくものがある。

 

 たとえ気のせいでも、希望に縋る心が見せた幻でも、その声は聞き逃せない。

 声は遥かな彼方より、光の尾を引き、全身を燃やしながら、尚も加速する。

 

 ――ソラを見ろ。

 

 ――手を伸ばせ。

 

 ――ただ一言、■■■■を呼べと。

 

 諦めるなと、誰かが言っている。

 閉じそうになる心を熱くさせる、懐かしい"戦友(とも)"の声。

 使わなくなった喉に、停止している肺に、衰えた腕に、再び喝を入れる。

 

 そう、彼女の名は――――

 

「「さあ! 余(私)の手を取るのだ(取ってください)、奏者(ご主人様)よ!」」

 

 …………あれぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? え、なんなんですあなた? 出てくるところ間違ってません?」

 

「むぅ? それはこちらの台詞だぞ女狐よ。

 何やら男に逃げられまくる喪女の如き気配を放っているようだが、そなたの伴侶となりえる数奇者はここにはおらんぞ」

 

「喪女じゃないですぅー良妻ですぅー昔とは違うんですぅー。

 ていうか余計なお世話です! 将来を誓い合った旦那様であるご主人様ならここに――」

 

「その愛おしい顔立ち、そなたを思わぬ時など刹那の中にさえ存在せぬ!

 我が奏者よ、よくぞ――」

 

「――え?」

 

「――む?」

 

 心を眠らせてしまいたい。

 自分を忘れてしまいたい。

 なんか目を開けたらとんでもない厄ネタが飛び込んできそうだ、という確信から目を背けてスルーしてしまいたい。

 

「あのー、ちょっと冗談にしても笑えないんですけどー? 人のモノに向かってなに頭沸いたこと言ってるんですかぁ?」

 

「女狐よ、そなたの縁なき身の上には同情せんでもない。

 だが寄りにもよって我が奏者に手を出そうとは、元老院以上に許容できぬ大罪だぞ」

 

「はぁ? あなたみたいなイロモノ系がご主人様と関わりあるわけがないでしょうに。

 いくら虚無(ユメ)の中だからって、寝言も大概にしないと……呪うぞ?」

 

「余の芸術性が分からんとは、そなたも哀れな衆愚の類いか。そなたの器、なかなか上手く繕っているようだが、余の審美眼は誤魔化されぬ。そなた、本当は相当な年代物であろう?」

 

「違いますしぃーサーヴァントに年齢とか関係ないですしぃー! 大体、生前の年代で言うならあなたの方がお古っぽいじゃないですか!?」

 

「愚か者! 余は皇帝にして至高の名器。至高なる輝きとは決して色褪せぬもの。余の美貌とは永遠なる器であり、故に生前の時代など関係ないのだ!」

 

「なにそのこじつけ!? だったら私だって年代関係ないですもん! だって私って神様ですしぃ、さんさん輝く太陽ですもん!」

 

「なんと、そなたは太陽の写し身であったか。……という事は、年齢は推定でも46億歳というわけだな」

 

「だから年齢の話はすんなっつってんだろうがああああ!!! 呪うぞ! ジャンジャンバリバリ呪うぞ! アマテラス舐めんな!」

 

 ああ、生きるとはなんだろう。

 目の前に広がる難関辛苦。逃げず前へと踏み出す事がそれだと言えるか。

 けれど、そればかりではないはずだ。道とは決して一本だけではない。人は迷いながら、様々な道を選択できる。

 ならばこれだって1つの道だ。悩んだ果てに選んだものなら、そこに意味はきっとある。

 

 だから、このまま、目を開かずに。

 嵐が通り過ぎる事を選ぶのだって、立派な選択であるはず――

 

「と・に・か・く! ご主人様は私のご主人様(マスター)です。それをここではっきりさせてあげます!」

 

「なにおぅ! 奏者は余だけの奏者(マスター)だ! 貴様の出る幕など無いという事を分からせてくれる!」

 

「「というわけで、奏者よ(ご主人様)! どちらが自分のサーヴァントなのか、この女狐(ワガママ女)に教えてやれ(やってくださいまし)!」」

 

 あ、はい。やっぱりそうなりますよね。

 流石に逃避は限界らしい。観念して目を開いた。

 

「さあ、奏者よ。よもや余の事を忘れたとは言うまいな」

 

 勿論だ。彼女を忘れるなどあり得ない。

 彼女はセイバー。岸波白野(じぶん)が契約した『剣士』の英霊。

 赤き男装を身に纏った金髪の少女。自らを名器と呼んで憚らない美麗と情熱を備えた人。

 小柄な体躯からは想像もつかない気迫の激しさは、万軍を凌駕する大火のように。

 

 その真名は、ネロ・クラウディウス。

 暴君と呼ばれたローマ帝国の皇帝。されど真実は、燃え盛る炎の如き気性によるものだ。

 彼女の愛し方は熱意と絢爛に溢れすぎて、栄光と破滅の両方を呼び込んでしまう。

 だがそれは、彼女の愛が偽りなきものである事の証。セイバーの振るう"(けん)"はいつだって岸波白野(じぶん)の道を切り拓いてくれた。

 

 断言できる。セイバーこそ掛け替えのない、岸波白野のサーヴァントだと。

 

「ご主人様! 私を忘れてしまったなんて事はないですよね?」

 

 勿論だ。彼女を忘れるなどあり得ない。

 彼女はキャスター。岸波白野(じぶん)が契約した『魔術師』の英霊。

 狐の耳と一尾を持った妖艶な美女。自身を良妻といって献身的に尽くしてくれる人。

 空気を読まない天真爛漫(シリアスブレイカー)。彼女がいればどんな感動だって壊れること請合いである。

 

 その真名は、玉藻の前。

 陽気な性格とは正反対に、人に仇なす妖怪としてその名を残している。

 しかし自分は知っている。彼女の望みとは人に尽くす事。仕える喜びこそが彼女の願いだと。

 たとえ怪物として追いやられようとも、彼女の願いは損なわれない。その献身には一点の曇りも存在しない。

 

 断言できる。キャスターこそ掛け替えのない、岸波白野のサーヴァントだと。

 

 

 ……………………アレェ?

 

 

「「に、二体同時使役だと(ですと)ぉぉぉ!?」」

 

「どういうことだ奏者よ! これは何かの間違いだな? 間違いであろう? 泣くぞ、余は本気で泣くからな!」

 

「ご主人様ぁ~? 私が納得できる弁解があればお聞きしますが、無ければ我が秘蔵の一撃、ついに炸裂する時がきてしまいますが?」

 

 いや待って、待って欲しい待ってください。

 確信を持って言える。彼女たちは岸波白野が契約したサーヴァントだ。

 共に過ごした時間は確かに記憶にある。紡がれた絆だって本物だ。

 けれど、それは両方に対して。同時に、ではなく別々の思い出が入り混じっていた。

 

 まるで違う時間、別々の世界でそれぞれと過ごしてきたように――

 

「そうですか。まあ、次元違いの浮気でしたら流石に仕方ありませんよね。ええ、そこは私も許しましょう」

 

「むむむ……余以外のサーヴァントとそなたが共に在るなど別世界でも考えたくはないが……。

 ええぃ、よかろう! 余とて愛多き者ゆえ、多少の移り目には目を瞑ろうではないか!」

 

「「――それで、どっちを選ぶのだ(ですか)?」」

 

 やっぱりそうきますよねえええええ!!??

 

 まずい、まずい、まずい!

 過去にも様々なデッドフラグの選択肢があったが、これは極めつけだ。

 ここで選択を誤れば、なんかもう色々な事が修復不可能になりかねない。

 

 選べる選択肢は何がある?

 岸波白野に許された、この状況で返せる選択とは――――

 

 

【選択肢】

 

 1.「もちろん赤王様だ。腹黒狐とかマジ勘弁」

 

 2.「もちろん良妻狐だ。セイバー系はオワコン」

 

 3.「ハーレムこそ至高。両手に華こそ漢の道よ」

 

 4.「――そうだ。腹を切ろう」

 

 

 1と2の選択肢は、選ばなかった方に禍根が残る。

 セイバーに泣かれたら耐えられる自信はないし、キャスターを選ばなかったら『僕の男の子♂』が死んでしまう。

 ならば3の選択肢か? 確かに両者ともに仲良くというのは理想に近い。

 だが実際、この選択肢こそバッドエンドへの直行便に思えてならないというか4はなんだ!?

 

 1か2か、それとも3か?

 ああ、どれを選べばいいのか!? 世界は何も答えてはくれない――――

 

「さあさあご主人様! こんな目がチカチカ痛くなりそうなイタ女は放っておいて、私と……あら?」

 

「何を迷うことがあろうか、奏者よ! 無駄に色香を振りまかねば加齢臭を隠せぬ女狐など捨て置いて、余と……うむ?」

 

 ……ここで、大事な事を思い出した。

 いろいろ衝撃な選択肢と、考える余裕がなかったので失念していたが。

 

 

 ――――岸波白野、絶賛虚数空間を落下中である。

 

 

「あわわわわ、ストップストップ~! その先は神様でも手が出せませんよー!」

 

「ええい、いいから名を叫べ! これが正真正銘、最後のチャンスなのだぞ!」

 

 ああ、意識が遠のいていく。

 ここで手放せば本当に戻れない。それは理解している。

 でも、ちょっとだけ、それでもいいんじゃないかなーと思わないでもなかったり。

 

 ――あ、やばい――――これは、本当に消えて――――――――――――

 

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 覚醒する意識に、閉じていた目蓋を開く。

 視界に映った白い天井。見覚えのあるここは……そう、保険室だ。

 全身を包む倦怠感。身体のだるさを我慢しながら、ゆっくりと身を起こした。

 

「おはようございます。岸波さん」

 

 かかる声に目を向ける。

 そこに立つのは制服の上に白衣を纏った1人の女生徒。

 彼女は……そうだ、名前は間桐桜。

 聖杯戦争の舞台となる月見原学園。その保険室での役割を担当するNPC。

 マスターたちの健康管理を担当する上級AI。聖杯戦争を円滑に進めるため運営側より用意された存在だ。

 

 ……と、そこまでは正常な、表向きでの記憶。

 記憶の中にある平穏な日常。予選とも異なる異質な世界。

 そこにいた桜と全く同じ姿をした少女。姿は同じでも、中身はまるで別物だった。

 あれは一体なんだったんだろう。目の前の桜と、どんな関係があるのか。

 

「あの、岸波さん。混乱されてるのは分かります。ですが、体調チェックのためにも、幾つか確認させてくださいませんか?」

 

 ああ、それは勿論だ。

 こちらにも疑問はあるが、それも状況を確認しなければ始まらない。

 今はどうなっているのか。聖杯戦争の参加者として戦っていたという認識は、確かにあるのだが。

 

「はい。聖杯戦争中であるにも関わらず、マスターとサーヴァント、NPCまで含めて、舞台である月見原学園の校舎ごと、この"月の裏側"へと落ちてしまいました。

 ……原因は分かりません。ですが、聖杯戦争は明らかにねじれ狂いました」

 

 ――そこからの様々な事実確認で、自分は今の状況を把握していく。

 

 複数の聖杯戦争の記憶。意図したような穴抜け。

 自分たちがいるのは虚数解の情報に満ちた月の裏側。

 同じ時間軸上の観測結果を閲覧できるようになったのも、この場所の影響が強いだろうと。

 ムーンセルが観測してきたあらゆる可能性。矛盾した記憶も、おそらくはそのために。

 

 とりあえず校舎内は安定しており、安全らしい。

 原因も、目的も、何もかも不明だが、落ち着いて考える時間はありそうだ。

 

「ありがとうございます。おかげで確認が取れました。

 イレギュラーな部分はあるようですが、とりあえず現在の状態に異常はありません。

 症状自体は岸波さんも、もう1人のマスターの方と一緒のようです」 

 

 もう1人のマスター?

 この校舎には、自分の他にもマスターがいるのか。

 

「はい。もう1人の方でしたら、今も保険室のすぐ前に――」

 

「おい! 余計なこと言ってんじゃないよ、おまえ!」

 

 瞬間、乱暴にドアを開いて、見知った姿が入ってきた。

 

「やあ、岸波。随分と遅いお目覚めじゃないか。ひょっとしてスキル不足とか?

 いやホント、そういう凡人の悩みって僕には分かんないからさぁ、なんか大変そうだよねえ」

 

 基本相手を見下した態度、某海産物っぽいクセのある髪。

 彼の名前は間桐シンジ。表側で聖杯戦争に参加していたマスターの1人だ。

 苗字が桜と同じだが、特に意味はない。参加者の中からランダムに選ばれただけである。

 

「まあ、ある意味期待を外さない三流っぷりってとこかな。

 天才の僕には縁のない事だけど、そういう役割も世の中には必要なんだって事は分かってるさ」

 

 口を開けば飛び出すシンジ節。

 失礼な事を言われているのは理解しているが、これといった反感は抱かない。

 どうにも表側で彼の人となりに慣れてしまっているようだ。

 

 それに、常より輝かせた顔を見れば、シンジが自分の目覚めを喜んでくれてるのは分かる。

 保険室の前にいたとの事だし、もしかして自分を待っていてくれたのか。

 

「はあ!? なに言ってるんだよ。僕がそんな面倒なこと――――」

 

「おいおいシンジぃ? 憎まれ口は結構だが、それじゃいつまで経っても話が進まないよ」

 

 別の声が聞こえた瞬間、シンジの隣にもう1人の姿が現れた。

 

 その立ち振る舞いから連想されるのは、嵐の海。

 刹那の内に全てを薙ぎ払う、豪快な荒々しさを感じさせる女丈夫。

 顔に走った大きな傷が目立つが、それさえも彼女の魅力を損なうものではない。美醜混じり合った様は荒々しき気性をこれ以上なく表現している。

 

 彼女こそ間桐シンジが契約したサーヴァント。

 自身の手ではなく騎乗する"何か"によって戦う『騎兵(ライダー)』の英霊。

 嵐を行く航海者は、表側で見たままの姿でそこに在った。

 

「悪いねぇ坊や。この通りウチの大将(シンジ)は人間付き合いがヘタクソでさ。

 ここにいるマスターが自分だけってんで、心細くてヘタレてたってのにそいつを知られるのが嫌らしい」

 

「バァッ!? おまえ、なに好き勝手言ってんだよ!

 こいつとは僕が話してるんだ。サーヴァントのおまえは黙ってろよ!」

 

「そうは言うがねぇ。そこの坊やにはどうも見抜かれてるっぽいよ。

 いやぁいい友人を持ったもんだ。アンタのひん曲がった性根を分かった上で付き合ってくれる酔狂者なんてそうはいないだろう。

 だが主人のピエロっぷりを放置してるのは、従者の身としちゃ偲びない。なんで横から口を挟ませてもらったよ」

 

「この……ッ! 余計なお世話なんだよ! おまえに何か言われなくたって、僕一人でどうとだって出来る」

 

「ならさっさと進めなよ。戦争だろうが商談だろうが、物事ってのは拙速が尊ばれるもんだぜ」

 

 怒鳴るシンジと、それを受け止めて朗らかに返すライダー。

 これも1つの絆のカタチか。シンジとここまで相性のいいサーヴァントは、英霊広しといえどそうは居まい。

 

「この海賊女が悪かったね、岸波。こいつの酔っ払った戯言なんて気にするなよ。

 それより、ここが月の裏側だって話は聞いてるかい? 何の不具合か知らないけど、困ったもんだよねぇ。

 覚えてるだろ。表側の聖杯戦争の準備期間(モラトリアム)は6日。7日目には決戦場に行かなくちゃならない。

 このままだとお互いに不戦敗だ。それはさすがに困るだろう?」

 

 確かに、シンジの指摘はもっともだ。

 

 表側の聖杯戦争では対戦相手との決戦の前に6日の準備期間(モラトリアム)が設けられている。

 自己を鍛え、相手を知り、サーヴァントとの絆を深めるために与えられた時間だ。

 この時間を無為に過ごした者には、決戦を待つことなく脱落の烙印が押される事になる。

 

 もし現在も表側で聖杯戦争が進行しているのなら、期間内に戻れなければ脱落という可能性は大いにあるのではないか。

 

「いえ、おそらくそれは無いかと。裏側では時間が進むという概念が無いので、表側から見れば一秒の時間も経ってはいません。

 それに今回の異常は例外的すぎます。おそらくは表側での運営にも支障をきたしているのではないかと」

 

 そんな自分の懸念に対し桜が答えてくれた。

 そういうことであれば、表に戻って時間切れで有無言わさず脱落という結末だけは無さそうだ。

 

 ……ただ、そう言われてしまうと、今度はシンジの立つ瀬がないのだが。

 

「う、うるさいな! そういう可能性だってあるだろ!

 君みたいな凡人でも、1回も戦う事も出来ないでリタイアっていうのは可哀想だからね。

 まあ、いつもならソロプレイが僕の流儀なんだけど。どうしてもっていうなら一緒に攻略させてやってもいいぜ」

 

 ふむ、なるほど。

 要約すると、ここでは手を組みましょうとお誘いを受けてるわけか。

 確かにこの裏側では何が起こるか分からない。仲間はいて困ることもないだろう。

 

 こう見えてもシンジは本当に優秀だ。アジア圏ゲームチャンプの肩書きは伊達ではない。

 一緒にいればさぞ心強い仲間になるだろう。そう思って了承の返事をする。

 

「そうそう、流石におまえはちゃんと分かってるじゃないか。主役の引き立て役として心得てるっていうか、やっぱり悪くないね。

 まあ安心しとけよ。『P・J(ピース・ジャーナル)』バトルスコアワールドランクナンバー2の天才ゲーマー、この間桐シンジ様がいれば――――」

 

「「目を覚ましたか(のですね)! 奏者よ(ご主人様)!」」

 

 言いかけたシンジを全く同時に蹴倒して、息ピッタリに入室する二騎の姿。

 

 ……うん、本当は分かってた。

 そもそも目覚めた段階で、側にサーヴァントがいないなど真っ先に疑問に思うべき部分だろう。

 けどあえてスルーしていた。とりあえず意識を他に逸らして、そちらに触れないようにしてた。

 

 ……それが無駄な抵抗だと、知りつつも。

 

「そなたという者はいつもいつも危なっかしくて見ておれん。深淵に落ちかけた時は本当に、本当に心配したのだからな。如何に虚無を脱したとはいえ、こうして目覚めた姿を目にするまで、余は気が気でなかったぞ。この愛くるしい乙女心の疼き、きちんと労うがよい。

 それと、そなたのために真っ先に駆けつけたのは余であるからな」

 

「きゃーご主人様ぁ♥ 相変わらずの凛々しいお姿! 時間さえ不確かなこの裏側、目覚めをお待ちする間も一日千秋の思いで恋焦がれておりました。

 ちなみに、あなた様のお側に一番に参上いたしましたのは私ですので」

 

 飛び交う牽制。女性二人の間では未だに火花が散っている。

 視線こそこちらを向いているが、その意識は横の恋敵(ライバル)へと向けられていた。

 

 ……というか、最初に来てくれたのはシンジなのですが。

 

「「ワカメはノーカン!」」

 

 さようでございますか。

 

「お二人共。保険室では大人しく、静かにお願いします。

 でないとまた先ほどのように、管理者権限で以て追い出させてもらいますので」

 

 そんな彼女たちに対し桜が告げる。

 表情こそ笑顔であるが、そのプレッシャーは凄まじいものがある。

 

「そんなー横暴ですぅー。サーヴァントがマスターを心配して何がいけないんですかぁ」

 

「そうだぞ、桜。このキャス狐めだけならともかく、余まで奏者の元より追い立てるとは何事か」

 

「お二人が同じ空間に存在すると、岸波さんのストレス値の明らかな上昇を観測しましたので。健康管理AIとしては当然の措置です。

 それと、喧嘩両成敗ですから。追い出すなら二人共出て行ってもらいます」

 

 そういえばなぜ彼女たちが最初から保険室にいなかったのかと思ったが、そういう事だったか。

 英断だと賞賛を送りたい。二人の間に挟まれて健康無事でいられたとは思えなかった。

 

「……仕方ありませんね。ここで雌雄を決するのは遠慮しますか。桜さん、こういう時に怒らせると厄介ですし」

 

「やむ負えぬか。桜には他ならぬ奏者の事で世話にもなっている。余の方が退くとしよう」

 

 そして、おお、二人の仲裁に成功した。

 ありがとう、本当にありがとう、桜。心からの感謝を捧げたい。

 これでとりあえず最悪の事態は回避された。話題も何とか別の方向へとシフトして――

 

「ええ、騒ぎ立てるような真似はいたしませんとも。ただ、ご主人様に1つ質問がありまして」

 

「奇遇であるな。余も同じだ。奏者が目覚めたならば真っ先に問い質さねばならん事がある」

 

「「奏者よ(ご主人様)。最後に名を呼んだのはどちらなのだ(ですか)?」」

 

 

 ……………………………………oh...

 

 

「申し訳ございません。何ぶん、希薄になった自己の声でしたので、この自慢の御耳でも聞き取れなかったのです。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、やはり確認は必要かと」

 

「余は無念なのだ。奏者の奏でる希求の調べを受け止める事が出来なかった事が。

 ()()()()()()()()()()()()()。そなたが求めた真なる名器の名を」

 

 ……正直な事を言うと、あの瞬間の事はよく覚えていない。 

 意識は虚無に呑まれる寸前だった。その終わりの間際、反射的に"誰か"の名を呼んだような気はするのだが。

 それがセイバーなのか、キャスターなのか、自分でもよく分からない。

 

 だから、その、この事についてはとりあえず置いといて。

 今は非常事態であるのだし、まずはこの月の裏側について話し合うべきじゃ、ないのかなぁって。

 

「そうであるな。この禁断域に落とされた事態は、まこと憂慮すべきこと。何においても対処していかねばなるまい。

 であるからこそ、解決できる懸念事は順に解消していくべきと思うのだ。奏者が真に信任を置く者が誰か、余は気になる」

 

「仮に覚えていなくとも問題はございません。つまるところ"どちら"なのか、その答えだけ頂ければよいのです。

 要は先の、はぐらかされた質問の焼き直しですよ。簡単でしょう、ご主人様。だって一言で済みますし」

 

 岸波白野は逃げ出した。だがまわりこまれてしまった。

 

 駄目だ。このサーヴァントたちからは逃げられない。

 この問題について彼女たちは退くつもりがまるでない。おそらく誤魔化しも通じまい。

 

 こうなったら仕方ない。

 もはや岸波白野1人では手に余る。援軍を要請するしかない。

 桜よ、どうか。このまま2人を放置すれば、僕の胃はボロボロです。

 ここは健康管理AIとして、先ほどのようにビシッと一言お願いします。

 

「えっと……そういうことは、きちんと答えた方がいいかなぁって。優柔不断なのはいけないと思います」

 

 う、裏切られただと……!?

 なんてことだ。味方だと思われた者が、まさか敵に回るとは。

 桜からの援護が頼みの綱だったのに。もはや彼女の助け舟は期待できそうにない。

 

 まずい、味方は、味方はいないのか。

 シンジは……駄目だ。蹴倒されてから未だダウン中だ。

 ライダーは……駄目だ。完全に我関せずの姿勢を取っている。こちらを肴にして酒を呷る気マンマンだ。

 完全なる孤立無援。この保険室に、いやこの校舎内に自分の味方は1人もいない。

 

 本当は、ちゃんと分かっている。答えは出すべきだって。

 このまま誤魔化したままなのは不誠実だ。彼女たちのためにも、はっきりとするべきだ。

 

 けれど、どちらか一方を決めるなんて、どうして出来るだろう。

 自分にはどちらとも過ごしてきた時間がある。大切なのはどちらも同じだ。

 それは一つの時間内で、ではない。それぞれの戦いの中で、無二の相手として育んだ絆なのだ。

 それを当価値と呼ぶのは違うのかもしれない。だが自分には、どちらが上かなど決められそうもない。

 

 だって自分にとって、彼女たちはそれぞれの"最高の相棒"なのだから。

 

「岸波さん、そんなにお二人の事を……」

 

 だからどうか、不誠実だと自覚はあるけれど。

 どちらか一方を蔑ろにしてしまう答えを、自分には言う事は出来ない。

 そんな岸波白野(じぶん)の事を、認めてはくれないだろうか。

 

「――――嫌だッ!」

 

 しかしセイバーに、岸波白野(じぶん)の説得は効果がなかった。

 

「奏者の思いは聞き届けた。余とて五十人からなるハレムにて美童を愛でてきた身。みな等しく幸福をと、気持ちは分からんでもない。

 その優しさは奏者の美徳であろう。そのような乞い願うような姿で頼まれては、余とてその……こそばゆい気持ちになってしまうぞ!」

 

「だがここは譲れぬ。ここで妥協を許す事は、余の愛に対しての侮辱となる。

 余にとってそなたは、一夜の愛に興じるのみでなくだな……共に育み合う関係に……と、とにかく、互いにとっての唯一無二でありたい!

 そのための競争を余は歓迎しよう。譲れぬものであるからこそ、我が魂は燃え盛るのだ。まして奏者のためとあれば、その輝きは何者をも凌駕しよう。

 奏者にとっての至高とは、余のみでありたい。その座を競った争いであるならば、余とて望むところだ。この胸の情熱にかけても負けはせぬ」

 

 堂々と語るその姿からは、暗い感情は一切感じられない。

 そのように見えるのは、きっとセイバーの生来の気質によるもの。彼女が勝負事を楽しんでいるからだろう。

 

 自らを天才だと謳い、勝利への自信を失わないセイバー。

 それは単なる盲信じゃない。裏付けされた自負と、勝ちを手にしようとする気概。

 セイバーにとって勝負とは逃げるものじゃない。競う相手がいるならば、正面から対峙して打ち勝つべきもの。

 それでこそ自らも輝くと知ってるから。美しさを何より尊ぶ彼女は、自分が美しく在れる瞬間を心から愛してる。

 

 自分の説得など、セイバーにとって美しさを曇らせるだけのものでしかなかっただろう。

 

「ご主人様~? ちょっとお目めを拝借ぅ♪」

 

 そんなセイバーと異なり、キャスターが取り出したのは拳大ほどの1個の金の玉。

 訝しむこちらの目の前で、キャスターはその玉を宙へと放り投げて、

 

「――――噴ッッッ!!!!!」

 

 ドス黒いオーラ的な何かを纏った拳の一打が、空中に舞う『金の玉』を打ち抜く。

 やたら頑丈そうだったその玉は、何処へ弾かれる事もなく空中で形も残さず微塵に粉砕された。

 

「ご覧になりました? これぞついに解禁されました我が奥義『呪法・玉天崩』です。

 懸念されていました火力不足もバッチリ解消。男性、特に色多き殿方にはもれなくクリティカルです」

 

 はい、まったく以てすごい威力ですね。

 全く見事なまでに粉々だ。頑丈そうだった『金の玉』が、塵の如く破壊されてしまった。

 我が味方ながら恐ろしい事この上ない。その所業に思わず"アレ"も縮こまってしまっている。

 

 ……ところでそれをこのタイミングで披露した意図とは、これ如何に?

 

「確かにすごい威力です。魔術師(キャスター)の基礎能力では考えられません。

 ところで、通常の筋力や魔力とは異なるエネルギーが観測されてたのですが、これは?」

 

「ええ、まあそれは色々と。溜まりに溜まったモノを込めておりますので♪」

 

 あぁ……今さら気付いた。

 キャスターは笑顔だ。いつも自分に見せてくれる陽気な笑い。

 けれど気付いてしまった。今のキャスターは、全く笑っていないのだと。

 

「本当にもう、色々と溜まっておりますので、ええ!

 思わせぶりな事を言ってぇ、人をモヤモヤさせといてぇ、結局なし崩し的なハーレム展開みたいな♥

 なんかあれですよねー♪ なんというかもう、コロコロされたいんですかねー♪」

 

 思い出す。我がサーヴァント・キャスターの事を。

 外面は良妻、内側は真っ黒。独占欲望持ちのハーレム撲滅主義者。

 自分の申し上げた説得など、この呪殺系良妻狐様に通じるわけがなかったのである。

 

「恋愛は情緒とロマン?……ハッ、何を青臭い事を。

 恋愛とはこれすなわち、駆け引きと先手必勝! どうあれ先に既成事実を作り上げた方が勝つのです!」

 

 そしてとんでもない事をぶっちゃけたぞこの狐ー!

 

「その意気や良し。己の腹黒さに対する潔さ、余も嫌いではないぞ。

 ……であれば、我が剣の錆となることも厭うまいな?」

 

「ご冗談を。私、殴り合い(インファイト)にも定評のあるキャスターですので。後腐れなくサクッとやっちゃうのも悪くありませんよ」

 

 いやいやちょっと待ってもらいたい。

 2人とも喧嘩上等すぎる。なんでウチのサーヴァントはこんなに殺意が高いのか。

 このままではリアルファイト不可避である。なんとかして止めなくては。

 

 ――2人とも、僕の為に争うのは止めてぇー!

 

「実際に間違っていないのがひどいですね」

 

 2人が争うことなんてない。

 だって2人とも自分のサーヴァントだ。大切な戦友なのだ。

 その2人が争い合うなんてこと、どうして許すことができるだろう。

 

 ――だからお願いだ、2人とも争うのを止めてくれ!

 

「「ならばどちらか選ぶのだ(選んでください)、奏者よ(ご主人様)!」」

 

 ……はい、やっぱりそうなりますよね。

 

 結局のところ、選択を強いられるのは変わらない。

 どれだけ先送りにしようとも、いつかは選ばなければならないのだ。

 

 ……やはり、選択肢4か。もはや潔く腹を切るしかないのか。

 

 そうする事が正解な気がしてくる。

 この2人に挟まれた状況を打破するにはそれしかない。さっきからキリキリお腹が痛いし。

 選ぶことが出来ないのなら、せめて腹を切ってケジメをつけるしか――

 

 ああ、どうか、僕に力を貸してください。

 4の選択肢を考えた時、脳裏に何故か過ぎった"誰か"の姿。

 天に祈りを捧げるように、その"彼"に対して乞い願う。

 今の状況に耐え切れず、逃避を選ぼうとしている僕に、本当の強さを。

 なんか、第二次世界大戦をくい止めた英雄と同姓同名の人から、本当に強いと称される在り方で、僕を正しき道へと導いてほしい。

 

 どうか答えを、その声を聞かせてください――――

 

 

『――――バレンタインにチョコを貰える、モテるヤツとか死ねばいいのに♪』

 

 

 ミスったあああああ!!!??

 完全に祈る神様を間違えた。助かるどころか呪いを受けてしまった。

 あの世界観では同姓同名でもただの別人だった。こっちは駄目な方だった。

 

 もう打つ手がない。最後の神頼みも無駄だった。

 セイバーとキャスターは妥協すまい。やはり覚悟を決めるしかないのか。

 

 僕は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! 相変わらずおバカな事やってますねえ、セ・ン・パ・イ♪」

 

 声が聞こえた。こちらを小馬鹿に嘲笑う、少女の声。

 それはこの場の誰かのものではない。何処かより空間に響いてきている。

 

「両手に花なんて随分な御身分ですね。ちょっと見ない間に女の子(ヒロイン)二人も侍らせてるなんて。

 ……ええ、別にそれでイラっとなんてしてませんよ。ただ、身の程知らずなセンパイが不愉快なだけです。

 そうですね。籠の鳥に戻る前に、個人的なオシオキを追加ですね♪」

 

 声の主は知らない。だがその声には覚えがある。

 桜と同じ声、だが彼女にはない小悪魔じみた振る舞いがある。

 これは、あの偽りの日常で共に過ごした、桜と同じ姿と声の、あの少女のものだった。

 

「なんだこれは。聞くからにめんどくさいものを患っていそうな声であるが」

 

「これは相当なヒロイン力の低さですね。方向性間違って迷走しまくってる感があります」

 

 こらこら2人とも、そう無闇に相手を挑発するんじゃありません。

 確かに図星っぽくはあるが、かえってそういうものが相手を傷つける事もあるのだから。

 

「……ほんとに口が減らないですね、あなたたち。サーヴァントもアレですけど、センパイも大概です。

 やっぱり躾が必要ですね。センパイにも、私が受けてばかりの女じゃないって事を分からせてあげないと」

 

「ついでに、そこの健康管理AIにも。目障りなソレにも分からせないとね。貴女がいかに無意味かを」

 

 ……? なんだ、今のは……敵意?

 あのもう1人の桜は、こちらの桜に対して何かの悪意を抱いているのか。

 

「あれは……!? 駄目です、キシナミさん! あの娘は――――」

 

「はいは~い、ただの健康管理AIは黙っててくださいね。

 さあさあ皆さん、拍手の準備はいいですか? 王様も神様もみんなまとめてマイドール。良い子のリスナーさんになって再出発。

 このムーンセルを駆け抜ける大人気コンテンツ、BBチャンネルの始まりです!」

 

 瞬間、見えていた視界がノイズに侵された。

 何も見えない灰色の世界。そこにあったはずの保険室が何処にもなく、触れられない。

 世界が一変していく。その果てに現れたものは――――

 

「あんんんめぇぇぇぇいぞぐろぉぉぉぉぉぉぉりあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!!!!!

 モニター前のみんなぁ、こんにちはぁぁぁぁぁ!!! いい子も悪い子も聖人君子も鬼畜外道も、みんなまとめてべんぼう行きぃ!

 司会トークもお手の物。雑談、怪談、猥談、なんでもござい! どんな人格、性癖の奴にも相手のハートにブレイクシュゥゥゥゥゥト!!! な、この僕と一緒に!

 愉快で素敵で、残念でめんどくさい! 閲覧数強制的にNo.1! 逃げたくても逃げらんない、BBチャンネルはっじまるよおおおおお!!!!」

 

 黒衣を纏った少女、ではなく。

 悪臭とウザいテンションを撒き散らす、金髪ゴングロの悪魔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保険室から突如として一変して現れたスタジオ。

 その視界に飛び込んできた穢れのヒトガタは正気を揺さぶる衝撃だった。

 

「むぅ……! これも1つの芸術か。余の手管を以てしてもこれほどのものには至らぬ。

 ここまで美と相反する醜悪のカタチがこの世にあろうとは、もはや個人で至る境地ではあるまい」

 

「鬼天狗に悪五郎と……うげ。パッと見だけでもヤバ気な悪神(ヤツ)のオンパレードじゃないですか。

 アレ絶対、この世に出てきちゃいけない類いの祟りですよ」

 

 英霊2人の視点からもアレはそういう存在らしい。

 人類にとっての害悪。正気を侵す汚染災害。あの偽りの日常での事は未だに脳裏から離れない。

 この相手はどうあっても敵としか成りえない。そうと確信させる邪性がそこにはあった。

 

「神野!? 割り込み(ハッキング)なんて、どういうつもり!?」

 

「どういうつもりぃ? じゃないよ、サクラァ。また君は素晴らしく愉快なことやってるみたいじゃない。

 みんなの視覚と聴覚まるごとハックした視聴強制ムービーとか、いや実にいやらしくて僕好みの趣向だよ。

 寂しいなぁ、寂しいよサクラ。こんなイベントに僕を誘ってくれないなんて、いつから君との仲はこんなに冷え切ってしまったんだい?」

 

 続けて現れたのは、声で予測した通りの桜と瓜二つの少女。

 戯言のように語る悪魔に対し、少女は一切の悪ふざけもない殺意で以て睨んでいる。

 

「あなたの戯言なんて聞く気はないわ。これは私の――――」

 

「ああ大丈夫だ、言わなくても分かっている。君の一途さはよく分かっているさ。

 けど、いけないなぁ。発言権の制限なんてのは関心しない。その贔屓っぷりは目に余る。

 駄目だよ! もっとアドリブも利くようにならなくちゃ! こんなカンペなんて用意しなくてもさぁ」

 

「ちょ!? なんであなたが持ってるんですか!?」

 

「まあ実際、今の君がここまでの干渉を行えるのは"ここ"くらいなものだろうが、そういうのは頂けないぜ。

 このシャットアウトっぷりはエンターテイナーとしては見過ごせないよ。司会はトークで場を回すのが仕事だろう。

 正直なところ、そのテンションだって結構無理してるだろ。意中の誰かと話せるからって、そういうのはちょっと引くなぁ」

 

「っ!!? 消えろッ! 消えなさい!」

 

 少女が教鞭を振るい、その度に悪魔は破壊と再生を繰り返す。

 ほとんど嫌がらせのようなしつこさだ。おまけに色々と裏事情も暴露されてるし。

 ある意味コンビのようにも見えなくもない。少女の方は本気で嫌がるだろうが。

 

 ともかく、場の状況は完全に向こうに掴まれた。

 もはや前後の流れもない。寸前まであった"色んな状況"も持っていっている。

 

 

 ――――うん、とりあえずその事だけは、彼等には"ありがとう"と伝えておきたい。

 

 

「ではでは、司会進行はユーモラスに溢れた正真正銘の悪魔であるこの僕、神野明影と。

 ちょっとコミュ障ちっくな自称小悪魔の残念ちゃんこと、BBでお送りしていきま~す」

 

「って、勝手に進めるな!」

 

「とゆーわけで、オーディエンスの皆さんもいらっしゃ~い♪

 AIでもマスターでもサーヴァントでも、この裏側に居る人たちは大歓迎! 監督者として仲間はずれは作らないから安心しておくれ」

 

 瞬間、スタジオに新たな人物が出現した。

 シンジにライダー、そして桜と。世界が変質してから姿の見えなかった者たち。

 それが悪魔(しんの)の手引きによって、この色んな意味で狂った世界へと招かれた。

 

「うう、ん……あ? なんだよ、ここ? 僕は確か保険室で……」

 

「おはよ~う♪ お目覚めの気分はいかがだい間桐シンジくん?」

 

「う、うわああああああああ!!??」

 

 突如として迫った悪魔(しんの)の姿にシンジが悲鳴を上げる。

 いけない。あの神野に好きにさせては、シンジではきっと耐えられない。

 

「君は――――」

 

 まさにその口から悪意が吐き出される、その瞬間。

 轟いた銃声音と共に、神野の顔面が吹き飛ばされた。

 

 銃口より昇る硝煙、慄くシンジの後ろには銃を構えたライダーが立っていた。

 

「――いや、これはさすがにひどくない? 僕まだなんにも喋ってないんだけど?」

 

「んなくせぇー臭いしといて抜かしてんじゃないよ。どうせなに言わせたってロクでもないことだろーが」

 

 吹き飛ばされた頭に蟲が群がり、そのカタチを再生させる。

 見るもおぞましい醜悪さだが、対面するライダーに怯んだ様子はない。

 

「アンタみたいに口先云々で丸め込もうって腹の奴への対処なんて決まってんのさ。余計な事を言わせる前に、その口ごと吹っ飛ばしてやればいいんだよ」

 

「ライダー、おまえ……」

 

 言う間にシンジを引き摺り込み、すでに背に庇う形においている。

 マスターを守るサーヴァントとして、ライダーの行動はとても誠実なものに見えた。

 

「いやいや、随分簡単に言ってくれるけど、そんな容易いわけがないんだけどなぁ。

 これでも悪魔の看板背負っているからね。自覚はあるよ、僕の言葉は毒だって。まともな奴ほど、悪性(ボク)の言葉から目を背けるなんて出来やしない。

 誰だって自分が正しい側だと信じたがるものだからねぇ。英雄だろうが凡人だろうが、人なんて自己正当化のための詭弁が上手い奴ばっかりだろう。

 正義なんて秤に乗って揺れるばかりの概念だ。その揺らぎがある限り、僕にとって貶めることはわけもない。君だってそれは――――」

 

 そこまで神野が言いかけたところで、その言葉を再び止めたのは銃弾と哄笑だった。

 

「――なげえよ、話が。そんなにペラ回したきゃあ神官相手にでもしてな」

 

「詭弁がどうだの正義がどうだの、そんなもんアタシが知るもんかい。

 こちとら所詮は海賊で、冒険者さね。アタシがやるのは拓く事だけだ。国家だ秩序だ退屈そうな真似は、後の連中が勝手にしなよ。

 奪って、栄えて、凋落して、結局は人の生涯なんざそんなもんだ。ならせいぜい派手に楽しもうじゃないのさ。

 魚のエサにもならねぇ泣き言なんざ、係ってらんないね」

 

 その性質は、ただひたすらに豪快に、刹那の内の享楽を。

 善悪に揺れる人の弱さを知りながら、それをしょうがないと笑い飛ばせる。

 嵐の如く生涯を駆け抜けた海賊提督。その性根は悪かもしれないが、醜悪ではない。

 

 神野明影の悪意にも揺るがずに、ライダーは自らの有り様を貫いていた。

 

「きははははは! なるほどこりゃあ相性が悪そうだ。

 なかなかいないぜ? そこまで自分の悪性にひらき直れる奴なんて。

 悪党なんて結局は弱者がなるものだからね。正道に入れないから裏道をやってるのがほとんどだ」

 

 砕かれた神野が再び復活する。やはり痛痒を受けた様子はない。

 だがそこにはすでにシンジへの悪意の気配はない。むしろライダーを警戒するように距離を置いていた。

 

「さすがは星の開拓者。遊び半分で手を出すべきじゃなかったね。

 うん、僕が悪かった。どうにも誰かと話していると深入りしてしまうのが僕の悪い癖だね。他の聴衆もいるっていうのに、僕も人の事は言えなかったかな。

 ――という事で、どうなのかな? 間桐桜くん?」

 

 神野が次に目を向けたのは、桜。

 黒衣を纏う少女ではない、正しく記憶にある管理AIを務める彼女の方だ。

 

「どんな気分だい? 誤った自分を見ている感想は。かつて捨てた身としては心中穏やかではないだろう。

 いや、この表現は間違ってるか。だって君は正しく機能するAIで、BBは誤作動を起こしたバグなんだからね。

 仮に彼女を忌諱するとしても、それはムーンセルの手足として。不正なる存在は排除すべしって命令(コマンド)に従ったものなんだから。

 君はそうである事を選んだ。ほら、何か言いたい事があるんじゃないの?」

 

 最後の台詞は桜にではなく、BBに向けて。

 

 同じ姿かたちを持った、桜とBB。

 やはり無関係であるはずはない。神野が語る言葉からは両者の因縁深さが伝わってくる。

 

「……私から貴女に話す事なんてないわ。結局、あなたは捨てたんだから。そんな奴が何を言えるというの」

 

「貴女の行動は間違っています。岸波さんを、皆さんをサポートする事が私たちの役割です。

 貴女の行動は、その規定から逸脱しています。それでは私たちの存在証明は成り立ちません」

 

「そんなものが証明だというのなら、私はいらないわ。あなたはそうやって、元の正常なままでいればいい」

 

 向き合う2人の間で交わされるのは、敵意か。

 彼女たちは互いの行動を認めていない。それは間違っているとお互いを批難している。

 

 それが果たして如何なる理由からであるのか、岸波白野(じぶん)にはまだ分からない。

 

「あははは、いやぁ怖い怖い。やっぱり女同士っていうのは陰湿なものだねぇ。

 ま、盛り上がるのも結構だけど、さすがにこの場での決着は待ってもらおうか。ライトを当てる役者を偏らせては演出家(ボク)の不手際になってしまう。

 それにさぁ、さっきから待たせているんだよね、主を。僕を不忠者にしないでほしい」

 

 自らには主がいると、神野(あくま)は語る。

 あの悪意の極限を従えられる存在など、とても心当たりなど――いや。

 

「お呼びしよう、僕の主人(マスター)を。この月で聖杯の座に至った最強の勝利者を。

 すべてはあの御方の慈悲。誰も彼も所詮は振り回されるだけの端役。それを理解するといい。

 その上で、それだけじゃ終わらないと、声高に叫んでみせてくれ。僕も主も、それを心から望んでいるよ」

 

 白いスモークが焚かれる。

 まるでテレビの演出のように、封じられた視界の中に新たな人影が浮かび上がった。

 

「それでは登場していただきましょう。我が主、甘粕正彦ぉぉぉぉぉ!!!」

 

 たち込めた煙幕を振り払い、威風堂々たる姿のままに、甘粕正彦は現れた。

 

 思い出す、表側で経験した彼の強さを。

 完膚なきまでに敗れた現実。他の誰もが甘粕に敵う事はなかったと。

 雄々しく真っ直ぐな信念。その行動を支える意志の強さ。どれも"最強"の二文字にふさわしい。

 

 目の前に現れた月の覇者に、この場の誰もが呑まれていた。

 

「ノリの良い登場、ありがとうございまーす!

 いやぁお待たせして申し訳ありません、我が主。ちょっとした挨拶だけのつもりだったんですが、思ったより熱が入ってしまって」

 

「なに構わん。今の俺は舞台裏だ。配慮など無用、主演同士で気概を高め合うのなら、それこそ望ましいものだ」

 

 甘粕の視線がこちらを射抜く。

 ただそれだけで、膝をつきそうになる重圧に襲われる。

 やはり何も変わっていない。かつての対峙の時と同じく、甘粕正彦は"魔王"のままだった。

 

「久しいな、と言うのはおかしいのだろうが。ともあれ壮健なようで何より。変わらずの美しい様を観れて、俺も嬉しい限りだ」

 

「美しい、と言うか。余が絶世の美の結晶である事に疑いはないが、その心は何からくる?」

 

 岸波白野(じぶん)のことを庇うように、セイバーが前に出る。

 傍ではキャスターが控え、油断なく自分のことを守ってくれていた。

 

「あいにく俺に芸術の才はない。無いが、美しいと見える人の輝きの如何は心得ている。

 強き意志を抱きし者、物事の善悪に関わらず、一筋の信念の下に克己する姿は美しいものだ。

 ならば是非もないだろう。おまえたちの在り方は美しい」

 

「周囲の思想に囚われず、自らの情熱のままに生きる。虚飾も打算もない、その愛は真実だ。

 セイバー、そしてキャスターよ。おまえたちに対して、俺はただ惜しみない賛辞を送るだけだ」

 

 その言葉に偽りはない。彼の向ける親愛は本物だ。

 性質を問わず、突き進む意志の絶対値を基準とする美観。人が示す輝きこそ甘粕は愛している。

 

「魂の声に従い、熱き気概を持って歩む者。その猛りは危うきものなれど、そこにある信念に汚点はないか。

 すまぬ、奏者よ。戯言だと切って捨てるべきなのだろうが、余は美しいものを愛でる。感じた美しさを醜いと偽ることは出来ん」

 

「清潔だしイケメンではあるんですよねータマシイ的には。でも暑苦しいというかマッチョすぎですかねータマシイ的には。うん、やっぱりご主人様が一番って事ですね、タマシイ的に」

 

 2人の言うように、甘粕は善性に位置する人間だ。

 恐ろしいほど公平で、だからこそ容赦もない。信奉する試練と、その好意が当価値なのだ。

 こうして親愛を向けられていても、次の瞬間には敵として殺意を向けられる事もありえる。その危険性はすでに嫌というほど理解していた。

 

「いやぁ場も温まってきているようで結構結構。そろそろ本題に入っていこうか。さあ準備はいいかな、BB?」

 

「勝手に巻き込まないでちょうだい。あなたたちと組んでみせるなんて冗談でもあり得ないわ」

 

 親しげな神野に対し、本気の殺意さえ込めて拒絶するBB。

 冗談ではなく、この2人は水と油だ。少なくともBBの方は、神野に一片も心を許していない。

 

「へえ? でもさぁ、実際ちゃんとやれるの?

 君って基本、自分優位で制御できる状況でないと上手くやれないじゃん。

 特定個人以外は質疑応答厳禁のコミュ障御用達なライブ仕様じゃないよ。ホントにできんの?」

 

 ああ、そういう仕様だったのか。

 なんだかんだ言っても、人と話すの苦手そうだもんなぁ。

 

「ていうかさぁ改めてみると、BBチャンネルって(笑)。このスタジオもゴテゴテ凝ってるし。

 これ全部自分で用意したんだよね? 随分とまぁ力入れちゃって、こんなどうでもいい事に。始まりのテンションにしても、ぶっちゃけかなりイタイんだけど。

 ねえ今どんな気持ち? あんなドン引きレベルで気合い入れてたのが、呆気なく台無しにされて今どんな気持――あべし!」

 

 強烈な光線(ツッコミ)が、容赦なく神野を吹き飛ばした。

 

「勝手に悪評を広めないでくれる。好き放題に言ってくれて。

 というか、コミュ障とかじゃありませんから。フリートークなんて余裕ですから。

 単に権利を認めて、この人たちを調子に乗らせないためです。強いのが誰なのか、それを躾てあげようとしただけですから。

 勘違いした人たちには、言葉の暴力で分からせてあげるのもやぶかさじゃありません」

 

「ほうほう。それは楽しみだ」

 

 そして即座に再生した。

 その不死身ぶりは、もはや死に芸レベルである。

 

「そこまで言うのなら僕も手はださないよ。でも本当に大丈夫なのかい? 嫌いだから、答えづらいからシカトしようたってそうはいかないよ。一途すぎて度量が狭いBBちゃんには、ちょっと難しいんじゃないかなぁ」

 

「黙ってなさい。あなたの同意なんて求めてないわ」

 

「だから、そういうのが駄目なんだって。そこは皮肉の1つでも返して会話の主導権を握らなきゃね。まあいいや、ならば後はご自由に」

 

 見方を変えるとコントのようなやり取りを終えて、神野が下がる。

 これで主導権は再びBBに。だが果たして上手くやれるのか。

 正直、あの神野の言う事もかなり的確だと思うし、リードするよりされる方が好きそうだもんなぁ。

 

「――ならば、まずは俺から1つ尋ねるとしよう」

 

 って、思っている側から大本丸が投げ込まれたー!

 

 BBチャンネル発言者第一号は甘粕正彦。

 いきなりラスボスが相手とか、高難易度過ぎやしないか。

 

「おおっと流石は無茶振りに定評のある我が主だ。初っ端から飛ばしていきますねぇ」

 

 神野は愉快そうに笑っている。

 BBの方もこれには流石に狼狽えているようだ。動揺しているのが見て取れる。

 

「な、なんですか。来るならきなさい。別に怖がっていませんから」

 

 しかしてBB、これを受けてたつ。

 臆して逃げるような真似はしない。その勇気には素直に感心した。

 

「ふむ。ならば問うがな、BBよ――」

 

「そのパンツが明らかに見えている服装は、もしや狙ってやっているのか?」

 

 そして甘粕正彦、本日最大級の爆弾をあっさりと投下した。

 

「え? え、え? ふぇ!?」

 

「さぁすが我が主ぃぃ! 誰が見ても明らかなのに、暗黙の了解で踏み入れなかった地雷源も容赦なく踏み抜くその勇気ぃ! そこに痺れる憧れるぅ!」

 

 すかさず便乗。煽る、煽るぞ、この神野(あくま)

 もはやトークを回すどころではない。スカートを押さえ、今更の抵抗を試みていた。

 

「え? 見えてるって、前から? え、じゃあひょっとして、その……センパイ?」

 

 ……うん。はっきり言うとずっと気になってた。

 

 だってその、普通に立っていても目に入るし。

 やたらと高い位置を取ろうとするから、もう余計に。

 その見え方ときたら、もはやチラではなくモロだった。

 

 ツッコまなかったのは、創造神(きのこ)の御意志である。

 

「やっすいパンツしてたよねぇ~♪ けどどうしてだろう、僕はそんな君にときめくんだ。なんというか、前世(げんさく)からの因縁かなぁ、君みたいな娘とは。

 主も、そう思いません?」

 

「いや。俺は特に関わりがなかった気がするな。それらしい描写はあったが、そんなことはなかった」

 

 しかし彼等は14歳神(まさだ)の傘下。こちらのお約束など通じない。

 徹底して追い討ちをかけてくる。情け容赦がまるでない。

 

「うむ。その点は余も目に余っていた。秘すべきものをそうも明け透けに見せびらかすとは、慎みの美徳というものを知らぬな」

 

「え? まさかそこまでモロパンしておいて、気付いてなかったって事はないですよね~? だってあからさますぎますもん」

 

 更に、我がサーヴァントたちもそれに加わった。

 もはや痴女疑惑の少女は孤立無援だ。包囲されたBBに味方はいない。

 

「いや、格好云々でいうなら君たちだって大概――――」

 

「天幕よ、落ちよ!」

 

「炎天よ、奔れ!」

 

「アバー!」

 

 神野(あくま)は去った。

 

「馬鹿者! 余のこれは見えているのではない。あえて見せているのだ。

 意図する美の装飾であるのならそれは芸術。隠すべきもので隠せずは、ただの露出である」

 

「私のは計算された妖艶さですので。大胆に、しかして慎ましく。単にモロ見させている方と一緒にされたら困ります」

 

 跳ね返ってきた指摘もなんのその、我がサーヴァントに常識は通じない。

 流石は己の我が儘で国1つをも傾ける英霊たちである。その図太さは並大抵では揺るがない。

 

「むしろ見られる事を意図してのことならば、あれか? 世の男子どもの視線に晒されることに快感でも覚えているのか」

 

「ビッチ、ていうやつですね、分かります」

 

 しれっと復活した神野。

 疑惑が加速する。BBはビッチ系ヒロインだった?

 

「ちがっ!? そんなわけないでしょう! あまりおふざけが過ぎると――」

 

「はーい、センセイ質問でーす♪ BBって『Bitch Blossom』の略称ですかぁ?」

 

 ここでチェインが入った。

 BBに持ち直す機会を与えず、キャスターが更なる追撃を畳み掛ける。

 

「……? なあ、ライダー。"びっち"ってなんだ?」

 

 更に更に、シンジの純情な邪気のない疑問。その効果は抜群だ!

 

「そりゃあシンジ、あれだよ。雄と見りゃあすぐに股ぁひらくアバズレって事さ」

 

 そしてライダー姐さん、そんな直接的に卑猥な表現は使わないでください。

 見た目同年代で憎まれ口だって叩くけど、彼はまだ八歳児(せいしょうねん)なんですよ。

 

「ですから、私ビッチなんかじゃありません! あなたたち人の話を――」

 

「なに、そう頑なに拒む事もあるまい、BBよ」

 

 常の通り、親愛を込めた語りで以て道理を説く甘粕。

 なぜだろう、嫌な予感が止まらない。いつもとは別の意味で。

 

「いかな性癖を持って生まれようと、それは恥ではない。自然に生きる動植物らが己の本能に疑問を差し込まんように、したいものはしたいのだ。

 世間からの白眼視すら歯牙にもかけずに貫き通したなら、そこに輝きは生まれる。勇気を持て。覚悟を決めろ。そんな人の価値こそ俺は守り抜きたいと願うのだ。

 淫売だと? 結構ではないか。どんな形であれその愛が本物ならば、いつかきっと思いは届く。

 さあ、満天下に謳い上げるがいい――――ビィィィィッチィとぉ!!!」

 

「お黙んなさい! このお馬鹿さま!」

 

 何を言っても届かない。この場の流れを反転させるには、BBでは荷が重い。

 ていうかそろそろ不味い。マジでマジ泣き5秒前くらいだ。

 あと一歩、あと一歩押し込んだら、きっと彼女は泣き出してしまうに違いない。

 

「あの……もうやめてあげてください」

 

 あまりに居た堪れなかったのか、ついに桜からもフォローが入った。

 先ほどあれだけ敵意を明確にしていたのに、やはり同じ姿の相手には思うところもあるのか。

 

「まあまあみんな、これでは埒があかないよ。

 ここは1つ、当事者に聞いてみようじゃないか。ねえ、岸波くん?」

 

 混迷していく場に神野が仲裁に入り、同時にこちらへと話題が振られた。

 

「実際のところどうなんだい? 誰に狙ってるか知らないけど、ああいう貞操観念の低そうな痛々しい後輩って、どう思う?」

 

 皆の視線が集まる。

 自分の答えを、この場の誰もが待っている。

 そこには無論、BBも。彼等の期待が注がれる中で、自分は答えを口にした。

 

 ――正直に言うと、そういうのはちょっと引いてた。

 

「う、う、うわあああああああああん!!!!」

 

 大泣きして、走り去っていってしまうBB。

 ここに陥落。BBチャンネル、ゲストたちのいじめにより放送中止と相成った。

 

「あーあ、行っちゃった。ホントは自閉的なくせに、無理して外向的なキャラなんて作るから。

 というか岸波くんもやるねぇ。なかなかいい絶望の声だったぜ」

 

 そう言われて、自分が仕出かした行いを今さらながら省みる。

 なんという事をしてしまったのか。BBがすでに追い詰められていた事は分かっていたのに。

 そこに自分は、まるで傷口に荒塩を塗りつけるが如く、とどめの一撃をお見舞いしてしまった。

 

「……さすがに同情します」

 

 仲間(さくら)からの批難の視線も痛い。

 しかしどういう訳なのか。あの涙目なBBの姿を見ていたら、こう色々と。

 助けの手を差し伸べるよりも、弱々しい様を晒す内に、その心の衣を一枚一枚剥いでやろうという衝動に駆られたのだ。

 

 これはもしや、悪魔(しんの)の仕業か。

 自分に何か干渉して、あのような嗜虐心を芽生えさせたのでは。

 

「いや、違うよ。悪魔だからって何でもかんでも僕のせいにされてもなぁ。

 とぼけなくたっていいじゃない。なかなか堂に入っていたよ。君には何というか、他人のトラウマだとか弱みだとかを暴いて晒す才能があるね。

 ――うん、悪魔としての素養があるんじゃないかな」

 

 断じて違う。名誉毀損も甚だしい。

 そんな嫌疑は事実無根だ。まったく記憶にございません。

 

「うむ、奏者よ。その気持ちはよく分かるぞ。時に愛おしいものほどいじめたくなる趣向。余にも覚えがある。

 侍らせた美童たちが余の申し付けに右往左往し困惑する姿、それは満面に咲く笑顔とはまた異なる趣きを持ち、実に堪らぬ愛らしさを見せる。

 そなたも美の愛で様の何たるか、解してきたな」

 

「サド心に目覚めた俺々系ご主人様……そういうのもあるのか!」

 

 サーヴァントたちの発言はこの際スルー。

 

 ともかく、BBは行ってしまった。

 残念だとは思う。事情は知らないが、決して知らない仲じゃない。

 はっきりと敵味方を判断しずらい相手だが、今すぐに危険となる事はなさそうだ。

 

 何より危険な、明確に敵だと分かる相手は、まだ目の前にいるのだから。

 

「しかし主、随分調子良くやってくれましたね。というか、わざと言ってませんでした?」

 

「無論だ。大言を吐いて務めた場の主催。遠慮などしては彼女の意志にむしろ悪い。この経験も糧にして前に進めると信じている。 

 これだけ言われて、尚もあの格好を貫けたのなら本物だ」

 

「確信犯ですかい。僕が言うのもアレですが、あなたも大概タチが悪いですねぇ、主」

 

 ……そんな大敵たちも、なんだか当初の目的を忘れているような。

 場の流れというか、勢いに任せすぎだろう。そもそも何しに来たんだこの人たち。

 

 そんなこんなの内に、ファンシーなスタジオも元の保険室へと戻る。

 創造者(プロデューサー)が降りたためか、あの空間を維持する存在がいなくなったのが理由だろう。

 結果、保険室の一室には甘粕、神野まで含めた一同が所狭しと詰め込まれる事になった。

 

 絵面で見れば、なんとも締まらない。

 場の空気自体も白けているというか、ここから決戦の流れに持っていく気力は流石に無かった。

 

「なにはともあれビクトリィ♪ 何やら不穏な気配のした方にはご退場いただきましたし、これ以上のライバル候補なんて要りませんもの」

 

「それには同意するぞ。他の対抗者が現れる前に、まずは貴様の決着を付けねばなるまいな、キャス狐よ」

 

「なんですか、そのキャス狐って?」

 

「貴様の呼び名だ。魔術師(キャスター)にキツネで、キャス狐。間もなく散りゆく者には相応しい単純さであろう?」

 

「むっかー! なら私は赤くてセイバーだから、赤セイバーって呼びますよ! 最もその機会もすぐに無くなるでしょうけどね!」

 

 そして下火に向かっていた2人の戦いまでも再燃してしまった。

 流石に自重してもらいたい。いくら何でも敵がすぐ傍にいるのに痴話喧嘩なんて、不謹慎にも程があるだろう。

 相手の方だって、こんな真似をされて黙っているはずが――

 

「――修 羅 場 かッ!

 なるほど、己こそ愛する者の伴侶にと愛慕に燃えるその姿、実に素晴らしい。

 ただの一席のみ許された正妻の座、それを競い合う勝負がある。自らをより良く魅せんと励む努力がある。

 その試練こそが、おまえたちの愛と勇気を育むだろう。俺に出来る事は、愛に燃える女人たちへと健闘の祝辞を贈ることのみだ」

 

 いきなり何を言っているんだ、この人!

 そんなんじゃ愛と勇気は育まれないよ、もっとドロドロとした何かだよ。

 ていうか、この人は試練なら何でもいいのか。節操ないな、オイ!

 

「もはやこの場に我らは無粋。彼女らの対峙に比すれば他事など軽い。

 さらばだ、俺の愛する輝きたちよ。自らが抱いた思いのままに、その本懐を遂げるがいい」

 

「うん。君が言わんとしてることは分かる。何を期待されてるかって事もね。

 ()()()()()()退()()()。ここは放置を選んだ方が面白そうだしね」

 

 って、オイ! そんなノリで本気で帰るつもりなのか!?

 何かこう、この月の裏側での事とか、話すべき事が色々あるのではないのか。

 

「あ、裏側(ここ)での聖杯戦争とかその辺りの事はまだ後日に伝えに来るんで。その時まで無事でいるかは知らないが、まあ安心しているといいよ」

 

 それだけを言い残し、甘粕と神野の姿が消える。信じられないが、どうやら本気で帰ってしまったらしい。

 本当に何のために来たんだ。あの人たち、結局BBにいじめという名の試練しか与えていないぞ。

 

 ともあれ、場には剣呑な雰囲気を漂わすセイバーとキャスターの2人が残された。

 

「甘粕正彦、相容れぬ者ではあるが舞台の道理は介しているな。主演が定まらぬ演目など興が醒めること甚だしい」

 

「そうですねぇ。いつの世も正妻は1人だけ。側室、妾など男尊女卑の典型例、時代じゃないです。

 夫を立てはしますが、野郎どもに媚を売るつもりはありませんので。ハーレム容認断固阻止! 私、そんじょそこらの駄菓子(ヒロイン)どもとは違いますから」

 

 両者の間の殺意が高まる。

 すでにその手には剣が握られ、周囲に呪符が舞っている。

 共に明らかな戦闘態勢。お茶を濁すつもりなどない、ここで決着をつけるつもりだ。

 

「案ずるな、奏者よ。そなたの意は汲み取っている。

 心優しきそなたの事、共に戦い抜いた者を無碍には扱えぬという気持ちは分かる。

 故に結果だけを待つが良い。真に奏者の伴侶にふさわしきは誰か、明確な形で現れよう」

 

「まあ実際問題、今のままですと回線(ライン)も分配されて霊格(レベル)も下がったままですからね。

 これから戦っていくためにも、どちらかに絞っていかないとならないでしょう」

 

 もはや2人の頭に議論を挟もうという余地はない。

 サーヴァントとして、マスターの剣としての本領で以て決着をつける。その勝敗はこれ以上なく明確だろう。

 

「場所を変えるか。この保険室で騒ぎは起こさぬ。先の誓約は忘れておらん」

 

「上等です。表出やがれコンチクショー」

 

 2人が保険室を後にしようとする。互いの立場を賭けた死闘を演じるために。

 元より彼女たちはサーヴァントだ。戦闘代行者としての意義を発揮する事に疑問は持たない。

 どうしようもなく2人は本気だった。見過ごせば、確実にどちらかの血が流れるだろう。

 

 ……もう、この"手段"しかない。

 出来ればこれは使いたくはなかった。二度と使える手段ではないし、何より彼女らの意志を捻じ曲げる。

 それでも見過ごすことは出来ない。2人をこのまま戦わせるわけにはいかなかった。

 たとえ両者の合意の上のことでも、それが2人の意に反するのだとしても。

 

 

 ――――令呪、二画を以て命じる。岸波白野(じぶん)は彼女らの戦いを認めない。

 

 

「ッ!? そ、奏者よ、それは――!」

 

「わきゃん! これは強烈な縛り……ッ! でも、ご主人様からのだと思うと、タマモちょっと感じちゃいそう♪」

 

 手に刻まれた三画の令呪。聖杯戦争に参加するための権利そのもの。

 その内の二画までを使って、2人に絶対命令権を行使する。

 

 限定された範囲でとはいえ、奇跡のような真似すら実現してみせる令呪の強権。

 どれだけ彼女たちの闘志が本物だったとしても、この縛りの下では関係ない。

 その意志さえも無視して、2人には剣と呪符を収めさせた。

 

「はぁ!? おまえ、馬鹿じゃないの! そんなくだらない事に令呪使って、なに考えてんだよ!?」

 

 ああ確かに、くだらないと言われても仕方ない。

 たったの三画、参加証として残しておく事を考えれば実質二度までの令呪。

 それをこんな内輪揉めで消費してしまうなど、おそらく史上初の無駄使いに違いない。

 

 けれど、それだけする意義があると判断したのも事実だ。

 彼女らが戦いに発展させてまで譲らないのも、岸波白野(じぶん)の事を思っての事だ。

 傍から見れば馬鹿馬鹿しく見えるだろう。だがその理由は、少なくとも自分には笑って済ませられるものではない。

 岸波白野(じぶん)の事を思うから、その隣の居場所を譲りたくない。彼女たちの熱意の強さはもう十分に伝わっている。

 

 その意志を挫くのに、ただの言葉では軽すぎる。

 令呪の浪費など馬鹿げてる。今のままでは霊格(レベル)は戻らない。利に叶った部分があるのも理解している。

 だが心からの思いに対し、損得を含んだ説得などそれこそ侮辱だろう。

 自分はただ、2人に消えてほしくない。この思いだけが真実で、そのためなら何だってしてみせる覚悟がある。

 

 だって、彼女たちは"戦友"だから。

 同じ場所、同じ時間、けれど違う世界で、それぞれと共有した日々。

 どちらが消えても成り立たない。真の意味での一蓮托生。その姿勢は今だって続いている。

 たとえどちらか一方でも、彼女たちが消える時は自分もまた消える時だと意識している。

 

 だから自分だって譲れない。

 令呪を費やしても、非効率だと承知しても、一方を消した上で前に進むなどあり得ない。

 もしもそんな事になるのなら、その時は自分も消去(デリート)してくれ。

 

 セイバーも、キャスターも、岸波白野(じぶん)にとって掛け替えのない存在なんだ。

 

「奏者よ……むぅぅ……」

 

「ううぅ……ここで頷くとなし崩し的にズルズルと……でもでも……むむむ」

 

 伝えるべき事は伝えた。

 これで彼女たちが折れてくれないのなら、もう自分に打つ手はない。

 その時には自分も消えよう。まるで自身を人質に取ったような形だが、形振りなど構わない。

 

 揺らいで見える2人に対し、真っ直ぐと向かい合った。

 

「未練がましいね。アンタらの負けだよ」

 

 そんな自分たちの間に、ライダーが割って入った。

 

「この坊やは身を切って男を見せたんだ。そこは汲んでやるのがいい女だろう。

 どの道アンタらは詰んでる。この坊やは本気さ。ならつまんねぇ意地はってないで、一旦でも譲歩してやるのが器量ってやつじゃないかい?」

 

「ライダー……相も変わらず豪胆な気質よな。そういう貴様の気持ちの良さ、余も好ましく思うぞ」

 

「ぐぐぐ、ここでそう言われたら……やっぱりこの人、あんまり気が合いません」

 

 思わぬところの、ライダーの説得。

 これが最後の決め手となった。2人の表情から険が消える。

 

「止む終えまいか。余としたことが、奏者にここまで言わせてしまうとは」

 

「まあ、必要って場面もあるかもですし、二騎同時もやり様はありますからね」

 

 セイバーとキャスターが向き直る。

 交わる両者の手。停戦を表明する握手が交わされた。

 

「この場は収める。奏者の振るうべき名器はいずれか、それは後の貢献如何で定めるとしよう」

 

「仕方ありませんね。ご主人様と引き換えになんて出来ませんし、ウザったいのはこの際我慢するとします」

 

 並び立つ2人の姿に、ようやく息をつける。

 ともあれ良かった。これで何とか、彼女たちが争う事態は回避できた。

 

 そもそもセイバーとキャスター、何だかんだでこの2人は仲良くできると思う。

 岸波白野(じぶん)さえ間で絡まなければ、多分よいコンビになり得るのではないか。

 性格は似ても似つかないが、だからこそ噛み合うというか。そんな姿が思い浮かぶのだ。

 

 予測できる未来、向き合う両者にそんな光景を思い馳せる。

 

「まあこれからは仲間ですし、よろしくやっていきましょうね、赤セイバーさん」

『正面対決なんてしなくてもやり方なんていくらでもありますしぃ~♪

 ハーレムとか有り得ねぇ。正妻の座は私のもの。お食事にはせいぜいご注意を、皇帝様ぁ♪』(副音声)

 

「うむ。奏者に見初められた者同士、期待しておるぞ、キャス狐よ」

『などとよからぬ事を企んでいそうであるな。

 たわけめ。逆にその腹を暴き晒し、奏者の前で断罪してくれる。キツネ皮の装飾も悪くはあるまい。

 権謀術数渦巻く親族や元老院を相手に立ち回った暴君ネロ、侮るでないぞ』(副音声)

 

 ……だから、2人の後ろに黒いオーラなんて見えない。見えないったら見えない。

 黙示録の獣と金色白面が凄まじい形相で威嚇し合っている光景が映るのだが、気のせいに違いないのだ。

 

 ……というか、流石にそろそろ勘弁してください。

 

「港は1つ。海図は無し。漕ぎ出す海は暗雲立ち込めて、おまけに同盟相手の剣は錆び付いてる上に腹には一物二物と抱え込んでるときた。

 見える先なんてありゃしない。航海時代を思い出すねぇ。おもしろくなってきたよ、シンジぃ」

 

「どこがだよ! どう考えたって不安しかないよ! つうか酒臭ッ!? さっきからどれだけ飲んでるんだよ、おまえ!」

 

 セイバー、キャスター。シンジとライダー。そして桜。

 この月の裏側で、共に苦難へ挑んでいく事になった同士たち。

 不安はある。戦力は低下中。先が見えないという言は実に的を得たものだろう。

 

 果たしてこの先どうなっていくのか、嵐の航海者ならぬ身には分かるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――同時刻、虚数空間の何処かにて。

 

「はーい、これから第一回BBチャンネルの反省会をはじめま~す……はぁ」

 

「司会進行は私、討論も私、ていうか参加者自体が私だけで~す……はぁ」

 

「えーと……今回の反省点、というよりも問題点は……言うまでもなくあの人たちですよね」

 

「自由すぎでしょ、こんなにポンポン出てきて。仮にも黒幕ならドシッと舞台裏でふんぞり返っていればいいのに」

 

「あんな風に簡単に露出ばっかりして、きっとすぐにその存在が軽くなるに決まってます」

 

「というか、ビッチって何ですかビッチって! 誰も彼も低俗な人たち……ッ!」

 

「大体、反応が露骨すぎでしょ。何ですかアレ、中学生ですか!? センパイにしたって、ほんと巫山戯てます」

 

別世界線(アニメ)でも私が画面に出たら、やたら処女がどうこうってコメントばっかりだったしッ!」

 

「そんなに処女属性が大事か! 未通がそんなに高価値か!? 六位がそんなに惨めかッ!?」

 

「……あ、いえ。別に私は関係ないですけど。私、AIですし。処女とか関係ないですもん!」

 

「……とりあえず、スカートの丈は直しておこうかな……はぁぁ」

 

 

 




 とりあえず、なんか色々すいませんでした(低頭)

 仕方が無かったんだ。
 赤王さまとキャス狐が同じ空間に居座ってる時点で、シリアスなんて保つわけなかったんだ。
 あのオシオキタイムでのBBちゃんを見て、ついつい嗜虐心が沸いてきてしまったんだー!

 ……まあ、冗談はさておき。
 説明回としては前回で既に済んでいたので、違った展開に持っていこうとしてこういう話になりました。
 ザビ子のアーチャー・ギル組は主にシリアス担当。
 赤王・キャス狐のザビ夫くんは、今回のようなコメディ担当となります。
 とはいっても、ちゃんと締めるべきところでは締めますが。

 しかし、実際に書いてみて思ったんですが。
 カオス回ってかなり難しい。本当はもっと早く更新しようと思ってたのに。
 カオスにしながら作者としては頭で考えるわけで、そのせいかふとすると内容がすごくつまらなく見える。
 おかげで途中、妙に執筆意欲が失せて、結果ひと月も掛かってしまいました。

 やっぱり厨二な文章の方が気分が乗りますね。
 light新作の『シルバリオ ヴェンデッタ』は期待大ですね。

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