もしもExtraのラスボスが甘粕正彦だったら   作:ヘルシーテツオ

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悪夢襲来

 

 ――スタート、確認しました。

 

 お帰りなさいませ。

 ようこそ。こんちには。ウェルカム。

 いつものように、大変長らくお待ちしておりました、マスター。

 

 ここは量子虚構世界『SERIAL PHAMTASM』

 略称SE.RA.PH(セラフ)に造られた仮想空間、月見原学園です。

 

 失礼ですが、規則ですので。あなたの価値(バリュー)をスキャンします。

 

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 申し訳ございません。記録の読み込みに、失敗しました。

 

 本人確認(アナタノナマエ)が必要です。

 本人確認(アナタノココロ)が必要です。

 本人確認(アナタノアカシ)が必要です。

 

 恐縮ですが、もう一度、アナタのお名前と性別、契約サーヴァントを入力してください。

 

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 ――確認しました。

 

 お待ちしておりました、"岸波白野"さま。

 おはようございます。それではいってらっしゃいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝が来た。

 今日もまた気持ちの良い晴天。

 早春とも初夏ともつかない日射し。通学路での歩みも自然と軽い。

 

 校門には生徒会長であり、友人である柳洞一成の姿がある。

 学内風紀強化期間、というわけではない。あくまで彼が自主的な見回りだ。

 真面目なのはいいことだけど、少々堅物が過ぎると思う。友人としては心配だ。

 

 そんな、"まるでその役割から外れられない"ようにまでしなくていいのに、と。

 

 教室へ向かう、その途中。一成からの頼まれ事を果たしに行く。

 校門での雑談ついでに頼まれた事。赴く先は『用具倉庫』。この場所の施錠を頼まれたのだ。

 忙しい友人の頼みだ。自分は生徒会の人間ではないが、その程度の雑用なら引き受けられる。

 手間取るような用事でもない。()()()()()()()、施錠を終えて教室に急いだ。

 

 自分の教室は2年A組の教室だ。

 廊下で談笑していた生徒たちも、HRが近いために教室へと戻っている。

 人がいなくなると廊下というのは随分と静かだ。声の1つも聞こえてこない。

 教室からの声くらいあっても良さそうなのだが、それさえ聞こえない。まるで"ルーチン外の行動など無駄"だというように、

 

「――ッ!?」

 

 突如手に走った痛みに苦悶を上げる。

 痛みを押さえて目を向けると、そこにあるのは3画の奇妙な紋様。

 こんなものが偶然ついたとは考えづらい。一体何なのか、この『覚えのない代物』は――

 

 ……いや、違う。そうじゃない。

 覚えがないなんて嘘だ。自分はこ■■■に覚え■ある。

 こ■■令■。サー■■ン■と自■を繋ぐ、契■■証■■■■■■■■■■■■■■■

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 ……変なことを考えている場合じゃない。

 HRの時間が近い。自分も早く教室に向かわなければ。

 こんな"偶然できた怪我"なんて放っておこう。後で保健室に行けばいいだろう。

 

 そうだ、自分はこの月見原学園の生徒。

 争い事なんかとは無縁の、単なる人間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多少気になることはあったが、HRには無事間に合った。

 自分の机に座って気を落ち着けていると、友人の後藤くんが話しかけてきた。

 

「やあ岸波。どうしたんだ、今朝はギリギリじゃないか。真面目なだけが取り柄のクセに」

 

 クラスメイトの後藤くんとは、友人の中でも特に親しい間柄だ。

 席も近いので会話の機会も多い。こうして話しかけられるのも珍しくない。

 

 というか、後藤くん。君ってそんなキャラだっけ?

 

「おいおい忘れたのか。いくら凡人だからって、その物忘れの仕方はどうかと思うよ?

 ほら、僕ってモノマネ部だろ。このナルシストに苛つくキャラも、誰かのモノマネってわけ」

 

 ああ、そうだ。確かに彼はそういう人物なのだった。

 自称、モノマネ部。後藤くん以外の部員は謎であるが、彼はそこに所属している。

 前日に見たフェイバリット映像に影響されてその役になりきるという、確かにすごいのだが役に立てづらい特技を持っている。

 誰なのかは知らないが、この鼻につくがどこか憎めないキャラも、彼のお題の1つなのだろう。

 

「みんなー、おっはよー♪」

 

 底抜けに明るい声。

 始業ベルと同時に教室に飛び込んだのは担任の藤村先生だ。

 

「よーし、今日は遅刻しないで――――わきゃん!」

 

 教壇の横、何もないはずの所で派手にスッ転ぶ藤村先生。

 それはある種の芸術といえる。なぜ毎朝、同じ場所でそうも見事にコケられるのか。

 生物的に見てかなりヤバイ音をたてて、鋭角に頭からいった姿に演技の類は見受けられない。確か武道の有段者のはずなのだが。

 

「んあ……? あれ? みんなどうしたの?

 駄目よ、ホームルーム中に席を立っちゃ。ほらほら、始めるから座りなさい」

 

 そして何事もなかったように起き上がるのも相変わらず。

 このクラスにとっての規定事項。やはり藤村大河はこうでなくては。

 

 ……うん。何というか、実にタイガーである。

 

「さあ、もうすぐ期末テストだからね。授業も気合入れてかなきゃ駄目よー」

 

 そうか、もうそんな時期なのか。

 まもなく行われる学期末の試験。そろそろ勉強にも力を入れなくてはと考えて、

 

 ふと、思った。()()()()()()()()()()()、と。

 

 今がテスト期間なのは分かる。

 だが実際に行うのはいつなのか。そのイメージが煩雑としている。

 掲示された日時はあっても、その日は本当に訪れるのか。

 いやそもそも、そんなものより大事■こ■があ■■ような■■■■■■■■■

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 いや、落ち着こう。

 おかしな妄想なこれくらいにしよう。

 来ない日なんてあるわけがない。現実逃避も甚だしい。

 

 それこそ、"時間が繰り返している"わけでもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっす! キシナミ、待ってたぞー!」

 

 授業を終えた放課後。

 部活動の時間となり、所属する新聞部へと顔を出す。

 

 向かった部室には、すでに見知った3人の姿がある。

 蒔寺部長、氷室副部長、そして三枝さん。

 皆が同じ部活で活動をする仲間同士。勝手知ったる3人である。

 

「前号のおまえが持ってきたネタ、大好評だったぜー! さっすが我が部のエース! これからも頼むぜ」

 

 健康的な黒い肌、体育会系の容貌に違わず、ジャガーの如き俊足をお持ちの蒔寺部長。

 いつも思うが、なぜこの人が新聞部なのだろう。見た目にも能力的にも明らかに陸上部だろう。

 この新聞部にいたところで、氷室副部長に日々パシられるしか使い道はないというのに。

 

「うぅ……、ア、アタシだって本当は陸上部部長が良かったんだぞ。だけどさぁ……」

 

「蒔の字を得意科目につかせると張り切り過ぎて逆にウザくなるからな。この措置は妥当なものだと判断するよ」

 

 ごめんなさい、意味分かんないです。

 違和感があるようでないような、スルー推奨だって本能が叫んでいます。

 

「そうしてもらえると助かるよ。さて、次の記事についてだが――」

 

「ズバリ! 次のタイトルは『迫る! 月見原怪奇スポット』だ。

 我が学園が誇る七不思議! 本当に7つあるかは知らんが無けりゃ適当にでっちあげてでも書くぞ!」

 

 その勢いはまさしく暴走特急が如し。

 厄介事を嗅ぎ取る嗅覚、動物勘の働く目、これでジャーナリズムでもそれなりに優秀なのだ。

 我々はただ遊んでいるのではない、真剣に遊んでいるのだとは部長の名言である。

 

「えっと、霊界の入口っていう噂話があってですね。

 弓道部の裏手にそういうのがあって、昔、いじめられていた後輩がそこにゴミを拾いに行かされたまま行方不明になったとかで。

 そこには霊界に繋がる道があるんじゃないかと。そんなに有名でもないんですけど、一応は話に上がる事があるみたいですね」

 

 そして、三枝さん。我が新聞部屈指の真人間。

 まったく彼女の存在は、この空間における癒しである。

 

「そう、それそれ。ったく、誰だよなー。んな怖……いい加減なことを言い出した奴は」

 

「君にはその真相の取材をお願いしたい。最悪の場合、妥当なオチでも付けられれば良しだ」

 

 そして、我が部の最高権力者、氷室副部長。

 インテリ系な眼鏡女子。文化系活動での手腕はアニマル系部長の及ぶ所ではない。

 なぜ副部長の地位に甘んじているのかは知らない。性格、見た目と参謀っぽいからだろうか。

 どうあれ、活動の中心が彼女なのは間違いない。行動指針を定めるのも副部長の役割である。

 

 ひと組となっていることが自然に思える、彼女ら3人組。

 性格から何までまるで違う。相性が良いとも思えないのにひどく噛み合った関係。

 彼女らと一緒にいても、自分はどこか浮いている。3人はこれで完成したカタチなのだろう。

 

 ……けれど、ふと疑問が沸く。

 完成してる3人の関係性。そんな彼女らの新聞部に入った経緯とは、一体なんだったか……?

 

「次の怪奇スポットのネタも上がってるぞ! 題して『屋上に立つ男』!

 屋上から恨めしそうに見下ろす不景気そうな男。なんだかそれっぽいだろ?」

 

 屋上への立ち入りは禁止されているはず。

 施錠もしっかりされているはずだし、なるほど確かに面白いかもしれない。

 たまたま入り込めた生徒の誰かって真相がオチになりそうだけど、きっと"彼女"ならそれだけで話題性十分に―― 

 

「? どうした、顔色が優れないが」

 

 待て、待て待て、自分はどうして"彼女"と思った?

 部長が語ったのは男の話だったはず。なのになぜ、脳裏に"赤い服の少女"の姿が過ったのか。

 

 ……そうだ、自分は彼女のことを知っている。

 自他の厳しく、公正を愛し、何より誇り高かった少女の姿。

 敵でありながら、未■な自分を放■出すことを良し■せ■に気に■■■く■た。

 ■の頼■■さを忘■■■■がな■。彼女■名前■遠■■■■■■■■■■■■

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「……どうやら体調が優れないようだな。大事をとって、今日のところは休ませるか」

 

 いや、大丈夫だ。問題はない。

 ちょっと目眩がしただけだ。これぐらいでめげてはいられない。

 

「お、おう。無理すんなよ。取材だったらアタシらでもやっとくからな」

 

「あの……もし気分が悪くなったら保健室に行ってください。きっと"あの娘"がいますから」

 

 ありがとう。気遣ってくれて。

 けれど、心配はない。なんといっても自分はこの根気だけが取り柄なんだ。

 

 そうだ。()()()()()()()()なんていうのは、それはきっと"岸波白野"らしくはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取材のため、向かったのは弓道部の使う武道場。

 日本古風な作りの道場は、学園内でも一際異彩を放つ建築物だ。

 

 調べてみると、入口の鍵が開いていた。

 今はテスト期間中で部活動は休みのはず。なのに人がいるのだろうか。

 ……おや? ならば新聞部(じぶんたち)はどうなのだろう。文化系は任意だとか、そんな感じだっけ?

 

「よお、新聞部。なんだよ、何かの取材か?」

 

 中に入ってみると、やはりというか人がいた。

 彼女の名は美綴綾子。文武両道の美人として学園内でも有名な人物だ。

 自分も多少の親交がある。始まりは……確か、部活動での一件がきっかけだったような……。

 

「というか、今の時期にも取材っていいの? たしかテスト期間中ってどこの部活も活動停止のはずだろ」

 

 あ、やっぱりそうなってるんだ。

 うーん、どうなんだろう。氷室副部長が何かしたのか、蒔寺部長が忘れてるのか。

 それとも一成だっけ? 生徒会長の彼に何か便宜でも図ってもらったのだったか。

 

「あの堅物の生徒会長が? あいつってそういう贔屓みたいな事しないと思うけど」

 

 一成の事を話題に出すと、美綴さんが渋面を浮かべる。

 運動部の顔役である彼女は、部費問題などでよく一成とは対立していた。

 

「まあ、そっちの事情だしいいさ。あたしだって今はあんまり人の事言えないしね」

 

 そういえば、彼女もテスト期間なのにこうして弓道部に顔を出している。

 弓道着は着ていないし、他の部員の姿も見えないので活動しているわけではなさそうだが。

 

「ああいや、ちょっと自主的な掃除中。いつも藤村先生に頼ってばっかりなのも悪いと思ってさ」

 

 そうだったのか。流石は弓道部主将。

 彼女の人望が厚いのも、こういった気配りの出来る所からもきているのだろう。

 

「そんなに持ち上げないでよ。単に自分の弓くらいちゃんと手入れしなきゃって思っただけだし。

 部員の中にも手入れの仕方がまだ分からない奴とか、そもそもいい加減な奴とか結構いるから。

 こういうのは率先してやって見せた方が、下の連中も従ってくるからね」

 

「で、そういうアンタは何をしに来たんだよ。ちょっとくらいなら取材にも付き合ってあげるよ」

 

 そうだった。ここは素直に、彼女の好意に甘えるとしよう。

 

「霊界の入口ぃ? なにそれ、聞いたことないんだけど」

 

 まるで覚えがないといった態度で返される。

 むう、主将である美綴さんが知らないとなると、この噂は信憑性が薄いと見るしか。

 

「……ていうか、え、マジなの? 自殺? あの裏手のゴミ捨て場で?

 い、いやいや嘘でしょ? やめてよ、なんか行き辛くなるじゃん」

 

 ……おやぁ、何やら動揺している御様子。

 ふむ。『霊界の入口』記事の代わりに、女傑・美綴主将の知られざる一面と題して――

 

「あんま調子に乗ってると、投げるよ?」

 

 はい、すいません。調子に乗りました。

 素直に謝りますので、どうか御勘弁ください。

 

「アハハ、でもあれだよね。岸波って、いつもはそんなだけど、いざとなるとホント強いよね」

 

 ? 強いとは、どういうことだろうか。

 少なくとも喧嘩したら、逆立ちしても美綴さんには勝てると思えないのだけど。

 

「違う違う、そういうのじゃなくて。なんていうか、心の強さって奴だよ。

 いざって時に、誰だってビビって動けなくなっちまうような事態でも、岸波はきっと諦めない。

 折れずに何とかしようとするって、そう思うんだよ」

 

「普段のあんたを見てると、なかなか信じらんないんだけどね。

 あんたのそういう所、結構すごいって思ってるんだよ」

 

 ……驚いた。まさかあの美綴女傑がここまで自分のことを認めてくれていたなんて。

 少しくすぐったいけど、やはり素直に嬉しい。単なるお世辞で美綴さんがそういうことを言う人じゃないと知ってるからだ。

 

「改めて言うと少し恥ずかしいけど。こうして2人で会ったんだし、なんか言っておきたくて。

 うん、そうだね、あんたとなら――」

 

「たとえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、やっていけそうだってね」

 

 ――――ッッ!!?!?

 なん、だ、急に、頭が――ッ!

 

「お、おい!? なんだ大丈夫か」

 

 美綴さんの発言に、きっと深い意味はない。

 多分、お前とはとことんまでやりあえる友人だと、そういった主旨のものだ。

 

 だが、美綴さんとは関係ない部分で、自分はこの言葉に反応している。

 殺すか、殺さないか。即ちそれは、殺し合いという事。

 互いの尊厳を、欲望を、執着を懸けて、聖■戦争■自分た■は殺■合った。

 そうだ、■杯戦■だ。■分は■こ■■た。命を持た■■虚構■して、幻■よう■意志を胸に。

 あ■果て■■殺■合いの■台に自■は■■立っ■。な■ばこ■生活は■■■■■■■■■■■

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「――かっ!? 大丈夫か、岸波!」

 

 ……美綴さんに揺さぶられ、目を覚ます。

 どうやら倒れていたらしい。いまだに頭がはっきりしない。

 

「とにかく保健室に行くぞ。ほら、動けるか?」

 

 美綴さんに肩を借りて、何とか起き上がる。

 確かにこれは強がってられる場合じゃない。素直に甘えさせてもらう。

 

「ちょっとだけ我慢しろよ。保険室には"サクラ"が居るはずだから、あの娘に看病してもらえ」

 

 "サクラ"――そうだ、間桐桜だ。

 保健委員を務める女子生徒。自分の可愛い後輩だ。

 彼女に看てもらえばきっと良くなる。すぐに行かなければ。

 

 "何故だか"そう思えて、突き動かされるように自分は保険室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保険室のベッドに寝かせられて、自分はただ静かに待っていた。

 

 窓からは夕日の光が射し込んでいる。

 1日の終わり。黄色に照らされた室内の風景。

 外を見ればきっと疎らになった生徒が目に入るに違いない。

 

 今日は散々な1日だった。

 記憶は何処もかしこもツギハギだらけ。考えると頭痛がする。

 何度も感じた、違和感のような感覚。何に対しての違和感なのか、それも分からない。

 学校も、友人も、変な部分なんてどこにもないのに、そこで過ごす自身への違和感が拭えない。

 それこそまるで、この日常こそ間違いだというように。そう思う度に、思考は鈍く曇り出す。

 自分の居るべき舞台が、他にあると己の内■ら叫ん■いる■う■――

 

 ……いや、きっと気のせいだ。

 やはり疲れているのだろう。こんな馬鹿な妄想なんて。

 休んだ方がいい。ベッドに身体を預けて、力を抜いて思考を手放す。

 

「――センパイ」

 

 待ち人の声。声の方を向いて、彼女の姿を見やる。

 

 ――間桐桜。

 白衣を纏い、保険委員を勤めている、自分を慕ってくれる後輩。

 彼女といると気持ちが安らぐ。この疲れた心身も癒されると、そう思った。

 

「なぁに一人前に病人やってるんですかぁ? おまけに保険室(ウチ)のベッドを占有なんて、いい御身分ですね」

 

 ……あれ? 癒され、あれ?

 

「どうせ身の程弁えない無茶に張り切って、盛大に自爆とかそんなオチでしょう。ホント、みっともないセンパイを持って、後輩としてはヤレヤレですよ」

 

 な、なんだ、この事あるごとに毒を吐いてくる後輩は。

 おかしい。自分の知る桜とは、こんな刺々しい性格だったろうか。

 

「なんです、それ。ついに記憶力まで残念になっちゃったんですか?

 正真正銘、私がセンパイの可愛い可愛い後輩の、間桐桜ちゃんですよ」

 

 うぐ、確かに思い返すと、そういうことになっている。

 脳裏に浮かぶ思い出の数々。そこにはこの生意気な後輩との日々が。

 何故だか抱いていた健気で淑やかとかのイメージが、ここに粉砕されてしまう。

 

「どうしましたぁ? その浅ましいリビドーで、自分のルート以外で放置されるモブヒロインっぽい、都合の良さそうな女でも想像してましたか?

 でも残念♪ 今時ダウナー系なんて流行りません。これからはヒロインも前に出る時代。非力な主人公(センパイ)は後ろで大人しくマスコットになっててください。

 そんな時代のニーズにお応えした、才色兼備でグラマラス、あなたを導くアッパー系美少女、この間桐桜ちゃんがあなたの後輩ですよ」

 

 ……まあ、いい。そういうことならば、こちらも対応を変えるだけ。

 認識した思い出より、この困った後輩にどう接すればいいのか、それも何となく分かるのだ。

 

 ――というわけで、桜、お茶。

 

「っ!? ナ、ナチュラルに命令してきましたね。意外と亭主関白なセンパイに、さすがの私もたじたじです。

 ええ、いいですよ。そんな上から目線なセンパイのために、後輩がパシられてあげますとも」

 

 ふふふ、口でなんと言おうとも、桜が尽くしたい系女子だという事は分かっている。

 自発よりも受動的に。言われて動きたい性質なのだ、この構ってちゃんは。

 

「なんだか勝手な想像をされてる感がビンビンきますけど……。

 はい、お茶です。可愛い後輩をこき使って、センパイもさぞや満足でしょうね」

 

 憎まれ口を叩こうとも、その速度は並ではない。

 こちらの要望に忠実であろうと、誠心誠意で行動した結果だろう。

 口先は生意気でも、芯にある健気さはやはり薄れていない。

 

 差し出してくれたお茶を受け取る。

 そうだ、この子が淹れるお茶が美味しいんだ――熱っ!?

 

「え!? あ、あれ? どうしたんですか!? 製作工程は何も間違ってないはずなのに……?」

 

 うぅ、沸騰したての温度のお湯で淹れたお茶とは、油断した。

 こういう時は少し冷まして出すのが正しい気配り。健気ではあるが、そういう気遣いスキルがこの子からはすっぽり抜け落ちている。

 

「ふ、ふんだ! そんなに不満なら飲まなければいいでしょう。

 ていうか、むしろ思い通りです。調子に乗ったセンパイにお灸を据えてあげただけですから!」

 

 まったく、この後輩は素直じゃない。

 フーフーと息を吹きかけて冷ます。ある程度の適温になってから、改めて口にする。

 

 ――うん、やっぱり美味しい。

 

「え、あ……あ、ありがとう、ございます」

 

 美味しいのは当然だ。

 だってこの1杯には、桜の真心がつまっている。

 この人に飲んでほしい、美味しいと思ってもらいたい。そんな気持ちが伝わってくるのだ。

 これで美味しくないはずがない。どんなに性格が違っても、間桐桜は自分を慕う可愛い後輩だ。

 

「で、でも勘違いはしないでください! こんなの全然、嬉しいとか思ってませんから!

 私、間桐桜はデキる子、駄目駄目なセンパイをリードしてあげるクイーンな女の子ですからね」

 

 はいはい、と。

 相変わらずな後輩に苦笑して、彼女が淹れたお茶を啜る。

 

 こんなやり取りだって、ありがちな日常の一幕。

 特筆すべき出来事でもなく、それほどに盛り上がったわけでもない。

 けれどそんな日常が、まるで宝石のように大切な輝きだと思える。こんな日々が続いてくれるなら、自分はきっと何もいらないだろう。

 

 

 ――――刹那、脳裏に映る、覚えのない闘争の風景。

 

 

 甘受する平穏の中ではない、命を賭した戦いの最中。

 互いの懸ける祈りのために、闘争のための刃たる従者と共に激突する。

 残るのは一方の勝者のみ。そんな死闘の中に、自分の姿が見えるのだ。

 

「っ!? センパイ、駄目! 考えないで!」

 

 あり得ない、あり得るはずがないと分かっているのに。

 この日常を思う度に、覚えのない記憶が頭の中にはしるのだ。

 まるで何かを訴えるように。日常へ■違和■を、こ■居場■は間■い■と告げ■■る。

 

「センパイ……やっぱり、まだ……」

 

 雑音(ノイズ)に掻き消され、やがて記憶は見えなくなる。

 だが、生じた違和感はしこりのように残るのだ。

 この平穏を、今の日常を、素直に受け入れる事が出来ない。

 

 一体、この違和感の正体は何なのか。

 それを知らない限り、自分はきっと一歩も前には進めないと、そう思えてならない。

 

「……ねぇ、センパイ。今の生活は楽しいですか?」

 

 思考が途切れる。

 唐突に、桜がそんな事を訊ねてきた。

 妙にしおらしい態度に戸惑いながら、決まりきった答えを返す。

 

 ――もちろん、楽しいよ。

 

「! そうですよね。ええ、そうでしょうとも!」

 

 それは自分の本心だ。

 退屈な日常。変わり映えのしない毎日。

 そんな緩やかな平穏こそ、自分は望んでいる。それだけは確信を持って言えるから。

 

「はい。センパイにしてはちゃんと正解が言えましたね。えらいえらい、です。

 センパイみたいな凡人さんに争い事なんてできっこありません。きっと本選にもいけない予選落ちです。

 平凡な能力の人間には、身の丈にあった平穏が一番ですよ」

 

 ああ、それはきっとその通りだ。

 自分、岸波白野に争い事なんて似合わない。

 他の誰かを蹴落としてまで得る欲望など、欲しいとは思わない。

 

「そうですよ。そんなのはやりたい人が他所で勝手にやってればいいんです。

 センパイがそんな事をする必要なんてありません。ですから――」

 

「――ずっとここに、この世界で過ごしていてくださいね」

 

 瞬間、溢れんばかりのノイズが頭の中を駆け巡った。

 

 ――表■の聖杯■争。

 ――手を■し伸■てくれ■英霊(サーヴァント)

 ――生■のため■闘争、勝■と引き■え■した敗者■死。

 ――助け■れ■命、救■れ■魂。結ば■■絆。

 ――そ■て、自■の■在■■義と、果■に■■■命。

 

 総てがノイズに覆われていく。まるで虫食いのように。

 かつてあった過去が、心に刻んだ記憶が、無為となって消えていく。

 消える、消える、消える、何もかもが。岸波白野という存在の証が潰えていく。

 

「怖がらなくても大丈夫ですよ、センパイ」

 

 ノイズに覆われる中、可愛い後輩と"捏造"された少女が、こちらを見下ろしている。

 

「何を無くしても大丈夫です。欠けたものは私が埋めてあげます」

 

「私が貴方/貴女を定義します。

 私が貴方/貴女の過去となります。

 私が貴方/貴女の現在を運行します。

 私が貴方/貴女の未来を保証します。

 私が貴方/貴女の存在を確定させます」

 

「だから、センパイ。どうか抵抗しないで。あなたの運命はこれで救われる。

 もう何処に行く必要もありません。ここがあなたの終着点です」

 

 ノイズの喪失感に襲われる中で、少女の言葉は甘い蜜のようだ。

 委ねてしまえばいい。そうすれば苦しいことは何もない。

 そんな抗い難い誘惑が少女の言葉にはある。それはきっと真実だ。

 

 この少女は自分を侵害しない。

 関係は偽物でも、思う心は本物だった。

 委ねれば楽になるのだろう。きっとそれは悪いものではない。

 拒否したいわけではない。受け入れたいと思う気持ちも確かにある。

 

 ――それでも、自分はその言葉に頷くわけにはいかなかった。

 

「っ!? どうしてです、あなたが望んだのはこんな世界でしょう!?」

 

 確かに、そこに嘘はない。

 この平穏が素晴らしいと思える。間違いなく本心だ。

 

 ――けれど、この世界は自分の居るべき場所ではない。

 

 自分が歩んだ舞台は別にある。

 自分という存在の足跡を、確かに刻んだ居場所が他にあるのだ。

 ならば、戻らなくては。再び歩き出すならば、それはその場所以外にあり得ない

 

「戻ったら、またあの殺し合いの舞台に逆戻りです。表にあなたの未来は無いって、もう分かっているはずじゃないですか」

 

 ……そうだ。自分は覚えている。

 あの無情の戦いを。手にかけてきた命の業を。

 そしてその果てにある、どうしようもない結末も。

 

 ノイズに侵された思考では、確かなカタチとしては思い出せない。

 それでも、その事実だけは、心中にしかと刻まれている。

 安穏など程遠い場所。存在するのはどこまでも残酷な事実ばかり。

 あるいはこの世界だけが、自分が健やかに生きていける唯一の場所であるのかもしれない。

 

 でも、この世界は袋小路だ。

 確かに今を生きる事はできる。けれど過去とも未来とも繋がっていない。

 ここに居る限り、自分は前に進めない。停止しているのだと、分かってしまったから。

 

 だから、この世界に留まる事を、選ぶわけにはいかないのだ。

 

「……そうですか。センパイの気持ちはよく分かりました。

 ホント、頭悪いですね。ここに居れば幸福だって、そう言ってるのに。

 だから――」

 

()()()()()()()()()()()()()()()、センパイには思い止まってもらいます」

 

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 増大する、ノイズ。

 記憶が、意識が、思考が、整合を失い解けていく。

 

「理解しました。■■戦争との繋がりは一切残しておくべきではない。

 後腐れなんて残さない。ここで全てを消去(デリート)します!」

 

 ノイズに覆われた意識の中で、聞こえてくる少女の声。

 これだけの事をされてるのに、不思議と憎しみは沸かない。

 彼女の行為が自分を思ってのことだと、理解しているからだろうか。

 

 それでも、受け入れるわけにはいかない。

 抗う術など知らない。だが何とかしなくては。

 この抵抗の意志さえ剥ぎ取られる寸前だが、それでも最後の一時まで諦めるつもりはない。

 

 過去にあるのは、無情なものばかりかもしれない。

 それでも、それだけではない。決して忘れてはならない、そんな存在もあった事を実感できる。

 

 たとえ何一つ術を知らない身であっても、それを自ら捨てる事だけはどうあってもしたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そうだ。そんな岸波白野(おまえ)だからこそ、俺はその輝きに魅せられる。

 

 ――――さあ、立ち上がるがいい。この試練を越えて、今一度戦いの舞台へとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「システムへの強制侵入(ハッキング)!? 駄目、逃げてセンパ――――」

 

 唐突に、頭を侵していた雑音(ノイズ)が消える。

 同時に、目の前にいたはずの少女の姿も消え去った。

 

 後には1人、保険室に残される。

 助かった、と見るべきなのか。

 少なくとも差し迫った危機は無くなったようだが。

 

 いや、と自らの認識を否定する。

 脅威は去っていない。むしろ危機はこれからだと意識は告げている。

 少女の残した言葉、『逃げて』という警告が思い出された。

 

 窓から外を見る。

 思わず目を疑った。先ほどまで夕陽に包まれていた風景を覆うのは、どこまでも深い闇。

 それは夜の闇ではない。具体的な悪意にさえ満ちた、醜悪な暗黒だった。

 

 混乱しながらも保健室を出る。

 世界を覆った暗黒は、校舎内にまでその影を落としていた。

 廊下は不気味なまでに薄暗かった。誰の声もない無人の様相がそこに拍車をかけている。

 

 おかしい、何もかもが。

 理屈はまったくの不明。だが良くないものであるのは、この様相を見れば明らかだ。

 異常が、この世界に起きている。そしてその原因は桜ではない。

 

「シラ、ナミ」

 

 そんな中で、姿を見せたのは美綴さんだった。

 何が起きたのかと、すぐに彼女の元まで駆け寄る。

 

 傍に来ると、彼女の異常にも気付けた。

 眼の焦点が合っていない。常の自信に満ちた眼差しが、何もない空虚さを映している。

 それは、恐怖か。それだけじゃない。何かは分からないが、彼女は()()()()()()に侵されてる。

 それだけは確かだと、とにかく何かしなければと手を差し伸べようとして、

 

「あ、ア――――」

 

 ――何を言いかけたのか、それを知る機会は永遠に失われた。

 

 一瞬の内に、その身体が膨張する。

 それはまるで風船のように。膨らんだそこから吐き出されたのは空気ではなかった。

 蟲だ。蚊や蠅、蜂や百足、蜘蛛、ゴキブリといった、生理的嫌悪感を催す諸々が、ありとあらゆる穴より這い出てくる。

 眼から、耳から、口から、鼻から、指先から、毛穴から、へそから、性器から。

 腐敗臭を放ち、あるべき中身を撒き散らして、一切の美観を蹂躙しながら。

 間近にいた自分に、その臓物(いちぶ)が降りかかる。生々しい温かさが、寸前までの生を実感させた。

 

 それが、文武両道の才女、常に自信と活力に満ちていた、美綴綾子という友人の最期だった。

 

 こんなのって、無い。こんなのひどすぎる。

 だってこんなもの、人がしていい死に方じゃない。

 言葉では形容できない、悪意。凌辱ですらない、ひたすらに尊厳を犯すことを目的とした冒涜。

 この悪意に理由なんてない。ただ辱しめ、穢し尽くすことだけを目指した、純なる悪性。

 その純性は人間のものじゃない。これほどの冒涜が、人の手に依るなんて信じたくない。

 これは恐らく、異端の感性。人々が共有する価値観から完全にかけ離れた魔性だ。

 

 そんな存在を表すなら、きっとそれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sancta Maria ora nobis(さんたまりや うらうらのーべす).

 Sancta Dei Genitrix ora pro nobis(さんただーじんみちびし うらうらのーべす).」

 

 唄が、聞こえる

 あらゆる堕落と退廃を表す、悪徳の調べ。

 

Sancta Virgo virginum ora pro nobis(さんたびりごびりぜん うらうらのーべす).

 Mater Christi ora pro nobis(まいてろきりすて うらうらのーべす).

 Mater Divinae Gratiae ora pro nobis(まいてろににめがらっさ うらうらのーべす).」

 

 響き渡るその意味は祝詞(オラショ)

 だがそれも、この歌い手にかかれば全てが反転する。

 歌詞の意味も、込められた思いも、何もかもを呪いの原材料として。

 

Mater purissima ora pro nobis(まいてろぷりんしま うらうらのーべす).

 Mater castissima ora pro nobis(まいてろかすてりんしま うらうらのーべす).」

 

 濁りきった不協和音。

 折り重なって輪唱される不快の音は、正気を犯す声の響き。

 それは人の声帯では決して出せない。声の主が人を外れた邪性だと雄弁に語っている。

 声が近づいてくる。一定の方向からではない。まるで空間全体で包み込むかのように。

 

 溢れる羽音。闇にも見紛う黒色の正体は蟲の郡。

 羽搏き、蠢く蟲の大群が寄り集まり、一個のカタチを形成していく。

 不快、不吉を示す唄の主、深淵の彼方より来たるその存在が姿を現した。

 

 

「ああぁ、あんめいぞぉ、ぐろぉぉろりああす――――総ては主の御心のまま」

 

 

 それは、あらゆる不浄の集合だった。

 反転した僧衣(カソック)、首に下げる逆十字、肌は一点の漏れのない暗黒で、狂気と悪意に濁った瞳。

 周囲には鼻の曲がるような悪臭が充満している。それは腐乱死体に這いずり回る、糞を貪る死出虫が如き穢れの臭い。

 人のカタチはしている。だがこの存在を前にしては、それ自体が人に対する冒涜だ。

 断言して、これは人ではない。名状することさえ憚られる、獄の底より這い寄る混沌の化身。

 

 

 ――――"悪魔(じゅすへる)"。

 

 

 そんな単語が思い浮かぶ。

 それ以上の言葉が思い付かない。この存在はまさしく、その名に込められた概念の結晶だ。

 人々を穢し、陥れ、堕落への道を歩ませる。その意義で以て駆動する人類に対する冒涜者。

 この世に解き放ってはいけない、地の獄に封じておかなければいけない邪悪だと、言葉を交わすまでもなく理解できた。

 

「――おはよう。そしておかえり、"聖杯戦争"へ」

 

 腐れた悪魔の視線がこちらへと向けられる。

 刹那に走った悪寒。このままではいけないと、猛烈な危機感に後押しされて、

 

 岸波白野(じぶん)は、脇目も振らずに遁走していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎を駆ける。

 目指すのは屋上。上へ、上へと一念で押して、階段を駆け上る。

 それ以外の道はすでにない。外へと続く道は、すでに蠢く蟲群の汚泥によって沈んでいた。

 

 校舎内は静まり返っている。

 人の気配はない。みな下校時間に従い帰宅したのだと、なるべくならそう信じたい。

 美綴さんの凄惨な最期。脳裏に焼き付いた光景を思い返し、こみ上げる吐き気に耐えながら願う。

 日常は奈落へ沈んだ。ここにあるのは正気を侵す悪夢の世界。

 まともな人間がどうなるのか、考えたくもない。

 

 背後から迫ってくる気配はない。

 少なくとも、あの存在から離れることは出来ている。

 それで油断などできるわけがない。あの正体不明な存在ならば、何をしても不思議じゃない。

 そう認識しているからこそ、駆ける脚は止めない。目的地は見えずとも今はただ走るべきだと、そう信じて――

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!! なんだよコレ!? なんなんだよぉぉぉぉ!!?」

 

 校舎2階まで上がりきったところで、聞き慣れた声の絶叫が耳に入った。

 

 振り向いた先に居たのは、後藤くんだった。

 蟲群の闇に囚われて、その裡へと引き摺り込まれようとしている。

 

「岸波!? た、たすけて、助けてくれよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 恐怖と苦痛に顔を歪ませて、必死に助けを求めてこちらに手を伸ばす。

 生きたいと縋る友人の姿。それを目の当たりにして、自分は――

 

 

「助けに行くのかぁい? 無駄だって分かってるクセに」

 

 

 瞬間、こちらの意を削ぐように悪魔の声が響き渡った。

 追われている気配はなかった。しかし気付けばこうして、すぐ近くにまで這い寄られている。

 

「彼はもう手遅れだ。侵食が後戻りできない所まで進んでいる。

 手を出せば君まで巻き込まれるよ。それじゃあ割に合わないだろう」

 

 空間に響く声は、何処からのものか特定できない。

 まるで領域内に無数に散らばった口より一斉に喋っているような、静かで、だが聞き漏らすことの出来ない粘着質な声。

 

 語っている内容は事実だろう。

 後藤くんは、もう助からない。その手段が自分にはない。

 今から行っても、自分まであの蟲たちの餌食となるだけ。そんな行為は、無意味だ。

 

「大体、助けて何になる? 足手纏いを抱えて、逃げ切れるとでも?

 甘い見積もりだ。命が掛かっているんだよ。もっとシビアな見方をしなきゃ」

 

「自分の命さえ面倒見れるか怪しい状況で、役にも立たないグズを助けたって仕方ない。

 リスクとリターンの問題だ。助けられると仮定しても、まるで釣り合わないだろう、負わなきゃならない危険に対し、返ってくる成果がさ」

 

「なぁに対処法なんて簡単だ。無視すればいい。責めるヤツなんて1人もいない。

 物語(ストーリー)の主人公としては締まらないけど、ご都合通りには罷り通らないのが現実ってものだ。

 さあ、迷うことはないだろう。すべきことは決まっている。君は前に進まなきゃ」

 

 ああ、確かにその通りだ。

 ここで出来る事はない。少なくとも無意味に命を散らす事だけは認められない。

 やるべきなのは、友人を見捨てても上を目指して進み続けるだけ。それが正当だと分かっている。

 

 ――そんな悪魔の声を振り切るように、全ての打算を捨てて自分は友人へと駆け出していた。

 

「きひひ、ひひはは、あははははははははは!!! さぁすが、君はそっちを選び取ったか!」

 

 聞こえてくる悪魔の声を、決然と無視して進む。

 あの声には距離や時間など関係ない。迷える子羊を堕落へと誘うため、如何なる道理も越えて己の悪意を届かせる。

 あれは恐らく()()()()()()だ。現実での時間は刹那、まだ何も決してはいない。

 絶望に繋がる選択は、あくまで自由意志の下に。それでこそ決定的な破滅に繋がると知っているから、選択の強制など行わない。

 

 ならば走れ。惑わされるな。

 無意味だなんて先刻承知。それでも思い出すのは、何もしてやれないまま逝った友人の最期。

 もう、見捨てない。見捨てるものか助けてみせる今度こそ。無理か得かの打算など、頭の中から捨て去ってしまえ。

 

「ああ、そうだそれでこそ正しい! 人を助けるっていう行為はそうでなくっちゃいけない。

 打算で進むか退くか決めるなんて不純だろう。幾らか混じっていたとしても、最後にひと押しするのは理屈じゃなくて感情であるべきだ」

 

「ただ、目の前の命を救いたい。そんな感情で発揮される行為は美しい。本能だけのケダモノには到底真似できない行いだよ。

 たとえ自分の身が危険に晒されても、その感情で前に出られる人間は確かにいる。怖れを考えるより先に動ける人ってのはさ。

 それは善という名の人が持ってる尊い価値だ。それだって紛れもない事実だからねぇ、僕も否定する気はないよ」

 

 もう少しだ。もう少しで手が届く。

 助けを求めて差し出されたその手を、こちらもまた掴むのだ。 

 先のようにさせてなるものか。自分は決して、その命を諦めない――

 

 

「けどさあ――さすがにそんな"モノ"のために命を賭けるっていうのは、ちょっと自分を大切にしなさすぎじゃないのかい?」

 

 

 届きかけた手が、止まった。

 止めたのは悪魔の声、ではない。

 後藤くんの、友人だと認識していた存在の、直視したその顔に。

 

 そこには、何も映っていなかった。

 交わった視線の先、その瞳に見えるのは恐怖でも諦観でもない虚空の色。

 まるで糸の切れた操り人形のように、先ほどまで必死に助けを求めていた友人は、その機能を完全に停止させている。 

 

 その"無感情"に押されて、助けようと伸ばした手は止まっていた。

 

「どんなに精巧に作られてもさあ、そいつらは結局“AI(モノ)”なんだよ。与えられた機能を果たす以上のものを持ち合わせちゃいない。

 この作り物の世界の、背景代わりに配置された飾りに過ぎないんだ。それらしく振舞っていても、中身なんかありゃしない偽物さ」

 

 作られた世界。偽物の友人。

 悪魔の言葉が無視できない。それがなんだと振り切れない。

 それがどうしようもなく事実だと分かってしまうから、耳を貸さざるを得ないのだ。

 

「他人のために身を危険に晒してでもってヤツはいる。別に難しく考える必要はない。単に感情が納得しないからってやつでね。

 まして友達相手なら尚更だ。そういう頭の悪さは、君たちの間で持て囃される典型的な美談ってやつじゃないかい」

 

「だけど壊れかけのマネキンに命を投げ出すとか、そりゃもう単に頭がオカシイ痛い奴だろう!

 人助けに精を出すのは結構だけど、せめて助ける相手がどんなものかくらいは理解しておくべきじゃないかな」

 

 自分にとっては居るべきでない場所。

 その過去も、現在での関係も、総ては与えられた捏造のもの。

 ならば今の自分の行為にも、果たして価値はあるのかと疑ってしまう。

 

 ――そんな葛藤の最中に、後藤くんは沈んだ。

 

 手を差し伸べられたはずの、そんな距離で。

 蠢く蟲の群へと呑まれていくのを、茫然と眺めながら。

 

「ああ、なんてことだろう。友達だったはずの彼を見殺してしまった。悲しい辛い、なんて悲劇だ許せない――と、心境はそんなところかな。

 さすが詭弁がお上手だ。自身への繕い方がとても堂に入っている。実にまっとうだ、人間として正しい姿だねえ。

 だけど、他ならぬ悪魔(ぼく)の前でそんな取り繕った態度をしないでほしいな。そんなものを見せなきゃならない相手なんて誰もいないだろう」

 

「そもそもの話――人を助ける助けないで一々騒ぎ立てるなんて事、君がやるような事じゃないだろう?」

 

 その言葉を聞いてはならない。本能が最大の警鐘を鳴らしている。

 まるで声の方から逃げ出すように、自分は再び駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を駆け上り、3階へ。

 蟲の闇は下からせり上がってくる。とにかく上を目指さなくては。

 上った先、さらに屋上へと続く階段はこちら側にはない。3階に辿り着いたら廊下を渡り抜けなければならない。

 

 ――そう認識していたから、直視した惨状への衝撃も計り知れなかった。

 

 廊下に広がっていたのは、沼だった。

 蠢く闇、覆い尽くした黒色、汚泥と腐敗と糞虫で構成された穢れの底無し沼。

 踏み入れればどうなるのか、そこに楽観的観測を含める事などとても出来ない。

 

 そして、ああ、あああ――――

 

 一成がいた。蒔寺部長がいた。氷室副部長がいた。三枝さんがいた。

 他にも、他にも、他にも、他にも、他にも、他にも、他にも、他にも。

 誰もが話した機会のある人だった。名前を知ってる個人だった。

 知り合いだった。友達だった。自分の趣味を自慢したり、テレビの話で盛り上がったりした。

 そこには日常があった。その時間は確かに幸福だった。人としての当たり前の日々があった。

 

 

 ――――そんな暖かな世界の象徴の総てが、穢れた蟲群の中に沈んでいた。

 

 

 駄目だ、駄目だ駄目だこれ以上考えるな。

 半ばまで沈んだ身体。浮かび上がって見える表情からは一切の色がない。

 そうだ、思い出せ。彼等は総て偽物。ムーンセルに用意された過去の何者かを再現したNPC。

 欠けていた記憶は戻っている。こんな事態になってようやく、いやこんな事態だからこそか。

 聖杯戦争。魔術師(ウィザード)たちによる生存競争。その舞台の運営のために配置されるAIたち。

 総ては作り物。だから思うことはない。偽物が潰えただけで気にすべきことは何もないのだと、

 

 そんな容易く割りきれるほど、人の心とは単純な作りをしてはいない。

 

 思い出は確かにある。過ごした日常は記憶に残っている。

 たとえ総てが偽物だとしても、その日常を幸福だったと感じた気持ちは本物だ。

 作り物だと言われようと、そんな日常を彩ってきた存在の、こんな無惨な姿を前にして心動かされないわけがない。

 それに、NPC(かれら)のことを無価値と呼ぶなら、そもそも自分だって――

 

 ともかく、道は塞がれてしまった。

 後に退く道もない。前へと進むため、自分は道筋を見失ってしまったのか。

 

「道がないだって? いやいやあるじゃないか、目の前にさ」

 

 不快の声音が響いてくる。

 こちらの心を本人以上に暴きたてる、悪意に満ちた甘言が。

 

「なんだって君はそんなにとぼけているんだい? 目覚めたばかりで、まだ寝ぼけているのかな。

 それともまさか、()()()()()()()()()()()()だなんて、今さら言い出すわけじゃあるまいね」

 

 聞くべきじゃない、聞いてはならないと分かっているのに。

 その声から逃げられない。どんなに耳を塞ごうとも、悪意は心を侵して入り込む。

 

「なにも迷うことじゃないだろう。なんといっても、君にとっては()()()()()()だ。

 今までだってずっとそうやって前に進んできたんだから。尻込みすることじゃないはずだろう」

 

 だから止めろ、それ以上言うな。

 分かってしまう。予期できてしまう、悪魔の次の言葉が。

 その手段だけは決して選んではいけないと、感情は確かにそう叫んでいるのに。

 

「友人だと思えていた相手でも、

 人として尊敬できる先達者でも、

 何の悪意も罪もない女の子でも、

 語り合ったり時には助け合ったりした戦友みたいな間柄でも、

 ずんばらばっさり切り捨てて、前に前にって進んできたじゃあないかッ!

 今さらそんな“モノ(AI)”を、踏み台にするくらいどうってことはないだろう?」

 

 ……ああ、確かに、その道ならば見えている。

 沼に沈んだ者たち。この学園で岸波白野(じぶん)の友人としての役割(ロール)を振られたNPC。

 彼等の身体を踏み越えて行くならば、自分には先へと辿り着ける道があった。

 

 けれど、そんな手段は許されない。

 理屈ではない、感情がその手段を許容しない。

 これ以上なく貶められて、尚もその尊厳を踏みにじるような真似ができるわけがない。

 

 だって、これは対等な決闘じゃない。

 生存を賭けた競争の果てじゃない。こちらだけが彼等の存在を搾取する。

 これではあまりに一方的だ。一方の側だけで命を決められるのはフェアじゃない。

 聖杯戦争というルールの外。その領域で行われる非道は、越えてはならない部分のはずだ。

 

「――進まなかったら、死ぬよ?」

 

 そんな岸波白野(じぶん)の主張を、悪魔は一言で切って捨てた。

 

「なんだかそれっぽい理屈捏ねくり出してるけどさ、ほんとは君だって分かってるんでしょ?

 対等でなかろうが、決闘でなかろうが、殺人は殺人だ。ルールの中でも外でも、欲望のために他人を殺すって結果はなーんにも変わりゃしない。

 手段が高尚か下賤かなんて趣味の問題だ。勝ち残ったヤツが強者っていうのは、覆しようのない真理だからね」

 

「ねえ、そろそろ止めにしようよ。そんな偽善を持ち出して、言い訳がましく取り繕うのは。

 言っただろう、僕は悪魔だ。なにも隠すことはない。正直になってもいいんだよ。

 人を殺すなんて許し難い、誰かを蹴落とすなんてしたくないって、そんな風に悩める自分は普通だと、そう感じていたいだけなんだよねえ?」

 

 違う、違う、違う、違う!

 そんな、そんな事は、決して――

 

「ああ、だが勘違いをしないでくれたまえ。僕は君のことを蔑んでいるわけじゃない。

 むしろその逆だ、大いに共感している。どこまでも人間らしい人間である君を心から尊敬しているんだ!」

 

「生きたい、生きたい、生きたいんだ切実に! たとえ誰に対してでも、この命を譲るなんてしたくない!

 そんな君の欲望は正しい。とても単純で、純粋で、誰にだって理解できるからこそ、誰にも否定なんて出来やしない。

 清く正しく公明正大な理想? そんなものはねえ、本当は誰も理解なんてしていないんだよ。単に物珍しい、聞こえのいい響きに酔っているだけだ。

 ただ、()()()()()()。これ以上に分かりやすくて、理解し易い願いが他にあるかい?」

 

「さっき君が持ち出した偽善ぶりだって、実はそう悪いものじゃない。人間らしい良心の葛藤ってやつだ。

 自分は外道畜生だって開き直るのもアリっちゃあアリだろうけど、それをやるともう友情万歳は謳えないからね。

 ボクは君を見捨てない、死ぬ時は一緒だ、そんな台詞をほざいたヤツがいきなり手の平を返したら、そんな友情愛情は安っぽいだろう。価値なんてありゃしない。

 迷いの重さは、情の深さと同質量だ。安心するといい、君のその葛藤は、その友愛が本物だったって証だよ」

 

「だ・け・ど! 今はもう尻に火が回ってる。決断の時ってやつだ。

 ポーズはもう十分だろう。そろそろ決めなくちゃならない。()()()()()()()()()()()()をね。

 何もせず、立ち止まったままで死んでいくなんてのは、君が最も認められないことだろう?」

 

 背後から迫る醜悪な気配。

 下の階から這い上がる蟲の群れ。それは今も迫っている。

 このままでは遠からず追い付かれるだろう。そうなれば命はないと、響く声ははっきりと告げていた。

 

 本当に、この声は悪魔のものだ。

 その一片までも悪意に満ちて、こちらの心を掻き乱す。

 そして同時に、悪意に塗れながらも決してその本質を外していない。

 質が悪い。どれほど否定したくても、言葉のとおりにするしかないなんて。

 

 

 ――――苦渋と共に覚悟を決めて、蠱毒の沼へと一歩を踏み出した。

 

 

 足裏に感じる生の感触。柔らかく安定しない足場をしかと踏み締める。

 そうしなければ倒れてしまう。脚には自然と力が入った。

 必然、その感触も強くなる。徐々に底へと沈んでいく足場の感覚に。それを思うとどうしようもなく憤った。

 

 この非力が憎らしい。

 どうして何とかする力が自分に無いのかと、思わずにいられない。

 どれほどに憤りながら、結局は言われたままにやっていて、それが尚更に腹立たしい。

 

「あぅ……」

 

 と、足下から、聞こえないと思っていた声がした。

 確かめるべきではない。視認してはいけないと本能は訴えてるのに、感情は視線を下へと向けてしまう。

 脚の先にいたのは、三枝さん。僅かな意識の残滓を残して、彼女がこちらを見上げていた。

 

「うふふふ、ひぃっひっひっひ――きひはははははははは!」

 

 悪魔の哄笑と共に、上方より無数の芋虫が落下してきた。

 接触と同時にひしゃげて潰れ、汚らわしい黄色や緑の体液が身体中に付着する。

 それで受けた衝撃に大したものはない。攻撃としては効果があるとは思えない。

 ただ、ひたすらに不快だった。まとわりついてくる粘着質な液体、漂ってくる腐れ切った悪臭と、もはや単なる嫌がらせとしか思えない。

 それでも、効果は確かにあった。こみ上げた吐き気に揺さぶられ、身体の平衡を崩しかける。

 何とか持ち直したが、その際に脚に余計な力が入った。直後に生じる、歪な感触。

 

 ()()()()()

 不自然なカタチでこちらを見上げる、蒔寺部長の顔。

 生気がない。あの豊かな活力なんて微塵もない。枯れ尽きた眼に群がる死蟲ども――

 

 たまらず、吐き出していた。

 限界だった。恥も外聞もありはしなかった。

 自分の嘔吐物が彼等の顔に降り掛かる。その様もまた耐え難い光景として眼に焼き付く。

 その惨状が更に嘔吐を加速させて、ああくそ、いくら電脳世界だからってここまでリアルに作りこまなくてもいいだろうに!

 毒づく。込み上げる吐き気を振り捨てるように、自分に嘔吐物がかかる事も構わず頭を振って。

 蟲の体液とゲロにまみれて、散々な様になりながら、それでも前進を再開した。

 

 だって、ここまで来ておいて立ち止まったら、本当に何が何やら分からない。

 不快感と嫌悪感、極限の二つを両立しながら、心奥からの叫びに従い、脚を踏み出す。

 友人だったモノらを踏み越えながら、その罪悪感を噛み締めながら。

 ならば辿り着かなければ嘘になる。この罪業を無意味なものにしてはいけないから。

 膝をつきたくなる身体を支えるその一念。それだけを支柱にして前へと進む。

 

 ようやく、対岸まで渡り切った。

 大きく息を吐き出す。渡河の最中はほとんど呼吸もできていなかった。

 油断してはならないと分かっている。それでも今だけは、この解放感に酔いしれたかった。

 

「あ……ぐ……キシ、ナミ、さん……」

 

 そんな自分の安堵に付けこむように、聞き覚えのある声がする。

 ああ、分かっていた。神は都合の良い幸福を容易には与えてくれないが。

 悪魔は実に気前よく、自慢の商品を次から次へと喜び勇んで持ってくるに違いないのだと。

 

 ――藤村大河、先生。

 底抜けに明るく慕われて、日常を象徴する陽向(ひなた)のような人。

 こんな場所にいるべきでない、彼女のような人がこんな世界にいてはいけない。

 そんな人が今、自分の前に蟲に侵されながら立っていた。

 

「逃げ、て……――――」

 

 それでも尚、掠れる声から吐き出されたのは、こちらの身を案じる言葉。

 こんな異端な世界に堕とされても、藤村大河は生徒を思う素晴らしい教育者だった。

 

 その姿を見て、思う。

 たとえ彼等が造り物だとしても。

 再現された人格、そこから生じる感情は本物なのでは、と。

 そんな感情が積み重なって生まれる心、それこそが自分にとっての――

 

 気付けば手を伸ばしていた。

 助けられないと分かっているのに、先程は手を止めてしまったのに。

 懲りないと言われても、恥知らずな真似だとしても、伸ばす手は止まらない。

 明確な理由なんて付けられない。ただそれでも、何かがしたかったのか。

 ほとんど反射のような行動で、感情に従ってその手を取ろうとして、前へと踏み出す。

 

 

 ――――ボトリ、と、その頭が落ちた。

 

 

 目の前で、冗談のように呆気なく。

 まるで古錆びた玩具のように腐れ落ちて。

 伸ばした手は、結局また何も掴むことができなかった。

 

 ザワザワ、と。

 落ちた首の断面より、蟲が這い出てくる。

 残された藤村先生の体内から、無数に湧き出す蟲の群れ。

 

 その蟲らが寄り集まって、悪魔の面貌を形取った。

 

「改めて言うけれど、僕は君のことが好きだ。愛おしくてたまらない。

 決して生を諦めない姿や、非力なままでも足掻こうとする強さとか、その人間らしさがね」

 

 ケタケタと、悪魔が嗤う。

 親愛の言葉を吐きながら、最大限の侮蔑を込めて。

 それは間違いではない。悪魔にとっては、その侮蔑こそが最高の賛辞なのだから。

 

「散々他人を蹴落としてきて、まだ自分はまともですみたいに振る舞える、その図々しさとかさああああああ!!!

 きひひ、ひははは、くははははは、きひゃはははははははははは――――!!!!!」

 

 くそ、くそ、くそ、くそうッ!!!

 走った。走っていた、自分でも分からない何かを振り切るように。

 感情が掻き乱れる。声を上げて泣き喚く。それが何に対しての涙なのか、それすら分からない。

 ただ、押し寄せる絶望の念に対比して、込み上げるどうしようもない悔しさがあった。

 それは神経を逆なでるあの悪魔の声に、抗いもせずに従うしかなかった己の非力さに対してか。

 はっきりとは自覚できない。けれどこの悔しさは烈火のような憤怒にも似て、膝をつくことを認めさせない。

 

 だから、この脚だけは決して止めない。

 汚泥に塗れた姿のまま、その不快感も押し殺す。

 踏み出す脚には力を込めて。その歩みには確かな意志を。

 

 何を言われようと、どんなに疵を抉られようと。

 この意志を折ることだけは決して、認めてやるなどするものか――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退廃と悪意に染まった月見原学園。

 そこにかつての日常は何処にもない。総てが蟲に覆われて、悪性情報の渦に堕とされた。

 もはや校舎は2階までが蟲に喰われ、侵食に沈む領域は上方へとせり上がっている。校舎総てを呑み込むのも時間の問題だ。

 

 その中心、穢れの園を仕立て上げた張本人たる悪魔は、世界を見下ろし嗤っていた。

 

 この世界の主だった少女の事を嘲笑って、全てが思い通りにいかない無様さを嗤いながら。

 守りたいと願う相手から拒絶されて、そのために用意した箱庭さえも奪われて、果たしてその心境は如何程であろうか。

 

 その苦悩の程を思う度、悪魔は愉悦に身を悶えさせるのだ。

 

「それにしても――」

 

 同じく、悪魔が思うのはこの世界に囚われていた件の少年/少女。

 悪魔の愉悦がより深まる。健気とすら言えるその足掻きは、己の趣向と実によく合うと。

 

「いやあ、いいなぁ。実にそそられるねえ、"岸波白野"って子はさ」

 

 直視した悪夢にもに屈さずに、足掻き続けるその姿。

 どこまでも抗うことを止めない心に、悪魔は確かな敬愛を抱いているのだ。

 

 そしてだからこそ、そんな悪魔の親愛とは凄惨なる悪意で以て表される。

 

 ただ近場で眼についたから、ついでとばかりに使ってみたAIたち。

 そう、()()()()()()だ。こんなものは悪魔にとって小手先の手段に過ぎない。

 だが思った以上に素晴らしい姿が見れた。絶望の中で藻掻く姿には、激しく食指が動かされる。

 

「こんな本選でも前座ですらない場所で、どうこうしようなんて考えていなかったけど。

 いきり勃ってしまいそうだ。このままだと本当に、思わず()()()()()()()()()()()()

 

 醜悪なるその欲情のままに、蟲の悪意が駆動する。

 大地を埋め尽くし、天さえも覆い尽くさんばかりの蟲群が蠢き出す。

 キチキチと、溢れ出る悪欲に従って、哀れな獲物をその骨の髄まで貪り喰らわんとして、

 

 

 

 

 

「――――神野明影」

 

 

 

 

 

 己の名を呼ぶ"声"に、悪魔の動きが止まった。

 

 天上の果て、遥かな熾天の御座より降りたるその声。

 自身の"召喚者"たる声の主に、悪魔は笑みを潜めて礼を取った。

 

「――ええ。無論、分かっておりますよ。我が主」

 

「あなたほどではないにせよ、あまり堪え性のない性分だと自覚している僕ですが。

 こんな開幕前の段階で主役級を本気で潰そうだなんて、演出家として失格だ。

 あまりに僕好みだったので、ついつい欲望が口から出てしまっていた。お許しを」

 

 その様には恭しき敬意がある。

 それは従僕として、主の意向に従順であることの証左。

 

 本来ならば"人間"であるはずの主に、悪魔は心からの臣従を誓っていた。

 

「ですが、ならばこそ"試練"には手を抜くべきじゃない。そこにはあなたも同意のはずだ」

 

「やり方がありきたりなのは認めますがね。だが王道を外すべきじゃあない。

 ありきたりって事は、それだけ需要があるって事だ。正道外して奇をてらうにしたって、まずはその正道あってこそでしょう。横道ばかりの意外性なんて、早晩に飽きられますよ」

 

「粗方掘り尽くされた命題でも、施し方を変えればまた別の絶望が顔を出す。新たな戦いに向かうに当り、そうした試練の方がおあつらえ向きでしょう」

 

 他者を踏み越えて、己が生き残るという行為。

 表側での戦いで行ってきたこと。それをひたすら醜悪に演出してみせた悪魔の手際。

 それらも、全ては意志を試すための試練。主の意向に対し、悪魔の趣向は何も違えてはいない。

 

「それにしても、いいなあ。あなたのお気に入りという事を差し引いても、あの健気さには頭が下がりますね」

 

「これが並なら、声を張り上げて、僕の名前を叫んで、怒り任せに斬りかかる。精々そんな対応が関の山でしょう。

 別段それを間違っているとは言いませんが、そんなものは怒りで自分の疵から眼を逸らしてるだけだ。だって何の解決にもならないんだから。

 目の前の手頃な悪役に、責任押し付けて事なかれで場を納めているだけでしょう」

 

「けど、岸波白野(あの子)はそうじゃない。自分の疵も、僕への怒りも、全部背負って捨てようとしない。

 転嫁するなり、無視すればいいだけなのにねえ。己の業というやつから逃げる事が許せない。

 いやあ実に素晴らしい姿勢だ。僕としても相手をしていてとても喜ばしい」

 

 無視はよくないのだ。無視は寂しい。

 そうしたコミュニケーション不足は、悪魔(じぶん)にとって死活問題である。

 

 最も、その無視自体が言うほど簡単ではない。

 悪魔(じぶん) の悪意を無視するなど、まともな正気では不可能だ。

 それを可能とするなら、それは生来の鬼畜外道か、主のような一種の超越者でなければならないだろう。

 

「そういう連れない相手を口説きおとすのも乙なモンですけどねえ。

 岸波白野(あの子)は違う。性質は一般的、感性だって決して外れたものじゃない。

 だから受け止め方だってまともなものだ。そのまともな感性のままで、最後の一線だけは決して譲らない」

 

「あれでなかなか、岸波白野(あの子)も結構な怪物ですよ。あの精神の不屈っぷりは、悪魔(ぼく)でさえ目を見張るものがある。

 断言しましょうか。岸波白野は強く正しい人間だ。絶望に抗い、強い意志で前に進むその姿は、人にとっての正しい在り方でしょう」

 

「――だからこそ、僕は心からの敬意と親愛で以て、“彼/彼女(きしなみはくの)”を絶望させたい」

 

 その感情は矛盾しない。元来悪魔とはそういうものだ。

 人を堕落へと誘うことを旨とし、逆説的に善性を証明するため悪性を担った存在。

 自分をそのように定義付けたのは、他ならない人間(あなた)たち。だから何の遠慮もありはしない。

 神野明影は、在るがままの悪魔として、人々を篭絡し、貶めるだろう。

 

「まだ何も始まっちゃいない。退場には早すぎる。演出家としてそれは僕も同意見です。

 けど、だからって突破前提のぬるい関門なんて、あなたも望ましくないはずだ。

 もしこの場で敗れるようなら、そこまでだったというだけの話。その時は容赦しない。決して逃しませんよ、僕は」

 

「あなただって、そのために僕を喚び出したのでしょう?」

 

 問いかける悪魔に、主の声が答えを返す。

 その答えを聞き届け、悪魔は心底から愉快気に哄笑を上げた。

 

「人の愛と勇気を枯らさぬためには、悪魔が必要ときましたか。あなたという人は本当に(アレ)とよく似ておられる。

 ああそうとも、そうでなくちゃいけない。それでこそ、この悪魔(ぼく)が仕える甲斐がある」

 

悪魔(ぼく)に容易く穢されるような、地獄に引かれる人間なんか安い。その選別をしているだけだ。

 あんめいぞぉいえすまりぃあ――我が主の仰せのままに」

 

 悪魔の哄笑は続く。

 その悪意で以て描かれる脚本、織り成されるだろう悲劇、絶望の未来を思って。

 

 現界を果たした蝿声の王は、高らかに悪徳の祝辞を謳い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を駆け上がって、ようやく屋上へと辿り着いた。

 

 目的地へと到達した感慨などない。

 目視できる外の光景。その異常さに我が目を疑う。

 

 空が黒い。町が黒い。

 見下ろした先の大地は、全てが黒一色に染まっている。

 それはまるで夜の海のように。見渡して見える世界は、暗黒によって塗り潰されていた。

 

 だが、本当の絶望はそこではない。

 夜の暗黒に混じって、不快な羽音を響かせる影。

 空に、大地に、あらゆる場所に蔓延るそれは、数の定義さえ馬鹿らしいほどの蟲の群。

 醜悪なる穢れの群れは、校舎を這い上って徐々にこの屋上にまで迫っていた。

 

 安全な場所などどこにも無かった。逃げる先ももはや無い。

 一片の救いさえ見えない状況、心に絶望の二文字が頭をもたげてきた。

 

 

「――――追ぉいつぅいたぁ♪」

 

 

 そんな心に追い打ちをかけるように、耳に届いた悪魔の声。

 その醜悪な姿を屋上に降り立たせる。そして姿を現したのは悪魔だけではなかった。

 

 蟲に侵され、壊れたままに蠢く月見原学園の生徒たち。

 折れ曲がり、腐れ落ちたままに駆動するその様は、まるでゾンビのようだ。

 岸波白野(じぶん)にとって友人だった者たちが、蟲の悪意に動かされてこちらへと迫っていた。

 

 その光景に、改めて実感する。

 過ごしてきた日常。自分が望んだ、平穏の日々。

 そんな夢想の詰まった世界は、もう跡形もなく燃え尽きたのだと。

 

「残念だったねえ、ここが終着点だ。もう先に進む道はない。

 お友達だったモノを踏み台にして、ゲロ吐いて汚物まみれになりながら、ここまで頑張ってきたのにさあ」

 

「哀れ、どれだけ強い意志で歩んでも、失敗する時は失敗する。それが現実ってものだよ」

 

 悪魔の声が、こちらの最後の柱を折りにかかる。

 すでに詰みが確定したこの状況で、更にこちらの絶望を見るために。

 

「だけど、不思議なものだ。君だって本来は彼等(AI)と同じ者のはずだったのに。

 運命の悪戯ってやつかな。まったく神というものは人を翻弄するのが大好きだ」

 

「自我に目覚めた君と、目覚めなかった彼等。その差とは一体なんだったんだろう。

 元となった人間の性能? まさか、だったら君より適切な人材が幾らでもいる。

 先天的な要素は皆無で、後天的に誰かに手を加えられたわけでもない。ならやっぱり、不確定要素(イレギュラー)の生み出した偶然の産物か」

 

「ああ堪らない、不公平だ! そう嘆く彼等(AI)の慟哭が聞こえるようだよ。

 なら、これだってそう怖がることじゃないかもしれない。

 単に正常に戻るだけだ。再び彼等と等しくなる。なにも可笑しなことじゃないだろう」

 

 生徒(AI)たちの手が伸びてくる。

 まるで自分たちの元へと、こちらを引き摺り込もうとするように。

 岸波白野(じぶん)だけが別の対岸に立っていることを妬んでいるとでもいうような。

 

「君は非力だ。岸波白野に戦うための力はない。それは君自身で分かっているだろう。

 誰に助けを求めたって、この世界に駆けつける者はいない。足掻く余地もなく無に消える。

 これが絶望というものだ。君という価値は意義もなく潰えるんだ」

 

 もはや状況は袋小路。抵抗したところで先などない。

 群がってくる腕。無感情なその力に引きずり倒される。

 自分を見下ろす彼等(AI)の眼。何も映さない虚無がただ恐ろしい。

 まもなく自分もああなるのだと思うと、恐怖で震えが止まらない。

 怖い。もう無理だ。止めてくれ。発狂しながらそう叫びたいと、心の大半は思っている。

 

 けれどそれでも、残った心の激情は、この絶望に屈することを良しとはしていなかった。

 

 言われた通り、岸波白野が目覚めた理由に、明確な意図はない。

 全ては偶然。突発的な不確定要素(イレギュラー)。他の誰であっても不思議はなかった。

 選ばれなかった者らにとって、それは理不尽な結果なのだろう。憎む思いも仕方ない。

 ならばその無念に従って、諦めることが正道か。それこそが自分の取るべき道だと。

 

 ――否、断じて否、だ!

 

 自分には手足がある。血と肉が通った、意志を持ったこの肉体が。

 偶然かもしれない。それでも手にした以上は、自分には果たすべき責任がある。

 選ばれた者と選ばれなかった者。分たれた二者の間で果たすべき責任とは、示す事だ。

 選ばれなかった者を納得させる。その理不尽を道理へと変える、そんな姿を。

 

 

 ――――選ばれた岸波白野の意志とは、目覚めるに値する“輝き”であったのだと。

 

 

 群がってくる同胞(AI)たち。その重圧の中から、己の脚で立ち上がる。

 引き摺り込もうとする手を振り払い、押し退けて、自分は前へと進む。

 目指す場所は屋上の更に上の給水塔。上へと逃げた先で、また上へと退路を繋いだ。

 

「おいおい、そんな所に逃げてどうするっていうんだい?

 もう空だって(ぼく)に覆われているっていうのにさ。上に逃げ道なんてないよ」

 

 確かにそうだろう。上へと続く逃げ道などもはやない。

 この声はどうしようもなく悪意に塗れているが、的外れなだけの事は決して言わない。

 どんなに目を背けたくても、それが事実だから逃げることができないのだ。

 

 だから、目を背けてはならない。

 諦めてはいけない。諦める事はできない。

 たとえこの悪夢から逃れられないのだとしても、この手足が動き続ける限りは、決して……!

 

「自殺でもする気かな? 僕にやられるのは気にくわないから、決着だけでも自分の手でって?

 それは自棄と言わないかい? あまり感心できるやり方とは言えないな」

 

 なるほど、きっとそれはその通りだ。

 深い考えなんてない、こんなものはヤケクソだ。

 ただ意地で突っ張って、こんな真似をしているに過ぎない。

 

 見据えるのは屋上の先。

 囲うフェンスも何もない、虚空へと続いた断崖。

 それでも尚、蟲に侵されていない場所があるとしたら"そこ"しかない。

 

 ただ"諦めたく"なくて、岸波白野(じぶん)は屋上より飛び降りた。

 

「ふぅ……」

 

 全身に掛かる落下感。

 時間にすれば僅かな間。地表はすぐ間近に迫っている。

 

 そんな最中に聞こえてくる、どこか残念そうな悪魔の呟き。

 

「おめでとう。それが正解だ」

 

 そんな言葉だけを耳に残して、岸波白野(じぶん)は虚無の海に沈んでいった。

 

 




 タグに「残酷な描写」を追加。
 出てきた段階で目的は果たしていたし、特に意味もなかったけど趣味で悪意をぶつけてみた神野さんの回。
 流れはほぼ原作通り。そこに神野を加えただけです。

 まあ、アレですね。アニメに触発されて書いてしまった日常風景。
 美綴さんとか三人組とか、藤ねえのファンはお許しください。

 オープニング部分はこれにて終了です。
 今回だとザビーズのどちらでも対応するよう描いていますが、次回からは別々に進んでいきます。

(追記)
 今回の話を黒幕側より語ると、
使い魔「桜から主人公を取り返すよう言われてきたけど、
    ついでだったので悪意をぶつけてみた。思った以上に楽しめて大変愉悦です」
主「桜から主人公を取り返すよう使い魔に命じたが、
  ついでだったので試練を与えてみた。素晴らしい勇気が見れて大満足である」
 となります。


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