デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 saDripe

 Despair

 ごろごろごろごろ…………




十香デスペア

 十香と一緒に色々なものを見よう。

 そして、希望を見つけよう。

 

「おおシドー、このふるーつぱふぇとやら、なんという美味さなのだっ!はぐはぐもぐもぐ」

 

「そいつは良かった」

 

「…………シドー?水しか飲んでないようだが、いいのか?」

 

「はは………十香が嬉しそうに食べてるのを見てるだけで、満腹なんだ」

 

――――文字通りの意味で。

 

 そうして始めた士道と十香のデートは、何故か食い倒れツアーと化しつつあった。

 

 きっかけは十香を連れて行った大手チェーンの喫茶店で出されたココアフロートがいたく気に入ったらしく、目を輝かせてその感動を語られたことだった。

 

 何かを食べるという行為自体が初めてらしい十香にはそれで攻めるのが有効と判断した士道は急造のデートプランを変更し、知る限りのお薦めの店を頭の中で検索しながら歩いて回ることにした。

 昼時が近いのもあって丁度いいとも思ったし、その手の知識は割とある方だと思っている。

 

 美九は女子特有の情報網で掴んだ話題の店なんかにはよく連れて行ってくれるし、耶倶矢と夕弦とは一緒に珍しいメニューや下手物を物色しに行き―――大抵外れだが―――たまに当たりを見つけることもある。

 意外にファストフードで十分だという事が多いのは七罪だったりする。

 学生の身分で浪費出来ない、だがなるべく美九達にたかる真似もしたくない士道にとって結構ありがたいものだが。

 

 そう言う事で二、三ほど店を回ろうと考えていた士道だが、――――どの店でも並の一人前を遥かに超える量を完食した上で『それで、次は何を食べに行くのだ?』などと期待に満ちたきらきらした瞳で見つめてくる十香に、己の計算違いというか開いてはまずい扉を開いたような気がした。

 

 幸い精霊に不自由な思いをさせないように、ということで琴里に持たされている限度額が怖くて訊けないなんかちょっと輝いているクレジットカードのおかげで財布が餓死するのは避けられているが。

 尚、そもそもの目的である四糸乃は最初のデートの経緯からか士道にねだるのは大抵駄菓子なのでポケットマネーから購入されることから、活躍するのは初めての模様。

 

 金銭的な問題はそれでどうにかなっているのだが、士道の胃が軽い悲鳴を上げている。

 今いるちょっと裏道に入った穴場の喫茶店なら、まあ彼女に美味しいものを食べさせて自分は水で我慢するちょっと可哀想な貧乏学生の絵面が成立するが、定食屋などではそうも行かなかった。

 一品一品店に入る度に頼む料理が少しずつ溜まっていき、腹を圧迫する。

 

 苦しそうな顔を見せられないので休息時間を取れるようにここにしたが、十香の明らかに複数人で食べる4桁の値段のするパフェも呆気なくみるみる内に高さを減じていく。

 ただ、食べている十香の幸せそうな顔を見れば不満など欠片もある筈がなかった。

 

 程なくぺろりと平らげた十香が、テーブル端のメニューを手に取って店員を呼ぶと、更に注文を始めた。

 

「え、えすぷれっそ?を一つだ!」

 

「畏まりました」

 

「十香、それって………」

 

 また今度はパンケーキかワッフルでも食べるのかと思っていたのに、飲み物それもコーヒーの中でも苦味の強いものを頼んだ彼女に、少し驚いた。

 何故なら、それはーーーー。

 

「うぅ…………にがいぞ………」

 

 最初に行ったチェーンの喫茶店でも士道が飲んでいたのを口にして、涙を切れさせながらそうコメントしたものだからだ。

 

「言わんこっちゃない。どうしたんだ?」

 

「口の中をいっぱい甘くしたから、大丈夫だと思ったのだ………士道はこれが好きなのだろう?なら、私だって―――」

 

「…………」

 

 士道がこの歳で苦いブラックコーヒーを好きな理由は――――ただの慣れだ。

 詳しい経緯は、語るまでもなかろうが。

 

 それはそれとしても、服のことといい“士道と同じ”ことに対して見せるこのいじましさは、やはり士道が十香と同じ精霊だからという勘違いから来ているものなのだろうか。

 さてそれを修正するのは―――せめてこのデートに区切りを付けてからにしようと気分を切り替え、どうしても二口目に進めない十香のコーヒーを処理するべくカップを一言断って手に取り傾けた。

 

「シドー、同じ杯を二人で戴いているな!」

 

「っ!?」

 

 そして、危うく吹き出しかけた。

 

 それは勿論十香と間接キスというのは意識していたが、十香がその概念を知っているとは思えなかったからだ。

 だが、結果として似たようなことを言う。

 

「うむ、なんだか…………よいな、これは」

 

「そ、そうか?」

 

「うむ!苦くて私は飲めないが、そのおかげでシドーとこういう事があったのだから、やはりえすぷれっそとやらも嫌いではないっ」

 

「…………」

 

 深読みせずに、ただいじましい十香カワイイで十分なのではないだろうか。

 

 十香の邪気の無い顔を見ながら、そんな風に考える士道だった。

 

 

 

 

 

 夕方まで楽しんで、締めに景色のいい高台の公園に行って、十香と話をしよう。

 勘違いが拗れることがあるかも知れないが、士道なりの精一杯の真剣さと誠意を以て、伝えたいことを伝えていこう。

 

 そのつもりで予定を立てていたのは失策だったのだろうか。

 予想しようとすれば出来ていた筈なのに―――その後すぐに鳴り出した空間震警報に、思わず顔を強ばらせた士道。

 

 偶然別の精霊が出現したと考えるのは虫が良すぎる、災害として警報を鳴らされているのは、十香に間違いなかった。

 

「………連中が来るのだな、シドー」

 

 士道の表情の変化を察し、街中に鳴り響く爆音の意味するものを理解した十香は、躊躇いなく霊装と天使を展開する。

 

「“鏖殺公〈サンダルフォン〉”」

 

「十香、何を!?」

 

「言ったろう、シドーは私が守ると。安心しろ、暫く安全な場所にいてくれればいい」

 

 玉座の形をした天使が、その背から大剣を引き抜いた後、なんと蹴り倒されてサーフボードのような形に変形する。

 それに十香が士道を乗せると、そのまま空を飛んで運ばれてしまった。

 

 見る間に遠くなる十香。

 そのまま景色が流れざっと5、6キロメートルだろうか、見晴らしのいい場所に下ろされたが、士織に変身しなければもう彼女を見分けることすら不可能だろう。

 

 焦る士道のポケットが震える。

 電話の着信―――画面が示すのは妹の琴里からのものだった。

 

 急いでタッチフォンに指を滑らせ、通話をオンにする。

 

「もしもし、琴里か!?」

 

『士道、状況はこっちで全部把握してるわ。言いたいことは沢山あるけど、全部後回し。それより今の内に知らせておかないといけないことがある』

 

「俺が、知ってないといけないこと――――?」

 

 琴里も急いでいるのか、堅い早口でまくし立てるように電話越しで語ってくる。

 

 今精霊に攻撃を加えているのは、日本の自衛隊の部隊ASTではなく海外の兵器メーカーDEMの私設部隊であること。

 そして、恐らくその目的は――――。

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 思わず聞き返したのは。

 感情が振り切れすぎて現実のことだと思えなかったから。

 その振り切れた感情が果たして何なのか、それすら一瞬分からなかったのだ。

 

 何故なら。

 

『以前のデータを参照したのだけれど、ここ最近で士道と会うまでに出現頻度が上がるのと平行して、十香の不安値とストレス値が指数関数的に上がっていたわ。士道がいなければ、もしかしたら今頃連中が何もしなくても……していた程に』

 

 何故なら――――。

 

『最悪の場合も考えなくちゃいけないの。詳しいことは言えないけれど、精霊が……して暴走すれば、とんでもないことが起こる。でもだからこそDEMの奴らはそんな〈プリンセス(十香)〉に目を付けて、故意に、積極的に狙っているみたい』

 

 

 

 十香が………“絶望”することを。

 

 

 

「――――ふざけるなッッ」

 

 

 その感情の名は、怒り。

 

 声が震えるのも抑え切れない程に、今まで体験したことがない激情が士道を支配していた。

 

『し、士道………?』

 

「痛いってことも言えなかったんだよ」

 

『え?』

 

「自分が悲しいって感じてることすら分からなかったんだよ」

 

 そう。

 だから十香は平然と自分の過去が無為だなどと言えたのだ。

 過去から紡がれて来た経験の連鎖が心を育むのだとすれば、自分の過去を無為だなどと断言出来るなんて歪み切ってしまっているのに。

 

 だから士道はそんな彼女をなんとかしたいと思った。

 何よりも、その状況でも誰かを思いやることの出来る、優しい十香を。

 

「それを…………絶望、させる………?」

 

 ふざけるのも大概にしろ。

 

「相手が世界の災厄?だからってやっていいことと悪いことがあるだろうが………!!」

 

『士道……』

 

「精霊が絶望すればどうなるかなんて聴きたくもない。でも、“最悪の場合”?いま、とっくに最悪なんだよ!」

 

『!?ちょっと、何をし――――、』

 

 

 

『ならば士道!御主はそこで何をやっている!!』

 

 

 

 空間震警報で〈フラクシナス〉に入ったのか、琴里のマイクをぶんどった耶倶矢の声が士道の憤りと同じだけの強さで呼び掛けて来た。

 そして当然、耶倶矢の隣には彼女がいる。

 

『同調。我らは、士道の怒りを正しいものだと肯定します』

 

「耶倶矢、夕弦…………」

 

『なれば』

 

 我ら、とは八舞姉妹のみならず精霊の仲間達の総意なのだとは、言われずとも分かった。

 そして彼女達は、どこまでも士道を肯定する。

 

 

『『―――――――やっちゃえ』』

 

 

 心のままに。

 その怒りを叩きつければいいのだと。

 

 

「!!〈贋造魔女【ハニエル】〉、〈氷結傀儡【ザドキエル】〉―――〈颶風騎士【ラファエル】〉!!!」

 

 

 疾風の弓、氷の獣、それを操る少女の容姿。

 〈ラタトスク〉の見ている中で、ついに彼女達の最大の秘密を、そこに解放した。

 

 

 

 

 

 琴里達の読んだように、DEM執行部隊は十香を絶望に追い込むように行動していた。

 

「人間の男とデートですか。烏滸がましいと思わなかったのですか?この世界を破壊する貴女が、楽しみを謳歌しようなどと」

 

「…………っ」

 

「所詮貴女は破壊の化身。誰かと寄り添えることなどないと………知りなさい!」

 

「ぐ、ぅ、………うるさい!!」

 

 そう十香に語り掛ける隊長、エレン・メイザースの言葉は、十香と士道の成り行きを知る由もないので的外れな部分がある。

 だが一方で十香の不安を逆撫でしてもいた。

 

 十香とて勘は悪くない、薄々は自分が何か見当違いをしているのではないかという予感はしている。

 それが、士道との関係を変える何かだということも。

 

 だが士道は優しかった、一緒に居て楽しかった、嬉しかった、幸せだった。

 そうでさえあれば、不安は不安以上の何物になることもない。

 

 それだけ、ならば。

 

(こんな…………)

 

 大剣を振るう、だが太刀筋はただ空を掻くのみで、何も捉えることは出来ない。

 

「無駄ですよ。前回は様子見でしたが、今日は〈ペンドラゴン〉を持ち出して万全の態勢です」

 

(こんなの…………)

 

 前回と装いが違うこの冷血女の動きや攻撃の威力があからさまに上昇している。

 そして。

 

「悪ぃーですが、急ぎの用事が出来たんで。さっさと終わらせやがります」

 

 この女程でない者達も、連携によって数の優位から十香の動きを封じる。

 反撃の機会を伺う余裕も無く、十香はただ耐えることしか出来なかった。

 

(こんなのでは、ダメだ。ダメなんだ…………!)

 

 超威力の一撃を以てすれば、強引に戦局をひっくり返せるかも知れないが、〈鏖殺公【サンダルフォン】〉の全力解放など許してくれる隙などない。

 

 このままでは、なぶり殺しにされる。

 

 死ぬ。

 

 それだけでも十分恐ろしかった。

 回り全てが敵でも、今までは隔絶した実力差があり命の危険はなかった、それはある意味余裕とも言える。

 

 だが、それにもまして。

 

(こんな、弱いのは………ダメなのにっ!守ると約束した、のに…………!!)

 

 初めて十香に暖かかった相手。

 十香にとって、あえて形容するなら、唯一の“希望”。

 

 だが今の十香にその希望を守る力は無い。

 

 

 希望を守れないというのは、つまり――――。

 

 

 

「“天を駆ける者【エル・カナフ】”!!」

 

 

 

 黒い諦観とともに何か十香を重たいものが包もうとしたその瞬間。

 “強引な一撃”が、戦場を貫き穿った。

 

 その暴風の矢を直撃を受けた者はいなかったが、余波の風だけで煽られて部隊は散り散りに崩される。

 

「貴女は。生きていたのですか…………しかし、前回精霊反応は出ませんでしたが、天使を携えて。一体何者ですか?精霊、それとも人間?」

 

 空を駆ける白い獣の背に乗り、十香を庇い凛と佇む。

 

「何だろうと関係ない」

 

 その“希望”は。

 

 

「俺は、十香の味方だ!」

 

 

「…………~~ッッ!」

 

 

 強く暖かく、十香の心を抱き締めた。

 

 

 

 




 次回、最終回。

 それはさておき、リクエストがあんな大惨事になってんのに逆にやってくる人がいるんですけどなんなの?

 そんなに病気で返されたいの?

 うーん…………。



※もしドラ的デビル世界線で折紙が1年ちょっと早く転校して来ました。

 よし一度深呼吸しようか。
 本編完全ぶち壊しだから。

 あ、ちなみに士道さんの方は原作準拠なので七罪達はまだいません。





 七月初日、夏休みも控えたある日の昼前のこと。

 来禅高校一年生の五河士道は、人気の少ない廊下を一人小走りで進んでいた。
 着ているのは体操服、体育の授業に必要なものを忘れてグラウンドに出てしまって、取りに戻っているので校舎が静まっているのは授業時間なので当然である。

 ゆっくりしていると無駄に厳しい体育教師に何を言われるか分からないのでこの時士道はそこそこ急いでいた。
 だから、自分の教室のドアを開ける時特に何かを確認することなどない。
 急いでなくとも普通しないが――――したら、何かが変わってはいたかも知れない。



 はふはふくんかくんかすーはーすーはーぺろぺろふんすふんすちゅっちゅぴちゃぴちゃすりすりごっくんかたかた、かたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたびくんっ!……………ふぅ。


「…………………」


 変態が、そこにいた。

 ロングの髪がよく似合う優しげな美少女が、真っ赤な顔をとろかせて士道のシャツを嗅いだりくわえたりうずめたり当てたり(どこに?)して凄い勢いで悶えている、割と凄まじい光景が飛び込んできた。

 あまりの事態に呆然としていた士道は逃げ出すことも出来ない。
 そして暫く意識を飛ばしていたその少女―――何故そうなっていたのかは考えたくもない―――に、気付かれてしまう。

「…………っ、こ、これは、違って!」

 少女は何故かはだけていた制服―――一応同じ学校の生徒ではあるようだ、はだけていた理由はやはり考えたくないが―――を素早く整えながらあたふたするという器用なことをする。

 だが何が違うというのか。
 士道には沈黙で返すしかなかった。
 少女もまた暫くは意味を為さない言葉というか言い訳をもごもごして、結果お見合い状態で膠着してしまう。

 美少女との見つめ合い、なのにこんなに悲しいのは何故だろうと士道はぬるい風に問い掛ける。

 やがて少女も言い訳がまとまったのか、士道を上目遣いで見ながら、口をきちんと開いた。


「五河士道くん、初めて見た時から愛してます!私と付き合ってください!!」


「うんとりあえず俺のシャツ抱き締めるのやめようか」


 シワになるから、という主夫の視点で言う士道も混乱していたのかも知れない。
 だが、最初の『うん』を肯定の返事として捉えた彼女の満面の笑みを消すことも出来ず、士道はその名前も知らないまま人生初の彼女を作ることになる。

 後で知ったのだが、その少女は名を鳶一折紙と言った。





 士道の恋人、折紙は残念である。

 いや、スペックは最高なのだが。
 容姿は勿論手料理も作ってくれるし何かお願い事をしても即答で了承するし、経験がなく馴れない士道のデートでも不満一つ見せない。

 が。

 容姿はともかく手料理を食べたらその後暫く無性に体が熱いし話をエロ方面に曲解して実行にまで及ぼうとするし、デートで何故か下着を見せたりスク水犬耳のコスプレをしたり果てはラブホテルに連れ込まれかける。

「ねえ士道、士道は私の他に親しくしてる女の子、いるかな?」

 こんなことを訊いてきて、否定してあげるとあからさまにほっとする、これだけ見れば普通にとても可愛い彼女なのに。
 どうしてそんなこと訊くんだ?と顔を少し近付けると、それだけでとろんと表情が蕩けた。

「はあはあ………」

 息が荒い。
 鼻が少しひくひくしているのは匂いを嗅いでいるのだろうか。

 最近はもはやこれはこれで可愛いのではないかと思えて来たのだが、これも惚れた弱みと言うのだろうか。

「士道………もう、がまん」

「ちょっと待て、ここ教室!」

「じゃあせめて士道のシャツ―――、」

「ほら体操服!さっき体育あったんだけど、やっぱり」

「今日は運がいい。これで放課後まで戦える……」

「………………それは、よかった」

「「「「……………………………」」」」

 士道の恋人は残念である。

 クラスメートの白眼視に耐えつつ、それでも別れる気は欠片も起きない士道であった。





 以上。

 本当に何をやっているのやら。

 これで原作突入したとして…………折紙さん奮闘記?


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