デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 虚飾と真実。

 嘘って悪いことだろうか。

 嘘つきと正直者、どちらがより頼りにできるかと言えば結論は嘘つきの方だ。

 正直者は“自分を偽る(相手に折れる)”ことも難しいし、なにより「自分が正直に話しているから相手も正直に応えてくれる」という心理(ゆだん)がどうしても働いてしまっている。
 美徳ではあっても状況としてそれを貫くことで一転悪徳となることがあるにもかかわらず。

 だからまあ、「正直者は馬鹿を見る」というのも実際は「馬鹿が馬鹿やって馬鹿を見ているだけ」で………………あれ、なんか脱線して本編関係ないやこれ。




八舞ライアーズ

 

 眼を覚ました夕弦は茫洋とした様子で、ゆっくりと室内を見渡した。

 ベッドから怪我人の割には上半身を平然と起こし、痛んではいたらしくぽてりと逆再生で寝転がりに戻ってから。

 そんな中で、その焦点の合わない瞳で士道を捉えると、ようやく覚醒した様子でぱちくりと目を瞬かせた。

 

「不明。あなたは………?」

 

「起きたか、夕弦?さっきは名乗ってなかったよな。五河士道だ」

 

「疑問。では士道、士道が夕弦をここに運んだのでしょうか?」

 

「……まあ、ほっとくわけにもいかなかったし」

 

 答えながらも、じ、と寝起きだからではないだろう動かない表情で夕弦に見つめられている士道。

 七罪や美九に劣らぬ美少女の視線になんとなく照れくさくて、落ち着かずに頬を掻く。

 その視線を逸らそうと話題を繋げた。

 

「それと、ここはこっちの美九の家だ。で、そっちは夕弦の手当てをした七罪」

 

「どーもー」

 

「………ま、よろしく」

 

 そんな士道の内心を普通に察したらしい二人は、片や妙にキラキラのアイドルスマイルで、片や溜め息をつきながら紹介を受けて夕弦に手を振った。

 その夕弦は、そういう不自然さには無頓着に頷く。

 

「感謝。三人は夕弦の恩人です」

 

「どーいたしまして。で、恩人ついでに訊いていい?なんで精霊のあなたがあんな怪我してたのか」

 

「悄然。覚えていません」

 

「夕弦……」

 

 七罪の問いに目を伏せる夕弦に、士道は初めて彼女の感情の動きを見た気がした。

 果たして、夕弦はどんな気持ちでいるのだろう。

 精霊かどうかはともかく、自分の記憶がないなんてそれこそフィクションの中でしか知らない以上、想像することも難しいのだが、やはり不安なのだろうか。

 分かっているのは自分の名前と特徴だけ、自分を知る人もいるかどうかすら曖昧。

 

…………ふと、去年の聖夜を思い出した。

 

 街の人々に追われ、家族ですら頼れない。

 逃げる為とはいえ、性の違う姿となり認識すらされなくなったのはまるで自分が自分でないかのよう。

 

 あの時の虚無感と同じ種の想いを夕弦が抱いているのなら、士道にとってふーんそうかでは済ませられなかった。

 なるべく元気づけるようにと高い声音を心がけて夕弦に声をかける。

 

「ま、まあ夕弦!今はゆっくり休んで、怪我を治さないとな!」

 

「迷惑。しかしこのままここにいるわけにも」

 

「でも、夕弦は帰るあてがないってことは行くあてもないんだろ?その――――、美九」

 

「はいー、だーりんのお願い事ならなんでも聞いちゃいますよー。なんですかぁ?」

 

「ぅ、悪い、ありがとう美九。暫く夕弦をここに置いてもらっていいか」

 

「是非もありません。ちゃんとお世話することー、ですよ?」

 

「あ、あはは………」

 

 美九の好意に甘えないといけないのが少しばかり情けなかったが、大きな“お世話”を焼くのならこんなものなんだろう。

 所詮夕弦の心境も士道の予想でしかない。

 美九が若干茶化したように、犬猫を拾った子供と大差ないのだとしても、空回りする前提くらいの気持ちで夕弦の力になってあげようと思った。

 

「じゃあそういうことで」

 

「感謝。その善意に、甘えます」

 

 やはり夕弦が何を思ったかは表情からは分からない。

 ただ包まっているタオルケットを引き上げてその下で――――少しだけ、口元が柔らかくなっていたような、気がした。

 

 

 

 

 

 まだ傷の痛む夕弦に長話をさせてもいけないので、三人とも席を外すと、夕弦もすぐに寝入ったようだった。

 美九の部屋に戻り、淹れてくれた紅茶を楽しみながら、士道は美九に先ほどの礼を言った。

 

「ありがとうな、美九。幸い夏休みだしな、ちゃんと毎日様子を見に来るよ」

 

「わ………意外なラッキーですー」

 

「へ?」

 

 休暇中の学校の課題も美九の家で片づけることになるかなー、と思いながら話すと少し嬉しそうに返されて驚いた。

 

「さっきの美九のは冗談よ。私だってしばらくは手伝うつもりだし」

 

「七罪、いいのか?」

 

「ええ。というか、そもそも私たちにとって夕弦さんに警察とか病院のご厄介になられると、困る事情があったりもするのでー。でもだーりんが長期休みでも毎日来てくれるのは嬉しいですー」

 

「まあ、そういう意味じゃ士道が怪我してる夕弦を救急車呼ばずにここに運んできたのは、助かったわ」

 

「あ………」

 

 言われて、確かに、と思う。

 夕弦は二人と同じ精霊だという。

 それが、世間一般に存在が知られていないように、隠さなければならないことだとすれば、匿う理由にもなるだろう。

 今では反省しているとはいえ、美九なんかは“やらかして”しまっているわけだし、その能力があると知られるだけでも避けたいだろうと思った。

 

「なあ、七罪。その“事情”っていうのは、夕弦が怪我した原因にも関係あったりするのか?」

 

「「…………」」

 

 それで問うと、七罪も美九も黙り込む。

 

…………この沈黙は、覚えがある。

 精霊について話が行きそうになると、ごく稀にこんな風になるのだ。

 

 

「……精霊の霊装は、“服”じゃなくて“城”。普通ミサイル食らったって貫(ぬ)けるものじゃないわ。だったら、夕弦は――――」

 

「七罪さんッッ!!」

 

 

――――それは、紛れもなく七罪の失言。

――――そして、それを誤魔化せずについ大声で遮ってしまった美九の失策でもある。

 

 

「まるで試したことがあるみたいな言い方だな、七罪」

 

「…………ッ」

 

 

 言葉を選びながらさりげなく話を別の方向に向かわせようとしていた七罪だったが、そんなに彼女は口が上手い訳ではなく、そして話を繋げられないほど士道も馬鹿ではなかった。

 そして、この状況では士道も精霊というものについて、今までのように“そういうもの”として気にしないわけにはいけなくなる。

 

「―――――教えてくれないか。精霊って、なんなんだ?」

 

「だーりんっ!」

 

 にわかに空気が緊迫する。

 美九は焦った様子で士道の手を取り、首を振るジェスチャーを示した。

 だが、それでは止まらない、止めるわけにいかない。

 

「美九、誤魔化すなよ!」

 

「誤魔化してなんて――――」

 

 

「心配するだろ!?隠し事や言いたくない事の一つや二つ、そりゃあるだろうけど、七罪や美九にそんな顔させるなら話は別だ!」

 

 

「「………!!」」

 

 士道の言葉に、示し合わせたように二人して頬に手を持っていく。

 それで、暗く固くなっていた表情を自覚し解すかのように撫ぜると、ふっと力無い苦笑を見せた。

 

「…………そんな士道だから、教えられないのよ」

 

「優しいだーりんに全部話して、預けて、受け入れてもらうのはこちらが楽です。でも、知ってしまえば知る前には戻れない。とりあえず話してみれば、なんていかないですよぉ………」

 

 そんな風に言葉を重ねる二人の士道を見る目は、優しく、暖かい。

 それだけに、切なくなってしまう。

 

「精霊のことなんて知りもしない、ただの善人。そんな士道が、ただの女の子として優しくしてくれたから、今私達は救われてるの。それだけで、いいの」

 

「だからだーりんには、何も言わないのにいっぱい心配してくれるそのままのだーりんでいて欲しい。勝手ですよね、我儘ですよねぇ?でもそれをだーりんが受け入れてくれるって、分かっていながら甘えてしまうんです」

 

「七罪、美九…………」

 

 そんな言い方はずるいと、士道は思っても口に出せなかった。

 結局話を逸らして、秘密を隠している。

 だがそれは、後ろ向きの感情だけじゃない、士道の為の隠し事でもあるのだと。

 自分を想うが故の秘密を暴く真似は出来なくて、美九の言う通りに女の子の勝手・我儘を受け入れるしかない。

 

「…………ごめん」

 

「こっちこそ、ごめんなさい」

 

 本当にそれでいいのか。

 そういうものが男の子の役目なのか。

 そんな疑問を抱きながらも、追求は諦めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 夏の風が種々の想いを攪拌し、強く掻き雑ぜる。

 悪意なんて欠片も無いのに、想いは複雑に絡まり合う。

 

「……………」

 

 そんな館を、天からただ眺めるだけの風があった―――――――――。

 

 

 

 

 

 





 今回ちょっと短めなので、絶対連載にならないふと思いついた別の時系列弄り無茶設定ネタをやってみる。

 感想板で十香のこと気にしてる読者さんが多いのと、十香のいないデアラに若干違和感を覚えつつあるので()





 巨大な怪物に齧られたように、大きく球形に抉られたコンクリートの街。
 衝撃で粉塵がその上から降り積もる、そんな廃墟の景色。

 小さな足を瓦礫に取られながら、ふらふらとした足取りで頼りなく歩く子供の姿があった。
 まるで疲れ切った老人のように沈んだ表情で、目的もなく歩き続ける。

…………母親に捨てられた。

 幼い子供にその理由なんて分かる筈もなく、ただその事実だけを突き付けられてもどうしようもない。
 現実を受け止められず、探していればもう一度会えるだろうかなんて漠然とした考えで、その子供は住民が避難した無人の街をも大人の目を離れて目的もなく徘徊していた。

 そうして歩くうちに子供は、神秘的な光と共に、場に不相応な輝く玉座を足蹴にしながら佇む鎧姿の少女と出会う。

「…………お前も、私を拒絶するのか?」

 そう問う少女の顔は、恐ろしいくらいに子供と瓜二つであった。
 正確には、それくらい醸し出す雰囲気が一致していた。

 そして、お互いにそのことを、どこかで感じていた。

「しない。きょぜつなんて、しないもん。いなくなっちゃえ、なんて言っちゃいけない―――――だって、こんなに、かなしくて、いたい」

「そうだな、痛いな…………」

「おねえちゃんも、すてられたの?」

「分からぬ。私がかつて誰かのものであったのかどうかすら定かではない。名前もなくただ、私はここにいてはいけないと、それだけをいつも突き付けられる」

 俯いた少女の顔を覗きこむように、子供はその足元まで近寄った。

「とうかおねえちゃん」

「………っ?」

「とうかにあったから、とうかおねえちゃん。なまえ、いくらでもあるよ?だからおねえちゃんも、しどうってよんで?」

 いちゃいけない、なんて誰かに言ってはいけない。
 いていいよ、って言って欲しい。
 名前を呼ぶのは、その存在を世界に認めること。


――――しどうってよんで(いていいっていって)


 子供の拙い言葉と想いを、同じ痛みを共有する『とうか』だからこそ理解した。
 だから『とうか』は、『しどう』を抱きしめて応える。

「シドー……シドーっ!私のものになってくれないか?絶対に捨てたりなんかしない!だからシドーも、もっとずっといつだって、私のことをとうかと呼んでくれ!」

 『とうか』もまた、誰かに認められたこともない子供だから、湧きおこった拙い想いを全力で前に出す。
 それに救われたように、『しどう』は初めての笑顔を『とうか』に向けた。

「うん!とうかおねえちゃんと、いつだって、一緒…………」

「―――――!ありがとう、シドー………っ!」

 優しく、優しく、万に一つも傷つけないように『しどう』を抱きしめる腕に力を込める。
 その暖かさを確認し、ぼろぼろと涙を溢れさせながら『とうか』の身体がより強い光に包まれる。

 精霊が隣界へと“帰る”現象、消失【ロスト】。
 人間の子供である筈の『しどう』を伴い連れだって、精霊の『とうか』はこの世界から消え失せていった。





 数年後。

 ゆらゆらと。
 たゆたいながら意識の海の中を、ずっと寄り添って安らかに眠る姉と弟。

 時折人間世界に引きずり出されて戦いとなる時だって、いつも二人は一緒だ。

「よいか、今日もしっかり捕まっているのだぞ、シドーっ!」

「りょーかい、とうかおねえちゃん!」

「ふふ………まったくシドーは本当にかわいいなあ。ほら、なでなでだ!」

「と、とうかおねえちゃん、前見て前!!」


「……………(ギリッ)」


「無粋!―――また貴様か」

 強襲する、機械で武装した白髪の少女を、十香は剣で迎撃する。
 少女は十香の背中に守られた士道を見て鉄面皮を歪め、十香に銃口を突き付ける。

「今日こそ士道くんを解放してもらう、〈プリンセス〉」

「この……ッ、貴様こそいい加減に私のシドーを邪な眼でみるのをやめんかぁ!!」

 そして、激突。



「……………今日もやってますね、鳶一一曹」

「〈プリンセス〉戦だけあの異常な強さ、本当に何なんでしょう?」

「最強の精霊と互角にやりあえて、下手に援護しても邪魔なだけだし…………もうあいつひとりでいいんじゃないかな」

「言わないで…………」

 ショタコンの底力に戦慄する後方部隊が、それを見守っていたとかいなかったとか。





※タイトルは『子連れ精霊―おねショタプリンセス十香』、とかどうだろう()
 隣界で眠っている間士道は成長してない感じで。
 折紙さんが愛()で十香と互角のデッドヒートを毎回繰り広げるライバルポジ。


…………疲れてるな俺。後書きが二万文字も入る仕様になってるからッ!!



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