デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 ちょっとした幕間的ななにか。


 ところでこの作品の地の文で一番外見について気合いを入れた描写をしてるキャラは士織ちゃんだという事実。

…………なにも問題は無いな!()




なつみくしおりん

 

 あの聖夜から一カ月弱。

 

 夜の内に積もった雪が日の光を反射して薄く輝き、冷えた空気がその中を気ままに踊り枝を揺らす。

 冬はまだまだ本番といった風情が庭園に拡がっていた。

 

 

「平和だなー……ヌメロンフォースでプレインコートをランクアップ。くくく――――異なる死界より降臨し、威なる力により蹂躙し、畏なる理によりて君臨せよ、CNo.【カオスナンバーズ】69 紋章死神【デス・メダリオン】カオス・オブ・アームズ!!」

 

 

「平和ですねー………あ、激流葬で」

 

 平和?

 

 まあ口調は士道くん14歳なあれだが、そんな彼を微笑ましく見ながら暖房の利いた自室でカードゲームの相手をしてあげている美九はそこそこ幸せそうではあった。

 

「!?…………いや、タイミング逃すから発動できないぞ。よってバトル、チェインに攻撃―――4000の威力に手も足も出まい!!」

 

「あららー。伏せカードかたっぽ教えちゃいました。でももう片っぽミラフォなのでー」

 

「ぐ………だがプレインコートの効果でユニコーン二枚を落として、メインフェイズ2、その力でカオス・オブ・アームズは蘇る!!」

 

「今度こそ激流葬(ばしゃーん)、ですー」

 

「〈死者蘇生〉でもう一回復活だ!カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「だーりん好きですねー、そのカード」

 

「………いや、だって、名前からして強そうだし。実際強いし」

 

「男の子ですねぇ。可愛いです」

 

「~~~~っ!?」

 

「む………」

 

 にこにこと純真な笑みでそんなことを慈愛たっぷりに言われ、赤面する士道。

 その彼の膝の上を枕にしていた七罪が、不機嫌そうに体を揺すった。

 

 

 クリスマスの騒動以来、美九はアイドルの引退を宣言した。

 一世を風靡したアイドル“宵待月乃”の突然の引退にメディアは大騒ぎした――――かと言えばそうでもなく、ファンクラブ含め不気味なほどあっさりしたリアクションだったという。

 

 それも美九の催眠能力故のことで、“美九を応援し、美九の言うことに疑問を抱かない”という認識と価値観を操作していたが故のこと。

 だから、街を歩いていても『アイドルの宵待月乃だ!』とばれて騒ぎになることもない、“宵待月乃は引退してもういなくなった”のだから。

 人間の脳のことなので能力を解いたらあら元通り、なんてことをしたら逆に精神への負担が大きい―――要するに正反対の方向に暗示をかけ直すのと同じことになる―――から、時間によって記憶ごと催眠が埋もれ朽ちるのを一度待つしかないのだとか。

 

 そして、その時こそ。

 歌手として一からやり直し、今度は美九自身の歌を歌っていくのだと、彼女は語った。

 

『…………それに、だーりんの通う予定の高校、来禅(らいぜん)でしたっけー?二年間くらい先輩さんとして一緒の学校で青春するのも、その間ずっと私の歌をだーりんが一人占めするのも――――やーん想像するとかなり素敵ですー』

 

 という理由もあるとかないとか。

 

 まあ来禅はさほど入るのが難しい学校ではない。

 もともと美九は勉強に苦労もしないタイプなので、そうすると全盛アイドルから一気に暇ができることになる。

 なので士道をちょくちょく放課後や休日に家に呼ぶようになり、“なぜか”頻繁に七罪も現れるので、美九の家が三人の溜まり場になっているのが日常の光景になりつつあった。

 

 

(こう言っちゃなんだけど、このソファーとか凄く感触いいんだよな)

 

「じゃあ私のターン、メインフェイズ入りますねー。緊急連絡網でガガガガールをデッキから特殊召喚、ガガガシスターちゃんを通常召喚です…………何もないなら効果でガガガボルトをサーチ、発動して伏せカード破壊しますー」

 

「うげ、奈落が―――」

 

 体が沈み込むのに体勢が泳いで不安定になったりしない、溜まり場にする割と大きな要因の一つである美九の屋敷の高級ソファーの感触を楽しんでいると、向かいに座った美九がテーブルに彼女の趣味らしい可愛らしい姉妹らしき女の子が描かれたカード二枚をテーブルに並べている。

 

 それだけなのに先ほど七罪にされた、『自分が攻撃したと思ったのに大量の天使がぞろぞろ並べられた挙句次のターン一ターンに一枚しか増えない筈の手札が四枚も五枚も増えていた』謎現象と同じだけの、ものすごく不吉な予感を士道は覚えた。

 光神てちゅす、と言いづらいカード名を噛んだ七罪にくすりと笑ってしまった結果、顔を真っ赤にした七罪に敗者が勝者の言うことを一つ聞く罰ゲームを勝手にルールを追加して言い渡され、今己の膝を寝具にされている訳だが――――同じ結果となるのだろうか。

 

「シスターちゃんの効果でガールとレベルを合計した5に揃え、おーばーれいー。先史遺産【オーパーツ】マシュマックをエクシーズ召喚。ガールの効果で死神さんの攻撃力をゼロにできますー。マシュマックの効果でその攻撃力の変化した数値4000ポイント分のライフダメージを相手に与え、同じだけマシュマックの攻撃力が上がるから、えーと……攻撃力6400?」

 

「ちょっ」

 

「それで攻撃力0のだーりんのモンスターに攻撃ですー」

 

「まだだ!カオス・オブ・アームズの効果!相手の攻撃宣言時に――――、」

 

「禁じられた聖杯で効果無効ですー」

 

「―――――………せめて最後まで言わせてください」

 

 ダメだった。

 というか、たった一ターン、全体で見ても三ターン目でプレイヤーのライフ8000が2000のオーバーキルで一気に勝負の決まる悪夢のカードゲームだった。

 

 ヴェーラー握ってないのが悪い(理不尽)

 

「えへへー。だーりんに一ついうこと聞いてもらえるってことなので頑張っちゃいましたー」

 

「お手柔らかにお願いします………」

 

 普通に遊んでいただけなのだが、どんな罰ゲームを言い渡されるのだろうと不安になる。

 七罪の言い出した罰ゲームも、ひざまくらなんて可愛いものだったから途中ルール変更でも受け入れたが、最初から織り込み済みとなるとよりきつくなる危険な感じが士道の頭の中で大きく警報を鳴らしていた。

 そんな予感は士道の膝でくつろぐ七罪に視線を送ったあと何故か笑みを深めた美九の顔を見て確信に変わる。

 

 そして――――――――、

 

 

 

 

 

「ほらほら、次はこういうのとかどうですかー?」

 

「ええっ!いや、無理だって…………」

 

「無理なんてものはありません!罰ゲーム、罰ゲームっ!」

 

「くぅ………ッ!!」

 

 

 ふわりと襞の付いた布が翻る。

 純白の生地が秘すべき場所を守りながらもその装飾を主張し、決して華美とまではいかない筈なのにその存在感を際立たせているのは、纏う者の持つ天性。

 肩から腰に掛けての柔らかい曲線は見る者を惹きつける、白の色に相応しい優美さで清楚と色気を両立させている。

 それが、ロングスカートを軽やかに捌く全体のシルエットとしてのバランスも完璧、ちらりと覗く脚は、すらりと長く細く、透き通るような肌。

 そして雰囲気にたがわぬ可憐な容貌――――――小さな唇や、意外にも意志の強そうな目つきもまた恥じらいに揺れ、頬を紅に染めている。

 さらさらと流れるような髪は、一部くるりと飾るように曲がってバレッタで留まる、魅惑のアクセントが添えられていた。

 

 

「わぁー、可愛いですー!白ゴスの―――――――“士織”さん!!」

 

「こんな、こんな………ぅぅ……」

 

「か、かわいいのは確かに同意するわ。うらやま妬ましいくらい」

 

「お前がそれを言うのか!?」

 

 『士織さんを間近で楽しみたいですー』なんて無茶ぶりの罰ゲームに、士道は再び女装(?)姿にさせられていた。

 流石は元アイドル、なのが関係あるのかどうなのか屋敷の衣裳部屋などというものに連行され、そのまま美九が提示した服を次から次へと、着せ替え人形となってしまっている。

 

 元凶たる七罪含め、悪意がなさそうなのが性質が悪く、拒絶しどきを逸して久しくなっていた。

 

「本当に、なんでそんなに可愛いのよ?」

 

「そんなこと――――っ!俺は男だし……」

 

「んー、でもパーツはだいたいだーりんだから、メイクがんばればこれくらいは素でも―――――だいたい、“これ”じゃ説得力ないですよぉ?」

 

 ふにょん

 

「ひゃあッ!!?」

 

 美九の手が、膨らみをしっかり主張する胸の双球を優しく揉みしだいた。

 伝わる感触に妙な気分になってしまった士道は、ただでさえ高くなった声をさらに裏返らせてしまう。

 それを聞いてなぜかぞくぞくと身を震わせた美九は、片方の手をフリル付きのチョーカーで覆われた首筋に這わせ、なぞった。

 

「ちょ、はひゃんっ!?美九、なにを――――」

 

「士織さん可愛すぎます………もう、なんだかいけない気分になっちゃいましたぁ」

 

「ええっ!?」

 

 続けて胸を愛撫しながらも、もう片方の手は上へと移動し頬を包む。

 はあはあと息を荒くし、触れているそれと同じくらい美九は顔を赤く染め、艶やかな視線を送ってくる。

 

 その、濡れた眼差しが近付いて――――――。

 

「美九っ、さすがに―――きゃぅ!」

 

「“お姉さま”。お姉さまって、いっかい呼んでほしいです………ね?し・お・り・さん?」

 

「―――――ッ!?」

 

 お互いの心臓の鼓動が、伝わる。

 音は大したことがないのにうるさいくらいで、何故か、なんて…………互いの胸同士が接触して形を変えるくらいに、美九との距離が狭まっているからだと気付いた。

 

 間近となる、美九の潤んだ目、上気した吐息が鼻筋をくすぐり、柔らかそうな唇に、視線が釘付けられる、意識がそれを追い求めるように、とろりと、溶け、

 

「さあ―――――」

 

「みく、んぁ、ふ……………お、お、おね―――――――、」

 

 

 

「はい、そこまで。いかがわしいのは禁止!」

 

 

 

 七罪が美九を強く引き剥がし、士道にもと着ていた服を投げてよこした。

 

「あ、七罪………」

 

「あ、じゃないわよ全く。この辺で罰ゲーム終了っ!前と同じ要領で元に戻れるから、先行って着替えてなさい!!」

 

「…………お、おうっ!」

 

 助かった。

 

 いや、何が助かったのかはよく分からないが、あのままだと何か大切なものをなくしそうだった感じがして、朦朧としかけた意識を頭を振って呼び戻すと、士道は七罪の指示に従って部屋を出た。

 どきどきする鼓動を抑え、まだ赤い顔でぽーっと眼を蕩かせている美九をなるべく再び視界に入れないように気をつけながら。

 

 

 

 

 

「――――――――ふう。まあ、お邪魔虫さんめー、とは言いません。それで、どうだったんですー?」

 

「どうもこうも。“私は〈贋造魔女【ハニエル】〉を顕現し(つかっ)てない”。私に女にされると思った瞬間、士道は勝手に“士織”に変身してたわ」

 

「元に戻るのも実際にはだーりんの意思一つ、ってことですねー」

 

「無意識下とはいえ私の天使(ハニエル)勝手に使ってくれちゃって、まったくもう。水を掛けたら女の子になれるようにした、お湯を浴びないと戻れない、とか嘘吹き込んでやろうかしら。そう思い込みさえすれば来週からリアル“しどう1/2”が始まるわよ」

 

「それはそれで面白そうですけどぉ。キスで精霊の力を封印、しかもその天使を自分で操れる、ですかぁ。だーりんって、何者なんでしょう?」

 

「さあね。士道に精霊のこと、詳しく教えるつもりもないもの。仮に士道が人間の突然変異かなんかだとしても、普通の生活してれば精霊にそうそう会うものじゃないし、言う必要なんてないわ」

 

「確かに、精霊が“最悪の災厄(くうかんしん)”の元凶だからこそ、普通に警報で避難する一般人してればそれを知ることなんてないでしょうしー」

 

 ぴこーん。

 

「「…………ん?」」

 

「あれ?………………まあ、私もあんたも特殊災害指定生命体で、でも士道にその力を封印されてる、なんて。本人に教えてもそれこそ厄ネタでしかないんだから。

――――――士道が否定するって分かってるからこそ、伝えたくないわよ。自分が街を、国を消し飛ばせるレベルの化け物だなんて。“その力を吸収した士道も、最悪そうなるかも”だなんて」

 

「賛成ですー。まあある意味それより酷いこと私は既にやっちゃったんですけどねー。

――――――でも、だからこそ、だーりんをこれ以上悲しませる真似なんて出来ません」

 

「…………その辺の認識は共有できて、何よりだわ」

 

「…………ええ、全くですー」

 

 

 

 “共有できなかった場合”の選択肢を、お互いに語りはしなかった。

 

 

 

 





 本筋進める前にちょっと触れなきゃな部分もあったのでついでに色々と詰め込んでみた。

 まあ七罪と美九が盛大にフラグ立てたので、今度こそ次回から八舞編です。


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