ノーゲーム・ノーライフ ―神様転生した一般人は気づかぬ間に神話の一部になるそうです―   作:七海香波

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 メリークリスマス!……オン・ジ・インターネットが付きますけど。それはそれとしてメリークリスマス。メリクリメリクリ。やータノシイネー。

 残念ながら次話ではありません、番外編です。
 今まで結構な小説読んできてクリスマスの話とか書きたかったんで、書いてみました。とは言っても本編のキャラは出てきません。
 ついでってことで黒の過去話になります。

 中学三年生の頃の彼女とのハッピーなクリスマスの物語。
 コーヒー片手にどうぞ。


Bullet of Xmas ――君と一緒にいられることが 

「――クリスマス、か……」

「はい、どうかなされましたかマスター?珍しく気が抜けたような表情になっておりますが」

「お前最近尊敬の念とかないよな。毒舌っ気が戻ってきてるし」

 

 目の前のジブリールは、数冊もの本を抱えて宙を飛びながら、こちらを心配そうな表情で見ていた。どちらかと言えば心配と言うよりは面白そうなものを見たとでも言いそうな顔だが。

 

「マスター相手にはこちらの方がよろしいかと思いまして。話す時は普通に――元々の私の話し方の方が色々と気が楽ではありませんか?それとも飾り気のない素の方に戻した方がよろしいでしょうか?」

「素の方って何だよ」

 

 すぐさま本を宙に投げ捨て、急速に俺の近くまで近づいてきて――俺の顔まで僅か数センチの所まで近づいてきて。顔をだらしなくゆるませながら、頬を上気させて。

 

「今日のマスターの珍しい顔は実に可愛いというか何というか哀愁漂った大人の雰囲気を纏っているというか――凄くッ!興奮しますッ!」

 

 ――なるほど、残念なのね。

 

「ああうん、分かったから落ち着け。良く分かったから。元々の話し方の方で良いよ。というかそっちに直してくれ」

 

 そう言うと、幽かに不機嫌そうに――たまに白ちゃんが空に見せる顔のように――しながら、「そうですか」と言って元の場所に戻っていった。宙に落とした本は浮遊の魔法を掛けておいてあったのか、そのままその辺りに浮いたままになっていた。それらを纏めて回収すると、彼女は遠くの本棚へと飛んで行ってしまった。

 

 ……って、一体何が原因でこうなったかというと――クリスマスか。

 ついついいつも通りにPCを立ち上げて作業を開始しようと思い、普段のクセで今日が何日なのかを確認して気付いたのだ。元の世界での日付通りであれば、今日はクリスマス――恋人同士がキャッキャウフフする日である。どっちかと言えばイブの方が盛り上がってる気がするが、それはそれとしてクリスマスである。

 

「ジブリールにプレゼントでもあげた方が良いのか……?」

 

 ――別に恋人ってわけでも無いのだが、この世界の知り合いの中で数少ない信頼の置ける仲であるわけだし。空白――はゲーム以外アレだし。ステファニーには……胃薬の詰め合わせとかがいいかもしれない。最近空達の無茶ぶりに四苦八苦しているらしく、時たまここに愚痴と言う名のを惚けを言いに来る。テトは……どうでもいいか。異教徒というか異世界の神様だし。「えっ!?ちょっと待ってッ!?ボクもプレゼント欲しいよ!」何か変な声が聞こえた気がしたが無視する。

 

 それにしても、どうせ今年はずっとジブリールと一緒に過ごす事になるわけだ。プレゼントの一つや二つ、用意しても良いだろう。最も自分は貰えないだろうが。

 プレゼントと言えば――『君と一緒にいられることが、一番のプレゼントだよ』――か。

 

 黒は刹那、いつになく顔が赤くなった。そして次の瞬間には自制心が働き、普段通りのすました顔に戻ったのだが。思い出した当時のあの写真の中では――自分はしばらく赤い顔のままだったのを覚えている。

 

 そう言えば、本当にクリスマスを楽しんだ――楽しいと心の底から思った――のは、“彼女”と過ごした時だった。

 

 黒はいつになく、自分の過去を思い出す。

 

 それは二度と手に入らない、三年前の出来事。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 渋みのある和風の扉をくぐり、誘いに従って中に入る。

 ゆったりとした落ち着く雰囲気の玄関に足を踏み入れると、そこには一人の女性が待っていた。

 

「お帰りなさい、白奈(しろな)。それにようこそ、黒くん」

「こんにちは、和奈(かな)さん」

「ただいま、母さん……何よその顔は」

「娘がクリスマスに彼氏を連れてきたかと思うと……本当に嬉しくてね?やっぱり親としては感動モノなのよ」

「へぇー、そうなの?……ってソレは感動ってより面白いって感じでしょう!?」

 

 目の前で騒ぐ娘をあしらうこの人は、そのまま俺の彼女――シロナの母親である。

 まさに日本美人と言った風情の人で、静かにしていれば触れることすら叶わないと思ってしまうほどの女性だ。ただ、その性格は見たとおりの至って普通の母親であるが。

 

「そもそも去年も黒は来てるわよねぇ!?」

「ふふっ、何度見ても感動するモノは感動しちゃうのよ。ホントもう、初めて連れてきたときはあんなに顔を真っ赤にして――」

「いや、流石にそこまで言ったらアウトでしょう和奈さん。シロナ、もう顔真っ赤にして震えてますし。勘弁して下さい」

 

 むー、とふくれているシロナが可愛い……じゃなくて。

 

「良いわよ。また後でねー。ごゆっくりとどうぞ」

 

 柔らかい笑みを浮かべながら彼女は奥の方へと歩いて行ってしまった。

 ――まったく、確信犯だろうが叶わないな、和奈さんには。

 とりあえず、顔を真っ赤にしているシロナをどうにかしないと。

 

「おーい、シロナ。大丈夫かー?」

「……大丈夫、よ」

 

 黒よりも若干背の低い彼女は、僅かに目を潤ませつつ黒の顔を見上げた。

 

「着いてきて」

 

 思ったより近かった顔に恥ずかしかったのか、直ぐに顔を反らした彼女は靴を脱いで揃えてから俺の手を握って奥の方へと歩き出した。

 可愛いなぁ……と心の底で苦笑しながら、俺は彼女の力に従って、彼女の部屋へと向かったのだった。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

「……いつみても何というか、綺麗だなシロナの部屋って」

 

 彼女の部屋は、年頃の女子のイメージみたいに可愛いモノが色々置いてあって全体的に色がピンク系統だったりするという訳ではなく、自然のイメージが強い、落ち着いた『和』の空気だ。しかもキチンと物が整理整頓されて収められており、何というか、大人な感じだった。

 

 一旦俺を部屋に案内した後、シロナは結んでいた手を離して二人分のお茶を取りに台所へと向かっていった。

 俺はいつも通りに部屋の真ん中に置かれていた小さなテーブルの側に座り、彼女が来るのを静かに待つ。御所の部屋に興味が無いわけでもないのだが、勝手に除くのは長い付き合いでもさすがに止めておく。

 

 この家は彼女の母方の実家であり、純和風の構造となっている。また広く、彼女の部屋からは外の庭が顔を覗かせていた。やはり、これだけ広い方が心が落ち着くだろうなぁ……。縁側に座ってお茶を片手に本を読みたくなる。

 

 何となくこの部屋の中を見渡す。立てられて数十年が経つ今となっても、聳え立つ木材の幽かな香りが漂っている。それらは何とも、言葉に表現できない優しさをたたえている。俺もここに初めて来たときから大体一年が経っているが、それでもここに来たときの空気は何となく肌に馴染むかのようだ。……ここでシロナは、暮らしているんだよな……。

 

 ふと、この部屋で過ごすシロナの姿が頭に浮かぶ。普段から清楚なお嬢様っぽい感じだが、それでも結構明るいタイプだしな。俺と違ってクラスの友達も結構多いのだろう。よくよく考えたらアイツの方が社会的に上なんだよな……はぁ。

 俺は自分の社会性を再確認して、余りの残念さに目を閉じて溜息をついた。ついでにテーブルの上に肘を乗せ、手の上に額を乗せて下を向く。哀しいな、俺。別に良いと割り切ったはずなんだが、シロナのあの姿をみたらついついそう考えてしまう。

 友人達に囲まれたときの彼女の笑顔は、俺の時とまた違う魅力を持っていて。

 

「お待たせー、……ってどうしたのクロくん?」

「いや、改めて自分の残念さを再確認していてな……ホント、シロナは凄いよなぁ……」

「それはどう受け止めればいいのかなぁ……」

 

 あはは、と可愛らしく笑うシロナは俺の前にお茶の入ったティーカップを置いた……ん?

 

「コレって、紅茶か……?また珍しいな」

 

 思い返す限り、シロナが紅茶を入れたことはそんなになかった。特別なときに呼ばれたりしたときは紅茶だが、普段は基本烏龍茶だった。

 

「いつもはお父さんがいる時が紅茶なの。でも、たまには変えてみた方が飽きないかなー、って」

「うーん、俺はシロナの淹れる物なら飽きないけどな」

 

 俺がそう言ったら、シロナは頬を薄い赤に染めて「もう……」と俺の頭を軽く叩いた。ナニコノ生物可愛い。

 とりあえず彼女の持ってきた紅茶を飲む。うん、美味い。

 

「ところで一体どういうことだ?叔父さんがいるときが紅茶って」

「ほら、父さんってこっちのより向こうの紅茶の方が慣れてるから。おばあちゃんも『家長が中心じゃからのぅ』とか言ってるし。そう言う本人も最近は紅茶に嵌ってきてるみたいなんだけどね」

「あー、そういやドイツの人だったよな。……日本人より日本に詳しいけど」

「最近はその国の人よりも他の国の人の方がよく知っているからね。私達だって、日本の説明よりも外国の方が説明しやすいんじゃない?」

「最近の日本人は愛国心とかないからな。今の政治でやってるような極端な事までは言わないが、自分の生まれ育った場所について知るぐらいはすべきだろうに」

 

 そこから思ってほとんどの周囲と自分の壁を作るところが、目の前の彼女とは違う、自身の悪いクセであるのは分かっている。最もその原因の大概は自分なのだが。

 シロナだったら、間違えることなくその議論に友人達を巻き込んでいくのだろう。

 周囲を拒絶する俺と、周囲を導く彼女。

 ……やっぱり叶わないなぁ。そう思って目の前の彼女の顔を見る。

 ハーフアップに纏め上げられた細く滑らかに流れる栗色の髪。透き通るように綺麗だがその裏は炎の様に力強い金の瞳。ツンと立った細い鼻。見る物のほとんどを魅了する淡い紅色の唇。日独の良い所のみを厳選して合わせた、妖精のような少女。

 

「クロくーん、どうしたのー?」

 

 しばらくそうやってボーッとただ見つめていると、突然目の前に彼女の手が表れる。

 

「いや、改めて見ると俺の彼女(シロナ)は綺麗だなぁ、と思ったんだよ」

「にゃっ!?い、いきなりどうしたのよ!?」

 

 頬どころか首筋までも真っ赤に染めた彼女は、多少はにかみながら、慌てて手をワタワタとさせている。……僅かに、こちらの嗜虐心が疼く。

 

「別に、普通に見たら何処見ても自他共に認める完璧美少女だろ?」

「……世の中に完璧なんてありません」

「少なくとも俺に取っての完璧はシロナなんだが」

 

 ボシュッ!とでも似合うかのように再度顔を真っ赤に染め上げたシロナ。

 ゆっくりと腰を上げ、そんな彼女の側に近寄る。クラクラとして落ち着かない様子の彼女は俺が立ち上がって近づいてきているのにも気付かないようだった。

 静かに彼女の身体の横まで来て、――フッ。

 

「ふにゅぁぁぁぁ……って、何するのよ!?」

「可愛かったからちょっと弄ろうと思いまして」

 

 ニヤニヤと笑う俺だったが、そこではたと気付く。目の前の彼女も俺と同じく、赤く染めた顔の中で、薄く笑っていたから。――どうやら俺の方が嵌められていたらしい。

 ガシッと、シロナの細い両手が俺の顔を両側から挟む。

 

 さて、そこから普通のカップルなら顔を隠して指の隙間から見てしまうような事態に発展するのだが……。生憎と、彼女が挟んでいたのは俺のこめかみだった。ちなみに両の手は強く握られている。――あ。

 

「痛たたたたたたっ!?」

 

 グリグリと彼女は容赦なく、俺の顔を抉るように拳に力を込めてきた。

 

「まったくもう、嬉しかったけど、調子に乗りすぎよっ」

「分かった分かった、分かったからギブ、ギブだって」

 

 たっぷり十秒間そうやってじゃれ合った後で、彼女は勝ち誇った笑みを顔に浮かべていた。……やはり彼女の方が一枚上手だったらしい。こちらは今もジンジンと痛みが残っている。

 チッチッと人差し指を振りながら、シロナはその口を開いた。

 

「クロくん、私の前だったら表情にやろうとしていることが出てるもの。まだまだ甘いわね」

「そんな表情を変えた覚えは無いんだが……」

「仮にも真にも、彼女ですから」

 

 機嫌良さそうに、シロナは胸を張った。

 そのコメントは嬉しいと言えば嬉しいんだが、要するに隠し事とかは出来ないってことか。

 その表情すら読み取ったらしく、

 

「あら、隠し事するつもりなの?」

「……たった今ストレートに読まれたというのに、出来るとお思いですか」

「私の知るクロくんなら、読まれないように努力すると思うけど?」

「まあ、シロナになら知られて困ることはない……かな」

「ちょっ、何でそこで目を反らすのよ!?こっちを見なさい!」

 

 今度はガシッ!と顎をつかまれて強制的に彼女に向き合うように引き戻された。

 そのまま彼女は俺の顔まで後一センチと言うところまで顔を近づけて、俺の瞳を覗き込んだ。反対に、俺の瞳には彼女の澄んだ瞳が映った。

 

 それと同時に、限界まで近くに寄ってきた彼女の身体から女の子特有の甘い香りが流れてくる。後ろ手のまま離れようとする俺の上に、彼女は覆い被さるようにしてその身体を上に乗せてくる。俺は身体から感じられる柔らかい感触と、こちらをハッキリと見つめる彼女に、心臓の鼓動が一際早くなるのを感じた。

 

「え、えーっと……」

「答えなさいってば!言っておきますけど、逃がさないからね」

 

 そのままじーっと見つめ合うこと数分間。

 壁に掛けられた時計の病身がこちこちと鳴る音が、静まり返った部屋の中で妙に大きく響く。

 ……どうすればいいんだこの状況。な、なんとかしてこの話題を反らさないとっ。

 

「そ、そう言えば……今後の北朝鮮の動向についてどう思うっ!?」

「クーローくーん?」

 

 シロナが冷たい笑顔で迫ってくる。どうやら俺が話を反らそうとしたことに対してシロナ姫はお怒りの様子だ。かの銀鴉のネーミング:必殺クロユキスマイルのような逃げられない雰囲気だ。

 

 ……もう仕方がない、か。

 ちょっと早いが、別にこれ自体は何時でもいいだろうし。ちょっと横の窓に目を反らせば外は、もう冬らしく日も沈み暗く染まっていた。

 

 目の前でこちらを見つめてくる彼女――その顔に目を向け直して、俺は口を開こうと――

 

「あらあら」

 

 ――して、咄嗟に手の力が抜けた。同時に俺と彼女の二人分を支えていた手が崩れ落ち、乗っかっていた彼女は俺の上に倒れ込むようにして胸元に覆い被さってきた。Oh……直に密着してるせいか何かめちゃくちゃ柔らかい一部分が当たってて、まるで彼女の方からへたれ彼氏を誘っている様な光景に……

 

「最近の子は中々激しいみたいねぇ?」

 

 何故か丁度訪ねてきてそんな光景を見た和奈さんは、ふふふと笑いながら何処か愉しげな様子でそんな爆弾発言を落とした。

 

「「なっ……そ、そんなんじゃ……っ!!」」

 

 慌てて離れて弁明しようとするが、もう遅い。

 

「うふふ……ヤッちゃうのは良いけど、ちゃんとアレはしておきなさいよー?クールートさーん!」

 

 言うだけいって、彼女はすたすたと逃げるように(クルトさん)の元へと去っていってしまった。恐るべし和奈さん、である。

 後に残るのは、顔を真っ赤にした二人だった。……何も言えない。なんというかこうというか、彼女の発言のせいでシロナのあられもない姿を想像してしまい――

 

「ね、く、クロくん?」

「クロくんがそ、そういうことをしたいって言うなら……私は、べ、別にいいよ?」

 

 咄嗟に彼女を抱きしめようとした自分を押さえつけた自制心を俺はこの時本当に褒めたい。

 ヘタしたら新たな一歩へとそのまま進んでしまう所だったのだから。

 

「今日はクリスマスイブだし……良いかなって」

「ま、待てシロナ。そう言うことはキチンと段階を踏んでからだな――」

「えい」

 

 チュッ。俺と彼女の唇が重なり合う。

 抱きつくようにして唇を重ねてきたシロナに押され、俺は彼女に力の掛からないようにそのまま自然と後ろに倒れ込んだ。彼女は両手で包むようにして俺を抱きしめて、唇をそのまま離さない。

 

 

 

 

 

 

 しばらくそうしていたら彼女は落ち着いたらしく、唇を離した後はいつも通りの様子に戻っていた。

 

「――ゴメンね。でも、クロくんはいつも一歩引いた感じだから。このままだといつか、クロくんと離ればなれになっちゃう気がして……」

 

 ああ、そういうことか。

 

「そりゃ、俺にだって恥ずかしいって気持ちぐらいはある。さすがにそう普段からイチャイチャするのは難しいさ。――けど、今俺が心を許してるのは正直に言ってシロナだけだ。だから絶対俺はお前と離れない。ずっと一緒にいる」

 

 彼女の手を取ってそう言うと、彼女はまた頬を赤くした。

 ――渡すなら、今の内かな。

 

「ちょっと後ろを向いていてくれ」

 

 俺がそう頼むと、彼女は小さく頷いた後、ゆっくりと身体を後ろを向けてくれた。

 その彼女に近づき、俺は持っていた鞄からあるものを出して、それを彼女の首に付ける。しっかりと付けた後で後ろ髪を持ち上げるようにしてチェーンから出して――うん、大体こんな感じかな。

 

「ほら。クリスマスプレゼントだ」

 

 ここで、彼女の肩を掴んで振り向かせる。

 不思議そうにしている彼女の顔の下では、胸の辺りにシンプルだが僅かに細かい模様の入っている銀の十字架(シルバー・ロザリオ)が白く光っている。

 

 ふむ、やっぱり俺の目は正しかったかな。正直自身の服装はあまり深く考えないため女子に似合うかどうかはかなり悩んだが……今の彼女には良く似合っていた。

 

「ちょっと高かったが、まあバイトとかしてきたらなんとかなるもんだな。シロナにはピッタリと思うんだが……」

 

 そのペンダントを左手で掬うように持ち上げて、目を白黒させるシロナ。

 ……えっと、大丈夫、だよな?

 色々考えてコレに決めたんだが、今更になってちょっと不安になってきた。

 

 驚くシロナを前にして、俺は心の底で慌てる。一応彼女の前だし表面上では笑っているのだが、内心結構不安な気持ちが渦巻いていた。

 ええと、ここで何故かシロナの目に涙が浮かんできているだけど!?不安の現れと緊張で握った手の中に汗が浮かび始める。

 

 二人がまともに動き出すまでは、少し時間が掛かった。

 

 ようやく普段の様子に戻ったシロナが、ペンダントから視線を外して俺を見る。その顔に浮かぶのは、心の底からの感謝を含んだ笑顔だった。

 

「有り難う、クロくん……本当に、嬉しいよ」

 

 月の光を受けた金の瞳が、暖かく俺の方を見つめる。

 

「そうか。だったら、なによりだよ」

 

 そう言ってくれた彼女に、俺は笑みを返す。

 しかしそこで終わらず、彼女の言葉はあと少しだけ続くのだった。

 

「けどね――」

「ん?」

「――君と一緒にいられることが、一番のプレゼントだよ」

 

 この瞬間が、俺に取って一番嬉しい時だった。

 グッと彼女に近寄って、その身体を抱きしめる。今までほとんどの人に認めて貰えなかった自分の居場所。それを目の前の彼女、シロナがハッキリと認めてくれたことを示してくれて。――ここで俺は生まれて初めて、自分以外の誰かにハッキリと感謝したのかもしれないと思った。

 彼女の両手も俺の背中に回されて、俺を優しく包み込んだ。

 自分の顔が赤くなるのを感じた。けどそれは羞恥心とかそういった物ではなくて――

 

「――俺もだ」

 

 互いに正面から見つめ合い。そして今度はこちらから、彼女にキスした。

 

 

 ☆ ★ ☆

 

 

 今は彼女(シロナ)は、既にいない。

 あの出来事から僅か二週間後、受験シーズンとなった頃。受験会場に向かう彼女の車がバスと衝突を起こし、彼女は両親と共に呆気なくこの世を去った。

 つまり彼女の予測通り、俺と彼女は別れるのだった。

 

 そして俺はその後で一人の女性と知り合い、そしてきっと彼女の死で気持ちがゆるんでいたのだろう……俺は彼女に心を許し――そして命を奪いあったのが春休みの出来事。

 

 そして黒は高校生となり――今に至る。

 

 コレが、黒の青春の一ページ。

 

 

 




 シロナはぶっちゃけSAOのアスナさんと考えてくれればいいです。

 追伸:皆さん、今年の更新はこれで最後となります。
 これからネット環境ない田舎へ帰りますので……正月過ぎてからですかね、次の話は。なんとか仕上がってきてるんで、投稿できるかと思います。

 それでは少々早いですが、皆さん良いお年を。

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