ノーゲーム・ノーライフ ―神様転生した一般人は気づかぬ間に神話の一部になるそうです― 作:七海香波
使用武器が拳銃という事も有って、緋アリのように話数を進めていきます。
まずは導入部分、いきなりクライマックスの場面から。
文字数がかなり少ないですが、導入なのでそこは目を瞑って下さると嬉しいです。
では、どうぞ。
弾籠め 数式の解―『く』―
――目の前の光景は、一体どう表現されるべきなのか。
少なくとも空白の事を知っている者からしたら、あの普段の様子からは考えられることのない、信じられるはずもない一幕。
いくら計算上とは言え、それでも初めて目にする姿を。
黒の瞳は映していた。
今まさに行われている、エルキア王国VS東部連合の領土争奪戦と題された、実質敵に
異世界最強と呼んでも差し支えないゲーマー、空白。
元王女、現王の補佐役のステファニー。
位階序列第六位:
基本万能、器用貧乏ならぬ器用富豪とでも言える黒。
そんな現
対するは
そのルールは至って単純。
……とまあ、それだけ聞けば、なんと平和なことだろうか。
精々マ○恋とかその辺りの恋愛ゲームだ。
――『惚れさせた対象を、手足として使う事が出来る』というルールがなかったなら。
ただ惚れさせるだけならば全くもって問題は無い。
現に
しかし、このゲームにおける『惚れる』と言う行為は、その倫理観や自己制御といったヒトがヒトたる源を容易く奪い去る。『惚れた』相手の言うことが絶対。例え天地開闢の一撃が振ってきたりしたとしても。
――そして、ルールを知っているからこそ、会場で見ている誰もが声を出せなかった。
空。
普段の“人類LOVE”と書かれた黄色いシャツを失い、ダウン。
白。
着ていた制服のほぼ全てを失い、白いワイシャツのみとなっている。ダウン。
ステフ。
服と言える服を九〇%失い、下着姿――ダウン。
ジブリール。
衣服の留め金を幾つか失い、ほどけかけの布が危ない。ダウン。
まごう事なき人類最強のゲーマーが地に沈み、一六種族中で身体能力が物理的限界に達している
その現象を引き起こしたのは、死屍累々の舞台の上で黒と相対する一人の少女。
ゲーム開始時に着込んでいた服のほとんどを失い、さらしと少々の下着姿で立つ少女。 生まれ持った紫の髪と黒の瞳――その全てを情熱を表す赤で染めた少女。
身体に走る血管が裂け、筋肉が最大の悲鳴を上げ、骨格が軋む。その身に刻まれた僅かな精霊回廊接続神経が限界を超えて慟哭を上げ、熱せられた鉄のような痛みを持つ緋色が全身を駆け巡っている。
それは
物理的限界を超えたその先へと到達する能力の発動を前にして、黒を除いた四人の
《フゥゥゥゥゥッ……フゥゥゥゥゥッ――》
彼女の口からは口内の粘膜の毛細血管が破裂して流れ出た血の蒸発した証だろうか、文字通り真っ赤な蒸気が漏れ出している。まるで近寄っただけでその者を融かしてしまうような、何処までも暴力的な
遺された
《『
その場その時で唯一人、緊張感を欠くように欠伸をしながら、右手でガリガリと頭を掻いていた。これまで多数の責任を背負ってきた黒だが、それでも相応の責任を背負うときには緊張する。だが緊張していては始まらないため、彼は今その緊張感を欠伸を伴う行動で押さえ込んでいた。
目の前にいるのはまごう事なき、
もはや諦めるしか、道はない――誰もがそう思っている状況の中で。
《――さて、もういいだろ》
掻き上げた前髪の隙間から映る瞳で、黒は目の前の獣の少女をきっかりと見据える。
そして小さく、この光景を見ているであろういのに問いかけた。
《ここは仮想空間、そして何をしても死に至ることはない。そうだったよな、爺》
「……っぐ、はい、その通りで御座います」
若干貶すような発言をされて苛つく初瀬いの――初瀬いづなの祖父――だが、審判としての役割を果たさないわけにはいかなかった。
苛立ちを僅かに含めた声でそう肯定する審判役の老人の声を耳にして――何故だろうか。
突然彼は、大胆不敵に笑った。
《そうだな……一応ここまでは予定通りなんだが、ここから先のことは俺に一任されてるし。それに最近全然動いてないから、そろそろここで軽く本気でやってみるのも有りかもな。――ああ》
黒は自身が今の今まで掛けていた眼鏡を外し、地に投げ捨てる。
また緑のネクタイを抜き取ってこれまた放り捨て。シャツのボタンをいくつか外し、これまでの戦闘で激しく動いたにも関わらず全く乱れていなかった服装を自ら動きやすいようにと変えた。
そうして彼は一旦目を瞑る。
その余りに無防備な、余りに不自然な行動に、目の前の
そのまま場の雰囲気が止まり、誰もが食い入るように会場のスクリーンを見つめる中。
永遠のように感じられた静止空間の中で、ふと変化が起こった。
獣人種の少女が一歩、
『血壊』を使って物理的限界を超え、実際相手になるような者は既にゲームには存在しないはずなのに。
映し出される彼女の目にははっきりと、“恐怖”の二文字が浮かんで見えた。
その対面上に立つ男はと言えば、その姿を今までの雰囲気から一変させ。
名の通りの
《――》
瞬間、その場から彼の姿が掻き消えた。
物語はこの数日前から始まる。
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