こちらは時系列的に後編となっています。前編は、家族物語の外伝の方に書かれています。そちらを読んでからの方が、より楽しめると思います。
今回は導入となっているので、みんなの出番は少ないです。
異変発生――再会
箱庭東部、某所。
とあるコミュニティの作業場で、一人歓喜の絶叫をあげる女性がいた。叫びではなく、絶叫である。
「ーーよっしゃあぁぁぁああああ‼︎ついに!ついに完成したぞ‼︎」
女性の目の前に鎮座していたのは一つの巨大な機械だった。外見はあまりにも無骨で、何に使うのかまるっきりわからない。
そして、そんな不気味な装置を作り出した女性は、口元を愉快げに歪め、誰ともなく言った。
「ーーふっふっふ、長い道のりだった……。ーーだが!その苦労もこれで報われる!」
そして女性は、満をじして右手を伸ばしーー
「いざ!」
起動スイッチを、押した。
◇◇◇◇◇
その日から箱庭東部の下層では、不可思議な現象が巻き起こる。昨日までなかった建物がいきなり出現したり、本来存在するはずのない《二人目》が街に溢れかえった。
それによって街はパニックとなる。箱庭の長い歴史でも類を見ない大事件となった。
この物語は、そんな大事件にあんまり立ち向かわず、むしろそんな状況を楽しんじゃう問題児たちの一週間を書き記したものだ。
ーーコラボ作くらいほのぼの路線でいけるといいな!シリアス?知るかーー!
それでは前置きはこのくらいにして……始めましょうか。
箱庭×箱庭
四神の担い手×家族物語
箱庭を舞台とした物語が今始まる。
◇◇◇◇◇
その日も華蓮は、特に代わり映えしない朝を迎えていた。
朝から仕事があるため早起きは必須。朝食は和食で変わりなし。歯を磨いたり寝癖を直したりと身だしなみを整えたら開店準備だ。
「ーーっと、その前に白夜叉様に挨拶に行かないと」
幹部である白夜叉は、時々この支店を訪れ宿泊して行く。今日はその日だった。
忘れるところだった、と華蓮が部屋の襖の前まで来ると、中から声が聞こえてきた。一人ではなく二人の声。二つのーー白夜叉の声だった。
「どういうこと……?」
恐る恐る襖を開ける華蓮。
部屋の中には二人の人影があった。
一つは小さい子供の姿ーーいつもの白夜叉だ。そしてもう一つ、白夜叉より一回り半くらい大きい影ーー妙齢の女性が一人、座布団の上に座っていた。
「……白夜叉、この人誰?」
「「昔の私にソックリな奴」」
ハモった。いや、同じ声だからハモってはないのか……。
「……なんで二人?私をからかってんの?」
「違うぞ!そもそも私はお前のことを何も知らん!新入りか⁉︎」
「ーー……まあ華蓮、言いたいことはあると思うが、今は我慢してくれ、説明する」
言われたとおり腰を下ろす。そして白夜叉は説明を始めた。
「ーー朝起きたら私がもう一人いたのじゃ。……そんなに怪訝な顔をするでない……!私にもサッパリなのじゃ……!」
「ーーそう、ですか。そちらの……えっと、白夜叉様……でよろしいのですね?」
そう言って華蓮は、大きい方の白夜叉へと顔を向けた。
「ーーあなたも同じ感じですか?朝起きたら、隣にもう一人の自分がいた……みたいな」
「そうじゃの、その通りじゃ」
ふーむ、と首を傾げる華蓮。
そんな華蓮に、小さい方の白夜叉が言った。
「ーーだが、分かっていることもなくはない。実はの、今朝からこの店に相談者が多くくるのじゃ。……曰く、朝起きたら《二人目》が隣で寝ていた、ということなんじゃが」
まるっきりホラーだな、と背筋を震わせる華蓮。白夜叉の話は続く。
「ーーそれでじゃ華蓮、私達サウザンドアイズは事態の収拾に動くこととなった。……よって、この店も臨時で閉める」
「ーーうん、了解。ということは、私はあっちの方で生活すればいいんだね?」
「そうなるのぉ。……じゃが華蓮、お主もサウザンドアイズの一員であることを忘れるなよ。独自に調査して原因を探るのじゃ」
それも了解!と華蓮は元気に返事をする。突然のことではあったが、これで休みができたのだ。
(久しぶりにみんなに会える!飛鳥と耀とで買い物行ったり、ギフトゲームしたりーーあー、楽しみだ!)
失礼します!と部屋をでて自室に戻る。
制服から私服へと着替え、荷物の準備ーーといってもギフトカードに収納するだけでいいのだがーー完了!
「ーーじゃあ行ってきます!何か分かったら連絡しますからね!ーー……それじゃあ急いで向かおうか。ビャクレイ、行くよーー白封、
瞳の色が白銀へと変化、身体能力も跳ね上がる。いきなりトップスピードとなった華蓮の姿はあっという間に消え去り、後にはもうもうと立ち込める砂埃が残った。
ーーこの時、華蓮はまだ知らない。ノーネーム本拠点にて何が起きているのかを……。この時、少しでもこの現象について考えていれば思いついたかもしれないが、生憎今の華蓮にはそこまでの余裕はなかった。
◇◇◇◇◇
所変わってノーネーム本拠点。
疾風のごとく駆けてきた華蓮は、門をひとっ飛びで跳び越え侵入。そしてその勢いのまま拠点の扉をぶっ叩いた。
「ダイナミックお邪魔しまーす!ーーからの、ダイナミックノック!」
ーードゴォン!ゴォン!……少し凹んだ。
「こんにちはー!しばらく泊めてくださーい!」
「「ーーなあっ⁉︎一体なんなのですか⁉︎」」
(……黒ウサギの声も二重に聞こえた気が……まさかね)
「早く開けないと蹴り破っちゃうよー!」
「はいぃ⁉︎……って、もしかして華れーーちょっと皆様方⁉︎」
ん?と首を傾げていると、拠点内から複数の走る音が。どうやらここに向かっているみたい。
十六夜たちかな?と思っていると、虎の聴力がこんな話し声を捉えた。
「ーー五月雨殿、八汰鴉殿。拙者が先陣を切る故、援護を頼む!」
「「了解!」」
(……あれ?これってヤバくない?)
華蓮がそう思った瞬間のことだった。
ドアが内側から蹴破られ、三人の人影が飛び出してきた。……と、認識した時には、すでに弾幕が張られていた。電気を帯びた弾丸と、黒い羽によって作られたソレは、もはや壁。
「ーーって!問題はそっちじゃない!」
上に向いていた意識を引き戻す。案の定、すでに半分の距離を詰められていた。
ーー弾幕を囮にして一撃で仕留める作戦か!
そしてその者は一振りの日本刀を持っていた。
(ーー峰打ちを狙ってるんだろうけど、あれ食らったら普通にヤバイだろ!くそっ!)
ーー
それとほぼ同時、刀が華蓮の腹部へと吸い込まれた。
直撃ルートーーだが、
「ーーなんだと⁉︎」
刀は服に触れている程度で、華蓮の身には何一つ変化がない。強いて言うならば、肩上の所に球体が一つ浮かんでいるくらいだ。
「刃!そこから離れろ!」
「……⁉︎しまった……!」
そして、忘れてはならない。囮、フェイクだとしても、あの弾幕は向かってきているのだ。
刀を止められたことで動揺した刃は、反応が遅れ避けられない。
「あぁもう!自爆してどうすんだよ!」
ーー《一つコール》ーー《ノーチェンジ》ーー!
「ーー吹き飛べ!旋風
四人を包み込むようにして、旋風が巻き起こる。
弾幕も散り散りに飛ばされ、一件落着ーーな訳ねぇだろ!
「いきなり襲いかかってくんじゃねぇよ!吹き飛ばされて、少しは反省しろ!」
さっき巻き起こったのは、通常版旋風。そしてこれがーー
「+1の分!もう一回、吹き飛ばされとけーー!」
再び巻き起こる旋風。
「うわぁあ!」
「ぬぅ……!」
「くあっ……!」
飛ばされる三人、そしてそれを見てフンッと鼻を鳴らす華蓮。
元々の原因が自分であることを忘れ、逆ギレしたあげく、空高く吹き飛ばした人間の姿が、そこにはあった。
というか、私だった。
◇◇◇◇◇
「ーーんで、何か言うことはあるか華蓮?」
「……ついカッとなって……今は反省しています」
ノーネーム本拠点、大広間。華蓮はそこで正座していた。
目の前には十六夜が仁王立ち。別に説教をしていたわけではないが、華蓮はすっかり萎縮してしまっていた。
「まあまあ……えっと、向こうの十六夜で、いいんだよな?」
「ーーん?ああ、そうだ。お前は確か……五月雨?だったか」
「ああ、そうだ。ーーそれで十六夜、その件は僕たちも悪かったし、その辺にしとけよ」
当事者にそう言われたのでは、十六夜は何も言えない。華蓮は解放された。
足が痺れたのかゆっくりと立ち上がる。そんな華蓮に駆け寄る姿があった。
「レンレン!久しぶり!」
「のんのん⁉︎わあっ!ほんと久しぶり!」
手を取り合って再会を喜ぶ二人。それを見ている五月雨たちも嬉しそうだ。
が、話についていけない人もいる。こっち側ーー華蓮の世界のノーネームのメンバーだった。
「……えっと、華蓮の知り合いなのか?」
「うん!ーーあっ、十六夜たちは知らないんだっけ」
ということで自己紹介タイム。
両側に知り合いのいる華蓮が紹介役となった。
「それじゃあ、こっち側のメンバーからね。ーーと言っても、すでに知ってるかもしれないけどね」
そう言って華蓮は紹介を始めた。
「左から、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ。そっちの世界にもいるから、詳しい説明は後でいいよね」
で、次はそっち側。と言って、華蓮は五月雨たちの方を向いた。
「今度は右から、十六夜、五月雨、飛鳥、耀、のんのんこと花音、刃、七夕、黒ウサギ、八汰鴉。ーーこっちは説明欲しいよね」
続いて説明タイムーーと、その前に。
「みんな朝ごはん食べてないんじゃない?まだ、朝早いんだしさ。続きは食べながらにしよっか!」
「そうしよっか!もうお腹ペコペコだよー!」
今日のご飯は何かなー!と、元気な花音を先頭に、一同は食堂へと向かった。
食堂へ向かいながら華蓮は、楽しい休みになりそうだと、胸を躍らせていた。