担い手と問題児は日記を書くそうです。   作:吉井

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今回、変則的な構成。

◇◇◇◇◇ 初めと終わりの区切り。
◆◆◆◆◆ 本文と書き手サイドの区切り。

あと、最後の方ちょっとだけ官能。
R-18もないと思いますが、一応注意。


「提出するなって言ったのに……」 Byペスト

 

 ――あーあー……

 えっと……これでいいのかしら? ちゃんと書けてる? ……よし。

 今回は私が書き手らしいわ。

 まったく面倒だわ。なんで私が華蓮のお願いを聞かないといけないのかしら……

 …………⁉

 えっ、なんでアンタが⁉ わ、わかったわよ! ちゃんと書くってば!

 ……………………覚えてなさいよ華蓮……!

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 《First Attack―大罪従えし黒》

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ――俺のものにならないかい?

 

 私は初め、目の前の女が何を言ったのか、その意味が全く理解できなかった。聞こえてはいたんだけど。

 よくあることじゃない? 他のことに気を取られて、聞き流していた話の内容を覚えていないなんて。

 あの時もそうだった。

 唐突過ぎる状況変化に、注意が完全に逸れてしまったのよ。

 

 満面の笑みを浮かべる赤い女。

 ――その背後の闇が、まるで生き物のように蠢いていた。

 

 それは音をたてることなく一気に膨張肥大していって、最終的に、人間一人分の大きさとなった。

 影は、獲物に食らいつこうとする獣のように、だんだんと赤い女に近づいていった。

 

 その黒い影を、私は見たことがある。それもつい先ほど――自分が主催したゲームで。

 確かそれは――――《暴食》と呼ばれていたはず。

 

「――――ッ⁉」

 

 そして影は――動いた。

 音もなく静かに、まるで暗殺者のように襲いかかった影は、一瞬の内に赤い女の身体を包み込んだ。

 そして影が再び闇の中へと消えていった時、その場所には何もなかった。

 欠片すら残っていない。

 

 傍若無人の真っ赤な暴君は、一瞬の内に喰われてしまった(・・・・・・・・)

 

「ぅ……ぁあ……⁉」

 

 呆気ないものだったわ。あれほどの暴君も、死ぬ時は一瞬ってわけよ。

 そして。

 動揺する私に近づく人影があった。――予想通り、黒装束の男だった。

 

「ハハハッ! 呆気ないですね! あまりにも! ハハッ、これは現実か⁉ ハハハッ、ハハハハハハハハハハハハハ――――‼」

 

 黒装束の男は、狂ったように嗤っていた。

 なんら抵抗なく逝った赤い女を嘲嗤っていた。

 嗤って嗤って――

 

 その足元。

 男の影が、浮き上がった。

 

「――――‼」

 

 狙いは間違いなく私。だがそれを理解していても、私はその場を動けなかった。

 ――そう、動かなかったのではなく、動けなかった(・・・・・・)

 

 ――これの正体は、後日華蓮から聞いたわ。

 

 

 

『七大罪』の一つ――《怠惰》のギフト。

 ――対象者の意識レベルを操る力。

 それが、私の意識に霞をかけていた。

 手加減する必要もないし、最大出力――昏倒するレベルで使ってきてたんだろうけど、倒れることはなかった。

 霊格の大きさに救われたのかしら。

 

 

 

 思考がとにかくまとまらない。

 そのせいか、複雑な動きが全然できなかった。

 

 例えば走ることにしたって、足を交互に出す以外にも、身体のバランスを制御したり、ペースを保ったりと複数のプロセスで構成されているでしょう?

 普段意識していないかもしれないけど――意識するまでもないことでしょうけど、その処理は脳が行ってる。全ての末端には、必ず脳の存在があるの。

 

 その重要な部分が正常に動作しない今、もし逃げたとしても待っているのは『転倒』だけ。

『転倒』しなくても、ペース配分が出来ないのでいつか体力は底をつく。――逃げることは、不可能だった。

 ならばここで迎え撃つ。私は端的に、そう決断した。

 

「……あなた、一体何が目的なの? 私のゲームで好き勝手暴れたかと思えば、今度はこっちを襲撃するし。しかも不意打ちで、暗殺。狙いが読めないんだけど」

 

 適当に、思いついたことを話す。

 会話にならなくてもいいから、とにかく隙を作りたかった。

 ピタリ、と男の高嗤いが途切れ、眼球がギュルリと私の方を向いた。

 ――ゾクリ

 背筋を言いようのない悪寒が走った。

 

「邪魔だったからですよ、あの女の存在が。どうしようもなくね」

 

「それが目的……? 私のゲームで暴れたのも、不意討ってきたのも……全て、自分の計画のため?」

 

「えぇそうです。私にとって計画以外のことは些事にすぎませんから。――さて、」

 

 男が話に区切りをつけた。それと連動して影も動く。

 ここにきてまで動かない道理は無い。リスク承知で私は駆けだした。

 

「あっ…………ふぎゅ!」

 

 ……一歩目で転んだ。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 そこっ! うるさい笑うな!

 仕方ないじゃない! 走るのなんて慣れてなかったんだし!

 あの状況で飛ぶなんて無理でしょ!

 

 ……………………(笑)

 

 なっ……! こっ、殺す! アンタ絶対後で殺すわ!

 

 ……………………(笑)

 

 よし分かった今殺す!

 神霊舐めんな! 黒死病(ペスト)を喰らえ! もがき苦しめ!

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 ぐぅ……ぐぅぅ……‼

 その特性何とかならないの⁉

 私の恩恵(ペスト)が効かないなんて反則よ……‼

 

 ……………………。

 

 ……わかったわよ。続き書けばいいんでしょ!

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 私は『死』を悟った。

 

「さようなら。貴女の『死』が、次への糧になるように――欠片も残さずいただきます」

 

 ゾオッ! と影が覆いかぶさるようにして私を包み込む。数秒もしないうちに喰われて消えるだろう。

 私は目を閉じてその瞬間を待っていた。

 

 ……………………

 …………

 ……しかし、

 

 いつまでたってもその時(・・・)は訪れなかった。

 

 恐る恐る目を開ける。――目の前の全てが黒に染まっていた。

 それが《暴食》だということはすぐ気付いた。だが理解できない点が多すぎる。

 何故、ここまで接近されて生きているのか? それに、喰われないどころか、むしろ触れた部分から《暴食》が消滅していっている。

 

「…………」

 

 とりあえず鬱陶しいので、黒い風を巻き起こして《暴食》を吹き飛ばした。

 特に抵抗らしいものもなく、簡単に処理できた。

 

「なっ……⁉ 貴女、一体何をしたんですか!」

 

「……さぁ、私にもよくわからないわ。でも、」

 

 私は気づく。霞がかっていた意識が晴れていることに。

 

「どうやら、貴女の力が急激に弱まってるみたいねッ!」

 

 そう言って私は、男に向かって両の袖から黒い風を吐き出した。

 男はそれを横に跳んで回避したけど、その顔は、隠しきれない動揺と焦りで埋め尽くされていた。

 私はさらに二度三度風をぶつけようとする。しかし男は冷静に――動きだけは冷静に、避け続けた。

 

「……どうやら、異変が起きたのは二罪(暴食と怠惰)だけみたいですね……」

 

(……ってことはやっぱり、さっきの動きはギフトのおかげってわけね)

 

 私の脳裏にあったのは、人の身ででありながら神霊や悪魔(自分たち)を圧倒する少年の姿。

 あんな規格外の存在がそうそういるはずがない。

 それなら、

 

「私にも十分、勝機はあるってわけね」

 

 ――この言葉がトリガーだった。

 その瞬間。

 男の顔から、動揺や焦りといった感情が抜け落ちた。

 そして、

 

「…………七大罪――」

 

 一気に――

 

「《憤怒》‼」

 

 余すとこなく、怒りに塗りつぶされた。

 

「調子に乗んなよ小娘が! 勘違いすんな! 思い上がんな! ()の力が多少弱まったところで、俺とお前には絶対的な力の差があんだよ!」

 

「ふん、キャラを変えて威圧のつもり? そういうのは段階的に変えていった方が効果的なんだけど……まぁどちらにしろ、全然怖くないわよ、貴方」

 

 と、口では言っても状況分析はする。当たり前よね。

 ……見た感じ、身体能力が飛躍的に上昇してる見たいね。

 

(《憤怒》って言ってたし、あの男のギフトは『七大罪』で間違いないでしょうね。……それにしても、《暴食》だけじゃなく《憤怒》まで使うなんて、何者?)

 

 思考もその辺にして男に集中する。

 男は、ふぅふぅ息を荒くして私を睨みつけている。……全体的に気持ち悪いわね。

 膠着状態を打開するため、私は打って出ることにした。

 黒い風を放つ。ただし今回は、上方、右方、左方の三方向から囲むように。――退路を断つ。

 そして私は――後方へ飛んだ。

 

 ……逃げるに決まってるじゃない。

『七大罪』のギフトを持った危険人物よ? 戦ったとしても利益ゼロだし、そのくせハイリスク。逃げるのが最善手。

 

「逃がすか!」

 

 ――まぁ罠なんだけどね。

 案の定、単細胞な男は私を追ってきた。

 

(これで――)

 

 私は背中越しに、男目掛けて風を放った。

 回避しようとしても、直前に放った風で退路は塞がれている。

 

(終わりよ!)

 

 勝利を確信した。全方向黒い風、発症間違いなし。

 本当は『死の風』を使いたいんだけど、今は霊格が縮小していて無理なので妥協。でも、男――おそらく人間――を無力化させるには十分。

 ……だと思ったんだけど。

 

「あぁ? うぜェな……ぶっ壊れろ‼」

 

 バキン‼ と何かが砕ける音がした。

 

(……………………うぅ……嫌な予感しかしない……)

 

 恐る恐る背後を見る。まぁ予想通り、

 

 男が風を殴りつけていた。

 殴られた地点から、放射状に罅が入っていた。

 

 ギフトの破壊。

 そして男は一歩で距離を詰めると、

 

「はっはァ! がら空きだぜェ!」

 

 ドッ、と低く重い音が鳴った。

 発生源は私の腹部。そこに男の拳が深々と刺さっていた。

 そう、突き刺さっていた(・・・・・・・・)。――刃物のように。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 ……………………。

 

 えっ、休憩?

 ……そうね、そうさせてもらうわ。

 勝手なことしないでよ?

 

 ……………………。

 

 ……わかった。それじゃ、ちょっとだけ席を外させてもらうわ。

 

 ……………………。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 ……………………(ニヤッ)

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

(ぐっ……うぁッ‼‼‼)

 

 痛みが爆発する。

 お腹の中心が熱く、時折違和感が全身を駆け巡る。

 見ると、男の腕が私の()をかき混ぜていた。筋肉から骨、臓器まで、あらゆるものが男の手によって蹂躙されていく。

 そのたびに傷口からは血の塊がボトボトと零れ落ち、全身を不快感が駆け巡る。

 

「がぅっ……かはっ……」

 

 抜こうと思っても、力が入らずうまくいかない。

 このままずっとかき回されたところで、本質のところで人間じゃない私は死なない。だけど、

 

『死なない』ということは、必ずしもプラスに働くとは限らない。

 例えば今の状況。

 今、男は私の身体を弄って反応を愉しんでる。この段階で満足している。

 だけどもし、満足できなくなったら、この男はどんな行動に出るだろうか。この獣の様な男は――

 

 

 

 例えば。

 傷口に両腕を突っ込んで、体内から破壊していくのだろうか。

 骨を砕き、肉を千切り、内臓を潰し――ぐちゃぐちゃの滅茶苦茶に壊すのだろうか。

 

 それとも例えば。

 抵抗する力を奪ってから、精神的に殺すのだろうか。

 四六時中、昼夜問わず、拷問したり――私を、犯し続けたりするのだろうか。

『淫楽』で堕とすというのは、ある意味では最も手っ取り早い『攻略法』だから…………

 

 

 

「――おやぁ?」

 

 と、不意に男の腕が止まった。口調からも荒々しさが消え、最初の頃の、人を食ったような敬語口調に戻っている。

 男は腕を突っ込んだまま、グイッと私を吊り上げた。

 高く高く――

 

「おやおや、これはどうしたことでしょう」

 

(……一体何を……)

 

「もしかして貴女。身体の中かき混ぜられちゃって――感じちゃったんですか(・・・・・・・・・・)? シミになっちゃってますよ、ココ」

 

「――――ッッッ⁉」

 

 慌てて見下ろす。

 男が私のスカートを捲りあげていた。

 

 よく見てみると、男の目の前にスカートがちょうど位置していた。どうやら、高く上げたのはこのためだったらしい。

 

「ちょっ……! アンタ何して……‼」

 

「暴れないでくださいよ。ちょっと確認しただけじゃないですか」

 

「確認って……わ、私は感じてなんか……」

 

「そう言いますけどね。ほら、」

 

 そう言って。

 男は躊躇いなく私の(・・)を触ってきた。

 布越しとはいえ大事なところを触られたことで、全身を生理的嫌悪感が包む。

 でも、それに一々反応してる暇はなかった。

 

 ――グチュ、と。

 明らかに湿った音が鳴ったから。

 

「~~~~ッ⁉」

 

「ほら、濡れてるじゃないですか。……貴女、身体の中かき混ぜられてこんなにしちゃったんですか?」

 

「ち、違っ! これは……」

 

「違うんですか? こんなに溢れてくるのに?」

 

 男はぐちゃぐちゃと傷口をかき回してくる。

 

「っ……あっ、ぐぅ……!」

 

 全身を激痛が貫く。だが今回は少し違った。

 お腹の中の腕が動くたび全身を不快感が襲うのだが、それに、痺れるような感覚が混じっていた。

 

「ぁっ……がっ……やめっ……やめてっ……!」

 

 それはだんだん強くなっていき……やがて、微弱な快感(・・)へと姿を変えていった。

 

「あっ……や、ぅあっ……! なにっ……これっ……! からだが……しびれ、てっ……! やぁっ……!」

 

 ゆっくり……ゆっくりと、少しずつ快楽の波は大きくなっていく。

 我慢していたのだが、口の端から声が漏れ始めてしまった。

 

「ふふ、可愛いですね……。ですが、」

 

「――――‼⁉⁇ っ……あっ‼ はぁ……‼ なに……いきなりっ‼ つよす……ぎっ‼」

 

両腕(・・)……耐えられますか……?」

 

 傷口に両腕を突っ込んだ男が、ニタリとした笑みを浮かべている。

 だけど、それを気にしていられる余裕が私にはない。

 一気に倍以上まで大きくなった快楽に、私は意識がとびそうになっていた。

 

「う……はぁ……! や、だめ……っ! もう……わたし……っ‼」

 

「ふふふふ……。もう限界ですか?」

 

 男がそう言ってる。だけど、音源が遠い。

 ラストスパートのつもりなのか、傷口を抉り、ぐちゃぐちゃにかき回すペースが速くなっていく。

 頭の中がだんだん真っ白になっていって……そして……

 

「や……っ⁉ ~~~~~~~~っっっ‼‼‼」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「――全身を、今までで最大級の快感が走った時、私は弾かれるように絶頂へと至っていた。身体から力が抜け、ビクビクッ、と全身が震える」

 

 ……………………。

 

「(イっ……ちゃった……)

 ぼぉっとする意識の中で、私はそう呟く。

 そんな私を見て、男はより一層笑みを濃くしていた」

 

 ……何……やってんの……?

 

「『ふふふふ……、まだ……終わりではありませんよ』 

 男はそう言って近づいてくる。だが私には、もう抵抗する力は残っていなかった――」

 

 何、やってんのよ――――‼‼‼

 

「……おっと。誰かと思えば、ペストちゃんじゃん。もう休憩はいいの?」

 

 休憩どころじゃないわよ! 何? なんで勝手に書いてるの⁉ しかも官能っぽく⁉

 

「悦ぶと思って」

 

 そんなわけないでしょうが‼

 

「でもさ、嘘は書いてないでしょ(・・・・・・・・・・)?」

 

 …………そうだけど(・・・・・)。そこまで声出してないし……! アンタは、オーバーに書きすぎなのよ‼

 

「はいはい、悪かった悪かった。俺が悪かったですよ。――で、どうする? 続き書く?」

 

 書かないわよ! もう絶対書かないからね‼

 

「ふーん。じゃあここまでで完成と言うことで。――提出してくる」

 

 や・め・な・さ・い‼‼‼

 

 




*後ろにいたのは鳴です。

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