担い手と問題児は日記を書くそうです。   作:吉井

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 書いてたら長くなったので分割。
 というわけで、今回と次話は耀対耀です。
 今回から、華蓮側のキャラのセリフを「」。五月雨側のキャラは『』にしたいと思います。


陰陽――試合――咆哮

「……うぅ……」

 

『ああ、目が覚めましたか、華蓮さん』

 

 

 七夕の声がする。

 クラクラする頭と意識に吐き気を覚えつつも、華蓮は起き上がり声を上げた。

 

 

「ここは……?」

 

『寝室ですよ。気を失ってしまったので運びました。軽い脳震盪だったみたいです』

 

「そう……私は負けたんだね…………っておい、ちょっと待て思い出したぞ。確か私、最後滝に打たれて――!」

 

 

 そこまで言って、華蓮は自分の体を見下ろした。服が変わっていた。

 試合の時には、機能性を重視し、タンクトップとハーフパンツだったはずなのに、今はワンサイズ大きい和服――華蓮の寝間着だった。

 

 

「…………」

 

『ああ、服が濡れていましたので、風邪を引くといけないと思い、勝手ながら着替えを――もちろん、黒ウサギたちがしましたよ』

 

「ならいいけど。……でもさ、なんで七夕がここに?」

 

『はい、華蓮さんにお話がありまして』

 

 

 そう言うと七夕は姿勢を正し真剣な口調で――

 

 

『華蓮さん、陰陽の道を志してみませんか』

 

「陰陽……陰陽術だね。でもどうして私に?」

 

『いえ、深い理由はありませんよ。ただ、現状の華蓮さんより強くなってもらおうと思っただけです』

 

「……うん、私も教えてもらおうと思ってた。でもさ、そんな簡単に身につくものじゃないでしょ?」

 

『もちろん、一朝一夕で身につくものではありませんよ』

 

 

 七夕曰く、一から始めるのならば年単位の時間がかかるらしい。ただ、長期間四神の力のそばにいて、体内に取り込み管理していた華蓮ならば、それほど時間はかからないだろう――ということだった。

 

 

「――ふーん、なるほどね。じゃあ七夕……じゃないな、七夕先生、御指南のほどよろしくお願いします」

 

『先生ですか……なんだか変な感じですね。――では、私たちが滞在している期間限定ではありますが、こちらこそよろしくお願いします』

 

 

 こうして、華蓮は七夕に陰陽術を教わることとなった。

 指南は世界が別れる日の前日まで行われた。結局基本しか教われなかったが、それでも華蓮の中には、何かが確かに積み重なった。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 これが、華蓮対七夕――似た者同士の試合の全貌である。

 七夕の勝利という結果になったものの、華蓮は陰陽術に出会った。この試合は、お互いに良い刺激となったわけだ。

 

 さてさて、これに触発されたのか、この試合から2日たったよく晴れた日。

 今度は耀2人が言い出した――試合がしたい、と。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

『「――というわけで試合がしたい」』

 

『いやどういうわけですか⁉︎』

 

 

 2人の耀に詰め寄られ、タジタジの黒ウサギが叫ぶ。因みにこの黒ウサギは、五月雨たちのいる世界の黒ウサギである。

 もう1人の黒ウサギは今、サウザンドアイズに顔を出す華蓮に引っ張られていったため不在なのだ。

 他にも七夕が、陰陽術のことを報告にいくため華蓮に同行。花音もそれに付き添っていき、計4人がいなかった。

 

 

『理由を聞かせていただいても?』

 

『理由……華蓮と七夕の試合見て、触発されたから……?』

 

「うん、そんな感じ?」

 

『なぜ疑問形⁉︎』

 

 

 再び叫ぶ黒ウサギ。

 だが2人はそんなこと御構い無しに話を進める。

 

 

『場所は同じところでいいよね』

 

「うん、大丈夫。皆も呼ばないとね」

 

『そんな勝手に……ちょっと御二方⁉︎』

 

『「じゃあ黒ウサギ、審判よろしくね!」』

 

 

 黒ウサギの制止を振り切って部屋を飛び出した2人は、着々と準備を進めていった。最後の抵抗なのか逃亡した黒ウサギを総員で捕獲し、準備完了。

 黒ウサギの苦労は絶えず……。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 その頃、もう1人の黒ウサギはというと――

 

 

「いやぁあ‼︎ やめてください白夜叉様‼︎ 大きい白夜叉様もやめて――‼︎」

 

「ふっほほほほほほ! よいのぉよいのぉ……邪道じゃが、ミニスカメイド! ――エロい!言うことなし!」

 

「うわ、私のより露出度高い」

 

『うっわあ! エロい、エロいよ~! ほら、こっち向いて~!』

 

『いやいや、やめときましょうよ。いえ、やめてあげてください』

 

 

 惨状を華麗にスルーし、冷静に服を見ている華蓮。

 涙目ミニスカチラメイドの黒ウサギをなめまわすように撮る花音。

 苦笑しながら、それを止めようとする七夕。

 三者三様の反応をする前で、二神の戯れは続く。

 

 

『じゃが! 私はここで、あえて逆の道をゆくぞ! 私はチャイナ服を選択する! 動くたび、スリットからチラチラと太ももが――‼︎』

 

「くっ、確かにレア感がましてエロい!」

 

『そうじゃろ‼︎』

 

「いやぁぁぁあああああああ‼︎」

 

 

 哀れ黒ウサギ、君臨した二神の贄と化していた。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ぞくっと、荒地に立つ黒ウサギは悪寒を感じた。何かとてもデンジャラスなことが起きている様な、そんな感じ。

 

 

『おーい黒ウサギ! もうそろそろ始めようぜ!』

 

「私たちは準備オッケーだよ!」

 

『……はい、分かりました! ――では、始めましょう!』

 

 

 腰を屈め、突撃する気満々の2人を見て、ため息を一つつき黒ウサギは半ばやけくそ気味に言った。

 そして続けて、高らかに開始の合図を――

 

 

『両者、構え――――始めッ‼︎』

 

 

 その瞬間、砂煙とともに二人の姿は掻き消えた――かと思った次の瞬間、ズザッという音とともに2人の姿が現れた。スタート位置より十数メートル前の空間に。

 てっきり最初からぶつかり合うと思っていた黒ウサギは首を傾げた。

 

 

『……? あんなところで止まって、御二人ともどうしたのでしょうか?』

 

『そりゃあ、相手が自分自身だからな』

 

 

 黒ウサギの疑問に、隣にいた十六夜が答えを返した。

 

 

『一昨日の試合みたいに対戦相手が違うやつなら、春日部は迷いなくぶつかっていったんだろうけどな。だが今回は自分同士の戦い――少なからず手の内がばれている相手に突撃は悪手だからな』

 

『――な、なるほど』

 

「……まあどうせ、この均衡は長くは続かないだろうけどな」

 

 

 この後の展開はその言葉通りとなった。

 先に仕掛けたのはこちらの耀。地を蹴り距離を詰め、近接戦に持ち込むつもりのようだ。

 それを見て、止まっていた耀も動き出す――慎重に。先に動いたということは、何かしらの手があるはずだから。

 だがその予想は外れ、耀は特に何も考えていなかった。

 

 

「――はっ!」

 

『――ッ!』

 

 

 接近しての拳によるコンビネーション。それを捌き、避けてカウンターを放つ。

 さらにそれを避け、カウンター、カウンター、カウンター、と高速で繰り返す2人。

 どちらも未だクリーンヒットなし。足技も交え、さらに速くなり始めたにも関わらずだ。

 

 

『……何かがおかしい』

 

 

 そんな時声を上げたのは、試合を観戦していた五月雨だった。朧げながら五月雨は、この乱打戦の違和感を感じ取っていた。

 遅れて十六夜、刃……と気づき始める。

 

 

どうして拮抗している(・・・・・・・・・・)んだ(・・)?』

 

『ああ……華蓮たちから話を聞く限りだと、あっちの耀とこっちの耀の力量差はかなりあるはずなんだが』

 

『なにか秘密が――』

 

 

 その時、ドゴッという音が響いた。捌ききれなかった拳が、こちら側の耀の胴をとらえた音だった。

 十数メートルは吹き飛んだ耀だったが、それほどダメージは受けていない様子。どうやら、ギリギリで腕一本滑り込ませることができたようだ。

 受け身をとって起き上がった耀に、相手側から声がかかった。

 

 

『強いね、そっちの私。……でも、なんか違和感感じるんだよね』

 

「違和感……うん、そうだね。感じると思う」

 

『でもまだ、それが何なのかわからない。唯一分かることは、私の拳が全然当たらないってことくらいかな』

 

「……私の秘密、知りたい?」

 

 

 その提案に、耀は少なからずの疑念を抱いた。こんなに簡単に教えていいものなのか、と。

 だが知っておく必要がある、耀は首を縦に振った。

 

 

「えっと……例えば、どれだけ速いものでも十分な距離があれば避けれるでしょ? 私はそれに近い感じの(・・・・・・・・・・)視界を持っているんだ(・・・・・・・・・・)

 

『……それってつまり、あなたの視界では周りがスーパースローになっているってこと?』

 

「そう。正確には、動体視力と機敏さがすごく上がってる」

 

『……なるほど。つまりあなたは、私たちのように拳を予測して避けてるんじゃなくて――少しは予測してるんだろうけど――大体のものを見てから避けてる(・・・・・・・・)ってことでしょ。そんなことって……』

 

 

 でたらめな事実に観戦者達も言葉を失った。

 だがそうなると当然、この疑問が出てくる。

 

 

『……そんな力、私も持ってない。一体どんな幻獣からもらったギフトなの?』

 

「…………わからない」

 

『え?』

 

「わからない。……北の街で魔王とギフトゲームをして、意識を失って――起きたらもう持ってた」

 

 

 再び言葉を失う。それじゃあまるで、本物の恩恵(ギフト)ではないか。

 だが一人、華蓮の従者にして、あの時、銀耀を見ていた十六夜だけは理解していたが、そのことを話す気はなかった。

 

 

「可能性のある幻獣が一体だけいるけど……正直、当たってほしくない。だってそれじゃ、生命の目録(このギフト)に対する私の認識が、違ってたことになるから……」

 

 

 ――気づきつつある。

 五月雨達の世界――少し未来の世界のノーネーム一同はそう思った。

 それは耀も同じ。だからすぐに戦闘を再開しようと思い――

 

 

(あの速さだ、出し惜しみしてる場合じゃない!)

 

 

 そう決断し耀は、生命の目録に意識を集中。生命の宿す奇跡の結晶を抽出し、組み合わせる。

 

 

(スピードならペガサスだけど……だめだ、単純な速さだけじゃ見切られる。たとえ避けられようとも、次の行動に影響が出るくらいのパワーがあれば……。スピード(プラス)パワー、それを持つ幻獣は――)

 

 

 幼少の記憶を掘り返して探す耀。

 記憶の中で耀は、さまざまな本を読んでいた。今でもその一冊一冊を思い出せるくらいに何度も。

 そのせいだろうか、ソレ(・・)を読む姿もしっかり残っていた。そして耀は、なんの躊躇いもなく本を読み――

 ――パパッと一瞬、生命の目録が発光した気がした。

 

 

『……? ――ッ⁉』

 

 

 突如として襲ってきたのは、熱だった。

 発生源は、胸のあたりに垂れていた生命の目録。それがズブズブと、耀の胸に沈んでいっている――熱を発しながら。

 ――明らかに異常だ。頭でそう思っていても止まることはない。

 そして三分の一が沈んだとき、もう一つ変化が生じた。生命の目録を中心として、古代の民がその身に書いていたようなデザインの、紫の紋様が徐々に浮かび上がっていったのだ。

 

 

『――耀‼』

 

 

 皆が唖然とするなか、五月雨だけはその名前を呼んだ。

 それが聞こえたのか、応えるかのように、辛そうな耀の顔が向けられ――

 

 

『……逃げ……て……』

 

 

 次の瞬間、生命の目録が完全に取り込まれた。同時に、紋様も全身に浮かび上がった。

 そして、いとも容易く耀の理性がとんだ。抗いがたき闘争の衝動が体を脳を貫いたのだ。

 

 

『――グルァァァァァァァァァァアアアアアアアア‼‼』

 

 

 獣を超えたナニカの咆哮を上げ、耀は、衝動のままに、とりあえず近くにいた、呆然とする耀めがけて跳びかかった。

 

 


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