担い手と問題児は日記を書くそうです。   作:吉井

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超絶――甘々――空間

「――バカじゃ無いの⁉︎そんな全力勝負なんかして……あっ、ここも擦れてる……。今手当するから……動いてはダメよ」

 

「おう、サンキューな」

 

 

 ノーネーム拠点。

 あの後、連行されて帰ってきた十六夜達を見て、ノーネーム拠点は騒然となった。といっても、慣れた様子で――慣れたくも無いだろうが――対応していたのだが……。

 やはり華蓮経由で情報が入ったらしい。

 

 そしてやはりと言うべきなのか、十六夜達のことを皆は心配していて――特に、彼女である飛鳥は、十六夜の姿を見た途端、無茶をしたことへの文句を矢継ぎ早にまくし立てた。

 まくし立てて――落ち着いたら、少し泣いてしまった。十六夜は、そんな彼女の側で、泣き止むまで――泣き止んでも少し延長で、慰めていた。

 

 

 …………。

 ――超絶甘々空間が出現していた。

 

 

 流石に、あちら側のメンバーは慣れていたようだったが、初見だったこちら側のメンバーは、揃って顔を真っ赤にしていた。――特に飛鳥は空間の甘さにあてられ、数十秒間硬直していた。

 

 ――とまあ、あちら側の十六夜はこんな感じだった。

 今は擦り傷などの手当てをしている。彼氏彼女の関係ということもあって、なかなかに距離も近い。

 

 ……で、こちら側の十六夜はというと――

 

 

「…………」

 

「……俺はいつまでこうしてればいいんだ……」

 

 

 毎度おなじみの直床正座だった。

 十六夜達が何かをやらかすたびに行われるこれは、既に恒例行事と化していた。

 

 

「ねえ十六夜?君は――今回は君達だけど――どうしてあんな無茶をするのな?もちろん君のことは心配だったけどさ……私の立場を少しは考えてほしいな……」

 

「……すまない」

 

 

 反論せずに、しっかりと聞き入れる十六夜。

 その時、花音が話に入ってきた。

 

 

「ねえレンレン、立場ってどゆこと?サウザンドアイズに所属しているって意味なの?」

 

「ううん、違うよ――いや、結局おんなじことか」

 

 

 そういえば説明してなかったな、と華蓮は皆の方を向き――

 

 

「私って天軍に狙われてるのよ。だから目立っちゃいけないの」

 

「天軍だって――⁉︎……と、驚いてはみたけど、まあ予想はしていたよ」

 

「そうだな、華蓮って魔王4体も抱えてるからな――」

 

 

 花音と五月雨がそんな感じで返事をした。

 意外に落ち着いた感じの2人だったが、他はそうでもなく――特に何故か、こちら側のノーネーム一同の驚きようが目立った。

 

 

「え……魔王?なにそれ、私初耳よ?」

 

「私も初耳……」

 

「本当なのですか、華蓮さん⁉︎」

 

 

 視線が華蓮へと集まる。

 当の華蓮は、頬をかきながら苦笑中。明らかに動揺していた。

 

 

「……まさか、言ってなかったのか⁉︎」

 

「……あ、あははは……」

 

「俺は知ってたけどな」

 

 

 十六夜がこっそり主張するが、その声は届かず。

 あっという間に囲まれてしまった華蓮は、少し涙目になりながら、観念したかのように話し始めた。

 ――少女説明中……

 

 

「――というわけです。ごめんね、今まで隠してて」

 

「本当、その通りだわ!魔王を抱えて大変なら、一言相談して欲しかったわよ!」

 

「うん、その通り。事情があっても、これは華蓮が悪い」

 

「そうですよ、華蓮さんは1人で抱え込みすぎです!」

 

「みんな……」

 

 

 3人の言葉に、華蓮は声を震わせる。

 それをみた十六夜は、華蓮の肩に手をおき言った。

 

 

「ほらな、大丈夫だっただろ?」

 

 

 そして十六夜は膝を曲げ、華蓮と目を合わせると、

 

 

「それに、これは前にも言ったことだが――魔王を倒すってのは、確かに俺たちの行動指針だ。だがそれは悪神に限った話。お前が魔王として活動しない限り、俺たちはお前を敵視しない。仲間として、同士として――友人として、迎え入れる」

 

「…………あのさ、十六夜……ちょっとそのまま動かないでね」

 

 

 俯いていた華蓮の手が上がり、十六夜の顔を左右から包み込んだ。

 それはまるで、何かの準備のようで――

 

 

「私と目線合わせんな――‼︎」

 

 

 ガゴン!

 そんな音を響かせるのと同時、十六夜の体が後方へ仰け反った。

 華蓮が、十六夜の頭に思いっきり頭突きを食らわせたのだ。

 

 

「……えっ、ちょっと――華蓮さん⁉︎」

 

「一体なにを……!」

 

 

 そんな声がかかるが、華蓮はこれを無視し――

 

 

「おい十六夜。背のことはノータッチ、そういう約束だったよねぇ……!」

 

 

 と、そう言う華蓮の目には光るものがあった。

 ……どうやら、かなり痛かったらしい。何も強化していないのだから当然である。

 

 

「私の背が低いのは自覚してる。でも言っとくけど、これはコンプレックスってわけでは…………ないからな!」

 

(今、間が……)

 

 

 と、そこで華蓮は話を区切り、話題変更。

 

 

「それで十六夜、私に何か言うことがあるんじゃないの?」

 

「……ったく、やせ我慢してんじゃねぇよ。……まあいいか。華蓮、義手の充電してくれ」

 

 

 それ聞いた瞬間、華蓮の肩がピクリと動いた。と同時に段々と頬も紅潮し始める。

 数秒間の沈黙の後、小さく一言。

 

 

「…………ここで?」

 

 

 恥ずかしそうな華蓮の言葉。

 数秒の思考の後、十六夜は何かに気づくと、ニヤリと笑い言った。

 

 

「……――もちろん、今すぐに頼む。もう消えそうなんだよこれ」

 

「マジで……?え、本気⁉︎…………分かったよ。ったくほら、右腕出して」

 

「ほらよ」

 

 

 華蓮の言葉に素直に従う十六夜。右腕をピンと伸ばし、華蓮の方へ向けた。

 

 

「……白封――第三層解放(サードシフト)

 

 

 華蓮が呟くと同時、その全身が激しいラグに包まれた。

 ラグは段々収まって行き、実体を取って行った。

 

 華蓮は、その全身のラグが完全に消える寸前、両手で十六夜の手を掴んだ。

 そして一瞬の躊躇の後、恥ずかしそうにしながらも意を決した様に頷き、両手で掴んだ十六夜の手を――己の左胸に押し当てた(・・・・・・・・・・)

 

 あまりにも急な展開に言葉を失う一同。

 次の瞬間――2人から閃光が発せられた。それ自体は一瞬のことだったが、その後も間隔をあけて何回か光った。

 

 3回目の発光の後、今まで黙り込んでいた華蓮が口を開いた。

 

 

「……充電するためには、こうやって直接吸い上げた方が早いんだよ……っ」

 

「――義手の特性のエナジードレインでな」

 

 

 脈略のない華蓮の言葉を十六夜が補足。

 

 

「……因みに……っ!好きで胸を触らせてるんじゃ、無いんだからな……っ!」

 

「――正確には、華蓮の左胸の痣だな。心臓のだいたい真上にあるらしいぞ」

 

「……へ、へぇ。でも、いくら補足されても状況は変わらないわよ?」

 

「華蓮って時々、びっくりするくらい大胆だよね」

 

「同感、すごく積極的」

 

 

 女性陣の呆れた様なコメントだが、華蓮からの返事はない。代わりに十六夜が説明。

 

 

「すまないな皆、今は返事できないと思う。莫大な力があるとはいえ、少なくない量を吸われているからな――華蓮曰く、全身の筋肉が弛緩した様な倦怠感と、五徹したかの様な睡眠欲が同時にクるらしい」

 

「何それキツそう」

 

「…………後、頭痛もね……っ!」

 

「喋んな、きついだろ?――誰か椅子持って来てくれないか?」

 

 

 黒ウサギが、持ってきた椅子に華蓮を座らせようとするその時、十六夜が言った。

 

 

「待ってくれ黒ウサギ、そっからは俺がやる」

 

「え?わ、分かりました」

 

 

 言って一歩下がる黒ウサギ。

 そして十六夜は、誰も座っていない椅子に、躊躇いなく座った。

 

 その行動を見て、五月雨たち男性陣が何か言おうとするが――その前に。

 

 

「よっと……これでよし」

 

 

 華蓮の体を持ち上げ、自分の膝の上に乗っけた。ちょうど十六夜が、華蓮を後ろから抱きしめる様な感じ。

 これには一同、再び絶句。

 

 誰も言葉を発しない数十秒。

 その間十六夜は、左手で華蓮の艶やかな髪を撫ですいていた。

 

 

「それって毎回してるの?」

 

 

 そんな質問をしたのは、先ほどまで十六夜と甘々空間を創り出していた飛鳥だった。

 

 

「まぁな。……と言っても、言い出したのは華蓮だけどな」

 

「……ちょっと、バラさないでよ……っ!」

 

「はいはい、黙ってな」

 

 

 そう言って華蓮の頭を撫でる十六夜。

 華蓮も最初はむくれていたが、しばらくすると体の力を抜き、その全身を十六夜に委ねた。

 

 

 …………。

 ――こちらでも、超絶甘々空間が出現していた。

 

 

「……え、何これ……?何この状況?」

 

「2人って、付き合ってないんだよな?」

 

「そのはずだけど……」

 

 

 一同も困惑気味だ。

 その時、あちらの十六夜が納得した様にこう言った。

 

 

「なるほどな。だからあん時テンション低かったのか」

 

「どういうこと?」

 

 

 飛鳥の質問に対して、十六夜はニヤリと笑って言った。

 

 

「ほら、2人って主従関係だろ?見る限り上下関係は無いみたいだけど、主である華蓮の命令は聞かないといけない。――おそらくだが、恥ずかしいんだよ、十六夜(あいつ)

 

「そういうこと……」

 

 

 しばらく見ない間に距離を縮めていた友人に対し、心の中でGJ!と親指を立てる飛鳥。

 

 そっと2人の方を見ると、十六夜は片手で器用に華蓮の髪をいじって遊んでいた。未だ辛そうな華蓮も、どことなく嬉しそうに見える。

 

 どこからどう見ても恋人の2人。だが実際はもっと深い関係。

 飛鳥はこう思わざるを得なかった。

 

 ――この2人は、恋人の関係になる必要があるのか――と。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 時間は流れる。

 人の意思など御構い無しで、平等に。

 

 こちら側のノーネームとあちら側のノーネームは、この数日間で交流を深めて行った。

 世界が違うとは思えないほど、親密な関係となった。

 

 一緒にショッピングをした、一緒に仕事をした、一緒にギフトゲームをした、ガールズトークに花を咲かせた。

 そして時には――

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 それは3日目のことだった。

 気持ちの良い一日となりそうな快晴。

 

 朝食を食べ終え、大広間でのんびりしていた華蓮に、七夕が声をかけて来た。

 

 

「すいません、お話ししたいことがあるのですが、構いませんか?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 華蓮の了承を得た七夕は、その対面へと移動し座った。

 そして単刀直入に話し始めた。

 

 

「華蓮さん、1日目にも言いましたが、貴女と私は似ています。外面ではなく、内面が……というよりこの場合は、役割(・・)が、と言った方が正しいですね」

 

「役割……ね」

 

「そう、役割ですよ華蓮さん。……確か貴女は、魔王を4体抱えていましたよね?四聖獣――朱雀、青龍、白虎、玄武を」

 

「うん、いるよ。……それがどうかしたの?」

 

 

 話の本筋が見えてこない華蓮のこの質問。

 それに対して七夕が話したここから先は、凄まじく衝撃的な内容だった。

 

 

「わたしも四聖獣を抱えているのですよ、式神として。……五月雨兄さんはそのことを感じて、私と貴女が似ていると思ったみたいですが、私の意見は違います」

 

「…………」

 

 

 そして七夕は、その言葉を口にした。

 

 

「これは仮説ですが……私と貴女は、一種の対対照(ついたいしょう)の存在だと思うのです」

 

「……対対照?」

 

「ええ、その通りです。役割が同じ、と言った方がわかりやすいですね。……こちら側の世界――五月雨兄さんのいる世界では、四聖獣は式神として私が担っています。そして貴女の世界では、四聖獣を魔王として華蓮さんが担っています」

 

「…………」

 

 

 華蓮からの言葉はない。

 七夕は構わず、話を先に進めた。

 

 

「式神と魔王、四聖獣の存在は違いますが、私たちには共通して――四聖獣を担う(・・・・・・)、という役割がある」

 

「……なるほどね。だから、対対照ってわけか」

 

「その通りです。性質は違えども、比べて見ると似通っている。対に対照――さながら鏡の様に」

 

「……理解した。でも、なんでいきなりこんなことを私に?」

 

 

 華蓮のこの質問に対する返事は、すぐには帰ってこなかった。七夕は、言うべきか悩んでいる様だった。

 数十秒後、恐る恐ると言った様子で、七夕が口を開いた。

 

 

「……華蓮さん、もし宜しければ、私と戦ってくれませんか?」

 

「ん、いいけど?」

 

「即答ですか⁉︎」

 

 

 なんだそんなことか、と言わんばかりに即答した華蓮に対し驚く七夕。

 

 

「え、あの、華蓮さん、天軍に狙われてるんじゃ……?」

 

「狙われてるよ?」

 

「……目立ったらいけないのでは?」

 

「……あー、それで悩んでたのか。いやいや大丈夫だよ。此処って箱庭の端っこだし、神格さえ解放しなけりゃばれないって」

 

「……そうですか……」

 

 

 私の葛藤は一体何だったのか、と項垂れる七夕に対し、今度は華蓮の方から質問。

 

 

「んで、なんで私と戦いたいわけ?」

 

「いやいや、理由なんてないですよ。強いて言うなら、私と対になっている貴女の実力を見たい、という好奇心ですね」

 

「ふーん、好奇心ね。……私も、式神としての四獣の力を見てみたいし…………よし!その勝負、受けてたとうじゃないか!」

 

「ありがとうございます、華蓮さん」

 

 

 ――そうと決まれば!

 華蓮は勢い良く立ち上がり、高速で予定を立て始める。

 

 

「場所は中庭でいいよね……審判兼ストッパーな意味で皆も呼ばないといけないし……ギフトゲーム扱いにはしなくてもいいか……あ、七夕、使う式神は四獣だけに制限してもいい?」

 

「……か、構いませんよ」

 

 

 ブツブツ言って予定を立てる華蓮に、少々引く七夕なのだった。

 

 こうして、レクリエーションバトル――華蓮対七夕が行われるのだった。


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