担い手と問題児は日記を書くそうです。   作:吉井

11 / 23
ゲーム終了――リザルト

「――四速!終わりだ十六夜流――――‼︎」

 

 

 背後から迫る風圧を感じながら、しかし、十六夜流は回避することが出来ない。

 先ほどの一撃のダメージがまだ残っているし、それになにより、足が地についていないのだ。

 十六夜流に、回避の手段はない。

 

 だがそれも――十六夜流に限った話である。

 

 

「――……まだ……やられるかよ――――!」

 

 

 突如として、十六夜流の体が跳ね上がった――否、飛び上がった(・・・・・・)

 

 銀腕の拳が空を切る。

 当然その体は勢いそのままに直進しようとするが、弧を描くように飛ぶことで減速した。

 そして完全に静止した時、銀腕はその姿を見た。

 

 翼。

 十六夜流――逆廻十六夜の背から、青い翼が生えていた。

 淡く光るその翼は、五月雨のギフト《絆》によって造りだされたもの。

 発動条件は――強者と戦う闘争心。

 

 

「なんだ十六夜流、お前も飛べるのかよ」

 

「まあ、俺の力じゃないけどな。だが――これでアドバンテージはなくなったぜ、銀腕。俺のスピードもかなり上がったことだ――空中戦といこうか‼︎」

 

「――ハッ、空中戦ね。俺に空中戦を挑むかよ、十六夜流。――大得意だぜ!」

 

「奇遇だな――俺もだ!」

 

 

 その言葉をきっかけに2人は地を――空を蹴った。

 

 十六夜流は翼で大気を叩いて、銀腕はスラスターから空気を吐き出して、前へ。

 

 

「十六夜流、十五の業――月下夜焼‼︎」

 

 《瞬時加速(ゼロイグニッション)

「零からとばして――四速!」

 

 

 十六夜流が放つは破壊の拳――十五の業。対する銀腕は、四速まで加速して放つ拳。

 普通に考えれば、十六夜流の圧勝であるが。

 はたして――

 

 

「――ぅ……おあッ――――‼︎」

 

「――――‼︎」

 

 

 銀腕は短く鋭い気合を放ち、そして――突如として、十六夜流の視界から消えた。

 ――と、十六夜流が認識した時にはすでに、背後に銀腕が再出現していた。まるで瞬間移動ように。

 

 加速技能《不動加速(バニッシュイグニッション)

 なんの前触れもなく、なんのモーションも無しに、スラスターだけを使い加速する技能。不動のまま、座標を変える加速。

 この技能は、使用者が速ければ速いほど有効に働き、相手を翻弄する。そして四速以上になると、ほとんど消えたように見えるのだ。

 

 故に、ほとんど初見で――実は2回目――回避できるわけがない!

 

 

(――決まった!)

 

 

 銀腕が勝利を確信した時、それは起こった。

 

 ――十六夜流が(・・・・・)視界から消えた(・・・・・・・)

 

 

「――なっ……⁉︎」

 

 

 驚愕する銀腕だが、十六夜流を見失ったことを理解すると、即座に風を厚く纏った。

 

 次の瞬間、背後(・・)の風に衝撃が走った。

 本来は直撃コースだったそれは、纏った風に流され、十六夜の右腕――銀の義手に命中した。

 

 ゴッ、という鈍い音と共に、激痛が銀腕を貫いた。

 義手だからといって、感覚がないわけではない。本物に限りなく近い義手は、本物の腕と同じく触覚――痛覚をもつのだった。

 というわけで。

 

 

「ッ……があッ――!」

 

 

 激痛に呻く銀腕の体は、きりもみ状態となりながら、地面に向かってかなりの速度でぶっ飛んで行った。

 だが銀腕は、激突寸前で空気を解放し、急ブレーキをかけ止まった。

 

 そして右腕を押さえたまま空を仰ぎ、十六夜流を――拳を振り抜いた体制で静止している十六夜流を睨み、叫んだ。

 

 

「……十六夜流、よく回避できたな。あれは、初見の相手には必中の技能だったんだけどな!」

 

「ハッ、そりゃすげえな、俺には当たらなかったが――まあ、これはカウントしなくていいと思うぜ?」

 

「ああ、そうさせてもらう。――だってお前、気付いてただろ?」

 

「まあな。あの時――俺が背後から殴られた時に気付いたぜ?あの動きは明らかにおかしかったからな」

 

 

 十六夜流の言葉を聞き歯噛みする銀腕。

 あの時、銀腕は《瞬時加速》に加えて《不動加速》を使っていた。でなければ、あの動きは出来ない。

 

 つまり、厳密には初見ではなかった。2回目だったのだ。

 だからといって――

 

 

「1回見ただけで看破するとはな……。回避するタイミングだって、かなりシビアだってのに……」

 

「いや、回避は簡単だったぞ。お前の姿が消えた瞬間に回避すればいいんだからな。――攻撃場所だって簡単に予測できたさ。次の攻撃に繋げることができる場所――つまり、俺の背後だ」

 

 

 銀腕は絶句した。主に、前者に対して。

 確かにその通りだが、消えてから再出現までのラグは1秒もないはずなのだ。一体どんな反射神経をしているのか。

 

 

「…………」

 

 

 同じ逆廻十六夜として、知力では負けない自信があるが、こと戦闘経験が違いすぎる。おそらく、数々の修羅場をくぐっているのだろう。

 そして身につけたのが、数多の戦闘経験からなる行動の予測、相手の戦法を見抜く目、などのスキル。

 どれもこれも、銀腕の持っていないものだった。

 

 

「――さて、続けようか銀腕」

 

 

 十六夜流がそう提案し、それに対し銀腕は――

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「……様子が変だな」

 

 

 屋根の上を走りながら、刃は何かを感じ取っていた。

 といっても、違和感というほどのことではない。正体にもとっくに気付いていることだし。

 

 先ほどから、逃走者が1人も見つからないのだ。

 

 今までなら、捕獲者を何度か見かけることもあった。だが今は、それすら見当たらない。視界の隅にすら映らない。

 

 この現象はなにを意味するか――

 さ

 

「……作戦、だろうな。参加者八名全員が集まって、クリアのため作戦をたてているのだろう」

 

 

 ――面白い。

 刃の顔が喜色に染まる。

 

 本来なら――実戦ならば、8人が1箇所に集まっている今がチャンスなのだが、今回はゲーム。楽しもうじゃないか。

 それに、多少なり受けに回った方が燃えるというものだ。

 

 だから刃は動かなかった。

 五月雨達の作り上げた策を正面から打ち破ろうと考えたわけだ。

 

 その考えは悪くなかった。

 これはゲームなのだし、楽しむ方が大切に決まっているのだから。

 だが、五月雨達にしてみれば、これはただのゲームではない。なぜなら、負ければ正座固定の説教(拷問)が待っているのだから。

 

 このモチベーションの違いが、ゲームの勝敗を分けることとなる。

 

 

「――発見、五月雨殿」

 

 

 突然、五月雨が屋根の上に上がってきた。

 周りを見渡すと、遠目に華蓮と耀が見えた。2人ともに印なし。

 

 

「作戦は決まったようだな」

 

「ああ、そうだな。正直、これで僕たちの勝利は決定したといってもいい」

 

 

 と、出会い頭一言目からフラグを立てていく五月雨。

 五月雨からすれば、ツッコミ待ちのボケだったのだが、相手が悪かった。

 

 刃は、飛鳥よりも前の時代から来た、古式豊かな日本男児。和を好む、冷静沈着な男だ。

 

 

「そうか、それは楽しみだな」

 

「…………」

 

 

 そんな彼はツッコミをしない。加えて言うならば、戦国時代にフラグなんて単語は存在しなかった。

 つまり刃は、天然のボケ殺しなのだった。

 

 

「……これじゃ、ただフラグを立てただけじゃないか……」

 

 

 五月雨の呟きは刃へ届かなかった。

 刃は腰を低く落とし、旋風を纏い始めた。もうすでに準備は完了している。

 

 

「では五月雨殿、かかってくるといい。どんな策で来ようとも、全て跳ね除け、捕まえてみせる――!」

 

「……いいぜ、見せてやる。これが――!」

 

 

 五月雨が駆けた。それと同時に刃も前に出ようとして――背後から強烈な殺気を感じた。

 

 

「…………‼︎」

 

 

 前のめりに傾いていた重心を強引にずらし、右前方へ飛び込むようにして回避。

 果たして、受け身を取った刃の目に飛び込んで来たのは――さながらゴムの様に伸びた、人の腕だった。

 

 

「――‼︎これは……花音殿か……⁉︎」

 

「ご明察!」

 

 

 刃が腕の付け根――すなわち、花音の体を見ようと、視線を上にあげようとしたその時、さらに背後から一つの声。

 

 五月雨だった。

 いや、五月雨だけではない。花音の一撃を合図に、遠くにいた耀と華蓮、隠れていた飛鳥達が、一斉に動き始めた。

 

 そこからの出来事は、ノンストップで行われた。

 

 ――背後より迫る五月雨を、刃は屋根から降りることで避ける。おそらく、路地に入って視線を切ろうとしているのだろう。

 

 ――しかし、そうはいかないと、ゴム人間となった花音が腕を伸ばし、刃の背を狙った。

 それは刃も予測できていたのか、加速し逃れようとした。

 

 

『『止まりなさい!』』

 

 

 ――が、そこで予想外の事態。

 飛鳥2人による、《威光》の掛け合わせ。

 刃の足がビタリと、路面と張り付くように止まった。

 

 ――その隙を逃さず、花音の腕。さらに、五月雨が迫る。

 回避不可能。

 刃は奥の手を繰り出すことにした。

 

 

「――はあッ!」

 

 

 ――短い気合の声。

 それが響いた瞬間、刃の足元から圧倒的な暴風が吹き出した。

 それは花音と五月雨。さらには、意外と近くにいたらしい飛鳥達を空へと舞いあげた。

 

 ――花音と五月雨はなんとか空中で体勢を立て直したが、飛鳥達はそうはいかない。

 慌てた様子の七夕が2人をきっちりキャッチしたが、これで実質3人が動けなくなった。

 

 ――その間に刃は逃げようとする。既に加速済みだ。

 が、刃の目の前に立ちふさがる影があった――耀だ。

 

 ――それを確認した刃は、直線軌道の走りを強引に変更。家屋を使い、ジグザグに立体的に動き、耀を追い抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――いや、待て。

 

 追い抜いた直後、空中で、刃は思う。

 

 ――いくらなんでも簡単すぎないか?……まるで、わざと抜かせたような……。

 

 その直後、ざわっとした感覚を刃は感じた。殺気ではない。

 この本能に働きかける感じ、これは――!

 

 刃はその直感を信じ、ありったけの風を纏った。その直後。

 ドガッ、と何かがぶつかる音。そしてその後、ガガガガッ、と路面を削る音が聞こえた。

 

 ミサイルさながらに突っ込んで来た者、それは――刃と同じく、両の眼を銀色に染めた耀だった。

 見ると、路面が恐ろしいほどに削れていた。凄まじいスピードで突っ込んできたことが一目で分かる。

 

 なるほど、良い作戦だ。

 全員の長所が無駄なく発揮されている。

 

 ――だが、失敗した。

 吹き飛ばされ、未だ空中にいる五月雨と花音。

 同じく空中で、飛鳥2人を抱える七夕。

 銀耀はまだ減速しきれていない。

 華蓮は様子見のつもりか、遠くの屋根にいる。

 残るは耀だが――

 

 

(今の耀殿では、拙者に追いつくことも、この風を剥ぎ取ることもできない……。これで――)

 

「これで、拙者の勝ちだ」

 

 

 刃がそう言って、地に足をつけた――その時だった。

 真後ろ。すぐそばから、声がした。

 

 

「――と、思うじゃん?」

 

「――――⁉︎」

 

 

 ――いつの間に⁉︎

 刃は咄嗟に風を解放。声の主を吹き飛ばした。

 そしてすぐに振り向き、その姿を確認した。

 

 

「……何だと……⁉︎」

 

 

 果たして、その正体は――華蓮だった。

 

 

「何故、ここに……!華蓮殿は、遠くの屋根にいたはず――」

 

「残念、それ幻影。――本当は私も白虎で行った方がいいんだけど、十六夜が結構持ってってるから無理だったよ。せいぜい、1人が限界だった」

 

 

 でもね、と華蓮はそこで言葉を切り――ニヤリと笑って言った。

 

 

「この作戦のキーは、銀耀じゃない。あれは刃の意識を集中させるための、言うなれば囮。本命は別なんだよ。――ほら、刃――……背中がお留守だぜ(・・・・・・・・)?」

 

 

 しまった、と刃が回避行動を取ろうとするのと、背中に衝撃が走ったのはほぼ同時だった。

 

 見るとそこには、両の眼と髪を――明るい黄色(・・)に染めた耀が。

 そしてその手には鋭い爪。どうやらそれで、厚い風の膜を破ったのだろう。……風を……切り裂いたのだろう。

 

 

「なん……だと……」

 

 

 愕然とする刃。

 だが、今1番重要な案件は別にある――

 

 

「――印は無かったはずだ!印が無ければ、勝利には――」

 

「残念ながら、印はあるんだよね」

 

 

 華蓮のその言葉を聞き、刃が自分の体を見ると、確かにそこには5つの印が刻まれていた。

 

 

「――気づかなかったでしょ?まさか、のんのんの体に印が全(・・・・・・・・・・)部移っていて(・・・・・・)目立つあの(・・・・・)ゴムの腕がフェイク(・・・・・・・・・)だったなんて」

 

「なっ……見落としたなど、ありえない……!」

 

 

 刃が反論するが、華蓮は変わらない調子で続ける。

 

 

「印ってさ、プレイヤーの体に刻まれるんでしょ?それなら、その上に別の姿を重ねれば、見えなくなると思ってね。……まあ、自信は無かったから、極力見せないようにしたけど」

 

「…………なるほどな。花音殿のあの腕は、拙者を捕まえるものではなく――印を移すためのもの。印がないと、拙者を油断させるためだったのか……」

 

 

 数秒の沈黙。

 刃は両手を上げ、堂々と宣言した。

 

 

「参った。――拙者の負けだ」

 

「やった!」

 

 

 敗北宣言。

 参加者全員の歓声が聞こえた。

 

 その時――

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「いや、次で決めようぜ十六夜流」

 

「へぇ……理由は?」

 

 

 銀腕は十六夜流にそう返した。

 訝しげな十六夜流に対し、銀腕は。

 

 

「さっきの一撃で、義手の耐久力がやばいことになってんだよ。早いとこ充電しねぇと、義手(これ)が消えちまうのさ」

 

「なるほどな。……そんなら、次で決めようぜ。お互い、今の全力の一撃でな」

 

「ああ、いいぜ。義手(これ)も一撃分は耐えれるだろ」

 

 

 そして2人は向き合い――

 

 

「いくぜ!」

 ――《瞬時加速》!

 

 

 銀腕は、空へ向かって加速。どんどんギアを上げていき、あっという間に雲を突き抜けて行った。

 

 

「……天高く加速し、その勢いのまま急降下する一撃。シンプルだが――だからこそ、普通に危険だ。なるほど……これがお前の全力か――!」

 

 

 それだけではない。

 風を操るという副産物により、進行上の風の壁を排除。簡単に限界を超えることができる。

 これが、論理上は無限に強くなる加速技の、奥義とも言えるとっておき――。

 

 十六夜流の背中を冷や汗が伝う。

 これほどに加速した一撃を受け止めるには――

 

 

「……いくぜ、十六夜流。俺も本気だ!」

 

 

 その言葉と同時に、十六夜流の髪が漆黒に染まった。

 

 ――正体不明(コードアンノウン)()破壊神モード(デストロイ)

 

 全身から破壊のオーラを撒き散らしながら、空を見る。もうすでに銀腕は、急降下に入っていた。

 それを見た十六夜流は一つ深呼吸して、腰を落とし――気合を込め、叫ぶ。

 

 

「十六夜流、十六の業――!」

 

 

 そして銀腕も、吠えた。

 

 

「絶速――!」

 

 

「心理一夜――――‼︎」

風鎚(ダウンバースト)――――‼︎」

 

 

 十六夜流が放つは渾身の蹴り。一撃に全てを乗せ放つ十六の業。

 心理一夜――破壊神ver。

 

 対する銀腕が放つは、絶速と呼ばれる技カテゴリの中の一つ。加速し続けることで得たエネルギーを余すところなく載せた踵落とし。

 絶速――風鎚。

 

 それぞれが地盤を砕くエネルギーを内包している破壊の一撃。

 撒き散らされる破壊の余波は、計り知れない。

 

 だが1つだけ言えることがある。この2人――そこまで考えていない。

 アフターケア無し、取り返しはつかない。

 

 そして今、激突――

 

 

「「やめんか小童ども――‼︎」」

 

 

 ――とはならなかった。

 突然の怒号と同時に、十六夜2人の体が真横へと吹っ飛んだ。

 大技の最中だったため回避はできず、当然技もキャンセルされた。

 

 

「誰だ一体……!」

「……くそッ、誰だ邪魔した奴は!」

 

 

 それでもすぐに立ち上がり、襲撃者を睨みつけ叫んだ2人は――揃って言葉を失った。

 その圧倒的存在感と――刃物の様に肌に突き刺さる、殺気を感じて。

 

 

「ほぅ……邪魔するな、か。これは失礼したの」

「本意では無かったのじゃ。いやはや、すまないの」

 

 

 果たして、そこにいたのは現状考えられる最悪最強のタッグだった。

 

 最強の階層支配者が――2人。

 つまり白夜叉が――2人、そこに屹立していた。降臨していた。

 

 とすると違いがわからなくなりそうだが、今回は問題なかった。同じ白夜叉でも、身長体格に明確な差があったからだ。

 

 そして2人は威圧スマイルを向けながら、話を続ける。

 

 

「店にかなりの報告があってな。曰く、『街の外れの荒れ地で爆発音がした』やら『空を何かが飛んでいた』やら――終いには『魔王がでた』とな」

 

「魔王がでたと言われてしまえば、真偽に関係なく見に行かなくてはならないのでな。……で、来てみれば、お主達の破壊活動が見えてのぉ」

 

「いやまあなんというか……。私としても、あまりこういうことは言いたく無いのじゃがな――……お主達、ここら一帯を更地にするつもりだったのか?」

 

「…………」

「…………」

 

 

 十六夜2人は何も言えない。

 もちろんそんなつもりは一切ない。が、実際その通りのことをしていたのだから、何を言っても言い訳になるだけだ。言えば言うほど、己を貶めると言ってもいい。

 ――つまり、沈黙こそが最善。

 

 そして白夜叉もそれが分かっているのか、返事を聞くことなく話を再開した。

 

 

「――まあ、お主達の性格は知っておるし、目立った被害もでてないようじゃから、今回は不問とする」

 

「周辺住民にもお主達のことは伏せておこう。……じゃが、今後こういったことをする時は、周りに充分気を配ることじゃな。……ああ、あと白い方に言っておくが――」

 

「……俺に?」

 

 

 白い方――義手の十六夜は首を傾げる。

 

 

「周辺住民にはごまかしが効くが、お主達のコミュニティはそうはいかんぞ。なんせ、華蓮がいるのじゃからな」

 

「……あ――……おう」

 

「もはや言うまでもないとは思うが……まあ、武運を祈っておるぞ」

 

「……おう、分かってる」

 

 

 あからさまにテンションの下がった銀腕。

 と、そこで、蚊帳の外状態だった十六夜流が口を挟んで来た。

 

 

「おいおい、華蓮ってそんなに怖いのか?俺が見た限りじゃあ、優しい感じだったが」

 

「……まあ、普通はな」

 

「じゃあお前は特別ってことか?……お前と華蓮って、どんな関係なわけ?」

 

 

 その言葉を聞いて銀腕は、黙り込んだ。

 そして、長い沈黙の後、その口をゆっくりと開いて一言。

 

 

「主従関係」

 

 

 その言葉を最後に、銀腕は再び黙ってしまった。

 そして結局、拠点へと帰るまで、銀腕が口を開くことは無かった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 それが起こったのは、一同が一箇所に――刃の元に集まって来た時だった。

 

 突然、全員の体が光り始めたのだ。

 全員――刃を含めて、余すところなく全員だ。

 

 

「ちょっ、なにこれ!」

 

「これは……!皆、契約書類を見て!」

 

 

 手元に出現した契約書類を見て、華蓮が叫ぶ。それに従って、その場の全員が契約書類に目を通した。

 

 問題の箇所はすぐに見つかった。

 最下部、そこに光る文字でこう書き足されていた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 《ギフトゲーム終了》

 

 ・参加者側の勝利条件が満たされたため、このギフトゲームは参加者側の勝利とする。

 

 ・賞品は、記載した通り(・・・・・・)《箱庭の貴族による説教》となります。

 尚、終了十分後にホストを含めた全プレイヤーが、《ノーネーム本拠点》へと転送されます。ご注意ください。

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「……はあ?賞品が黒ウサギの説教⁉︎――ってか、記載してあったって……どこに?」

 

 

 一同の視線が刃へと集まる。

 それを受け止めながら、刃は説明した。このギフトゲームに仕掛けられたトラップを。

 

 

「まあ、言いたいことはわかる。契約書類の本文のどこにも、そんな記載はされてないのだからな」

 

「じゃあどこに⁉︎」

 

「――ギフトゲーム名をよく見てみろ」

 

 

 その言葉に、再度視線が契約書類へと移る。

 そしてギフトゲーム名の欄、そこにはこう書いてあった。

 

 《黒ウサギ×2によるありがたーいお説教送り鬼ごっこ》

 

 

「……あっ、もしかして……」

 

「その通りだ」

 

 

 そう言うと刃は、にっと口元を笑みの形に変え――

 

 

「このゲームは、罰ゲームとして説教送りにするのではない。鬼ごっこなど、そのための過程でしかない!――タイトル通り、勝っても負けても、問答無用で説教送りにする強制送還ゲーム(・・・・・・・)なのだ」

 

「……そっ……」

 

 

 その時、光が一際強くなり、全員、拠点へと強制送還された。

 

 

「そんなのありかよ――‼︎」

 

 

 参加者全員の叫びを残して。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 《リザルト》

 

 十六夜対十六夜

 《十六夜の月と銀の旋風》結果、引き分け。

 

 刃対問題児8名

 《黒ウサギ×2によるありがたーいお説教送り鬼ごっこ》結果、参加者側の勝利。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。