「――四速!終わりだ十六夜流――――‼︎」
背後から迫る風圧を感じながら、しかし、十六夜流は回避することが出来ない。
先ほどの一撃のダメージがまだ残っているし、それになにより、足が地についていないのだ。
十六夜流に、回避の手段はない。
だがそれも――十六夜流に限った話である。
「――……まだ……やられるかよ――――!」
突如として、十六夜流の体が跳ね上がった――否、
銀腕の拳が空を切る。
当然その体は勢いそのままに直進しようとするが、弧を描くように飛ぶことで減速した。
そして完全に静止した時、銀腕はその姿を見た。
翼。
十六夜流――逆廻十六夜の背から、青い翼が生えていた。
淡く光るその翼は、五月雨のギフト《絆》によって造りだされたもの。
発動条件は――強者と戦う闘争心。
「なんだ十六夜流、お前も飛べるのかよ」
「まあ、俺の力じゃないけどな。だが――これでアドバンテージはなくなったぜ、銀腕。俺のスピードもかなり上がったことだ――空中戦といこうか‼︎」
「――ハッ、空中戦ね。俺に空中戦を挑むかよ、十六夜流。――大得意だぜ!」
「奇遇だな――俺もだ!」
その言葉をきっかけに2人は地を――空を蹴った。
十六夜流は翼で大気を叩いて、銀腕はスラスターから空気を吐き出して、前へ。
「十六夜流、十五の業――月下夜焼‼︎」
《
「零からとばして――四速!」
十六夜流が放つは破壊の拳――十五の業。対する銀腕は、四速まで加速して放つ拳。
普通に考えれば、十六夜流の圧勝であるが。
はたして――
「――ぅ……おあッ――――‼︎」
「――――‼︎」
銀腕は短く鋭い気合を放ち、そして――突如として、十六夜流の視界から消えた。
――と、十六夜流が認識した時にはすでに、背後に銀腕が再出現していた。まるで瞬間移動ように。
加速技能《
なんの前触れもなく、なんのモーションも無しに、スラスターだけを使い加速する技能。不動のまま、座標を変える加速。
この技能は、使用者が速ければ速いほど有効に働き、相手を翻弄する。そして四速以上になると、ほとんど消えたように見えるのだ。
故に、ほとんど初見で――実は2回目――回避できるわけがない!
(――決まった!)
銀腕が勝利を確信した時、それは起こった。
――
「――なっ……⁉︎」
驚愕する銀腕だが、十六夜流を見失ったことを理解すると、即座に風を厚く纏った。
次の瞬間、
本来は直撃コースだったそれは、纏った風に流され、十六夜の右腕――銀の義手に命中した。
ゴッ、という鈍い音と共に、激痛が銀腕を貫いた。
義手だからといって、感覚がないわけではない。本物に限りなく近い義手は、本物の腕と同じく触覚――痛覚をもつのだった。
というわけで。
「ッ……があッ――!」
激痛に呻く銀腕の体は、きりもみ状態となりながら、地面に向かってかなりの速度でぶっ飛んで行った。
だが銀腕は、激突寸前で空気を解放し、急ブレーキをかけ止まった。
そして右腕を押さえたまま空を仰ぎ、十六夜流を――拳を振り抜いた体制で静止している十六夜流を睨み、叫んだ。
「……十六夜流、よく回避できたな。あれは、初見の相手には必中の技能だったんだけどな!」
「ハッ、そりゃすげえな、俺には当たらなかったが――まあ、これはカウントしなくていいと思うぜ?」
「ああ、そうさせてもらう。――だってお前、気付いてただろ?」
「まあな。あの時――俺が背後から殴られた時に気付いたぜ?あの動きは明らかにおかしかったからな」
十六夜流の言葉を聞き歯噛みする銀腕。
あの時、銀腕は《瞬時加速》に加えて《不動加速》を使っていた。でなければ、あの動きは出来ない。
つまり、厳密には初見ではなかった。2回目だったのだ。
だからといって――
「1回見ただけで看破するとはな……。回避するタイミングだって、かなりシビアだってのに……」
「いや、回避は簡単だったぞ。お前の姿が消えた瞬間に回避すればいいんだからな。――攻撃場所だって簡単に予測できたさ。次の攻撃に繋げることができる場所――つまり、俺の背後だ」
銀腕は絶句した。主に、前者に対して。
確かにその通りだが、消えてから再出現までのラグは1秒もないはずなのだ。一体どんな反射神経をしているのか。
「…………」
同じ逆廻十六夜として、知力では負けない自信があるが、こと戦闘経験が違いすぎる。おそらく、数々の修羅場をくぐっているのだろう。
そして身につけたのが、数多の戦闘経験からなる行動の予測、相手の戦法を見抜く目、などのスキル。
どれもこれも、銀腕の持っていないものだった。
「――さて、続けようか銀腕」
十六夜流がそう提案し、それに対し銀腕は――
◇◇◇◇◇
「……様子が変だな」
屋根の上を走りながら、刃は何かを感じ取っていた。
といっても、違和感というほどのことではない。正体にもとっくに気付いていることだし。
先ほどから、逃走者が1人も見つからないのだ。
今までなら、捕獲者を何度か見かけることもあった。だが今は、それすら見当たらない。視界の隅にすら映らない。
この現象はなにを意味するか――
さ
「……作戦、だろうな。参加者八名全員が集まって、クリアのため作戦をたてているのだろう」
――面白い。
刃の顔が喜色に染まる。
本来なら――実戦ならば、8人が1箇所に集まっている今がチャンスなのだが、今回はゲーム。楽しもうじゃないか。
それに、多少なり受けに回った方が燃えるというものだ。
だから刃は動かなかった。
五月雨達の作り上げた策を正面から打ち破ろうと考えたわけだ。
その考えは悪くなかった。
これはゲームなのだし、楽しむ方が大切に決まっているのだから。
だが、五月雨達にしてみれば、これはただのゲームではない。なぜなら、負ければ
このモチベーションの違いが、ゲームの勝敗を分けることとなる。
「――発見、五月雨殿」
突然、五月雨が屋根の上に上がってきた。
周りを見渡すと、遠目に華蓮と耀が見えた。2人ともに印なし。
「作戦は決まったようだな」
「ああ、そうだな。正直、これで僕たちの勝利は決定したといってもいい」
と、出会い頭一言目からフラグを立てていく五月雨。
五月雨からすれば、ツッコミ待ちのボケだったのだが、相手が悪かった。
刃は、飛鳥よりも前の時代から来た、古式豊かな日本男児。和を好む、冷静沈着な男だ。
「そうか、それは楽しみだな」
「…………」
そんな彼はツッコミをしない。加えて言うならば、戦国時代にフラグなんて単語は存在しなかった。
つまり刃は、天然のボケ殺しなのだった。
「……これじゃ、ただフラグを立てただけじゃないか……」
五月雨の呟きは刃へ届かなかった。
刃は腰を低く落とし、旋風を纏い始めた。もうすでに準備は完了している。
「では五月雨殿、かかってくるといい。どんな策で来ようとも、全て跳ね除け、捕まえてみせる――!」
「……いいぜ、見せてやる。これが――!」
五月雨が駆けた。それと同時に刃も前に出ようとして――背後から強烈な殺気を感じた。
「…………‼︎」
前のめりに傾いていた重心を強引にずらし、右前方へ飛び込むようにして回避。
果たして、受け身を取った刃の目に飛び込んで来たのは――さながらゴムの様に伸びた、人の腕だった。
「――‼︎これは……花音殿か……⁉︎」
「ご明察!」
刃が腕の付け根――すなわち、花音の体を見ようと、視線を上にあげようとしたその時、さらに背後から一つの声。
五月雨だった。
いや、五月雨だけではない。花音の一撃を合図に、遠くにいた耀と華蓮、隠れていた飛鳥達が、一斉に動き始めた。
そこからの出来事は、ノンストップで行われた。
――背後より迫る五月雨を、刃は屋根から降りることで避ける。おそらく、路地に入って視線を切ろうとしているのだろう。
――しかし、そうはいかないと、ゴム人間となった花音が腕を伸ばし、刃の背を狙った。
それは刃も予測できていたのか、加速し逃れようとした。
『『止まりなさい!』』
――が、そこで予想外の事態。
飛鳥2人による、《威光》の掛け合わせ。
刃の足がビタリと、路面と張り付くように止まった。
――その隙を逃さず、花音の腕。さらに、五月雨が迫る。
回避不可能。
刃は奥の手を繰り出すことにした。
「――はあッ!」
――短い気合の声。
それが響いた瞬間、刃の足元から圧倒的な暴風が吹き出した。
それは花音と五月雨。さらには、意外と近くにいたらしい飛鳥達を空へと舞いあげた。
――花音と五月雨はなんとか空中で体勢を立て直したが、飛鳥達はそうはいかない。
慌てた様子の七夕が2人をきっちりキャッチしたが、これで実質3人が動けなくなった。
――その間に刃は逃げようとする。既に加速済みだ。
が、刃の目の前に立ちふさがる影があった――耀だ。
――それを確認した刃は、直線軌道の走りを強引に変更。家屋を使い、ジグザグに立体的に動き、耀を追い抜いた。
――いや、待て。
追い抜いた直後、空中で、刃は思う。
――いくらなんでも簡単すぎないか?……まるで、わざと抜かせたような……。
その直後、ざわっとした感覚を刃は感じた。殺気ではない。
この本能に働きかける感じ、これは――!
刃はその直感を信じ、ありったけの風を纏った。その直後。
ドガッ、と何かがぶつかる音。そしてその後、ガガガガッ、と路面を削る音が聞こえた。
ミサイルさながらに突っ込んで来た者、それは――刃と同じく、両の眼を銀色に染めた耀だった。
見ると、路面が恐ろしいほどに削れていた。凄まじいスピードで突っ込んできたことが一目で分かる。
なるほど、良い作戦だ。
全員の長所が無駄なく発揮されている。
――だが、失敗した。
吹き飛ばされ、未だ空中にいる五月雨と花音。
同じく空中で、飛鳥2人を抱える七夕。
銀耀はまだ減速しきれていない。
華蓮は様子見のつもりか、遠くの屋根にいる。
残るは耀だが――
(今の耀殿では、拙者に追いつくことも、この風を剥ぎ取ることもできない……。これで――)
「これで、拙者の勝ちだ」
刃がそう言って、地に足をつけた――その時だった。
真後ろ。すぐそばから、声がした。
「――と、思うじゃん?」
「――――⁉︎」
――いつの間に⁉︎
刃は咄嗟に風を解放。声の主を吹き飛ばした。
そしてすぐに振り向き、その姿を確認した。
「……何だと……⁉︎」
果たして、その正体は――華蓮だった。
「何故、ここに……!華蓮殿は、遠くの屋根にいたはず――」
「残念、それ幻影。――本当は私も白虎で行った方がいいんだけど、十六夜が結構持ってってるから無理だったよ。せいぜい、1人が限界だった」
でもね、と華蓮はそこで言葉を切り――ニヤリと笑って言った。
「この作戦のキーは、銀耀じゃない。あれは刃の意識を集中させるための、言うなれば囮。本命は別なんだよ。――ほら、刃――……
しまった、と刃が回避行動を取ろうとするのと、背中に衝撃が走ったのはほぼ同時だった。
見るとそこには、両の眼と髪を――明るい
そしてその手には鋭い爪。どうやらそれで、厚い風の膜を破ったのだろう。……風を……切り裂いたのだろう。
「なん……だと……」
愕然とする刃。
だが、今1番重要な案件は別にある――
「――印は無かったはずだ!印が無ければ、勝利には――」
「残念ながら、印はあるんだよね」
華蓮のその言葉を聞き、刃が自分の体を見ると、確かにそこには5つの印が刻まれていた。
「――気づかなかったでしょ?まさか、
「なっ……見落としたなど、ありえない……!」
刃が反論するが、華蓮は変わらない調子で続ける。
「印ってさ、プレイヤーの体に刻まれるんでしょ?それなら、その上に別の姿を重ねれば、見えなくなると思ってね。……まあ、自信は無かったから、極力見せないようにしたけど」
「…………なるほどな。花音殿のあの腕は、拙者を捕まえるものではなく――印を移すためのもの。印がないと、拙者を油断させるためだったのか……」
数秒の沈黙。
刃は両手を上げ、堂々と宣言した。
「参った。――拙者の負けだ」
「やった!」
敗北宣言。
参加者全員の歓声が聞こえた。
その時――
◇◇◇◇◇
「いや、次で決めようぜ十六夜流」
「へぇ……理由は?」
銀腕は十六夜流にそう返した。
訝しげな十六夜流に対し、銀腕は。
「さっきの一撃で、義手の耐久力がやばいことになってんだよ。早いとこ充電しねぇと、
「なるほどな。……そんなら、次で決めようぜ。お互い、今の全力の一撃でな」
「ああ、いいぜ。
そして2人は向き合い――
「いくぜ!」
――《瞬時加速》!
銀腕は、空へ向かって加速。どんどんギアを上げていき、あっという間に雲を突き抜けて行った。
「……天高く加速し、その勢いのまま急降下する一撃。シンプルだが――だからこそ、普通に危険だ。なるほど……これがお前の全力か――!」
それだけではない。
風を操るという副産物により、進行上の風の壁を排除。簡単に限界を超えることができる。
これが、論理上は無限に強くなる加速技の、奥義とも言えるとっておき――。
十六夜流の背中を冷や汗が伝う。
これほどに加速した一撃を受け止めるには――
「……いくぜ、十六夜流。俺も本気だ!」
その言葉と同時に、十六夜流の髪が漆黒に染まった。
――
全身から破壊のオーラを撒き散らしながら、空を見る。もうすでに銀腕は、急降下に入っていた。
それを見た十六夜流は一つ深呼吸して、腰を落とし――気合を込め、叫ぶ。
「十六夜流、十六の業――!」
そして銀腕も、吠えた。
「絶速――!」
「心理一夜――――‼︎」
「
十六夜流が放つは渾身の蹴り。一撃に全てを乗せ放つ十六の業。
心理一夜――破壊神ver。
対する銀腕が放つは、絶速と呼ばれる技カテゴリの中の一つ。加速し続けることで得たエネルギーを余すところなく載せた踵落とし。
絶速――風鎚。
それぞれが地盤を砕くエネルギーを内包している破壊の一撃。
撒き散らされる破壊の余波は、計り知れない。
だが1つだけ言えることがある。この2人――そこまで考えていない。
アフターケア無し、取り返しはつかない。
そして今、激突――
「「やめんか小童ども――‼︎」」
――とはならなかった。
突然の怒号と同時に、十六夜2人の体が真横へと吹っ飛んだ。
大技の最中だったため回避はできず、当然技もキャンセルされた。
「誰だ一体……!」
「……くそッ、誰だ邪魔した奴は!」
それでもすぐに立ち上がり、襲撃者を睨みつけ叫んだ2人は――揃って言葉を失った。
その圧倒的存在感と――刃物の様に肌に突き刺さる、殺気を感じて。
「ほぅ……邪魔するな、か。これは失礼したの」
「本意では無かったのじゃ。いやはや、すまないの」
果たして、そこにいたのは現状考えられる最悪最強のタッグだった。
最強の階層支配者が――2人。
つまり白夜叉が――2人、そこに屹立していた。降臨していた。
とすると違いがわからなくなりそうだが、今回は問題なかった。同じ白夜叉でも、身長体格に明確な差があったからだ。
そして2人は威圧スマイルを向けながら、話を続ける。
「店にかなりの報告があってな。曰く、『街の外れの荒れ地で爆発音がした』やら『空を何かが飛んでいた』やら――終いには『魔王がでた』とな」
「魔王がでたと言われてしまえば、真偽に関係なく見に行かなくてはならないのでな。……で、来てみれば、お主達の破壊活動が見えてのぉ」
「いやまあなんというか……。私としても、あまりこういうことは言いたく無いのじゃがな――……お主達、ここら一帯を更地にするつもりだったのか?」
「…………」
「…………」
十六夜2人は何も言えない。
もちろんそんなつもりは一切ない。が、実際その通りのことをしていたのだから、何を言っても言い訳になるだけだ。言えば言うほど、己を貶めると言ってもいい。
――つまり、沈黙こそが最善。
そして白夜叉もそれが分かっているのか、返事を聞くことなく話を再開した。
「――まあ、お主達の性格は知っておるし、目立った被害もでてないようじゃから、今回は不問とする」
「周辺住民にもお主達のことは伏せておこう。……じゃが、今後こういったことをする時は、周りに充分気を配ることじゃな。……ああ、あと白い方に言っておくが――」
「……俺に?」
白い方――義手の十六夜は首を傾げる。
「周辺住民にはごまかしが効くが、お主達のコミュニティはそうはいかんぞ。なんせ、華蓮がいるのじゃからな」
「……あ――……おう」
「もはや言うまでもないとは思うが……まあ、武運を祈っておるぞ」
「……おう、分かってる」
あからさまにテンションの下がった銀腕。
と、そこで、蚊帳の外状態だった十六夜流が口を挟んで来た。
「おいおい、華蓮ってそんなに怖いのか?俺が見た限りじゃあ、優しい感じだったが」
「……まあ、普通はな」
「じゃあお前は特別ってことか?……お前と華蓮って、どんな関係なわけ?」
その言葉を聞いて銀腕は、黙り込んだ。
そして、長い沈黙の後、その口をゆっくりと開いて一言。
「主従関係」
その言葉を最後に、銀腕は再び黙ってしまった。
そして結局、拠点へと帰るまで、銀腕が口を開くことは無かった。
◇◇◇◇◇
それが起こったのは、一同が一箇所に――刃の元に集まって来た時だった。
突然、全員の体が光り始めたのだ。
全員――刃を含めて、余すところなく全員だ。
「ちょっ、なにこれ!」
「これは……!皆、契約書類を見て!」
手元に出現した契約書類を見て、華蓮が叫ぶ。それに従って、その場の全員が契約書類に目を通した。
問題の箇所はすぐに見つかった。
最下部、そこに光る文字でこう書き足されていた。
――――――――――――――――――――
《ギフトゲーム終了》
・参加者側の勝利条件が満たされたため、このギフトゲームは参加者側の勝利とする。
・賞品は、
尚、終了十分後にホストを含めた全プレイヤーが、《ノーネーム本拠点》へと転送されます。ご注意ください。
――――――――――――――――――――
「……はあ?賞品が黒ウサギの説教⁉︎――ってか、記載してあったって……どこに?」
一同の視線が刃へと集まる。
それを受け止めながら、刃は説明した。このギフトゲームに仕掛けられたトラップを。
「まあ、言いたいことはわかる。契約書類の本文のどこにも、そんな記載はされてないのだからな」
「じゃあどこに⁉︎」
「――ギフトゲーム名をよく見てみろ」
その言葉に、再度視線が契約書類へと移る。
そしてギフトゲーム名の欄、そこにはこう書いてあった。
《黒ウサギ×2によるありがたーいお説教送り鬼ごっこ》
「……あっ、もしかして……」
「その通りだ」
そう言うと刃は、にっと口元を笑みの形に変え――
「このゲームは、罰ゲームとして説教送りにするのではない。鬼ごっこなど、そのための過程でしかない!――タイトル通り、勝っても負けても、問答無用で説教送りにする
「……そっ……」
その時、光が一際強くなり、全員、拠点へと強制送還された。
「そんなのありかよ――‼︎」
参加者全員の叫びを残して。
◇◇◇◇◇
《リザルト》
十六夜対十六夜
《十六夜の月と銀の旋風》結果、引き分け。
刃対問題児8名
《黒ウサギ×2によるありがたーいお説教送り鬼ごっこ》結果、参加者側の勝利。