転生してニューゲーム、ただし役職はエキストラ。   作:騎士貴紫綺子規

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 次は「週刊少年ジャンプ」から「ONE PIECE」です!


IN  ONE PIECE 1

 銃に撃たれて死ぬって本当にあるんだね。あれ創作物の中だけだと思ってたけど。

 

 視界が赤に染まる中、私が考えたのはそんなことだった。今から考えると、ずいぶん淡泊だったなあって思う。けど、人は死ぬときに走馬灯なんか見ないって知った時でもあったんだ。

 

 

 

『理解できたところで転生しよっか!』

「あ、いいです」

『転生していいんだよね?』

「遠慮してるんです」

 

 なんだこの悪徳商法みたいな神様。全身真っ白なのはともかくとして、髪がワックスで固めてチャラ男みたいになってるのは理由がわからない。

 

『んじゃあ君は……どこ行きたい?』

「決定事項ですね分かります」

『んじゃあ……よし、「ONE PIECE」で!』

「チェンジ」

 

 数あるバトル漫画の中でも一・二を争うレベルの世界じゃないか。もう死ぬのは嫌だ。主に寿命と安楽死以外では。

 

『大丈夫大丈夫。ってことで――逝ってらっしゃい』

 

 字が違う! テンプレにもほどがあるじゃないか!

 

 

 

 

 生まれ直した私――俺か。まさか転生転性するとは思わなかったけど。慣れると案外いいものだ。今の俺の名前は「ゴール・D・ナシオナル」。……「ONE PIECE」と「ゴール・D」の姓で分かる人にはわかるだろう。そう、ロジャーの血縁者だ。まあ間違いなく死亡フラグだね。何が大丈夫なんだ、あの神。ブッ殺してやる。

 

 ……でも不思議なんだよね。両親も兄弟にも、「ロジャー」がいない。え、なんで?

 

 それにまだ「大海賊時代」が始まっていないらしい。偉大なる航路(グランドライン)もまだ制覇されていないことから、ロジャーがすでに海に出ているわけではない、……ってことはえ、なに? 死亡フラグなし? ひゃっほう! ……でもなんでかな。嫌な予感はしてるんだよね。

 

 

 とりあえず体を鍛えつつ何をしようかな~と考えた結果、貿易商をすることにした。

 

 世界のほとんどが海のこの世界では、貿易商ほど潤う仕事もないと思ったのだ。いやだってさ、海賊も海軍も面倒くさそうじゃん。俺やだよ。将来的に指名手配されるのも海賊たちを殲滅するのも。

 

 

 

 そんな俺は決めた。転生して目標を掲げたのだ。

 

 俺は! この世界に! オタク文化を! 広める!

 

 転生して吹っ切れたのかもうすべてのことに全力を注ぐことにした。しかしオタ文化を広めるといってもラノベが主である。しかしここで重要な問題が発生した。

 

 娯楽物が少ないこの世界では、紙そのものが高級品なのだ。

 

 そこで思いついたのが内政チートでよくある「紙漉」、何となく面白そうだからって覚えておいて本当によかった。関くん、ありがとう。

 

 

 羊皮紙とインクが主な世界に紙を広めるとどうなるか。答えは言うまでもないだろう。

 

 

 結論。爆発的に儲かった。

 

 わずか十二歳にして向こう七年遊んで暮らせるだけの財産が貯まった俺は「豪金児」と呼ばれている。会社名の「金閣寺」とも相まって作られたあだ名だろうが……「児」って何よ。子ども? 子どもなの? 確かに今は子どもだけどあと数年したらどうなんのよ。「黒バス」の花宮みたいに恥ずかしい思いすんじゃねえの? まああっちは童だけども。

 

 でもやっぱり俺元日本人よ? こんな大金不安で不安で仕方ない。宝くじ当たってほしいけどいざ当たったら不安になるパターンですね、分かります。

 

 とりあえず本店は東の海(イーストブルー)のローグタウンに移動、様々な島に支店を作って減らしつつ残りは貯金、的なことをするんだけども支店を作れば作るほど元が取れるという罠。はい、金がたまる一方です。何でっ!? 前世ではあんなにやりくりしても減る一方だったのに!

 

 

 それと並行して身体を鍛えても驚きの連続です。

 

 なぜか覇王色の覇気が使える件について。

 

 原作読んでて思ったのは、「覇王色の覇気が使えるってことは良くもも悪くもカリスマ性があるってことだよね」だった。HUNTER世界で言うところの「特質系」。王になる資格、すなわち他人を引き付ける能力があるものに覇王色の覇気の資質はある。

 

 そこまで考えて納得した。だって俺、たった十二歳で支店三桁の大貿易商人の大社長様ですし? カリスマ性がなかったらやってらんないよな、こんなの。会社一発で潰れるわ絶対。

 

 とりあえず原作で覚えている六式は頑張って模倣している。だんだん登場人物が多くなって途中からほとんど流し読みしかしてなかったにもかかわらず細部まで鮮明に思い出せるという原作チート。結局あの後どうなったんだろうな~と時々思いをはせている。サボ可愛いよ、サボ。青年になっても可愛かった。

 

 

 悪魔の実はどうしようか悩んだんだけども食べるのはやめた。だって売ったら一億Bだし。いい商品だよ。「グラグラの実」とか「イヌイヌの実」とか。海賊にも海軍にも悪魔の実を欲しがる奴はいっぱいいる。まあ売るのは海軍にだけだけどね。海賊のモットーは「欲しいものは奪って手に入れろ」なんだから商売が成り立つわけがない。むしろ積極的に奪いに来るだろうね。カナヅチと引き換えに圧倒的な力を手に入れられるんだから。

 

 でもさ、ほとんど海の上にいる海賊がカナヅチって致命的だよね?

 

 青雉みたいに海を凍らせるとかならまだ大丈夫なんだろうけどもお風呂とかでも力が抜けるってヤバいと思う。

 

 俺日本人だし! 風呂入りたいし!

 

 そんなわけでもっぱら実は売ってる。だから体術や武器で補うしかないんだよね。

 

剣に銃、大砲などなど。前世での防刃ベストや防弾チョッキの発想からとりあえずできるだけ薄く、軽く、着心地よく頑張って改良する。俺用に! だって死にたくないし! 俺は孫の顔を見るまで死なない、絶対に!

 

 

 

 それから数年がたち、俺の妹に子供が生まれた。付けられた名前は「ゴール・D・ロジャー」。

 

 ……はい? え、ロジャー?

 

 慌てて見に行くと黒髪の可愛らしい赤ん坊……マジですか。俺、ロジャーの伯父さん!?

 

 【速報】死亡フラグ復活【俺氏終了のお知らせ】

 

 ……ネット環境がないからスレ立てもできないけど。海賊チャンネルやべえ。スレ民に相談のレベルだよね、コレ。

 

 

 とりあえず今まで以上に資金を増やして、それを貴金属類に変えて持ち運びやすくする。それと並行して次代に引き継ぐ人材を探す。

 

 ロジャーが海賊王になれば、俺たち全員の命がない。

 

 昔から親や兄弟、その親族全員にはいざという時のために体を鍛えてもらっている。皆訝し気だったが、俺が貿易商の社長として有名なこともあり「心配なんだ! いつまでも健康でいてほしいんだ!」というと渋々ながらも鍛えてくれ、それにより弱小海賊程度なら一人で追い払えるレベルにまでなってくれた。……それでも海軍の総戦力で来られたら心配だなァ……、よし。アレ(・・)、実行に移そうか。

 

 

 

「伯父さん! 伯父さん!」

「おっ、ロジャー。どうした?」

 

 ロジャーが生まれてから数年が経ち。俺は見事に懐かれた。いやあ、やっぱり子供は可愛いよね。キャラの有無に問わず。……でも、将来的にこのロジャーがあの髭面のオッサンになるのか……、月日って残酷だね。

 

「伯父さん! 俺、海賊になる!」

「ほう、そうか」

「うん! あの伝説の海賊、『スタンリー・D・レイ』みたいな立派な海賊になるんだ!」

「……そうか~、頑張れよ」

「うん!」

 

 

 スタンリー・D・レイ。偉大なる航路(グランドライン)と新世界、両方の海の全ての島を航海したといわれる伝説の海賊団、「ジパング海賊団」の船長である。「海神 レイ」の通り名を持ち、史上初ともいわれる「ALIVE ONLY」の手配書を海軍に出させた男とも言われている。海賊を目指す者にとってスタンリー・D・レイはまさに「海神」なのだ。またその伝説は数知れず、「古代文字」の解読に「海底遺跡」の発見、宝樹「アダム」と「イヴ」を見つけたのも彼だといわれている。さらに本人は「不老」とまで言われており、撮られた写真の多くが同じ姿で映っている。既に死亡が確認されているが、死んで半世紀以上経つ今でも彼に憧れるものは多い、「伝説」の海賊なのだ――

 

 ……とまあ羅列してみたが、こんな伝説級の登場人物なんていたか? 脳内原作データベースと照らし合わせてみても該当者がいないんだが。……てことは転生者? まあいてもおかしくはないだろうけども。俺と同じく転生した時期がおかしいやつだな。

 

 

「……ってことで伯父さん!」

「なんだ?」

「俺を鍛えてくれ!」

「……ほわっと?」

「やったー! ありがとう!」

 

 ちょっと待て。 俺は賛成 していない  ナシオナル心の俳句

 

 いやマジで待て! なんだその強引な俺様思考! BL王道転校生並みに子供なやり取りだな!

 

「な、なんで俺なんだ? 妹や義弟でもいいだろ?」

「父さんたちに相談したら、『伯父さんに頼んでみなさい』って。『伯父さんはものすごく強いから』って言ってた!」

 

 おいコラお前らか俺を売ったのは! 兄を売るような子に育てた覚えはありませんよ!

 

「やったー! まずはどうすればいいんだ!?」

「いやだから……ああ、もうわかったよ! 鍛えりゃいいんだろ、鍛えりゃ!」

「おう!」

「だからロジャー、修行中は俺のことを『伯父さん』ではなく『師匠』と呼ぶように! いいか、弟子よ!」

「了解! 師匠!」

 

 そういう経緯があって俺はロジャーの師匠になった……なんで? でもいいじゃんか! 「師匠」呼びに憧れてたんだから!

 

 

 

 

 前世では食べたその場から脂肪にかわってた「私」の身体は、「俺」になってから筋肉に変換されるようになった。腹筋ヤバい。八つに割れるとか夢物語が現実になってるんですけど!? これ絶対体脂肪率一桁じゃね!? 五パーきってんじゃね!? うわー、創作小説の理想の身体が今ここに! これでオッドアイだったら超ウケたんですけどー。あはは。

 

「……むぎゅう……」

「あ? もうヘバってんのか?」

「ぐ、……まだ、ま……だ……」

 

 バタン! ▼ロジャー 先頭不能! ナシオナルの勝ち!

 

 ……あ~~、久しぶりにポケモンやりたい。ネットしたい。どんだけ読んでないんだよ。パソコン無いから小説系は全部手書きでやるしかないんだよ! もうやだ。とっととパソコン開発しよう。

 

 

 ――という現実逃避は置いといて。ロジャーの修業を付けるようになってから数か月がたった。……が。

 

 やっぱりさすが未来の海賊王だね! 天然チートとかパないよ!

 

 神様補正のチートボディの俺と同じレベルの吸収速度と上達速度とかどういうことよ。これが伝説補正? 主人公並みじゃね?

 

「オッケー、んじゃあ次は――」

「ふ、ふぁい……」

 

 なんか目覚めそうなくらいに他人(ロジャー)を弄ぶのって楽しいわ。地面に這い蹲って必死で起き上がろうとしている姿とか超快感。けしからん、もっとやれ。

 

「よし。んじゃあ……」

「こ、の……鬼! 悪魔!」

「そんだけ喋れるんならまだまだイケるな。よし、次は倍やるか」

「~~~~!」

 

 オーウ、異世界ノ言葉ッテ難シイデース! 何ヲ言ッテルカサッパリ分カリマセーン!

 

 

 

 

「……よし、こんなもんか」

「…………」

 

 チーン。へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 

「生きてるわ!」

「お? まだまだ元気そうだな」

「御免なさい。もう勘弁してください」

 

 すぐさま土下座をしてきたロジャー。全く。何をそんなに怯えているんだ。

 

「この心に残るトラウマのほとんどがアンタによるものだ!」

「俺の言うことは?」

「……ゼッターイ!」

 

 魔王による恐怖政治。ああ、素晴らしい響きだ!

 

「……さて、筋力トレーニングから体術。クセの無くし方に見抜き方。剣・銃の扱いに料理、医術に航海術。覇気の扱いに海楼石の加工方法まで教えたが――」

「……ほとんどやる意味なかったような気がするんだが……」

「何を言っている。将来的には医者や航海士が乗るだろうが、今はまだお前一人だ。お前が死んだら元も子もないんだぞ? 船長(・・)

「っ!」

 

 原作のルフィもそうだったが、船長が間抜けだと船は動かない。その点ありとあらゆることに通じていると最悪なんとかなる。

 

「医者やコックが病気に罹ったりしたらどうするんだ? 船長がしっかりしない船はすぐに沈むぞ?」

「……分かった」

 

 おお、そんな顔もできるんだな。――紛れもない、「ロジャー海賊団船長 ゴール・D・ロジャー」の顔だ。

 

「とりあえず俺の修業は終わりだ。後は旅に出るなりどこかで死ぬなり勝手にしろ」

「……」

 

 何やら俯いていたかと思うとキッと顔を引き締めて真面目な表情をして俺のほうを向いてきた。何だ?

 

「――ありがとうございました! 師匠(・・)

「! ……ああ、お疲れさん。弟子(・・)

 

 ……ちょっと泣きそうになった。くそう、最後の最後で負けた気がする。

 

 

 歩き出そうとするロジャーに空島と魚人島には行くように伝え、港へ行くように伝える。数日前に見かけたし、多分まだそこにいるだろう。

 

 頑張れよ、未来の海賊王(ロジャー)

 

 

 ――そうして彼は旅立った。

 

 

 

 

 ロジャーが旅立って一年経たない内に彼の手配書が出回り、発行された手配書を壁に張り、家族総出でお祝いした。いや海賊だからね? そこ忘れないでよ。貿易大商の社長の甥が海賊ってこと忘れてない? 現代だと絶好のスキャンダルだからね?

 

 手配書が発行されていると分かってから、俺は着々と隠居する計画を進めている。別に会社を大きくしたのは俺だけどもうこれ以上大きくする意味もメリットもない。というかぶっちゃけ潰れてもいいと思っている。だってもう関係ないし。

 

 社員全員と個人面談をして役員を決め、一か月後に引退式をする予定を決め手紙を書く。それと同時に「人工島」の建築を急ぐ。

 

 

 どこかの島に隠居するとしても「海賊王(ロジャー)の血縁者」と分かった時点で回りの人間は手の平を返す。人は目の前の褒美に無欲だ。絶対に裏切らないといえる保障なんかどこにもない。信じられるのは同じ境遇にいるものだけである。

 

 ログをためる必要のない人工島なら、外見さえカモフラージュすれば問題ない、はずだ。そこに家族全員が「移住」すればいい。

 

 「一族郎党」皆殺しになるんだから、「一族郎党」が全員手を貸し合えばそこまで難しくないはずだ。死なば諸共。俺の一世を賭けたギャンブルだ。

 

 さあ、どんな結果になる?

 

 

 

 旅立ってから幾年か経ち。旅立ったロジャーの手紙から、今はシャボンディ諸島にいるらしいことがわかった。……もう半周終えたのか。思ったよりも早かったな。

 

 ロジャーから事細かに書かれているその内容は、どこか原作に近づけるものを感じる。ショタンクスにショタギーが可愛いだの副船長のレイリーのお小言が煩いのなんの。ああ、苦労を掛けているね、レイリー、だとか若干苦労人の気が読めた。

 

 時間がない。島は完成したし、海流の影響から船では絶対に近づけない。海底は海王類や凶暴な魚たちの住処だし、空も気流の影響で近づくことは難しい。そんな場所に造られた「アイラン島」。そこで自給自足の生活を始めよう。

 

 

 

 

 人工島移住計画、別名「ノアの箱島」計画を実行に移した俺は、親族全員を島へと連れて行った。そのころにはロジャーは有名になりすぎて、いい意味でも悪い意味でも周りの視線が煩かったからだれも反対はしなかった。むしろ「静かなところへ行ける!」と喜んでいた。よかった。

 

 

 ロジャーの旅が後半に入り、相変わらず手紙では元気に詳細を語っている――いや、元気すぎる(・・・・・)

 

 新しく入った仲間である、「船医」、クロッカス。

 

 ロジャーが直々に誘った彼がいるということは、間違いなく原作に近づいている。もう終盤に差し掛かっているのだろう。ロジャーの航海も、偉大なる航路(グランドライン)の制覇も――ロジャーの病と寿命も。

 

 「ラフテル」にたどり着くまでもう時間がない。――俺は家族に伝え、「新世界」へと旅立った。

 

 

 


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