白露型といっしょ   作:雲色の銀

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はいはーいといっしょ

「村雨の、ちょっといいとこ見せたげる♪」

 

 秘書艦かつ第一艦隊の旗艦である村雨は、可愛らしくウインクしながらそう言った。

 薄茶色のツインテールと黒いセーラー服のスカートを可憐に揺らし、仲間達と共に大海原を行く。

 彼女を秘書にして二週間。提督は村雨の八面六臂の活躍ぶりに感心していた。

 白露型駆逐艦の三番艦、村雨。三女である彼女だが、性格は長女の白露よりも大人びており、面倒見がいい。

 戦場に出れば駆逐艦らしく火力に難こそあるものの、敵の潜水艦や駆逐艦などを卒なく撃破してくれる。

 

「やっちゃうからね♪」

 

 現在も、改造を受けて手に入れた連装高角砲を敵の旗艦である軽巡洋艦ホ級flagshipに命中させ、一撃大破に追い込んでいる。

 そして、夜戦に入れば彼女の本領発揮である。スカートの裾から覗く眩しい太股に取り付けた発射管から酸素魚雷を、そして砲撃戦にも使った両手の連装高角砲を一斉に放ち、戦艦や航空母をも一撃で仕留める。

 こちらの強力な艦達に劣らぬ活躍ぶりに、何度もMVPを取ったこともある。

 

「提督、艦隊が勝利しました」

 

 今日は夜戦に入る前に、深海棲艦の艦隊を壊滅させられたようだ。今回も、MVPを取ったのは村雨だった。

 しかし、村雨達がいる海域はまだ先がある。燃料もまだ足りるようで、艦隊全体のダメージも少ない。

 

「そうだな。じゃあ、進軍しようか」

「了解。村雨のいいとこ、もうちょっと見せたげるね♪」

 

 冗談交じりに出撃時と同じくウインクをし、村雨は艦隊を纏めて進軍した。この秘書艦は口も達者である。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 出撃をしていない時でも、村雨の活躍は衰えない。

 本部から送られてくる任務を工廠や遠征担当の艦隊に正確に指示し、鎮守府内の資材管理や他鎮守府への演習の申し込みまでこなしてしまう。

 

「提督、クッキー焼いたのでお茶にしましょ?」

 

 おまけに、料理も出来て気が利く。秘書艦として完璧な立ち回りだった。

 

「あぁ、頂くよ」

 

 提督も仕事がグッとやりやすくなり、女子力の高い村雨に頭が上がらない思いだ。

 口にしたクッキーは程よい固さでサクッと砕け、味も甘さ控えめで美味しい。

 村雨の淹れたお茶とクッキーで頭を休ませると、彼は溜まっていたはずの仕事があと僅かまで終わっていることに気が付いた。これも、村雨が秘書として手伝ってくれたおかげだろう。

 

「村雨」

「はいはーい?」

 

 ソファーで休憩中の村雨に声を掛けると、彼女は象徴的な返事を返してくる。

 

「この後、仕事はあるか?」

「えっと……提督は報告書だけで終わりですね」

「いや、村雨の方なんだけど」

 

 村雨は本日のスケジュールを書いたメモで提督の予定を確認する。

 しかし、提督が知りたかったのは村雨の予定だった。

 

「え? んー、ありませんねぇ」

「じゃあさ、俺と出かけないか?」

 

 村雨の予定がないと分かると、提督は彼女を誘い出した。普段から多方面でお世話になっているので、提督は前々から村雨にお礼がしたかったのだ。

 特に深い意図はなかったのだが、村雨は提督からの誘いに目を点にすると、次にはニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「へぇ、この村雨をデートに誘ってるんですかー」

「ま、そういうことになるな」

 

 男女が二人で出かけるとなれば、それはもうデートと言えるだろう。しかし、提督は以前秘書艦にしていた夕立や白露とも出かけているので、そこまで気にしてはいなかった。

 普段から女性らしい色気で提督をからかうこともあるので、提督は肯定で返した。

 

「え? ま、マジですか?」

 

 だが、今度は村雨がキョトンとすることになってしまった。頬も若干染まっており、カップを持つ手が少し震えている。

 冗談で返したつもりが、逆に相手を本気にさせてしまったようだ。そこまで動揺するのなら、最初の冗談を言わなきゃよかったのに、と提督は思った。

 それから仕事をパパッと終えた提督は、先に待っていた村雨と鎮守府の外へと出かけて行った。

 提督と出かけることが決まるや否や、村雨は驚異的なスピードで自分の仕事を終え、後は主人の帰りを待つ犬のような表情で提督を待っていたのだった。

 そう待たれてしまっては、提督も早めに終わらせない訳にはいかない。

 

「それで、何処に行くんですか♪」

 

 提督の腕に抱き着いて、終始上機嫌の村雨が訪ねる。

 こうして見ると、お姉さんらしい性格の村雨も白露達と似て犬のようだと、提督は内心思っていた。

 

「そうだな……村雨は行きたいところはないか?」

 

 提督も思い付きで誘っただけで、特に行き場所も決めていなかった。女性とデートらしいことをしたこともない提督は、何処に行けばいいのか分からず、つい村雨に聞いてしまう。

 すると、上機嫌だった村雨を可愛らしく頬を膨らませた。

 

「ダメですよー、こういう時は男性がちゃんとエスコートしないと!」

「ご、ゴメン……」

 

 村雨に怒られ、提督も素直に謝ってしまう。小さい子を叱るように言う辺り、村雨らしい。

 お礼をするはずが叱られてしまい、提督は自分の不甲斐無さに情けなくなる。

 今でこそ、艦娘達と対等に話せるようにはなったが、着任当初はどう接していいかと四苦八苦をしていたのだ。そんな提督が、今更デートプランなど練れるはずもなく。

 

「仕方ないですねぇ。今回だけは、この村雨がしっかり提督をエスコートしてあげます」

「お願いします」

 

 昔から鎮守府にいた村雨もそんな提督の性格を知っているからこそ、抱き着いていた提督の腕を引っ張って行った。

 いくら有能な秘書で戦場に出る艦娘とは言え、村雨も年相応の女の子。提督を引き連れて、キュートなグッズショップや洋服店、果ては高価なアクセサリーショップを転々とした。

 

「提督、どうです? パワーアップしてます?」

「うん、似合ってるよ」

 

 洋服店では気に入った服を試着しては提督に感想を尋ねていた。

 駆逐艦の中でもスタイルのよい体付きをしている村雨は、色んな服を着こなせていた。アクティブな服装やシックなドレス、更にはコスプレまで。

 半ば村雨の着せ替えショーになっていたが、提督は感想以前に来た服を全部買わされるんじゃないかという心配でいっぱいいっぱいになっていた。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 ところが、元のセーラー服に着替えた村雨は試着した服でパジャマのみを選んで、後は買わなかった。更に、そのパジャマも自分で支払ってしまったのだ。

 ここで漸く、提督は村雨に対して自分が何も出来ていないことに気が付いた。慌てて何か出来ないか考えていると、咄嗟にあるものが視界に入った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「うーん、たまには提督とデートもいいですねー」

 

 鎮守府に戻り、村雨はソファーに座り込んで背を伸ばす。

 結局、提督は村雨の買い物に付き合わされただけで終わってしまったのだ。せめて荷物持ちはと思っていたのだが、荷物が思った以上に少なくて役に立ったかどうかは微妙である。

 

「喜んでくれたのなら、いいか」

 

 ネガティブに考えるのをやめた提督は、リラックスする村雨に近付くとポケットからあるものを取り出した。

 当初の目的である、村雨へのお礼。それが出来る最後のチャンスだった。

 

「これ、受け取ってくれるか?」

「え……?」

 

 提督から差し出された細長い小箱に、村雨は目を点にする。

 彼女にとって急なプレゼントを恐る恐る開けると、中には黒いリボンが入っていた。

 

「ほら、髪留めのゴムがもうボロボロなんじゃないかってさ。それに、普段のお礼も兼ねて」

 

 戦いが激化する中で、装甲の薄い村雨が中破して戻ってくることも少なくない。

 今日のデート中で髪を結んでいるゴムが少しボロボロになっていることに気付いた提督は、こっそりリボンを買っていたのだ。

 驚いたのと同時に、提督がちゃんと自分のことを見ていてくれたことへの嬉しさで、村雨は言葉を失う。

 

「気に入らなかったか?」

「へっ!? い、いやいやいや! そんなことないですよー!」

 

 反応が薄いことに不安を感じた提督へ、村雨は全力で首を横に振る。

 そして、すぐにゴムを外してリボンで髪を結び始めた。薄茶の髪に黒いリボンはよく映えて、黒いセーラー服と相まって村雨の大人っぽさを引き出している。

 

「……村雨、パワーアーップ!」

 

 提督からのサプライズに村雨はテンションが上がり、元気よく叫ぶ。

 急に叫びだしたことには驚いたが、気に入ってくれたようで提督は安心した。

 

「提督、ありがと♪」

 

 村雨はとびっきりの笑顔で提督の腕に抱き着くと、提督の頬に口付けをしてきた。

 サプライズを仕返され、女心に疎い提督も流石に顔を疲労状態以上に真っ赤にする。

 村雨は舌をペロッと出して、提督に悪戯っぽく笑いかけるのだった。

 

 

 キスの瞬間をドアから除いていた青葉が、あらぬ噂を鎮守府中にバラ撒くのはまた別の話。

 

 




いいタイトルが浮かびませんでした。

村雨ちゃんの女子力は高い(確信)。

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