魔王に侵攻されてるらしいね   作:ぜろぜろん

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体育の授業の勇者

五時間目、昼食の後にも関わらず体育である。これ結構きついんだよな……

女子が自分のクラスの教室で着替えるので別の教室で着替えている。

「なぁー、前サッカー終わったっしょ? 今度何すんの?」

 

「体育館で柔道だとよ、昼食の後にこれはないな」

 

「だよなー!」

周りの会話から察するに体育館で柔道だ。一応柔道……に似たものは得意だ。勇者学校で仕込まれた近接戦闘術だ。

運動自体に問題はない。あるとすれば組むやつがいないのだ。

体育は別クラスと合同だが全員で奇数になる。その度に先生と組んだり壁を相手にしたり色々してきたが、

さすがに柔道を一人でするわけには行かない……

部活で部活の人らとはよく話すがそれ以外ではあまり話さないのである。

俺は早めに着替えを終えて教室から出ようとする。

「きゃっ」

と、その時誰かの肩とぶつかった。可愛らしい声がしたので声の持ち主を見る。顔は良く見えないがきれいな髪だな。

「す、すまん、大丈夫か?」

俺は手を差し延べる。そいつは素直に手を取り立ち上がった。そして、花が咲いた。

(か、可愛い……)

それは例えるならば、このむさくるしい男どもが着替えている空間に咲く一輪の花。俺は考えるべき何かを忘れその子を見ていた。

「えーと、ありがとう」

その子は笑顔を浮かべてトテトテと教室に入る。少しの間ボーっとしていたらやっと我に返った。

何だあの可愛いの!? 誰だ? 今まで見たことないが……とかく言う俺もまだ二回しか体育をしていない。

少し考え事をしていると、

『わ、わあぁぁぁぁ!!』

 

「え? どうしたの!?」

 

『なぜ女子がここにいるんだ!?』

 

「え、え!?」

すごい騒ぎになっていた。はて? 女子?心当たりが……あ、

さっきの子か! すごいナチュラルに入ってったから気づかなかったわ! 

そして当の本人はすごいおどおどしている。そりゃあそうなるわ……

その様子をジッと見てみる。整った顔、細くていいスタイル、まるで小動物のような言動、

フフフ……かぁわいいー……

そうしているとその子と目が合った。彼女は救いを求めるような顔をして俺に向かって小走りをしてくる。そして、

俺の後ろに隠れた。

『ハァァァァァ!?』

その瞬間男どもの大合唱、奴らが憎しみのこもった目で見てくる。

『チッ、リア充爆発しろ!』

なんでこういう時だけ絡んでくるかな?

『そいつは担任教師とヤったド変態だ! 離れた方がいいよ!』

余計なこと言うなぁ!! 俺の好感度下げんのやめろ!

てかまだ噂に、いや噂が悪化してる気がする。

恐る恐る後ろを見てみる。

「あの、えーと、僕は信じてるからね……?」

ありがとうぅぅぅぅ! こんな子を彼女にできて俺は幸せだ!

「よし、助けてやんよ!」

 

「え? え、えぇぇ!?」

俺は感動のあまりその子をお姫さまだっこして校内を駆け回った。

一体何を助けるのかわからんがここに置いておくのはいけない気がした。

トイレあたりで自我を取り戻し彼女を安全なところで着替えさせるが、時すでに遅し、『可愛い子を手籠めにして抱っこ後ハイテンションで校内を駆け回った男』と噂された。

俺、何やってんだろ……?

 

 

場所は変わって体育館

「よーし、二人組つくれー!」

俺の体育はこの掛け声とともに始まった。いつもどおり俺は立ち尽くしていたが何か違和感があった。

(あの子も余ってるな……)

あの子もひとりオロオロしながら立ち尽くしていた。

そうして、俺と彼女が余った形でグループができた。

あれ? いつもなら俺だけが余ってたのに……誰か休んだのか?

「あー、ちょうどいい、船上! 堺と組め!」

あの子、堺って名前なんだ。

「……うす」

言われたとおりに堺の近くに行って二人で座り込む。堺の顔はまだ赤かった。

すまんね……

それから体操、ランニングをして礼儀作法をしてから受身の練習に入った。

どこの学校も最初はこれだな……

「船上! 上手いじゃないか!」

先生に褒められる。声が大きいが悪い気がしない。

勇者って剣を使うと思うかもしれないがどちらかというとナイフの方が俺は好きだ。でもそれだけでは心許ないので近接戦闘術の練習をめちゃめちゃした。

さあ、技のやり方を教わって約束をする。

約束とは二人でペアを組みお互いにする技を言ってから練習をすることだ。

いつもならさっさと相手を投げて終わらせる、しかし、

「や、優しくしてね……」

相手が相手だ。できる訳が無い。俺が硬直してから随分と経つ。もう周りのグループは練習を終えて今回ばかりは悲しい目で見られた。

こんな可愛い子を、投げれるわけねぇだろ……!

「ええい!ままよ!」

俺は叫び軽目に投げようとする。しかし、緊張のせいか投げた後俺もつられて倒れてしまった。その時だった。手に何か感触を感じる。

「あ、あの……」

 

「え?」

俺はその子を股間を触っていた。

「うおっ!す、すまん!って、ん?」

その可憐な容姿に対してあの感触に違和感を感じていた。

なんか男特有と言うかなんていうかそんな感触が、ってもしや!?

「もしかしてお前……」

 

「何、どうしたの?」

 

「男、なのか……?」

俺が問うと堺は苦笑いをして言ってしまった。

「僕が女子ならここで体育をしていないでしょ?」

あ、そう言やそうだな。晴也納得!

しかし何かモヤモヤする。その、残念というか……

そうして心に何か引っかかったまま体育の授業は終わった。

 

 

放課後、俺は部室を目指していたら堺と出会った。

「あ、船上君だっけ? 先程ぶりだね」

 

「えーと、堺か?」

体育のペアなのにお互いを認知していなかった。

「ははは、お互い覚えてないみたいだね、僕は堺楓花、よろしくね」

 

「ああ、俺は船上晴也だ。よろしく頼む」

今後の方針は決まったも同然だ。俺が話すのは部活のメンバーと堺だけだ。異論は認めない。

ここでやっと自己紹介するのはなんだと思うが俺たちが満足ならそれでいい。

これが今日の締めだ。

 

楓花かわいい、だが男だ。


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