魔王に侵攻されてるらしいね   作:ぜろぜろん

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勇者のクラスメイト

放課後、部活に行く前に少しトイレに行っていた。なんだろうね、利用者が少ないトイレほど安心する。

因みに俺はきちんと手は洗う。当たり前だろ、と言われるかもしれないが何故か学校だと手を洗い忘れる奴が多い。だが勇者たるこの俺に抜かりはない。手を拭くためにティッシュも持ち歩いているのだから。

俺が手を拭きながら勇者関係ないかなと思いつつトイレを出た時だった。横にある女子トイレから見覚えのある顔が出てきた。

「あ……」

 

「お、おう……」

俺のクラスメイト、真中だ。前にコンビニであった時に話したくらいしか接点がない。そういや部活でも全然話していない。

「あ、そうだ!」

真中が突然大きな声を出し財布を取り出す。

「は、はい、前のやつ返すわ」

 

「ど、どうも……」

そう言い俺は真中から小銭を受け取る。五百円か、少し多いが……

「おい……」

 

「別にいいわよ。感謝のしるしというか……」

なんか不器用そうな奴だな。意外と苦労しているかもな。

「あ、ありがとう」

 

「ほ、ほら部室行くんでしょ? 早く行こ」

 

「あ、って待て!」

先に歩いていった真中に早足で追いかける。なんか、教室や部室にいる時とキャラが全然違うな……

 

 

「こんにちは」

俺は真中より先に部室に入る。すると二人の先輩の視線が集まる。そしてそのあとに……

「おはよー!」

さっきとは考えられないテンションで真中入って来た。これが本当の真中なのか? それとも取り繕っているのか?

「や! ハレルヤ君、アイリン!」

 

「真中はアイリンですか……」

シャ○ーモセスに潜入した時にセーブとかしてもらえそうだ。

「なんで、あんたがアイリンって呼ぶのよ!」

すると真中は顔を赤くして俺に強く言った。これが本当の真中と見て間違いないだろう。皮めくれんの早すぎだろ……

そして結構シャイだな。

「どうしたのアイリン?」

 

「い、いやなんでもない!」

ご覧の通り岐阜先輩と真中は仲が良くなってタメで話すようになった。うむ、仲良くなるのはいいことだ。俺も基本一人が好きだ。でもそれは一人でいる時間は一人でいたいというものでこういう時は仲良くしたい。

二人は結局話に火がついた。流石にあの中に入るのは気が引けすぎるから初草先輩のとこに行った。

先輩は相変わらずなんの反応も見せずに本を……あら?

「ふむ、ふむ……」

初草先輩は今日はパソコンをしていた。でも本と同じく画面が余裕で見える。結構無用心と言うか……どれどれ、

『サイボーグ伝説』? なんだこれ?

「あのー、先輩、何見てるんですか?」

内容は知っているが覗き見したのがバレたらなんかやばそうだ。俺も自重しないとな。

「ええ、何か最近、近辺でサイボーグっぽい物が見られたらしくて……」

 

「……何?」

それは何があっても見間違いと信じたい。もしそれが実在するならば大変な事になるかもしれない。

「ま、ただのコスプレ野郎でしょ」

 

「それが、目撃者曰く何かすごいスピードでビルの上を飛び回ったとか……」

はぁ……いやだいやだ、こんな話になると俺が関わってしまいそうだ。

「サイボーグ!? すごーい!」

すると俺の横にいつの間にか真中がいた。

「凄いってお前……ヤバイかもしれんぞ」

もし本当なら事件レベルである。

「なんか、サイボーグってかっこよくない?」

 

「かっこよくねぇよ。サイボーグの実験で精神異常者も出たらしいじゃねぇか」

 

「ゆ、夢のないこと言わないでよ!」

「何が夢だよ。勝手に騙されて、弱みを握られて、サイボーグになったやつがかっこいいか? 哀れとしか思えん」

また、部屋が微妙な空気になる。俺はこんなとこがダメだ。すぐにマジになる空気の読めない子だ。

「う、うんそうかもね……」

真中は俺の意見に手のひら返し同意した。

「すまん、言い過ぎた。奴らも好きでなったわけじゃないかもしれんしな」

そのセリフで昨日のフードの子を思い出す。元気にしてっかな?

「ま、トランプするか」

 

「う、うん」

何とかこの場をしのぎゲームへと誘い込む。なんかこいつ流されやすいような気がする。

「なあ、真中」

 

「? 何よ」

 

「流されるなよ……」

 

「え、え?」

ただ一つ助言をしてゲームへと入り込んだ。

 

 

帰り道のことだった。

真中は部活が終わる前に用事があるから先に帰ると言い帰ってしまった。

そして部活も終わり俺は帰路につく。

どこからか会話が聞こえていた。

「愛理ー、最近付き合い悪くね? 部活なんか入っちゃってさー」

 

「そ、そう?」

真中一味だ。いや、こうまとめるのも失礼か、それに明らかに真中はリーダー格ではないしな。

「そだよー、前まではあんなに付き合ってくれたのにさーどういうつもりな訳? うちら友達でしょー?」

どうもこうもないだろ。とツッコミを入れる俺、どうもあの手のやつは苦手だ。自分の価値観を押し付ける。そして、

「ご、ごめんこんどなんか奢るからさー」

ああやって、他人の価値観に押しつぶされるやつも苦手だ。

何も合わせる必要はないだろ。そんなんも見破らないであいつも何が友達だ。

でも俺はそう思うだけ、そこでそんなことを言えば俺の価値観を押し付けていることになる。まあ、さっき少し押し付けた気もするが……

「帰ろ……」

俺は何の気なしに呟いた。その時だった。

「でも、ごめん、入って少しだけどあの部好きなんだ」

そう真中ははっきり言った。

「そう、勝手にすれば? 行こ」

 

「だねー、じゃあねー」

じゃあねー、の言い方には少し違和感があった。

一人残される真中、彼女に俺は、

「良かったのか?」

 

「う、うん」

聞いてみたが心配する必要はあまりないようだ。

「しかし、意外だな」

 

「何が?」

 

「お前は周りに合わせているように見えたが」

ピンポイントをついて言う。周りに合わせる名は嫌いだが悪い手ではない。それをしている限り平和に暮らせる。

「それは、あんたが流されるなよって言ってくれたから……」

俺の読みは合っていたようだ。こういう奴はわかりやすくて困る。

「それに部活で話すのも楽しいのは事実だし」

 

「俺や初草先輩とはあんま話してねーだろ」

そう言うと真中は少し小走りに俺の前に立ち振り返る。

「だったら、これから仲良くしていこーよ!」

そう言って彼女は笑った。それは教室で女子達と笑っている笑顔とは違いどこか晴れたいた。


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