それは俺が変態のレッテルを貼られた次の日だった。例の騒ぎのせいで俺もすごい有名人になった。
談話部にも行ったが新聞部と写真部が押し寄せてきて先輩方や真中に迷惑なのでなんとか脱出して帰路についたのである。
まったく、人気者は辛いよ……
そして事が起きたのは路地裏を通っていた時だった。夜遅くなると何かと物騒なので、遠回りになるが路地裏は通らないようにしている。今日は早く帰ることとなったので路地裏を通った。
しばらく歩いていると声が聞こえてきた。
「や、やめてよ……」
「やい! 魔物、お前学校来んなよ!」
「そうだそうだ! 魔王のスパイめ!」
これは何やらただことではなさそうだ。
もしものために拳銃を取り出す。え? 銃刀法違反? 実は勇者学校を五十位以上で卒業した者には拳銃の所持が認められたりする。
俺はその子に近づき言った。
「ごめん、少しいい?」
「いいけど、気をつけろよ。そいつ魔物だから」
少年は言う。前にも言ったように人と魔物の違いなんて些細なものだ。目の色と耳の大きさだけだからな。
魔物と呼ばれた子を見る。どうやらフードをしている様だ。
「ごめん、フードを取ってもらっていいかな?」
そう聞いてみるもその子は首を振った。
まあ、拒否されるのは予想していたがこれでは話が進まない。
俺は少年達の方を向いて言った。
「ここは俺に任せて君たちは帰ってくれ。こう見えても俺は勇者だ。」
勇者というワードに少年達のテンションが上がる。
「す、すげー!」
「勇者に初めて会った!」
「さ、早く帰るんだ」
少年達を帰るよう勧めた。すると少年達は意外と素直に帰ってくれた。
「ふぅ……さて、どうするかな……?」
フードの子に目線を向ける。
「ほら、さっきの子はもう帰ったよ。フードを取ってもらっていいかな?」
「いやっ……!」
されど彼女は頑なに断る。
「だって、貴方勇者何でしょ? 私を倒しちゃうんでしょ……?」
「確かに勇者は魔物を倒す。でもね、助ける人を救うのもまた勇者なんだよ。敵意さえなければ俺は魔物だって助ける」
そう言うと彼女は顔を上げた。結構可愛い顔だな……
「分かりました、フード、取ります」
俺の気持ちに応えてくれた彼女は何かに解放されるようにフードを取った。そこには、
二本の角が生えていた。
「ッ! やはり……」
世界が魔王に侵攻されてからこの様な人間にないものが存在する子供が世界各地で生まれることがあった。最初に発見されたのがアメリカ、それで以後、この様な子供を『Child of Satan』和訳で『魔王の子供』と呼ばれるようになった。
これについてはまだ何も解明されていない。まず、魔物に角なんてものは生えていないのだ。なのにこの子は角が生えた。そしてこのような子供達の両親も両方れっきとした人間だったらしい。
「あ、あの……」
少女が恥ずかしそうにする。確かにこんなに近づいてジロジロ見られたら恥ずかしくなるな。
「ああ、ごめんよ」
さっきの続きだがこの事にはある説が立っている。それは前紹介したベストセラーの本『ゲームの世界』に書かれていたことだ。
『本来、地球に存在してはならないものが存在してしまった。それで地球、生物等のバランスが崩れ魔王の子供達が生まれてしまった。』
これが今最も有力な説である。
でも謎が解明されてもあまり意味はない。彼女はこうしてイジメられていたのだから。子供にとってはその正体なんてどうでもいいと思う。
俺はなぜか彼女が放って置けなかった。その子を理解する身分としてなのか、いや、実際は理解などしていないのかもしれない。
魔物と関わることはないと思ってたがな……
「とりあえず家まで送るよ。」
「あ、ありがとうございます……」
この子は、最初こそはきつい口調だったが根は礼儀正しい子なのだろう。
俺は少女を引き連れ再び帰路についた。
帰り道のこと、
「ねぇ、勇者さん」
「あん?」
フードの子が話しかけてくる。
「私って何なんでしょうか?」
「俺は知らねーよ。それくらい自分で決めろ」
「決める? 思い出すじゃなくて?」
小学生とする会話とはとても思えない。でも俺は真剣にこの子の話を聞いた。
「忘れたんなら、分からないなら、作ればいい、決めればいいだろ?」
何の根拠があってか分からないがこのセリフは響いたと思う。俺も自分が良く分からないからだと思う。
「この平和の国でなんで私はこんなのに付き合わされてるんですか?」
そんなの俺だって知りたい。魔物なんか知らないと言わんばかりに平和な国にいて俺もそういう類ともう関わってしまっている。
だか、ただ運が悪かったとは言えなかった。
「なに、君は若い。これからいいこともあるさ」
高校生の俺が言えたもんじゃないけどな。
「あと、困ったら周りに相談くらいしろよ」
最後にそう言う。なんかベタベタなセリフな気がするがまあいいだろう。
フードの子の歩く足が止まった。
「私だって助けを求めてるんですよ……?」
彼女は泣いていた。
……しまった。想像すりゃ、分かることじゃねーか。周りの人も、彼女を恐れているんだ。
彼女の周りもまた、こんな平和な国にいてこんなものに合うなんて、とか考えているかもしれない。
「なら、俺に言え」
「え?」
「生憎俺は暇なんだ。相談くらいは乗ってやるよ。」
また、こんなべたなセリフだ。
彼女はまた泣いた。
「ッ! ご、ごめん……」
「い、いえ、すいません。私、こんなこと言われたの初めてで……」
彼女は、差し伸べられた手に泣いたのか……
「じゃ、まずは気分晴らすぞ!」
「えっ……は、はい!」
そうして二人は歩き出す。
この話にオチなんてない、ただ、この子との出会いのお話だ。