魔王に侵攻されてるらしいね   作:ぜろぜろん

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意外に弱いあの人

今日も授業が終わり談話室に向かっている。

昨日は話ができて少し楽しかった。でも、折角なんだしもう少し楽しみたい。

そこで今日は秘密兵器を持ってきた。

「こんにちは」

 

「こんにちはハレルヤ君!」

 

「こんにちは船上君」

二人の先輩が挨拶を返してくれる。クラスの喧騒は苦手だがこう、バランスの取れた組み合わせはいいな。

俺はすぐさま席についてゲームをした。

最初は岐阜先輩が興味深そうに見ていたが完全一人用のゲームなのですぐどっかへ行ってしまった。

魔王に侵攻されてもゲームなどの開発はどんどんされている。それどころかアニメ、漫画、小説など娯楽に手を抜かない。日本人が能天気な理由の一つだと俺は思う。

すぐ横を見ると初草先輩が本を読んでいた。またタイトルが見える。えーっと、『あの人を骨抜き(マジな方で)にする方法』か……(マジな方で)ってなんだよ。

「はぁ……退屈だなー」

静かなこの部屋で小さなこの言葉を俺は聞き逃さなかった。

「じゃ、じゃあトランプします?」

俺はそう言いながらバッグからトランプを出す。初草先輩もこっちを見てきた。トランプ好きなのかな?

「うん! それで何するの?」

 

「そうですね……普通に大富豪なんかでいいんじゃないですか?」

 

「懐かしいわね」

懐かしいのか、今でもよく妹としているが。

「私も大富豪なんて久々だよー」

あら意外、岐阜先輩ならしてそうなのにね。

「まあ、たまにはいいでしょ」

とりあえず三人分に手札を分けて配る。そしてジャンケンで好きな手札を取りそれで始めた。

コミュニケーションを取るにはやはりトランプだろう。認知もされているし結構盛り上がったりする。その中で話だって弾む。これは結構究極の武器かもしれない。

「ふっふー、私結構強いんだよ! 覚悟しなさい!」

 

「俺も伊達に妹としてませんからね。」

俺と岐阜先輩が意気込みを言う。そんな中で初草先輩は黙っていた。やはりそんなノリに乗らないタイプか。

でも初草先輩はなんか強そうだ。用心して行かなければ。

 

一戦目

初草先輩が最下位である。

「あの、えっと……」

言葉が出なかった。あんだけ用心したのに……

この人最初の方に2やJOKERなどの強いカードをバンバン出して手札いいのかな? と思ったらこれだった。

「因みに、残った手札は何ですか?」

先輩が何も言わずに見せてくる。

「3,4,7」

それを岐阜先輩が読み上げる。

「かえでんは強いカードをバンバン使いすぎだよー」

 

「そう……なの?」

確かに最初こそはすごい勢いだった。急な衰えにまさかとは思っていたが……

「まあ、手札を取って置くってのも大事ですよ。」

 

「そう、わかったわ……!」

初草先輩の言葉には何か強い意志が込められていた気がする。

 

 

二戦目

初草先輩が最下位である。

「いや、先輩良かったんですよ?」

 

「そうだよ! 最後以外は良かったよ!」

何とか宥めようとするが顔を一向に上げようとしない。

一位は俺が取ったが二位争いは結構激しかった。そしてついに先輩の手札が一枚になり先輩がそのカードを場に出したが、

そのカードがJOKERだった。

ルールはそれぞれ違うと思うが、ここのルールは2,8,JOKERのどれかを最後まで持っていたら最下位になるというルールを採用した。よって最後にJOKERを出した初草先輩は最下位。

ルールを理解していない自分非があると先輩は言うがなんかめちゃくちゃ可哀想だった。最後にはドヤ顔でJOKERを出していたし本人は恥ずかしいことこの上ないだろう。

「まあ、貯めすぎるのもダメだよー」

 

「そうですねここぞという時に使っていかないと……」

二人でアドバイスをやるが先輩は「?」な感じの顔をしていた。

大丈夫だろうか……

 

三度目の正直とはよく言うが、二度あることは三度あるとも言ったりする。

三戦目

二度あることは三度あった。

「なぜなの!?」

そしてとうとう先輩が取り乱した。

「いや、強いカードバンバン出しすぎですよ」

一戦目の二の舞だな……

「だって、ここぞという時がたくさんあったから……」

「いや、あえて出さないという選択肢も……」

 

「先輩」

アドバイスする岐阜先輩に割り込んで初草先輩に話しかける。

これ以上アドバイスを言っても無駄かもしれない。

「あなた、結構極端ですね」

先輩に何かが刺さったような気がした。

「うう……」

そして先輩が涙目になった。なにこれかわいい!

「ま、まあ、していけば慣れますよ。多分」

 

「そ、そうだよ。もっとやろうよ!」

 

「何か、今日は清々しい気分ね。いいわ、とことん付き合って上げる……」

先輩が疲れきった顔でどこか色っぽく言った。

 

下手の横好きと言う言葉がある。決して上手くはないけどそのことが好きと言う意味だ。これはいいことだとは思う。

後日談だが岐阜先輩は大富豪にハマったようで連日大富豪をした。

その間、ずっと初草先輩は負け続けたのであった。


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