夕映物語   作:野良犬

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思いの外、話が進まないです。

一話で単行本一冊消費出来るかなー?
  ↓
一巻2時間目で13000越え。
  ↓
なん………だと………


先行きが不安です。 by夕映

 まだまだコートやマフラーを手放せない二月上旬。中学2年の三学期が始まって二日目の昼休み。私・のどか・エヴァさん・茶々丸さん・明日菜さんの5人は、人の来ない屋上でお昼ご飯を食べていました。

 木乃香と刹那さんは占い研究部の集まりに参加。ハルナは漫画研究会の仲間のアシスタントをしに行った為、3人とも今はいません。

 ちなみに、こっそり気温調節の結界で屋上を覆っているので寒くありません。魔法の乱用? 気付かれなければいいんです。

 

「エヴァさん、あーんです」

「あー、はぐ」

 

 私の右隣に座っているエヴァさんが素直に口を開き、差し出されたアスパラのベーコン巻きを咥えもぐもぐと咀嚼していく。少しづつ口の中に消えていき、全て飲み込んだ後に妖しく笑いながら脂で汚れた唇を指差して私に言いました。

 

「少し汚れてしまったな。夕映、綺麗にしてくれ」

 

 言われた通り唇をティッシュで拭き取ろうとしたところで、エヴァさんに止められたです。

 

「違うぞ夕映。そうじゃない。分かっているだろう?」

「……はいです」

 

 やれとおっしゃるですか………。

 観念した私は顔が熱くなるのを無視して「ほれっ」と突き出されるエヴァさんの顔に自分の顔を寄せました。

 

「はむ………れろっ…………ちゅるっ」

 

 エヴァさんの柔らかい唇を軽くハミながら、丁寧に舌を這わせ脂を舐め取っていく。

 言われたままに動く私を間近で見ながら愉悦するエヴァさん。

 

「ふふ、いい子だ……チュッ」

 

 エヴァさんは、彼女の唇を綺麗に舐め取り終えた私の頬を撫でながら、実に満足そうにキスしてきたです。

 

「ゆえ~、あーんして?」

「……あー、あむ」

 

 左隣に座っていたのどかの呼び声と共に私に差し出されるウィンナーのケチャップ炒め。少し大きめなので一口では食べきれず、二口で食べた結果ケチャップで口の周りが少し汚れてしまったです。

 それをティッシュで拭き取ろうとしたところで、のどかにやんわり止められました。

 

「のどか?」

「動かないでね……」

 

 お箸とお弁当を一旦置いて身を乗り出し、顔を近づけて来たです。

 

「チュッ………ハム…………ペロッ」

 

 口の周りに付いたケチャップを、時折唇を啄ばみながら丁寧に舐め取っていくのどか。

 

「…………ん………のどか、くすぐったいです」

「もうちょっと………ピチュ…」

 

 明らかにさっき私がエヴァさんにした時よりも、ゆっくりと味わうように長く時間をかけて舐め取っているです。のどかの舌がちろちろと動く度に、何とも言えないくすぐったさと恥ずかしさを感じます。

 

「……………何かしら………この圧倒的な場違い感と疎外感……………私、お邪魔虫?」

「明日菜さん、お茶をどうぞ。少し濃く淹れてみました」

「あ、うん……ありがと、茶々丸さん」

 

 どこぞの演劇少女のような顔で何やら落ち込んでいる明日菜さん。

 そんな明日菜さんを甲斐甲斐しくお世話しつつ、こちらをガン見している茶々丸さん。

 

 お昼ご飯を食べ始めてからずっと『エヴァさん ← 私 ← のどか』『エヴァさん → 私 → のどか』といった感じでお互いに食べさせあっているです。

 

 最近二人が自重しなくなってきました。ハルナや他のクラスメイトがいる時はまだ大人しくしているのですが、茶々丸さん・明日菜さん・木乃香・刹那さんだけの時はむしろ見せ付けているんじゃないか?と思うくらい自重しません。

 それを受け入れてる私が言うのもなんですが、もうちょっとどうにか抑えられませんかね?

 

 そんな事を考えていたら、いつの間にか明日菜さんのテンションがさらに落ち込んだらしく、こちらに背を向けながら膝を抱えて体育座りをしていました。

 

「いいんだいいんだー……パルがいない時点でこうなるのは分かってたしー……別に私の事アウトオブ眼中でイチャつかれるのも初めてじゃないしー……」

「ああ、明日菜さん……なんてお労しい………」

 

 人差し指でのの字を書き始め、ぶつぶつ呟いている明日菜さん。

 その傍でオロオロしている茶々丸さん。

 そんな明日菜さんを見て鼻で笑うエヴァさん。

 それ等をにこにこ微笑ましそうに見ているのどか。

 

 割と良く見る光景です。

 

 さて、先程聞こえてきた明日菜さんの言動から推察するに、どうやら仲間外れにされた事に落ち込まれたご様子です。

 という事は………ふむ………。

 

 少し考えた私はお弁当を持ったまま体育座りをしている明日菜さんに近寄って声をかけました。

 

「明日菜さん」

「………あによ…」

 

 イジケつつこちらに振り返る明日菜さん。少し口を尖らせ若干涙目になった目で上目使いをしてくる姿を見て、不覚にも「あらやだカワイイ」とか思ってしまったです。

 抱き締めたくなった気持ちを我慢して、私は卵焼きをお箸で挟んで差し出しました。

 

「あーんです」

「………………へあっ!?」

 

 しばらく固まっていましたが、私の言葉の意味を理解したらしくビクッとなって驚いている明日菜さん。そんな彼女にズズイッと差し出します。

 

「あーんです」

「いや、あのね夕映。別に私もして欲しいとかそーゆーのじゃなくて……」

「あーんです」

「えと、だからね?」

 

 頬を赤く染めてしどろもどろになりながら言い訳しています。でもやめません。更にズズズイッと差し出すです。

 

「あーんです」

「あーうー……」

「あーん、です」

「………………………………ぁー、むぐ」

 

 ようやく観念したのか、顔を真っ赤にしながら卵焼きを食べました。

 

「どうですか?」

「………………………………おいひい」

「よかったです」

 

 口をモゴモゴさせながら顔と視線を逸らして答える仕草に愛らしさを感じ、思わず明日菜さんの頭を撫でてしまいます。それを恥ずかしそうにしながらも大人しく受け入れる彼女を抱き締めたくなって仕方ありません。

 

 ………っと、いけないいけない。どうも以前欲張り宣言をして開き直ってからというもの、同姓に対してより好意的に捉え易くなっているように思うです。

 例えば、クラスの誰かに頼られたり甘えられたりするとつい手を貸してしまったり、何故か私を慕ってくれる下級生の娘達をついつい構ってしまったりと、そんな感じです。

 あんまりやり過ぎるとのどかとエヴァさんの機嫌が悪くなるので、気を付けないとですね。

 

 さて、次は私達をジーっと見詰めながら微動だにせず、眼球内カメラをギュインギュイン動かしている茶々丸さんです。どうやらまた撮影しているようです。

 以前の世界の茶々丸さんも、お気に入り映像や皆さんの名言集などを作成して収集する傾向がありましたが、今回の茶々丸さんは輪をかけて収集癖が強いようです。これも私達の影響なんでしょうか?

 

 そう考えながら、私はホウレン草とコーンのバター醤油炒めをお箸で挟んで茶々丸さんに差し出しました。

 

「茶々丸さん、あーんです」

「え」

 

 自分にも差し出されたのが予想外だったのか、何やら腕をわたわたさせてるです。

 

「なななな何故そうなるのですか」

「私がそうしたいからですが何か?」

 

 この状況で茶々丸さんにだけしないという選択肢は私の中にはありませんよ?

 

「でで、ですが私の飲食はフェイクです。私が食べるより皆さんが食べた方が食材の無駄にもなりません」

「味の良し悪しが判る舌があり、美味しいと判断出来る知性があるなら問題ありません」

 

 強引に論破。

 観念するです茶々丸さん。

 捻じ込みますよ?

 

「…………………わかりました、頂きます」

「分かればいいのです。はい、あーん」

「あー、はむ」

 

 ようやく食べたですか。ていうか、どうして茶々丸さんは抵抗したんでしょうか? 確かに私からするのは始めてですが、いつも奉仕と称して色々しているでしょうに。

 

「どうでしたか?」

「……不思議です。味見をした時と成分的には同じはずなのに、味見の時より美味しいとAIが判断しています。何故でしょう?」

「食材の無駄でしたか?」

「いいえ。許されるなら、またお願いしたいです」

「はい、いいですよ」

 

 ふむ、茶々丸さんも『物を食べる』という事に興味を持ったようですね。良い傾向です。この調子で以前の様に感情豊かに成長して欲しいものです。…………極一部は既に超えてるかもしれませんが。

 

 そんな事を考えていたら袖をつんつん引かれました。引かれた方を向くと、少し面白くなさそうな顔をしたジト目の明日菜さん。はて? 何ゆえ不機嫌?

 彼女は不機嫌そうな顔を少し逸らしながら、自分のお弁当から唐揚げをお箸で挟んで私に差し出して来ました。

 

「…………ん」

「へ?」

「お、お返しよお返し! 貰ったまんまってゆーのもアレだし………べ、別に変な意味があるわけじゃないんだから! お返しなんて普通よ普通」

「あ、はい」

 

 唐揚げを差し出したまま捲し立てる明日菜さん。まあ、お返しは素直に嬉しいですが。そこまで念を押さなくても勘違いなんてしないですよ?

 

 とりあえずお返しの唐揚げを頂こうとしたら、突如私の視界を遮る金色の塊。

 エヴァさんです。

 彼女は明日菜さんが差し出していた唐揚げに喰い付き、一瞬で咀嚼してしまいました。

 

「もぐもぐ、中々味が染みていて美味いな。近衛 木乃香の作か?」

「あーーー!? 何すんのよエヴァちゃん!」

「ハッ! 貴様が夕映に『あーん』など百年早いわ!」

「べべべ別にそんなんじゃないし!? 唯のお返しだし!?」

「そんな真っ赤な顔で言っても説得力などあるか!」

 

 ギャースギャースとお互いの頬を引っ張り合い始める二人。

 

「ああ、マスターがあんなに楽しそうに……」

「飽きずによくやるよねー、二人とも」

 

 何やら感慨深そうに見ている茶々丸さん。

 「しょーがないなー」といった感じで苦笑しているのどか。

 

 これも割と良く見る光景です。

 

 何でかエヴァさんは明日菜さんによく突っ掛かります。以前理由を聞いてみましたが「単に気に食わんだけだ」としか言いませんでした。

 

 私はそんな二人のじゃれ合いを『たこわサワー・子供向け(ノンアルコール)』を飲みながら眺めつつ、とりあえず昨日の事でも思い返す事にしました。別に現実逃避じゃありません。違うったら違うです。

 

 

 * * * *

 

 

「おはよー」

「よー」

「おーす」

 

「超りーん、こっちにも一コちょーだい」

「一個ネ、オケヨ。クギミーもいらないカ? 一個百円ネ」

「貰うけどその略やめてー」

 

「それじゃ楓ちん、おねがいねー」

「あいあい、任せるでござる」

 

「………で………こうして………………どうよ?」

「ふひひひひひ………」

「くすくすくす………」

 

「新任の先生、美形だといーんだけど」

「新しいネタ?」

「そー。男だってのはわかってんだけどねー」

「どこで仕入れてくるの? そーゆーの」

「蛇の道は蛇ってね♪」

 

 今は朝のHR前の時間帯。

 朝練を終えた人や登校してきた人で賑わっています。

 今日から新学期が始まると同時に新任の教師が来るとあって、気になっている人もいるようです。特に和美さん。

 

 他にも、柿崎さんに挨拶した後そのまま雑談している明日菜さんと木乃香。

 超さんに特製肉まんを注文している裕奈さんとクギミー呼びを拒否する釘宮さん。

 何やらお願い事をしている椎名さんとソレを了承している楓さん。

 対タカミチ先生用のトラップの準備に勤しんでいる美空さんと鳴滝姉妹。

 和美さんに新任の教師について聞いている夏美さん等々。

 

 相も変わらず、活気があるというか騒々しいというか。

 

 そして、麻帆良の魔法使い達や魔法関係者達にとって今日は、ある意味始まりの日と言っても過言ではない日です。

 『千の呪文の男(サウザンドマスター)の息子』の来日と彼が一人前になる為の修行が開始されます。魔法使い達の彼への期待はかなりのモノであり、生真面目で有名なガンドルフィーニ先生やシスターシャークティも少々浮かれているところがあるくらいです。

 エヴァさんも自分の呪い解除の要であり、見つけたらとりあえず殴ろうと思っている男の息子というのもあって少しだけ気になっているようです。

 

 さて、チャイムが鳴りHRの時間となりました。

 ノックの後に入ってきたのはいつものタカミチ先生ではなく、黒髪の混じった赤髪をうなじで縛った少年。小さな丸眼鏡を鼻に乗せた10歳前後ぐらいの男の子です。

 

 彼の名は『ネギ・スプリングフィールド』

 大戦の英雄ナギ・スプリングフィールドの息子。

 今は亡きウェスペルタティア王国王女アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの遺児。

 魔法世界での戦いの後、魔法世界救済の為に『ブルーマーズ計画』を提案。

 世界中に協力を呼びかけ、明日菜さんと共に両世界の橋渡し役を務めたです。

 その後ISSDA(国際太陽系開発機構)の初代事務局長に就任。

 百年後の世界で人々の口の端から自然と呼び習わされる、真の『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』に至った人。

 私やのどかの初恋の相手です。

 二人揃って振られましたが。

 

 緊張しているのか少々固い動作で教室に入ってくるネギ先生。

 その頭上で発動する黒板消しトラップ。

 そして展開される魔法障壁…………って!?

 

「ちょっ!?」

 

 ちょっと待ってください!? 何で魔法障壁を張ってるですか!?

 

 すぐにトラップに気付いたネギ先生が障壁を消していましたが、目の良い人や勘の良い人は今の一瞬の空中停止に違和感や疑問を感じているようです。

 中でも顕著なのが明日菜さんと千雨さん。どちらも能力や体質上、大結界の効果が効きにくい二人です。楓さんやクーフェさんも違和感を感じているようですが、二人とも基本バトル関係以外の事には大らかなので気にしなくてもいいでしょう。

 

 「ひっかかっちゃったなぁ」と誤魔化しつつ入室を再開するネギ先生。

 ですが、更に発動するトラップ第二段。

 

「へ? うわあああっ!? あぶ、あぼぶぶぶ! ガボッ!? ゴボゴボゴボ…………」

「あらあら」

「「「「「あははははは」」」」」

 

 室内に踏み込んだ足に仕掛けられたロープの輪が絡まり宙吊りに。

 ロープは(あらかじ)め捻ってあり、ネギ先生は逆さまに吊りながら高速スピンしてるです。

 急に逆さまになり、目を回して混乱しているところに全方位から無数の吸盤付きの矢が射出。

 全身矢まみれになったネギ先生が振り子の様にぷらんぷらんとしています。

 直後に足のロープが切れ、真下に設置されていた120L用の水入りポリバケツに頭からダイブ。

 リアル犬神家の完成です。

 ちなみにポリバケツはご丁寧に固定されているので倒れません。

 

 中学に入学以来、タカミチ先生が全てのトラップを回避し続けている所為なのか、回を経る毎に手の込んだトラップになっていくですね。

 というか、しずな先生がこの状況を「あらあら」で済ましているのは大物だからなのか天然だからなのか。

 

「あははは……………あれ?」

「…………なんか高畑先生にしては小さくない?」

「えーーっ!? 子供!?」

「君、大丈夫!?」

「ケホッ、ケホッ……きゅ~~」

「ちょっ!? この子目ぇ回してるんだけど!?」

 

 どうやら周りも何かおかしいと気付いたようです。慌ててポリバケツから引っ張り出して救護しています。

 

 何とか超さんの針治療で意識を回復させた後、トラップを仕掛けた三人がネギ先生に謝っていました。タカミチ先生になら遠慮無く出来た事でも、明らかに自分達より年下の子供が相手では流石に良心の呵責を感じたようです。

 ネギ先生もそれを受け入れ、というか「元気があるのはいい事ですから」とか言ってます。いいんですか? それで。

 

「ええと……き、今日からこの学校でまほ……ら初の低年齢労働者採用案のテストケースとして、英語を教える事になった教育実習生のネギ・スプリングフィールドです。

 3学期の間だけですけど、よろしくお願いします」

 

 しずな先生の取成しもあって早々に和解し、ネギ先生の自己紹介が始まったです。まあ、それはいいんですが「まほ……」って何ですか「まほ……」って。

 何とか誤魔化せたようですが、さっきの障壁の件といい、このネギ先生迂闊過ぎるです。以前は何も知らない女子中学生視点でしたが、この頃のネギ先生を魔法使い視点で見るとこんなにも印象が違うものですか?

 

 この迂闊さは魔法使いしかいない場所で育ち続け、飛び級した為に本来ゆっくり学ぶはずだった一般教養が詰め込み教育になってしまった弊害なんでしょうか?

 まあ、どんなに優秀でもまだ9歳の見習いですし、そんなに目くじら立てる事でもないのでしょうか。学んだ事を実際に実践出来るようになる為に修行しに来ているわけでもあるですから。

 これが麻帆良以外の土地での話だったら即行で厳重注意を受けていたのは確実ですが………。あとで学園長かタカミチ先生にやんわりと注意してもらった方がいいのでしょうか。

 

 ちなみに低年齢労働者採用案は出任せや捏造したバックグラウンドではなく、実際に神奈川県藤沢市江の島にある総合防衛隊を設立する際に作られ採用されているモノです。何でも陸の防衛隊幕僚長が設立を進言し、さらにそれを押し通す為にクーデター紛いの事を起こしたという逸話があるとか。

 現在、8歳の女の子3人がそれぞれ陸・海・空に1人づつ所属しており、血税を浪費しつつも日本の誇りを守る為、というよりも防衛隊のイメージアップの為に健気に働いているそうです。

 大きいお友達はおろか全国的に結構な人気を博しています。

 

 以前の世界には無かったコレの事を知った時、私は日本の将来が心配になりました。

 それでいいのか日本国民。

 

 そんな事を考えていた私を余所に、事態は先に進んでいました。

 ネギ先生に興味を持ったクラスの大多数が彼を囲んで揉みくちゃにしているです。何歳なのか、どこから来たのか、何人なのか、どこに住んでいるのか等々、矢継ぎ早に質問しています。

 その光景はまさに狼の群れの中に投げ込まれた羊の如く。いえ、ネコの群れの中に放り込まれたマタタビ? 興奮状態この上ないです。

 

 そんな中、一人の女生徒がネギ先生(マタタビ)クラスの皆(ネコの群れ)から連れ出し(取り上げ)ました。

 

 眉間に皺を寄せ、疑念を抱いた顔をしている明日菜さんです。

 

「ねえ、さっき黒板消しに何したの?」

「へ?」

「さっきのといい、今朝のアレといい、何かおかしくない? アンタ」

「え”」

「とっとと吐きなさいよー!」

「あわわわ!?」

 

 ネギ先生の襟元を掴み上げて、先程の黒板消しの件について問い質しています。ガックンガックンとネギ先生を揺すっていますが、そんな状態の彼を彼女が放っておく訳がありません。

 

「お止めなさいっ!」

 

 制止の声と共に委員長こと、あやかさんが満開の花を背負って登場です。

 

「何よ? 委員長」

「教育実習生とはいえ、仮にも教師に対する態度ではありませんわ。それ以上の狼藉はこの雪広 あやかが黙っていなくてよ?」

 

 そう言いつつ明日菜さんからネギ先生を奪い取り、労わる様に抱き締める委員長さん。

 

「あぁ、あんな凶暴なおサルさんに絡まれるだなんて、お可哀想なネギ先生……。ですがご安心ください。私が全身全霊をもってネギ先生の傷心を癒してみせますわ」

「え? え?」

「さあネギ先生、どうぞこちらへ。丁度いい場所をのどかさんに教えてもらいましたの。そちらでゆっくりと二人きr」

「どこ行ってナニしようとしてんのよ、このショタコンッ!!」

「う”ぇるちっ!?」

「いいんちょーさーーーん!?」

 

 ネギ先生を連れていそいそとどこかへ行こうとする委員長さん。

 それを阻止する為に飛び膝蹴りを繰り出す明日菜さん。

 事態についていけず狼狽えているネギ先生。

 

「ななな何なさいますの!? このオジコンッ!?」

「アンタこそ仮にも教師にナニする気よ?」

「もちろんネギ先生に粗相をしたクラスメイトの代わりにクラス委員長としてのお詫びと責務を……」

「………………よだれ垂れてるわよ、アンタ」

「はっ!?」

「嘘よ」

「ああああ明日菜さん!?」

 

「また始まったね」

「ショタコニア帝国皇女 vs オジコニア王国王女。今度はどっちが勝つかな?」

「皇女殿下に百円!」

「王女殿下に三百円!」

 

 二人はいつもの通りそのまま売り言葉に買い言葉な取っ組み合いを始めてしまいました。周りも止めずにむしろ煽っているです。

 

 実にいつも通りですね。

 

 ていうか委員長さんは相変わらず要所要所でナチュラルに花を背負ってるですね。そんな委員長さんの背後に時折見え隠れするメイドの影。一体何者ですか、雪広家のメイドは?

 今のところクラス内でこの事に気付いているのは武道四天王である刹那さん・真名さん・楓さん・クーフェさんと非一般人組である私・のどか・エヴァさん・超さんの計8人です。

 茶々丸さんのセンサーにも引っかからないとか……。割と本気で気になるんですが。

 

 その後、しずな先生が騒ぎを収め授業を開始したものの、明日菜さんの撃った消しゴムショットがネギ先生の後頭部に連続ヒット。それに気付いた委員長さんがネギ先生に明日菜さんの情報を有る事無い事吹き込み始める始末。結局それが原因でネギ先生の初授業はグダグダのまま終わってしまいました。

 

 

 * * * *

 

 

 子供先生騒動からしばらく経った放課後の事。クラスの大多数が「サプライズでネギ先生の歓迎会をしよう」と言う話で盛り上がった為、現在参加者総出で準備中です。まあ、簡単なモノなのでそれ程時間はかかりませんが。

 で、私達が今何をしているかと言うと。

 

「エヴァさん、反対側をお願いします」

「なぜ私がこんな事を………」

 

「ハルナー、こっちお願いー」

「あいよー」

 

「わあ、茶々丸さん力持ちさんやねえ」

「1人で長テーブル8枚重ねとは」

「ガイノイドですから」

 

 空き教室に置いてある長椅子と長テーブルを運んでいるです。会議室とかによくあるアレです。

 

 私・エヴァさん・のどか・ハルナ・他数名が長椅子の運搬を。

 茶々丸さん・木乃香・刹那さんが長テーブルの運搬を担当しています。

 

 長テーブル担当が3人なのは単純に茶々丸さんが1人でも沢山運べてしまうからです。ですので本来長テーブル担当だった人達に長椅子を運ぶのを手伝ってもらっているです。お陰で往復せずに一度で運び終えられます。

 

 教室に運び終わりそのまま設置までしてしまうと、残りの参加者達が集めてきた飲食類が所狭しと並びました。タカミチ先生としずな先生も参加者兼お目付け役として到着してるです。

 

 あとはネギ先生を呼んでくるだけなのですが…………はて? 何か忘れているような?

 明日菜さんもいませんし。どこ行ったんでしょうか?

 

 その時、教室の扉が勢い良く開かれました。入って来たのは明日菜さんとネギ先生。

 ああ、明日菜さんがネギ先生を呼びに行ってたですか。………その割りには2人揃って何か驚いた顔してますが。

 

 そんな2人を余所に参加者達が一斉にクラッカーを鳴らし一言。

 

「「「「「2-Aにようこそ♡ ネギ先生ーッ」」」」」

「……へ?」

「あ……そーだった。今日はアンタの歓迎会するんだっけ……すっかり忘れてたわ」

「えーーーっ!?」

 

 騒いでる2人を輪の中に加え、歓迎会開始です。

 

 ネギ先生は皆に揉みくちゃにもてなされ、明日菜さんは疲れた顔で木乃香と刹那さんの下へ行き、何やら自棄食いをしています。聞こえてくる単語の中に「ノーパン」という言葉があったのですが、本当に何があったですか。

 

 その後、委員長さんが記念品と称してネギ先生の銅像を渡そうとして明日菜さんにツッコまれていたり、まき絵さんが助けてもらったお礼と称してネギ先生の頬にキスをして委員長さんとバトルになったりしていたです。

 

 そんな光景を私・のどか・エヴァさん・茶々丸さんは一緒に話をしながら、少し離れた場所で眺めていました。周囲には雑談しているように聞こえる結界を張りながら。もちろんネギ先生にバレないようにしてです。

 

「うーん?」

「どうしたの? ゆえ」

「いえ…………さっきから何かを忘れているような気がして………」

「思い出せんのなら大した事ではないのではないか?」

「そう、ですかね……」

 

 喉に小骨がひっかかったような違和感を感じがしてスッキリしないのですが。

 

 そう考えていると、のどかから念話が届きました。

 

《どうしました? のどか。わざわざ念話なんて使って》

《ゆえが忘れてる事に心当たりがあったから》

《あー、もしかして過去関係ですか》

《うん》

 

 念話で密談する私達。一見エヴァさん達を除け者にしているように見えますが、実はこれエヴァさんも承知済みだったりするです。

 

 エヴァさんと恋人となり3人で結ばれた次の日、私達はエヴァさんに未来の記憶がある事、その中にエヴァさんに関する物も少なからず在る事を話しました。話す事で今後の計画に支障が出るかもしれない事を承知の上で。エヴァさんと恋仲になるなんてまったくもって予想外もいい所だったんですが、そうなった以上はやはり知っていて欲しかったと言いますか。ある意味自己満足な行為ですが。

 

 何か言われる事も覚悟して話したのですが、エヴァさんの返事は実にアッサリしたモノでした。

 

「お前達の異常性を考えればむしろ納得がいった。私の見解としては逆行というより記憶の転写のような印象を受けるが。

 それにその小難しい顔を見れば何を考えているのか大体予想はつくが、私の想いはこの程度の些細な事で揺らぐような柔なモノではないぞ?」

 

 エヴァさん曰く「未来の記憶というのは珍しいが、別の記憶を持つ者自体は数は少なくともいる所にはいる」らしいです。エヴァさんも550年前に1人会った事があるとか。意識シンクロの魔法を使用して確認した事があるから間違いないそうです。

 ちなみにその人が彼女の魔法の師匠らしいです。常時ローブを纏った胡散臭い笑顔の優男。小さい娘が大好きなド変態で、修行の一環として行っていた模擬戦で負けた場合、指定された服を着てその日一日を過ごさなくてはいけなかったそうです。絶妙に羞恥心を刺激する恥ずかしい服装で。

 

 座右の銘は「(幼女)は手折るものではありません、愛でるものです」

 

 何だかどっかの誰かさんを彷彿させる人物像なんですが。

 エヴァさんにも「夕映は奴のストライクゾーンの範疇だ。もし笑顔が胡散臭いローブ姿の優男に出会ったら全力で逃げろ。もしくはゼロ距離で【千の雷】をブチ込め」と言われたです。

 

 誰が幼女か。

 断固異議を申し立てるです。

 

 その後、未来の記憶に関してはエヴァさん自身が聞いてきた事以外は話さない事になったです。

 

「長いこと生きていると物事に既知感を感じる事が多くなってな。既知感を感じてしまうと目の前のモノが途端につまらないモノになってしまう。

 そういう時、未知は丁度いい暇潰しになる。

 まあ、ここ数年は夕映達のおかげで文字通り世界が違って見えて退屈している暇もないが、やはり未知が減る事には勿体無さを感じる。

 だから私が自分で聞いた事以外は私に伝えるな」

 

 と言うのを「昨日の続きをするぞ」と押し倒されながら言われました。

 

 まあそれはいいとして、のどかと続きを話しましょう。

 

《それで心当たりと言うのは?》

《多分、私の事だと思うの》

《のどかの?》

《ほら、以前の私がネギ先生に興味を持ったのってこの歓迎会の時からだし》

《あ》

 

 さっきの違和感の正体はそれですか。

 以前ののどかは学園総合図書委員の仕事で別館への本の運搬をしていた時に、階段から足を踏み外して落ちたところをネギ先生に助けられたのでしたっけ。お礼を言う前に明日菜さんがネギ先生をどこかへ連れて行ってしまったそうですが。それで歓迎会の時にお礼をしたのが始まりでしたか。

 

 この世界ののどかは通常の図書委員にはなっていますが、学園総合図書委員にはなっていないです。なので仕事を頼まれる事もなく、放課後はずっと一緒に歓迎会の準備をしていました。

 その変わりなのか、まき絵さんがネギ先生に助けられているです。どういう状況で助けられたのかは分かりませんが、ネギ先生が明日菜さんと一緒だった事を考えると、のどかの時とあまり変わらないのではないでしょうか。

 

 あと、今のやり取りで気付いた事があるです。

 どうやら私、以前の出来事で忘れている部分が結構あるようです。ざっと思い返してみましたが、強烈な印象がある魔法関係の出来事はともかく、それ以外の普通の出来事、特に修学旅行前の事はほとんど覚えてません。もう30年以上前の事ですから無理もないんでしょうか。

 

 麻帆良は、特にA組では日常的に騒ぎが起きるです。その騒ぎの中にはネギ先生が絡んでいるモノも少なからず、というかかなりの数あったというのは覚えています。それ等の原因が朝に見たあの迂闊さだったとしたら? その可能性に思い至った私は不安を感じずにはいられません。

 よく以前のネギ先生はこの状態からエヴァさん達、本物クラスの使い手に成長出来たものですね。この世界のネギ先生をあの領域まで至らせる事が出来るかどうか、ちょっと自信ないです。止める気も後戻りする気も毛頭ありませんが。

 

《とりあえず違和感の正体が分かって良かったです。ありがとうです、のどか。これからも何か気付いたら教えてください》

《どういたしまして。それはいいけど、そこまで気にする事?》

《以前の世界でも私達が覚えていない、あるいは気付いてないだけで、修学旅行前にもネギ先生が起こした魔法関係の騒ぎがあるはずです。ある程度なら大結界や学園長の権限で揉み消せますが、騒ぎが大きくなり過ぎて監督不行き届きなんて事になったら絶対面倒臭い事になるです。MM元老院が「麻帆良に修行の地としての資格無し」とか言い出して、今度こそネギ先生を手中に収めたがるに決まっています。私達の計画上それは非常にマズイです》

《ん、わかった。それとなく気にかけとくね。とりあえずは第二試験が終わるまでかな?》

《ですね。第二試験をクリアしてもらえれば、私達も正体を隠す必要がなくなりますから。ネギ先生に魔法使いとして接触出来るようになるです》

《…………大丈夫かな?》

《言わないでください。私も不安なんですか……ら…………》

《?………………うわぁ》

 

 そう言いながらネギ先生の方を見た私は、思わず長テーブルに突っ伏しました。私の反応を不思議に思ったのどかも見たようです。今見たモノが夢であって欲しいと願いながら、もう一度あちらを確認します。

 

 そこにはタカミチ先生のオデコに手を当てて、初級の読心術を使っているネギ先生が。

 周りにクラスメイト達がいる状況で。

 

 ………ここにいるのがタカミチ先生としずな先生で良かったです。二人とも学園長側の人ですからね。ここにMMから派遣された魔法先生がいたら凄まじく面倒な事になっていました。

 最悪、記憶処理をする必要が出て来るくらいにです。

 

 ていうか何でネギ先生はあんなアホな事をしてるですか?

 自分より格上の魔法使い相手に、バレバレで正直使い物にならない初級の読心術を使うとか………。

 

 そんな風に呆れていた私にエヴァさんが声をかけてきました。どうやら彼女も今のを見ていたようです。

 

「…………なあ夕映。どうしてもあのぼーやが成長するまで待たないとダメか? 血を吸って強制解呪した方が早いと思うんだが……」

 

 ネギ先生の現状を見て不安になったのか、エヴァさんがそんな事言い出したです。言いたくなる気持ちは理解しますが。

 

「ダメです。

 確かに解呪する事だけを目的にするならソレも1つの手段かもしれませんが、呪い自体が変質しているの以上、正規の解呪方法以外で解くとどんな弊害があるか分かりません。

 それにネギ先生が解呪する事自体に(・・・・・・・・・・・・)意味があるですから」

「だよなぁ………………」

 

 遠い目をしながら呟くエヴァさん。申し訳ないですが許可する訳にはいきません。

 

 成長したネギ先生を解呪に協力させるのは、その方が安全度が高いというのもありますが理由はもう1つあるです。

 それは『世界を救った新たな英雄が解呪に同意し実行した』という事実が欲しいから。

 

 以前の世界では実際にエヴァさんの解呪が成功した後、嘗ての懸賞金が復活しそうになった事がありました。ちなみに実行しようとしていたのは、既にお約束になっているMの付く奴等の一部と解呪の際ぶちぶち口出ししてきた連中です。

 ですが奴等の企みも多大な発言力を持っていたネギ先生が反対意見を表明した事により、結局見送る事になりました。世界中にコネを持つネギ先生を敵に回すという事は、彼に縁のある全てを敵に回すという事と同義でしたから。この一件で少なくとも彼が生きている間は、エヴァさんが何かやらかさない限り懸賞金復活は無しという流れが作られました。

 

 私はこの一件を再現しようとしています。あわよくば以前より改善して。裏で色々こそこそと動いているのもその一環。それぞれに思惑はあるものの、協力者である学園長やクルトさんには感謝ですね。

 

 権力万歳です。

 

 全ては私が求める平穏の中にエヴァさんや茶々丸さん達が含まれたが故に。

 

 彼女達と共に歩む未来の為に。

 

 貴方の望み()を叶える代わりに利用させて頂きます、ネギ先生。

 

 

 

 

 

 

 その後、歓迎会が終わりログハウスに帰宅した私は、意気消沈しているエヴァさんを甘やかす事にしました。珍しくえっちぃ事無しで、ネコのように擦り寄って甘えてくるエヴァさんが大変可愛らしかったです。

 

 あと、のどかと茶々丸さん。

 扉の隙間から覗き見するのは止めるです。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、初日から明日菜さんに魔法バレしていた事を学園長から聞いた時、思わず大きなため息が出たのは仕方が無い事ですよね?

 

 ……………………ハァ。




明日菜が何故かテンプレな感じでツンデレた。
エヴァとキャットファイトやりだすし。
………あれー?

ノリと勢いで書くといっつもこうですよ。

茶々丸はイメージ通り。
攻める時は押せ押せだけど、攻められると弱くなる。
そんな感じです。

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