夕映物語   作:野良犬

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連続投稿 第三話です。

一番長いです。

なのに、三つの中で一番早く書き上がった話だったりします。


インターミッション・下

『桜咲 刹那の事情』

 

 

「はっ! せいっ!」

 

 時は早朝。昇り始めたばかりの朝日の中、昔から愛用している木刀を振る。全長約181cmの大太刀サイズで、神鳴流を修め始めた頃から使い続けている代物だ。

 手に馴染む重みを感じながら、唐竹・袈裟斬り・逆袈裟・右薙・左薙・右切上・左切上・切上・刺突、と一振り一振り丁寧に素振りをする。変な癖やブレがいないか確認しつつ、動きの無駄を削ぎ落とせるように意識して動く。

 

「ふっ! せやっ!」

 

 ………自分の中にある煩悩を振り払う意味も含まれている事からは目を逸らす。

 脳裏にこの世で一番大切な人が、(あで)やかに微笑みながら私に迫ってくる光景が浮かんでくるが、頭を振ってかき消そうとする。

 そう簡単に消せるのなら苦労はしないけど………。

 

「………………………ハァ」

 

 雑念が入り素振りがどんどん荒くなっていく為、私はこれ以上の鍛錬は意味が無い、と判断してため息を吐きながら打ち切る事にした。

 流れ出た汗をタオルで拭いつつ、一気に飲みたいという衝動を抑えて、用意した冷たいスポーツドリンクを少しずつ口に含むようにして飲む。二割ほど飲んでからボトルを首筋に当てると、気持ちのいい冷たさに思わず目を閉じて堪能してしまう。

 

 朝早いとはいえ夏だからかやはり暑い。

 これからどんどん気温も上がるだろうし、早々に部屋へ戻ろう。

 汗も流したいし。

 

 そう考え、手早く荷物をまとめて寮の自室へ戻る事にした。

 寮に戻り部屋の中に入るが同居人の真名はいない。夏休みに入ってすぐに「割のいい仕事が入った」と言い、麻帆良の外へ出稼ぎに行った。帰りは8月中旬頃になると言っていたから、最短であと一週間は戻らないだろう。

 

 私は汗を吸って重くなったトレーニングウェアや下着を洗濯カゴに投げ入れ、ぬるま湯のシャワーで汗を流しながら先程の雑念の原因について考えた。

 ちなみにアレは私の妄想ではなく、実際にされた事である。

 原因であるお方の顔を思い浮かべながらため息を吐く。

 

「ハァ………………どうしてこうなったんだろう………………」

 

 『近衛 木乃香』

 私にとって新旧合わせた両世界の中で一番大切な人。

 例えこの命に代えても守り通すと誓った人。

 忌み子であり一族の爪弾き者であった私に初めて出来た友達。

 こんな私にいつもほんわかした笑顔を向けてくださる尊いお方。

 

 ……………………なんだけどなぁ。

 

 悩ましい想いを抱きながら、私は今に至るまでの事を思い返してみる事にした。

 

 

 * * * *

 

 

 小学二年の時(実際にはお嬢様も私も小学校には行かず、教員免許を持った協会の人間に教わっていた)にお嬢様がとある事情で関東に身を寄せられて以来、とある事情の際に何も出来なかった私は強くなる為に、京都神鳴流において歴代最強と名高い青山鶴子様・素子様の元でご厄介になっていた。青山の宗家はかなりの山奥にあるため電話も通っておらず、お嬢様とは文通でのやり取りだけになった。

 

 最初はお嬢様を守れる、と自信を持って言えるくらいに強くなるまで連絡を絶つつもりだったが、姉さんにしこたま怒られた為きちんと返事を書く事にした。今思い返してみても、なんで連絡を絶つなんて結論に至ったんだろう? それだけ思い詰めていたんだろうか、当時の私は。

 

 手紙には私に会えなくて寂しい事、新しい友達が出来たから紹介したい事、麻帆良には凄く変な所がいっぱいあって面白い事、お爺様の頭が異様に長くてびっくりした事、新しい友達から教わっている事を実践できる日が楽しみな事、私に似合いそう物を見つけた事、時々私の事を夢に見て眠れない夜を過ごす事がある事など、様々な事が書かれていた。半分くらいが私に関する内容だったのが嬉しかった。

 

 そういえば、時々手紙に書いてあったhshsとかprprってどういう意味なんだろう? 鶴子様や素子様、たまに私の様子を見に来てくれた姉さんに聞いても、生暖かい目をしながら優しく肩を叩いてくるだけで何も教えてもらえなかったし。

 ……まあ、いいか。お嬢様が書いた言葉だし、そんなに変な意味じゃないだろう。

 

 そうして、早朝から夕方まで神鳴流の修行、夜は東大生だった素子様による座学(余り出来のいい生徒ではなかったけど)、月一で届くお嬢様の手紙に目を通し返事を書く、たまに鶴子様監修で調伏依頼の処理などを行い数年が経った頃、事件が発生した。

 

 お嬢様の誘拐未遂事件だ。

 誘拐自体は麻帆良在住の魔法使い数名によって実行犯達が制圧され、失敗に終わったのが不幸中の幸いだっただろう。ただその中に、おじさん達の命の恩人の孫娘殿や賞金首を解かれた『闇の福音』がいた事には驚いたけど。しかも孫娘殿はお嬢様の手紙に書かれていた友達の一人と同一人物だったし。

 

 下手人は関西呪術協会の過激派。全体の意思ではなく一部の者の独断だと言い訳していたらしいが、そんな事は関係ない。お嬢様に仇なす者は斬り捨ててしまえばいいんだ。

 しかも犯行動機が西と東の関係悪化とお嬢様を東へ送る判断をした長を批判する為の材料作りときた。奴等は両組織の現状が気に食わないらしい。正直、怒りを通り越して殺意が芽生えそうになった。

 そもそも「娘を西には置いておけない」と長に判断させる原因を作ったのは過激派に属する連中だというのに。

 

 

 * * * *

 

 

 お嬢様が関東に身を寄せる原因になった事件であり、私が幼いながらも自分の無力さを実感した出来事。

 

 お嬢様も私も小さい頃は周囲に同い年の子供がおらず一人だった為、出会ってからはお互いに初めて友達が出来た事が嬉しくて、時間の許す限りいつも一緒だった。私の場合、高貴なお方のお相手を任された事に使命感じみたモノを感じていたりもしたが。

 

 朝起きて一緒にご飯を食べ、一日中一緒に過ごし、一緒にお風呂に入って同じ布団で寝る。

 そんな毎日。

 疲れて寝落ちするまで遊んだり、私が剣の稽古(この頃は修行ではなく稽古だった)をしている時もお嬢様が応援してくれた事があった。

 敷地内に迷い込んできた野良犬に吠えられた時は、私も凄く怖かったけど震えているお嬢様を見た瞬間、恐怖を押し殺してお嬢様を庇っていた。

 何とか追い払った後、お嬢様に眩しい笑顔でお礼を言われた時、私はその笑顔に見惚れ『自分がこの笑顔を守った』という事に喜びと誇らしさを感じた。

 思えばあの時から、私にとってお嬢様は『守るべき人』ではなく『守りたい人』になったのだろう。

 

 そんな日々を過ごしていた時だ、事件が起きたのは。

 その日は珍しく敷地内ではなく、近くの川で遊んでいた。川に架かった橋の上からキラキラ輝く水面や水中を泳ぐ川魚の群れを眺めていた時の事。突然背後から襲い掛かってきた爆風に吹き飛ばされ、お嬢様と私は川に落ちた。

 最初は訳が分からず混乱して水中でもがくだけだったが、お嬢様の助けを求める声を聞き必死に手足をバタつかせ、なんとかお嬢様を捕まえる事に成功した。

 だが私に出来たのはそこまでだった。齢一桁の子供が水を吸った道着を着ながら、同じく水を吸った着物を着た子供を岸まで連れて行ける訳がなかった。お嬢様を捕まえたところで私の体力は底を突き、お嬢様を離さない様に必死に掴みながら水に流され、そして意識を失った。

 

 気付いた時には姉さんに助けられた後だった。

 後で知った事だが、お嬢様と私の周囲には常に複数の護衛が就いていたらしい。だが、お嬢様の誘拐を企てた者達の襲撃を受け、背後に落ちた流れ気弾の爆風で川に落ちた私達に気付けても、襲撃犯達への対処に手一杯ですぐに救出しには行けなかったそうだ。

 私達を迎えに近くまで来ていた姉さんが事態に気付き、式を飛ばして長に連絡。襲撃者達は護衛達に任せ、お嬢様と私を救出したという訳だ。

 

 助かったと分かった時、私はお嬢様が無事だった事に安堵し、同時に何も出来なかった自分が酷く悔しかった。守りたいと思っていたのに無様を晒した己に失望した。

 私はお嬢様に涙ながらに謝罪した。

 

 守れなくてごめんなさい。

 何も出来なくてごめんなさい。

 弱くてごめんなさい。

 

 お嬢様は「そんなん気にせんでええよ。一緒に遊んでくれるだけで嬉しい」と言ってくれたけれど、それでは私の気がすまなかった。

 だから私は心に誓った。

 

 私は強くなる。

 なってみせる。

 もう二度と誰にもお嬢様を傷つけさせない為に。

 お嬢様に降りかかる全ての厄災を斬り捨てられるように。

 今度こそお嬢様を守れるように。

 

 そう固く誓いを立てた。

 まあ、早速間違えそうになって姉さんに怒られた訳だが。

 

 その後、襲撃犯達は護衛達と長率いる(かんなぎ)部隊によって捕縛された。彼等の素性が過激派に属している一族の出だと判明し、姉さん達穏健派が過激派に糾弾したのだが、過激派の代表格の男からの返答はあまりにふざけていた。

 

「こやつ等は少し前に除名処分を受けているでおじゃる。

 麻呂達とは何の関係も無い輩だ、の。

 由緒正しき我ら関西呪術協会を妬む下賎な輩は山ほどいるのでおじゃる。

 大方、それらの馬の骨にでも雇われたのであろう、の。

 この様な賊徒が身近に潜んでいようとは。

 おお、怖い怖い。

 長殿も気を付けねば、のぅ?」

 

 いけしゃあしゃあとのたまい、ホホホと扇子で口を隠しながら嗤う、顔面が真っ白でぴっちり真ん中分けの髪型をしたおちょぼ口の男。

 

 正直に言おう。

 私はあの男が、『綾小路 胆麻呂』が大嫌いだ。

 特にお嬢様・私・姉さんに対する態度が嫌いだ。

 あの粘っこく全身を嘗め回す様な視線。

 一度聞いたら耳に張り付いて悪寒に苛まれる猫撫で声。

 

 キモチワルイ

 

 小さかった頃は分からなかったが、大きくなってそういう知識(・・・・・・)を教わり理解した時の嫌悪感は凄まじかった。全身に鳥肌が立ち、そういう視線(・・・・・・)を向けられているという事実に、そういう行為(・・・・・・)の対象として見られている事に吐き気がした。あの男の視線を思い出す度、私という存在が汚されてしまったような気分になって鬱だった。

 それだけでも嫌なのに、あの男はあろうことかお嬢様にもそういう視線(・・・・・・)を向けていたのだ。もし仮に、襲撃が成功していてお嬢様が浚われていたとしたら、あの男に何をされるかは火を見るより明らかだ。そんな事、到底許せるものではない。

 

 あの(愚物)、いつか絶対斬って()る。

 

 結局、過激派への糾弾は上手くいかなかった。襲撃犯達は確かに襲撃前に除名処分を受けており、過激派が事件に関与している決定的な証拠が出て来なかったからだ。詳しい事を調べようにも襲撃犯達は、取調べ中に死んでしまったらしい。牢の中にいた者も全員。死因は体内に仕込まれた遅効性の呪毒だそうだ。

 こうして過激派は黒に最も近い灰色と周囲に認識されながらも無実となった。

 

 そしてこの一件で長は、お嬢様が政争に利用されかねない事を憂い、また愛娘をあの男の目の届かない場所に避難させる意味も込めて、ご自身の舅でありお嬢様の祖父である近衛 近右衛門様が学園長を務める麻帆良に送る事を決意なされた。

 

 ちなみに、姉さんは長の秘書的立場であり、私もあの(愚物)が最も苦手とする青山の宗家に身を置く事が決まっていたりで、あの(愚物)でもおいそれと手は出せないと分かっていた為、お嬢様の麻帆良行きを最優先で行ったという背景があったりする。

 

 

 * * * *

 

 

 そんな前例があった為、この誘拐未遂事件も同じ結果になってしまわないかという不安があった。

 だがそれも杞憂に終わった。制圧に加わっていた孫娘殿が実行犯達を自白させる事に成功したのだ。しかも呪毒を無効化させて。

 おかげで証人や証拠を失う事無く確保でき、長と鶴子様と姉さんが中心となって嬉々として過激派の勢力を削ぎ落としていた、と素子様から聞いた。

 まあ、実行犯達一部の者は呪毒が変質して変な幻覚を見るようになったらしいが、別に気にする事でもないだろう、うん。

 

 それらの話を聞いた私は、魔法使いである事を抜いても同い年の女の子がソレを成した事に、感心と尊敬の念を抱くようになった。同時に負けてはいられない、と修行により専念するようになった。

 

 それから半年後。

 鶴子様と素子様に認められ、まだまだ未熟者ではあるが一端の神鳴流剣士を名乗れるようになった頃、長から呼び出しがあった。

 何事か、と思いながらも呼び出し応じると、長直々にお嬢様の護衛役の任を命じられた。

 期間は三ヶ月後の四月から中学卒業までの三年間。

 現在護衛の任に就いている葛葉 刀子さんや学園長が選別したSP達と連係し、私がメインとなって護衛するようにとの事。身に余る大役ではあったが、私はようやくお嬢様を守れる機会が訪れた事に喜びを感じた。

 

 そしてもう一つ、重大な決定を聞かされた。

 中学3年の春休みになったらお嬢様に魔法の事を打ち明ける、と。

 理由は、現在過激派の勢力を以前の半分にまで減らす事に成功したものの、未だ残りの半分は虎視眈々と再起を窺っており、あの(愚物)もしぶとく生き残り何か水面下で動いている節がある為、このまま何も知らないままなのはあまりに危険過ぎると判断されたらしい。

 確かに穏健派の三分の一くらいの規模の勢力でしかなくなったとはいえ、あの(愚物)が率いている以上油断は出来ない。心底気持ち悪い(愚物)だが、姉さん曰く「術者としては並以下、策士としても二流。せやけど、人を使う事と逃げ足だけは一流なんや」らしいし。

 

 最後に「あの娘の支えになって欲しい」と関西呪術協会の長としてではなく一人の親として長が私に頭を下げられた時は流石に焦った。

 もちろん言われるまでもなく、お嬢様のご要望とあらばどんな事でも協力する所存だ。

 

 その後、東に行くまでの三ヶ月間、鶴子様と素子様(時々長も参加)にみっちりと修行をつけてもらい、長からは餞別にと長の愛刀『夕凪』を賜り、出発当日は姉さんやおじさん達に見送られながら、私は一人麻帆良の地へと(おもむ)いた。

 

 入学初日の早朝。学園長に呼び出された私とルームメイト兼夜間警備のパートナーになった龍宮 真名は、一人の少女を紹介された。

 

 それが夕映さんこと『綾瀬 夕映』との出会いだった。

 その、こういう言い方は失礼かもしれないが、彼女に対する私の第一印象は『小さい少女』だった。平均的な女子中学生より小柄な私より、更に小さく細い体格。どう見ても私と10cm以上の差があり、真名とは40cm近くの差があった。私の第一印象も仕方ないと思うんだ。

 しかしその印象もすぐに改めた。原因は彼女が身に纏っている雰囲気にある。私や真名もそうだが、裏の世界に関わる者達は独特の重みがある雰囲気を大なり小なり身に纏うものだ。意図的にそれを隠せる実力者もいる為、一概にそうと決め付ける事は出来ないが。

 彼女のソレは、まるで鶴子様達の様な熟練者と相対している時と同じ感じがした。

 間違いなく彼女は私よりも上の世界にいる。同い年でありながらその境地に至っている彼女に、私は改めて尊敬の念を抱いた。

 

 そのあと、軽く自己紹介と綾瀬家と関西の事情を知らなかった真名に少しぼかして事情説明しながら教室へ向かい、そこでお嬢様と再会した。

 

 再会したお嬢様はかつての優しげな雰囲気をそのままに、とても美しく成長なさっておられた。

 普段は柔和な微笑みを浮かべているであろうお顔が驚きで満ちている。かく言う私も同じだ。

 護衛の関係上、同じクラスになる事は予想してはいたが、実際に再会してみると色々と話したい事があったのに、全部吹き飛んでしまった。

 

 見詰め合うお嬢様と私。

 いつまでもこのままではまずい、と思った私は意を決してお嬢様に話し掛けようとした。

 次の瞬間。

 

 私は押し倒されていた。

 

 何が起こったか訳が分からなかった。

 瞬動術でも虚空瞬動でも縮地无疆(むきょう)でもない。

 もっと得体の知れない恐ろしいモノの片鱗を味わった気分だった。

 

 そして始まるお嬢様の過剰なまでのスキンシップ。

 耳を甘噛みされ舌で舐められ、首筋を啄ばまれコレでもかと吸い付かれた。

 公衆の面前で。

 

 恥ずかしさやら照れ臭さやらその他諸々で混乱していた私は、夕映さんに助けを求めた。

 まあ、見捨てられたけど。

 

 それからというもの、お嬢様のスキンシップはとどまるところを知らず、割と所構わず行われるかなりきわどい行為に頭を悩まされる事になるのだった。

 

 ただ、最近それらの行為に慣れ始めている自分がいるのがちょっと怖い。

 私はこれからどうなってしまうんだろう?

 

 

 * * * *

 

 

 別にスキンシップが嫌な訳ではないんです。

 お嬢様に好意を寄せられるのは気恥ずかしいけれど大変嬉しい事だし。

 ただちょっと過激過ぎるというか、きわど過ぎるというか……。

 もはやスキンシップではなく愛撫の域なんじゃないかと思うくらいには。

 貞操の危機を感じたのも、一度や二度じゃないし……。

 いえ、お嬢様のお戯れだという事は分かっているんですけどね?

 やんわり(たしな)めようにも、涙を溜めた上目使いで「ウチの事、キライ?」などと聞かれては、私は無条件降伏するしかない訳で。

 

 …………長や姉さんに何て言えばいいんだろう。

 特に長。

 「娘に悪い虫が付かない様に目を光らせておいてくれ」と言われていたのに。

 むしろ私が悪い虫になっています。

 ごめんなさい。

 本当にごめんなさい。

 お嬢様には逆らえません。

 

 ため息を吐きながら汗を流し終え、風呂場から出ると携帯に着信があった。誰だろう?と確認してみると表示には『お嬢様』の文字が。慌てて通話ボタンを押すと、何やら声を潜めたお嬢様の声が聞こえてきた。

 

「………せっちゃん……今どこにおるん?」

「今、ですか? 鍛錬を終えて自室に戻ってきていますが?」

 

 お嬢様の様子がおかしい。どこか焦っている印象を受ける。

 

「そか。丁度ええタイミングみたいやね。実はなせっちゃん、ちょっと助けて欲しいんよ」

「何かあったんですか!? お嬢様!?」

「大きい声出したらあかんえ。時間無いから説明出来へんけど、今すぐ学校の昇降口に来て欲しいんよ」

「あ…申し訳ありません。学校の昇降口ですね? わかりました、すぐ向かいます」

「おおきにな。着いたらケータイ鳴らして?」

「どうかお気になさらずに。では後ほど」

 

 お嬢様に何かあったようだ。未だ下着姿だった私は手早く身支度と武装を整え、急いで学校の昇降口に向かうのだった。

 

 全力で来た為、5分と掛からず昇降口に到着。すぐさまお嬢様の携帯に連絡を入れる。

 

 ………………出ない?

 はっ!? まさかお嬢様の身に何か!?

 

 と考え、探しに行くべきか迷っていた私の頭に何かがコツンと軽く当たる感触がした。何だろう?と上を見上げると三階の窓から顔を覗かせるお嬢様がいた。

 どうやらご無事の様だ、と安心したのも束の間、お嬢様が私に向かって飛び降りた。

 

「………ええええええええええ!?」

「せええええっちゃあああああん♪」

「うわあああああああああ!!?」

 

 大いに慌てながらも、なんとか受け止められた自分を褒めてやりたい。

 荒い息を吐く私と構わず私に頬ずりしているお嬢様。

 

 というか、さっきの飛び降りは危な過ぎる。私が普通の女子中学生だったら、今頃二人とも無事では済まなかっただろう。

 流石に(いさ)めようとお嬢さまに目を向けると、彼女が普段着や制服ではなく見慣れぬ格好をしている事に気が付いた。

 群青色の布地に色とりどりの華の意匠を施した晴れ着姿のお嬢様。この晴れ着、確か長がお嬢様の誕生日に送って来た物だったはず。

 なぜそんな格好を?と思い、何があったのか聞こうとしたその時。

 

「あっ! おーーい! みんなーー! 木乃香さまがいたぞーー!」

「え?」

「あっ、あかん。見つかってしもた」

 

 なにやらお嬢様を探していたらしき黒服と、何やらアワアワと慌て出したお嬢様。ていうかあの黒服の人って、学園長が選別したSPの一人じゃ?

 うわっ!? 何かいっぱい集まってきた!?

 

「せっちゃんせっちゃん。ウチを連れて逃げて!」

「え!? あの、えと、一体何が何やら…?」

「お願いや、せっちゃん。せっちゃんだけが頼りやの(・・・・・・・・・・・・)

 

 その言葉を聞いた瞬間、心臓を打ち抜かれた様な衝撃を受けた。

 

 私は! 今! お嬢様に! 頼られている(・・・・・・)!!!

 

 私の身体から、かつて無い程の活力が湧き上がって来ているのが分かる。今なら狂化した鶴子様(妖刀ひな装備)が相手でも数合ぐらいなら打ち合える気がする!

 

「お任せくださいお嬢様!」キリッ

 

 お嬢様を横抱きで抱え、一目散に逃走を図る。もちろん気による身体強化を全開で。後ろから私達を追いかけて来る気配と誰かに報告している声が聞こえてくるが、そんなものは気にしない。

 今はただお嬢様の願いを叶えるのみだっ!

 

 

 * * * *

 

 

 何度か追っ手に追い詰められそうになりながらも何とか撒く事に成功し、寮の私の部屋に辿り着いたお嬢様と私。

 流石に少し疲れたが無事に逃げられて良かった。まるでこちらの動きが分かっているかのように、行く先々で先回りされ何度か包囲されそうになり、思わずヒヤリとしたものだ。

 

 部屋の中に入り、お嬢様に休んでいただいている間にお茶を淹れ、お互いに一息ついてから事情を聞く事にした。

 お嬢様の隣に座って質問する。

 

「それでお嬢様? 一体何があったのですか? あれだけの数の追っ手、尋常ではありません」

「………………うん」

 

 両手で湯飲みを持ちながら俯くお嬢様。そのお顔には非常に希薄ではあるが、憂いの色が見える。

 

「実はな……ウチ、おじーちゃんからお見合いすすめられてるんよ」

「お見……合い……ですか……」

「うん…………これが相手の写真……」

 

 そう言って取り出されたのはプロフィール付きのお見合い写真の束。軽く目を通しただけだが、医者・弁護士・資産家・企業の跡取り・名家の次期当主など、錚々(そうそう)たる面子。全員が美形で、中には明日菜さんが好きそうな年配の男性の物まであった。

 

 だが、私はそんな事よりお嬢様がお見合いをするという事にショックを受けていた。

 本来であれば、ここで祝いの言葉のひとつでも挙げるべきなのだろうが、そんな事を思い付きもしない程に、私は自分でも驚くほど動揺していた。

 

「では……今日はその、お見合いの日で?」

「ううん。今日はお見合い用の写真撮らされる予定やってん…………けど」

「けど?」

「嫌んなって途中で逃げてもーた」

「そういう事でしたか……」

 

 これで合点がいった。道理であの黒服達がしつこく追って来る訳だ。

 そして、お嬢様がまだお見合いを受けていないと分かり、ホッと安堵している自分がいる事に気が付いた。気が付いたが今は無視する。今はソレについて考える暇はない。

 

 さて、私のする事は何も変わらないが、その前にひとつ確認しなくては。

 

「お嬢様。お逃げになったという事は、お嬢様はお見合いには反対なのですね?」

「うん。おじーちゃんが勝手にゆーてるだけやし…………それに……」

 

 そう言い淀んで俯きながら、こちらをチラチラ窺うお嬢様。その頬は薄っすらと赤く染まっているように見える。

 

 あれ? お嬢様の雰囲気が変わった?

 何だろう、さっきまでとは違ったこの甘い雰囲気は?

 

 急に様子が変わったお嬢様に、戸惑いとほんの僅かな身の危険を覚えつつも、私はお嬢様に提案する事にした。

 

「では、お嬢様。何か私に出来る事、して欲しい事はありますか? もしあるのでしたら遠慮せずおっしゃってください」

「……さっき頼っといて今更やけど、ホンマにええの?」

 

 不安そうな顔で聞いてくるお嬢様。私は彼女にそんな顔をして欲しくなくて、お嬢様の手を握り自分の想いを素直に伝えた。

 

「お嬢様。

 かつて私は、貴女に救われました。

 誰からも見向きもされなかった私に、温かな笑顔を向けてくれました。

 その笑顔に、私はどれだけ救われてきた事か。

 そんな貴女に曇り顔など似合いません。

 

 貴女には、いつも笑顔でいて欲しい。

 幸せでいて欲しい。

 

 それだけが、私の望み。

 私の願い。

 それが私の、幸せだから。

 

 だからお嬢様。

 私を、貴女の力にならせてください」

「せっちゃん…………」

 

 顔を真っ赤にし、潤んだ瞳で私を見詰めるお嬢様。多分、私の顔もお嬢様に負けないくらいに赤面しているだろう。凄く熱いし。

 

「ありがとうな……せっちゃん……」

 

 そう言って私の右肩に頭を預けるお嬢様。そのお顔は幸せに満ちた笑顔で綻んでいた。

 

「はい……お嬢様……」

「むー、そこはお嬢様やのーて昔みたいに呼んで欲しーなー」

 

 あえて言おう。

 

 拗ねたお嬢様カワイイ。

 

 ぷくーっと頬を膨らませながら訂正を要求されてしまった。そう言われてしまっては、私も従わざるを得ない。そう、これはお嬢様からのお願いなのだから仕方の無い事なんだ、うん。

 

「えっと…………こ、この…ちゃん…………」

「ん~♪」

 

 嬉しそうにスリスリするお嬢様。こんなに喜ばれると少し恥ずかしい。

 

 しばらくの間、二人きりの部屋の中に穏やかな時間が流れていく。このままずっと、この幸せに浸っていたいけれどそうもいかない。

 私の右腕を抱き締めながら寄り添うお嬢様を受け止めていた私は、後ろ髪を引かれながらも話を戻す事にした。

 

「話を戻しましょうか。お嬢様、これからどうしますか?」

「せやねぇ。とりあえず、一週間逃げ切れたら今回のお見合い話は無くなると思うえ」

「そうなんですか?」

「六日後がお見合い当日やの。おじーちゃんには悪い思うけど、ここまで来たら出る気はあらへんよ」

 

 そう決意を表明するお嬢様。

 しかし一週間か……今回はタイミングが悪かったな。真名の協力を得られれば随分違ったんだが……。

 

「それでな、せっちゃん」

「はい」

「一週間せっちゃんの部屋に泊めてくれへん?」

「………………はい?」

 

 泊まる? 誰が? お嬢様が? どこに? ここに?

 

「どど、どどどどういう事でしょうかおじょうさま!?」

「今、明日菜も他の皆もおらへんし。流石に寮までは入ってこんと思うけど、一人やと不安なんよ」

 

 そういえばそうだった。

 確か、明日菜さんとあやかさんは何人かのクラスの人達と一緒に北海道にある雪広家の別荘に行ったんだっけ。なにやら計画がどうこう言ってた気がしたけど。帰ってくるのが確か一週間後。

 夕映さん達、魔法使い組は「ちょっと特殊な魔法薬の調合を行うので、長期間工房に引きこもるです」と言って昨日から連絡が取れなくなっている。

 

 いや……だがしかし…それは…………う~ん………。

 

「せっちゃん…………ダメ?」

 

 考え込んでいた私の服の裾を摘み、小首を傾げながらの上目使い。

 

 ああ………ダメだ…………堕ちる…………。

 

「……………………イエ、ダイジョウブデス……」

「ありがとう、せっちゃん♡」

 

 満面の笑みを見せてくれるお嬢様。

 

 ふふ……もうどうにでもなれ……。

 何がどうあっても、私はお嬢様には勝てないんだから…………。

 

 その後の一週間はお嬢様に振り回される事になった。

 いつも通りの過激なスキンシップから始まり、昼夜問わずぴったりくっついていた。食材や日用品は大体寮一階の麻帆良COOP『涼風』にあるのだが、それでも外に買いに行く必要が出てくる時がある。そういう時、私が一人で行って来ようとすると「一人はイヤや」と言って離してくださらず、結局私が折れて一緒に行く事になったり。

 外へ出るなら当然、少数だが寮の周囲でお嬢様を張っている黒服達を出し抜く必要がある訳で。出し抜たあとも巡回している者達がいる為、気が抜けなかった。お嬢様は終始楽しそうにしていらしたが。

 曰く「スパイごっこしてるみたいでちょっと楽しい」との事。不謹慎ながら、私も少し同じ事を思いました。

 

 朝夕の鍛錬も部屋の中で出来る軽いモノだけにした。ただ、その様子をジーっと見詰めるのは勘弁していただきたかった。薄着で行う為、汗で服が肌に張り付いて透けるので少し恥ずかしい。

 あと、突然入浴中に「洗いっこしよ~♪」と言って乱入するのはお止めください。びっくりしますし目のやり場に困ります。前を隠してください!? 前を!?

 

 就寝時も一緒に寝るのは別に構わないんですよ? 私も小さい頃に戻ったみたいで嬉しいですし。だけど寝惚けて私の寝間着を脱がさないでください。朝起きて、二人とも全裸で抱き合って寝ていた事に気付いて、心臓が止まるような思いをしましたから。

 そして、裸のままエプロンを着けて朝食の支度をするのはお止めください。白い小振りのお尻が大変目の保y…ではなく、大変はしたないですから。

 

 そんなこんなで一週間。いろんな意味で濃い一週間だった。

 今朝の時点でお嬢様が学園長に連絡を取り、お見合いは破談した事を確認。また、今後こういう事は勝手に決めたりせずにきちんとこちらに話す事を約束させ、お見合い騒動は収まったのだった。

 

「今回はホンマにありがとうな、せっちゃん」

「い、いえそんな……お嬢様のお役に立てて何よりです」

「むー、またお嬢様てゆうー」

「あっ……ご、ごめんなさい……」

「もー、しょうがないせっちゃんやなー」

 

 私呆れてます、と言いたげなお嬢様。勘弁してください。

 

「ほな、そろそろ明日菜が帰ってくる頃やから、ウチも戻るな」

「はい」

 

 こちらに手を振りながら自室へ戻って行くお嬢様。私も手を振り返しつつお見送りする。離れていくお嬢様の背中を見ていると、哀愁じみた感情が胸の奥から滲み出てくる。

 まだ離れたくない、もっと一緒にいたい、とでも言う様に。小さい子供か、私は。

 

 滲み出ようとする想いを振り払うように頭を振り、部屋に戻ろうとしたその時、こちらに走って近づく足音が聞こえた。

 何だろう?と顔を向けると、そこには私のすぐ傍まで戻って来ていたお嬢様。何か忘れ物だろうか?と考えていた私を余所に、お嬢様は私の頬に支えるように両手を添えて顔を近づk…………。

 

 ……………キスされた。

 ……………おじょうさまにきすされた。

 ……………オジョウサマニKissサレタ。

 

 唇が軽く触れ合うだけのモノだったが、不意打ちでされたソレの瑞々しく柔らかな感触を感じて、私の頭の中は完全に真っ白になった。

 

「な!? に!? にゅ!? にぇ!? にょ!?」

 

 「何をなさるのですか!?」と言おうとしても舌がもつれて呂律が回らない。そんな私を見ながら照れ笑いのお嬢様。

 

「にひひ、ずっと一緒にいてくれたお礼なー♪」

 

 悪戯成功と書いてある顔でそう言い、もう一度チュッとキスをしたお嬢様は「ほななー」と小走りで去って行った。

 

 その場に残された私はその後、真名が帰って来て声を掛けてくるまで、部屋の前の廊下で真っ白に燃え尽きた固まったままなのだった。

 

 

 * * * *

 

 

 麻帆良学園女子中等学校の一角。学園長室で向かい合う二つの人影があった。

 

 一つは、この部屋の主であり麻帆良学園の学園長である近衛 近右衛門。

 

 もう一つは、一週間前に一番最初に木乃香と刹那を発見した黒服の男性だった。

 

 近右衛門はどこぞの顎鬚グラサンな司令官のポーズをとりながら黒服の話を聞いていた。

 

「報告は以上です、学園長」

「ふむ、ご苦労じゃったの。明日からは通常勤務に戻っとくれ」

「了解しました。では、失礼します」

 

 近右衛門に敬礼し、退室する黒服。一人になった近右衛門は、椅子の背もたれに身体を預けながら長い髭を撫で、先程黒服から聞いた報告内容を頭の中で整理する。

 しばらくして粗方整理し終わった時、頃合いを見計らったかのように携帯が着信を知らせた。

 

 表示には『孫』の文字。

 

 近右衛門は予想通りの相手に顔を綻ばせながら通話ボタンを押した。

 

「ほいほい、じーちゃんじゃよ」

「あ、おじーちゃん? ウチやよー。今回はありがとうな、こんな無茶な我侭聞いてもろて」

「ふぉっふぉ、構わんよ。可愛い孫のお願いじゃからのぅ。で、どうじゃった? この一週間は?」

「にへへ~。最っ高やったよー♪」

 

 そう。今回のお見合い騒動、実は真っ赤な嘘である。

 真相は、夏休みを利用した近衛 木乃香による桜咲 刹那篭絡計画の一端であった。

 

 事の始まりは常日頃から刹那にアピールしていた木乃香が、友であり、師であり、同士でもある宮崎 のどかにある事を相談した事にある。

 

 木乃香曰く「最近マンネリ化しとる気がする」と。

 

 それを聞いたのどかは近右衛門と結託して裏で暗躍を開始した。

 

 まず、龍宮 真名に長丁場になるが割りの良い仕事を依頼し、刹那が長期にわたって一人になるようにセッティング。また、周囲のクラスメイト達には北海道旅行に行ってもらった。

 当然、綾瀬 夕映・神楽坂 明日菜・雪広 あやか・早乙女 ハルナはグルである。

 

 次に架空のお見合いをでっち上げ、それから逃げる木乃香と接触させ逃走させる。木乃香に頼られれば忠犬・刹那は容易く動くだろうと予想。適度に追っ手をけしかけ、危機感を(あお)る。追いやすくする為に木乃香には発信機を隠し持ってもらった。

 

 逃走後、ダミーのお見合い写真を見せつつ木乃香が事情説明。木乃香自身が望んでいないお見合いだと知れば刹那は積極的に木乃香に協力するだろうと予想。

 ちなみに、お見合い写真の中にはおふざけで入れた若かりし頃の近右衛門の写真があったりする。名家の次期当主と銘打った物がそうだ。頭が長くないからか、刹那は気付かなかったが。

 

 そして「一週間逃げ切れればこの一件は終わる」という分かりやすいクリア条件を提示。同時に一人でいる事への不安を訴え「期限まで一緒にいて欲しい」と懇願。周囲に協力を要請出来る人物がいない刹那は、十中八九受け入れるだろうと予想。

 

 そこからは木乃香の独壇場だ。いつもと違うシチュエーションを思う存分堪能しながらアピールするだけである。寮の周囲には少数の見張り役を置き、また二人が外出する際には街中の見回り役を配置して緊張感の演出もした。

 

 これが今回の騒動の全容である。

 

「……ってせっちゃんがゆーてくれてな? あの時のせっちゃん、めっちゃ格好良かったえ♪」

「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか」

 

 木乃香の惚気を聞きながら、計画が上手くいった事に近右衛門は安心した。これだけ孫の嬉しそうな声が聞けたのなら、協力した甲斐があるというものだ。

 

「あっ、明日菜帰って来た。ほなおじーちゃん、ホンマにありがとなー」

「よいよい、また何かあったらいつでも相談するとええ。明日菜ちゃんによろしくの」

「うん。ほななー」

 

 携帯を切って机に置き、近右衛門は思考する。

 

 近右衛門としては木乃香と刹那がくっつく事に異論はない。同性愛は一般的には少数派でも裏の、特に魔法関係だと割りと良くある事だからだ。

 

 魔法世界は旧世界に比べて性に対する認識が大らかな傾向が強い。例を挙げるならば、独立学術都市国家にある魔法騎士団候補学校の選抜試験の1つである『脱がし合いレース』である。うら若き乙女達が盛大に脱がし合う光景を見物する為に訪れる観光客も少なくない。

 その他にも、戦闘中に全裸で活動する褐色ロリ乳神・壮絶な脱がし技やセクハラ技を持つ伝説のAU・下着姿同然の格好で街中を闊歩する女賞金稼ぎ等がいたりする。

 

 そんな魔法世界には当然そっち(・・・)関係の物も沢山ある。魔法が使用されている所為か、旧世界の物より多種多様の物が。

 

 本来であれば、跡取り問題などが付いて回る同性愛だが、それを解決できてしまう物がある事も近右衛門が反対しない理由の一つである。

 

 今は亡き親友が自分の妻との夜の性活を充実させる為に、そういった物の研究をしていた事を近右衛門は知っている。亡き親友が『魔薬』と名付け門外不出にした物の中に多種多様のソレ等がある事も知っている。というか、かつての若かりし頃の自分も随分お世話になった。

 そして、ソレ等を含めた全てが彼の孫娘に継承されている事も知っている。いざとなれば彼女に調合依頼を出すのもありだろう。彼女なら対価と引き換えに引き受けてくれるはずだ。

 

 何故なら、彼女は木乃香の友であり、理解者(同じ性癖持ち)であり、先駆者なのだから。

 

 そう結論を出した近右衛門は、新学期関係の書類を片付けてゆっくりする事にしたのだった。




『このせつ』の書き易さに驚愕した。
いやホント、スルスル書けるんですよ、この二人。

さて、次回からようやく原作に入れます。
野良犬はUQホルダー持ってないし読んでないので、そっちの設定はガン無視で行きます。

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