三つの中で一番短いですが、生暖かい気持ちで読んで頂けると幸いです。
『神楽坂 明日菜の憂鬱』
中学生になって二回目の麻帆良祭が間近に迫ってきたある日の放課後。私は
「それでは、これより『第四回 高畑先生対策会議』を始めます。議長は私こと、神楽坂 明日菜です」
「副議長の綾瀬 夕映です。今回の議題
私は自分の隣にいる彼女に少しだけ視線を向ける。
いつものアンニュイな顔で『すき焼きソーダ・オレ』なるヘンテコジュースを飲みながら、進行役を務める親友の一人。
『綾瀬 夕映』
小1の時に一緒のクラスになって以来だから、もう6年以上の付き合いになるのかぁ。
転校早々やらかした為、委員長相手だとどうしても意固地になってしまう当時の私(今もだけど)に構って、のどかと二人でなにかと世話を焼いてくれたっけ。
二人がいなかったら、私は孤立してたかもしれない。
……………ないか。麻帆良市民の気質を考えたら。
まあ、あれよ。
そんな感じで私と委員長がケンカして、夕映とのどかがそれを傍で「やれやれ」って感じでため息を吐きながら見てる構図がクラスで定番になってた。
小2の時、木乃香が引っ越して来て私と一緒に寮暮らしするようになってからは、五人でよくつるむ様になった。
一時期、別のクラスになったりもしたけど、疎遠になる事無く今に至る。
現在、教室にいるのは私達含めて、のどか・木乃香・刹那さん・パルの六人。図書館探検部は、麻帆良祭に向けて図書館島の設備メンテナンスを行ってる為お休み中。
刹那さんは最初、剣道部に入ろうとしてたみたいだけど、木乃香が却下。図書館探検部に引きずり込んだらしい。一晩かけてじっくりねっとり説得したって言ってたわね。
木乃香が刹那さんを説得しに行った晩は、ウチの部屋に刹那さんと同室の龍宮さんが泊まりに来た。空気を読んで出て来たらしい。それまで教室ではあまり話す機会がなかったけど、思いの外話が弾んだ。主に私が夕映の昔話をしてただけだけど。ていうか、龍宮さんが興味を持ったのが夕映の話だった。
なんでも、今やってるバイト関係で世話になってるらしい。そういえば、夕映のおじいさんがやってた内職を夕映とのどかが引き継いだんだっけ? ソレ関係かしら?
話してみて思ったけどすごく大人っぽい人よね、龍宮さんて。年上のお姉さんっぽい。本人、実年齢より上に見られる事気にしてるらしい(夕映談)から言わないけど。
次の日、
委員長は華道部。なんでも、なんちゃら流のイエモトさん?とかいう華道の偉い人が特別に来る日らしい。お嬢様笑いしながら出て行った。
なにが「粗暴なお猿さんには生け花の良さは判りませんわ~、おほほほ~♪」よ! ホント、一言余計よね!
中学生になってから夕映とのどかが紹介してくれたクラスメイトのエヴァちゃんと茶々丸さんは茶道部に行っちゃったので欠席。
入学式の日。初めて二人を、正確にはエヴァちゃんを紹介された時は驚いたわ。だっていきなり「二人目の恋人です」だもの。しかものどか公認。一緒にいた龍宮さんも固まってたわよ。
まあ、本人達が納得済みなわけだし、いいんだけどさ。
ちょっと胸がもにょもにょしたけど、仲良くなれたらいいなー、って思ったんだけどね?
なんでか私、エヴァちゃんにあんまり好かれてない感じがする。露骨に嫌われてるとか、邪険にされてる訳じゃないんだけど。
う~ん? なんでだろ? 茶々丸さんは普通に接してくれるんだけどなぁ。
今度夕映に聞いてみよ。
「は~い」
「はい、近衛 木乃香さん」
律儀に手を挙げる木乃香と、いつの間にかかけていた眼鏡をクイッと指で持ち上げ指名する夕映。
どっから出したのよ、ソレ?
「まずは明日菜のヘタレ具合をなんとかせんといけへんと思うえ」
「あぐっ!?」
木乃香の言葉の五寸釘が胸に突き刺さった。 痛い、痛いわぁ…。
「具体的には?」
「高畑先生の携帯に電話もでけへんのは、なんぼなんでもまずいと思うんよ」
わかってる、わかってるのよ!?
でもしょうがないじゃない!?
携帯持つと手が震えるし、心臓バクバクするし、頭ん中真っ白になるんだもの!?
「…はい」
「はい、宮崎 のどかさん」
少し遠慮気味に手を挙げるのどか。
「高畑先生の姿を見かけただけで、逃走するのも直した方がいいと思う…かな」
「かふっ!?」
思わず教卓に突っ伏す。
木乃香ものどかも容赦無いわね……自業自得だけどさ、フフ……。
だって、どうしても緊張しちゃってダメなのよぅ…。
しかも『高畑先生と学祭回ってる私』とかイメージ出来ない。欠片もね。
フフフフフ………………。
そんな事考えてたら、話は次に移ってた。
「では、以上の事をふまえて解決策を議論しましょう。案のある方」
「はいっ!」
「はい、早乙女 ハルナさん」
元気良く手を挙げるパル。
あの「今弄らずいつ弄るのか」って顔、嫌な予感しかしないわね。
「まあ、今までの結果から生半可な方法じゃ無理なのは分かり切ってる事よね?」
パルの言葉に示し合わせたかのように、私以外の全員が頷く。ちくせう。
「失敗の原因は明日菜の敵前逃亡するヘタレさにある、と言っても過言じゃないわ!」
うっさいわね!?
「だったら、逃げられない状況を作り上げてしまえばいい! 最終的には、明日菜自身の行動に掛かっているのは致し方ないけども」
「その口振りからすると、具体案があるですね?」
「もっちろんよー!」
「「「おお~っ」」」
得意げにその無駄にデカイ胸を張るパル。
感心の声を上げるみんな(私と夕映以外)
みんなに協力をお願いした私が言うのもなんだけど、発案者がパルって言うだけですごく不安になるのは何でかしらね?
これが『日頃の行いが物を言う』ってヤツなのかしら?
パルの提案の内容は以下の通り。
・STEP1
場所:第69宿直室
場所指定の理由(情報提供者:宮崎 のどか)
1.現在は使われていないが、定期的に業者の清掃が入る為いつでも清潔。
2.窓の種類がルーバー窓・オーニング窓しかない為、窓からの逃走が不可能。
3.簡易的なキッチン・シャワー・トイレ・ベッドがあり比較的長時間の滞在が可能。
4.利用目的者以外は滅多に人の来ない恋人達のマル秘逢引スポットのひとつ。
・STEP2
注意:閉鎖と同時に『超特製妨害電波発生装置』を起動。携帯の使用を封じる。
・STEP3 お気に召すまま♡
注意:装置の稼働時間は3時間が限界の為、迅速な行動を心掛ける事。
「以上が私が提案する、名付けて『密室内で気になる彼と二人っきり!? 高畑先生をラブラブゲッチュー大作戦』よ!!」
「「「おおお~っ」」」
「…………バカばっかです」ボソッ
ドヤ顔しながら、ちゅ~に的ポーズで私をズビシッ!と指差すパル。
パチパチと拍手をする三人。
ボソリときつい事言ってる夕映。
とりあえず気になった事はふたつ。
「ねえパル? STEP3って具体的になにするのよ?」
「そりゃあアンタ、煮るも焼くも思うがままよ。まあ、あえて言うなら」
「あえて言うなら?」
「O☆SHI☆TA☆O☆SE☆」
「出来るかあぁぁぁーー!!!」
「アイタァー!?」
○コちゃん顔でサムズアップしてるパルのオデコに全力でチョーク投げした。
反省も後悔もしてない。パルだし。
そしてもうひとつの気になった事。
ねえ夕映? 使ったの? 使った事あるの? ねえ?
のどかがやけに詳しいのはそういう事なの? ねえってば?
「…………今日はいい天気ですねぇ」
遠い目をして窓の外を眺め出す夕映。
誤魔化せてないわよ?
その後は、即復活して話に喰い付いたパルが私と一緒に夕映を尋問し出したり、木乃香がのどかに宿直室や他の逢引スポットの詳しい話を聞き出したり、二人の話を聞いていた刹那さんが真っ赤になって頭から煙出したり、夕映達を迎えに来たエヴァちゃん達や部活が終わって荷物を取りに来たゆーな達も巻き込んだ騒ぎになり対策会議は自然消滅した。
* * * *
「で? 例の如くこの有様ですの?」
第77回麻帆良祭終了後の振り替え休日の午後。落ち込んでた私の部屋に夕映と委員長が来た。委員長の呆れ顔がムカつく。
ちなみに木乃香は刹那さんの所に襲撃しに行った。おのれリア充。
「毎度毎度懲りませんわねぇ。今回もデートには誘えなかったんですの?」
「みたいです。私は実行時間の時、クラスの出し物の担当時間だったので詳しくは知らないのですが、STEP2まではうまくいったらしいです」
そう、途中までは計画通りにいったのよ。木乃香と刹那さんが高畑先生を宿直室に呼び出して、高畑先生が部屋に入ったあと隣の部屋で待機してたのどかとパルが扉を閉鎖して、あとは私次第って状況になったの。でもすぐに話を切り出すとか出来なくて、落ち着く為の時間稼ぎにお茶を淹れたわけよ。
で、淹れたお茶を持って行く途中、緊張で足が
中身入りのヤツが。
それ見た時、頭から血の気がサーっと引いたわ。謝りながら急いで拭こうと思ったんだけど、落ちてきたティーポットが私の頭頂部にクリティカルヒット。パニクってたところに衝撃が加わって気絶。気付いた時には制限時間はとっくに終わっていて、保健室のベッドに寝かされてた。そのあとも学祭中に何回か高畑先生に会ったんだけど、その時の事思い出しちゃって即行で逃げちゃったのよ。
「自業自得ではありませんか」
「ぐふっ!?」
委員長の情け容赦ない言葉が突き刺さった。
学祭の雰囲気で誤魔化してたけど、もう無理。
自分に対する情けなさとか、高畑先生への申し訳なさとか、今年もやっぱりダメだったっていう一種の諦めとか、色んなナニカが溢れ出た。
「う、うわあぁぁぁん! 夕ぅぅ映ぇぇぇ!」
「あー、よしよしです」
夕映に思いっきり抱きついた。
私だって好きで失敗してるんじゃないやい。
彼女の胸に顔を埋めながら傷心を癒す事に専念する。
小さい時から構われてきた所為か、なんか私って夕映に対して甘え癖がついてる気がする。
「この女は、また夕映さんに甘えて。夕映さんも夕映さんですわ。前々から思っていましたけど、この女を甘やかしすぎではなくて?」
「まあ、自覚はあるですけど。なんとなく拒みずらいと言いますか」
委員長がなんか言ってるけど気にしない。
スルーよ、スルー。受け流せ私。
都合の悪い事は聞こえない振りをし、女の私ですら華奢だと思う夕映の身体を抱き締めて、頭を撫でられながら女の子特有の柔らかさを堪能する。
はああぁぁぁ、癒されるわぁ。
のどかやエヴァちゃんがよく夕映にくっつきたがるの見かけるけど、よく判る。
夕映にくっついてると、なんか安心するのよね。柔らかいし、温かいし、いい匂いがするし。
それに、この撫でスキル。
丁寧に髪を梳くように撫でられると、気持ちよくて眠くなる。実際に何度か寝落ちした事あるし。
むむ? この感触、去年より胸が大きくなってるわね?
確か夕映って身長140cmないのよね? 他の部分も全部小さくて細い。なのに胸だけはそこそこあるもんだから、ちょっとした『脱いだら意外と凄い人』になってたりするし。まあ、のどか程じゃないけど。
夕映ものどかも着痩せするタイプだからか、こうやって触るか服脱がすかしないと分からないのよね。
ちょっと羨ましい。
夕映と委員長の話し声を聞き流しながらそんな事を考えていた私は、襲い掛かってきた睡魔に抵抗する事無く、全面降伏することにした。
* * * *
「ん~?」
あ、いけない、寝ちゃった。
後頭部に柔らかいモノがあるのを感じる。どうやら寝返りでも打って仰向けになってるらしい。
瞼を開けると、目の前に夕映の寝顔が見えた。膝枕されたまま周りを軽く見渡しても、部屋の中には私達二人だけ。委員長はとっくに帰ったみたい。ちょっと悪い事したかしら?
夕映を起こさないように、そっと起きてから時計を確認。
17:12
結構寝てた。夕映にも悪い事しちゃったわね。
なんとなく、ぺたん座りで壁にもたれて寝てる夕映を観察してみる。
あ、膝枕してたせいか、スカートが少し捲れてる。
……………白ね。
って違う違う。どこ見てんの私。
手早く夕映のスカートを直して再度観察。
穏やかに寝息をたてながら寝ている夕映を見ていたら、なんだか胸がドキドキしてきた。
私がおかしくなるのをはっきりと自覚したのは去年の麻帆良祭の時。
高畑先生の事を意識し始めて三回目の学祭で、毎年の如くデートに誘う事に失敗した私。木乃香達と回ろうにも若干予定が合わず時間が空いてしまい暇だった私は、時間潰しの為に一人ぷらぷらと出し物や屋台を見て回っていた。
そんな時、用事があると言って早々に姿を消したロップイヤーなウサミミを着けた夕映を見つけた。こちらに気付かずどこかへ向かう夕映に好奇心と悪戯心が刺激され、私はこっそりと後をつけてみることにした。
後をつけてみてわかったんだけど、夕映の交友関係がハンパない。
中等部の制服を着た短いツインテの娘。
聖ウルスラ女子高等学校の制服を着た金髪の人。
生真面目そうな眼鏡の黒人さん。
恰幅の良い優しそうな人。
短いスカートの黒人シスター。
ゆーなのお父さん。
キリッとしたキャリアウーマン風の人。
サングラスとお髭が渋いおじ様。
身体がスゴク大きいスキンヘッドの人。
ホントいろんな人に声をかけられて、親しそうに話してた。どういう繋がりなのかしらね?
ていうか、あの渋いおじ様紹介して欲しい。
そうこうしている内に目的地に着いたらしい。
場所は世界樹前広場。待ち合わせ場所や告白スポットとして有名な場所。誰かと待ち合わせでもしてるのか、壁に寄りかかり鞄から紙パックのジュースを取り出して飲み始める夕映。
遠目で見えづらかったけど何を飲んでるのかわかった。
『学祭限定 マッスルエクササイザー』
また変なの飲んでるし………。夕映が好んで飲むヘンテコジュース(正式名称は知らない)は当たり外れが激し過ぎる。私も怖いもの見たさで時々貰う事あるけど、あんなのよく平然と飲めるもんだと思う。
夕映曰く「探究心を刺激される未知の味と常識を粉砕する新食感が堪らないです」らしい。
ちょうど夕映が飲み終わった時、ようやく待ち人が来た。来たのは良かったんだけど、相手を見て私は動揺した。
だって相手が高畑先生だったから………。
仲良さそうに連れ立って歩いて行く二人を慌てて追いかけたけど、頭の中はぐるぐるしてた。
(あれ? なんで高畑先生? いや、確かに普段から仲良さそうではあったけど……。はっ!? まさかデート!? デートなの!? 待ち合わせとかしてるし!? ダ、ダダダメよ夕映!? 私だってまだちゃんとしたことないのに、そんなうらやまs……じゃなくて! ほらっ! あれよ! アンタにはのどかやエヴァちゃんがいるじゃない! 大体、高畑先生も高畑先生よ! そりゃ高畑先生にも好きな人がいてもおかしくないけど、よりにもよって夕映だなんて! ダメよ! ダメダメダメ! いくら高畑先生でも認められないわ! そ、それに夕映にはもう恋人いるし! 高畑先生男だし! だからダメ! ダメなのーーー!!)
こんな感じで。
ちょっと混乱しながらついていく私。目に映る、仲睦まじく並んで歩く二人(注:妄想で美化されています)を見ていたらモヤモヤというかもにょもにょというか、胸の内が変な感じになった。
以前から二人が一緒にいるところを見ると嫉妬に似た感情を持つようになってたけど、私はこの時初めて高畑先生と仲良さそうな夕映と
結局その後、意識が逸れて二人を見失っちゃったけど私はそれどころじゃなかった。夕映と高畑先生に感じていた嫉妬に似た感情は、それぞれ違う感じがした。
夕映に感じたのは『ズルイ』って感じ。
高畑先生に感じたのは『取らないで』って感じ。
あれ? おかしい……高畑先生に感じた感情がなんかおかしい。そう思って思い返してみたけど、やっぱり間違いなんかじゃなくて。この時の私は気付いちゃいけない事に気付いてしまいそうな気がして、怖くなって考えるのをやめた。
* * * *
あれ以来はっきりと分かるようになったこの気持ちはなんなんだろう? 夕映がのどかと一緒の時には感じず、エヴァちゃんや高畑先生と一緒の時には感じるこのもにょもにょ感。
私が夕映と二人っきりの時に感じるドキドキ感。
分かりたいような、分かりたくないような…………ハァ。
こっちが悩んでるのに今だに眠ったままの夕映に、理不尽と分かりながらもちょっと腹が立った。
どうしてくれようか、と少し考えふと思いつく。
よし、悪戯してみよう。
あれよ、油断して寝てる方が悪いって事で、うん。
起こさないようにゆっくりと夕映の頬を指でつついてみる。凄くぷにぷにしてる。
今度は撫でてみる。ずっと触っていたくなるスベスベした感触が手のひら全体に伝ってきた。
……………………癖になりそうかも。
次はどこにしよう? そう思って目に付いたのは唇だった。頬に手を当てたまま、親指でそっと下唇をなぞってみる。頬とは比べ物にならないくらいに柔らかく瑞々しい。寝息が指にかかってちょっとくすぐったいけどやめられない。これでリップクリームとか使ってないってんだから詐欺もいいとこよね。
夕映の唇を弄りながら思い出すのは数ヶ月前の事。
教室に忘れ物(明日提出の課題)を取りに来た私は教室内に誰かいるのに気付いた。放課後になって結構時間が経ってたから、とっくにみんな帰ったもんだとばかり思ってた。誰が残って何してるのか気になった私は、中の人に気付かれないように教室内を覗いてみる事にした。
ソレを見て声を上げなかった私は称賛モノだったと今でも思う。
中にいたのは夕映とのどか。
椅子に座っている夕映の顎をくいっとのどかが持ち上げて上を向けさせ、夕陽をバックにお互いの唇を合わせてた。今まで二人がくっついてイチャついてるのは見た事あったけど、
驚いたけど、私は目が離せなかった。
見てるだけで胸がドキドキして、顔や身体が熱くなって。
まるでドラマや映画のワンシーンみたいで、オレンジ色の光の中でキスしてる二人を素直に綺麗だと思った。
二人のキスシーンを見始めていくらか経った頃、のどかが今度は夕映の両頬を両手で支えて、さっきよりももっと深いキスをしだした。こっちにまでくちゅくちゅって音が聞こえてきそうなぐらいのディープキスを。
ディープキスをする直前、のどかがこっちをチラリと見た気がしたけど夕陽の逆光でよく見えなかったし、多分気のせいだと思う。こっちに気付いてるならそのまま続ける訳ないし。
夕陽の中でも分かるくらいに顔を赤く染めながらコクリ、コクリ、と喉を鳴らしてナニカを飲み干していく夕映。
それを見て妖艶に微笑みながら、夕映のベストを脱がしてブラウスのボタンを外し始めるのどか。
これ以上見てるのは流石にマズイと思った私は、さっき見た情事を思い返しそうになるのを頭を振って阻止しながら、二人に気付かれない様に急いでその場を離れた。
* * * *
夕映の唇をふにふにと弄りながら考える。
この胸のドキドキはなんだろう? 二人のキスシーンを思い返し所為だけじゃない。高畑先生に感じるドキドキとは似てるようでなんか違うソレ。高畑先生の時みたいにパニックになるような感じじゃなくて、苦しいような、心地良いような、そんないろんなモノが混ざった感じ。でも、けして嫌な感じじゃない。むしろもっと感じたいと思うくらい。
う~ん? ちょっと頭ん中整理してみよう。
問1.私が好きなのは?
答え.高畑先生。
問2.夕映の事は?
答え.もちろん好き。
問3.ソレはどういう好き?
答え.………分かんない。
「……………………ホントなんなのよ!? もーーー!!」
煮詰まった。
慣れない考え事をしてイライラした私は頭を抱えてブンブン振り回す。
その時、丁度部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。
「ただいま~。ささ、入って入って」
「お、お邪魔します……」
「明日菜~、今日のお夕飯せっちゃんも一緒してええ…ってなんや、いつものか」
「あの、お嬢様? 明日菜さんは一体どうされたんですか?」
「なんや最近よくああなるんよ。しばらく放っといたら治るから気にせんでええよ」
「はあ………あ、夕映さん」
「あっちは良う寝とるね。起こさんとこか」
木乃香が帰ってきて何か言ってるみたいだけど、私の耳には入ってこない。そんな余裕、今の私にはない。
「ウガーーーー!!」
「………本当に放っておいていいんでしょうか? 吼えてますけど」
「ええのええの。いつもの事やから」
その後、一通り暴れ倒して力尽きた私は、晩ご飯が出来るまでのあいだ、夕映の膝枕でふて寝することにした。
別に、誰も構ってくれなかったから拗ねたわけじゃない。ないったらない。
ちなみに、結局夕映は夜遅くになっても起きなかった為、その日は私達の部屋に泊める事にした。私が言うのもなんだけど、あれだけ周りで騒いでても起きないって大物なのか図太いのか。
そして、のどかのケータイに連絡を入れてその事を伝えた時、電話の向こう側でのどかが凄くイイ笑顔で笑ってる気がしたけど、気にしない方がいい気がする。
夕映は私のベッドに寝かせる事にした。ソファで寝かせるのはなんか違う気がして。決して一緒に寝たかったからとかじゃない…………………ホントよ?
ただ、それを見て羨ましがった木乃香が自分のベッドに刹那さんを引き擦り込んでた。
ゴメンね。そうなった木乃香は私には止められないの。
だからそんなフル○ルに飲み込まれていくケル○ーみたいな目で見ないでね。
なんか切なくなるから。
刹那さんが私を呼ぶ声を聞こえないフリでやり過ごし、私は夕映を抱き枕にしてさっさと寝る事にした。
追記:今までで一番気持ち良く眠れた。機会があったらまた抱き枕にしよう。
次話投稿は23日0時です。