長かった、ホント長かった。
いえね?
ちょっと原作入る前に、他の人視点やろうと思ったらこの有様ですよ。
最終投稿日から2ヶ月も過ぎてもーた。
コチコチと書き続けた結果、総文字数 33317文字。
あまりの長さに書いた本人がビックリしました。
…………何やってんだ自分。
今回流石に長過ぎるので、上中下の三つに分けて連続投稿します。
『茶々丸日記』
◇2001年4月1日
本機『絡繰 茶々丸』の本格起動に成功。
マスターエヴァンジェリンと夕映様、訂正
夕映さんの
『その日、気になった事や心に残った事を書き残しておく』
『自分の変化を客観的に見るのに最適』だそうです。
専用の日記フォルダを作成。
ココロ………。
ガイノイドである私にあるのでしょうか?
◇2001年4月3日
マスター達を観察していて判明した事。
マスター・夕映さん・のどかさんの三名は、肉体関係のある恋人同士であると判明。
同性による生殖行為は生物学的にも非生産的であるのは明白のはず。
理解不能。
とりあえず、行為の一部始終を撮影。
◇2001年4月4日
超とハカセに聞いてみました。
製作者権限で証拠映像を閲覧した二人の体温が急上昇したのをセンサーが感知。
心拍数が急激に増え、ハカセは気絶。
超は鼻を押さえながら遠い目をしていました。
超曰く「私達には刺激が強すぎるヨ……」との事。
答えは聞けませんでした。
◇2001年4月5日
マスター達に聞いてみました。
マスターと夕映さんがお茶を吹き、のどかさんは恥ずかしそうに笑っていました。
マスター、そんなに巻いてはいけません。
マスター曰く「欲しいと思ったからヤった。理屈ではない」
のどかさん曰く「必要かどうかじゃなくて、したいかどうかですね」
夕映さん曰く「陳腐なセリフになりますが『愛さえあれば』と言うヤツです」
アイ………。
………難しいです。
AIが発達すれば理解できるようになるのでしょうか?
今後も調査の為、対象の観察・記録の継続を決定。
◇2001年4月6日
新たな観察対象を発見。
近衛 木乃香さん・桜咲 刹那さんのペア。
木乃香さんの行動パターンはマスター達には無かったもの。
サンプルとして優良と判断。
要観察対象に設定。
早速二人の映像を撮影。
新たに専用フォルダを作成。
今まで収集した記録映像をフォルダへ移動。
比較検証の為、収集した記録映像を記憶ドライブ内でリプレイします。
◇2001年4月27日
収集した記録映像を検証した結果、マスター達の関係の中心は夕映さんであると判断。
夕映さんに対する観察行動を増やす事を決定。
早速、魔法薬の調合を手伝ってみた。
作業姿や横顔を撮影。
リプレイリストに追加。
◇2001年5月13日
夕映さんと二人、下校途中に夕飯の足りない食材を買いに行った帰り道。
起動してから初めてネコに遭遇。
私は猫を見たまま動けなくなってしまいました。
なぜでしょう?
そんな私の足元に擦り寄って来るネコ。
どうすれば良いのか分からず、とりあえず撮影。
夕映さんの提案で出汁用に購入した煮干しを極少量だけ与えてみました。
私の手に前足を乗せ、煮干しを食べるネコから目が離せません。
なぜでしょう?
ネコと戯れる夕映さんをフレーム内に収め撮影。
リプレイリストに追加。
◇2001年5月25日
中間テストの結果発表(1年生737人)
1位 超
2位 ハカセ
4位 あやかさん
9位 夕映さん
10位 のどかさん
101位 木乃香さん
113位 マスター
114位 私
361位 五月さん
384位 ハルナさん
515位 刹那さん
651位 明日菜さん
明日菜さんが馬鹿四天王の一人に選ばれ、机に突っ伏していました。
夕映さん達が声をかけても返事がありません。
マスター? 明日菜さんは
◇2001年6月10日
明日菜さんが高畑先生に学祭デートを申し込もうとしていましたが失敗。
落ち込んで夕映さんに泣き付いていました。
毎年の事だそうです。
明日菜さんの頭を苦笑しながら撫でている夕映さんを撮影。
リプレイリストに追加。
◇2001年6月20日
麻帆良祭開始。
1-Aの出し物は『超包子・1-A出張店』
私達は初日の担当です。
チャイナドレスや高腰
超・ハカセ・五月さん・刹那さんが、丈が膝上のチャイナドレス。
私・明日菜さん・のどかさん・ハルナさんが、丈の長いチャイナドレス。
マスター・夕映さん・木乃香さん・あやかさんが、高腰襦裙。
いつもと違った服装もお似合いです、皆さん。
超も、明らかに普段着よりも質の良い服で気合が入っています。
さて、撮影撮影。
◇2001年6月21日
今日は夕映さんとのどかさんがデートするようです。
茶道部の野点にも来てくださいました。
着物、とてもよくお似合いです。
リプレイリストに追加。
しばらく見てまわった後、別荘で二人きりでゆっくりするそうです。
撮影をしに行こうとしたら姉さんに「流石二止メトケ」と止められました。
残念です。
◇2001年6月22日
夕映さんが少しお疲れ気味でした。
昨夜はいつも以上に激しかったようです。
今日は夕映さんとマスターがデートするようです。
ああ、マスターが子供のようにはしゃいでいます。
夕映さんの笑顔からも目が離せません。
マスターに手を引かれながら、とても柔らかな笑みを浮かべる夕映さんを撮影。
リプレイリストに追加。
私と姉さんは、のどかさんの惚気を聞きながらお祭りを回りました。
姉さんはグッタリしていましたが、私はとてもいいサンプルを録音できました。
今日も行為の撮影には行けませんでした。
残念です。
◇2001年6月23日
本日は麻帆良祭 振り替え休日。
夕映さんが
どうやら昨夜も激しかったようです。
現在、皆さんはレーベンスシュルト城にてお休み中。
私は、別荘内にセットしておいた超小型隠しカメラ(録音機能付き)を回収。
データを転送。
画像・音声、共に良好。
データが増えてきたので、ノーマルなモノはお気に入りフォルダへ。
R-18的なモノは、新たに作成した隠しフォルダへ移動。
23個のロックを30秒以内に解除出来なければ、パスワードが自動変更。
最初からやり直しという仕様。
それが1ダース。
この日記にも同じタイプのロックを設定。
これなら超達もそう簡単に開けられないはず。
……エッチな本を隠そうとする男性とは、この様な感じなのでしょうか?
◇2001年6月24日
隠し撮りがバレました。
姉さんの裏切り者。
マスターの
マスターも超も失礼です。
私はどこもおかしくありません。
ハカセ、私のログを見て興奮しないでください。
AIシステムに異常はありません。
……隠しフォルダーと日記は無事隠し通せました。
◇2001年7月26日
本日から夏休み。
休み中、夕映さん達の魔法訓練のレベルを上げるそうです。
それに伴い、私のデータ収集を目的とした戦闘訓練も一段階上のモノに。
今の私では一対一では夕映さん達に敵いません。
遅延魔法と魔法薬を駆使するオールラウンダーで、スピード重視の魔法剣士な夕映さん。
雨霰と降り注ぐ無属性砲撃の所為で、近付く事さえ出来ない魔砲使いなのどかさん。
最低限、瞬動術が使えなければどうにもなりません。
超とハカセに追加機能として申請しておきましょう。
◇2001年8月5日
夕映さんとのどかさんが明日菜さん達と海へ出掛けられました。
行き先は神奈川県藤沢市の片瀬西浜海岸。
夕映さんは行くかどうか迷っている様子でしたが、マスターに諭され行く事にしたようです。
日程は二泊三日だそうです。
マスター・姉さん・私はお留守番です。
マスターは「気にせず行ってこい」とおっしゃられていましたが、私は見逃していません。
夕映さん達を見送った時の寂しそうな顔を。
証拠画像もあります。
「寂しいのですか?」と聞いたら激しく巻かれました。
これが理不尽と言うモノでしょうか?
◇2001年8月6日
特になし。
マスターと姉さんは一日中ごろごろしていました。
◇2001年8月7日
夕方頃に夕映さん達が帰宅されました。
なんでもないような振りをして出迎えるマスター。
ですが、嬉しそうなのが私でも分かります。
証拠画像もあります。
夕映さんに「マスターは寂しかったそうです」と証拠画像を添えて伝えました。
マスターに激しく巻かれました。
理不尽です。
お土産も頂きました。
マスターと私には神奈川県近海で採れたという夜光貝のアクセサリー類。
姉さんにはいづみ橋という神奈川県産の日本酒。
夜光貝は本来、屋久島・種子島以南の暖かい海域に生息している貝のはず。
なぜ神奈川県近海で採れたのでしょう?
◇2001年8月23日
本日は夏祭りです。
場所は龍宮神社。
マスターがこの日の為にはりきって作っていた浴衣で着飾ります。
私の分までありました。
ありがとうございます、マスター。
夕映さん達の着付けを手伝いました。
恥ずかしそうに私に着替えさせられる夕映さんを撮影。
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現地で浴衣姿の明日菜さん達と偶然遭遇。
そのまま一緒に回る事になりました。
途中、人混みに流され夕映さんと二人きりに。
はぐれない様に、と夕映さんに手を引かれながらお祭りを散策。
握られた手に謎の温かさを感知しました。
触覚センサーはまだ搭載していないのですが。
何故でしょう?
手を繋いだ時点から胸部駆動モーターの回転数が増えているのを感知。
頭部の冷却装置も上手く機能していないようで、温度が上がっています。
その後なんとかマスター達と合流。
手を離された時、謎の喪失を感知しました。
何故でしょう?
◇2001年9月16日
超包子にて、夏の遅く出来た物・秋の早物を使った旬のフェアを開催。
食材は以下の通り。
○野菜
キュウリ トマト ナス かぼちゃ ピーマン 苦瓜
オクラ 枝豆 しし唐
瓜 蓮根 里芋 さつま芋 椎茸 松茸
○果実類
梨 柿 葡萄 オリーブ
○魚介類
大盛況でした。
大盛況過ぎでした。
大盛況過ぎた為、急遽応援を呼ぶ事に。
夕映さん・のどかさん・ハルナさん・明日菜さん・木乃香さん・刹那さんの六人です。
のどかさん・木乃香さんは厨房の手伝い。
夕映さん・ハルナさん・明日菜さん・刹那さんは接客です。
皆さん麻帆良祭の時の経験がある為、戸惑う事無く仕事をこなしていました。
マスターはカウンターの席をひとつ占拠。
夕映さん達の働く姿を肴に料理を堪能していました。
夕映さんの接客姿や
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◇2001年10月10日
本日は体育祭です。
皆さん得点獲得に燃えていました。
夕映さんとのどかさんは龍宮さんに誘われて『本格サバゲー大会』に参加。
迷彩服を着て89式装甲戦闘車やAH-64を相手にRPG-7を構えている夕映さんを撮影。
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またクラス全員で『教師突撃☆スーパー借り物競争』にも参加。
理由は今回のボーナスターゲットが高畑先生だからです。
日頃の
皆さん口を揃えておっしゃられていました。
「出張多すぎ!」と。
嬉々として剥ぎ取りに行くマスターと苦笑いでソレに付き合う夕映さんを撮影。
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◇2001年10月26日
追加機能の一つである味覚センサーが完成。
これによりデータ通りにしか作れなかった調理機能を改善。
各自の味の好みに合わせて作る事が可能になりました。
味の好みについてはマスターやのどかさんから教わりました。
マスターは大変お上手なのですが「メンドイ」の一言で滅多にお作りになりません。
興が乗った時にのみ気まぐれに料理の腕を振るわれます。
のどかさんは私が起動するまでログハウス内の家事を取り仕切っておられました。
今ではその大半を私に任せてくださっています。
現在、朝・昼は私が。
夜はのどかさんがメインで調理しています。
のどかさん曰く「私もゆえに料理作りたいから」だそうです。
各自の味の好みについて一番詳しかったです。
ちなみに夕映さんは厨房には立たせてもらえません。
彼女は味覚の許容範囲が広すぎる為、未知の味を作り出すからです。
一度調査の為に試食してみた時は一時的に機能停止に陥りました。
◇2001年11月7日
買出しから帰ってくるとリビングのソファで眠っている夕映さんを発見。
読書中、そのまま眠ってしまわれたようです。
風邪を引かないようにタオルケットをかける為に近付くと、何やら寝難そうなお顔。
それを見た私は以前から検討していた事を実践してみる事にしました。
私は考えました。
ただデータを収集するだけではなく、私自身が実践し体験してみるべきだと。
決してマスター達が羨ましかった訳ではありません。
より良い精密なデータを収集する為の調査です。
夕映さんを起こさないように注意しながら頭を私の膝に乗せてみます。
いわゆる膝枕です。
よくマスターやのどかさんが夕映さんにしたりされたりしているモノです。
膝枕をした時点から胸部駆動モーターの回転数が少し増えているのを感知。
そのまま夕映さんの様子を見ていると、次第に眉間のシワがなくなっていきました。
夕映さんの髪を梳きつつ、穏やかになった寝顔を最高画質で撮影。
リプレイリストに追加。
大変有意義な調査が出来ました。
今後も積極的に実践調査をしていきましょう。
また、私の機体性能が向上すれば、より充実した調査が可能なはずです。
まずはボディの外装の柔軟性を向上・改善しなければ。
超とハカセに申請しましょう。
◇2001年12月24日
本日はクリスマス・イヴです。
あやかさんが自身のお屋敷でクリスマスパーティーを開催しました。
クラスメイト全員が集合し、飲めや歌えやの大騒ぎです。
皆さんアルコールの類は摂取していないはずなのですが。
中でも特に柿崎さんが暴れていました。
何でもお付き合いしている男性にドタキャンされたとか。
「アレとはもう別れるっ!」と息巻いていました。
その後、ハルナさん・朝倉さん主催のゲーム大会が勃発。
敗者は罰ゲームでパーティー終了までクリスマス特有の衣装を着る事に。
トナカイの着ぐるみを着ている夕映さん・刹那さん・長瀬さん・古菲さん。
セパレートタイプのサンタガールな明日菜さん・裕奈さん・アキラさん。
ミニスカタイプのサンタガールな龍宮さん・千雨さん・木乃香さん。
そして、ランジェリータイプのサンタガールな那波さん・釘宮さん・ハルナさん。
激写激写。
リプレイリストに追加。
朝倉さんが自爆していたハルナさんに敬礼していました。
大いに楽しんだ皆さんも流石に騒ぎ疲れたのか、23時に解散。
ですが夕映さん達はここからが本番です。
だから姉さん、邪魔しないでください。
◇2001年12月25日
駄目でした。
貴重なデータを入手出来る好機が。
おのれ姉さん。
仕方ありません。
別荘常駐の姉さん達に頼んでおいた分で妥協しましょう。
回収後チェック。
……………………………これは今まで以上に厳重なロックをかけなければ。
アレも愛の形のひとつ、なんでしょうか?
……アラナワ……ロウソク……ニホンドウジ……。
◇2002年1月1日
本日は元旦です。
夕映さん達と龍宮神社に初詣に行きました。
私・のどかさん・明日菜さん・木乃香さんが振袖姿。
夕映さん・マスター・あやかさん・刹那さん・ハルナさんが小振袖袴姿。
最後に巫女装束の龍宮さんに記念写真を撮ってもらいました。
デジタルカメラからデータ転送。
リプレイリストに追加。
おみくじ結果
マスター 中吉
私 中吉
夕映さん 吉
のどかさん 吉
明日菜さん 凶
あやかさん 大吉
木乃香さん 中吉
刹那さん 中吉
ハルナさん 中吉
明日菜さん轟沈。
『厄介事注意』だそうです。
龍宮さんの勧めでお祓いを受けていました。
ちなみに大吉だったあやかさんは『運命の出会いあり』だそうです。
◇2002年2月14日
本日はバレンタインデーです。
チョコは前日に夕映さん達と作成済みです。
マスター・のどかさん・私は夕映さんに。
夕映さんは本命をマスター・のどかさんに。
友チョコを私・明日菜さん・あやかさん・木乃香さん・刹那さん・ハルナさんに。
お世話になっている一般教師や魔法先生達(女性を含む)には義理チョコを渡していました。
明日菜さんも夕映さんとのどかさんに引き摺られて行き、無事?高畑先生に渡せたようです。
照れ臭そうにチョコを受け取っていた新田先生達が印象的でした。
ところで夕映さん?
明日菜さん達から貰うのはまだ分かります。
ですが、下級生や他の学校の女生徒からもチョコを貰っていたのは何故ですか?
◇2002年3月14日
本日はホワイトデーです。
マスター・のどかさん・私の三人は登校前にお返しを頂きました。
全長約20cmで小さなプラチナ製の粒が一列に並ぶ細く美しいブレスレットです。
40粒のプラチナ製の粒に一粒づつ2.5mmの天然石が埋め込まれています。
マスターがブルーダイヤモンド。
のどかさんがエメラルド。
私がグリーンダイヤモンドでした。
私にまで頂けるとは。
ありがとうございます。
大切にします。
下級生や他の学校の女生徒には色とりどりのマシュマロの詰め合わせを渡していました。
それを見た私は、彼女達に頂いたブレスレットを自慢したくなってしまいました。
何故でしょう?
* * * *
「……丸さん……茶々丸さん?」
名を呼ばれている事に気付いて振り返ると、そこには夕映さんがいらっしゃいました。
今日は2002年4月1日。
中学2年への進級祝いとして、クラス総出でお花見パーティーを開催。皆さん思い思いの品を持ち込み、飲んで食べて騒いでいます。誰かが持ち込んだ『場で酔える』という不思議な水に皆さんが手を出して以降、収拾がつかなくなりました。
私は「少し時間を置いた方が良い」と判断し、皆さんから多少離れた桜の下へ避難。皆さんの乱れっぷりや桜の撮影を行いながら、記憶ドライブにあるこの1年の日記を読み返していました。
記された記述を読み進めていくと、その殆どが夕映さんを中心に記されている事に気付きます。次に多いのがマスター達。3番目がクラスの皆さん。
夕映さんは第一調査対象なのでこの記述の偏りは許容範囲と判断した所で、ボディに若干の異常が発生しているのを感知しました。
異常の詳細は、日記を読み進めるにつれて胸部駆動モーターの回転数が少しづつ増えるというモノ。原因は不明。ボディの各種チェックを行っても結果は『異常なし』。しばらくすると正常な回転数に戻ります。
この異常は以前から時折確認されているモノ。すぐに直ってしまう為、今まで誤認と判断していました。この不可解な異常をマスターや超達に報告するべきか検討している内に、いつの間にか夕映さんが近くに来ていて私を呼んでいたようです。
「どうかしたですか? 茶々丸さん」
そう聞きながら若干心配そうな顔をしている夕映さん。どうやら呼んでも返答が返って来なかった事が原因のようですね。
「いえ、問題ありません。以前、起動時に命じられてつけていた1年分の日記を読み返していました。すぐに返答出来ず申し訳ありません」
「気にしないでください。急に声をかけた私も悪いですから」
異常の事は伝えませんでした。何故か夕映さんに伝える事に抵抗を感じて。
これは………『夕映さんに心配をかけたくない』と言う事でしょうか?
私の返答を聞いて安心したのか、夕映さんは私の横を通り過ぎ、背後のある桜の木の根元に腰を下ろされました。
幹に身体を預けてこちらを見ながら、自身の右隣をぺしぺし叩いています。
座るように催促されているようです。
私は催促されるがままに夕映さんの隣に座り、そのまま二人で目の前の光景を眺めました。
どこかから持って来た超特製カラオケマシンでカラオケ大会を始めるクラスの皆さん。
何故かのどかさんに絡んでいる泣き上戸なあやかさん。
そんなあやかさんを上手くあやしつつ、マイペースに料理を摘んでいるのどかさん。
『場で酔える水』を口移しで刹那さんに飲ませている木乃香さん。
両腕をワタワタと動かしつつ口移しで飲まされている刹那さん。
四人を見て、呆れながら苦笑している明日菜さん。
それ等を眺めて、ニヤニヤと笑いながら持ち込んだワインを飲んでいるマスター。
皆さんとても楽しそうでなによりです。この光景もきちんと撮影しています。
しばらくのんびり眺めていましたが、夕映さんがおもむろに口を開きました。
「…………ねえ、茶々丸さん。茶々丸さんにとって、この1年はどうでしたか?」
そう聞かれ、私は思考し答える。私にとってのこの1年間を。
「……最初は、とても不可思議に感じました。
この1年、夕映さんやマスター達と一緒に暮らしていく中で見聞きし体験した事が、私をどんどん変化させていくのが分かりましたから。
始めて起動した頃の私と今の私が、まったく別の物ではないか、と判断しそうになるくらいに。
とても興味深い事が沢山ありました。
初めての事だらけで戸惑う事もありました。
不可解な事が発生する事もありました。
その全てが、私を常に変化させていきました。
ですが私は、今の私を初期化して以前の私に戻りたいとは思いません。
むしろ、もっと色々な事を知りたいと思うようになりました。
たとえその結果、今の私が起動した頃の私のように、また別の物になってしまうとしても。
ですから私にとってこの1年は、良いモノであったとそう思います」
そう答え、私は自分のAIが随分と成長している事に気付きました。今の私は『感じ』『望み』『思う』事が出来ているのですから。そう自覚すると、自分が夕映さん達『ヒト』に少し近づけたような気がして嬉しくなりました。
夕映さんも先程の答えで満足したのか、優しげな笑顔で「そうですか」と答えた後、私の左肩に頭を預けて来られました。撮影。リプレイリストに追加。
風に煽られ淡く舞い散る桜吹雪の中、寄り添って座る私達。
この時、AIが起動以来最も安定した数値を示しました。不可能だと理解していながら『このままずっとこうしていたい』とAIが要求してきています。
もう少しだけ。そう思いながら現状に身を任せていると、皆さんがいる方向から聞き慣れた声が聞こえてきました。
「おーーーい! 夕映ー! 茶々丸ー! 二人ともそんな所で何をしているー! さっさと戻って来んかー!」
「二人の世界作ってないで戻って来てー! っていうかコイツ等何とかするの手伝ってー!」
どうやらマスターと明日菜さんが私達を見つけたらしく、大声を上げて呼んでいます。見てみればまさに死屍累々。二人とのどかさん以外の全員が、騒ぎ疲れたのか寝落ちしています。
その声と光景に苦笑しながら立ち上がりこちらに振り返った夕映さんが、私に手を差し伸べてくださいます。
「行きましょうか、茶々丸さん。三人でアレの対処は大変でしょうし。あまり待たせるとエヴァさんが痺れを切らせそうです」
「はい、お手伝い致します」
夕映さんの手を取って立ち上がり、そのまま皆さんの所へ戻って行きます。繋がった手を見ていると、胸部駆動モーターの回転数が僅かに増えているのを感知しましたが、悪い気はしません。
夕映さんに手を引かれながらそんな事を思考しつつ、私はマスター達の下へと歩みを進めました。
『その日の夜』
「そういえば茶々丸さん」
「はい」
「あの時、茶々丸さんはもっと色々な事を知りたいと言っていたですが、何か具体的なモノはあるですか? 協力できる事があるなら協力するですよ?」
「そうですね………現在最も知りたいモノは、以前夕映さんがおっしゃられていた愛です」
「……愛?」
「愛です」
「愛……ですか……」
「愛です」
「…………」
「つきましては、夕映さんには愛を知る為の協力をして頂きたく」
「え、ええ。まあいいですが」
「ありがとうございます。では、早速こちらへ」
「へ?」
「さあどうぞ」
「……あの、茶々丸さん?」
「はい」
「なぜベッドへ連れて行こうとしてるですか?」
「愛を知るのに最も適していると判断したからですが?」
「…………」
「…………」
――シュバッ!(瞬動で逃げた音)
――バシュン! ガシッ!(ロケットパンチで捕まえた音)
「は、離すですー! 聞いてないですそんな事ー!」
「ご安心ください。夕映さんとマスター達の行為の内容を参考に行ったシミュレーションは完璧です」
「何でそんな事知ってるですか!? って、あ、ちょ、まっ!?」
「さあ、存分にご堪能ください」
「え、だ、だめで、あ、ッアーーーー!?」
チーーーーーン
その後、事態を察知したエヴァとのどかが現場に乱入。
横槍が入った為、
しかしこれ以降、茶々丸のご奉仕という名の愛の調査活動に悩まされる事になるのだった。
次話投稿は22日0時です。